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02 とりあえず状況確認

 ーーここは・・・?

 

 意識が覚醒したイノセは、辺りをよく見渡した。

 眼前に広がるのは、多種多様に渡る吐息を立てながら寝ている人たち。


 --俺は・・・助かったのか?

 

 貫かれた胸部を確認したが、傷跡すら残っていない。

 だが、何かがおかしい。

 俺はその違和感を探るためにその一室を後にしようとするが。

 

 --は?


 俺の感じていた違和感とはこのことなのだろうか?

 前後左右、扉を動かしても開く気配がない。

 どうやら、どこかの一室に閉じ込められているらしい。

 

 ーーいやいや待て待て、俺が閉じ込められる意味がわからん。


 看病だけなら鍵などかける必要がない。

 恐らくは、何かしらのペナルティーをつけるために一時的に閉じ込めているのだ。

 確かに魔王討伐に失敗したが、それは全面的に剣士隊が悪い。

 最大火力の魔法を使うまでの術式時間を十分に稼げなかったからだ。

 俺は無実を晴らそうと、とある魔法を唱えた。

 その魔法名は『解除(アンチロック)』。

 鍵をかけられた部屋や相手にかけられた向上魔法を簡単に解除できる魔法だ。

 この『解除(アンチロック)』で解除できなかったものは一つもなかったので、今回も大丈夫だと思ってその魔法を使った矢先、事件は起こった。


 ーーは?なんでだよ・・・。


 この鍵穴に、魔法を退ける『耐性(リサスタンス)』がかけられていたなら、まだ可愛いものだったのだが、現状は全く可愛くないものだった。


 ーーなぜ魔法が発動しない!?


 そもそも魔法自体が発動しなかったのだ。

 俺は必死に『解除(アンチロック)』を使おうとした。

 だが、いくら使おうと魔法が発動する気配はない。


 ーー向上魔法、向上魔法ならどうだ!?


 向上魔法は、己の力を底上げする『サブ魔法』だ。

 俺はその向上魔法の中でも、筋力を底上げする『筋力増加(ストライフアップ)』を使用した。

 するとーーー


 ーーよかった、向上魔法は使えるみたいだ。


 筋力を上げ、俺はその扉を半ば強引にこじ開けた。

 だが、なぜ『メイン魔法』が使えなかったのかが不明なままである。

 魔法は誰かに奪われるという恐れはない。

 魔法の数は努力した証、奪ったところで知識がないと使うことができないからだ。

 だとしたら、一体なぜ?

 『メイン魔法』を封じ込める呪いでもつけられたのだろうか?

 なら、一刻も早く呪いを解いてもらわないと。

 俺は何も悪くないのだから。


 ーー見たことない場所だな。俺は一体どこに連れてこられたんだ?


 光り輝く古びたランプが等間隔に通路に備わっており、その光が届がないところは真っ暗だ。

 俺はゆっくりとその不気味な通路を歩いていく。

 広範囲を光で照らす魔法『太陽(シャイン)』を使ったが、当然不発で終わってしまう。

 やはり、呪いをかけられたという仮説が一番正しそうだった。

 

 --あー、クソ!めちゃくちゃこえーな。


 自分の荒れた呼吸音が辺りに響いているようだ。

 恐怖に怯えながらも、壁に手を付きながら進んでいく俺。

 するとーーー


 ピタ・・・ピタ・・・ピタ・・・


 足音?それとも雨漏りか?

 俺の耳はその不可解な音の方へと向いていた。

 なお、不気味な音は止まない。


 ピタ・・ピタ・・ピタ・・


 おかしい。

 間隔が短くなっている。

 不規則なリズムから考えると、雨漏りの線はまず消える。

 だとしたらーーー


 --おい、何なんだよ・・・何なんだよっ!


 恐怖のあまり、俺は急いで元居た部屋へと戻ろうとする。

 次の瞬間ーーー


 バンっ!

 

 この音の方向、間違いない。

 俺が元居た部屋の方向からだった。

 

 バンっ!バンバンバンっ!


 誰かが暴れているのだと、俺は必死にそう言い聞かせた。

 だが、ふと我に返るたび、悪い方向へと思考が向いてしまう。


 --きっと誰かの仕業だ。そうに違いない。

 --でも、一体何のために大きい音を立ててるんだ?もしかしたら・・・

 --いやいや、そんなはずない。俺がいた部屋のやつが起きて暴れているだけだ。

 --だけど、一体何のために暴れている・・・?やっぱり・・・


 俺はその場に立ち尽くし、恐怖に染まりそうになる自分に勘違いだと言い聞かせ、精神状態の安定を図る。

 だが、追い打ちをかけるようにーーー

 

 ピタ・・ピタ・・ピタ・・


 音は次第にこちらへと向かっているようだ。

 俺は来た道を一点に集中して窺う。

 もし、人間ではない誰かだったらすぐさま逃げなければならなかったからだ。

 だが、そんな猶予を音の根源は与えてくれないらしい。

 音は次第に早くなっていき、気が付けば俺は悲鳴を上げながら必死に逃げていた。


 --やばい!やばいやばいやばいっ!これはどう考えてもお化けの仕業だろ!


 俺は通路を駆け抜けた。

 すると、音の根源も俺と同じように駆け抜けているようだった。


 --っざけんなよ!こっち来んな!なんでこっち来んだよ!


