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異世界転生って楽勝だと思ってました。  作者: 藤次郎
第三章

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第八十六話「苦しむ者と、楽しむ者と」

《――(なか)ば強引に連れられ

西地域の長が待つと言う居城の正門前へと辿(たど)り着いた一行。


正門が開かれるや否や、その向こうから現れたのは――》


………


……



「待ちきれず正門まで降りて来てしまいました!

皆様に西地域へお越し頂けた事は感激の(いた)りでございます!


……っと、失礼を!


私は西地域の統括者……エドと申します!!

他国からの“使節団(しせつだん)様”との事で!

……これは是非ともお招きし

我が地域が誇る最上級のおもてなしを受けて頂かなければと! ……」


《――そう、現れるや否や少々興奮気味に自己紹介をした西地域の長

エドと名乗るこの男性に対し、主人公は(みずか)らが

彼の言う“使節団(しせつだん)”などでは無い事を説明しようとした。


だが――》


「あ、あの……一応対面で説明しないと

隊長さんの立場が危ういと思ったので仕方無く来ただけなんですけど

俺達は別に使……」


「いえいえ! ……詳しいお話は城内でお(うかが)いします!

他国からの賓客(ひんきゃく)に対し門前で応対などしてしまっては

我が地域が笑われてしまいますのでッ! ……兎に角!

長旅でお疲れでしょう! ……さぁさぁ、此方へどうぞ! 」


「えっ、いや、その……」


《――訂正する(ひま)すら与えられず

(なか)ば強引に城へと招かれてしまった一行。


そして……貴賓室(きひんしつ)へ通されるや否や

一行の目の前に運ばれて来たのは(ぜい)の限りを尽くした食事――》


………


……



「……長旅で空腹かと思いましたので、我が西地域が誇る指折りの食材を

惜しみ無く使用した食事を用意させました!


……まずはお召し上がり下さい! 」


「で、でも……」


《――誤解が(ゆえ)とは言え、あまりの厚遇(こうぐう)振りに恐縮しつつも

断りきれず食事に手を付け始めた一行……それを確認すると

エドは更に――》


「で、では! ……続きまして

我が西地域の誇る“特別な”余興(よきょう)をご堪能(たんのう)頂きたいと思います! 」


《――指を鳴らしながらそう言った直後

開かれたカーテンの奥からは“ステージ”が現れた……だが。


ステージに並ぶ大小様々な道具には妙な“汚れ”が付いており――》


………


……



紳士淑女(しんししゅくじょ)の皆様! ……まず皆様にご覧頂きますのは

西地域の民達による一攫千金(いっかくせんきん)の賭けで御座います! 」


《――そう言いつつステージに現れた一人の男。


道化師の様な格好をしたこの男は、場を盛り上げる為か

妙な声色(こわいろ)(もち)いつつ一行に対しルールの説明をし始めた。


だが――》


「……まずはルールをご説明致しましょう!


この賭けは、我が西地域で貧困(ひんこん)に苦しむ民を救済する為の

“人道的”な賭けと成っておりますッ!


……()ず、私の後ろに御座いますこの回転台ッ!!

この回転台に参加者の(いず)れか一人を選び、(しっか)りと固定致します!!


……そして!

もう一人の参加者には回転台に向け、このナイフを投げて頂きますッ!


固定された代表者に当てる事無く

見事回転台に書かれた金額にナイフを当てる事が出来れば

その金額分の賞金を差し上げる……と言ったルールと成っております!


それではッ!! ……この賭けに参加する事の出来る

“幸運な”二人の民達に登場して頂きましょう!


どうぞっ!! ――」


《――道化師の男がそう(うなが)した瞬間

舞台袖から現れたのは薄汚れた服に身を包んだ二人の男女で――》


………


……



「……ではではッ!

一攫千金(いっかくせんきん)の賭けに参加出来る幸運な者達の中から

私が一人代表者を選ばせて頂きます! 」


《――道化師はそう言うと、痩せこけた男を選び

回転台へと連れて行き決して“逃げ出せぬ様”固結(かたむす)びで縛り付けた。


……そして、痩せこけた女に対し

切っ先に茶黒い汚れの付着したナイフを手渡した。


だが……この時、女は道化師の男に対し

弱々しく何かを懇願(こんがん)している様子だったが

道化師の男が何かを耳打ちした直後

彼女は諦めた様に小さく(うなず)いた。


そして――》


………


……



「……大変お待たせ致しました!

