第五十七話「喜・怒・哀・楽ぐーるぐるっ!………絶叫バレンタイン計画! 」
《――“決意の日”から約一週間を掛け
秘密裏にメルへのプレゼント費用を稼いで居た主人公とマグノリア。
……バレンタイン前日まで掛け
何とか四〇万と二五〇枚の金貨を集める事に成功していた。
だが……その日の夜遅く
満身創痍の主人公達が閉店間際の防具屋を訪れた際
陳列されていた筈の場所には目当ての装備が既に無く……
……慌てて訊ねた主人公に対し
あれだけの高額な装備にも関わらず
前日に“売れてしまった”のだと店主は言った……一方
深く落胆していた主人公は
無意味と分かりつつも購入者の情報を訊ね
著名な回復術師が購入していった事を“無意味に”知り
……肩を落とし、皆の待つサラの邸宅へ帰宅すると
静かに眠りについたのだった――》
………
……
…
《――翌朝、サラの邸宅で目覚めた一行
一週間ほど前から、サラの厚意……と言うか
殆どオウルへの愛なのだが
サラの邸宅を当面の間の生活拠点として間借りしていた一行。
……そんな日々が続き、折しも今日は二月一四日
一週間ほど前に主人公が説明した“バレンタインデー”当日。
……サラを含めた女性陣は何やら“ソワソワ”としており
主人公だけが別の意味で“ソワソワ”としていた頃……サラに対し
皆が疑問に思っていた件を訊ねたオウル――》
………
……
…
「サラ、私達に宿の提供をしてくれた事を本当に感謝している
だが、一つだけ疑問があるんだ……嫌でなければ教えて欲しい」
「はい、何でしょうか? 」
「その……君の家は部屋数がとても多く、とても広い。
なぜこの様な豪邸に君一人で住んで居られる?
街を探索した限りでは、この国の家が全て大きい訳でも無かった様だし
サラの様にか弱い女性が、なぜ一人でこの様な大豪邸に住めるのかと
ずっと疑問だったのだ……」
《――と、サラに対し
彼がこの一週間ほど感じ続けていた疑問を投げかけた
瞬間――》
「……あっ、オウル様ったら酷い!
私が自立した女だと思ってないんですね?!
私、この国では結構優秀な薬師なんですよ?! 」
《――との返事が返って来た。
……だが、そんな答えよりも
サラから“酷いっ! ”と言われてしまった事が余程ショックだったのか
この評価を“挽回”する為か
サラが薬師である事を過剰なまでに褒め称え
更に彼女の細身な体型を褒め称えた上で
故に“か弱い”と表現したのだとまで釈明し
状況の立て直しを図ったオウル。
直後、彼の狙い通りであったのか……これに照れたサラ
褒め称えたオウルもそれに気が付き、同じ様に照れ始め……
……二人の顔はみるみる内に赤くなり
その様子を横目で見ていた仲間達は堪え切れず
忍び笑いをしていたのだった……ともあれ。
そんな穏やかな時間の流れる中、妙に緊張した様子で
突如としてバレンタインの話題を始めたマリーン
彼女は――》
………
……
…
「ね……ねぇ主人公!
今日が前に言ってたバレンタインなのよね? 」
「ん? ……そうだけど? 」
「そ、その……主人公は“甘いお菓子”って言ってたけど
要するに、好きな人に何かをプレゼントすれば良いの……よね? 」
「ああ、それでも別に大丈夫な筈だけど……」
「良かった……無駄にならなくて。
はい、これッ! ……“本命チョコ”ならぬ“本命ハニワ! ”
主人公にあげるっ! ……受け取ってッ!!! 」
《――直後
緊張の面持ちで差し出した“投げキッスをするハニワ”
……だが、勢い良く差し出した所為か
はたまたタイミングの所為か……何れにせよ
突き出た腕は勢い余り、主人公の“眉間”にクリーンヒットしてしまい――》
………
……
…
「ありがと……うがあああああああっ!!! 」
《――眉間を抑え転げ回る主人公と、慌てて謝るマリーン。
……阿鼻叫喚の騒ぎである。
そんな最中……慌てず騒がず迅速に治癒を使用したメル。
だが……どうやらそんな彼女自身も主人公に対し
何かを手渡したい様子で“モジモジ”とし始めていて――》
………
……
…
「な、治りました……よね?
そ、それで主人公さんっ! ……あのっ!
