第七十一話「楽勝を奪われたとしたなら……前編」
《――マリーンを人質に取られ、騒然とする船内。
ディーンは自らに責任があると考えていた――》
………
……
…
「全て私の所為だ……済まないッ!! 」
「……頭を上げてくれディーン。
責めるつもりは無いしそもそもそんな暇は無い。
それよりも確認しておきたい事が幾つか有る
先ずは彼女の事を詳しく教えて欲しい。
出来る限り、いや……“全て”」
《――真っ直ぐに彼を見つめ
そう言った主人公――》
「……彼女の名はエデン、先程も言ったが私の妹だ。
だが、彼女は魔族に襲われ死んだ筈……
……何故生きているのかすら判らないが
少なくとも“他人の空似”などでは無い……」
「分かった……じゃあ次はディーン達の居た国について教えてくれ
ディーン達は其処で身体や魔導の流れを
“改造された”と言ってたよな? ……覚えている範囲で構わない。
……ディーン達の他に
改造を施されたと思しき人達を見た事は? 」
「……“改造兵”と呼ばれる者達ならば数十体程
戦闘訓練をしていた時に見かけたが……あれは大した戦力では無い筈だ。
だが……それとは別に、私達には立ち入れない区画が有り
其処に私達とは別の“研究対象”が居る……と言う様な噂を聞いた事が有る。
だが詳しい事までは判らない……役に立てず済まない」
「大丈夫だ……さて、今分かる事はこれ位か
後は……いや、深く考えなくても大丈夫だ。
俺達は唯マリーンを救って旅に戻るだけ――
“任務:囚われの姫を助けに行く! ”
――って感じのゲームでもしてる位の気持ちでさ
深く考え過ぎず動けば案外簡単に助け出せる筈だ。
だから……」
《――冷静を装い、空元気をして見せた主人公
誰よりも焦りと不安を感じているその事実を隠そうとしたのか
そうでもして居なければ不安で押し潰されそうだったのか……
……一方、そんな主人公の姿を
間近で見ていたグランガルドは――》
………
……
…
「ディーンよ……一つ聞かせて貰おう。
これは仮定の話では無い……御主の胸にある真実だけを答えよ。
……御主の妹君が生きて居た事は
吾輩も自分の事の様に嬉しく思って居る……だが。
……マリーンを助ける為、妹君を“諦めなければ”成らない時
御主は一体何方を取る腹積もりか……
……答えよ」
《――そう、訊ねた。
無論、安易に答えが出せる様な問題では無い事など
訊ねたグランガルド自身が一番理解していた。
だが……それでも、ディーンの目を見据えたまま
唯、彼が答えるのを待っていたグランガルド。
そして――》
「わ、私は……」
………
……
…
「……待ったッ!!!
ディーン……その質問には答えないでくれ。
それから、ガルド……申し訳無いけどその質問は無かった事にしてくれ。
……俺の所為でこんな辛い役目を
ガルドに背負わせる羽目に成ったんだって事も痛い程分かってる。
本当にすまない……だけど。
……理由はどうあれ、ガルドの様に優しい男の口から
命に貴賤をつける様な言葉を聞きたくは無いんだ。
俺は何時も自分勝手で、矛盾した事ばかり言ってるし
此処の所の俺はずっと甘い事ばかり言ってるって理解してる。
けど、それでも駄目なんだよ……比べちゃ……駄目なんだ。
ごめん……不甲斐無くて、我儘ばかりで……すまない」
「……いや。
吾輩も少し気が動転していた様だ……以後気をつける。
“何れも助ける”……それで良いのだな? 」
「ああ……そう言う事で頼む。
……それと、ガルドが謝る事は無いよ
俺の方こそ嫌な立場に立たせてすまなかった、もっと俺が……」
「ハイ! ハイ! ハイ! ……ストーップッ!!!!!
……って言うか皆さん重く考え過ぎでは?
