雪を甘く見たリリス
アンチアイス、オフ。
ダイスを振ったら全盛期イギリス越えの超大国が生まれたので初投稿です。
ボスの大狼を倒したことで現れた篝火に触れて火を灯す。
静かになった草原の丘から篝火ワープでブレンシアへと帰還する。
「ふぅ・・・よかった・・・」
ブレンシア市街の中心地である巨大水晶のある広場に戻ってきて、一度伸びをした。
今回の強敵との戦いは非常に満足のいくものだった、闘争本能と緊張感でアドレナリンがバリバリ出て気持ちがいい。
戦っている間に流れていたBGMも派手では無かったが、オペラ風の殺意の篭った音楽で盛り上げどころも解っていたのがなお良ボスである事を引き立てる。
気分よくギルドへと向かいそこで昨日の達成した分の依頼を報告し報酬を獲得する。
そこそこのお金と経験値を貰い、大狼から得た大量の経験値と合わせてレベルアップ処理をしておく。
まず順当に体力と持久力を重点に、それから筋力と技量を上げてダメージボーナスも底上げする。
上質戦士への道は長い。その代わり殆どの武器を高火力で使えるのが強みだ。
手土産の焼き菓子といつもの林檎を買い足すと足を教会へと向ける。
「グレッグさんこんにちわ!今日は午後からのお越しなんですね」
「ごきげんよう。朝は冒険に集中していたからな、だが収穫はあったぞ」
今日も庭のハーブ畑で世話をしていたエリスに手土産の焼き菓子を渡し、隣り合うように歩いて教会へと入っていく。
手を払ったエリスが顔を此方に向けて話しかけてくる。
「何が有ったんですか?良ければ聞きたいです!」
「今日の授業が終わってからで良いなら話そう」
「はい!楽しみにしてますね」
笑顔を浮かべたエリスを送り出しながらバーナード神父へと挨拶を行う。
「こんにちわグレッグ殿、今日も精が出ますね」
「ごきげんよう神父。趣味でやっている事だ、楽しんでやっているよ」
教会の一角で椅子と机を出して教科書を並べ本日の授業が始まった。
「精霊歴九世紀ごろに誕生した神聖ロジーナ帝国は時代と共にその在り方を変えていきました、女神教会と宗教権力を賭けて争い・・・」
授業内容はブレンシアの所属している国家とその周辺国に関する事だ。
この都市が所属している国がエスクトシア、土地はそこそこあるが人口が疎らな中小国家で農作物と畜産品を輸出している。
文明的には後進国で特産品が特にあるわけでもない、しいて言うなら風の大神殿がある程度ののんびりした国だ。
「叙任権闘争が起こり時の皇帝は敗北、教会が優越しました。その間に諸侯が特権を拡大、領邦支配が確立してしまいます」
そして周辺で最大最強なのがオーシア帝国。
列強筆頭の海運型国家で、領土も広く資源もある程度自給でき、なにより産業革命を達成し他の大陸に大規模植民地まで持っているという化け物国家である。
なにをどうして誕生したのか分からない国だが、今は植民地経営と交易で美味しく稼いでいるらしく今の秩序を乱すのは乗り気ではないらしい。
それでもこのタイプの国は自分の権益が侵されそうなら速攻で外交関係を整えて殴るだろうな。
「十四世紀からはロジーナ皇帝はバルツ地方の七人の選帝侯から選ばれるようになり、教会から帝冠を受けなくても皇帝を名乗る事を許され・・・」
次に文明的な発展度では一番のガリア共和国。
昔から芸術と魔法、哲学や文学など文明としての先端を行く国で、資源に乏しい部分を魔法と科学で補ってきた大国だ。
植民地獲得には出遅れており海洋進出もそこまで積極的ではないが、オーシアに対抗するために海軍はしっかり持っている。
資源は余所から買えばいいと割り切っている所に国家経営のドライさを感じるが、自分から積極的に仕掛けるタイプにも見えない。
「十六世紀の宗教改革でバルツ地方は二派に分裂し帝国は分断されて宗教対立により荒廃します。この結果諸侯に外交権を与える事が決まり・・・」
最後に神聖でもなければローマ的でもなくましてや帝国ですらない、神聖ロジーナ帝国だ。
広い領土と多い人口に裏打ちされた高い国力が特徴だが、実態は内部の諸侯が分裂しており辛うじてオーストリア的国とプロイセン的国が主軸となって支えている。
帝国外から宣戦布告された場合の集団防衛体制によって纏まってはいるものの、ナポレオン戦争が起きていないからまだ壊れていないだけとも言える。
この大陸で次の大規模戦争が起きるとしたらこの国が発端かもしれない。
「しかし近年諸侯間の勢力バランスが崩れているとの指摘もあり、内部に火種を抱えていると言えるでしょう」
あとはポルトガルみたいな交易国家がいたりオスマンみたいな国がいたりするが、これは交易国家だから存在感が強いだけで他にも国はある。
しかし覚えておくのはこれくらいで大丈夫だろう。
「今日の授業はここまで、お疲れ様でした」
「ありがとうございました。神父、これからエリスに会いに行こうと思うのだが、今はどこにいるだろうか」
行動を把握しているだろうバーナード神父に直接聞く。
そうすると神父は僅かな間も置かずに直ぐに返答してくれた。
「エリスならこの時間は孤児院で子供たちの相手をしている頃だと思いますよ」
「ありがとう、話をする約束だったのでな。失礼する」
授業を終えて手が空いたので、早速教会の隣に開かれている孤児院へと向かった。
そうすると、そこでは子供たちと一緒にハーブティーと焼き菓子でお茶会をしているエリスがいた。
近くまで歩いていくと、子供たちが遠巻きにこちらを窺う様子が見て取れた、知らない大人に多少警戒しているようだ。
「あ、グレッグさん!授業が終わられたのですか」
「そうだ。話をしようと思うのだが大丈夫か?」
エリスの隣にいた女の子がこちらを見上げている。俺の身長は間違いなく高い方なので威圧感があるかもしれない、ましてや狩人装束だ。
緊張した子供に対してエリスが手をやさしく摩ってやり、警戒しなくてもいいと行動で告げる。
「大丈夫ですよ、子供たちに聞かせたいのでここで冒険の話をしてくれるのは丁度いいです」
「みんなー!この人が焼き菓子を差し入れてくれる冒険者さんですよー!」
エリスが大きな声で遠巻きにこちらを見ていた子供たちに伝えると、警戒していた様子が無くなり一気に近づいてきた。
「お菓子ありがとな!」
「美味しかったよ!」
ちゃんとお礼の言える素直な子供たちばかりでよろしい、この孤児院が適切な運営がされている事が伺い知れる。子供は正直だ。
「挨拶みたいなものだ、気にするな。それよりエリス、冒険の話をするがいいな?」
「はい!子供たちは今全員いますからお願いしますね!」
それなら身近な冒険の旧市街の戦いと街の外の冒険である丘の話をするとしよう。
この後めちゃくちゃ語り通した。
旧市街の狭く入り組んだ危険なステルス戦と悪霊との戦い、ゴブリンリーダー戦を話し。
丘の獰猛な野生生物との戦いや牧歌的な野山羊の毛刈り、盗賊集団を皆殺しにした話は多少ぼかしたが、大狼との戦いは何とか語りきった。
気付けば夕方に差し掛かる時間帯になっており、その日はログアウトし飯を食って記録を付けると寝る事にした。
ガリアくんの特産品ダイス1で草生えたので失踪します。