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異世界転生って楽勝だと思ってました。【17万PV突破感謝! 】  作者: 黒崎 凱
第三章

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98/358

第九八話「喜怒哀楽の何れでも無い“壊”と言う感情……中編」

突如として響(ひび)き渡(わた)った爆発音


それは、政令国家の間近へと迫る魔王軍が

先遣隊(せんけんたい)として差し向けた

“悪鬼”の大軍に依(よ)る物であった――


◆◆◆


「て、撤退(てったい)だ!! ……早く逃げ……ぐぁぁぁっ!! 」


政令国家の兵達は疎(おろ)か

本来、この世界に生きとし生ける全ての者達に取って

対峙(たいじ)する筈など無い悍(おぞ)ましい存在――


“悪鬼(あっき)”


――有効な対処方法を知る由(よし)も無い者達には

この異様な存在を打ち倒す事は難しく……


「何だ!? ぶ、武器が……うわぁぁぁッ!!! ……」


極(ごく)一部の例外を除き


“悪鬼は物理攻撃の殆(ほとん)どを無効化し

触れた物を瞬(またた)く間に腐食させる”


……本国防衛に於(お)ける約半数の兵を

無力化させる様な特徴を持つこの魔物に対し

兵達がその能力を理解し、情報として共有し始めた頃には

既(すで)に多数の犠牲者で溢(あふ)れて居た。


だが、それでも辛うじて敵の本国への侵入を防げて居たのは

“防衛魔導に一定の効果が見られた為(ため)”

と言う、決して大手を振って喜ぶ事の出来ない状況でしか無かった。


この後……決死の抵抗の最中(さなか)

火炎系魔導に効力があると気付いた魔導兵達は

決死の覚悟で悪鬼共へと総攻撃を掛け

総数の約三割程を討伐(とうばつ)……だが、この直後

突如として動きを止めた悪鬼共は次々とその場に屈(かが)み始め

この異変に魔導兵達が警戒を強めた、直後――


「な、何だあれはッ?! ――」


――恐れ慄(おのの)き思わずそう声を上げた一人の兵士

彼の視線の先にあった光景は


「ギギッ! オレタチ強ク……成る……もっと、喰(ク)ウ! 」


魔導兵の攻撃に依(よ)り焼失し、息絶えた同胞を喰(く)らい

更に自(みずか)らの肉体を強化した

悪鬼共の姿であった。


……この、余りにも悍(おぞ)ましい光景に

兵の殆(ほとん)どは戦意を喪失し始めて居た。


だが……魔導兵長だけはこれを好機と捉(とら)え

尚(なお)も同胞の死骸(しがい)を喰(く)い漁(あさ)る悪鬼共に向け

ありったけの魔導攻撃を放つ様、隊員達に指示を出した。


「“食事中の奴”を狙えッ!! 火炎系だッ!!!

放てェェェッ!!! ――」


直後、降り注ぐ激しい攻撃に依(よ)り

土煙(つちけむり)の立ち昇(のぼ)る中

魔導兵長は攻撃の停止を指示した……だが。


土煙の先、微(かす)かに見えたその光景は

魔導兵長(かれ)さえも、絶望へと追い込んだ……


「何だ……と……そんなバカな……」


呆然(ぼうぜん)と立ち尽くす魔導兵長


その眼前では、同胞の死骸(しがい)を盾に尚(なお)も“食事”を止(や)めず

掠(かす)り傷を受けた同胞すら共食(ともぐ)いの対象とばかりに

“食事”を続ける悪鬼共の姿があった。


そして……この上、更に不運は続いた。


“食事”に依(よ)り成長し

見上げなければならない程に巨大化した悪鬼に慌て

総攻撃を指示した魔導兵長(かれ)の判断|虚(むな)しく

既(すで)に、魔導隊(かれら)の攻撃“程度”では

傷一つ付ける事すら叶(かな)わなく成って居た……


「なっ?! ……ガ、防衛術師(ガーディアン)隊ッ!

状況報告をッ!! ……」


「い、今までの比では有りませんッ!!

