悪霊
やったぜ。変態糞悪霊
今日は人型相手に市街地戦の気分なので、ゴブリンなどが出るというブレンシア旧市街へと討伐に行くことにしよう。
早速ギルドの掲示板で適当な旧市街で受けられるクエストを見繕う。
丁度良さそうなのが幾らか見つかった。
旧市街の区画を再整理する為のゴブリン討伐と、旧市街の外壁補修用建材運搬の二つだ。
この二つを纏めて受注すると、早速旧市街のある方角へとギルドを出て歩き出す。
どうやらブレンシアの街は一度旧市街で騒動が起きて放棄せざる負えなかったらしく、それから新市街を立て直したそうだ。
林檎を奢った門衛によると、その騒動の部分は言葉を濁したが。
放棄後にゴブリンどもが住み着いてしまって、それを一掃する余力も街には無く定期的に間引きするのが限界らしい。
そこまで行くと、領主の手勢がやるべき問題なのだが、肝心の領主が幼く指導力の発揮に問題があるそうだ。
なんだ問題だらけじゃないかこの街は。
これでも異邦人が来てから大分問題が解消された方だって言うんだから酷いものだ。
内門の傍で補修用建材を事務所から受け取りインベントリにしまう。
そして門に設置された通用口から旧市街へと移動した。
"ブレンシア旧市街"
視界にそう白い文字で現れては薄れて消えていくのを横目に、旧市街の様子を見ていく。
以前は賑やかだったのだろうメインストリートが瓦礫と木材の山で塞がれている、これでは狭い路地を通るしかないな。
準備していた斧槍を背中に背負い直して、貰ったばかりのショートソードを鞘から抜くと、革と金属の擦過音が鞘から鳴った。
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見通しの悪い路地と建物内を何軒も掻き分けるように移動していく。
道中であった緑色の小柄な体躯をした醜悪な魔物。ゴブリンは剣で音もなく切り殺している。
攻略情報によると、僅かにでも仕留め損なうと周囲のゴブリン全てがリンクして襲い掛かってくるという鬼畜仕様らしい。
なので、なるべく音を立てず金属の臭いの少ない狩人装備はこの区域において適している。
それに物音に注意して進み、角は旧市街に入る前の市場で買った鏡の欠片で確認してから移動すれば事故は防げる。
某VR強盗ゲームでやったガバガバステルスが役に立つ。
道中の半ばまで移動しているとこの狩場の特徴が見えてくる。
ここはシーフ、アサシン系のチュートリアルステージの様なものだ。
途中で見かけたプレイヤーはパーティを組んでド派手な戦闘音で纏め狩りするか、もしくは練習中のシーフが隠密で行動し暗殺を決めていくかのどちらかだ。
これを製作したスタッフはさぞ自分でもステルスを沢山遊んだ事だろう。やっていて緊張感と合わさり楽しい。
もう少しで外壁の資材搬入口というところで、頭の中に直接響くような形で鈴なりに近い鐘の音が聞こえて来た。
それと同時に視界内にテロップが表示される。
【悪霊:グリュオーンが侵入しました】
面倒なお客さんの登場だ。
悪霊は普通、此方より離れた敵Mobが近い位置に湧く。単純にその方がリス狩りなどがされにくいからだ。
そして今回の悪霊さんの気質はどれなのかが問題だ。決闘か乱戦かハラスメントか。
旧市街を散漫な警戒で歩き回るゴブリンを一匹ずつ黙らせていく。
そして角を鏡でチラ見すると、赤黒い光で出来た体を持つ侵入者が路地の一角にいるのを発見した。
建物の屋上に陣取って侵入先のホストである俺を探すのは弓持ちの軽装備だった。弓の他には曲剣を腰に下げ革鎧で身を固めている。
完全にこの区域に適応した装備で、見るからに乱戦・ハラスメント型である。
乱戦での取り回しの良さを考えての曲剣と、見晴らしのいい場所からの妨害に弓と来た。狩り慣れてやがるな。
だがまだこちらを発見出来ていないのが有利な点だ。
それを利用してなるべく近づいて仕掛けよう。
遠回りで幾つか建物と障害物を乗り越える。危うく音を立てそうになったが、何とか静かに相手の真下まで移動できた。
また鏡で相手の場所を確認すると、まだ同じ位置で獲物を待っているようだ。
辛抱強いのは良いハンターの証だが、自分の身の安全も図れているか今から採点だ。
梯子を上っていくと普通に音でばれるので、相手の真下から斧槍を全力で振りかぶり、天井の木板を殴りつけた。
バキャ!
年月が経ち手入れされていない木板が攻撃と重量で崩れ落ちる。
そこから完全に奇襲に対応できていない悪霊の男が落ちて来た。
落下して倒れ込んだ悪霊の喉に小剣を突き立てる。弱点ダメージとなり一気に相手の体力を半分減らしたのが赤いバーで分かる。
そのまま小剣を抉って横に薙ごうとするも、即座に持ち直した相手が俺の腹を蹴り飛ばす事で距離を離した。
しかし距離を取って窮地を脱したは良いが、中距離は斧槍の間合いだ。このまま叩き潰す。
「せいっ!」
外から音に釣られたゴブリン共がやってくる前に片付ける必要がある。
斧槍で突きを連続で繰り出し、相手の防御を打ち崩しにかかった。
悪霊は喋れないが、それでも状況が不利だというのは悟っているのだろう、
腰から抜き放った曲剣で何とか突きを捌きつつも周囲に使える何かが無いか探す。
何度目かの突きを辛うじて弾いたところで近くにあった棚を倒して此方の斧槍を封じようとしてきた。だがその動きが命取りだ。
斧槍に棚が当たる直前、斧槍を手放すと、素早く装備を小剣に切り替えながら接近し、態勢が崩れていた相手へと切りかかる。
悪霊もなんとか曲剣を合わせる事には成功するが、その姿勢は崩れており伝わってくる力は弱い。
そのまま小剣を絡みつかせ、バインドを此方に有利にすると突きを放ち喉を穿った。
直ぐに悪霊の身体から力が抜けるのを見やり、斧槍を回収するとその場を離れる。
もうすぐここがゴブリンの集団に集られるからだ。
路地を音を消して移動し、ゴブリンどもから隠れると戦利品を確認した。
・悪霊のドッグタグ:グリュオーン
異邦人の悪霊が付けていたドッグタグ。
彼らは同じ異邦人を悪霊と化して襲う。その際は現地人に手出しできないが、それは逆もまた然り。
その理由は血を求めるが故だろうか、それともただの趣味なのかもしれない。
取り敢えずは資材搬入口へ急ごう。
これ以上厄介事が増える前に。
昨日は投稿出来なかったので初失踪です。