第九八話「喜怒哀楽の何れでも無い“壊”と言う感情……中編」
突如として響き渡った爆発音
それは、政令国家の間近へと迫る魔王軍が
先遣隊として差し向けた
“悪鬼”の大軍に依る物であった――
◆◆◆
「て、撤退だ!! ……早く逃げ……ぐぁぁぁっ!! 」
政令国家の兵達は疎か
本来、この世界に生きとし生ける全ての者達に取って
対峙する筈など無い悍ましい存在――
“悪鬼”
――有効な対処方法を知る由も無い者達には
この異様な存在を打ち倒す事は難しく……
「何だ!? ぶ、武器が……うわぁぁぁッ!!! ……」
極一部の例外を除き
“悪鬼は物理攻撃の殆どを無効化し
触れた物を瞬く間に腐食させる”
……本国防衛に於ける約半数の兵を
無力化させる様な特徴を持つこの魔物に対し
兵達がその能力を理解し、情報として共有し始めた頃には
既に多数の犠牲者で溢れて居た。
だが、それでも辛うじて敵の本国への侵入を防げて居たのは
“防衛魔導に一定の効果が見られた為”
と言う、決して大手を振って喜ぶ事の出来ない状況でしか無かった。
この後……決死の抵抗の最中
火炎系魔導に効力があると気付いた魔導兵達は
決死の覚悟で悪鬼共へと総攻撃を掛け
総数の約三割程を討伐……だが、この直後
突如として動きを止めた悪鬼共は次々とその場に屈み始め
この異変に魔導兵達が警戒を強めた、直後――
「な、何だあれはッ?! ――」
――恐れ慄き思わずそう声を上げた一人の兵士
彼の視線の先にあった光景は
「ギギッ! オレタチ強ク……成る……もっと、喰ウ! 」
魔導兵の攻撃に依り焼失し、息絶えた同胞を喰らい
更に自らの肉体を強化した
悪鬼共の姿であった。
……この、余りにも悍ましい光景に
兵の殆どは戦意を喪失し始めて居た。
だが……魔導兵長だけはこれを好機と捉え
尚も同胞の死骸を喰い漁る悪鬼共に向け
ありったけの魔導攻撃を放つ様、隊員達に指示を出した。
「“食事中の奴”を狙えッ!! 火炎系だッ!!!
放てェェェッ!!! ――」
直後、降り注ぐ激しい攻撃に依り
土煙の立ち昇る中
魔導兵長は攻撃の停止を指示した……だが。
土煙の先、微かに見えたその光景は
魔導兵長さえも、絶望へと追い込んだ……
「何だ……と……そんなバカな……」
呆然と立ち尽くす魔導兵長
その眼前では、同胞の死骸を盾に尚も“食事”を止めず
掠り傷を受けた同胞すら共食いの対象とばかりに
“食事”を続ける悪鬼共の姿があった。
そして……この上、更に不運は続いた。
“食事”に依り成長し
見上げなければならない程に巨大化した悪鬼に慌て
総攻撃を指示した魔導兵長の判断|虚しく
既に、魔導隊の攻撃“程度”では
傷一つ付ける事すら叶わなく成って居た……
「なっ?! ……ガ、防衛術師隊ッ!
状況報告をッ!! ……」
「い、今までの比では有りませんッ!!
至急増援を……くっ! 衝撃来ますッ!!! 」
直後、凄まじい衝撃と共に
政令国家中に響き渡る程の“爆発音”を発生させた悪鬼共の攻撃
防衛魔導の“壁”は破れる事無く政令国家を守護し続けて居た
だが、その反面……防衛術師の多くに
現れ始めて居た強い魔導欠乏の症状……
……次々と倒れ逝く隊員達を嘲笑うかの様に
尚も続いた“壁”への攻撃
同胞の死骸を喰らい続け
その度に少しずつ強靭に成長し続けた悪鬼共は
更に“壁”を打ち続けた……
◆◆◆
「これは予想以上ですな……魔王様、高みの見物と致しましょう」
魔王軍本陣
差し向けた“駒”の優秀さに笑みを浮かべつつ
ライドウはそう言った……
「フッ……趣味の悪い“椅子”だな」
「ええ、急拵えでございますので
何卒、ご容赦を……」
直後
ライドウの手に依り用意された
大型悪鬼数体の支える“神輿”……これに鎮座すると
文字通り“高みの見物”を決め込んだ魔王
その、一方で……
◆◆◆
「此方、南門防衛隊!