至急増援を……くっ! 衝撃来ますッ!!! 」


直後、凄まじい衝撃と共に

政令国家中に響(ひび)き渡(わた)る程の“爆発音”を発生させた悪鬼共の攻撃


防衛魔導の“壁”は破れる事無く政令国家を守護(しゅご)し続けて居た

だが、その反面……防衛術師(ガーディアン)の多くに

現れ始めて居た強い魔導欠乏の症状……


……次々と倒れ逝(ゆ)く隊員達を嘲笑(あざわら)うかの様に

尚(なお)も続いた“壁”への攻撃


同胞の死骸(しがい)を喰(く)らい続け

その度に少しずつ強靭(きょうじん)に成長し続けた悪鬼共は

更に“壁”を打ち続けた……


◆◆◆


「これは予想以上ですな……魔王様、高みの見物と致しましょう」


魔王軍本陣


差し向けた“駒(こま)”の優秀さに笑みを浮かべつつ

ライドウはそう言った……


「フッ……趣味の悪い“椅子”だな」


「ええ、急拵(きゅうごしら)えでございますので

何卒(なにとぞ)、ご容赦(ようしゃ)を……」


直後


ライドウの手に依(よ)り用意された

大型悪鬼数体の支える“神輿(みこし)”……これに鎮座(ちんざ)すると

文字通り“高みの見物”を決め込んだ魔王


その、一方で……


◆◆◆


「此方(こちら)、南門防衛隊!

詳細不明な化け物の大群により激しい攻撃を受けています!

奴らには物理攻撃が意味を為(な)さず! ……ぐっ!


至急、増援を要請しますッ!! ……」


「此方(こちら)、北門防衛隊!

我が隊の者達も初めて見る魔物です!

敵の触れた箇所(かしょ)は恐ろしい勢いで腐食(ふしょく)し

接近戦は自殺行為に等(ひと)しい模様!


……我が方面隊にも至急増援を!! 」


「此方(こちら)東門防衛隊!

此方(こちら)も謎の化け物の猛攻(もうこう)を受け

防衛術師(ガーディアン)隊の損耗(そんもう)甚大(じんだい)ッ!

我が隊にも至急増援を求めます!


尚(なお)、奴らはそれが“死骸(しがい)”であっても

共食いを行(おこな)い、更に強力な個体を生み出す事が出来る模様ッ!


もう持ちませんッ! ……急ぎ増援をッ!!! 」


この瞬間


西門を除(のぞ)く三隊からほぼ同時に寄せられ

その何(いず)れもが逼迫(ひっぱく)した状況を伝える物であった事に

ラウドは頭を抱(かか)えて居た。


……通信の内容を鑑(かんが)みれば

唯(ただ)でさえ心許無(こころもとな)い戦力の内

物理攻撃主体のオーク・ドワーフ・獣人族は戦力として適当と言えず

頼みの綱(つな)である筈のエルフ・ダークエルフさえ

彼らの居住地後方で待ち構える魔王軍の存在を無視出来ず

身動きが取れずに居たのだ。


だが、これほどまでの絶望的な状況下に在(あ)りながらも

“勝手が過ぎる”と、主人公(かれ)への救援要請を

渋(しぶ)る様な発言をしたラウドに業(ごう)を煮(に)やした

獣人族族長“リオス”は、直後――


「ラウドさん……これは僕のワガママだと思うし

何かにつけて主人公に頼り過ぎだって怒る

ラウドさんの意見も分かるんだ……けど。


……彼と一緒に旅をしているメルちゃんや

マリーンさんのお母さん達はこの国に住んでる。


今、助けを求めず、もしこの国が滅びでもしたら

メルちゃん、マリーンさんの悲しみと

そんな二人を見た主人公の優しい心はどれだけ傷つくと思う?

