第七十七話「たどり着けたら楽勝ですか? ……中編」
《――路地裏に落ちていたボロ布で出来た“服”と
動物の死骸から体毛を剥ぎ取り作り上げた“付け髭”
……これらを嫌々ながらも装着し
噂を流す為、単身飲み屋の店内に入店した主人公。
だが、付け髭から放たれる耐え難い悪臭に耐える為か
口で息をしつつ、少し急ぎ足でカウンターへと向かっていった彼は――》
………
……
…
(そ、それにしても……くっ……臭ぇッ!!!
……まさかとは思うけど、入国審査で俺が動揺した事を根に持ってたから
わざわざこんな酷い変装道具にした訳じゃ……って、いかんいかん!
こんな事考えてる暇があったら“一刻も早く”作戦通りに噂を流すべきだ!
“一刻も早く”この臭いから逃れたいし!
……よし、カウンターに着いたぞ!
まずは……)
………
……
…
「ま、全くッ! ……さ、最悪な一日だったぜ!!!
おいマスター! 酒……の入って無い飲み物をくれッ! 」
《――大根な演技、且つ
少々“常識外れな大声で”そう注文をした主人公。
直後……怪訝な顔をした店主は無言でグラスにミルクを注ぐと
変装姿の主人公に対し、不機嫌そうにミルクを差し出しながら――》
「……旦那、ウチは飲み屋では有りますが
その様に大声を出されますと他のお客さんに迷惑が掛かります。
……少々で構いませんから、声のトーンを落として貰えますかな? 」
《――と、主人公を睨みながら
半ば脅しの様に注意を促した店主――》
「そ、それは済まなかったな! ……うぐっ! 」
(やばいっ! 鼻で息を吸うと地獄だッ……)
《――店主の威圧感
更には付け髭の悪臭と言う二重苦に酷く苦しそうな様子の主人公。
……そんな彼の様子を受け
それまで怪訝な表情を浮かべていた店主も
流石に彼を心配し始め――》
「お、お客さん……大丈夫ですか?
脂汗を流して……何処か具合でも悪いんで? 」
「い、いや、その……そう!
散々な目に遭ったんだよ! ……聞いて貰えるかい? マスター」
「え、ええ……お聞きして楽になると仰られるならば
幾らでもお聞き致しますが……」
「ああ、聞いて貰えたら楽になるとも! 」
(……って言うか聞いて貰えないと
ずっとこの“臭い髭”で苦しみ続ける事に成るんだよッ! )
《――などと考えつつ
“噂作戦”を開始した主人公――》
「俺さ……実は今日この国に来たばかりなんだが
“移動船”って言うのに乗って来たんだよ。
……マスターは知ってるかい? 」
「ええ、存じておりますよ?
“運賃が高額で大変だった! ”……と、飲みに来られる旅のお方から
耳にタコが出来る程に聞かされておりますのでね。
それと……私が見る限りですが、旦那は海賊にも“出会った”のでは?
衣服が少々、その……“傷んでおる”様に思いますのでね」
「ああ、出くわしたには出くわしたよ……だがそんな事よりも
その“海賊”について信じられない情報があるんだよ……
……聞いてくれるか? 」
「ええ、構いませんが……」
《――マスターはこの時
今まで幾度と無く旅行客から聞かされた話と
大差の無い話を聞かされるのだろうと高を括っていた。
だが、主人公の話す“とんでも無い”話を聞き進めるにつれ
次第に目の色を変え、前のめりに成り始めて居た――》
………
……
…
「……此処に到着するちょっと前なんだが
海のど真ん中で海賊船が海の藻屑に成ってたんだ。
海賊船の乗組員達は船の残骸を掴んで必死に耐えてる様子だったんだが
俺達の乗ってる移動船を見つけた途端……なんと!
俺らが乗ってた移動船に向かって
海賊船の乗組員達が大声で呼び掛けて来たんだよ!
……でも、それだけなら助けて貰いたいだけかなって思うだろ? 」
「ええ、そうですな」
「で! ……海賊達の叫んでる内容を詳しく聞いてたら
俺達が乗ってた移動船の船長を罵倒しててよ!!
