第六十二話「手段は沢山あったほうが楽勝ですか? 」
《――主人公の発案を受け入れ
急遽眼前の洞窟を探索する事と成った一行
……念の為、オベリスクに
ギュンター・ライラ……そして、アリーヤと子供達を残し
“最長でも一日だけ”と言う約束で洞窟を探索し始めた主人公達――》
………
……
…
「何だか凄くジメジメしてるな……」
《――洞窟の奥へと進んでいた一行
主人公の光魔導で照らされた洞窟内は
入口付近こそ自然な形をしていたが、奥へと進むにつれて段々と
妙に人工的な形状へと変化して行った。
……明らかに人の手に依り掘られたであろうこの洞窟
そして、更に奥へと進む途中
壁面に彫られた壁画と文字を発見した主人公は――》
………
……
…
「ん? ……なになに?
“真の魔導適正……使……魔導剣……消費……耐える……
力……与える……”
う~ん、殆ど削れてて読めないけど
この洞窟ってもしかして……」
「も、もしかして何ですか主人公さん? 」
《――興味津々にそう訊ねたメルに対し
主人公は――》
「もしかして……お宝が眠ってるんじゃない!!? 」
《――と返した。
一方、この余りにも幼稚な一言にマリーンは呆れた様子で――》
「……主人公。
私、貴方の事は格好良いし
頭だってとっても良い人だって思ってたんだけど……
……それは間違いだったかしら? 」
「なっ?! ……何でだよ!
この感じだとお宝が眠ってるっぽいって思うだろ?! 」
「いや、其処じゃないんだけど……まあ良いわ。
とは言え探す価値はありそうだし……でも、こう言う感じの場所って
何と無くだけど罠とか山程ありそうな雰囲気じゃない? 」
「い、言われてみれば……ちょっと怖くなって来たな」
《――などと警戒しつつも洞窟の奥へと進んで居た一行
だが、進んで行く内に“洞窟の構造”に疑問を感じ始めた主人公――》
「結構歩いてるけど……さっきからずっと直線だよねこの洞窟」
《――彼の言う通り
人工的に作られたと見られるこの洞窟は一切枝分かれしておらず
ひたすらに直線の道だけが続いていた。
……そんな彼の発言以前までは慎重に進んでいた一行も
徐々に歩く速度を上げ始め
最終的には走り始めてしまったのだが――》
………
……
…
「ちょ……ちょっと……皆……待って!
俺は……そんなに……走れない……ハァハァ……」
《――例に依って主人公の物理適正の低さが災いし
限界を迎えた主人公はその場にへたり込んでしまった。
一方……そんな彼を心配し駆けつけたメルと
その隣で主人公を介抱していたマグノリア
そんな様子を見ていたディーンは休憩を提案した。
だが、これにマリアは反対し――》
「いいえ……前と同じ感じで良いと思います!
失礼しますね主人公さん! ……よいしょぉっ!!! 」
《――瞬間
慣れた手付きで主人公を担ぎ上げたマリアは――》
「よしっ! ……皆さん、全力で走りますよ! 」
《――と皆に号令を掛け
主人公を担ぎ上げる前と“全く同じ速度で”走り始めた。
この状況に主人公は顔を真赤にしながら――》
「……は、恥ずかしいから普通に休ませてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! 」
《――と要求したが
当然の様に無視されたのであった――》
………
……
…
《――ともあれ。
……まるで荷物の様に“運ばれて”いた主人公は
色んな意味で諦めの表情を浮かべていた。
そうして進む事暫く……
……一行が辿り着いた先は“行き止まり”であった。
周囲にはそれらしい“壁画”や“文字”も無く――》
「此処まで来て何も無いと言うのは……流石に少々堪える物がある」
《――と、グランガルド
ディーンもそれに同意しつつ――》
「……だが、引き返すにしても休憩すべきだと思うのだが
休憩がてら主人公に一つ頼みたい事がある」
「へっ? 何をすればいいの? ……って言うか。
取り敢えず……降ろして貰って良いかな? マリア」
「……あっ、軽すぎて忘れてました」
「マジかお前……っと、頼みたい事って何だい? 」
「念の為、ギュンターに連絡を入れて貰いたいのだが……」
「ああ! ……それなら任せて!