それでは早速、一攫千金(いっかくせんきん)の掛けに挑戦して頂きましょう!!


……どうぞッ!! 」


《――そう道化師が(うなが)すと

痩せこけた女は力を振り絞りナイフを投げた。


瞬間――》


「――雷撃の魔導ッ!

磁場之棺マグネティックフィールドッッ!! ――」


《――立ち上がり

彼女の投げたナイフに向け魔導を放った主人公。


そして――》


………


……



「お、お客様?! 一体何を……」


《――慌てる道化師の男と同じく

長であるエドも彼の突然の行動には大層慌てていた……だが

そんな二人には目もくれず、静かにステージへと歩み寄ると

魔導で“その場に制止させた”ナイフを掴み取り

そのまま舞台袖へと投げ捨てた主人公。


だが……主人公(かれ)が止めていなければ

この日、間違い無く命を失っていたであろう男性は

彼に感謝する所か妙に慌てており……それは

ナイフを投げた女性も同じで、明らかに取り乱した様子であった。


だが……そんな状況に何かを(さっ)した主人公は

回転台に縛り付けられた男性に対し小さく耳打ちをした

直後、弱々しくも小さく(うなず)いた男性の姿を確認すると――》


………


……



「エドさん……一体これは何の冗談です? 」


《――そう冷たく(たず)ねた主人公。


“な、何を(おっしゃ)りたいのかが私には……”


そう返したエドに対し

ほんの一瞬、眉間にしわを寄せた主人公は――》


「……貴方は先程、俺達に“特別な余興(よきょう)を”と言いました。


俺はてっきり“踊り子”やら“曲芸師(きょくげいし)(あた)りが出てくる物かと思い

安心して見てたんですよ? ……なのに何です?

この悪趣味な“処刑ショー”は」


《――そう(たず)ねた主人公の怒りに満ちた表情から

(ようや)く状況を(さっ)したのか、エドは――》


「た、大変……申し訳御座いませんでしたッ!!


お、面白い余興(よきょう)が用意出来ると私に大見得(おおみえ)を切った

其処(そこ)に居る道化師(どうけし)が全ての元凶(げんきょう)で御座いまして!!


ま、まさか私もこの様に野蛮(やばん)(もよお)しを行うとは

全く(もって)……お、思っても居りませんでした!!


た、直ちに厳罰(げんばつ)(しょ)しますので!! ……」


《――と、(みずか)らも被害者であるかの様に(のたま)ったエド。


だが、所謂(いわゆる)“トカゲの尻尾扱い”を受けた道化師(どうけし)は――》


「そ、そんな馬鹿な?! ……」


《――と声を(あら)げ何かを口にし掛けたが

それを(さえぎ)るかの様に道化師(どうけし)を衛兵達に連行させたエド。


一方……そんな状況の中にあり、先程よりも更に慌て始めた

“参加者”二人……その様子を見ていた主人公は

この直後、痩せこけた女性に近づき――》


「……もし弱みを握られ強いられたと言うのなら俺が必ず助けます

そうして欲しいなら少しで構いません……(うなず)いて下さい」


《――主人公は彼女の耳元でそう(ささや)いた。


すると……目に涙を()めながらも、決意の眼差しで主人公を見つめたまま

(しっか)りと力強く(うなず)いて見せた女性。


直後……主人公に対し“弱み”の原因を話し

これを聞き終わるや否や、エドに詰め寄った主人公は一言――》


………


……



「“人質の子供”……開放して貰えますね? 」


《――と(たず)ねた。


瞬間、エドの表情は見る見る内に曇り始め――》


「も、勿論でございます! ……直ちにご希望の通りに致します!

衛兵っ!! ……聞こえただろう! は……早く連れてくるんだっ!! 」


《――と、血の気の引いた表情で衛兵達に命じたエド。


……そして、部屋に流れる静寂が余程に恐ろしかったのか

それとも、彼の“何時(いつ)もの手”であったのか……


主人公に対し、ある取引を持ち掛けたエド――》


………


……



「……こ、この度は誠に申し訳御座いませんでした!!

この大失態(だいしったい)挽回(ばんかい)する為……そっ、そして!!