更に聞いてたら、何と! ……海賊と手を組んでたらしいんだよ! 」
「何と?! ……それで?! 」
「まぁまぁ落ちついて! ……聞けば
俺達乗客の中に金持ちそうなのが乗ってる時には
必ず船長が海賊に連絡を入れてたらしいんだよ!
それで、海賊に待ち構えさせておいて捕まってしまった演技からの
海賊達は楽々金品強奪……って流れらしくてさ!
で! 挙げ句の果てに一人の海賊が――
“いつも協力してやってるのに見殺しにするつもりか!!”
――って、怒鳴っててさ!!
俺に言ってた訳じゃ無いとは言え、聞いてて震えたよ!
……けど更に恐ろしかったのは
ずっとそんな調子で騒いでる海賊達の発言を全く聞こえないフリして
全速力で逃げる様に船を加速しやがった船長が俺は一番恐ろしかったね!
お陰で今も若干船酔いが続いてて辛いんだよ~……まぁ
それでも幸運だったって言えるのは
海賊船があんな状態だったって事だけどさ?
だって……本来ならあれに襲われてたかもしれないんだぜ?
俺達は被害に合わなくて良かったって喜ぶべきなのかねぇ? マスター」
《――主人公が全てを話し終えた頃には
マスターだけに留まらず、この“とんでも無い”話を聞く為か
不自然な程に主人公に近付き、聞き耳を立てる者達の姿が多数見られた。
一方……一頻り噂話を流した後
飲み物の代金を支払うと足早に店を後にした主人公。
この後、ギュンターの目論見通り
主人公の立ち去った店内では
主人公の流した噂話でざわつき始めて居た――》
………
……
…
《――その一方
飲み屋を後にした主人公は皆の待つ路地裏へ急ぎ
真っ先に鼻の下に付けた変装用の付け髭を投げ捨てると
自らに対し威力を極限まで下げた水珠を幾度と無く放ち
その水で必死に顔を洗っていたのだった……ともあれ。
暫くの後――》
………
……
…
「ふぅ、少しは臭いも取れた……けどまだ少し臭うな。
最悪だ……」
《――気疲れと臭いで辟易していた主人公に対し
労いの言葉を掛けつつハンカチを差し出したメル――》
「ああ、有難うメル……まぁ本当なら
石鹸で顔を洗いたかったけど今は仕方無いね。
取り敢えず……テル君のお家に行く事を優先しよう! 」
「了解! ……けど、ここからだとちょっと遠いから
……甲冑のお姉ちゃん!
“さっきみたいな感じで”主人公兄ちゃんをお願い! 」
「ええ! お安い御用です! 」
「へっ?! ……」
《――例に依って、マリアの肩に担がれた主人公。
ともあれ……この後
テルに同行し彼の生家へと向かう事と成った一行――》
………
……
…
《――その一方
主人公が噂を流してから数時間後の飲み屋。
移動船の船長から命令を受けた船員は
噂の出処であるこの飲み屋に立ち寄ると
噂を流した人物の人相を訊ねて回っていた。
だが……彼に対し正確な情報を伝える者は誰一人として居なかった。
この違和感を感じさせる状況は
ある意味では“当然”と言うべき状況だった――
“我々の移動船、並びに船長に関する荒唐無稽な噂を流した
不届き者の特徴を知っている者はぜひ教えて貰いたい! ”
――そう訊ねて回った所で
そもそも真実を伝えようと思う者など何処にも居なかったのだ。
それどころか、船員に対し――
“お前、あの船の乗組員だよな? ……噂は本当か?
って聞いても、もみ消しに来た位だ……本当の事を言う訳ねぇよな!! ”
――と、船員を嘲笑の的にする者まで現れ始め
寧ろ火に油を注ぐ結果となり始めた頃
船員は逃げる様にその場を立ち去ったのだった――》
………
……
…
《――その一方
マリアの肩に担がれ運ばれていた主人公の“哀愁漂う落胆っぷり”と共に
一行はテルの案内に従い長い道のりを進んでいた。
だが、暫く進んだ頃“色々と”耐えられなく成った様子の主人公は――》
「あ、あのさ……ちょっと出費には成ると思うんだけど
この大人数で歩きって言うのも色々と目立ち過ぎてるし……と言うか
道行く子供にも指さして笑われたし……かと言って
オベリスクでこの国を進むのは“偽装状態”でも色々問題が有るのも分かってる。
けどさ……丁度其処に“荷馬車屋”が有る事だし?