魔導通信、ギュンターさん――」
………
……
…
「はい、主人公様……何かございましたか? 」
「いえ、ディーンの希望で連絡を入れたんですけど
そちらも異常ありませんか? 」
「左様でございましたか……ええ、こちらも異常御座いません。
……それにしても狭い洞窟ですな。
とは言え、皆様の顔色も問題無い様ですし
有害な物質は無い様で安心致しました……所で、拝見した所
其処は“行き止まり”の様ですが……」
「……そうなんです、この洞窟一直線に掘ってあって
途中まではこの壁とかに壁画と文字が彫ってあったんですけど
進んでみたらこの有様で……」
「それはそれは……心中お察し致します」
《――などと話している最中、休憩がてら壁に寄り掛かったタニア
その瞬間……何かが作動した様な大きな“音”が響き渡った。
そして――》
「なっ?! ……まさか何かの罠が発動したんじゃ?! 」
「私の所為で申し訳ありませんっ!!
……オウル、絶対防御をお願いしますわッ!
って……居ないのでしたわね……」
「だっ、大丈夫です! 俺が防衛魔導で! ……」
《――と、慌てふためいて居た一行。
だが、音と共に現れたのは“罠”では無く――》
「防衛の魔……って、ん? 」
「あ……あの……もしかして、私が押してしまった物って……
……隠し扉を開く為の装置だったのでは? 」
《――警戒虚しく
タニアがもたれ掛かり、発動させてしまった壁の装置は
“隠し扉”を開く為の物であった。
ともあれ……この直後
開かれた壁の奥に見えて来た物は――》
………
……
…
《――さらなる壁であった》
「あ~そうそうそう!!
壁の奥に壁がある……ってなんでやねんっ!! 」
「主人公さん……ベタなノリツッコミ止めません? 」
「いや……それにしてもいきなり冷た過ぎない? マリア。
って、取り敢えず一度通信を切りますね!
また後で連絡しますので! ……」
「え、ええ……お気を付けて……」
………
……
…
「――う~ん。
この扉も何かしらの仕掛けが施されてるっぽいね……」
「うむ……先程の様にもたれ掛かれば開くと言う訳でも無さそうだ。
だが、あまり悩んでいると……ああ成るのかもしれん」
《――そう言ってグランガルドが指し示した先には
魔導師らしき装備を身に纏った白骨死体があり――》
「……ぬわぁっっ?!
まさか、俺みたいに“入り口の文言に釣られて”
出られなくなって此処で力尽きたって事じゃ?! ……気を引き締めなきゃ」
「主人公、その魔導師の“手元”……気にならないか? 」
《――ディーンの指し示した魔導師の手元
その手は扉に掛けられており……その場所には
謎の魔導文字が彫られた“水晶”が埋め込まれていた。
だが“これに触れた事で息絶えた”様にも見えなく無い状況に――》
「……これ、触れたら不味い奴じゃないの? 」
「だが他に何も無い、触れるか引き返すか……」
《――など、話していた時
背後の扉は凄まじい速度で閉ざされ――》
「何っ?! ……主人公、急ぎギュンターに連絡を! 」
「あぁ! ……魔導通信、ギュンターさん!
駄目だ、繋がらない……クソッ!!
また俺の所為で皆を危険に巻き込んで! ……」
「待て……諦めるな主人公よ、吾輩達を“巻き込んだ”のでは無い。
吾輩達が“ついている”と考えるのだ」
「ガルド……分かったよありがとう。
けど、戻ろうにもこの狭さで魔導を放ったら危ないし……仕方無い。
一か八か……この水晶に“触れてみる”か」
「駄目です主人公さんっ! ……危険かもしれないんですよっ?! 」
「ああ、分かってるよメル……けど俺を含め
皆があの魔導師みたいに成るのは嫌だ。
危なかったらちゃんと手を離す、だから大丈夫……信じて」
「分かりました、主人公さん……気をつけて下さいね……」
「ああ……それじゃあ、行くよ……」
《――直後
ゆっくりと水晶に近づき、意を決した様に勢い良く触れた主人公。
だったのだが――》
………
……
…
「ん? ……何も起きないんだけど? 」
「何だと? ……いや。
まさかとは思うが、我々の付けている“追跡の指輪”と同じく
魔導を流し込まなければ作動しない……と言う事では無いのか? 」
「成程、ちょっと怖いけど物は試しだよな……っ! 」
《――ディーンの発案を受け
水晶に魔導力を流し込み始めた主人公……直後、水晶は発光し
変色し始め……
やがて、七色に輝いたかと思うと――》
「おぉ! ……開いたッ!! ……これで進めるって事か!
