第九六話「嫌な記憶は楽しい記憶で上書き出来る……後編」
引き続き
気力を振り絞り女性陣とのダンスに挑んで居た主人公
そんな、満身創痍な彼の元へと続いて現れたのは……
「主人公お兄ちゃん……わ、私と踊ってくださいっ! 」
……酷く緊張した様子のサナであった。
彼女は、ドレスの裾を力強く握りつつ
主人公に対し叫ぶ様にそう願い出た……そして。
……そんなサナの懸命な姿に心を打たれた主人公は
彼の思う、精一杯“格好良い姿”を演じる事にした様で……
「ええ、勿論……俺と踊って貰えますか? サナ姫」
(う゛ッ……勢いでやったけど
“王子様キャラ”とか俺に合わな過ぎるッ!!
でも、サナちゃんはこう言う事に憧れを持ってる感じがするし
正直凄く恥ずかしいけど………つ、貫き通すッ!! )
などと自問自答しつつ
内心|身悶えして居た主人公であったが……
「は……はいっ! 」
サナは目を輝かせて喜び
大満足で主人公とのダンスを終えたのだった。
そして……
◆◆◆
「お久し振りです主人公様……暫くお会いしない間に
一段と男らしく成られましたね? 」
と、主人公を冷静に褒めてみせたタニア
一方、主人公は……
「正直、一杯一杯ですけどね……それより
タニアさんはお変わりないですか? 嫌な事とか
ディーンとかギュンターさんも問題なさそうですか?
……って、祝いの席なのに
こんな業務連絡みたいな会話ばかりじゃ
楽しくないですよね……」
「……いいえ?
大層お疲れの様子なのに私達の事にまで気を掛けるお姿
より一層、主人公様が素敵な男性だと感じましたわ。
それとご安心下さい……近況報告も兼ねてのダンスです。
主人公様がご心配の件に関しましても……私を含め
皆“天職”を手に入れたかの様に“活き活き”としております。
……そもそも、私達の持つ恐ろしい技術が
今は人を活かす為
その術に成って居る事が何よりも嬉しいのです。
ただ……ギュンター様に於かれましては
少々楽しみ方が“恐ろしい”ですけれど……」
「そ、それはもしかして海軍兵達に対してって事じゃ……いや
敢えて深くは聞かない事にしておきます」
「ふふっ♪ ……その方が良いですわね♪ 」
暫くの後、タニアとのダンスも終わり
残る相手がメル・マリア・マリーン・マグノリアの四名と成った頃
主人公は“息も絶え絶え”と言う言葉が適切な程に
疲労困憊と成って居て……
◆◆◆
「主人公さ~ん! ……物凄い人気ですね~!
待ちましたよ~……って、大丈夫ですか? 顔、青いですよ? 」
「あ、ああ! 心配ないッ!
俺は最後までやり切るって決めたんだ!
さぁ、何処からでも“掛かって来い”マリアッ! 」
疲労困憊のせいか
色々と“間違えている”様子の主人公だったが
マリアはこれに怒るでも無く……
「うわ~……って言うか、余り無理しちゃ駄目ですよ?
普通の男性でもこの人数はキツいと思いますし
私とは踊ってる雰囲気だけ出して、少し休憩しても良いですよ? 」
と、優しい言葉を掛けたマリア
だが、そんなマリアに対し……
「いいや……マリア、今日の君はとても綺麗だよ
そのドレスも……君の為だけにあるみたいだ。
何が言いたいのか自分でも良く分からない程頭が回らないから
変な表現に成ってたらごめん……だけど、分かって欲しい。
幾ら疲れて居たとしても
そんな素敵なマリアと“雑に踊る”なんて嫌だ
だから、そのお願いは聞けない……俺は、強くて優しくて
冗談の好きなマリアの事が心から大切なんだ。
……これからも沢山迷惑を掛けてしまうかも知れないけど
変わらず傍に居て欲しい……」
そう突如として矢継ぎ早に主人公の口から飛び出た発言
その全てが、普段の彼からは想像もつかない程に
“イケメン”だった事……そして、この“妙な”主人公の雰囲気には
流石のマリアも照れ始めて居て……
「なっ……い、いやその……あ、有難うございます!