……借りるか買うかしてくれないかな?
俺も担がれっぱなしは流石に恥ずかしいし
それに、その……こ、子供達だって歩き通しだし?! ……ねっ!? 」
《――主人公の必死の要求に
この時“旅の財布”を預かって居たギュンターは立ち止まり――
“仕方有りませんね……ではそう致しましょう”
――そう少し冷たく言うと荷馬車屋へと向かったのだった。
一方……これまでギュンターの一連の行動を静かに見つめていたディーンは
荷馬車を数台購入した後、一行の元へと戻ったギュンターに対し
静かに耳打ちをした――》
………
……
…
「ギュンター……お前が考えている事は良く分かっている。
だが……あまり主人公の事を責めてやるな、彼は出来た男だが
その反面、年相応な所も持ち合わせている。
……そしてギュンターよ、お前が気にしている主人公の“未熟さ”だが
彼のそんな所に私達は救われたのだぞ?
悪いと思う点だけを責め過ぎず、主人公を成長させる程度に留めるのだ。
……お前の教育熱心には私も鍛えられたし感謝もしている。
だが、彼の教育はまたの機会にしてやって欲しい……頼めるな? 」
「承知致しました」
《――この後
荷馬車へと乗り込んだ一行はテルとサナの生家を目指し出発し
舗装された道を軽快に進んでいた……だが、数時間程進み
尚たどり着かない事に疑問を感じた主人公はテルに対し――
“家はどの辺なの?”
――と訊ね、それに対しテルは
“あと数時間位したら着くと思うよ!”
と、満面の笑みで答えた。
この直後……“日之本皇国”の広大さに驚き
“間の抜けた表情”を浮かべた主人公。
だが、テルに取っては大層愉快な光景だった様で……直後
彼は、自らが知りうる限りの知識を披露し始めた――》
「主人公兄ちゃん達は知らないかもだからおいらが説明してあげるよ!
まず、この国はとぉ~っても広いんだ!
って、まぁ……見れば分かるか。
で! 広過ぎる位広いから、領地が大きく四つ“東西南北”に分かれてて
おいら達が居るこっち側が東
ここからもっとも~っと西側に進むと巨大な門があって
その門の向こうに西と南と北へ行ける分かれ道が有るんだ~」
《――との説明を受けた一行の内
“と言う事は、そのどれかが和風って可能性も有るって事か? ”
と考えた主人公は――
“他の地域の町並みって……此方と違ったりするの? ”
――と、少し緊張気味に訊ねた。
すると――》
「う~ん……行った事無いから分かんないや!
でも、門を通り抜ける為には
もう一回さっきみたいな審査を受けないと駄目らしいよ? 」
「そうなのか……まぁ、同じ条件で通り抜けられるなら嬉しいけど
条件とかって一緒だったり……」
「えっと……ごめんね主人公兄ちゃん、其処までは流石に分かんないや」
「い、いやありがとう! ……有用な情報ばかりで助かったよ! 」
「良かった~! おいら主人公兄ちゃん達の役に立てたんだね! 」
「ああ! 凄く助かってるよ! ……ありがとう! 」
《――主人公に礼を言われた事で
テルの表情はより一層得意げな物と成ったのだった。
ともあれ……暫くの後、一行を乗せた荷馬車は
ついに彼らの生家へと到着し――》
………
……
…
《――荷馬車を降りた一行の眼前には
広大な土地に広がる畑と、小さな一軒家が建っていた――》
「……此処がテル君達の家かい? 」
「う、うん……でも何年も会ってないからさ……
……元気かな? 父ちゃんと母ちゃん」
《――そう言ったテルに対し
“大丈夫、きっと君達二人の帰りを待ってる筈だから
二人を喜ばせたいなら、元気良くただいま! ……って言うんだ”
と、彼を勇気付けた主人公……暫くの後
テルとサナは緊張した面持ちで一軒家の玄関扉を叩き――
“……父ちゃん!……母ちゃん!……ただいま!! ”
“お父さん!お母さん!……ただいま! ”
――と、叫ぶ様な大声で元気に呼び掛けた。
直後……慌てた声と激しい足音の後、勢い良く開かれた玄関の扉。
……扉を開くなり二人を確認し、目に涙を浮かべると何も言わず
ただ崩れ落ちる様に二人を強く抱き締めた彼らの両親。
テルとサナも涙を流し、嗚咽混じりな声で
何度も何度も――
“寂しかったよ……会いたかったよ……”
――と、再会の喜びを噛み締めて居たのだった。
一方……そんな感動の再会を静かに見つめて居た主人公は
自らの幼少期を思い出していて――》
―――
――
―
「……うわぁぁぁぁん! ……母ちゃ~ん!!!