これは多分|卑怯(ひきょう)な意見だし

詭弁(きべん)だとも分かってる……だから。


僕が行く……主人公(かれ)への通信が繋がらないこの状況を

最も無視出来るのは“言い出しっぺ”の僕だけだから」


「ど、どう言う事じゃね? ……」


「僕は……走ってこの状況を伝えに行く。


“例の地下通路”は、確か一番遠い所でバルン村に通じて居た筈だし

彼処(あそこ)からなら色んな所に行ける筈だ、それに

僕の足なら本気を出せばバルン村まで二時間も掛からない。


……もし、主人公に対して

謝らなきゃいけない状況に成ったとしても

僕が全責任を取るつもりだ……


……後は貴方の決断だけだ、ラウドさん! 」


そう、必死に訴えた。


直後……続々と賛同した各種族の長達と大臣達は

ラウド大統領に決を採(と)る様、要求

直後、ラウド大統領はこれを承諾(しょうだく)し……


「リオス殿……わしは、主人公殿の気持ちを

本当の意味で理解しておらなんだのかも知れん。


じゃが……リオス殿、今後起こり得る全ての責任は

この国の長であるわしにのみある。


御主が背負うべき事では無いと知って欲しい……皆も

要らぬ気ばかり使わせてしまってすまなかった。


……全ての責任はわしが取る

リオス殿……御主には、主人公殿への救援要請を頼みたいっ! 」


「うん! ……任せてッ! 」


そう応(こた)えるや否や

直(す)ぐ様(さま)走り去ったリオス

一方、ラウド大統領は……


「……リオス殿の作戦を成功に導く為(ため)にも

先(ま)ずは敵の猛攻(もうこう)凄まじい三方位の各門に

防衛協力を行(おこな)う必要がある。


……クレイン殿、ミア殿は北門の防衛協力

オルガ殿は東門の防衛協力を、ガーベラ殿には

ギルドに設(もう)けられた治療所で負傷者の治療を頼みたい。


わしは南門の防衛へ向かう……エリシア殿には

オルガ殿ガーベラ殿を東門付近へ送り届けた後

そのまま、東門の防衛に協力して貰いたい。


そして……物理職であるドワーフ・オーク・獣人族の皆には

逃げ遅れた国民の避難誘導などを任せたい。


では、作戦開始じゃッ!! ――」


そう、指令を出した

全ては、主人公(かれ)へと繋がる時間の為(ため)……


◆◆◆


「ぞ、増援が来たぞっ! ……お前達、後少しだ! 踏ん張れッ!!


……クレイン様、ミア様!


あの化け物共に対しては炎系の魔導、且(か)つ

完全に焼失させる事の出来る物で攻撃しなければ

共食いを始め、奴らは逆に身体を強化する事が! ……」


クレイン、ミア夫妻の北門到着直後

北門防衛隊の魔導兵長は必死に状況の説明をして居た。


だが、この直後クレインはそんな魔導兵長の肩を優しく掴(つか)み

彼の目を真っ直ぐに見つめると……


「良くぞ此処(ここ)まで耐えてくれた。


……奴らの処理は私達に任せると良い

だが、私達の詠唱(えいしょう)が終わるまでの間で構わない

防衛魔導の維持を頼む。


さて……ミア。


行くぞ! ――」


「ええ! 火炎系の“極大魔導”は大の得意よッ! ――」


見るからに疲弊(ひへい)した彼らを少しでも勇気付ける為(ため)

そう言って、余裕を見せたのだった。


直後……敢(あ)えて派手な技を用(もち)い

敵を一気に殲滅(せんめつ)せんとした二人の姿に

疲弊(ひへい)し、希望を失い掛けて居た魔導兵達にも

僅(わず)かながら安堵(あんど)の表情が見え始めた頃……


……同時刻、南門へと転移していたラウド大統領は

凄まじい数の悪鬼を目の当たりにして居た。


◆◆◆


「な、何と言う事じゃ……」


思わず口を衝(つ)いて出た弱音とも取れる一言

一方、そんな彼に気付くと

彼の元へと走り寄った南門防衛隊の魔導兵長。


「ラ、ラウド大統領ッ!

あの者達には決してお触れに成らない様ッ!