ディーン! ナイスアイデアだったな! 」
「ああ、役に立てて良か……ん?
あれは……何だ? 」
《――直後
ディーンの指し示した洞窟の奥深くから現れたのは
“骸骨”であった――》
「……面倒な、屍系の魔物か。
主人公、念の為後ろに下がるんだ……我々で対処する」
「いや、俺も加勢した方が……」
「……この先、先程の様な扉が無いとも限らない。
そうなった時、我々の魔導力では恐らく扉を開けず
“魔導欠乏症”に陥ってしまう可能性がある。
少なくとも……“先程の魔導師”を見る限りはそうなる可能性が高いだろう。
……分かったら、後ろに下がっていてくれ」
「成程、頼んだよ! ……」
《――直後
主人公を後退させたディーンは
隊員達と共に、骸骨討伐を開始した。
暫くの後……特に危なげ無く魔物を討伐し終えた一行は
再び洞窟の奥へと進み始めた……だが
暫く進んだ先には先程と同じ仕組みと思われる扉が
先程の物と同じく一行の行く手を阻む様に閉じられており
その上……先程よりも魔導師の遺体は増えていた。
……この状況に恐怖しつつも
再び水晶へと魔導力を流し込んだ主人公――》
………
……
…
「……さっきより時間が掛かるな。
それに、何だか要求量が増えてる様な……」
《――などと話しつつも、この扉を開いてみせた主人公。
だが、心做しか主人公の顔には疲労の色が見え始めて居て――》
「主人公さん、大丈夫ですか? ……」
「……ああ、ちょっと魔導消費がキツめだけど
まだまだ“魔導欠乏症”になる程じゃないよ。
……とは言え、ここまでの扉の所為で
固有魔導を発動させる事は不可能な位消費したっぽいから
最終的に足りなかったらと思うと、ちょっと恐怖してるかな……」
「あまり無理しないでくださいね主人公さん……」
「ああ、心配掛けてごめんねメル……さて、進もうか」
《――直後、再びこの長い洞窟を進み始めた一行。
途中、幾度と無く屍系の魔物が一行の行く手を阻んだが
怪我も無く、着実に洞窟探索を進めていた。
その一方で……オベリスク船内では
ギュンターに対し、アリーヤがある質問をしていた――》
………
……
…
「アンタ達は……あの主人公って子も含めて
皆、只者じゃない腕を持ってると思うんだが
……そんな腕自慢達が揃いも揃って
何故“絵本の作者”なんて探してるんだい? 」
「不思議に思われてしまうのも当然でしょう……ですが
私めを含め……皆、何かしら主人公様に助けられている身と致しましては
主人公様の望まれる事柄を是非とも叶えて差し上げたいと……
……そう思っている次第でございます」
「成程ねぇ……アンタ達は皆強いのに
心根は皆子供みたいに純粋で優しいって訳かい。
そのお陰でアタシ達は救われようとしてる訳だ……改めて感謝するよ」
《――そう言うとギュンターとライラに対し
頭を下げたアリーヤ――》
「いえいえ……頭をお上げ下さい。
……私めも、皆様をお救い出来るだけの技術を持っている事で
少しはこの“呪われし能力”にも誇りを持てると言う物ですから。
私めの方こそ信用し頼って頂ける事、心より感謝を……」
「何言ってるんだい! アタシ達の方こそ! ……って
何だか“珍しい言い合い”をしちゃったねぇ……」
「左様でございますね……さて皆様
洞窟の捜索にはまだ時間も掛かるでしょうし、そろそろお食事でも……」
《――彼らが昼食時を迎えていた頃
洞窟を探索していた一行は
ついに洞窟最深部付近へとたどり着いていた。
……だが、これまでよりも遥かに巨大な水晶の埋め込まれた大扉が
主人公の恐怖を煽る様に重く閉ざされていた。
当然の如く……周囲には
これまでとは比較に成らない程の魔導師達の亡骸が見られ――》
………
……
…
「流石に怖いな……でも
ここまで来たら少々きつくてもやるしか無さそうだ……」
「主人公よ……あまりに厳しい様なら数日程度休み
万全な状態で挑む事だ……」
「ああ、ありがとうガルド……でも、約束は守るよ。
それじゃ……
行くぞッ! ――」
《――直後
埋め込まれた巨大な水晶に対し魔導力を流し込み始めた主人公……だが
これまでの物よりも遥かに大きなこの魔導水晶は
主人公の魔導力を持ってしても“微かに発光する程度”で――》
「ぐっ……流石にこの大きさとも成ると……きつい……な……ッ! 」
「主人公さん……無理しないでください!
