第九十八話「喜怒哀楽の何れでも無い“壊”と言う感情……中編」
《――話を遮る様に、突如として響き渡った爆発音の原因
それは……政令国家本国の間近へと迫る魔王軍が
先遣隊として差し向けた“悪鬼共”に依る物で――》
………
……
…
「てっ……撤退だ!! ……早く逃げ……ぐぁぁぁぁっ!! 」
《――政令国家を防衛する兵達だけでは無く
この世界に生きる全ての者達に取って
対峙する事自体が始めてであろう“悪鬼”と言う悍ましい化け物。
言うまでも無く、有効な対処方法を知る由も無い者達では
この異質な存在を打ち倒す事は難しく――》
………
……
…
「何だッ!? ぶ、武器がッ?! ……うわぁぁぁぁッ!!! ……」
《――悪鬼には物理攻撃の殆どを無効化する能力が存在する事
そして……一部の例外を除き
触れた物の殆どを腐食させる能力を持つ事。
……この後、政令国家の兵達がその能力を理解し
情報として共有し始めた時には、既に悪鬼に依る多数の犠牲者で溢れていた。
にも関わらず、未だ敵の侵入を防げていたのは――
“魔導兵達の展開する防衛魔導に辛うじて効果が見られた為”
――と言う、決して大手を振って喜ぶ事の出来ない
状況に依る結果でしか無かった。
だがその一方で……必死の抵抗に依り、少しずつでは有るが
悪鬼を打ち倒し、その数を着実に減らす事には成功していた魔導兵達。
だが……三割程を討伐した頃
突如として動きを止めた悪鬼共は次々とその場に屈み始め
この異変に魔導兵達が警戒を強めた直後――》
「な、何だあれはッ?! ――」
《――恐れ慄き思わずそう声を上げた一人の魔導兵
彼の視線の先にあった光景は――》
………
……
…
「ギギッ! ……オレタチ……強ク成る……もっと……喰ウ……」
《――既に息絶えた同胞を喰らい
更に自らの肉体を強化し続けて居た悪鬼の姿であった。
言うまでも無く余りにも悍ましいこの光景を目の当たりにした魔導兵達は
皆怯えていた……だが、魔導兵長だけはこれを好機と捉え
尚も同胞の死骸を喰い漁る悪鬼共に向け
ありったけの魔導攻撃を放つ様、隊員達に指示を出した――》
「食事中の奴を狙えッ!! 放てェェェッ!!! ――」
《――直後
激しい攻撃に依り土煙の立ち昇る中
魔導兵長は攻撃の停止を指示した……だが
土煙の収まったその場所に微かに見えたその光景に
魔導兵長は絶望した――》
………
……
…
「何だ……と……そんなバカな……」
《――呆然と立ち尽くす魔導兵長の眼前では
同胞の死骸を盾に、尚も“食事”を止めず
傷を受けた同胞すら共食いの対象とばかりに
“食事”を続けていた悪鬼共の姿があった。
そして……この上更に不運は続いた。
……食事を経た悪鬼共は
先程よりも明らかに“成長”し、見上げなければならない程に巨大化し
この直後、慌てて攻撃を指示した魔導兵長の判断虚しく
魔導隊らの攻撃“程度”では傷一つ付ける事すら叶わなく成っていた。
その上……彼らの攻撃を避けもせず防衛魔導に近づき拳を振り上げると
防衛魔導の“壁”に対し全力の攻撃を放った――》
「なっ?! ……ガ、防衛術師隊ッ!
