第九十六話「嫌な記憶は楽しい記憶で上書き出来る……後編」
《――引き続き気力を振り絞り女性陣とのダンスに挑んで居た主人公
そんな、満身創痍な彼の元へと続いて現れたのは――》
………
……
…
「主人公お兄ちゃん……わ、私と踊ってくださいっ! 」
《――緊張した様子のサナであった。
彼女は……ドレスの裾を力強く握りつつ
主人公に対し叫ぶ様にそう願い出た……そして。
……そんなサナの懸命な姿に心を打たれた主人公は
彼の思う、精一杯“格好良い姿”を演じる事にした様で――》
「ええ勿論……俺と踊って貰えますか? サナ姫」
(……うっ、勢いでやったけど“王子様キャラ”とか俺に合わな過ぎるッ!!
でも、サナちゃんはこう言う事に憧れを持ってる感じがするし
正直凄く恥ずかしいけど………つ、貫き通すッ!! )
《――などと自問自答しつつ
内心身悶えしていた主人公だったが――》
「は……はいっ! 」
《――サナは目を輝かせて喜び
大満足で主人公とのダンスを終えたのだった。
そして――》
………
……
…
「……お久しぶりです主人公様。
暫くお会いしない間に一段と男らしく成られましたね? 」
《――と、主人公を冷静に褒めてみせたタニア
一方、主人公は――》
「正直一杯一杯です……それより、タニアさんはお変わりないですか?
嫌な事とか……ディーンとかギュンターさんも問題なさそうですか?
……って、祝いの席なのに
こんな業務連絡みたいな会話ばかりじゃ楽しくないですよね……」
「……いいえ?
大層お疲れの様子なのに私達の事にまで気を掛けるお姿
より一層、主人公様が素敵な男性だと感じましたわ。
それとご安心下さい……近況報告も兼ねてのダンスです。
主人公様がご心配の件に関しましても……私を含め
皆“天職”を手に入れたかの様に“活き活き”としております。
そもそも、私達の持つ恐ろしい技術が
今は人を活かす為の術に成っている事が何よりも嬉しいのです。
ただ……ギュンター様に於かれましては
少々楽しみ方が“恐ろしい”ですけれど……」
「そ、それはもしかして海軍兵達に対してって事じゃ……いや。
……敢えて深くは聞かない事にしておきます」
「ふふっ♪ ……その方が良いですわね♪ 」
《――暫くの後、タニアとのダンスも終わり
残る相手がメル・マリア・マリーン・マグノリアの四名と成った頃
主人公は“息も絶え絶え”と言う言葉が適切な程に疲労困憊で――》
………
……
…
「主人公さ~ん! ……物凄い人気ですね~!
待ちましたよ~……って、大丈夫ですか? 顔、青いですよ? 」
「あ、ああ! 心配ないッ!
……俺は最後までやり切るって決めたんだ!
さぁ、何処からでも“掛かって来い”マリアッ! 」
《――疲労困憊の所為か色々と“間違えて”いる様子の主人公だが
マリアはこれに怒るでも無く――》
「……余り無理しちゃ駄目ですよ?
普通の男性でもこの人数はキツいと思いますし
私とは踊ってる雰囲気だけ出して少し休憩してもいいですよ? 」
《――と、優しい言葉を掛けたマリア。
だが、そんなマリアに対し――》
「……マリア、今日の君はとても綺麗だよ。
そのドレスも……君の為だけにあるみたいだ。
それと……幾ら疲れていたとしても
そんな素敵なマリアと“雑に踊る”なんて嫌だ……
……だからそのお願いは聞けない。
俺は、強くて優しくて冗談が好きなマリアの事が心から大切なんだ。
これからも沢山迷惑を掛けてしまうかも知れないけど
変わらず傍に居て欲しい……」
《――そう突如として矢継ぎ早に主人公の口から飛び出た発言
その全てが普段の彼からは想像もつかない程に“イケメン”だった事……
……そして、この“妙な”主人公の雰囲気には
流石のマリアも照れ始めて居て――》
「なっ……い、いやその……あ、有難うございます!