怖い鬼さんが出たんだよぉ~!! 」
「あらあら……怖い夢を見ちゃったのね。
大丈夫よ……いい子……いい子……お母さんがちゃんと側に居るから
貴方を悪い鬼さんからちゃんと護ってあげるから
大丈夫……大丈夫……いい子……いい子……」
―
――
―――
(……懐かしいな。
しょっちゅう怖い夢を見ては飛び起きて泣いてた俺を
毎回泣き止むまで抱き締めてくれてたっけ。
……父さんは逆に
俺が落ち着いて眠りにつき始めた頃に飛び起きて――
“大丈夫かぁぁぁっ!? ”
――って、夜中だってのに近所迷惑な大声出して母さんに怒られてたっけ。
でも結局……父さんも母さんもやり方が違ってただけで
俺の事、本気で心配してくれてたんだよな……
……テル君とサナちゃん
ちゃんとご両親と再会させられて良かった……本当に……)
………
……
…
「それでね! ……おいら達が無事に帰ってこられたのは
後ろに居る主人公兄ちゃん達のお陰なんだ~! 」
《――テルからそう説明を受けた両親は一行に対し
“どう御礼をすれば……”
と、恐縮しつつそう訊ねた
だが礼など一切受け取るつもりの無い一行は笑顔でこれを断った。
その上で――》
「……喜ぶ二人とご両親の事を見てると
何だか俺も楽しかった昔を思い出しましたしそれだけでも充分なお礼です。
それに……俺達にお礼をする為に時間を使う位なら
久しぶりに再会出来た子供達と思う存分仲良くする事に時間を使って下さい。
俺達も……って言うか俺がですけど、この国での探し物を終わらせて
一刻も早く母国へと帰りたく成ったので! 」
《――そう言った主人公に対し
不思議そうに理由を訊ねた両親、すると――》
「い、いえその……素敵な親子関係を見てると
唯でさえ“魔導通信”出来なくて若干ホームシック気味なのに
余計に早く帰りたいって思いが強くなっちゃいまして!
親離れ出来ない子供みたいで……ちょっと恥ずかしいんですけどね! 」
《――少し顔を赤くしつつそう言った主人公。
だが、その背後で口を抑え
明らかに笑いを堪えているマリアの様子に気付いた主人公は
彼女に対し――》
「お前なぁっ!! いい加減にしないと……も、揉むぞ!? 」
《――と、何時もの様に言い放ったのだった。
だが“タイミングが悪い”とは正にこの事と言わんばかりに
“完全なる下ネタ”を子供の前で聞かされた両親の顔は引き攣り……
……その事に気がついた主人公は大慌てし始め
その滑稽な様子にとうとう耐えられなく成ったマリアが
吹き出す様に大笑いし……それに釣られた者達に依って
この場はいつの間にか笑顔の輪に包まれたのであった。
……ともあれ。
暫くの後――》
………
……
…
「皆笑い過ぎだから! ……っと、俺達は急ぎの旅でもありまして
取り急ぎお訊ねしたい事が有るんですが……」
《――直後
両親に対し“絵本”の事や“内容”
作者の事などを訊ねた主人公だったが
少なくとも東側では似たものすら見た事は無いらしく……
……そんな返事に少し肩を落とした主人公。
そんな中、メルは――》
「……折角目的の国に居るんですから
満足行くまで調べて、それでも無かったら帰還すれば良いんですっ!