ご機嫌を(そこ)ねてしまったお詫び代わり

……と言っては不躾(ぶしつけ)かも知れませんが

是非とも御一行様にお渡ししたい品物が御座いまして……」


「……何です? 」


「たっ……直ちに持ってこさせますので暫しお待ちを!!

衛兵っ! ケチケチせず! 一番大きな箱を御一行様にお持ちするのだ!! 」


《――そうエドが命じると

数人掛かりでとても重そうな巨大な箱を主人公の側へと運んだ衛兵達。


一方……エドに(うなが)されるがまま箱を開けた主人公は

中身を確認すると直ぐに箱を閉じ――》


………


……



「お……お気に召されましたでしょうか? 」


《――と、冷や汗を(ぬぐ)いながらそう(たず)ねたエドに対し


“いいえ全く……俺には悪代官の気持ちなんて理解出来ないので”


――と、冷たく返した主人公。


彼が直ぐに閉じたその箱には、大量の“共通金貨”が入っていた――》


「……あ、悪代官ッ!?

い、いや……それよりもで御座います!!

今“それ”をお受け取り頂けないとなれば……一体私はどの様にして

この失態(しったい)を取り返せるのでしょうか……」


《――と、必死に主人公のご機嫌を(うかが)って居たエド。


だが……(ただ)でさえ半強制的に

“招待”された不満も(あい)まっていたのか

主人公は終始不機嫌な様子で無言を(つらぬ)いた。


そして……とんでも無く重苦しい物と成ってしまった場の空気に耐えきれず

エドが再び何らかの行動を取ろうと動き始めたその瞬間

突如として貴賓室(きひんしつ)の扉は勢い良く開かれ――》


………


……



「邪魔しますぇ? ……エドはん、お久しぶりやねぇ?


って……そんな事より今日は話があって来てみたんやど

あんさん……他国よそからの大切なお客さん

“囲い込み”しようと(たくら)んではるんやてねぇ?


……ってあらっ? ……そちらに()らはる方々がお客さんやないの? 」


《――突如として現れた黒髪の美女

だが、彼女の登場にエドは(ひど)く顔を(ゆが)ませ――》


「なっ!? ど、何処(どこ)からそんな事を聞きつけた?!

いや……そもそも何処(どこ)から現れたッ?! 北地域の“女狐(めぎつね)”めッ!! 」


《――そう言い放った。


だが――》


「……嫌やわぁ~そないな言葉遣い。


お客さんの目の前でしはったらあきまへんぇ?

こないな無作法者が日之本皇国の一地域の長や思われたら国の恥です。


……悪い事言いまへん、ウチの地域に来ておくれやす」


《――エドの無礼な態度を物ともせず

一直線に主人公の元へ歩み寄るや否やそう言った黒髪の美女――》


「えっ、あの……貴女は一体? 」


《――突然の事に面食らった様子の主人公

その一方で、エドは更に――》


「め、女狐(めぎつね)めっ!!! ……また私の地域から奪うつもりか!!

だが……今回だけは絶対に譲らんぞッ?!! 」


《――そう興奮気味に言い放ったエド。


だが……この直後

黒髪の美女はそれまでとは打って変わり殺気を(ただよ)わせ――》


………


……



「お黙りよし……ウチには

ベニと言う天照様(アマテラスさま)から(たまわ)った有り難い名前が有ります。


今後一度でもウチの事を“女狐(メギツネ)”と呼ばはったら

天照様(アマテラスさま)にもお話を通さなあきませんし……ウチの所と

“事”付ける覚悟が有る物とも取りますぇ? 」


《――終始笑顔で応対していた黒髪の美女、ベニ

氷の様な表情でそう言い放った。


すると――》


「ぐっ……よ、良かろう!!


こ、今回の事を“借りにする”と宣言するのなら構わん!

だがその代わり……今回の借りは相当な物だと覚悟しておくんだな!! 」


「ええ……それでよろしおす」


「な、ならさっさと城から出ていってくれ……くっ!!

や、疫病神(やくびょうがみ)めッ! 」


「あらあら……今度は神様扱いなんやねぇ?