こちらこそ末永く宜しく爆発……じゃなくて!
とっ、兎に角! ……よ、宜しくお願いしますっ!! 」
《――踊り終わるや否や
顔を真っ赤にしたマリアはそそくさと立ち去った。
一方……そんなマリアを横目に見つめ
首を傾げつつも次に踊り始めたマリーンは――》
………
……
…
「……何だか珍しい物を見ちゃったんだけど
主人公……マリアちゃんに何したの? 」
「……此処の所ずっと気を使わせてばかりだったから
日頃の感謝を伝えただけなんだけど……怒らせたのかな?
……後で謝るべきかもしれないな」
「何言ったのか気になるけど……そんな事より私のドレスはどう?
……似合ってるかしら? 」
「……ああ、凄く良く似合ってるよ!
マリーンの水色に輝く綺麗な髪と
宝石の様な緑の瞳を際立たせるそのドレスは
宛ら……美しい絵画を引き立てる額縁の様だと思う。
……人魚姫の様なマリーンが
俺と踊ってくれている事は幸運以外の何物でも無いよ。
沢山苦労を掛けてしまう俺だけど、これからも変わらず一緒に居て欲しい」
《――再び
全くと言って良い程にキャラでは無い“イケメン発言”を繰り出した主人公。
……例に依ってマリーンも見る見る内に照れ始め
少し早く切り上げる様にダンスを終えると
マリアと同じくそそくさと主人公の元から立ち去ったのだった。
一方、続くマグノリアは一連の流れを見ていた様で――》
………
……
…
「主人公……二人に何かしたの?
二人共凄く顔を赤くして走り去っちゃったけド……もしかして
“変(ヘン:な所”……触ったりしちゃったのかしらネ♪ 」
「いや……日頃の御礼を言っただけだよ?
もしかして、御礼が失礼に成ってたのかな……」
「……なら、ワタシにも御礼を試してみて?
あと……ドレスはどうかしら♪ 」
「勿論、とても良く似合ってるよ……でも
君以外が着るとそのドレスは大した事無く見えるんじゃないかな?
きっと、リーア自身が輝いてるからこそドレスが綺麗に見えるんだと思う。
とても素敵なリーア……俺は、君無しでは生きられなかった
君の存在が今の俺を生かしているんだと心の底から思ってる。
……精霊女王に“なんて頼みを”って思うかも知れないけど
お返しが出来る迄で良いから少しでも永く一緒に居て欲しい」
《――直後
例に依ってマグノリアも“撃沈”し俯き
そそくさと立ち去り……そして
いよいよ最後に彼と踊る事になったメルは、現れるなり――》
………
……
…
「主人公さん……大丈夫ですか?
何だかとても調子悪そうですけど……」
「ああ……ちょっと体力的には辛いけど気力で乗り切るよ
さぁ、メル……カモンベイベ~ッ! 」
《――と、明らかに様子のおかしい主人公に対し
何も言わず、治癒魔導を重ね掛けしたメル。
すると――》
………
……
…
「有難うメル……メル、君の治癒魔導は何よりも優しいね。
君の性格と同じでとても純粋なんだと思う……俺は
そんな純粋さに何時も護られてるし、癒やされてる。
だから……俺はそのお返しに
メルを害そうとする全てから全力でメルを護り続ける。
それから……ドレス、とても良く似合ってる
メルの穢れの無い純粋さを表現したかの様な純白のドレスだ。
……こんな素敵な女性を射止める男は
他のどんな幸運も不運に見える程の幸運者だと思う。
将来……メルがいつか誰かと幸せに成る時迄で良い
だから……これからも一緒に居て欲しい」
《――こうして
女性陣を全員“撃沈”させた主人公……だが、何故彼は、突如として
異常な程に“女たらし”に成ってしまったのか。
原因は……全て“神聖羊之毛”に有った。
この特殊な素材の持つ“もう一つの力”
それが――
“穢れなき純粋な愛情を限りなく増幅させる”
――と言う、特殊な物であったからだ。
ともあれ……暫くの後、舞踏会も無事終わり宿へと戻った一行。
だが――》
………
……
…
「疲れた……疲れ過ぎて逆に眠れる自信が無いな
それこそいま寝たら永眠しかねないレベルで……っと、皆もお疲れ様!