たとえ何も見つからなかったとしても
今日まで旅した時間は無駄じゃ無い筈です。
……沢山苦労もしましたけど、沢山楽しい事も経験したじゃないですか!
だから……元気をだしてください主人公さんっ! 」
《――そう主人公を励ました。
一方……今までの旅を思い返し
そして、メルの発言に後押しされる様に
心の折れ掛けて居た自分を戒めるかの様に――》
「……ああ! せっかくだから隅から隅まで調べて
たとえ俺の求める情報が無かったとしても
政令国家に帰ってから皆に土産話が山程出来る様に頑張らなきゃな!
後は……この国で土産物を買って帰るとか! 」
《――そう、自らを鼓舞するかの様な宣言をしたのだった。
ともあれ……そんな“宣言”から暫く経ち夜も更けてきた頃
空腹を訴える子供達の声が目立ち始め――》
………
……
…
「あ~……確かに入国してから全く食事の時間が無かったよね
言われてみたら俺もお腹ペッコペコだわ……」
《――そう言った主人公に対し
二人の両親は“大恩人である皆様の為でしたら! ”と
慌てて料理の用意をしようとした……だが。
子供達を含めればかなりの大所帯であり――
“いえ、これだけ大人数の胃袋を満たす程の食事を
お二人にに用意させるのは申し訳無いとかのレベルでは無いので……”
――と、この申し出を断った一方で
オベリスクにたんまりとある“備蓄食料”を思い浮かべていた主人公。
この後、暫くの間解決法に頭を悩ませていた彼は――
“広大な土地に彼らの家が一軒だけと言う好立地、そして
周囲に人の気配も無く、両親も一行を信頼している”
――と言う事を鑑みた上で、両親に対し
“他言無用で”と言う約束でオベリスクを出現させ
宿代の節約も兼ね、オベリスクを本日の宿としたのだった。
その一方で――》
………
……
…
「……いや~しかし
いきなり新たな荷馬車が出現したかと思ったら
あれだけの大人数が全員入って行ったが
あれはどう言う仕組み……いや、魔導なんだろうね?
まあ何れにしても
凄い魔導師様の集まりなのだろうとは思うけどな! ……」
《――と、不思議そうにだが上機嫌に語った二人の父親
そんな父に対しテルは得意げに――》
「えっとね……おいら乗せて貰ったから知ってるけど!
あの中凄っっっっごく! 広いんだよ?!
中の作りがね~……」
《――そう説明し掛けた瞬間
サナに“ディーンとの約束”を耳打ちされた事で
冷や汗を流しつつ両親に対し――》
「い、今の話は……聞かなかった事にして!
主人公兄ちゃん達が困っちゃうから! 」
《――と、慌てた様子で説明する事を止めたのだった。
ともあれ……翌日。
一晩をオベリスクで過ごした一行は
船内で朝食を取りつつ、この国の探索方法について話し合っていて――》
………
……
…
「取り敢えずはこの国の全体地図みたいな物が欲しいな。
見た限り東地域側には“日本的な物”は無さそうだけど
これで他地域に行ってそっちにもそれらしい物が無かったら
それこそ辛いし、ある程度“前情報”が欲しいって言うか……」
《――そう語りつつ朝食のパンを口に運んで居た主人公
だがグランガルドは“別の側面”から物事を見ていた様で――》
「心中察するが……
……それはそうと、荷馬車に揺られこの場所に来るまでの間
吾輩は……ぼんやりでは有るが町並みと人々を観察していてな。
それで一つの仮説を立てたのだが……言っても構わんだろうか? 」
「勿論! ……どんな仮説だい? 」
「この国は魔導師が極端に少ない、ともすれば……
……“意図的に排除している”のではと疑う程に」
「こ、怖い事言うね……どうしてそう思ったの? 」
「……あくまで吾輩が道行く者達を見ていた限りだが
腰に剣を下げ歩く者は数あれど斧や棍棒
弓等の武器すら持つ者は少なく、魔導師らしき者など殆ど見かけなかった。
更に言えば“入国審査官”の言った言葉が気に掛かっていてな」
「それってもしかして、俺が言われた……」
「ああ……“トライスターやその他魔導師程度で”
と言い放ったあの自信満々な態度がどうにも引っ掛かって居るのだ。
奴は確か……“豪剣のミカド”と言っていたが
奴の言葉をそのまま受け取るなら……魔導師や
その中でもエリートで有る筈のトライスターを
“程度”と吐き捨てる腕前の者を有していると言う事に成る。
その上“剣豪”と呼ばれる存在も多数居る様な口振りだった。
……今の所平和を感じる国では有るが、吾輩はどうにも
この国に全幅の信頼を置くには危ういとも感じて居るのだ。
思い出したくも無い話ではあるが……何時ぞやの様に
“魔導を封じる術”を持って居る可能性も捨てきれぬと考えている」
「……確かにその可能性はあるね。
でも、顔洗う時に水珠は使えたし
少なくとも“常に封じられてる! ”……みたいな事は無さそうかな?