私からも本命のプププ……プレゼントがありましてっ!! 」
《――と、顔を真赤にしながら差し出したプレゼントは
とても可愛げの有る包装で包まれていた。
……直ぐにこれを受け取った主人公であったが
複雑な心境が顔に出て居た様で……それを悪く察したのか
自らの渡したプレゼントの程度を心配していたメルに対し――》
「あっ……いや、その! ……て、照れてるだけだよ!
ありがとう! ……さてさて中には何が入ってるのかなぁ~? 」
《――と、から元気を見せ静かに包装を開いた主人公。
中から出て来たのは……“手作りのお菓子”であった。
相当な時間と手間を掛け作ったであろう事がひと目で分かる程
手の込んだお菓子を目にした瞬間……主人公の頬を一筋の涙が伝った。
皆が心配する中、主人公はメルに頭を下げ――》
………
……
…
「違う……嬉しいんだ……けど……ごめん……ごめん……ッ!
俺に……こんなに素敵な物を……受け取る資格は……ッ……」
《――情けない程声を震わせ、嗚咽を漏らしながら
ひたすらに謝り続ける主人公に対し、メルは――》
「その……私、マギーさんから全て聞きました。
私の為に……とっても高級な装備を
また、買い揃えて下さるつもりだったんですよね? ……」
《――彼女の発言に驚き
そして――》
「?! ……何で話したんだリーア!
せめて俺から伝えるべきだったのに!! ……」
《――そう問い質した主人公
しかし、メルは――》
「ち……違うんです主人公さんっ!
ぜ、全部私の所為なんですっ!! ……マギーさんは何も悪くありません!
だっ、だから……責めないでくださいっ! 」
「メルの所為って……一体……」
「……私、この一週間ずっと……ある事を悩んで居たんです。
そしたら……ベンが気を利かせてくれて
マギーさんとお話する場を用意してくれたんですけど……」
《――そう語り始めたメル。
彼女は……去る数日前の事
毎夜コソコソと宿を抜け出す二人を不審に思い
誤解から来る強い不安に一人苦しんで居た。
そして……深く悩み、一人で苦しむメルを静かに見つめて居たベンは
その悩みの“原因”に気付くと、彼女に対しある“提案”をした――》
………
……
…
「ね、ねぇメルちゃん! ……マグノリア様と話してみて!
きっと……きっと苦しみから開放されるからっ! 」
「えっ? ……どう言う事?? 」
「ちょっと待ってて! ……マグノリア様!
メルちゃんとお話してあげてくださいっ! 」
「ベン? ……あと三〇分後に帰るから、それからで良いなら話せるワ」
《――瞬間
精霊族特有の通信を用いてマグノリアと連絡を取ったベン
そして……約束通り三〇分後、主人公と共に帰還したマグノリアは
主人公に内緒でメルの部屋へと向かった――》
………
……
…
「話したい事……何かしら? ……ちょっと怖いワ? 」
《――と、僅かに訝しむマグノリアに対し
恐る恐る――》
「そ、その……あのっ!!!
し、主人公さんと……二人で宿を抜け出しているのは……何故……ですか? 」
《――そう訊ねたメル。
一方、この質問に答える事を躊躇っていたマグノリアだったが……
……メルの不安そうな様子に何かを察し
意を決した様に真実を話し始めた――》
………
……
…
「ふふっ♪ ……ワタシと主人公が
二人で夜に宿を抜け出していた理由は――
“逢い引き”
――だったらワタシも良かったのだけれど
ワタシにとっては少しだけ残念で
アナタにとっては幸運な、主人公のある願いの所為なのですワ? 」
「しゅ、主人公さんの……願い? 」
「ワタシが皆様……特に主人公を引き寄せる為に
無理やり皆様をあの森へと迷い込ませたあの一件で
アナタの装備はボロボロになってしまった……
……今もアナタの装備はあの時のまま、本当にごめんなさい」
《――そう言うと、深々と頭を下げたマグノリア
対するメルは――》
「……主人公さんから頂いた大切なプレゼントですし
皆さんを危険な目に合わせたのが
マギーさんだったって知った時は少しだけ腹も立ちました。
勿論、私も完全に許せた訳じゃありません……でも
理由が理由ですし、主人公さんはとっても強いですから
その力が……精霊達、延いては森に生きる
全ての生命の為に必要だったって事も
森を守る存在として苦渋の決断をしたんだって事も……
……理解してます。
だからもう怒ってません……頭を上げてくださいっ! 」
《――そう告げた。
マグノリアは静かに顔を上げると――》
「……メルちゃんの事になると
普段は冷静な主人公が何故あれ程冷静さを失ってしまうのか
あんなにも無計画に、満身創痍になりながら必死に頑張る理由……
……ワタシにも理解出来ましたワ?