状況報告だッ!! ……」
「い、今までの比では有りませんッ!! ……至急増援を要求しますッ! 」
《――凄まじい衝撃と共に
政令国家中に響き渡る程の“爆発音”を生み出した悪鬼共の攻撃
一方、辛うじてその能力を打ち破られず居た防衛魔導の“壁”……だが。
この後も更に同胞の死骸を喰らい続け
その度に少しずつ強靭に成長し……その度に“壁”に対する衝撃は増していた。
最早防衛魔導が破られるのも時間の問題かと思われた頃――》
………
……
…
「……魔王様、高みの見物と致しましょう」
「フッ……良かろう
余りにも児戯が過ぎる……我が配下が
斯様に脆弱な者共に敗北し続けていたとはな。
些か不愉快だ……」
「お察し致します……では魔王様、此方へ」
「フッ……趣味の悪い“椅子”だな」
「ええ、急拵えでございますので何卒ご容赦を……」
《――直後
ライドウの手に依り用意された巨体悪鬼数体の支える“神輿”
これに鎮座すると、文字通り“高みの見物”を決め込んだ魔王
その一方で――》
………
……
…
「此方、南門防衛隊!
詳細不明な化け物の大群により激しい攻撃を受けています!
奴らには物理攻撃が意味を為さず! ……ぐっ!
至急、増援を要請しますッ!! ……」
………
……
…
「此方、北門防衛隊! ……我が隊の者達も初めて見る魔物です!
敵の触れた箇所は恐ろしい勢いで腐食し、接近戦は自殺行為に等しい模様!
……我が方面隊にも至急増援を!! 」
………
……
…
「此方東門防衛隊! ……此方も謎の化け物の猛攻を受けており
防衛魔導を展開する魔導兵達に疲れの色が見え始めております!!
……このまま敵の猛攻を受け続ければ防衛魔導を破られ
領土への侵入と言う最悪の結果を許してしまいかねません!!
……我が隊にも至急増援を求めます!
尚……奴らはそれが“死骸”であっても共食いを行い
更に強力な個体を生み出す事が出来る模様ッ!
もう持ちませんッ! ……急ぎ増援をッ!!! 」
………
……
…
《――この瞬間、西門以外の三隊からほぼ同時に寄せられ
その何れもが逼迫した状況を伝える物であった事に
頭を抱えていたラウド大統領。
……通信の内容を鑑みれば、唯でさえ心許無い防衛戦力の内
物理攻撃主体のオーク族、及びドワーフ族の二種族は戦力として不適当であり
獣人族も極一部の者達を除き、近接物理攻撃主体の者達が多数を占めている。
その上……残るエルフ、ダークエルフ両種族に至っては
居住地の特性を生かした“挟撃”を狙おうにも
更に後方で待機している魔族軍からの猛攻を受ける可能性が高く
それを知ってか、魔族側も敢えて両種族居住区への攻撃はせず
彼らを居住区に“封じ込め”て居た。
……だが、これほどまでの絶望的な状況下に在り
尚も主人公に助けを求める事への難色を示していたラウド大統領
一方、そんな彼に業を煮やし――》
………
……
…
「ラウドさん……これは僕のワガママだと思うし
何かに付けて主人公に頼り過ぎだって怒るラウドさんの意見も分かるんだ。
だけど……彼と一緒に旅をしているメルちゃんとか
マリーンさんのお母さん達がこの国には住んでるんだよ?
今、助けを求めずにもしこの国が滅びでもしたら
メルちゃんやマリーンさんの悲しみと
そんな二人を見た主人公の優しい心がどれだけ傷つくと思うの?
……これは多分卑怯な意見だし詭弁だとも分かってる。
だから……主人公への魔導通信が繋がらないって言うこの状況に
一番適正のある“言い出しっぺ”の僕が、走ってこの状況を伝えるつもりさ。
それに“例の地下通路”は確か一番遠い所でバルン村に通じてた筈だし
彼処からなら色んな所に行ける。
そもそも、僕の足なら本気を出せば
バルン村までは二時間も掛からない筈……だから
まだ魔族軍本隊の来てない今の内に早く決断して!