……まぁ、考え過ぎても動けなくなっちゃうし
自縄自縛に成らない様に、程々の警戒で動いてみようよ! 」
「うむ……」
《――この時、グランガルドは少し不満そうに返事を返した。
……ともあれ、暫くの後
食事も終わり、再び日之元皇国を探索に戻る事を決めた一行は
テルとサナ……二人の両親に別れを告げ
オベリスクを収納し再び荷馬車へと乗り換えるとこの場所を後にした――》
………
……
…
《――暫くの後
他地域の探索を考え、荷馬車に揺られていた一行は……その道中
何やら大勢の民達が集まり騒がしく成っている場所を通り掛かった。
……状況を把握する為、荷馬車の速度を少し落とし
“騒がしい場所”へと目を凝らしていると――》
………
……
…
「お、お待ち下さい! ……う、噂だけで私を罰するなど! 」
「……では、噂は全くの嘘だと言うのだな? 」
「は、はい! ……勿論でございます! 私も迷惑しておりまして……」
《――“移動船”の船長、並びに船員達は捕縛され
衆人環視の中、尋問を受けていた――》
「……では、もう一つ聞こう。
貴様の任されている“移動船”についてだが
何故、魔導増幅効果の高い魔導水晶が“船長室”に置かれている?
……海を隔てればどれだけ“魔導水晶”を置いた所で
対岸の国から我が国までの通信には至らぬ筈……だが。
あの量ならば“貴様の船を利用した”と言う飲み屋の客から漏れ聞こえた
“噂の海域”程度ならば連絡を入れられるだろう。
其処で……改めて問おう。
何故“魔導水晶”をあの様に大量に“船長室に”……置いている? 」
「そ、それは……」
《――尋問を行う女性の気迫に押され口籠って居た船長。
そんな彼の様子を荷馬車越しに見つめていた一行……だが
一行に気がついた船長は……突如として“一行の荷馬車”を指差し――》
………
……
…
「……や、奴らですッ!!!
わ、私よりもあの者達をお裁き下さい!
あの者達は私の船が出港する直前
港でこの国の事を執拗に嗅ぎ回っておりました!
そ、その上! ……私の船には誰一人乗船して居なかった!
では……一体どうやってこの国までたどり着く事が出来たのか!?
“オンボロ木造船”では到底この国にまで辿り着く事は叶いません!
きっと……そう!
か……海賊と取引でもしたに違い有りません!
恐らくは奴らが私を隠れ蓑にする為
良からぬ噂を流したに違いありませんッ!!
で、ですから! ……」
《――“溺れる者は藁をも掴む”
とでも形容すべきだろうか……
……船長は一行の乗る荷馬車を指差し
必死の形相で尋問を行う女性の機嫌を伺っていた。
そして――》
………
……
…
「良かろう……確かに、異様な程の大所帯では有る。
……其処ッ!
隊列を組んだ荷馬車に乗る者達よッ!
面倒だろうが……素直にこちらに来て貰おうッ! 」
《――直後
尋問を行って居た女性は一行に対しそう言い放ち……瞬間
多数の兵に取り囲まれた一行は
半ば強制的に女性の居る場所へと誘導され始め――》
===第七十七話・終===