危ないと思ったらすぐに手を離して……」
「……ごめんメル、それは無理っぽいや」
「な、何故ですかっ?! 」
「その……何故かは判らないけど
この水晶だけ……“自分じゃ離せない”……みたい……だ……」
《――瞬間
皆の表情が凍った……直後、
主人公を水晶から引き剥がそうとした一行……だが、びくともせず
直ぐに“主人公に魔導力供給を”と考えた一行……だが。
唯一の“防衛術師系”魔導師であったオウルはこの場におらず
回復術師のメルだけでは
全員分の魔導移譲を行う事は不可能で……
……既に魔導力の相当数を失った主人公の顔色は
急激に青褪めつつあった――》
………
……
…
「主人公! ……くっ!!
……吾輩の力を持ってしても引き剥がせんっ!! 」
《――彼を水晶から引き剥がそうと
力の限りに主人公を引っ張ったグランガルド。
だが、彼の怪力を持ってしても引き剥がせず――》
「もう良いガルド……皆、大丈夫だ……俺が必ず皆を助ける……から……
俺の所為で……皆を悲しまる様な……そんな終わりにはさせない。
必ず……皆で……生きて……帰るんだ……ッ!!! 」
《――直後
逃げる事を止め残り少ない魔導力を振り絞る様に
必死に水晶へと流し込み続けた主人公……すると
……ほんの一瞬、強く発光した水晶
扉は振動を始め――》
「よし……もう少し……だッ……もう……少……し……ッ!! 」
………
……
…
《――直後
扉は半分程開き、水晶は主人公を開放した……だが。
彼は既に意識を失っていた――》
………
……
…
「主人公さんっ!! ……せ、せめて私の魔導力だけでもっ!! 」
《――直後
彼の側に寄り添い“直接移譲”を試みたメル。
だが、これを強く制止したマグノリア――》
………
……
…
「邪魔しないでくださいっ! ……早くしないと主人公さんが!! 」
「大丈夫……落ち着いてメルちゃん。
……ワタシの特技、忘れてしまった訳では無いでしょウ? 」
《――直後
大きく息を吸い、固有魔導“精霊女王之歌声”を発動したマグノリア
青褪めて居た彼の顔にも血色が戻り始め――》
………
……
…
「んっ……何だか……体が軽い……天使の歌声が……聞こえる……
嗚呼……俺……死んじゃったのかな……」
「馬鹿な事言わないでくださいっ! ……」
《――瞬間
主人公の頬を思い切りビンタしながらそう言ったメル――》
「痛っ?! ……ってメル?!
ごめん……でも何で泣いて……」
「む……無理しないでって言ったじゃないですかっ!
主人公さんの……バカッ!! 」
「メル……心配ばかり掛けて本当に……ごめん」
「ふふっ♪ ……無事に意識が戻った様で安心しましたワ♪ 」
「まさか……リーアが助けてくれたのか? 」
「ええ♪ ……お礼は口づけで許しますワ♪ 」
「く、口づけっ?! そ、それはその……またの機会にっ!! 」
「アラ……残念っ♪ 」
「アハハハ……」
「主人公さんっ? ……」
「うっ?! ……い、今の俺は悪くないと思うよ?!