要するに今やるべき事は、私の“斧りんマークⅡ”で無理も道理も纏めて
ぜ~んぶ! ……ぶった切っちゃえば良いって事ですよ!! 」
《――“双之斧”を構えそう言い放ったマリア
直後――》
………
……
…
「あぁ! ……そう言う事だ!
“マリアーバリアン”の異名を全世界に轟かせてやれ!! 」
「はい! ……って
思わず返事しちゃったじゃないですか主人公さんッ!!
もぉ~っ! ……語呂が悪いっ! 」
「うむ……吾輩もその考え、嫌いでは無いぞマリア殿。
吾輩達は今まで幾多の困難を乗り越えて来た
誰一人失わず連れ帰る事など……容易い筈」
「ああ……ガルドの言う通りだ!
たとえどんな罠や困難があったとしても
俺達はマリーンとエデンさんを無事に連れ帰る。
それに……良く考えたら、政令国家に現れたあの“白衣姿”の敵
アイツに自白させた防衛設備の場所だって役立つじゃないか!
……もし仮に役に立たなくても良い。
何をしてでもマリーンとエデンさんの事を助ける
その為なら“悪魔にでも何にでも成ってやる”って覚悟で挑めば
どんな事でも必ず成せる筈だッ!! 」
<――マリアの発言は凄まじい起爆剤と成り
俺達の心希望と言う名の大火を灯した。
その激しい炎はこの場にいる魔族達や子供達までをも熱くさせた。
……とは言え、この戦いに子供達を連れて行く訳には行かない。
この後……二人を助け出し、俺達が再び集落に戻るまでの間
子供達の事を集落で預かって貰える様、魔族達に頼んだ俺。
無論、彼らからも協力希望者は多数出たが――>
………
……
…
「そ、その……お気持ちだけって事で!
そもそもさっきの戦いで痛い程分かりましたが
奴らと戦うには、オベリスクの“限界性能”が鍵だと思うので
正直に言えば俺達の重量でもギリギリじゃ無いのかなと!
……それこそ、備蓄食料すら全部下ろしたい位なので!
兎に角……そう言う事なので!
皆さんはこの集落で子供達を護って居て下さい。
心配無用です! ……必ず全員笑顔で帰って来ますからッ! 」
<――この時、俺は
集落の魔族達に対しとても大きな“嘘”をついた。
俺は……“万が一”を考えて居たのだ。
万が一……俺達が全滅の憂き目に遭ったとしても
彼らならば子供達を立派に護ってくれるだろう。
とは言え……育ち盛りの子供達ばかりだ。
少しでも食料に困らない様、出来る限りの食料は置いていこう……
……これだけの食料が有れば直ぐには困らないだろう。
そう、考えたのだ――>
………
……
…
「ふム……それならば仕方あるまイ。
安心しロ、子供達は必ず守ル……お前タチなら勝てル」
「はい! ……必ず」
<――暫くの後
集落での別れを済ませた俺達は……救出作戦実行の為
ディーン達の出身国“ロミエル法王国”へ向かう事と成った。
……直後
静かに発進したオベリスク……背後に見える魔族達は祈りを捧げ
子供達は此方に向かい――
“頑張れぇぇぇぇっ!! ”
“負けるなぁ~~っ!!! ”
“マリアーバリアンのお姉ちゃ~~んっ!!
悪い奴らをぶっ飛ばせぇぇ~っ!! ”
――そう
俺達が見えなくなるまで叫んでいた――>
………
……
…
「“たまに”……ですけど。
たまになら……“語呂が悪くても”良いかもですね」
<――少しだけ前置きを強調しつつも
マリアはそう呟き――>
「ああ……とは言え、無事に帰ったら
子供達からもっと沢山“そう”呼ばれると思うけどな」
<――そう俺が返すと
“うむ……覚悟しておいた方が良いだろうな”
そう言って笑ったガルド――>
………
……
…
《――それぞれの決意を胸にロミエル法王国を目指していた一行。
一方、研究所では――》
………
……
…
「私は“D.E.E.Nシリーズを連れ帰れ”と命じた筈……その娘は一体何だ? 」
「……お言葉ですが所長?