どうやら、腐食(ふしょく)するだけでは無く

触れれば此方(こちら)もあの化け物と同一化する様なのです!

無論(むろん)完全に同じではありませんが

兎に角、既に部下が多数取り込まれ……あの様に……くッ! 」


そう言って魔導兵長(かれ)が指し示した先には

腐食(ふしょく)し、今にも崩れ落ちそうな魔導道具を握ったまま

悪鬼の死骸(しがい)を喰(く)らう元魔導兵の姿があった……


「何と恐ろしい……じゃが、恐れて居るだけでは埒(らち)が明かん

彼奴(アヤツ)らの弱点は判明しておるのじゃろう? 」


「ええ、火属性の魔導を用(もち)いれば焼失する様ですが

我が隊の魔導残量では、これ以上の攻撃が……」


そう言った魔導兵長の顔色は悪く

軽度とは言え“魔導欠乏”の症状が見え始めて居た。


そんな中、ラウド大統領は魔導兵長に対し……


「……この様な状況で言う話でも無いのじゃろうが

わしが炎系の魔導を苦手としておる事は

恐らく御主達は知っておるかも知れんが

一つだけ、得意な火炎の魔導があってのぅ? 」


「そ、そうなのですか?! 」


「うむ……とは言え、相当に危険な技じゃから

発動中は皆、出来る限りわしから離れておくのじゃよ? 」


「は……はッ!

全隊ッ! ラウド大統領から距離を取れッ!!! 」


直後


魔導兵長の指示に依(よ)り兵達が下がった事を確認すると

魔導の大杖に力を込め、詠唱(えいしょう)を始めたラウド大統領。


彼が発動させようとしていた魔導技

それは“火炎龍召喚術”と呼ばれる最高位の火炎魔導であった。


……彼(ラウド)が唯一(ゆいいつ)得意と謳(うた)った

“火炎龍召喚術”……絶大(ぜつだい)な攻撃力を持ったこの技には

反面、大きな欠点があった――


“発動後、術者に齎(もたら)される途轍(とてつ)も無い熱”


――急激に上昇する彼(ラウド)の体温

それは、周囲との温度差に依(よ)り陽炎(かげろう)を

発生させる程の圧倒的な熱量で……


◆◆◆


「火炎龍よ! 敵を焼き払うのじゃッ!!! ――」


詠唱(えいしょう)を終えた瞬間

彼の大杖から出現した赤黒く燃え盛(さか)る“火炎龍”


……躰(からだ)を振り乱し、周囲に

凄まじい熱量を放出した“火炎龍(それ)”は悪鬼共に向け

一直線に飛翔した……


「お……おぉッ!!!

敵が、敵が次々と……行ける……行けるぞッ!!! 」


その圧倒的な火力に悪鬼共はその殆(ほとん)どが焼失


圧倒的な状況に魔導兵達は皆|安堵(あんど)し歓喜の声を挙げ始めて居た

だが……術者である彼(ラウド)の呼吸は加速度的に弱り

直後、それに気付いた魔導兵長は

直(す)ぐ様(さま)彼の元へ駆け寄った。


だが、それを制止すると……


◆◆◆


「ち……近付いてはならん。


大丈夫じゃ……死には……せんよ……後で

ガーベラ殿辺りに治癒魔導を掛けて貰えば……大丈夫じゃ


安心するが……良いぞぃ……っ!

御主達は……少し……休んでおりな……さい……」


そう伝え

尚(なお)も火炎龍へと魔導力を注ぎ続けたラウド大統領


……皮膚に酷(ひど)い火傷を負いながらも

まるで意に介(かい)さず、尚(なお)も悪鬼を討伐(とうばつ)せんと

彼は、あらん限りの魔導力を注ぎ続けた。


だが……その一方で、彼が名を挙(あ)げた

“ガーベラ”の居る東門付近では……


◆◆◆


「ぐぅっ……駄目だッ……もう……持たない……っ……」


「おいッ! 確(しっか)りしろッ! ……くそッ!!

衛生兵ッ! ……この者を後退させろッ!