俺一応病み上がりだから……ねっ?! 」
「……仕方無いですから許しますっ!
……けどっ! “またの機会”でもキスは駄目ですからっ!
は……早く進みますよっ!! 」
「そ、そうだね~……よーしみんなーっ……進むぞーっ……」
《――彼女の威圧感に圧倒され
完全な“棒読み”と成ってしまった主人公……ともあれ。
最難関と思われる扉は開かれ――》
………
……
…
「おぉ……宝箱だ!
……けど、罠とか無いよな? 」
「主人公、君は病み上がりだ……私に任せろ」
「だ……駄目だよディーン! 危険かも知れないんだぞ?! 」
「大丈夫だ……“先程の歌”で幸運も付与されている事だろう」
《――と、冗談交じりに彼が宝箱に触れた瞬間
独りでに開いた宝箱……その中から
現れたのは――》
………
……
…
「主人公……言ってしまえばより悲しいが
道中の扉に埋め込まれていた“水晶”の方が
これより幾らかは価値がありそうに見えないか? 」
《――何の装飾も無い“円柱状に成形された水晶”であった。
この拍子抜けする程に地味な“お宝”に
一度は肩を落とした一行だったが――》
「取り敢えず、主人公……これがお宝らしい」
《――そう言うと“お宝”を主人公に手渡したディーン
そして――》
「皆……俺の所為で苦労ばかり掛けてごめん。
こんな何の変哲も無い水晶の棒きれ一本の為に……くそっ!!
って?! ……うわぁぁっ!? 」
《――僅かに苛立ちこれを強く握りしめた主人公。
だが……その瞬間
“何の変哲も無い水晶の棒きれ”は眩い光を放ち――》
………
……
…
「ね、ねぇ、主人公! こ、これって……」
「ああ、これは刀……って言うか、大剣かな? 」
《――主人公の手の中で燦然と輝く
“大剣”……だが、本来物理適正など全く無い筈の主人公が
何故この様な“物理的な見た目”をした武器を保持して居られるのか。
そして、何故この様な武器がこれほど厳重に隠されていたのか。
何れの謎も解明は不可能……
かと思われたその時――》
………
……
…
「あっ! ……主人公さんっ!
た……宝箱の中に手紙が入ってますっ! 」
「へっ? ……メル、読んでみてくれるかい? 」
「はいっ! えっと~……」
《――手紙に記されていた内容。
それは――
“……私の職人人生に於ける
たった一つの最高傑作をここに眠らせる事とする。
だが、最高傑作であるが故に
半端な考えの持ち主では最悪の結果を招く事だろう。
ここまでの仕掛けを全て乗り越えた君よ……君がたとえ悪であれ、善であれ
最早私には預かり知らない所だが
その“魔導之大剣”には世界を変える程の能力が秘められている。
魔導保有量が化け物としか思えぬ者にのみ扱える大変癖のある代物だが
此処まで辿り着けた君ならば必ず使いこなせる事だろう。
……尚、これまでに“預かった”魔導力は
全て回収出来る様に成っている。
この洞窟を立ち去る際は全ての水晶を破壊してから立ち去って欲しい。
君と……後の挑戦者達の安全を願っての申し出だ。
注意:安全の為、必ず手にしたその剣で全ての水晶を斬る事。
それでは……君の人生に幸多からん事を”
――と言う物だった。
そして――》
………
……
…
「成程……って言うか、そうなるとこれって凄いお宝武器って事だよね?
それに……」
「……それに何ですか主人公さんっ?? 」
《――と
興味津々に訊ねたメルに対し――》
「それに……憧れの“物理職”みたいで格好良くない?!
エイッ! ……ヤー! ……トウッ! 」
《――と、慣れない剣捌きを見せた主人公
直後……この“大してキマっていない”彼の構えに
仲間達はどう声を掛けるべきか悩んだと言う。
ともあれ――》
………
……
…
「うん! ……取り敢えず全員“無言”は止めようかッ?! 」
「へ~……無言にさせた張本人が言いますか」
「マリアお前っ!! ……だぁぁっーもうッ!!