この娘は奴らを誘き出す為の、言わば……“罠”
この場所に誘い込みさえすれば、あの不良品達に……いえ。
D.E.E.Nシリーズに協力していた不愉快な“子供”の異常な能力を
大幅に弱体化させる事が出来る筈と考えたのですわ?
と言う事で……作戦を円滑に進める為です。
“例の装置”の使用許可……頂けますかしら? 」
《――所長に対し
そう注文をつけたエデン――》
「“子供”だと? ……何者だ? 」
「……D.E.E.Nシリーズに協力し、規格外の魔導適性を持ち
妙な服を着た不愉快な子供……としかご説明出来ませんわ?
詳しくお知りになりたいのであれば
ご自分でお確かめに成られた方が宜しいのでは?
少なくとも……あの装置を出し惜しみすれば勝てるものも勝てませんわよ? 」
「生意気な口を……だが、興味深い
有用であれば研究材料としてその子供が使えるやも知れん。
装置の使用は許可しよう……だが。
必ず全員捕らえる事が条件だ、失敗は許さん……良いな? 」
「ええ……仰せのままに。
ですが、その前に“もう一つだけ”お願いがございますの……」
「何だ? ……まだ他にも“使いたい道具がある”とでも言うつもりか? 」
「いえ……その、私も部下も……少々“空腹”でして……」
「……成程。
おい、其処のお前……E.D.E.Nシリーズに“食事”を用意してやれ」
「はっ! ……直ぐにお持ちします! 」
「……待てッ!! まさか此処に持ってくるつもりか?
馬鹿がッ!!! ……第二研究室に運べッ! 」
「し、失礼を! ……」
「……無能が。
まぁ良い……すまんが私はお前達の“食事方法”を見るのが少々苦手でな
とは言え、食事を取らせず敗北されては元も子も無い。
好きなだけ喰らうが良い……だが失敗だけは許さん
私の顔に泥を塗る様な事に成れば貴様らは“廃棄処分”だ。
良いな? ……肝に銘じろ」
「……私達の実力の全てを遺憾無く発揮し
私達が最も有用であると所長様にお認め頂ける様
誠心誠意努めさせて頂きますわ! 」
「ふむ、良い心掛けだ……おっと、その“小娘”は此方で預かろう。
ん? ……この娘“半魔族”か?
これは、面白いッ!! ……」
………
……
…
《――引き続きロミエル法王国を目指し
一直線に森を突き抜け驀進していたオベリスク。
そんな中……一人、甲板に立ち周囲を見渡して居た主人公。
……砂塵巻き上がる中、目を凝らし
周囲を注意深く観察していた彼の目に飛び込んで来た光景
それは――
殆ど原型を留めて居ない
大量の“人間の死体”であった。
――直後、強い吐き気を覚えた主人公。
だが、更に観察を続け……この惨状を
“魔族の食事に依る物である”と結論付けた。
その上で――》
………
……
…
「この状況……周囲に魔族が居るって事か?
今だけは絶対に遭遇したくないが、こう言う時に限って……
……そう考えたら、念の為に防衛魔導の展開はして置くべきか?
いや、此処で無駄に魔導力を消費したら……くそッ!!
……落ち着け俺ッ! 焦ったら失敗するッ!!
失敗したらマリーンは……くそッ!
……何馬鹿な事を考えてんだよ俺はッ!!!
落ち着けったら落ち着け俺……
……先ずはあの国の防衛設備を思い出す事が先決だ。
あの国の防衛設備は……」
《――今にも押し潰されそうな不安と戦いながら
ありと汎ゆる可能性と、その対応策を考えて居た主人公。
だが……この直後
突如として何かを思い出した彼は、慌てて操縦室へと戻り――》
………
……
…
「……ギュンターさんッ!