こちらこそ末永く宜しく爆発……じゃなくて!
とっ、兎に角! ……よ、宜しくお願いします!! 」
踊り終わるや否や
顔を真っ赤にしたマリアはそそくさと立ち去った。
一方……そんなマリアを横目に見つめ
首を傾げつつも次に踊り始めたマリーンは……
◆◆◆
「……何だか珍しい物を見ちゃったんだけど
主人公……マリアちゃんに何したの? 」
「……此処の所ずっと気を使わせてばかりだったから
日頃の感謝を伝えただけなんだけど……怒らせたのかな?
後で謝るべきかも知れないな……」
「何言ったのか気になるけど、そんな事より私のドレスはどう?
に、似合ってるかしら? ……」
「ああ、凄く良く似合ってる! ……マリーンの水色に輝く綺麗な髪と
宝石の様な緑の瞳を際立たせるそのドレスは、宛ら
美しい絵画を引き立てる額縁の様だと思う。
……人魚姫の様なマリーンが
俺と踊ってくれて居る事は幸運以外の何物でも無いよ。
沢山苦労を掛けてしまう俺だけど
これからも変わらず一緒に居て欲しい」
再び、全くと言って良い程にキャラでは無い
“イケメン発言”を繰り出した主人公。
……例に依ってマリーンも見る見る内に照れ始め
少し早く切り上げる様にダンスを終えると
マリアと同じくそそくさと主人公の元から立ち去ったのだった。
一方、続くマグノリアは一連の流れを見て居た様で……
◆◆◆
「主人公……二人に何かしたの?
二人共凄く顔を赤くして走り去っちゃったけド……もしかして
“変な所”……触ったりしちゃったのかしらネ♪ 」
「いや……日頃の御礼を言っただけだよ?
もしかして、御礼が失礼に成ってたのかな……」
「……なら、ワタシにも“御礼”を試してみて?
あと、ドレスはどうかしら♪ 」
「勿論、とても良く似合ってるよ? ……でも
君以外が着るとそのドレスは大した事無く見えるんじゃないかな?
きっと、リーア自身が輝いてるからこそ
ドレスが綺麗に見えるんだと思う。
なぁ、リーア……俺は君無しでは生きられなかった
君の存在が今の俺を生かして居るんだと心の底から思ってる。
……精霊女王に“なんて頼みを”って思うかも知れないけど
せめて、お返しが出来る迄で良いから
少しでも永く一緒に居て欲しい……」
直後
例に依ってマグノリアも“撃沈”し俯き
そそくさと立ち去り……そして
いよいよ最後に彼と踊る事になったメルは
現れるなり……
◆◆◆
「主人公さん……だ、大丈夫ですかっ?
何だかとても調子悪そうですけど……」
「ああ……ちょっと体力的には辛いけど気力で乗り切るよ
さぁ、メル……カモンベイベ~ッ! 」
と、明らかに様子のおかしい主人公に対し
何も言わず、治癒魔導を重ね掛けしたメル。
すると……
「有難うメル……メルの治癒魔導は何よりも優しいよ
メルの性格と同じで“純粋”なんだと思う。
俺は、そんな純粋さに何時も護られ
助けられ、癒やされてる……だから、俺はそのお返しに
メルを害そうとする全てから全力でメルを護り続ける。
それから……ドレス、とても良く似合ってる
メルの穢れの無い純粋さを表現したかの様な純白のドレスだ。
……こんな素敵な女性を射止める男は
他のどんな幸運も不運に見える程の幸せ者だと思う。
将来……メルがいつか誰かと幸せに成る時|迄で良い
だから、これからも一緒に居て欲しい」
こうして。
女性陣を全員“撃沈”させた主人公……だが。
何故彼は、突如として異常な程に
“女たらし”に成ってしまったのか……その原因は、全て
“神聖羊之毛”にあった。
この特殊な素材の持つ
“もう一つの力”
それが――
“穢れなき純粋な愛情を限りなく増幅させる”
――と言う、特殊な物であったからだ。
ともあれ……暫くの後
舞踏会も無事終わり、宿へと戻った一行
だったのだが……
◆◆◆
「つ、疲れた……疲れ過ぎて逆に眠れる自信が無いな
それこそいま寝たら永眠しかねないってレベルだ……
……っと、皆もお疲れ様!