敵に喰(く)わせるような事は許さんッ! ……」


降り注ぐ夥(おびただ)しいまでの攻撃


“壁”を展開する東門防衛隊の隊員達は

この熾烈(しれつ)な攻撃に耐えきれず

一人……また一人と“魔導欠乏”に陥(おちい)り

そのせいか“壁”の強度は加速度的に失われ

崩壊(ほうかい)も時間の問題と成りつつあった。


だが……


「良く持ち堪(こた)えた!!! 私も力を貸そう! 」


逼迫(ひっぱく)した状況の中

エリシアの転移魔導に依(よ)ってこの場へと現れたオルガは

転移早々“壁”の展開へと加わり……


「貴方、そっちは任せたわ! ……私はギルドに向かうわね!! 」


直後

そう言い残し、ギルドへと設(もう)けられた

臨時の治療場所へと向かったガーベラ。


そして……


「皆、有難う……君達の苦労は無駄にさせないから

私達が来たからにはもう安心だよ~っ! 」


士気高揚(しきこうよう)を狙ってか

そう、大言(たいげん)をしたエリシアの言葉に

魔導兵達の士気(しき)は向上し、状況を好転させる起爆剤と成った。


この瞬間、改善の兆(きざ)しが見られ始めた戦況……だが。


そんな彼らの懸命(けんめい)さを嘲笑(あざわら)うかの様に

遠方(えんぽう)より飛来(ひらい)した一発の“攻撃”に依(よ)り

東門の戦況は著(いちじる)しく


“悪化”する事と成る――


◆◆◆


「フッ……高みの見物では無かったのか? 」


「……申し訳有りません魔王様

ですが、悪鬼共が余りにグダグダと遅いので

流石(さすが)に飽き飽きしてしまいまして。


何と言いますか、少し時間を“早めた”様な物ですので

この後は、引き続き高みの見物と致しましょう……」


遠方からの強力な一撃の正体

それは、ライドウの放った“対防衛魔導用”の特殊な呪具

“楔(クサビ)”に依(よ)る物であった。


……直後、呪具の効果に依(よ)り

東門を守護(しゅご)する“壁”へと齎(もたら)された修復不可能な


“ヒビ”……


◆◆◆


「ぐっ、不味(マズ)い! ……全員ッ! 退(ひ)けぇぇぇっ!!! 」


魔導兵長の発した撤退(てったい)命令の直後


悪鬼の振り下ろした拳(こぶし)は“壁”を打ち破り

数十名の魔導兵|諸共(もろとも)地面へと叩きつけられた。


……一方、咄嗟(とっさ)に魔導障壁を展開したオルガ

その賢明な判断に依(よ)り、被害は最小限に抑(おさ)えられた

だが、東門を守護(しゅご)する壁は完全に破壊され

一行は戦線を引き下げる為(ため)、門の防衛を放棄した……


「くっ! ……退(ひ)け退(ひ)け退(ひ)けぇぇぇっ!!! 」


間近に迫(せま)る悪鬼

辛(かろ)うじて防げたに過ぎない状況の中

戦線の再構築に慌ただしくなり始めた兵士達。


一方……そんな彼らの中に在(あ)りながら

直後、一切|臆(おく)する事無く魔導詠唱(えいしょう)を始めたエリシア


……だが、彼女の詠唱(えいしょう)する魔導は何故(なぜ)か

悪鬼に有効とされる“炎系の魔導”では無く――


◆◆◆


「……雷鳴(らいめい)轟(とどろ)かせ空駆(そらか)ける雷鳥(らいちょう)よ

今、その姿を此処(ここ)に現(あらわ)せッ!!