明日はいよいよ出国だ! ……って話の前に
先に皆に説明して置く事が有る。
……アリーヤさんと子供達はこの国に残り
紅さんの地域で暮らす事に成った。
とても寂しいけど、彼らの幸せを考えた結果の判断だ……けど
今回も皆に相談せずに決めてごめん」
《――と、頭を下げた主人公。
だが、仲間達は彼を責めはせず……寧ろ
この国でのアリーヤ一家の幸せな暮らしを願う声で溢れていた。
そして――》
「皆、有難う……勿論、出国後は楽しい旅に戻るって訳じゃ無く
リーアの言う“魔族を見つけ出す”必要もある。
これからも苦労は掛けると思うけど、改めて宜しくなッ!
って事で……おやすみッ! 」
《――この後
自室へと戻るや否やベッドに倒れ込み、そのまま眠りについた主人公。
そして……翌日
いよいよ旅立ちの日と成った朝
朝食後、一行は天照から呼び出されていた――》
………
……
…
「いよいよ今日ですか……寂しくなりますね」
《――大層残念そうな様子でそう言った天照
だが、主人公は――》
「俺もです……ですが天照様
“祝い事”に対する俺の嫌な記憶は
天照様や皆さんのお陰で良い記憶へと上書き出来ました
本当に有難うございます……この本もお返ししておきます。
それから……落ち着いたらまた必ずこの国に来ます。
勿論この国と皆さんを信じてますが
この国が平和を維持出来ているかをちゃんと確認したいですし……何より
子供達もこの国に残る訳ですから、会いに来なかったら
“愛が無い”……って思われそうですし。
……それだけはなんとしても避けたい誤解ですから! 」
《――まだ少し疲れの残る表情でそう言った主人公。
そんな主人公に対し、天照は――》
「……本来ならば後数日は日程を遅らせた方が良いのではと思います。
主人公さんの“状態”を見れば大人数での海を超えた超長距離転移には
少々負担が大き過ぎる様に思いますし……
……ですから、少し到着は遅く成ってしまいますが
皆様を“国賓待遇”でお送りする事をお許し頂けませんか? 」
「こ、国賓待遇……ですか? 」
「ええ……我が国が誇る造船技術で作り上げた国賓専用の客船を使い
皆様をお送りさせて頂きたいのです。
転移での帰還よりは時間が掛かるかも知れませんが
その間で溜まった疲れも癒せるかと……御荷物も沢山有る様ですし
……どうでしょう? 」
「正直、凄く有り難いのは確かですけど……国賓専用の客船って
本当に俺達が乗っても良いんですか? 」
「何を仰るかと思えば……主人公さん?
皆様はもうとっくに“本当の意味”での国賓ですよ?
貴方達が乗れぬ船であれば他の誰も乗せる事が出来ません」
「有難うございます……確かにちょっと疲れは溜まってますし
……お言葉に甘えてのんびり帰るとします! 」
「ええ、それが良いでしょう……では数時間後
東地域の港へお越しください、お荷物も運び込ませておきますから」
「はいッ! ……」
《――数時間後
旅支度を済ませた一行は東地域の港へと転移した。
だが、其処に待っていたのは――》
………
……
…
「なっ?! ……」
《――到着直後、驚愕する事と成った一行。
それもその筈……天照の用意した国賓専用の船は
移動船の五倍は有ろうかと言う船体を有し
贅の限りを尽くした絢爛豪華な装飾が施されて居るのだ。
宛ら“豪華客船2とでも呼ぶべき巨大船
そんな船を前に“固まっている”一行に対し――》
「……その様に驚いて頂けると
私としても用意した甲斐が有りました。
それと……下船後の事を考え
荷馬車と御者も乗船しておりますから、遠慮無くお使いくださいね」
《――主人公らの様子を確認し、少し微笑みつつそう言った天照。
そんな一方……天照の他にも各地域の長達や
テル、サナらに至るまでが一行の見送りに駆けつけており――》
………
……
…
「……主人公兄ぃ!