明日はいよいよ出国だ! ……って、話の前に
先に皆に説明して置く事がある。
と言うのも……アリーヤさんと子供達はこの国に残り
紅さんの地域で暮らす事に成った。
とても寂しいけど、彼らの幸せを考えた結果の判断だ
けど、今回も皆に相談せずに決めてごめん」
と、頭を下げた主人公
だが、仲間達は彼を責めはせず……寧ろ
この国でのアリーヤ達の幸せな暮らしを願う声で溢れて居た。
そして……
「皆、有難う……とは言え、出国後も楽しい旅に戻るって訳じゃ無く
リーアが危惧する“魔族を見つけ出す”必要もある。
……これからも苦労は掛けると思うけど、改めて宜しくなッ!
って事で……おやすみッ! 」
この後
自室へと戻るや否やベッドに倒れ込み、そのまま眠りについた主人公。
そして……翌日。
いよいよ旅立ちの日と成った朝
朝食後、一行は天照から呼び出され……
◆◆◆
「いよいよ今日ですか……寂しくなりますね」
主人公らの出国を
そう寂しげに言った天照……
「俺もです……ですが“祝い事”に対する俺の嫌な記憶は
天照様や皆様のお陰で良い記憶へと上書き出来ました
本当に有難うございます……それから、この本もお返ししておきます。
……落ち着いたらまた必ずこの国に来ます。
勿論、この国と皆さんを信じてますが
この国が平和を維持出来ているかをちゃんと確認したいですし
何より、子供達はこの国に残る訳ですから
会いに来なかったら“愛が無い”……って思われそうですし
それだけはなんとしても避けたい“誤解”ですから! 」
まだ少し疲れの残る表情でそう言った主人公
そんな主人公に対し、天照は……
「本来ならば後数日は日程を遅らせた方が良いのではと思います
主人公さんの“状態”を見れば
大人数での海を超えた超長距離転移には
少々負担が大き過ぎる様に思いますし……ですから
少し到着は遅く成ってしまいますが
皆様を“国賓待遇”でお送りする事をお許し頂けませんか? 」
「こ、国賓待遇……ですか? 」
「ええ……我が国が誇る造船技術で作り上げた
国賓専用の客船を使い、皆様をお送りさせて頂きたいのです。
……転移での帰還よりは時間が掛かるかも知れませんが
その間で溜まった疲れも癒せるかと
御荷物も沢山有る様ですし……どうでしょう? 」
「正直、凄く有り難いのは確かですけど
国賓専用の客船って、本当に俺達が乗っても良いんですか? 」
「何を仰るかと思えば……主人公さん?
皆様はもうとっくに“本当の意味”での国賓ですよ?
貴方達が乗れぬ船であれば他の誰も乗せる事が出来ません」
「有難うございます……確かにちょっと疲れは溜まってますし
お言葉に甘えてのんびり帰るとします! 」
「ええ、それが良いでしょう……では数時間後
東地域の港へお越しください
お荷物も運び込ませておきますから」
「はいッ! ……」
数時間後
旅支度を済ませた一行は東地域の港へと転移した。
だが、其処に待って居たのは……
◆◆◆
「なッ?! ……」
到着直後、驚愕する事と成った一行。
それもその筈……天照の用意した国賓専用の船は
移動船の五倍は有ろうかと言う船体を有し
贅の限りを尽くした
絢爛豪華な装飾が施されて居た。
宛ら“豪華客船”とでも呼ぶべき巨大船
そんな船を前に“固まって居た”一行に対し……
「その様に驚いて頂けると
私と致しましても用意した甲斐が有りました。
……下船後の事を考え、荷馬車と
御者も乗船しておりますから、遠慮無くお使いくださいね」
主人公らの様子を確認し
少し微笑みつつそう言った天照……一方
天照の他にも各地域の長達や
テル、サナらに至るまでが一行の見送りに駆けつけており……
「主人公兄ぃ! ……おいら、大きくなったら
絶対に兄ちゃんみたいな立派な魔導師になるんだ!