極大魔導:雷鳥之一撃(らいちょうのいちげき)ッッ!!! 」


――瞬間


彼女の放った“電撃系の魔導”は

悪鬼に掠(かす)りすらもせず……唯(ただ)、その頭上を通り過ぎて行った。


……当然と言うべきか

この光景に魔導兵達は絶望の眼差しを向けた

だが、そもそも彼女は悪鬼を狙ってなど居なかった。


彼女が本当に狙って居た相手、それは――


◆◆◆


「いやはや……挨拶にしては少々手荒では? “姉弟子(あねでし)”様」


――遥(はる)か遠くに見える“神輿(みこし)”

その玉座に座る魔王のすぐ側(そば)で、ライドウはそう言った。


この瞬間、彼(ライドウ)に向け放たれた“雷鳥之一撃(それ)”は

彼が多重展開した防衛魔導に直撃……その全てを破壊した後

完全に消滅した……


「ライドウ、何故(なぜ)お前が生きているッ?! 」


「何故(なぜ)って、私は死んで居ませんから……


……と、答えるのは少々意地悪ですね?

まぁ“紆余曲折(うよきょくせつ)”ありまして。


お陰様で、あの頃よりも強く生まれ変わる事が出来ました

“ヴィンセント”と同じ……いや

今の私は、彼より更に強いかも知れませんねぇ? 」


「黙れッ!!! ……軽々しく師匠の名を口にするなッ!!!

お前だけは何としても私が……私が師匠の仇(かたき)を討(う)つんだッ!!

早くその気持ち悪い化け物の上から降りて来いッ!!

一対一で私と勝負しろッ! “弟弟子(おとうとでし)ッ! ”」


「……やれやれ、流石(さすが)は姉弟子(あねでし)様と言った所でしょうか?

いつまでも“泥臭い考え”を捨てきれない所は

“あの時”から一つも変わって居ませんねぇ?


ま……良いでしょう、では悪鬼共で

“決闘場”でも作ると致しましょうか……」


直後

ライドウの合図に依(よ)って悪鬼の群れは一斉に門を離れ

門より少し離れた場所へと、決闘場と呼ぶべき“輪(わ)”を形成した。


……この後、魔王に一礼し輪(わ)の中心へ転移すると

ライドウは、エリシアに“手招(てまね)き”をしてみせ

そんな“挑発”とも取れる行動に……


「分かった……なら、その場所をお前の墓場にしてやる。


私の大好きな自然を、草花を枯らしてしまう

悪鬼(そいつら)の墓場で……お前の体が朽(く)ち果(は)てる様を

師匠とヴィオレッタへの手向けにしてやるッ!!!


……けど、その前に。


伝達の魔導:魔導拡声(メガホン)ッッ! ――


“魔導師系ハンター諸君(しょくん)!

国難(こくなん)の今、君達の力がどうしても必要っ!


……この状況を防ぎ切った者達には

ギルド長の権限をフルに活用して

笑いが止まらない位の賞金……だけじゃ無く

私の全財産もつけてあげるっ!

富(とみ)と名声(めいせい)を

一挙両得(いっきょりょうとく)するチャンスだよ!

分かったら、東門の防衛に協力しろぃ!!! ”


――これで、良し。


さて、とッ! ――」


直後、彼女は“決闘場”へと転移した。


◆◆◆


「ふむ……“正義の味方”気取りですか

お美しいお考えですねぇ姉弟子(あねでし)様?

しかし……どう見てもですが、姉弟子(あねでし)様と私とでは

相当に“実力差”が激しい様です……本来、今日は“後二回”使えるのですが

“時之狭間(トキノハザマ)”は使わず居て差し上げましょう。


……無論(むろん)、姉弟子(あねでし)様はご自由に

全力で掛かって頂いて構いません……あぁ、一つだけ忠告を。


悪鬼に触れると“腐食(ふしょく)”します

もし、私を恐れて後ろに下がり過ぎると

悪鬼程度に殺(や)られてしまいますので

それだけはご注意下さいね? ……宜しいですか? 姉弟子(あねでし)様? 」


「煩(うるさ)い……御託(ごたく)は良いから掛かって来い!!

