第九十四話「皆を幸せにするって楽勝ですか? ……後編」
《――激動の一日を終え
眠りへと落ちた主人公は……またしても悪夢にうなされていた。
……何かを伝えようとするミネルバ
日を追う毎に彼女の訴えは強く成っていて――》
………
……
…
「ミネルバさん……何を助ければ良いんですかッ?!
俺に何をさせたいんですかッ!?
貴女を救えなかった事を……責めてるとでも言うんですか……ッ!! ……」
《――解決の糸口さえ見いだせない悪夢に疲弊した様子の主人公は
夢の中のミネルバに対しそう訊ねて居た。
だが、ミネルバは尚も――
“急がなければ……急がなければ……”
――そう一方的な警告をし続け……そして何時もの様に
暫くすると彼の前から姿を消した。
だが……この日を境に、彼が悪夢を見る事は無くなり
彼の心には“妙な胸騒ぎ”だけが残った――》
………
……
…
《――翌朝。
抜けきれていない疲れと、連日うなされ続けた悪夢の所為か
寝覚めの悪い起床と成ってしまった主人公。
彼は……その苛立ちを発散するかの様に掛け布団を撥ね退けた……だが。
何かに引っ掛かった様な感覚を覚えた彼は
直ぐに原因と思しき方を確認した……すると
其処には何故か“マリアが寝て”おり――》
「ああ、マリアか……って、えっ?
……えぇぇぇぇぇっ!? 」
《――飛び起きた主人公
一方、その騒がしさに目覚めたマリアは――》
「んんっ……ふわぁぁぁっ~……おはようございます主人公さん……」
《――と、瞼を擦り
背伸びをしつつ……まるで、自分の部屋であるかの様な振る舞いをした。
一方……そんな彼女に対し、最大限に距離を取りつつ――》
「お、俺達……なっ、何もしてないよな?!!
と言うか……何で俺のベッドで一緒に寝てるんだよ!? 」
《――そう訊ねた。
一方、マリアはあくびをしつつ――》
「ふわぁぁぁ~っ……ん?
“何も”ってどう言う事ですか? あんなに激しく乱れたのに……
……主人公さんったら、宗次さんと戦って私が勝ったから
“特別な御礼をしてやる”って半ば強引に私を……」
「ぬをぇっ?! ……ど、どう言う事だ!?
そんな強引な事をする男だったのか!? 俺はッ?!
……いやいやいやいやッ!!!
だっ、断じてそんな酷い事をする男じゃない筈だッ!
……けど、マリアは確かに魅力的な女性だし
もしかして疲れてて欲望が爆発して……いやいやいやいやッ!!
もしマリアと“そう言う”関係に成りたいなら
俺の性格上、まずは告白からする筈だし……」
《――と、凄まじい慌て振りの主人公に思わず吹き出したマリア。
彼女は、一頻り笑い転げた後――》
………
……
…
「……冗談です、何もしてませんからそんなに慌てなくて良いですよ?
けど、本当に毎回主人公さんの反応は飽きませんねぇ~? 」
「そりゃ慌てるだろ!? ……って言うか、マジで冗談で良かった。
俺……獣じゃなくて良かった。
って言うか……“本当の理由”をそろそろ説明してくれよ! 」
「えっと、本当はですね~
……昨日自室で寝かけてたら扉をノックする音が聞こえまして
まぁ、訊ねて来たのは宗次さんだったんですけど
彼、現れるなり私に――
“強い女性が好みだから結婚してくれ”
――みたいな事を言って来たんです。
でも私、宗次さんの事は全くタイプじゃない上に
断っても中々納得してくれなかったので――
“主人公さんが彼氏だから無理です! ”
――って咄嗟に嘘ついたんですよ! 」
「俺が寝てる間にそんな事があったのか……
……けど、何故その流れから俺のベッドに? 」
「それなんですけど――
“なら聞くが……恋人同士だと言うのなら何故部屋が別なんだ? ”
――って問い詰められちゃいまして。
正直疲れてましたし眠かったですし
言い訳考えるのも面倒くさくなっちゃって――
“今から彼の部屋に行って一緒に寝ますから帰って下さい! ”
――って言い残して、枕と毛布だけ持って
こっちに来たって言うのが本当の理由です!
けど……“何かあった”方が、主人公さん的には嬉しかったですか? 」
「い゛っ?! ……いや。
“ムフフな記憶”無しで何かがあった“事実だけ残る”とか
正直嬉しくない……ってちっがーーうッ!!