おいら、大きくなったら絶対に兄ちゃんみたいな立派な魔導師になるんだ!
だから……おいらが魔導師に成ったら
兄ちゃんにはおいらの師匠に成って欲しいんだ! 」
《――主人公に対しそう宣言したテル。
そんな嬉しい“宣言”に――》
「ああ! ……まぁ、とは言え
俺が“師匠”って言われる程出来た人間かどうかは置いとくとして。
兎に角……君が世界トップクラスの魔導師に成れる様
大切な一番弟子として育てる事を約束するよ。
だから、その“予約”って言うと変かもだけど……」
《――そう言うと、懐から一枚の金貨を取り出し
魔導でそれを真っ二つに切断した主人公。
そしてその片割れをテルに手渡すと――》
「……これが一番弟子の証だと思ってくれ。
ただ、もし万が一魔導師に成れなかったとしても
君が俺の弟子で有る事に変わりは無いし、俺からの紹介だって言えば
ディーンやギュンターさんに物理職としての稽古をつけて貰える筈だ。
だが、もし万が一にも断られたらマリアに弟子入りってのも手だぞ?
彼女は“マリアーバリアン”だからね! 」
「語呂が悪いっ!! 」
《――すかさずそう言ったマリアに思わず吹き出す者達も多数居た。
だが、テルだけは主人公の優しさに涙を流し――》
「おいら……絶対に主人公兄ちゃんみたいな立派な人間に成るっ!
けど、離れるのは寂しいから……早く帰ってきておくれよ……」
「ああ、約束する……必ずまたこの国に帰って来るよ」
《――直後、固い握手を交わした二人
……後に彼が主人公の一番弟子と成り
立派な魔導師と成れるか否かは……まだ、分からない。
だが、そんな中……テルの妹サナは
主人公に対し、緊張した様子である贈り物を手渡した――》
………
……
…
「あ、あの……これっ! ……私の……手作りですっ!! 」
《――彼女が緊張した様子で主人公に手渡したのは
“お守り”と刺繍のされた小さな袋で――》
「……驚いた。
俺の“昔居た”国にもこれによく似た物が有ったんだよ?
これは、サナちゃんが思いついたの? 」
「うん……中に魔導石の原石が入ってるの。
海賊さん達の所に居た時――
“お兄ちゃんと私を助けて下さい”
――って毎日そのお石にお祈りしてたら、主人公さん達に助けて貰えたの。
だから、凄く効果のあるお守りだと思うの……それで!
主人公さん達が無事に故郷に帰った後
またサナ達の所にも帰って来てくれる様に毎日祈ったから!
だから! ……」
《――目に涙を溜めそう必死で訴えるサナに対し
主人公は――》
「……必ず帰ってくるよ。
サナちゃんが毎日真剣に祈ってくれたこのお守りは
世界で一番強い守護の力が宿ってると思うから
俺もこのお守りに毎日サナちゃんやテル君の幸せを祈るよ。
って、おかしいな……何だか涙が出て来ちゃった……」
《――自然と涙が溢れた主人公。
そして、そんな主人公につられるかの様に
皆がしんみりとし始めていた頃――》
「……グランガルド様のお言葉をお借りしますが
何も“永久の別れ”と成る訳では有りませんよ? 」
《――彼らに対しそう声を掛けつつ
何処からとも無く現れたのはギュンターで――》
「正直、私めも寂しく感じております……ですが
何れ日之本皇国と政令国家が友好国と成る日も訪れるでしょう。
そしてその暁には……私めやディーン様が
両国の架け橋と成る事をお約束致します。
そもそもいざと成れば“訓練の一環”として
政令国家までを“訓練ルート”と致しますのでご安心下さいませ」
《――この瞬間、僅かに不敵な笑みを浮かべつつ
そう言ったギュンターに――》
「そ、それって完全な職権乱用ではッ?!