俺、思い出したんです! ……ギュンターさんが教えてくれた
オベリスクの“変形”……
……その変形の中で、唯一俺達が見た事の無い型が一つ有った事を!
ギュンターさん……“暴れ馬型”は一体どんな能力を持っているんです? 」
《――この質問に対し
暫く考えた後、少し微笑むと――
“妙案見つけたり”
――と言わんばかりの表情を見せたギュンター
彼は――》
「……暴れ馬型でございますか。
“あれ”の特徴をお伝えするならば――
“如何なる障害をも撥ね飛ばす”
――と言うのが適切かと。
無論、この圧倒的不利な状況を打破する突破口ともなり得るでしょう。
ですが……」
「……欠点があると? 」
「ええ……強大な力を持つが故に、一度起動すれば
私めの操舵を一切受け付けぬ様に成ってしまいます。
その為、仮の話ではありますが……敵方の反撃が想定を下回り
開放した能力を発揮しきらず、万が一持て余す様な事態と成った場合
制御不能状態のまま暴走を続け……オベリスクは
二度と起動しなく成ってしまうのです。
ですが、例えその様な結果に終わるとしても……ディーン様。
……暴れ馬型の使用許可を頂けますでしょうか? 」
《――主人公から暴れ馬型の事を訊ねられた時点、いや
恐らくは、それよりも前にそうする事を決めていたのだろう。
彼は……何一つとして後悔の無い
清々しさすら感じる程の表情で、ディーンに対し使用許可を求めた。
……そして
その覚悟を受け取る様に――》
………
……
…
「……お前の船だ、私の許可など要らない
お前がそう判断をしたのならば……私からは何も言う事など無い」
「ディーン様……この船は、私めの“全て”で御座います
半端な幕引きを迎えるつもりなど……
……断じて、御座いません」
「……良く言ったギュンター
ならば……私達の大切な仲間であるマリーン、並びに妹を救う為。
そして、あの“研究所”を……完膚無き迄
再起不能な迄に……
……私達の様な者達をこれ以上作り出させぬ為
全力を以て叩き潰す事を命令する。
その力を有するこの“鍵”は……お前に返そう」
<――直後
懐からメダルの様な物を取り出し
それをギュンターさんに手渡したディーン。
そして……メダルを強く握り締めると大きく深呼吸をしたギュンターさんは
舵を撫でた後、まるで“永久の別れ”の様な表情を浮かべた。
……“人馬一体”と言う言葉があるが
ギュンターさんとオベリスクの関係性は、まさにそれだと思う。
この直後、ギュンターさんが舵を強く握り締めると
オベリスクはそれに呼応する様に加速を強めた……だが、同時に
……ギュンターさんに“暴れ馬型”の事を訊ねてしまった所為で
ギュンターさんの“全て”を奪う事に成るかも知れないと考えていた俺は
この事を酷く後悔し始めていた――>
………
……
…
「……オベリスクよ、楽しいですね。
さて……皆様、ご着席を。
“揺れる”……などと
その様に“生易しい”物では済みませんので」
<――ギュンターさんはそう言うと
手にしていた小さなメダルを舵の中心に嵌め込んだ。
そして――>
………
……
…
「地上戦艦オベリスク:暴れ馬型“完全開放”ッ!! ――
――敵はロミエル法王国とそれに与する全ての者達ッ!
我らの眼前に立ちはだかる全ての者を
完膚無き迄に踏み潰すのですッ! ――」
<――瞬間
激しく軋み始めた船体
その音は……宛ら
“馬の嘶き”の様だった――>
………
……
…
「……ぬわぁぁっ!?
何だこれッ?! ……揺れとかってレベルじゃ……無いッ!!
まるで攻撃でも受けてるみたいな……って?!
