イースタン航空66便着陸失敗事故
フィクションじゃないのかよ騙された!
夕食中端末で軽く調べた情報によると、俺の行ける範囲で人型の敵が出るのが、
ブレンシア周辺では旧市街のゴブリン共と墓地のスケルトンとゾンビ類の二か所だった。
まずは人型相手にAIの判断能力とかを確認したいからだ。
ログインして噴水傍に設置された水晶へと触れて位置情報を登録すると、100ギル硬貨を取り出して親指で跳ね上げる。
それが落ちてきたらまた片手でキャッチして表裏を確認した。
「裏か・・・それじゃあ墓地だな」
行き先は墓地へと決定。
最初の一回は自力で向かわなければならないが、それ以降は街の中心にある水晶と篝火を介した移動が出来る。
一先ずはのんびり向かうとしよう。
その前にギルドに寄って墓地で受けられるクエストが無いか確認だな。
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適当にスケルトンとゾンビの討伐クエストを受注してきた。
今は墓地へと向かって街の西門を出るところである。
西門周辺はあまり人通りが多くないようだ。近くの建物も教会や孤児院といった宗教関係の物が目立つ。
取り敢えず墓地の情報を集める為に門衛に話しかけるか。
「こんにちわ、墓地の様子が聞きたいのだがよろしいか?」
一般的な門番らしい装備と槍に剣を佩いた門衛に話しかける。
「こんにちわ。墓地かい?最近アンデットがちょっと活発だって聞いたな、
今日は神官の子が見回りしている筈だよ。その子に聞けば詳しく分かるかもな」
なるほど、高度なAIによって生活ルーチンもしっかり再現されているようだ。
これはFPSと剣戟ゲーだけしてれば気づかないわな。リアリティがあるのは没入感が増すから良き・・・。
「助かる、手間賃にどうだ。市場で買ったやつだ」
懐から思考制御で林檎を一個取り出すと門衛に手渡した。門衛の様な長時間労働の疲労回復には甘いモノと相場が決まっている。
贈り物としては食べれば無くなる事で後腐れも無いしな。
「良いのかい?じゃあ頂くよ」
西門をあとにすると墓地への道である草原を歩いていくだけだ。
墓地が見えてくるとその形状が概ねはっきりしてくる。
街はずれの集団墓地といった形の欧州の石壁に囲われたタイプの墓地だ。
保存状態は良くは無いが悪くもないといったところだろう。
石壁は崩れこそしていないが蔦に覆われており手入れが行き届いていない事が伺える。
正面入り口から見て、内部の様子を軽く探っても若干の薄気味悪さを感じずにはいられない。
身体を戦闘準備へと移行させ、盾を腰に固定し両手で斧槍を構えると内部へと入っていく。
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墓地はそれなりに広く、霧が掛かっている為に遠くが見えない。
その中をカタカタと音を立てて人型の剣と盾を構えた骨が複数で走ってくる。
「はっ!」
俺は近づいてくるスケルトンを斧槍の斧部分を振り回すように命中させる事で粉砕。
続いて接近する二体は左へと軸足を移動させ身体を右に高速回転。
それに合わせて振りぬくと二体の頭蓋骨へと吸い込まれるように斧部分が命中した。
「個体差が無いから完全に作業だなこりゃ」
周囲に人が居ないので言葉の気を抜いて一人ごちる。
実際に速度も体格も動きすらも全く同じなので、敵の位置と己の間合いを調整して武器を振るうだけで簡単に倒せてしまう。
ゾンビに関しても全く同じで、見た目が違う物もいるが動きは単調で苦戦のしようがない。
多少タフに設定されているようだが、速度が乗った斧槍で首を刎ねてやれば簡単に終わるので集団でも楽なものだ。
魔法役としてゴーストがいるが、突進して最優先で狩れば被害は出ない。
「初心者にはお勧めしないっていうのは分かるがね」
スケルトンもゾンビも剣や槍では殺しにくく、魔法で倒すのがベター。
そして数が多く一斉に周囲に湧くので一人では対処が困難、更にはゴーストが湧くと遠距離から魔法が飛んでくる。
初心者には死ねと言っているようなものだ。
パーティを組むのをお勧めだがそれなら別の狩場が効率的においしいと来た。
俗にいう"美味しくない狩場"というやつだろう。
「結果としてMob狩りが楽だから俺は良いがな」
軽く斧槍を点検すると次の狩場へと移動するべくマップの奥へと進もうとした。
「キャー!」
そうすると近くの聖堂から高い声の叫び声が聞こえてくる。
イベントか、もしくは事前情報無しで挑んで死にそうな犠牲者Aか。
「どちらにせよ見に行くか」
斧槍を小脇に抱えて、声のした聖堂へと駆け抜けることにした。
立ち仕事で足がパンパンなので失踪します