詳細不明な化け物の大群により激しい攻撃を受けています!
奴らには物理攻撃が意味を為さず! ……ぐっ!
至急、増援を要請しますッ!! ……」
「此方、北門防衛隊!
我が隊の者達も初めて見る魔物です!
敵の触れた箇所は恐ろしい勢いで腐食し
接近戦は自殺行為に等しい模様!
……我が方面隊にも至急増援を!! 」
「此方東門防衛隊!
此方も謎の化け物の猛攻を受け
防衛術師隊の損耗甚大ッ!
我が隊にも至急増援を求めます!
尚、奴らはそれが“死骸”であっても
共食いを行い、更に強力な個体を生み出す事が出来る模様ッ!
もう持ちませんッ! ……急ぎ増援をッ!!! 」
この瞬間
西門を除く三隊からほぼ同時に寄せられ
その何れもが逼迫した状況を伝える物であった事に
ラウドは頭を抱えて居た。
……通信の内容を鑑みれば
唯でさえ心許無い戦力の内
物理攻撃主体のオーク・ドワーフ・獣人族は戦力として適当と言えず
頼みの綱である筈のエルフ・ダークエルフさえ
彼らの居住地後方で待ち構える魔王軍の存在を無視出来ず
身動きが取れずに居たのだ。
だが、これほどまでの絶望的な状況下に在りながらも
“勝手が過ぎる”と、主人公への救援要請を
渋る様な発言をしたラウドに業を煮やした
獣人族族長“リオス”は、直後――
「ラウドさん……これは僕のワガママだと思うし
何かにつけて主人公に頼り過ぎだって怒る
ラウドさんの意見も分かるんだ……けど。
……彼と一緒に旅をしているメルちゃんや
マリーンさんのお母さん達はこの国に住んでる。
今、助けを求めず、もしこの国が滅びでもしたら
メルちゃん、マリーンさんの悲しみと
そんな二人を見た主人公の優しい心はどれだけ傷つくと思う?
これは多分|卑怯な意見だし
詭弁だとも分かってる……だから。
僕が行く……主人公への通信が繋がらないこの状況を
最も無視出来るのは“言い出しっぺ”の僕だけだから」
「ど、どう言う事じゃね? ……」
「僕は……走ってこの状況を伝えに行く。
“例の地下通路”は、確か一番遠い所でバルン村に通じて居た筈だし
彼処からなら色んな所に行ける筈だ、それに
僕の足なら本気を出せばバルン村まで二時間も掛からない。
……もし、主人公に対して
謝らなきゃいけない状況に成ったとしても
僕が全責任を取るつもりだ……
……後は貴方の決断だけだ、ラウドさん! 」
そう、必死に訴えた。
直後……続々と賛同した各種族の長達と大臣達は
ラウド大統領に決を採る様、要求
直後、ラウド大統領はこれを承諾し……
「リオス殿……わしは、主人公殿の気持ちを
本当の意味で理解しておらなんだのかも知れん。
じゃが……リオス殿、今後起こり得る全ての責任は
この国の長であるわしにのみある。
御主が背負うべき事では無いと知って欲しい……皆も
要らぬ気ばかり使わせてしまってすまなかった。
……全ての責任はわしが取る
リオス殿……御主には、主人公殿への救援要請を頼みたいっ! 」
「うん! ……任せてッ! 」
そう応えるや否や
直ぐ様走り去ったリオス
一方、ラウド大統領は……
「……リオス殿の作戦を成功に導く為にも
先ずは敵の猛攻凄まじい三方位の各門に
防衛協力を行う必要がある。
……クレイン殿、ミア殿は北門の防衛協力
オルガ殿は東門の防衛協力を、ガーベラ殿には
ギルドに設けられた治療所で負傷者の治療を頼みたい。
わしは南門の防衛へ向かう……エリシア殿には
オルガ殿ガーベラ殿を東門付近へ送り届けた後
そのまま、東門の防衛に協力して貰いたい。
そして……物理職であるドワーフ・オーク・獣人族の皆には
逃げ遅れた国民の避難誘導などを任せたい。
では、作戦開始じゃッ!! ――」
そう、指令を出した
全ては、主人公へと繋がる時間の為……
◆◆◆
「ぞ、増援が来たぞっ! ……お前達、後少しだ! 踏ん張れッ!!