もし主人公に対して謝らなきゃいけない状況に成ったとしても
僕が全責任を取るから……早くッ! 」
《――そう必死に訴えたのは、リオスであった。
直後……続々と賛同した各種族の長達と大臣達は
ラウド大統領に決を採る様要求し始め……暫くの後
ラウド大統領は漸くこれを承諾し――》
………
……
…
「……リオス殿の言う通りかもしれん。
わしは……主人公殿の気持ちを
本当の意味で理解しておらなんだのかもしれん。
じゃが……リオス殿、全ての責任はこの国の長であるわしにのみ有る
御主が背負うべき事では無いと知って欲しい。
皆も……要らぬ気ばかり使わせてしまってすまなかった
全ての責任はわしが取る故、リオス殿には主人公殿への救援要請を頼みたい」
「うん! ……任せてッ! 」
《――返事を返すや否や直ぐに走り去ったリオス
その後ろ姿を確認しつつ、ラウド大統領は――》
「……この逼迫した状況下じゃ
先ずは敵の猛攻凄まじい三方位の各門に防衛協力を行う必要がある。
……クレイン殿ミラ殿は北門の防衛協力、オルガ殿は東門の防衛協力を
ガーベラ殿にはギルドに設けられた治療所で負傷者の治療を頼みたい。
わしは南門の防衛へ向かう、エリシア殿には
オルガ殿ガーベラ殿リオス殿を東門付近へと送り届けた後
そのまま東門の防衛に協力して貰いたい。
物理職であるドワーフ、オーク、獣人族の皆には
逃げ遅れた国民の避難誘導などを任せる。
では、作戦開始じゃッ!! ――」
………
……
…
「……おぉ、増援が来たぞ! お前達、後少しだ!! ……踏ん張れッ!!
クレイン様、ミラ様! ……あの化け物共に対しては炎系の魔導など
完全に焼失させる事の出来る物で攻撃しなければ
共食いを始め、奴らは逆に身体を強化する事が! ……」
《――北門到着直後
北門防衛隊の魔導兵長は二人に対し必死にそう説明していた……だが。
クレインはそんな魔導兵長の肩を優しく掴み
彼の目を真っ直ぐに見つめると――》
「……良くぞ此処まで耐えてくれた。
奴らの処理は私達に任せると良い……だが
私達の詠唱が終わるまでの間で構わない、防衛魔導の維持を頼んだぞ。
ミラ、行くぞ! ――」
「ええ! 火炎系の“極大魔導”は大の得意よッ! ――」
《――見るからに疲弊した彼らを少しでも勇気付ける為か
この逼迫した状況下に在っても余裕を見せたクレイン。
敢えて詠唱の長いこの技を用い
敵を一気に殲滅せんとする二人の姿に
疲弊し、希望を失いかけていた魔導兵達にも
僅かながら安堵の表情が見え始めていた。
一方……同時刻
南門へと転移していたラウド大統領は
凄まじい数の悪鬼を目の当たりにしていた――》
………
……
…
「何と言う事じゃ……」
《――思わず口を衝いて出たラウド大統領の弱音とも取れる一言。
一方、そんな彼に気付くと彼の元へと走り寄った南門防衛隊の魔導兵長は――》
「ラウド大統領ッ! ……あの者達には決してお触れに成らない様ッ!
どうやら、腐食するだけでは無く
触れれば此方もあの化け物と同一化する様なのです!
完全に同じとは言えませんが……兎に角
既に部下が多数取り込まれ、あの様に……」
《――そう言って魔導兵長が指し示した先には
……腐食し、今にも崩れ落ちそうな魔導具を握ったまま
悪鬼の死骸を喰らう元魔導兵の姿があった――》
「何と恐ろしい……じゃが、恐れているだけでは埒が明かん
彼奴らの弱点は判明しておるのじゃろうな? 」
「え……ええ、火属性の魔導を用いれば焼失する様ですが
我が隊の魔導残量ではこれ以上の攻撃が……」
《――そう言った魔導兵長の顔色は相当に悪く
軽度とは言え“魔導欠乏症”の症状が見え始めていた。
そんな中、ラウド大統領は魔導兵長に対し――》
「……わしが炎系の魔導を苦手としておる事は皆も知っておるかもしれん
じゃが、実はわしには唯一得意な火炎の魔導が有るのじゃよ。
……とは言え、相当に危険な技じゃから
発動中は皆出来る限り、わしから離れておくのじゃよ? ……」
《――直後
魔導兵長の指示に依り兵の多くが下がった事を確認すると
魔導の大杖に力を込め、詠唱を始めたラウド大統領。
彼が発動させようとしていた魔導技、それは――
“火炎竜召喚術”
――と呼ばれる、最高位の火炎魔導であった。
彼が唯一得意と謳った“火炎竜召喚術”
絶大な攻撃力を持ったこの技には、一つだけ大きな欠点があった。
その唯一の欠点とは――
“発動時、術者が途轍も無い熱を帯びる事”
――この後
ラウド大統領の体温は次第に上昇し
周囲との温度差に依って陽炎が見え始めており
その呼吸すらも次第に荒く成り始めていた
次の瞬間――》
………
……
…
「――火炎竜召喚ッッ!