さてと……ほんならウチに着いて来て貰えますやろか? 」


《――直後

ベニにそう(うなが)された主人公は静かに首を横に振った。


そして“何故か”と問われた瞬間、ベニに対し――


“まだ問題が解決していませんので、(いず)れにしても(しばら)くお待ち下さい”


――そう静かに言うと貴賓室(きひんしつ)の扉に視線を移した。


そして――》


………


……



「失礼致します!! 」


《――暫くの後、貴賓室(きひんしつ)の扉が開かれ

ボロ着姿の子供を連れた衛兵が部屋へと戻った瞬間

“処刑ショー”の被害者であった男女は慌てた様子で子供の元へと走り寄り――》


………


……



「ケン……良くぞ無事で居てくれたっ……

主人公様……息子をお救い頂き、何とお礼を申し上げて良いのか……」


《――痩せこけた男は主人公に対しそう言い

その隣で涙ながらに感謝し、幾度と無く頭を下げ続けた女性。


……話し振りを聞く限りこの二人は夫婦であり

息子を人質に取られて居た為

断る事の出来ない“処刑ショー”に参加させられて居たのだと言う。


更に母親から――


“数字に当てれば息子は殺され、夫に当てれば息子を開放する”


――そう脅されたのだと聞かされた瞬間

エドを鋭い眼差しで(にら)みつけた主人公。


そして、(なお)も感謝を続ける彼らに対し――


“いえいえ! ”


――と明るく返した主人公は

再びエドの元へ近付き――》


………


……



「……彼らの他に同じ様な境遇(きょうぐう)の人はもう居ませんね? 」


「は、はい……」


「自白の魔導を掛けて調べても良いんですが……

……本当に嘘偽りは有りませんね? 」


「も、勿論でございます……」


「わかりました……一応は信じます」


《――そう言うと、主人公は夫婦に対し

似た境遇の物が付近に居なかったかを確認したが

“生き残り”は私達で最後……と聞かされた主人公。


……怒りを収める為か、少し息を整えた後

はエドに対しある取引を持ち掛けた主人公――》


………


……



「……エドさん、貴方に取ってはこれ以上

彼らをこの場所に縛り付ける意味は無い筈だ

素直に此方(こちら)の親子を解放して頂けますね? 」


「え、ええ……それは勿論でございますが

私共の処遇(しょぐう)は一体どの様に……」


「保身にばかり(あせ)らず最後まで黙って聞いて貰えますか? 」


「し、失礼致しました……」


「失礼なんて言葉では足りてませんけどね……兎に角。


彼らを開放させる代わりに

貴方の悪事は今回に限り見なかった事にしておきます……が。


今後また同じ様な事をして居ると何処(どこ)からか漏れ聞こえた場合は

その限りでは無いと(きも)(めい)じて下さい。


……俺には理解出来ませんが、貴方の中では

この様な“ショー”を行う事が“余興(よきょう)”なのかも知れませんが

またこの様な“余興(よきょう)”を(おこな)いたく成ってしまった時は

一度全てをご自身に“置き換えて”考える事を強くお勧めします。


“投げる担当”が万が一にも“俺”だったら

貴方にはそれなりに苦しむ結果が待っていますから」


《――そう言い終わると主人公は不機嫌そうに椅子に座った。


……対するエドは、あまりの恐怖に

金縛(かなしば)りにでも()かったかの(ごと)

脂汗を流しその場で硬直しており……その上

本来ならばエドを守るべき衛兵ですら

動く事の出来ない程の殺気を込め“警告”をした主人公。


この後……この“脅し文句”はエドの胸に強く突き刺さり

この日から(のち)、エドの居城で“余興(よきょう)”が行われる事は無くなったと言う――》


………


……



《――暫くの後、ベニと共にエドの居城を後にした一行

そんな中、主人公は(みずか)らの助けた親子に対し――》


「……俺が責任を持って貴方達が幸せに暮らせる場所へお連れします。


時間は掛かるかも知れませんが、安心して下さい」


《――優しい表情でそう言った。


だが、そんな彼を見て居たベニは――》


「……主人公さんは優しい御人(おひと)なんやねぇ!

その優しさ……ウチは好きですぇ?