……クレイン様、ミア様!
あの化け物共に対しては炎系の魔導、且つ
完全に焼失させる事の出来る物で攻撃しなければ
共食いを始め、奴らは逆に身体を強化する事が! ……」
クレイン、ミア夫妻の北門到着直後
北門防衛隊の魔導兵長は必死に状況の説明をして居た。
だが、この直後クレインはそんな魔導兵長の肩を優しく掴み
彼の目を真っ直ぐに見つめると……
「良くぞ此処まで耐えてくれた。
……奴らの処理は私達に任せると良い
だが、私達の詠唱が終わるまでの間で構わない
防衛魔導の維持を頼む。
さて……ミア。
行くぞ! ――」
「ええ! 火炎系の“極大魔導”は大の得意よッ! ――」
見るからに疲弊した彼らを少しでも勇気付ける為
そう言って、余裕を見せたのだった。
直後……敢えて派手な技を用い
敵を一気に殲滅せんとした二人の姿に
疲弊し、希望を失い掛けて居た魔導兵達にも
僅かながら安堵の表情が見え始めた頃……
……同時刻、南門へと転移していたラウド大統領は
凄まじい数の悪鬼を目の当たりにして居た。
◆◆◆
「な、何と言う事じゃ……」
思わず口を衝いて出た弱音とも取れる一言
一方、そんな彼に気付くと
彼の元へと走り寄った南門防衛隊の魔導兵長。
「ラ、ラウド大統領ッ!
あの者達には決してお触れに成らない様ッ!
どうやら、腐食するだけでは無く
触れれば此方もあの化け物と同一化する様なのです!
無論完全に同じではありませんが
兎に角、既に部下が多数取り込まれ……あの様に……くッ! 」
そう言って魔導兵長が指し示した先には
腐食し、今にも崩れ落ちそうな魔導道具を握ったまま
悪鬼の死骸を喰らう元魔導兵の姿があった……
「何と恐ろしい……じゃが、恐れて居るだけでは埒が明かん
彼奴らの弱点は判明しておるのじゃろう? 」
「ええ、火属性の魔導を用いれば焼失する様ですが
我が隊の魔導残量では、これ以上の攻撃が……」
そう言った魔導兵長の顔色は悪く
軽度とは言え“魔導欠乏”の症状が見え始めて居た。
そんな中、ラウド大統領は魔導兵長に対し……
「……この様な状況で言う話でも無いのじゃろうが
わしが炎系の魔導を苦手としておる事は
恐らく御主達は知っておるかも知れんが
一つだけ、得意な火炎の魔導があってのぅ? 」
「そ、そうなのですか?! 」
「うむ……とは言え、相当に危険な技じゃから
発動中は皆、出来る限りわしから離れておくのじゃよ? 」
「は……はッ!