 通路の突き当りには階段が存在しており、俺はその階段を一気に飛び降りた。

 幸い、大した怪我にはならずに、俺は近くの解放された一室の中に身を潜めた。

 どうやら、ここは教室のような場所らしい。

 三十名程度の机と椅子に教卓。

 部屋の隅にはロッカーが設備されていた。

 俺はすぐさまロッカーの中へと身を潜めた。


 --お願いだ・・・どっかに消えてくれ・・・


 俺は必死に懇願した。

 今まで神に祈りを捧げたことがなかったが、状況が状況だ。

 神に祈りを捧げることしかできなかった。

 そして、教室の扉が勢いよく開かれる。

 俺の心臓は、飛び跳ねるように『ドクンっ!』と一回だけ音を鳴らした。

 大きいのはその一回だけ。

 他は小刻みにして心臓が鳴り続ける。


 --俺の心臓の音、聞こえてないよな・・・?


 自分自身で認識ができるほどだ。

 相手に気づかれてるのではないかと、俺はロッカーの隙間から部屋の状況を覗きみる。

 すると、そこには黒い影で覆われた女性らしき人の姿があった。

 今にでも悲鳴を上げたいところだが、俺は両手で口を押え、完全に息を殺していた。


 --見つかったらまずい・・・見つかったらまずい・・・


 この先は、黒い影を極力見ないことにしていた。

 目にしたらきっと、悲鳴を上げてしまうと思ったからだ。

 そして、しばらくすると『ガラガラ』と扉が音を立てた。

 

 --行ったのか・・・?


 俺が再びロッカーの中から外の様子を窺うと、そこにはーーー


 「みーつけた・・・」


 至近距離でその黒い影の女と目が合った。


 「ギャアアアアアアアア!」


 その悲鳴と共に、俺は気を失ったーーー



 ~~~~~~~~~~~




 ーーあれ?ここは・・・?


 次に目が覚めた場所は、さっきとは真逆の明るい一室だった。

 白いベッドがいくつも置いてあり、明度の度合いは、目が痛くなりそうなほどだ。

 そんな白いベッドの上で俺は横になっていた。


 --俺は確か気を失って・・・


 自分の身に起こったことを順に辿っていく。

 もちろん、あの黒い影の女とのことも思い出すわけでーーー


 --うーわ!鳥肌立ってきた。これはもう夜一人でトイレいけないパターンだよ。


 ふざけんなよ!このクソ野郎が!ーーと叫ぼうとしたところ、俺の目の前に一人の女性が姿を現す。

 

 「あら?ようやく目覚めたのね。もう、ダメじゃない!部屋から勝手に抜け出しちゃ!」


 俺に説教をしてくる女性は、黒髪をポニーテイルにしており、ヘアゴムには可愛らしい花

のアクセサリーをつけているめちゃくちゃ綺麗な女性だった。 

 見惚れている俺に彼女は説教を続ける。


 「どうして抜け出したの?それに扉まで破壊して・・・何事かと思ったよ。部屋に行ったら行ったであなたの姿がないし・・・もう!心配させるんじゃありません!」


 --怒った顔も可愛い・・・


 真剣に説教してもらっているのにも関わらず、俺はちっとも反省していなかった。


 「お姉さん、ここはどこ?俺、何かいけないことしちゃった?メインになる魔法も使えなくなってるんだ。恐らく俺に呪いをかけたやつの仕業なんだけど、心当たりとかないかな?」


 俺はその呪いをかけたやつに、「敗戦の原因は俺にない。原因があるとするなら剣士隊の方だ!」と一言言ってやりたかった。

 尋ねる俺の顔を見た女性は、驚いた様子で言った。


 「メイン?になる魔法ってなに?魔法ってあれだよね?武器に力を注ぐあれだよね?メインって言うのが良くわからないんだけど・・・」


 ーーは?まじ?メイン魔法を知らないだと!?


 メイン魔法を知らない奴は初めて見た。

 目を見開き、驚いた様子の俺に女性は、


 「しかもさりげなくお姉さんって・・・そんな綺麗な言葉で褒めようとしても無駄だからね?あなたの行いは許しませんから」

 「俺、呪いをかけたやつに無実を主張したいんだ!だから知ってる限りの情報を教えてくれないかな?そしたら色んな魔法を教えてあげるから!だから・・・」

 「魔法・・・?魔法を教えてもらっても私は剣が使えないからなー。それに今まで孤児院で暮らしてきたのに、どうやって魔法を身につけたのかな?」


 --は?


 俺には理解できなかった。

 孤児院?一体何の冗談だ?しかし女性の表情・・・嘘をついているとは思えない。

 そういえばこの女性はどこかあの黒い影と似ている。

 目つきといい、格好といい・・・まさか!?

 俺は彼女が今まで述べてきた証言を全て繋ぎ合わせて、一つの答えを導き出した。


 「お姉さん!鏡!鏡は!?」

 「どこも怪我してないから大丈夫よ?」

 「お願い!確認したいことがあるんだ!」


 その必死さに何かあるのかと、女性はすぐに手鏡を持ってきた。

 そして俺は真実を映し出す、その鏡を恐る恐る覗いた。

 するとーーー


 ーーやっぱりか・・・


 鏡に映し出された俺の姿は、茶髪のイケメンに分類される方の顔立ちになっている。

 魔王戦に挑んだ俺の姿と、大分かけ離れていた。

 どうやら俺は転生をしてしまったようだ、それも魔法概念が薄い、何とも生きにくそうな世界に・・・ 

  

 

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