それと……お三人さんの事はウチの地域で面倒見させて貰います」


「ほ、本当ですか?! ……それは助かります! 」


「ええ、ウチが責任を持って預かります……ほな皆様

早速やけどウチに掴まって貰えますやろか? 」


《――そう言うとベニは主人公に対し右手を差し出した。


だが、彼女が転移魔導を使用するつもりだと気がついた主人公は

自分達が“使節団(しせつだん)”などでは無い事や

それに(じゅん)ずる権限を(ゆう)している訳でも無い事を説明しようとした。


だがそんな彼の雰囲気に何かを勘違いした(ベニ)は――》


………


……



「……腐敗した長の姿を見てしもた直後で

他地域の長に連れられるのが怖いのんは分かります

せやかて……ウチに変な言い訳するのだけはやめておくれやす。


借りに、誰一人としてウチ所来てくれへんねやったら

何の為にあないな男に借りを作ったんか分からしまへん。


せやからこの通りや、いけず言わんと来ておくれやす……」


《――そう言うと目に涙を溜め

その潤んだ瞳で主人公を真っ直ぐに見つめたベニ


彼女は今にも倒れそうな雰囲気を(かも)し出しており――》


「いぃッ?! ……いやその

“行かない”って言いたかったのでは無くてですね!?


いや……分かりましたッ!

取り敢えず行きますから! けど! その前に話を……」


《――と、再び自分達の立場を説明しようとした主人公。


だったのだが――》


「ほんま?! ……嬉しいわぁ~っ!! 」


《――言うや否や

主人公に対し勢い良く抱きついたベニ――》


「はひぃッ?! ……ちょッ?! ……は、離れて下さいッ! 」


「ほんなら早う、手……握っておくれやす」


「いぃッ!? ……でも俺達は……」


《――(なお)も諦めず(みずか)らの立場を説明しようとした主人公。


だが……この状況を間近で見ていた女性陣からの

氷にも(まさ)る程の冷たい視線に狼狽うろたえ、タイミングを見失い……


……結果として

ベニ統治(とうち)する地域への同行を了承(りょうしょう)した主人公――》


………


……



「……さてと。


全員一気に言うたら掴んで貰う腕が千切れそうやし

やっぱり“魔導陣”にしときましょ」


《――そう言うや否や

地面に巨大な“魔導陣”を(えが)き一瞬で荷馬車ごと一行を

(みずか)らの地域へと転移させて見せた(ベニ)


一方、この時始めて目にした“転移魔導陣”とでも言うべき

その特殊な能力に驚きつつも到着直後の北地域を見渡していた主人公。


すると――》


………


……



「……此処がウチの(おさ)めてる北地域です、気に入って頂けたやろか? 」


「え、ええ……けど、少し寒いですね」


「ほんま? ……まぁ、ぬくい地域から()はった人やったら

ちょっと寒いのか知れへんねぇ? ……まぁ

ウチの城までは荷馬車で後少しやし、隣……乗せてくれはる? 」


「と、隣ぃッ?! あ、いえその……どうぞ!! 」


《――少し照れつつもベニを横に座らせた主人公の行動に

女性陣は明らかに不満そうであった。


ともあれ、荷馬車に揺られる事数分――》


………


……



「大切なお客さんやから検査は必要有りまへんぇ? 」


《――城の正門で門番にそう告げたベニ

直ぐに門は開かれ、彼女の案内で城内をゆっくりと進んでいた一行


だがそんな中、一人思い悩んでいた主人公――》


(……それにしても、日之本皇国でこれまで訪れた地域って

何処も彼処も全く“日本的”じゃなかったな。


……日本的な食べ物やその他も無かったし

どちらかと言うとシゲシゲさんの旅館だけが唯一(ゆいいつ)の日本要素だった様な?


大体……“日之本皇国”って言いながら“京言葉”っぽいベニさんですら

どちらかと言うと“洋風な顔立ち”だしなぁ……


……まぁ美人な事には変わりないけど。


とは言え、日本的な物をこの世界に生み出す事自体は

この“本”で出来るらしいし……それだけでも収穫か。


てか俺達“使節団”か何かだと勘違いされちゃってるけど

此処まで来て“違うんです”って言うと

一悶着(ひともんちゃく)起きる可能性も有るんじゃ……


……でも、親子も助けて貰ったばかりだし

一応、(おり)を見て説明はしないと駄目か……でもなぁ~ッ!!


この国の長達は何故か全員――


“人の話に全然耳を貸さないタイプ”――ばかりだし。


うーん……どう考えても糞ゲーだッ!! )


《――などと苦悩しつつ荷馬車に揺られて居た主人公。


だが、そうこうする内にベニの居城へと到着し――》


………


……



「あ~っ……やっぱり家が一番やわぁ~♪

御一行さんも自分の家や思て(くつろ)いで構いまへんぇ~」


《――と、大層(たいそう)気が(ゆる)

長椅子(ソファー)にだらしなく寄り掛かったベニであったが

当の主人公は彼女に対し真実を説明するべきか否かで(いま)だ悩み続けており……


……その表情は、彼女の“(ゆる)んだ行動”を

怪訝(けげん)な表情で見つめている様に感じさせ――》


「い、嫌やわぁ~! ……ゴホンッ!