……けど、凄く嬉しいです!
その……暫くはお別れですけど、ギュンターさんもお元気で! 」
「ええ、皆様もお変わり無い様……それと
ディーン様とタニア様からお手紙と言付けがございます。
まず、ディーン様からのお手紙でございますが――
“旅立ちの日だと言うのに見送りにも行けずすまない
本来ならば外せぬ用と言う訳では無いのだが
皆の顔を見れば寂しさを感じ、教師としての役目を投げ出してしまいかねない。
……故に、書面での別れとさせて貰いたい。
さて……皆の事だ、心配は無いと思うが
それでも万が一にも怪我の無い様、安全な船旅を祈っている”
――との事でございます」
「嬉しい事書いてくれるじゃないか、ディーンの奴」
《――主人公は含み笑いをしつつ、そう言った》
「ええ……主人公様がお喜びに成られていた事
ディーン様にお伝えしておきます。
続いてタニア様ですが――
“ディーン様と同じ理由ですわ”
――との事でございます」
「なっ?! ……とんでも無く端折ったな~タニアさん。
と言うか、手紙書いてる時に横で見てたって事かな?
ま、まぁ! 何れにしても嬉しいです……有難うございます! 」
「お喜び頂けた様で、お伝えした甲斐がございました」
《――皆それぞれに別れを惜しむ中
いよいよ最後に残ったアリーヤ……彼女は主人公に対し
深く頭を下げると――》
………
……
…
「……お前さんは素晴らしい心根をしている
お前さんのお陰で子供達は皆幸せな生活を送る事が出来そうだ。
これで……アタシも安心して
何時でも“お迎え”を受け入れる事が出来そうさ……」
「そんな! ……優しいお母さんがそんなに早く死んだら
皆とっても悲しむと思いますから!
此処は是非……化け物って言われる位長生きして下さい! 」
「そんな風に呼ばれちゃ困るが……有難う。
アンタ達に対する感謝は生涯忘れないよ……良い旅をね! 」
「はいっ!! ……さて、そろそろ俺達は出国します。
天照様……ミカドさん、エドさん、宗次さん、紅さん
テル君、サナちゃん、ギュンターさん、アリーヤさん……
……暫くの別れですが、必ずまたこの国に帰って来ます。
ギュンターさんの言う様に友好国としての関係も視野に
帰ったら真っ先に日之本皇国の事を“宣伝”しておきます。
それから……子供達の事、本当に宜しくお願いします。
彼らが生涯幸せに暮らせる国で有る様……そう居られる様
俺も今後最大限、出来る限りの協力をします。
最後になりましたけど……皆さんも本当にお元気で! 」
《――暫くの後、別れを済ませた一行は
国賓専用船へと乗り込む準備を始めていた。
だが、時を同じくして港へと襲来した巨大な影――》
………
……
…
「ド、龍だあぁぁッ! ……全隊! 迎撃準備ッ!!! 」
《――突如として港の上空に飛来した巨大な龍に慌てる兵士達
一方、龍の背には複数名の人影が見え――》
「怖がらないで! ……攻撃の意思は無い!!
主人公さんは……何処ッ?! ……」
《――龍の背からそう呼び掛けたのは……
……ライラであった。
だが尚も警戒を緩めない兵士達に対し――》
「ライラさん?! ……俺の大切な仲間です! ……攻撃しないで! 」
《――主人公の呼び掛けに依り漸く解かれた警戒
直後、主人公の元へと降り立った“ドラゴン”――》
………
……
…
「お久しぶりですライラさん!! ……ってそのドラゴンはもしかして
驚天動地期……無事終わったんですね!!