兎に角……マリアも災難だったな。
って言うか……そうなると宗次さんが近くにいる時は
俺達“恋人のフリ”をしないと駄目って事じゃ……」
「あ~……そう言えばそうですね~」
「やっぱりか……まぁ俺は問題無いけど、皆には話しておかないとな」
「そうですね……まぁ事情が事情ですし
皆さん協力して下さるんじゃないですかね? 」
「ああ、そうだな……ってか、法律だの何だのって
決めなきゃいけない事とか山積みなのに色々と忙しいなぁもう……」
《――暫くの後
仲間達に事情を説明した主人公。
メルやマリーン、マグノリア辺りが妙に悔しがっていた事を除けば
皆協力を惜しまないとの事であった。
そしてこの後……一行は宛ら“マリア防衛作戦”とでも言うべき作戦を展開しつつ
再び四地域の長達との話し合いを行う事と成った――》
………
……
…
《――暫くの後
再びサーブロウ伯爵邸へと集まった長達
宗次が主人公を若干“恨めしい目つき”で見つめている事を除けば
皆、主人公の掲げる新しい仕組みや法律に乗り気の様子で――》
「先ず……軍事力の不均衡を改善する為
一度この国が有する“剣豪”等の物理職、並びに魔導師らを“陸軍”として考え
全地域に均衡が取れる様配置、全体的な防衛力の底上げを目指します。
……ただ、これだけだと
一部地域の防衛力を削いでしまうだけと成ってしまいますので
全体的な軍事力の水準を上げる為、同時進行的に
軍人育成用の学校などを設立するべきかと思います。
……更に、農業を始めとする得意分野を持つ地域は
他の地域にもそのノウハウを教えるなどして
お互いに相互関係を作っていく事で災害等に強い国に成るのではと思いますし
結果的には全体的な生活水準も上がるのではないかと思います。
あと……皆様を信用していない訳では無いのですが
不動の地位や絶対的権力は腐敗の元とも成り得ますので
各地域を取りまとめる長だけでは無く、その下に様々な大臣を置き
責任と権力を敢えて分散させる事も必要かと思います。
……利点と言うべきかは判りませんが
結果的に長と言う役職の負担軽減にも成るかと思います。
そして、最後は法律等の決め事に関してですが……
……国防的に開示不可能な秘匿事項を除き
国民に対しての透明性を持たせる為にも
取り決める内容は発布前に一度説明をする等して
余りにも反対の多い内容に関しては一度精査し直すなどの対策を。
……唯、どの地域の民達も
意見を言わない事に成れ過ぎている“きらい”があります。
なので、国民が意見を言いやすい形を作る為
“目安箱”の導入を強くおすすめ致します。
因みに……紅さんにこの間言えなかった
“使える方法”とは“目安箱”の事です」
「そやったん? ……けど“目安箱”って何なん? 」
「……端的に言うと、国民からの要望書を入れる箱です。
本来の運用方法だと記入者の名前等を書くのですが
その方法だと妙に勘ぐってしまい
正直な意見を書かない可能性がありますので
後で自分と分かる数字や絵などを書く事だけお願いすれば良いかと思います」
「へぇ~それはええ案やね!
けど、名前書かへんで良い筈やのに何で“自分と分かる物”を書かせるん? 」
「流石は紅さん! ……良い質問です!
……何故自分と分かる物を書かせるかと言いますと
素晴らしい良案を出してくれた国民が居た場合
その方に報奨を出したりなどする際の本人確認が容易である事と
その方に何らかの立場に立って頂きたい場合にも
本人確認が容易であると言う点ですね。
……それに加え、仮に政府側に腐敗した者が居ても
本人しか知らない数字や絵ですから
名乗り出ない限り見つからないと言う利点もあったりします。
民達にとってはローリスクハイリターンですし、政府からすれば
一定の信頼も得られるので一石“何鳥”にも成るのではと思いまして! 」
「成程、そんな手が有ったとは……盲点やったわ。
……主人公さん所でもそんな仕組みが有ったん? 」
「えっと……似た様な物はありますね。
嘆願書と言う形ですが……兎に角、利点は多いかと思います。
……取り敢えず議題としては以上です
後は皆様が話し合われるべき事柄も多いので
本日中に全ての議題が決定とは行かないと思いますが……」
《――と、話す主人公で有ったが
この後……長達は互いに建設的な話し合いを続け、その結果
彼の想定を遥かに超える速度で
ほぼ全ての議題が大筋で原案通りに認められ
今後準備が整った物から順次実行される運びと成った。
そして、この結果に天照は――》
………
……
…
「……さて、最後の議題も恙無く承認されましたので
今後は各地域の民達に対して説明の場を設け
新たな国家としての形を祝う為の記念式典や
祝賀パレード等の予定を取り決める必要があります。
それと……お手数をお掛けしますが主人公さん
皆様にもご参加頂きたく思って居りますが宜しいでしょうか? 」
《――そう訊ねた天照。
だが、こう言ったタイミングでの“パレード”に対し
あまり良い記憶の無い主人公には
些か不安な考えが浮かんでしまった様で――》
「まぁ、形式的な感じだけでも参加はしないとですよね……」
《――そう少し嫌そうに答えると
天照は原因たる出来事を“視た”上で主人公に対し――》
「私達は皆人間ですからご安心を……それと
恩返しと言えば大層ですが、主人公さんの思い出された過去の嫌な記憶は
今回の祝賀行事で上書きして頂ければと私は願っております」
「お、お気遣い痛み入ります……」
「いえいえ……私の方こそ、大変な役目を引き受けて頂き
どう御礼をして良いものかと悩ましい限りなのですよ?