アナタと彼は……お互いに愛し合っているのですわネ♪ 」
「なっ?! ……なななななっ?! いきなり何を言うのですかぁぁっ?!
はうぅぅぅ……」
「アラ♪ 照れ方まで可愛いなんて……ワタシでは勝てませんわネ♪ 」
「……そ、そんな話をする為に
私と話をして下さってる訳じゃない筈ですっ!! 」
《――顔を真赤にしながらそう語ったメルに対し
マグノリアは真剣な面持ちで答えた――》
「ええ……でも、真実を伝えたらワタシ
後々、主人公から怒られてしまう気がするのですワ?
でも……メルちゃんに伝えない訳には行かない様ですわネ」
「そ、その……真実とは? 」
「ええ、実はワタシ達が夜に宿を抜け出していたのは……」
《――こうして
マグノリアから全てを伝え聞いていたメル。
そして――》
………
……
…
「……心配かけてゴメン。
お金は何とかなったんだけど……ちょっと遅かったや」
《――涙を拭い、そう言った主人公に対し
メルは――》
「いいえ? ……ちゃんと間に合ってますよ? 」
《――そう言った。
だが、当然――》
「えっ? ……だって、装備は売り切れて……」
《――と、不思議そうに訊ねた主人公。
そんな彼の手を握り――》
「……主人公さんの“気持ち”を私はちゃんと受け取りました!
だから……“不安”は“安心”に変わったんですっ!
だから私は……とっても満たされているんですっ♪ 」
《――と、満面の笑みでそう答えたメルに対し
主人公は――》
「そ、その……“サプライズプレゼント”は失敗しちゃったけど
必ずプレゼントするよ!
……少し待たせちゃうかもしれないけど、必ずプレゼントする。
その……待っててくれるかい? 」
「……はいっ!! 」
《――直後、メルと固い握手を交わし
肩の荷が下りた様な表情を浮かべた主人公。
一方……そのタイミングを見計らったかの様に
マリアは――》
………
……
…
「あの~……主人公さん?
いきなり“腑抜けた声で”わんわん泣き始めた主人公さんに
私、ちょっと引きました! ……なので、私を腕相撲で倒せたら
このお菓子を“本命”に格上げしてあげます。
勝てなかったらギリッギリの義理に格下げですから
本気で掛かって来て下さいね?
さっきの情け無さ……挽回してくださいっ!! 」
《――と、彼を励ますかの様な挑戦を申し込んだ。
当然、笑顔でこの挑戦を受けた主人公
直ぐに試合は開始され……彼は瞬殺された。
“手加減し、主人公の気分を盛り上げるつもりなのだろう”
……と期待していた仲間達は
全力の力で主人公を捻じ伏せたマリアに完全に引いて居た。
その上更に――》
「や~いや~い! 物理適正ゼロ~ッ! 」
《――と主人公の周りをグルグルと回りながら
彼の事を煽ったのだから――》
………
……
…
「ぐっ! ……お前っ!
ギ、ギリッギリの義理で良いから……そのお菓子寄越せよ!
これでも正直小さい頃お母さんに貰った数は上回ったから……
……若干嬉しいんだよっ! 」
「え~っ? お母さんに貰ったのを数に入れてる時点で……」
「ぐっ……お前ッ! 」
「……まぁ、元気そうな顔に戻ってくれて安心しました。
取り敢えず“義理ッギリ”のお菓子どうぞ~? 」
《――どうやら、彼女なりに励ましていたつもりの様ではあったらしい。
ともあれ……そんなこんなで場の空気も温まった頃
こっそりと本命のお菓子をオウルに渡そうとしていたサラ。
オウルもその存在に気が付き――》
「なっ!? ……サラ、そ……それはもしや……」
「は、ハイッ?! ……そ、そうですッ!!
本命ですからっ! ……どうぞっ!!! 」
《――直後
緊張で手を震わせつつも本命のお菓子を受け取ったオウル。
一方、渡したサラも手を引っ込めるのを忘れる程緊張していた様で……
……互いに顔を真赤にしながら
“モジモジ”とする二人を見つめニヤける一行。
だが……そんな中、ディーンだけは何かを考え
一人冷静な表情で仲睦まじい二人を見つめていた。
……そして暫くの後、主人公とメルを見つめたかと思うと
何かを思いついた様子で話し始めたディーン――》
………
……
…
「……一週間程前
賭博場で得た賞金で懐にかなりの余裕が出来た。
“隊長として部隊の為に成る使い方は無いものか? ”
……と考えていたのだが、主人公とメル君を見て思いついたよ。
隊員全員に指輪を支給するのはどうかと思っている」
「へっ?! その……こ、この指輪はそう言う意味じゃなくてっ!