だから……おいらが魔導師に成ったら
兄ちゃんにはおいらの師匠に成って欲しいんだ! 」
この瞬間
主人公に対しそう宣言したテル。
そんな嬉しい“宣言”に……
「ああ! ……まぁ、とは言え
俺が“師匠”って言われる程出来た人間かは問題だけど
兎に角……君が世界トップクラスの魔導師に成れる様
大切な一番弟子として育てる事を約束するよ。
だから、その“予約”って言うと変かもだけど……」
そう言うと
主人公は懐から一枚の金貨を取り出し
魔導でそれを真っ二つに切断した……そして。
その片割れをテルに手渡すと……
「これが“一番弟子の証”だと思ってくれ。
もし万が一魔導師に成れなかったとしても
君が俺の弟子で有る事に変わりは無いし
俺からの紹介だって言えば、ディーンやギュンターさんに
物理職としての稽古をつけて貰える筈だ。
もし万が一にも断られたらマリアに弟子入りってのも手だぞ?
彼女は“マリアーバリアン”だからね! 」
「構いませんけど……語呂が悪いっ!! 」
すかさずそう言ったマリアに
思わず吹き出す者達も多数居た……だが、テルだけは
主人公の優しさに涙を流し……
「おいら……絶対に主人公兄ちゃんみたいな立派な人間に成るっ!
けど、離れるのは寂しいから……早く帰ってきておくれよ……」
「ああ、約束する……必ずまたこの国に帰って来るよ」
直後、固い握手を交わした二人
後に彼が主人公の一番弟子と成り
立派な魔導師と成れるか否かは……まだ、分からない。
だが、そんな中……テルの妹サナは、主人公に対し
緊張した様子である贈り物を手渡した……
「あ、あの……これっ! ……私の……手作りですっ!! 」
彼女が緊張した様子で主人公に手渡したのは
“お守り”と刺繍のされた小さな袋で……
「……驚いた。
俺の“昔居た”国にもこれによく似た物が有ったんだよ?
これは、サナちゃんが思いついたの? 」
「うん、中に魔導石の原石が入ってるの。
海賊さん達の所に居た時――
“お兄ちゃんと私を助けて下さい”
――って毎日そのお石にお祈りしてたら
主人公さん達に助けて貰えたの……だから
それは、凄く効果のあるお守りだと思うの……それで!
主人公さん達が無事に故郷に帰った後
また、サナ達の所にも帰って来てくれる様に毎日祈ったから!
だから! ……」
目に涙を溜め、そう必死で訴えるサナに対し
主人公は……
「ああ……必ず帰ってくるよ。
サナちゃんが毎日真剣に祈ってくれたこのお守りは
世界で一番強い守護の力が宿ってると思うから
俺もこのお守りに毎日サナちゃんやテル君の幸せを祈るよ。
って、おかしいな……何だか涙が出て来ちゃった……」
自然と涙が溢れた主人公。
そして、そんな主人公につられるかの様に
皆がしんみりとし始めて居た頃……
「……ガルド様のお言葉をお借りしますが
何も“永久の別れ”と成る訳では有りませんよ? 」
彼らに対しそう声を掛けつつ
何処からとも無く現れたのはギュンターで……
「正直、私めも寂しく感じております……ですが
何れ日之本皇国と政令国家が
友好国と成る日も訪れるでしょう。
そして、その暁には……私めやディーン様が
両国の架け橋と成る事をお約束致します。
そもそも、いざと成れば“訓練の一環”として
政令国家までを“訓練ルート”と致しますのでご安心下さいませ」
この瞬間
僅かに不敵な笑みを浮かべつつ
そう言ったギュンターに……
「そ、それって完全な“職権乱用”ではッ?!