……さて皆様、祝賀行事の一環としてですが
私や皆様は勿論、各地域の功労者や貴族達などを招き
祝い事の恒例行事である“舞踏会”を開きたいのですが……」
《――と、天照がそこまで言い掛けた瞬間
それを遮ると――》
「あ、あの!! 天照様、今……舞踏会って仰いました? 」
「……ええ、我が国の祝い事には
必ず舞踏会を開く事が恒例と成っておりますが……」
「あ、あの……俺、踊るのとかめちゃくちゃ苦手なんですけど……」
《――困り顔でそう言った主人公。
すると、天照は少し意地悪げに微笑みつつ――》
「では……私がお教えしましょうか?
でも……“皆さん”に恨まれてしまうかも知れませんね」
《――そう言うと天照は主人公の側に座る女性陣に目をやった。
すると……彼女の“想定通り”
女性陣は、皆“何らかの”闘志に燃えた表情を浮かべていて……一方
その事に気が付かないフリをしつつ
主人公は話題を逸らし切……れず――
“主人公……勿論、私と踊るのよね? ”
――と、マリーンに詰め寄られ
“わ、私も踊りたいですっ!! ……”
と、メルにも詰め寄られた挙げ句――
“えっと~……彼女たる私を差し置いて
他の女性と踊るのは無しですよね~? 主人公さん? ”
――宗次の前で有るのを良い事に
マリアがそう言うと――
“ワタシとアナタは一心同体なのだから……当然、ワタシよネ? ”
――と、マグノリアまでもが訊ねた瞬間
これまで沈黙を守っていた宗次は勢い良く立ち上がり――》
「マリア嬢の他にも……大層モテるんだな主人公さんよぉ? 」
「い゛い゛ッ?! い……いえその……」
《――この後
大層不機嫌な様子の宗次と女性陣からの板挟みと成った主人公が
転生後、最も居心地の悪い時間を過ごす事に成ってしまったのは別のお話。
ともあれ……この話し合いで取り決められた
各種法律や仕組みを全地域の民に周知させる為
この後、主人公一行は天照を含めた全地域の長達と共に
各地域を数日掛かりで回り続ける事と成った。
……無論、現状の大幅な変更に最初は戸惑う民達も多かったが
それでも、新しい法律や仕組みを歓迎する民は多く
全地域を通し反対意見は見られず……更に数日後
新しく設置された目安箱にも
民からの様々な案が投函され始め
主人公の想定を遥かに上回る良案も多数見られた。
……此処から更に暫くの後“獣害”の深刻だった
南地域にも十分な戦力が送られる事と成り、農作物の生産も安定し始めた。
だが……全てが順調に動き始めたかに見えた一方で
順調とは言い難い問題も見え隠れし始めていた――》
………
……
…
《――“国防力の再配置”
言葉にすれば単純だが
つい先日までいがみ合っていた他地域を守護する事に
若干の“拒否反応”を見せる者も一定数存在していて――》
「……何で俺達が南地域の田舎臭え奴らを守らにゃいかんのだろうな?
そもそも、自分達で守れねぇ程の人員を畑に費やすとか
正直……この地域には馬鹿が多いんじゃねえのか? 」
「まぁそう言うなよ……余り文句ばかり言ってたら
天照様に雇われたあの“主人公”って野郎が
俺達を締め付ける法律を提案しかねねぇぜ? 」
「おぉ怖え……そいつぁ悪ぃ冗談だぜ……」
《――主人公に対する誤った認識も含め
急激な変化に拒否反応を示す者達はそれなりにおり……
……この日から更に数日後
この問題が表面化する“ある事件”が起きる事と成った――》
………
……
…
「……だから、拒否するって言ってんだろうがッ?!