なっ?! ……そ、空ッ?! 」
<――窓の外を見た瞬間気がついた。
俺達は……いや、オベリスクが“空を飛んでいる”事に
転生前“飛行機は無し”と設定した筈のこの世界で
“地上戦艦が”空を飛んでいる事に――>
………
……
…
「主人公様……暴れる馬は“空を飛ぶかの様に”走る物でございます」
「い、いや飛ぶ“かの様”って次元じゃ無くて
明らかに実際飛んでますし……って、これなら“上”から狙えるんじゃ?! 」
「……ええ、充分に可能でしょう。
さて……そろそろロミエル法王国が見えてくる筈で御座います。
皆様、ご準備を……」
「はいッ! 皆ッ! 戦闘準備を! ……」
「……お待ちを。
そうでは御座いません……激しい揺れと衝撃への
“ご準備を”……と申したのです。
全て“この子”にお任せください……
……皆様は、改めて椅子に深く座り直して頂けますと幸いで御座います」
<――俺達に微笑みながらそう言ったギュンターさん。
俺達はその指示通り、椅子により一層深く腰を掛け
ロミエル法王国への到着を待って居た。
すると――>
「いよいよですか……オベリスク、任せましたよ」
<――直後
舵から手を離し、自らも深く座ったギュンターさん。
……この時の彼は
まるで“ティータイム”かの様に落ち着き払って居た――>
………
……
…
《――突如として研究所に響き渡った轟音と激しい揺れ
警告音が鳴り響き、突然の事に慌てふためく研究員達
建物を襲う轟音と揺れは次第に激しさを増していた……だが。
そんな中、研究所内でただ一人冷静な男が居た――
“どうやらお前の仲間が来た様だ……えらく派手な登場でな”
――意識の無いマリーンに対し
そう声を掛けた男は所長であった――》
………
……
…
《――同時刻
数多の兵や防衛設備を物ともせず……正門を破壊し
ロミエル法王国内部に侵入したオベリスクは
周囲の建物や設備を次々と薙ぎ倒しながら驀進していた――》
「な、何も街路樹まで焼き払わなくても……」
《――文字通り“暴れ馬”の如き暴走振りに
思わずそう声を漏らした主人公。
だが――》
「ええ確かに……能率を考えれば少々無駄が多い動きで御座います。
ですが……此方の操作は受け付けませんのでご了承を」
「あ、いえその……す、すみません」
《――この後も“一切の区別無く”
目につく全てを破壊し尽くしたオベリスク……
……ロミエルの防衛設備は全く歯が立たず
次々と破壊され、再起不能な迄の大損害を与えられて居た。
だが……研究所の入り口に差し掛かった瞬間
突如として、オベリスクは“強制解除”された――》
「……へっ?
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?! ……」
………
……
…
「……やはりこの“装置”はとても便利ですわね~♪
まあ、その代わり……此方も戦艦を使えなくなりますけれど? 」
《――研究所前
妙な装置を右手に持ち、そう言ったのは“エデン”であった。
一方……“強制解除”されたオベリスクから“投げ出され”て居た一行は
受け身程度では逃しきれない衝撃を受けていた。
だが……そんな彼らの中にあり
逸早く燕尾服に付いた泥を払いながら
立ち上がった者が居た――》
………
……
…
「私めと……私めの“船”の覚悟に泥を塗る行い。
これは……貴女方の仕業ですな? 」
《――静かなる殺気を放ちそう発したのは
ギュンターであった――》
………
……
…
「まぁ怖い、ですが……不良品の覚悟など、知りませんわ? 」
《――不遜な態度でそう返したエデン
一方、ディーンは――》
「ぐっ……エデン……マリーン君を返すんだ……
……もしもあの所長の“呪い”に脅されて居るのなら
それを消し去る事も……充分に……可能だ……ッ……
……主人公の力なら
全員を助ける事が出来る……エデン……昔の……様に……
兄妹仲良く……暮らそう……」
《――痛みを堪え、必死に説得を試みて居たディーン
だが、エデンは――》
「先程から馴れ馴れしい……それに、妹ですって?