全隊ッ! ラウド大統領から距離を取れッ!!! 」
直後
魔導兵長の指示に依り兵達が下がった事を確認すると
魔導の大杖に力を込め、詠唱を始めたラウド大統領。
彼が発動させようとしていた魔導技
それは“火炎龍召喚術”と呼ばれる最高位の火炎魔導であった。
……彼が唯一得意と謳った
“火炎龍召喚術”……絶大な攻撃力を持ったこの技には
反面、大きな欠点があった――
“発動後、術者に齎される途轍も無い熱”
――急激に上昇する彼の体温
それは、周囲との温度差に依り陽炎を
発生させる程の圧倒的な熱量で……
◆◆◆
「火炎龍よ! 敵を焼き払うのじゃッ!!! ――」
詠唱を終えた瞬間
彼の大杖から出現した赤黒く燃え盛る“火炎龍”
……躰を振り乱し、周囲に
凄まじい熱量を放出した“火炎龍”は悪鬼共に向け
一直線に飛翔した……
「お……おぉッ!!!
敵が、敵が次々と……行ける……行けるぞッ!!! 」
その圧倒的な火力に悪鬼共はその殆どが焼失
圧倒的な状況に魔導兵達は皆|安堵し歓喜の声を挙げ始めて居た
だが……術者である彼の呼吸は加速度的に弱り
直後、それに気付いた魔導兵長は
直ぐ様彼の元へ駆け寄った。
だが、それを制止すると……
◆◆◆
「ち……近付いてはならん。
大丈夫じゃ……死には……せんよ……後で
ガーベラ殿辺りに治癒魔導を掛けて貰えば……大丈夫じゃ
安心するが……良いぞぃ……っ!
御主達は……少し……休んでおりな……さい……」
そう伝え
尚も火炎龍へと魔導力を注ぎ続けたラウド大統領
……皮膚に酷い火傷を負いながらも
まるで意に介さず、尚も悪鬼を討伐せんと
彼は、あらん限りの魔導力を注ぎ続けた。
だが……その一方で、彼が名を挙げた
“ガーベラ”の居る東門付近では……
◆◆◆
「ぐぅっ……駄目だッ……もう……持たない……っ……」
「おいッ! 確りしろッ! ……くそッ!!
衛生兵ッ! ……この者を後退させろッ!
敵に喰わせるような事は許さんッ! ……」
降り注ぐ夥しいまでの攻撃
“壁”を展開する東門防衛隊の隊員達は
この熾烈な攻撃に耐えきれず
一人……また一人と“魔導欠乏”に陥り
そのせいか“壁”の強度は加速度的に失われ
崩壊も時間の問題と成りつつあった。
だが……
「良く持ち堪えた!!! 私も力を貸そう! 」
逼迫した状況の中
エリシアの転移魔導に依ってこの場へと現れたオルガは
転移早々“壁”の展開へと加わり……
「貴方、そっちは任せたわ! ……私はギルドに向かうわね!! 」
直後
そう言い残し、ギルドへと設けられた
臨時の治療場所へと向かったガーベラ。
そして……
「皆、有難う……君達の苦労は無駄にさせないから
私達が来たからにはもう安心だよ~っ! 」
士気高揚を狙ってか
そう、大言をしたエリシアの言葉に
魔導兵達の士気は向上し、状況を好転させる起爆剤と成った。
この瞬間、改善の兆しが見られ始めた戦況……だが。
そんな彼らの懸命さを嘲笑うかの様に
遠方より飛来した一発の“攻撃”に依り
東門の戦況は著しく
“悪化”する事と成る――
◆◆◆
「フッ……高みの見物では無かったのか? 」
「……申し訳有りません魔王様
ですが、悪鬼共が余りにグダグダと遅いので
流石に飽き飽きしてしまいまして。
何と言いますか、少し時間を“早めた”様な物ですので
この後は、引き続き高みの見物と致しましょう……」
遠方からの強力な一撃の正体
それは、ライドウの放った“対防衛魔導用”の特殊な呪具
“楔”に依る物であった。
……直後、呪具の効果に依り
東門を守護する“壁”へと齎された修復不可能な
“ヒビ”……
◆◆◆
「ぐっ、不味い! ……全員ッ! 退けぇぇぇっ!!! 」
魔導兵長の発した撤退命令の直後
悪鬼の振り下ろした拳は“壁”を打ち破り
数十名の魔導兵|諸共地面へと叩きつけられた。
……一方、咄嗟に魔導障壁を展開したオルガ
その賢明な判断に依り、被害は最小限に抑えられた
だが、東門を守護する壁は完全に破壊され
一行は戦線を引き下げる為、門の防衛を放棄した……
「くっ! ……退け退け退けぇぇぇっ!!! 」
間近に迫る悪鬼
辛うじて防げたに過ぎない状況の中
戦線の再構築に慌ただしくなり始めた兵士達。
一方……そんな彼らの中に在りながら
直後、一切|臆する事無く魔導詠唱を始めたエリシア
……だが、彼女の詠唱する魔導は何故か
悪鬼に有効とされる“炎系の魔導”では無く――
◆◆◆
「……雷鳴轟かせ空駆ける雷鳥よ
今、その姿を此処に現せッ!!
