対人勢の日常
実質的に初投稿です
正面から閃光のごとく突き刺さろうとした鋼鉄の槍を斧槍の柄で逸らし、反撃の左横薙ぎを振るう。
視界の中で必死に相手を捉え、一瞬のバックダッシュで薙ぎ払いから逃れようとした敵手。
その間合いを片手で斧槍を伸ばす事で射程に捉え、斧槍の重量と遠心力が加わって相手の右腕を刎ねた。
直後に右腕毎槍を取り落としかけた相手だが、足で槍を引っ掛け残った左腕でそれを掴むと、
薙ぎ払い直後の残心に入っていたこちらへ、先ほどと全く変わらぬ速度の突きを放ってきた。当然狙うは首一本。
当然喰らったら死ぬ。それを避ける為に残心からの慣性が残っている方向へとステップを踏み避ける。
しかし避ける方向が分かっているなら追撃は容易く、片手になってもなお下がらない回転効率で槍が扱かれ突きが連打された。
こちらは重量で槍より重い斧槍だ、片手になったとしても相手より早く突きを繰り出せるつもりはない。
やるなら一撃の重さによる決着だ。つくづく先ほどの横薙ぎで決まらなかったのが惜しい。
「避けるだけじゃ勝てねーぞ!」
「うるせー、片手の癖にはえーんだよてめぇ!」
このゲームにおいて出血死は無い。お互いに致命傷を受けるまで平然と動けるのが当たり前だ。
故に致命打を与える為に隙を伺い合っている。
相手の周囲を衛星軌道の様に回りながら、丁度こちらに身体を正対させるために右足へと体重が移動した瞬間を狙う。
闘技場の乾いた土を踏みしめた槍使いの右足へ斧槍が貫こうと迫る。速度も乗っており、当たれば旋回に支障が出る。
「当たるか!」
重心が変わったタイミングの為僅かに反応が遅れたが、それでも直撃を避けようと右足が動く。
「そこだ!」
体重移動で右足が僅かに浮いた瞬間、斧槍のピックが引き戻される動きと共に足が引っ掛けられた。
「うおっ!?」
態勢が崩れ無理矢理引っ張られて転倒しそうになると、槍使いはすかさず地面に槍を打ち込んでその場で空中回転する事で隙を潰そうとする。
だが回転する隙は大きく、空中の身動きが取れない間に地面に突き立てられた槍に斧槍が横薙ぎで襲いへし折られた。
「くっそぉ。やるじゃねぇか」
槍使いは折れた槍を手に戦意を失って両手を上げた。
斧槍使いは流した汗を拭うように腕で顔を拭い、外套を払う。
「これで俺の総計十勝目。今日はこの辺で終わろうか」
青い鎧を纏った槍使いもいつの間にか新品になっていた槍を地面に立てかけ休憩モードだ。
「試合前に言ってた新しいゲームだったっけか、やるんだろ?俺はこいつで満足してるがね」
昔のゲームのキャラクターをモチーフにクリエイトされた姿形で腕組みする槍使い。
斧槍使いとのフレンドで頻繁にこの剣戟ゲームで手合わせしている間柄だ。所謂ネッ友である。
「俺にはこのゲームお前を始め廃人多すぎて辛みが深いわ。全体勝率で負け越してるし」
「それはお前が斧槍なんてガチ武器使うから廃人が笑みを浮かべて戦いに来るだけだぞ」
「やかましい、好きなんだから使うんだよ。悪いか」
いんや別に、とニヤニヤ笑いながら手を振って別れを告げる槍使い。
腑に落ちない態度だが、諦めて剣戟ゲームからログアウト処理を行う斧槍使い。
そうして現実の自分の部屋に戻ると、次に新しいゲームのアプリケーションを起動し再びベッドで眠りについた。
今からやるゲームは"Fantastic DisposalOnline"オープンワールドの新作MMOな模様。
続くかは気分次第なので失踪します