お前だけは、絶対に生かしておかないッ! ――」


言うや否や

懐(ふところ)から丸薬(がんやく)を取り出し

それを数粒飲み込んだエリシア。


直後、彼女の魔導力は桁違いに上昇し……


「おやおや……弟弟子(おとうとでし)に対しそんな“物”を使うとは

何とも卑怯(ひきょう)な姉弟子(あねでし)様ですねぇ? ……


……ま、どう足掻(あが)いても無駄なのですがねぇ? 」


ニヤリと笑いながらそう挑発したライドウ

だが……


「ライドウ……お前は私の固有魔導を見た事すら無かったよね?

出し惜しみして勝てるとも思って無いし、早速(さっそく)見せてあげる。


固有魔導:狂泥之沼(マッドスワンプ)ッ!!! ――」


瞬間


エリシアの放った固有魔導の効果範囲から逃れられず

彼女の術中に嵌(はま)ったライドウ

だが、その割に、彼は酷く冷静で……


「ほう……成程(なるほど)? “行動不能系”の固有魔導ですか

しかし、流石(さすが)は“泥臭い考え”を持つ姉弟子ですねぇ?

衣服が汚れた上に、動けません……ですが。


まさか、固有魔導がこの程度とは

正直……呆(あき)れましたよ? 」


「さっきからかな~り余裕ぶっこいてるけど

誰がそれで終わりだと言ったかな? “弟弟子(おとうとでし)君(くん)? ”


狂泥之沼(マッドスワンプ):第二形状――


――“堆肥之沼(コンポストスワンプ)ッ!!! ”」


直後、ライドウに纏(まと)わり付き始めた“泥(どろ)”は

急激に彼の魔導力を吸収し始めた。


「何ッ?! 固有魔導に二形態目があるだとッ?!

くっ……逃れられんッ!!

ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっッ!! ……」


「あら~っ?

さっきまでの余裕は何処(どこ)にいったの? 弟弟子君。


さて……ライドウ。


アンタはそのままゆっくりと“堆肥(たいひ)”に成るんだ

そして……せめてこの世界の木々達に

栄養を与える存在として役に立てば良い。


……それがお前の、お前のせいで命を落とした師匠と

ヴィオレッタへの、せめてもの餞(はなむけ)に成るんだッ!!! ――」


そう言い放つや否や

更に魔導力を込めたエリシア……


「うぐっ!! エリシア……貴様ッ!!

只(ただ)の攻撃術師(マジシャン)風情のオマエが

どうやって此処(ここ)までの力をッ?! ……ぐあぁッ!! 」


「……死ぬ前に教えてあげる。


師匠とヴィオレッタを失った私に

たった一つだけ残った物の事を……


……あれは、師匠から進められて学んだ“薬草学の知識”だった

ある時期の記憶がすっぽりと抜け落ちた

私の手元に残った一冊の本と

其処(そこ)へ山程(やまほど)書き込まれて居た薬草学の知識。


私は、その日から自分の中の何かを埋める様に

必死に薬草学の勉強を続けた……そうして過ごす日々の中で

必死に努力し続けた結果がその固有魔導。


良く、噛みしめるんだね……」


「ふっ……成程(なるほど)……そう言う……事だったか

私の防御魔導を……全て消滅させる程の力を得た理由

やっと理解……出来ましたよ……」


「分かってよかったね……けど、昔話は此処(ここ)まで。


そろそろお別れだよ。


“弟弟子(おとうとでし)”――」


静かにそう言うと更に力を込めたエリシア


だが……


◆◆◆


「ふっ……フッ、ハハハハハッ!!!

甘過ぎるっ! ……流石(さすが)は姉弟子(あねでし)様ッ!

まるで何も見えていないッ!! ……滑稽(こっけい)だッ!!! 」


「……元からだろうけど、気でも狂(くる)った? 」


「いえいえ……狂(くる)ってなどいませんよ?

それより、姉弟子(あねでし)様の固有魔導に

“ニ形態目”がある事には驚きました……ですが。


此方(こちら)はそれを超える“驚愕(サプライズ)”を持っています

こうなれば、是非ともプレゼントすべきでしょう?

私が持つ固有魔導の内の――


“二つ目”


――“犠牲交換《エクスチェンジサクリファイス》”と言う名の、ね」


===第九八話・終===

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