何で俺達がテメエらみたいな
“お飾り海軍”の下に配置されなきゃならねえんだよ! 」
「なっ?! ……た、確かに
設立から日の浅い私達の実力は他国の海軍と比べて劣っているかも知れない!
だが! ……新しい“仕組み”が決まった以上
貴様らは私達の元で教育を受けてだな! ……」
「だから!! 俺達は俺達の力だけで自分達の海域を守るって言ってんだろうが!
このボケナスがッ!! 」
《――新たな試みとして、各地域に新たに設立された海軍
その海軍兵たる彼らが罵倒していた相手は
東地域の所謂“お飾り海軍”であった。
だが……本来、東地域の海軍には“一日の長”が有る上
ギュンターらを教官に迎えている事も加味すれば
発足当初などとは比べるまでも無く
現在はそれなりの実力を有している筈なのだが……
……それでも、そんな事はお構いなしとばかりに
“お飾り海軍”に編入される事を頑なに拒絶する他地域の海軍兵達。
そんな中……ギュンターを始めとする“教官達”は
彼らを諭す様に――》
………
……
…
「……貴方達が仰る通り、私めの後ろに居る者達はまだ実力不足です。
が、それでも貴方達よりは何倍も強靭な兵で御座いますよ?
それに――
“相手の実力を低く推し量る者はその行為によって破滅する”
――そう、歴史が物語っております」
《――そう諭したギュンター
だがそんな彼に対し、不遜な態度で――》
「ほぉ? ……けどよぉ、アンタ達自体が東地域の長に脅され
仕方無く此処に居る程度の“モン”だろ? ……大層な話し振りだが
おめえみたいな“爺さん”に、昔話以外の何が出来るってんだ? 」
《――そう嘲笑う様な態度を取った兵士。
そんな彼に対し、ギュンターは――》
「……年齢、性別、その他諸々の事象を引き合いに出せば
自らの幼稚さや未熟さを隠し通せると思っている辺り
まだまだ貴方は力不足の様ですな……」
「んだと?! ……おい、ジジイ!!
てめぇが“船出す能力”を持ってる事ぁ褒めてやるよ!!
だが、その能力を使わず素手で俺と戦っても勝てる自信があっての言い草か?
詫び入れるなら今の内だぜ? 」
「やれやれ……口で言う内に理解して頂ければと願っていたのですが
儘成らぬ物ですな……良いでしょう。
何処からでも、何人でも……掛かって来なさい」
「いい度胸だジジイ! ……オラッ!! 」
………
……
…
「……やはり児戯に等しいですな」
「なっ?! ……」
《――当然の結果では有るが、勝負は一瞬で決まった。
敗北した兵には一撃としか感じられなかったギュンターの攻撃……だが
彼が“殺る”気ならば兵は跡形も残っていなかっただろう。
目にも留まらぬ彼の体捌きは
本来ならば兵を十数回以上“消滅させて”いた。
だが、彼が敢えて遅く放った最後の一撃“のみ”を
辛うじて視認出来ただけで有るにも関わらず
まだ自らの実力不足を認識出来て居なかった様子の兵は――》
「な、中々やるみてぇだなジジイ……おいッ!!
ぼーっとしてねぇでお前らも手貸せッ!!! 」
《――直後
更に五人の仲間を呼びギュンターとの勝負を続行しようとしていた兵士
だが――》
………
……
…
「あ~……騒ぎを聞きつけ駆けつけてみたらそう言う事でしたか。
てか、ギュンターさんを相手に貴方達程度の雑兵が
何千束になった所で絶対に勝てないですし
怪我でもする前に止めた方が身の為だと思いますけど? 」
「んだとッ?! ……って、お前は!? 」
《――大層不機嫌な様子でこの場に現れたのは
“主人公”であった。
……直後、僅かに慌てた様子の兵士には目もくれず
暫く振りの再会と成ったギュンター達に駆け寄ると
彼らと談笑し始めた主人公……一方
その様子を間近で見ていた兵は
主人公に対しても不満をぶつけ始め――》
………
……
…
「……あのさ、アンタがどれだけ偉い立場か知らねえが
俺達は今勝負の真っ最中なんだわ……
……分かったなら退いてくれませんかね? 」
《――と、主人公に対しても不遜な態度を取った兵。
だが、この直後――》
………
……
…
「土の魔導……砂に塗れよ」
「ウグッ!? ……」
《――兵に対し非致死性の土魔導を放った主人公。
一方“呼吸困難ギリギリ”の所で主人公が魔導を解くと――》
「ゲホッ!! ……グェッ!! ……なっ……何しやがる……! 」
「あ~……色々と“お説教”したい気分ですが
その前に質問がありますから素直に答えて下さい。
……その答え次第では、貴方達馬鹿の集まりを
海軍兵と言う役職から下ろす様、天照様に掛け合わなくてはなりませんので」
「てっ、てめぇッ!!! ……脅しのつもりか!? 」
「どう思って頂いても結構ですけど……俺からの質問は一つだけです。
今回の決定に“反対”の皆さんに聞きます
貴方達にも兵として矜持みたいな物があるのだろう。
……と仮定してお聞きしますが、皆さんが護りたいのは国ですか?