極大魔導:雷鳥之一撃ッッ!!! 」
――瞬間
彼女の放った“電撃系の魔導”は
悪鬼に掠りすらもせず……唯、その頭上を通り過ぎて行った。
……当然と言うべきか
この光景に魔導兵達は絶望の眼差しを向けた
だが、そもそも彼女は悪鬼を狙ってなど居なかった。
彼女が本当に狙って居た相手、それは――
◆◆◆
「いやはや……挨拶にしては少々手荒では? “姉弟子”様」
――遥か遠くに見える“神輿”
その玉座に座る魔王のすぐ側で、ライドウはそう言った。
この瞬間、彼に向け放たれた“雷鳥之一撃”は
彼が多重展開した防衛魔導に直撃……その全てを破壊した後
完全に消滅した……
「ライドウ、何故お前が生きているッ?! 」
「何故って、私は死んで居ませんから……
……と、答えるのは少々意地悪ですね?
まぁ“紆余曲折”ありまして。
お陰様で、あの頃よりも強く生まれ変わる事が出来ました
“ヴィンセント”と同じ……いや
今の私は、彼より更に強いかも知れませんねぇ? 」
「黙れッ!!! ……軽々しく師匠の名を口にするなッ!!!
お前だけは何としても私が……私が師匠の仇を討つんだッ!!
早くその気持ち悪い化け物の上から降りて来いッ!!
一対一で私と勝負しろッ! “弟弟子ッ! ”」
「……やれやれ、流石は姉弟子様と言った所でしょうか?
いつまでも“泥臭い考え”を捨てきれない所は
“あの時”から一つも変わって居ませんねぇ?
ま……良いでしょう、では悪鬼共で
“決闘場”でも作ると致しましょうか……」
直後
ライドウの合図に依って悪鬼の群れは一斉に門を離れ
門より少し離れた場所へと、決闘場と呼ぶべき“輪”を形成した。
……この後、魔王に一礼し輪の中心へ転移すると
ライドウは、エリシアに“手招き”をしてみせ
そんな“挑発”とも取れる行動に……
「分かった……なら、その場所をお前の墓場にしてやる。
私の大好きな自然を、草花を枯らしてしまう
悪鬼の墓場で……お前の体が朽ち果てる様を
師匠とヴィオレッタへの手向けにしてやるッ!!!
……けど、その前に。
伝達の魔導:魔導拡声ッッ! ――
“魔導師系ハンター諸君!
国難の今、君達の力がどうしても必要っ!
……この状況を防ぎ切った者達には
ギルド長の権限をフルに活用して
笑いが止まらない位の賞金……だけじゃ無く
私の全財産もつけてあげるっ!
富と名声を
一挙両得するチャンスだよ!
分かったら、東門の防衛に協力しろぃ!!! ”
――これで、良し。
さて、とッ! ――」
直後、彼女は“決闘場”へと転移した。
◆◆◆
「ふむ……“正義の味方”気取りですか
お美しいお考えですねぇ姉弟子様?
しかし……どう見てもですが、姉弟子様と私とでは
相当に“実力差”が激しい様です……本来、今日は“後二回”使えるのですが
“時之狭間”は使わず居て差し上げましょう。
……無論、姉弟子様はご自由に
全力で掛かって頂いて構いません……あぁ、一つだけ忠告を。
悪鬼に触れると“腐食”します
もし、私を恐れて後ろに下がり過ぎると
悪鬼程度に殺られてしまいますので
それだけはご注意下さいね? ……宜しいですか? 姉弟子様? 」
「煩い……御託は良いから掛かって来い!!