私が貴方の様な不良品の妹であった事など、ただの一度も有りませんわよ?
全く以て不愉快ですわ? ……グリフ! ダン!
……殺してしまいたい気持ちは山々でしょうが
出来るだけ生かして捕縛しますわよ! 」
「……承知」
「あいよ姉御っ! ……」
《――エデンの持つ特殊な道具の効果に依り互いに船は使えず
生身での対決となる事は明白だった……
……一方、ディーンの望みを叶える為
出来得る限り彼女を傷付けず救い出したかったのだろう。
これまで気絶した“フリ”を続けていた主人公は
彼女の一瞬の隙を突き、彼女に対し睡眠の魔導を放った――
“筈、だった――》
………
……
…
「……何ッ!? わ、技が……出ないッ?! 」
「やはり! 良い“装置”ですわねッ!! ――」
《――彼女の使用した“装置”は
魔導を用いる、全てを阻害する特殊な道具であった。
汎ゆる魔導の絶対的な――
“使用不能”
――直後
防衛魔導すら展開出来ず居た主人公は
彼女の繰り出した超速度の突進攻撃をまともに食らう……筈だった。
……だが、代わりにこの突進を食らったのは
咄嗟に主人公を庇ったグランガルドであった――》
………
……
…
「グッ! ……貴様ァァァッ!!! ……」
「あらあら……“豚”はやはり煩く鳴くものですわね?
そんな遅い攻撃……当たりませんわよ?
と言うか……そちらの駒は殆どが魔導師なのですわね?
……これは随分と私達に分がある様ですわよ?
グリフ! ダン! ……一撃離脱で行きますわよ! 」
《――直後
一斉に距離を取ったE.D.E.Nシリーズは
それぞれに武器を構え、一行の隙を伺って居た――》
………
……
…
「ぐぅっ……グハッ! ……」
「……ガルドッ! 確りしろッ!
完全回復ッ!! ……くそッ!! 治癒魔導も発動しない……」
《――エデンの攻撃に依り
防具を突き破る程の大怪我を負っていたグランガルド。
そんな彼の為、必死で回復魔導を発動させようとしていた主人公であったが
装置に阻まれ、治療は叶わず――》
………
……
…
「……あの者達が狙い目ですわね。
グリフ! ダン! ……あの三人を集中して狙いますわよッ! 」
《――物理適正を殆ど有していない主人公とメル
グランガルドは負傷の為、立つ事すら出来ず居た……そして
この圧倒的不利な状況下に置かれた三人に対し
これを好機と三人だけを執拗に狙い始めたE.D.E.Nシリーズ――》
………
……
…
「ふふふっ♪ ……不良品が不良品を守る姿は滑稽ですわね? 」
「……黙りなさい。
“ディーン様の妹君であるから”と黙っていましたが、どれ程口調で誤魔化しても
その品性の下劣さは決して隠せぬ貴女の根源の様です。
これ以上ディーン様の顔に泥を塗る様な発言は慎みなさいッ!
“不出来な妹さんッ! ”……」
「ッ?! ……黙るべきは貴女ですわ“毒薬女”ッ!!
身分不相応なその装備……
……私が直々にお似合いの姿に“直して”差し上げますわッ!! 」
「……させません。
ディーン様が私に対し――
“まるで天女の様だ、今直ぐ抱き締めたい程に似合っている”
――と仰ったこの装備は
貴女の様な下劣な者に触れさせなど致しませんわッ! 」
「タニア、其処まで褒めた覚えは……」
《――どさくさに紛れ“話を盛った”タニアは兎も角として
この後も三人を庇いながら戦い続けた
タニア・ディーン・マリア・ギュンターの四人――》
………
……
…
「オラッ! ……爺の癖にそんなに動いて大丈夫か?
杖でも突いてな……老害がッ! 」
「……タニア様“品性下劣”はこの者の方だった様です」
「んだと爺ッ!? てめぇ、泣いて謝っても許さねぇッ!!