兎に角! 帰る時はこの大剣で全部の水晶を切れって事だから……って。
……ちょっと待った。
俺、既にリーアのお陰で魔導力結構回復してるよね?
そうなると魔導が逆にあり余るんじゃ……それは大丈夫なのかな? 」
「……いいえ? そうでもない様ですワ?
アナタの魔導力、その大剣に少しずつ吸われ続けて居るみたいですワ? 」
「ん? ……そういえば若干吸われてる様な。
まぁ……忠告通り全部の水晶を叩き切りながら帰ろうか! 」
《――と、早速扉に埋め込まれた水晶を真っ二つにしてみせた主人公。
だが、この直後……水晶から放出された魔導力は
主人公の物だけでは無く……
……これまで吸い取った
“他の魔導師達の魔導力”までをも主人公に“返し”始めた。
これに一瞬は慌てた主人公……だが、意外にも異常は見られず
寧ろ、余った魔導力を消費する為かの如く
魔導之大剣は更に大きく“成長”し――》
「うわ……これ凄い“ロマン武器”だ! 」
《――そう喜んだ主人公
だが、何時もとは大幅に違う彼の
“妙なテンション”に仲間達は皆引いていて――》
「……何だか体が軽く成ったみたいだ。
もしかしてそう言う効果まであったりするのか?!
俺ひょっとして今、バーサーカー的な感じなのか?!
若しくはニ枚目な魔導剣士みたいな!?
まぁ何でも良いけどめちゃくちゃ楽しいッ!
ヒャッホォォォォッ! 」
《――この後“大剣”の効果か軽やかな足取りで走り始めた主人公。
……だが、普段の主人公とは似ても似つかぬ程の軽快な走りに
仲間達は皆呆気に取られて居た。
その一方で……閉じられた数枚の扉を難無く切り裂き
その度に“大剣”に魔導力を吸収させ
より一層の攻撃力と瞬発力を得た主人公は
有頂天なテンションのまま“最初に閉じられた扉”へと到着したのだった――》
………
……
…
「よし……これで最後か。
名残惜しいし……ちょっとカッコつけて切ってみるかな。
よし――
“雑兵が……刀の錆にしてくれるッ! ”
トウッ! ――」
《――直後
背後で“これ以上無い程に引いている仲間達”には一切気付く事無く
何処かで見たのであろう決め台詞と共に振り下ろされた
“魔導之大剣”
……凄まじい切れ味に依って真っ二つと成った扉は
一切動く事無くその場所にあり続けて居て――》
………
……
…
「……えっ?
今確かに切れた感触はあったんだけど……ま、良いや。
もう一回ッ! ――
“雑兵が……刀の錆にしてくれるッ! ”
トウッ! ――」
………
……
…
《――この後も諦めず二度三度と同じ台詞を繰り返し
幾度と無く扉を切り裂き、その度に仲間達に“引かれていた”主人公。
だが……この後
どうにか扉を破壊する事に成功した主人公――》
「やっと開いた……皆! 時間掛かったけど扉を……って。
み、皆? ……何でそんな引いてるのッ?! 」
「まだまだ幼くて可愛い所もあるのネ……少し幼過ぎると思うけれど」
「リーア?! ……な、何か凄まじく引いてないか? 」
「マギーさんだけじゃ無くて全員引いてますけどね……早く帰りましょ」
「ちょ!? マリアまでッ!? ……な、何でッ?!
ちょっと、皆ッ?! ちょっとぉ!? ……」
《――ともあれ。
この日から寝る時も横に置く程“魔導之大剣”を気に入り
何処に行くにも腰にぶら下げて居た主人公。
一方で……仲間達は、彼の洞窟内での異様な姿を
“洞窟内の特殊な妖気にあてられた物”として黙認する事を決めたのだった――》
………
……
…
《――同時刻
何処かの国に集市各国の長に依って開かれたとある秘密の会談
その会談内容は
“勢力を急拡大し続けている政令国家と名乗る国の扱いに関して”
と言う物であった――》
===第六十二話・終===