敵を焼き払うのじゃぁぁぁッッ!!! ――」
《――直後
彼の杖から飛び出すや否や
赤黒く燃え盛る火炎の躰を振り乱し
周囲に凄まじい熱量を放出し続けた“火炎竜”は
悪鬼の集団を、その死骸ごと焼き払い始め……
……その圧倒的な火力に悪鬼共はその殆どが消失
この圧倒的な攻撃力に魔導兵達は皆安堵の表情を浮かべていた。
だが……同時に、術者であるラウド大統領の呼吸は次第に弱り
それに気がついた魔導兵長は直ぐ様彼の元へと走り寄ったが――》
「だ、大丈夫じゃ……死にはせんよ……後で……ガーベラ殿辺りに
治癒魔導を掛けて貰えば……大丈夫じゃ……から……安心するが……
……良いぞぃ……っ!
御主達は……皆、少し休んでおりなさい……」
《――そう伝えると
尚も火炎竜へと魔導力を注ぎ続けたラウド大統領
……皮膚に酷い火傷を負いながらも
まるで意に介さず、尚も悪鬼を討伐せんと
この後も、あらん限りの魔導力を注ぎ続けたラウド大統領。
だが……その一方で、彼が“治癒魔導を”と名を挙げた
ガーベラの居る東門付近では――》
………
……
…
「ぐぅっ……駄目だッ……もう……持たない……っ……」
「おいッ! 確りしろッ! ……くそッ!!
衛生兵ッ! ……この者を後退させろッ!
敵に喰わせるような事は許さんッ! ……」
《――降り注ぐ夥しいまでの攻撃
防衛魔導を展開する東門防衛隊の隊員達はこの熾烈な攻撃に耐えきれず
一人……また一人と“魔導欠乏”に陥り
その所為か、防衛魔導の強度は次第に失われ
崩壊も時間の問題と成りつつ有った中
漸く到着したエリシア・オルガ・ガーベラ・リオスの四名。
……だが、転移早々“魔導障壁”の増強を余儀無くされたオルガを筆頭に
ギルドへ臨時で設けられた治療場所に向かったガーベラは
その夥しい数の負傷者に対し
休み無く治癒魔導を施し続けなければ成らなかった。
……とは言え、彼らの到着に依って魔導兵達の士気は向上し
状況を好転させる起爆剤と成り、これまで押されていた戦況も
僅かながら改善し始めていた……だが。
そんな彼らの懸命さを嘲笑うかの様に
遠方より飛来した一発の攻撃に依り
東門の戦況は著しく悪化した――》
………
……
…
「フッ……高みの見物では無かったのか? 」
「申し訳有りません魔王様……ですが
悪鬼共が余りにもグダグダと遅いので流石に飽き飽きしてしまいまして。
少し時間を早めた様な物ですので……引き続き高みの見物と致しましょう」
《――遠方からの強力な一撃の正体
それは、ライドウの放った“対防衛魔導用”の特殊な呪具――
“楔”に依る物であった。
――直後
呪具の効果に依り、東門を守護する魔導障壁には
修復不可能なヒビが入り――》
………
……
…
「……ぐっ、不味い!