……けど、凄く嬉しいです!
暫くはお別れですけど……ギュンターさんもお元気で! 」
「ええ、皆様もお変わり無い様……それと
ディーン様とタニア様からお手紙と言付けがございます。
まず、ディーン様からのお手紙でございますが――
“旅立ちの日だと言うのに見送りにも行けずすまない
本来ならば外せぬ用と言う訳では無いのだが
皆の顔を見れば寂しさを感じ
教師としての役目を投げ出してしまいかねない
故に、書面での別れとさせて貰いたい。
さて……皆の事だ、心配は無いと思うが
それでも万が一にも怪我の無い様、安全な船旅を祈っている”
――との事でございます」
「嬉しい事書いてくれるじゃないか、ディーンの奴」
主人公は含み笑いをしつつ
そう言った……
「ええ……主人公様がお喜びに成られて居た事
ディーン様には確りとお伝えしておきます。
続いて、タニア様ですが――
“ディーン様と同じ理由ですわ”
――との事でございます」
「なッ?! ……とんでも無く端折ったな~タニアさん。
と言うか、手紙書いてる時に横で見てたって事かな?
ま、まぁ! 何れにしても嬉しいです……有難うございます! 」
「お喜び頂けた様で、お伝えした甲斐がございました」
皆それぞれに別れを惜しむ中
いよいよ最後と成ったアリーヤ……彼女は
主人公に対し深々と頭を下げると……
「……お前さんは素晴らしい心根をして居る
お前さんのお陰で子供達は皆幸せな生活を送る事が出来そうだ。
これで……アタシも安心して
何時でも“お迎え”を受け入れる事が出来そうさ……」
「そんな! ……優しいお母さんがそんなに早く死んだら
皆とっても悲しむと思いますから!
此処は是非、化け物って言われる位長生きして下さい! 」
「そんな風に呼ばれちゃ困るが……有難う
アンタ達に対する感謝は生涯忘れないよ……良い旅をね! 」
「はいっ!! ……さて、そろそろ俺達は出国します。
天照様……ミカドさん、エドさん
宗次さん、紅さん……テル君、サナちゃん
ギュンターさん、アリーヤさん……暫くの別れですが
必ず、またこの国に帰って来ます。
……ギュンターさんの言う様に友好国としての関係も視野に
帰ったら真っ先に日之本皇国の事を“宣伝”しておきます。
それから……子供達の事、本当に宜しくお願いします。
彼らが生涯幸せに暮らせる国で有る様、そう居られる様
俺も今後最大限、出来る限りの協力をします。
最後になりましたけど……皆さんも本当にお元気で! 」
暫くの後、別れを済ませた一行は
国賓専用船へと乗り込む準備を始めて居た。
だが、時を同じくして
港へと襲来した巨大な影……
◆◆◆
「ド、巨龍だあぁぁッ! ……全隊! 迎撃準備ッ!!! 」
突如として港の上空に飛来した巨大な巨龍に慌てる兵士達
一方、巨龍の背には複数名の人影が見え……
「怖がらないで! ……攻撃の意思は無い!!
主人公さんは……何処ッ?! ……」
巨龍の背から
兵士たちに対しそう呼び掛けたのは“ライラ”であった。
だが、尚も警戒を緩めない兵士達に対し……
「ラ……ライラさん?!
待って! 俺の大切な仲間です! ……攻撃しないで! 」
主人公の呼び掛けに依り漸く解かれた警戒
直後、主人公の元へと降り立った“ドラゴン”は
彼が最後に会った時よりも遥かに立派に成長して居て……
◆◆◆
「お久しぶりですライラさん!! ……って
その“子”はもしかして……
……驚天動地期、無事終わったんですね!!