良かった~っ! けどそれにしても立派に成長するものなんですね……」
《――“ドラゴン”から降りたライラに対し嬉しそうにそう話した主人公
だが、そんな感動の再会に水を差す様に会話を遮った
一人の“獣人”……ライラに遅れて“ドラゴン”の背から降りた彼は
酷く慌てた様子で――》
………
……
…
「主人公さんとやら! ……平和に話してる場合じゃない!
兎に角俺の話を聞いてくれ!! 」
「え、ええ……貴方は? 」
「……俺の名前はブランガだ、リオスって名前の“兄弟”から
“最期の願い”を伝えて欲しいと頼まれ、この姉ちゃんに頼んで
急いで此処まで飛んで来たんだ! ……」
「い、今何て? 最期の願い?! ……リオスは何処に居る!? 」
「彼は……死んだよ……」
「リオスが……死んだ?
……そんなバカな!!! 悪い冗談なら止めてくれ! 」
「……冗談を言いに命掛けでこんな遠い所まで来るかよッ!
それよりも、政令国家って所が大変だと伝える様頼まれたんだ!
なんでも、魔族共が押し寄せて……」
「ま、魔族ッ?! ……一体何が有った?!
現在の戦況は!? 皆は?! 敵の総数はッ!? 」
「……そ、其処までは分からねぇ!!
俺に伝えるとすぐに……逝っちまったんだ……」
「そうか……伝えてくれて有難うブランガさん。
……天照様、残念ですが船でのんびりは帰れません
急いで戻らないと……そう言う事だ。
皆、早く掴まってくれ……行くぞ。
転移の魔導、政令国……」
《――転移を発動させ掛けていた主人公
だが、天照は慌ててこれを制止し――》
「お待ち下さい! ……逸る気持ちは理解しますが
先ず対岸へ飛び、その後で目的地へ飛ばなければ
転移に失敗してしまい……良くて海の真ん中、悪ければ……」
「忘れてました……ご忠告感謝しますッ!
兎に角……歯痒いが先ずは対岸に飛ぶ!
皆、行くぞッ!
転移魔導、対岸へ! ――」
………
……
…
《――天照の忠告通り、対岸へと転移した主人公。
だが、疲労困憊の彼に取って
“超長距離転移”は相当な負担と成ったのか
この直後、彼は酷い立ち眩みを起こした。
だが――》
「ぐっ……“超長距離転移がキツい”ってこう言う事か……
……けど急がないと!!
皆、行くぞ……転移魔導……政令国家、東門前へ! 」
………
……
…
《――転移後
再び強い立ち眩みに襲われていた。
……当然、本来ならば彼の事を心配する筈の仲間達。
だが、皆主人公には目もくれず眼前の光景に愕然としていた――》
………
……
…
「一体、何が遭ったと言うのだッ!? ……」
《――そう、怒りの感情を顕にしたグランガルド。
……主人公は確かに“政令国家東門前”へ転移した
だが、其処)に嘗ての門は無く……
……燃え盛る建物や瓦礫の山
大量の魔導師や兵士達の無残な亡骸……
……激しい戦いが繰り広げられたのか
魔族の物と思われる死体も多数見られ――》
………
……
…
「生存者は?! ……くっ!! ……魔導通信!
ラウドさん! ……カイエルさん! ……エリシアさん!!
……オルガ! クレイン!
ミラさん! ……ガーベラさん!
……ガンダルフ! ……ゴードンさん! ……マリーナさんッ!
メアリさんッ!! ……ミリアさんッッ!! ……嘘だろ?
嘘だよな? ……誰も反応……無いとか……」
<――本来、魔導通信は発信側に魔導適性があれば
魔導適性の無い相手にも全く問題無く繋がる。
だが、この瞬間……誰一人として、俺の通信に応えた人は居なかった。
そして、この直後――>
………
……
…
「あ、あれ……主人公さん……あれっっ!!
……いやぁぁぁぁっ!!! 」
<――ある場所を指差し悲鳴を上げた瞬間
膝から崩れ落ちたメル。
俺は……彼女の指差した場所を見た瞬間
俺は、俺……は――>
………
……
…
「……ミリア……さん? 」
===第九十六話・終===