全員ッ! 退けぇぇぇっ!!! ――」
《――魔導兵長の発した撤退命令の直後
悪鬼の振り下ろした拳は魔導障壁を打ち破り
数十名の魔導兵もろとも地面へと叩きつけられた。
だが……咄嗟に彼らを守る為
魔導障壁の展開位置を変更したオルガの判断に依って
被害は最小限に抑えられた……だが。
東門を守護する魔導障壁が完全に破壊され
戦線を引き下げる為、撤退を余儀無くされたその一方で……
……間近に迫る悪鬼に一切臆する事無く
その場で魔導詠唱を始めたエリシア……だが。
彼女の詠唱する魔導は、何故か
悪鬼に有効とされる“炎系の魔導”では無く――》
………
……
…
「……雷鳴轟かせ空駆ける雷鳥よ
今その姿を此処に表わせッ!!
極大魔導――雷鳥之一撃ッッ!!! ――」
《――瞬間
彼女の放った攻撃は悪鬼に当たる事無く……その間をすり抜けて行った。
当然、この状況に慌てた魔導兵達……だが
そもそも彼女は悪鬼など狙ってすら居なかった。
彼女が本当に狙っていた相手、それは――》
………
……
…
「いやはや、久しぶりの挨拶にしては少々手荒では? ……“姉弟子”様? 」
《――遥か遠くに見える巨大な悪鬼共の支える“神輿”
その玉座に座る魔王のすぐ側でライドウはそう言った。
……彼に向け放たれた攻撃は
彼が多重展開した防衛魔導に直撃し……その全てを破壊した後
完全に消滅して居た――》
………
……
…
「ライドウ……何故お前が生きているッ?! 」
「何故って、私は死んで居ませんから……と、答えるのは少々意地悪ですね。
まぁ……“紆余曲折”有りましてね
お陰様であの頃よりも強く生まれ変わる事が出来ました――
“ヴィンセント”と同じ、いや。
――今の私は、彼よりも更に強いかも知れませんよ? 」
「……黙れッッ!!! 軽々しく師匠の名を口にするなッ!!!
お前だけは何としても私が……私が師匠の仇を討つんだッ!!
早くその気持ち悪い化け物の上から降りて来いッ!!
一対一で私と勝負しろッ! バカ“弟弟子ッ!! ”」
「やれやれ……流石姉弟子様ですね。
いつまでも泥臭い考えを捨てきれない所は
“あの時”から一つも変わっていませんね……良いでしょう。
悪鬼共で“決闘場”でも作るとしましょうか……」
《――そう言うと一度指を鳴らしたライドウ
直後、東門を襲撃していた悪鬼の群れは一斉に東門を離れ
門より少し離れたその場所に“決闘場”を形成させた。
この後……魔王に一礼し“決闘場”へ転移すると
エリシアに対し“手招き”をしてみせたライドウ。
そんな挑発とも取れる行動に――》
………
……
…
「……分かった、その場所をお前の墓場にしてやる。
私の大好きな自然を……草花を枯らしてしまう悪鬼の墓場で
お前の体が朽ち果てる様を師匠とヴィオレッタへの手向けにしてやるッ!!!
けど……その前に。
伝達の魔導、魔導拡声ッッ! ――
“……魔導師系のハンター諸君!
国難の今、君達の力がどうしても必要!
この状況を防ぎ切った者達には、ギルド長の権限をフルに活用して
笑いが止まらない位の賞金……だけじゃ無く、私の全財産もつけてあげる!
富と名声を一挙両得するチャンスだよ!
分かったら、東門の防衛に協力しろぃ!!! ”
――これで良し。
さてと……ッ! 」
《――直後
“決闘場”へと転移したエリシア――》
………
……
…
「ほぉ~……“正義の味方”気取りですか。
お美しいお考えでですねぇ姉弟子様?
しかし……どう見てもですが
姉弟子様と私とでは相当に実力差が激しい様です。
本来、今日は後二回使えるのですが……
……“時之狭間”は使わず居て差し上げあげましょう。
勿論、姉弟子様はご自由に……全力で掛かって来て頂いて構いません
それと、一つだけ忠告を……悪鬼に触れると腐食します。
もしも私を恐れて後ろに下がり過ぎると
悪鬼程度に殺られてしまいますのでそれだけはご注意下さいね?