……ダン! この爺を先に殺るぞッ!! 」
「承知……だが……」
「……だがもへったくれもあるか馬鹿がッ!!
ったく、仕方ねぇ奴だよおめぇは――
“あ~あっ! ……使わねぇなら背中の大剣、折っちまうかな? ”」
《――グリフがそう口にした瞬間
突如、凄まじい殺気を発した“ダン”は――》
………
……
…
「ぐはっッ! ……」
「なっ?! ……ディーン様ッ!?
ぐッ!? ……」
「お~……やっぱり怖えわ、ダンの大剣を“貶す”のは。
……どうだ? 爺さん
ダンの大剣……相当やべぇだろ? 」
《――大剣を引き抜くや否や
ディーンを“弾き飛ばし”即座にギュンターへと迫ったダンは
恐ろしいまでの腕力で彼を圧倒して居た。
一方――》
………
……
…
「なっ!? ……ディーンッ! ギュンターさんッ!
くッ……マリア頼む、俺達の事はもう良い……だから
彼奴らを止めてくれッ……お前の力で……頼むッ!! 」
《――この圧倒的不利な状況に“決死の判断”を下した主人公。
だが、彼女は――》
………
……
…
「……大丈夫です。
漸く私が……皆さんには勿論
主人公さんにも秘密で特訓してた“技”を使う時が来たってだけです
でも、初めて使うので……失敗しても怒らないで下さいね、主人公さん。
さてと……ギュンターさん! ディーンさん! タニアさんッ!
少しだけ、耐えてて下さいッ! ――」
「……マリア君?
了解ッ!! ……ディーン隊ッ!! マリア君を援護しろッ!! ――」
《――直後
静かに構えを解いたマリア
彼女は“双之斧”を分解し……片割れを背後に装着
盾を左手に持ち、右手にもう片方の斧を構えると……皆に合図を送った。
瞬間――》
………
……
…
「マリアーバリアン奥義ッ!! ――
“語呂とバランスが悪いからこそ強い!!! ”
――って、やっぱ今の無しッ!!
やっぱり深夜のテンションで付けた名前って碌でも無いし
名前を考え直……って?!
うりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!! ――」
《――“ネーミングセンス”はともあれ
この時、異常な程に低く構えて居た彼女に危険を感じたエデンは
彼女に対し超速度で迫り、これに慌てたマリアは即座に技を発動させた。
だが――》
………
……
…
「……勿体振った割に
只の“回転攻撃”とはお粗末ですわね。
そのまま回り続けて死になさいッ! ……って?!
きゃあぁぁっ!!! ……」
《――この時、低空姿勢で高速回転を続けていた彼女に対し
攻撃を放ったエデン……だが、一切弱まりはしなかった彼女の高速回転は
その攻撃ごと、彼女の体を――
“巻き込んだ”
――そして
“重心のズレた”マリアはエデンと共に明後日の方向へと吹き飛び
城壁へと激突……その規格外の衝撃に依って
エデンと共に“気絶”し――》
「なっ……いやどう言う攻撃ッ?!
って……マリア起きろッ!!
危ないッ!!! ――」
………
……
…
「姉御っ!! ……クソ甲冑女がッ! 殺してやるよッ!! 」
《――瞬間
城壁へと走ったグリフ……だがこの時
エデンの身を案じた彼に生まれた、一瞬の“隙”――》
「捨身技とは流石はマリア様で御座いますな……フンッ!! 」
《――言うや否や
グリフの背後を取りこれを無力化したギュンター
……そして
この直後――》
………
……
…
「グリフ!? ……チッ、気を抜き過ぎだッ!!
焚き付けるだけ焚き付けて一気に数的不利とは……だがまあ良い。
我が大剣の持つ圧倒的な力、貴様らに……」
「あら、大変ですわよ? ……
……貴方のその大切な“大剣”に酷い“汚れ”がついてますわ? 」
「な、何だとッ?! ……って、何もついていないでは無いかッ!!