それとも……その糞つまらない“プライド”ですか? 」
《――この質問に反対派の兵士達は暫く黙り込み
そして、一人の兵が声を上げた――》
………
……
…
「嫌な聞き方しやがるな……どっちも守りてえに決まってんだろ?
けど……アンタやそっちの“爺さん”が言う様に
俺達にはそのどっちも守れる実力が無ぇってんだろ?
だから……其奴らの下に入れって事なんだろ?
けどよ? ……つい最近までいがみ合ってた奴らだぜ?
俺達がもしこのまま新入り扱いで其奴らの下に入ったら
其奴らは俺達に対して“仕返し”とばかりに偉そうな顔して
クソほど下に見た様な態度取るに決まってんだッ!!
そんな扱いされるなんざ……虫酸が走る程嫌なんだよッ! 」
「だから……それが“糞プライド”だって言ってるんですよ。
と言うかそれなら逆にお聞きしますけど、東地域の海軍兵達が
貴方達から今の今まで、散々“お飾り海軍”と蔑まれ
“下に見られ続けてた”事に関し
全く以て“何も感じていなかった”とでも言うつもりですか?
……それだけじゃない。
ギュンターさんの凄まじく厳しいであろう訓練に耐え続け
恐らく俺が会った時より数段強く成ってる筈なのにも関わらず
まだ海軍の“か”の字も知らない様な素人にまで
未だ蔑まれ続ける彼らの“矜持”が一体何処に有ると思うんですか?
彼らは……貴方達が今も尚、後生大事に護ろうとしている
“糞プライド”なんて疾うの昔に投げ捨てて
日々、血の涙を流しながら頑張っているんです。
その努力を馬鹿にして良い権利なんて……誰にも有りません」
《――この、一歩も引かぬ主人公の
“宣言”
この直後……発足以来初めて
他者から“認められた”東地域の海軍兵達は、皆感激し……涙を流していた。
一方……そんな様子を間近に見ていた反対派の兵士達は
この状況に大層“居心地悪そう”にしつつ――》
………
……
…
「……チッ、悪かったよ!
確かに俺達が其奴らと比べて未熟なのは事実だよ!
かなり癪だが……実力をつけて追い抜くまでの間位は
其奴らの下で居る事を甘んじて受け入れてやるよ。
……けど、今回だけだぜ?
余り舐めた態度取りやがる様なら直ぐにでも……」
「……まだかなり上から目線ですし
捨てきれてない糞プライドがあるみたいなので――
――猫の糞の“処理方法”に倣って
もう一回位“砂に塗れ”ときますか? 」
「ま、待て!! ……分かった!
ぜ、全面的に認めるから止めてくれ! ……」
《――この一件を皮切りに、反対派の兵達は皆続々と矛を収めた。
一方……そんな彼らに対し
東地域の海軍兵長は――》
………
……
…
「……気に入らない気持ちは重々理解している
だが……日之本皇国防衛の為、共に切磋琢磨して行こうではないか! 」
《――そう言って手を差し出した。
そんな彼に対し、少しバツが悪そうにしつつも
同じく手を差し出し握手を交わした反対派の兵士。
……この後、彼らは皆ギュンター率いる海軍の一員として
頼もしく、逞しく成長していく事に成るのだが……
……それはまた別のお話。
ともあれ……この騒動の解決後
軍人育成用の学校を設立する事と成った日之本皇国では
ディーンを物理職の教師として、タニアを薬術の教師として登用する事が決定
更に……あろう事か、魔導職の教師を
“天照が担当する”と言う決定が為された為
魔導師志望者が全体の九割を占める程に人気の学科と成ってしまったのは
嬉しい悲鳴とでも言うべきなのだろうか――》
===第九十四話・終===