お前だけは、絶対に生かしておかないッ! ――」
言うや否や
懐から丸薬を取り出し
それを数粒飲み込んだエリシア。
直後、彼女の魔導力は桁違いに上昇し……
「おやおや……弟弟子に対しそんな“物”を使うとは
何とも卑怯な姉弟子様ですねぇ? ……
……ま、どう足掻いても無駄なのですがねぇ? 」
ニヤリと笑いながらそう挑発したライドウ
だが……
「ライドウ……お前は私の固有魔導を見た事すら無かったよね?
出し惜しみして勝てるとも思って無いし、早速見せてあげる。
固有魔導:狂泥之沼ッ!!! ――」
瞬間
エリシアの放った固有魔導の効果範囲から逃れられず
彼女の術中に嵌ったライドウ
だが、その割に、彼は酷く冷静で……
「ほう……成程? “行動不能系”の固有魔導ですか
しかし、流石は“泥臭い考え”を持つ姉弟子ですねぇ?
衣服が汚れた上に、動けません……ですが。
まさか、固有魔導がこの程度とは
正直……呆れましたよ? 」
「さっきからかな~り余裕ぶっこいてるけど
誰がそれで終わりだと言ったかな? “弟弟子君? ”
狂泥之沼:第二形状――
――“堆肥之沼ッ!!! ”」
直後、ライドウに纏わり付き始めた“泥”は
急激に彼の魔導力を吸収し始めた。
「何ッ?! 固有魔導に二形態目があるだとッ?!
くっ……逃れられんッ!!
ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっッ!! ……」
「あら~っ?
さっきまでの余裕は何処にいったの? 弟弟子君。
さて……ライドウ。
アンタはそのままゆっくりと“堆肥”に成るんだ
そして……せめてこの世界の木々達に
栄養を与える存在として役に立てば良い。
……それがお前の、お前のせいで命を落とした師匠と
ヴィオレッタへの、せめてもの餞に成るんだッ!!! ――」
そう言い放つや否や
更に魔導力を込めたエリシア……
「うぐっ!! エリシア……貴様ッ!!
只の攻撃術師風情のオマエが
どうやって此処までの力をッ?! ……ぐあぁッ!! 」
「……死ぬ前に教えてあげる。
師匠とヴィオレッタを失った私に
たった一つだけ残った物の事を……
……あれは、師匠から進められて学んだ“薬草学の知識”だった
ある時期の記憶がすっぽりと抜け落ちた
私の手元に残った一冊の本と
其処へ山程書き込まれて居た薬草学の知識。
私は、その日から自分の中の何かを埋める様に
必死に薬草学の勉強を続けた……そうして過ごす日々の中で
必死に努力し続けた結果がその固有魔導。
良く、噛みしめるんだね……」
「ふっ……成程……そう言う……事だったか
私の防御魔導を……全て消滅させる程の力を得た理由
やっと理解……出来ましたよ……」
「分かってよかったね……けど、昔話は此処まで。
そろそろお別れだよ。
“弟弟子”――」
静かにそう言うと更に力を込めたエリシア
だが……
◆◆◆
「ふっ……フッ、ハハハハハッ!!!
甘過ぎるっ! ……流石は姉弟子様ッ!
まるで何も見えていないッ!! ……滑稽だッ!!! 」
「……元からだろうけど、気でも狂った? 」
「いえいえ……狂ってなどいませんよ?
それより、姉弟子様の固有魔導に
“ニ形態目”がある事には驚きました……ですが。
此方はそれを超える“驚愕”を持っています
こうなれば、是非ともプレゼントすべきでしょう?
私が持つ固有魔導の内の――
“二つ目”
――“犠牲交換”と言う名の、ね」
===第九八話・終===