良かった~ッ! けどそれにしても
とんでも無く立派に成長するものなんですね……」
“ドラゴン”から降りたライラに対し
満面の笑みでそう話した主人公……だが。
そんな感動の再会に水を差す様に会話を遮った
一人の“獣人”……ライラに遅れ“ドラゴン”の背から降りた彼は
酷く慌てた様子で……
「主人公さんとやら! ……平和に話してる場合じゃない!
兎に角、俺の話を聞いてくれ!! 」
「え、ええ……貴方は? 」
「……俺の名前はブランガだ、リオスって名前の“兄弟”から
“最期の願い”を伝えて欲しいと頼まれ
この姉ちゃんに頼んで急いで此処まで飛んで来たんだ! ……」
「リオスから? ……って、今何て?
最期の願いだと?! ……リオスは何処に居る!? 」
「彼は……死んだよ……」
「リオスが……死んだ?
そんなバカな!!! 悪い冗談なら止めてくれ! 」
「……冗談を言いに命掛けでこんな遠い所まで来るかよッ!
それよりも、政令国家って所が大変だと伝える様頼まれたんだ!
なんでも、魔族共が押し寄せて……」
「ま、魔族ッ?! ……一体何が有った?!
現在の戦況は!? 皆は?! 敵の総数はッ!? 」
「……そ、其処までは分からねぇ!!
俺に伝えるとすぐに……逝っちまったんだ……」
「そうか……伝えてくれて有難うブランガさん。
……天照様、残念ですが船でのんびりは帰れません
急いで戻らないと……そう言う事だ。
皆、早く掴まってくれ……行くぞ。
転移の魔導、政令国……」
転移を発動させ掛けていた主人公
だが、天照は慌ててこれを制止し……
「お待ち下さい! ……逸る気持ちは理解しますが
先ず対岸へ飛び、その後で目的地へ飛ばなければ
転移に失敗してしまい……良くて海の真ん中、悪ければ……」
「忘れてました……ご忠告感謝しますッ!
兎に角……歯痒いが先ずは対岸に飛ぶ!
皆、行くぞッ!
転移魔導、対岸へ! ――」
◆◆◆
逸る気持ちを落ち着けながら
天照の忠告通り対岸へと転移した主人公……だが
疲労困憊の彼に取って
“超長距離転移”は相当な負担と成ったのか、この直後
彼は酷い立ち眩みを起こし……
「ぐッ……“超長距離転移がキツい”ってこう言う事か……
……けど急がないと!!
皆、行くぞ……転移魔導ッ!!!
政令国家、東門前へ! ――」
◆◆◆
転移後
再び、強い立ち眩みに襲われて居た主人公。
本来ならば一番に彼の事を心配するの仲間達は
皆、眼前の光景に愕然として居た……
「一体……何が有ったと言うのだッ!? 」
……この瞬間、怒りとも
絶望とも言えぬ感情を顕にしたガルド
主人公は、確かに“政令国家東門前”へと転移した。
だが、其処に嘗ての門は無く……
……燃え盛る建物、瓦礫の山
大量の魔導師や兵士達の見るも無残な亡骸
激しい戦いが繰り広げられたのか
魔族と思しき死体も多数見られ……
「こんな……せ、生存者は?!
魔導通信! ――
――ラウドさん!
カイエルさん! ……エリシアさん!!
オルガ! ……クレイン!
ミラさん! ……ガーベラさん!
ガンダルフ! ……ゴードンさん! ……マリーナさんッ!
メアリさんッ!! ……ミリアさんッッ!!
……嘘だろ?
嘘だよな? ……誰も反応……無いとか……」
――本来
魔導通信は“発信側”に魔導適性があれば
魔導適性の無い相手にも全く問題無く繋がる。
だが、この瞬間……誰一人として
俺の通信に応えた人は居なかった。
そして――
「あ、あれっ……主人公さんっ……あれっ……
……いやぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!! 」
ある場所を指差し悲鳴を上げ、膝から崩れ落ちたメル
彼女の指差した場所を見た瞬間、俺は――
◆◆◆
「ミ、ミリア……さん? 」
===第九六話・終===




