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マンションは俺でいっぱい

作者: もつ煮込み

読み専だが、何も置かないのも悪い気がしたので、昔に書いた短編を一つ上げておく。

玄関のドアを開けたら、俺がいた。


ひとしきり驚いた後に話を聞いてみれば、パラレルワールド、つまり別世界の俺らしい。


別世界というのは無限大にあって、色々同じようで違う世界や俺が存在しているそうだ。

どの世界でも俺は、その「世界の間」を移動できる能力があり、もうひとりの俺は世界大戦が勃発してしまった世界から逃げてきたと語った。


逃げたはいいが、知り合いも身寄りも無ければ国籍戸籍すらもない。

こうなれば頼れるものは自分だけ、と俺を訪ねてきたとのこと。

何かが違う気がするが、文字通り他人事ではないので一肌脱ぐことにした。



しばらく経つと、俺が増えていた。

もう一人の俺としばらく同居した後、大家に話をつけて隣に住まわせたのだが、どうもこの世界の俺が親切だ、という噂が世界中どころか世界を超えて(俺限定で)広まったらしく、様々な事情を背負った俺が大勢訪ねてきたのだ。


紆余曲折はあったものの、最終的にどうなったかといえば俺の住むマンションは全室俺が住人という、俺の俺による俺のためのマンションとなった。

どうしてこうなった。


そして時を経て、101匹俺大行進な生活にもだんだん慣れてきた。

いや実際はせいぜい数十人なわけだが、こうも人数が増えれば色々な俺がいる。

しかも全員が俺なので互いに気安く、そして頼み事もしやすいので、俺ばかりの共同生活は実に便利だった。


先日、生ゴミを出し忘れて難儀していたが、魔法を使えるという俺がそいつを公園で灰すら残さず焼き尽くしてくれた。

実に便利だ。

轟音と閃光のせいで警察と消防が駆けつけてくるという事態が発生しなければ、もっと感謝していたに違いない。


他にも料理人の俺は美味い料理を差し入れてくれるし、アパレルに務める俺と美容師の俺のお陰で、最近は会社でも洒落者になったと評判だ。

まったくもって、ありがたいことである。


ただ良いこと尽くめかといえば、そうでもない。

名前が同じなので郵便や宅配の誤送は日常茶飯事である。

この前の週末は、俺の家にピザや出前が4軒届いた。

休みだからって料理くらいしろよ、俺。

片っ端から確認したせいで、大勢の俺が集まって飲み会になったが、まあそれはそれで。


休みといえば両親が訪ねてきたこともあったが、驚かせようと突然来たために、間違えて隣で一日過ごしていった。

来訪に気づかなかった俺も俺だが、親よ、あんたらも大概にしろと言いたい。

俺はしがないサラリーマンだが、隣の俺は自衛官だ、体つきからして違うのに何かおかしいと思わなかったのだろうか。



そんな俺だらけの生活も昨日、終わりを告げた。

そりゃ戸籍一つの同じ人間が数十人分、一斉に住民税を納税すれば役所も気づく。

俺の元に虚偽申告とか不法滞在とか多重請求とか過剰な納税の還付とか、様々な問い合わせや呼び出しが殺到したのだ。


さすがの俺たちも国家権力には勝てない。

新たな新天地を求めて、俺は次々と別世界へと旅立ち、最後に弁護士と税理士の俺が諸々の後始末をしてから旅立っていった。

盆休み直前のことだった。休みが潰れず、実によかった。



一人になり妙に寂しくなった俺は、ちょうどお盆ということもあり墓参りをすることにした。

墓石に水を流し、花と菓子を供え、線香を上げる。

そして、手を合わせ故人に語りかけた。


「この世界の俺よ、色々あったがお前の代わりは上手くやれていると思う。だから安らかに眠ってくれ」

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