毒薬女ッ! 何故その様な嘘を……うぐぅっ?! 」
「何故って……“痺薬”を盛る為ですわ? 」
《――直後
妙案に依りダンの無力化に成功したタニア。
この後、ギュンターに依りE.D.E.Nシリーズの捕縛は完了し――》
………
……
…
「エデン……頼む
私は唯あの頃の様に兄妹仲良く……」
「黙りなさいっ! ……私に兄など居りませんわ!
私が仕えるのは所長様だけ!
……貴方の様な不良品の事など知りませんわッ!! 」
《――必死に説得をするディーンに対し
汚物を見る様な目つきでそう言い放ったエデン……だが
その根源と成る考え方に一種の“歪み”を感じさせるこの発言に――》
「エデン……本当に私の事を覚えていないのか? 」
「ですから知らないと言っているでしょうッ! 」
《――平行線を辿った二人の言い争い。
だが……そんな二人の背後から
この状況を嘲笑うかの様に現れた一人の男――》
………
……
…
「ふっ……覚えている筈が無いだろう!
D.E.E.Nシリーズ……個体名:ディーンよ! 」
「き、貴様はッ!? ……」
《――直後一行の前に現れたのは“所長”であった。
それに遅れる事僅か、彼の背後に現れたのはマリーン
だが、彼女は妙に“静か”で――》
………
……
…
「マリーンっ!! くそっ! ……マリーンを開放しろ! 」
「……黙れクソガキ、私の話を遮るな。
お前の事は後回しだ……さて、一つ聞く
私がお前達の身体に施した“呪い”についてだが……
……まさか自力で解除したのか? 」
「貴様に答える義理など無いッ! 」
「生意気な口をッ!! ……いや、まぁ良いだろう。
そんな些末な事よりも、先ずは
貴様が疑問に感じているであろう事への“答え”を話してやろう。
其処に居る貴様の妹が……何故
“貴様を覚えていない”のかをな」
「くっ……聞かせて貰おう」
「ほう? ……妹の事と成ればえらく素直な物だな?
……良かろう。
何故お前を覚えていないのか……私が“記憶を消した? ”
……違う。
改造手術の副作用で記憶が“消えた? ”
……それも違う。
貴様の妹は、貴様の記憶にある通り数年前に間違いなく死んだのだ
では、何故貴様の妹がこうして目の前に居るかを教えてやろう。
エデン……もとい“E.D.E.N”は
貴様の“妹”の死体から遺伝子を取り出し
複製体として生み出す過程で魔族の遺伝子を混ぜた実験体だ。
故に……貴様との思い出など
そもそもある筈が“無い”のだよッ!! ……フッハッハハハハッ!! 」
「何……だと……所長、貴様ッ!!
貴様ァァァァァァァッ!!!!! ……」
「……おっと、其処までだ!
それ以上近づけば、貴様の大切な仲間の命が失われる事に成るぞ? 」
「卑怯者がッ……貴様の様な……くっ……!! 」
「フッ……苦痛に歪む顔も面白いが
私はお前達が絶望に沈む顔を見てみたく成ってしまった。
……其処のクソガキ。
主人公……と言ったか? 」
………
……
…
「……ああ、そうだ。
所で……アンタは凄い研究者だろうし
絶対的にこっちが不利なのも良く理解した“絶対的にアンタが強い”
認めるよ……だからマリーンを返してくれ。
……頼むよ」
「ほう? 意外にも素直なガキでは無いか……構わんぞ?
その素直さに免じてこの女を返してやろう。
ほら、連れて帰るが良い……」
「ほ、本当に良いのか?! ……」
「ああ、構わんぞ? ……無事に連れ帰れると思うのならなッ!!!
奴らを殺せッ! 実験体Mッ! ――」
「了解……戦闘を、開始します」
《――直後
主人公に対し攻撃の意思を見せた“マリーン”――》
===第七十一話・終===