宜しいですか? ……姉弟子様? 」
「煩い……御託は良いから掛かって来い!!
お前だけは……絶対に生かしておかないッ! ――」
《――言うや否や懐から丸薬を取り出すとそれを数粒飲み込んだエリシア。
直後、彼女の魔導力は凄まじく上昇し――》
………
……
…
「……おやおや、弟弟子に対してそんな“物”を使うとは
何とも卑怯な姉弟子様ですねぇ? ……まぁ。
どう足掻いても無駄なのですがね? 」
《――ニヤリと笑いながらそう挑発したライドウ。
だが――》
「ライドウ……お前は私の固有魔導を見た事すら無かったよね?
出し惜しみして勝てるとも思ってないし……早速見せてあげる。
固有魔導“狂泥之沼ッ!!! ” ――」
《――瞬間
エリシアの放った固有魔導の効果範囲から逃れられず
彼女の術中に嵌ったライドウ。
だが――》
………
……
…
「……ほう、成程“行動不能系”の固有魔導ですか
しかし“流石は”泥臭い考えを持つ姉弟子ですねぇ?
衣服が汚れた上に動けません……ですが、まさか固有魔導がこの程度とは。
正直……呆れましたよ? 」
「……さっきからかな~り余裕ぶっこいてるけど
誰がそれで終わりだと言ったかな? “弟弟子君? ”
狂泥之沼第二形状――
――“堆肥之沼ッ!!! ”」
《――直後
ライドウに纏わり付き始めた“泥”は
急激に彼の魔導力を吸収し始めた――》
………
……
…
「……何ッ?!
固有魔導に……二形態目があるだとッ?!
くっ……逃れられんッ!!
ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっッ!! ……」
「あら~? ……さっきまでの余裕は何処にいったの? 弟弟子君。
……ライドウ、アンタはそのままゆっくりと“堆肥”に成るんだ
そして、せめてこの世界の木々に栄養を与える存在として役に立てば良い。
それがお前の……お前の所為で命を落とした師匠と
ヴィオレッタへの……せめてもの餞に成るんだッ!!! ――」
《――そう言い放つや否や
更に魔導力を込めたエリシア――》
………
……
…
「うぐっ!! エリシア……貴様ッ!!
只の攻撃術師風情のオマエが、どうやって此処までの力をッ?!
……ぐぁあッ!! 」
「……良いよ? 死ぬ前に教えてあげる。
師匠とヴィオレッタを失った私にたった一つだけ残った物の事――
――あれは、師匠から進められて学んだ“薬草学の知識”だった
ある時期の記憶がすっぽりと抜け落ちた私の手元に残った一冊の本。
其処に山程書き込まれてた薬草学の知識……私は、その日から
自分の中の何かを埋める様に必死に薬草学の勉強を続けた。
……そうして過ごす日々の中で
必死に努力し続けた結果がその固有魔導。
良く、噛みしめるんだね……」
「……ふっ、成程……そう言う事だったか
私の防御魔導を全て消滅させる程の力を得た理由がやっと理解出来た……」
「分かってよかったね……けど、昔話は此処まで。
そろそろお別れだよ“弟弟子”――」
《――静かにそう言うと、更に力を込めたエリシア
だが――》
………
……
…
「ふっ……フッハハハハハッ!!!
甘過ぎるっ! 流石姉弟子様ッ! ……まるで何も見えていないッ!! 」
「元からだろうけど……気でも狂った? 」
「いえいえ……狂ってなどいませんよ?
それより、姉弟子様の固有魔導にニ形態目がある事には驚きました。
……ですが、此方はそれを超える驚愕を持っていますから
こうなれば是非ともプレゼントするべきでしょう?
私が持つ固有魔導の内の“二つ目”――
――“犠牲交換”と言う名の、ね」
===第九十八話・終===