……と、とことん真面目な御方(おかた)やねんねぇ、主人公さんは」


《――と、少し頬を赤らめながら姿勢を正したベニ

乱れた衣服を慌てて直し始めていて――》


「えっ?! ……い、いやその……」


「いやいや……考え方は十人十色(じゅうにんといろ)やから気を使わんでええんよ?

兎に角……そろそろ本題に掛かりますえ? 」


「ほ、本題……とは一体? 」


「……他国からの“使節団”との事やし

ウチらの国と何かしらの“取引”する為にお越しに成らはったんやろ?

せやから、ウチらの地域でその取引の“仲立(なかだ)ち”をさせて貰おうと思てます。


それに、取引の大小に関わらず天照様(アマテラスさま)にはお会いにならはるやろうし?


色々忙し成りますけど、ウチ(とこ)に任せて貰えたら苦労無く

全て(まる)う収めます……せやから安心しておくれやす」


「丸く収まるのはそれは助かりますけど……」


「……奥歯に物が(はさ)まった様な返事やねぇ?

緊張せえへんでええんよ? ……ウチの前でそない緊張してたら

天照様(アマテラスさま)に対してなら……心臓止まりはるんとちゃう? 」


「……そ、そうかも知れないですね!

と言うか、先程から(おっしゃ)っているその“天照様(アマテラスさま)”とは一体……」


「……あら? 知らはらへんかったんやね。


この国は大きいが故に、四方に分かれて統治(とうち)してるのは知ってはる?

……それで、各方位に統治者(とうちしゃ)るんやけど

その統治者(とうちしゃ)を選ばはったんも、この仕組みを考えはったんも天照様(アマテラスさま)なんよ。


……この“形”になるまで昔は(いくさ)が多かったんやけど

天照様(アマテラスさま)が今の形に(おさ)めはって

何とか均衡きんこうが取れた今の形に成ったんやけど

今度は全地域が――


天照様(アマテラスさま)のお過ごしに成られる地域に成りたい! ”


――って(いくさ)が起きかけてしもてねぇ。


争いが起きない様に定期的に色んな地域を移動されてはるんやけど

今は残念な事に、野蛮(やばん)な長の居はる“南地域”でお過ごしに成られてはるんよ。


……まぁ、もう少ししたらウチの地域に戻って来らはるんやけどね。


ただ正直、非礼になるかも知れへんけど

戻って来らはるよりも先に一度お呼び立てするべきかもしれへんね。


けど、南地域の長がなぁ……天照様をお呼びしたら

護衛代わりにあの鬱陶(うっとう)しいのんが付いて来るんやろうけど……


……ま、此処(ここ)はウチが我慢やね! 」


「に……苦手な相手って居ますもんね! 」


《――と気を()かせ

相槌(あいずち)程度にそう言ったつもりの主人公だったのだが――》


「……苦手も何も!


あんな野蛮人(やばんじん)が同じ長の職に()いとる事が

もうウチに対する侮辱(ぶじょく)と同じ事やと思てますぇ?!


……とは言え、天照様(アマテラスさま)が決めはった人選やし

実際強いのんは確かやから……仕方ないんやけどね」


「そ、そうなんですか……」

(……仕方無いって言いつつ今、凄い不満爆発な“表情(かお)”してた様な)


「……って、これ以上あんな野蛮人(やばんじん)の話してたら空気(わる)う成りますやんか!

取り敢えず……日之本皇国ウチ所との取引についてやけど

軽い流れだけでも今の内に済ませとかへん? 」


「えっと……あの……その……」


「……何やまだ奥歯に物が(はさ)まったまんまやねぇ?

まさか思うけど……ウチの所では“話したく無い話”って事や無いやろね? 」


《――嫌いな人物の話題の直後であったが(ゆえ)

(いささ)か不機嫌な様子のベニはそう言って主人公を見据(みす)えた。


一方、この状況に本当の事を言うべきか否かと苦悩し続けた(すえ)

主人公は(つい)に答えを出した――》


………


……



ベニさん、実は俺達……」


===第八十六話・終===

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