でも……はうぅぅぅ……」
《――と、弁明に成らない弁明を続けていたメル
そんなメルのフォローに回った主人公であったが――》
「……ディーン、この指輪に深い意味は無くて
お互いの居場所が判るだけだしさ!
それで、そっ……その!!
ふ……深い意味は無いんだよッ! 」
《――“どんぐりの背比べ”と表現するのが最も適切な
“グダグダ”っぷりを披露した主人公。
だが、当のディーンは――》
「い、いや……私は唯
お互いの居場所が判ると言うその指輪を
我々の隊にも戦略の一つとして組み込もうかと思って居ただけなのだが……」
「し、知ってたしッ!! 」
《――完全な嘘である。
バレンタインデーの“魔力”に飲まれ
全ての選択を綺麗に“間違い続けて居た”阿鼻叫喚な主人公。
……ともあれ、この後
“指輪のアイデア”は隊員達に受け入れられ――》
………
……
…
「しかし……名案でございますなディーン様」
「……ああ、喜んで貰えるならば助かるよギュンター
それとタニア……お前の装備も例の一件以降から少々傷んでいる様に思う
主人公の様にあまりにも高額な装備を用意する事は出来ないが
私が責任を持って新調させると約束しよう。
後で装備屋へ向かおうと思っているのだが
好みもあるだろうからな……同行して貰えるか? 」
「わ、私にディーン様から……プレゼントですか?!
そ、そのっ……光栄ですわっ! 」
「なに……隊員の健康を考えるのは隊長として当然の行いだ
あまり気に病まないで欲しい……さて、そう言う事だ。
この所、依頼に探索にと皆忙しく過ごしていた事もある
主人公の言う“バレンタインデー”を完全に理解出来た訳では無いが
今日と言う日をある種の休日と考え
皆の自由時間とするのはどうだろうか? 」
《――この後、ディーンの提案通り
この一日を骨休めとして過ごす事となった一行。
そして……この後
“発案者”であるディーンは部下を引き連れ装備屋へと向かい
約束通り、お互いに居場所の分かる指輪を隊の全員に買い与え
タニアの為、損耗した装備の替えを選ぶ事となったのだが――》
………
……
…
「これは素敵ですわね……ハッ?! これも捨てがたいですわ! 」
《――店内に並ぶ装備の数々に目移りしていたタニア。
その様子を微笑ましく見守って居たディーンだが
タニアの気に入った装備の金額を見た瞬間、愕然とした。
“セット価格一四万金貨”
この時……隊員全員分の指輪だけで
既に稼ぎの半分以上を使って居たディーン
残った金貨をタニアに悟られぬ様こっそりと数えていた彼だが
明らかに足りず……そんな様子を直ぐ近くで見て居たギュンターは
こっそりとディーンに不足分の金貨を手渡し――》
「さて……借りにでもしておきますかな? 」
《――そう言って笑みを浮かべたのだった。
ともあれ……この直後
何事も無かったかの様に会計を済ませたディーン。
タニアは新しい装備へと着替え――》
………
……
…
「ど、どうでしょうか? ディーン様……似合って居るでしょうか? 」
「ああ……とても良く似合っている、綺麗だ」
《――真正面からの褒め言葉に思わず頬を赤らめたタニア
そして、呼吸を整えると……緊張の面持ちでバッグから何かを取り出し
取り出した“それ”を無言でディーンに差し出した――》
「……ん?
これは……主人公の言っていた義理のお菓子と言う奴だな?
だが、気を使わなくても良かったのだが」
「い、いえそれは本……いえ、ディーン様は私達の隊長ですから
主人公様にお菓子の数で負けて頂く訳にはまいりませんのですわっ! 」
「……そうか、色々と気を使わせているのだな。
だが、私に取ってお前達の存在こそが
天から授けられた何者にも勝る最大の贈り物だと思っている。
……賭けで儲けた何の事は無い只の金が
大切な部下の為に使えた事……マギーさんの言った“幸運”とは
恐らく、この事だったのだろう……」
《――隊としての結束を更に強めたディーン一行。
……タニアに付与された幸運は
どうやら――
“ディーンから装備をプレゼントされる”
――事だった様だ。
だが、その一方で――》
………
……
…
《――メルに対する主人公の“約束”を巡り
彼に同行した女性陣からは不満の声が出始めており――》
「ねぇ主人公?
メルちゃんに装備のプレゼントを約束したのは良いけれど
私達にも何かプレゼントしてくれる予定は無いの? 」
《――そう訊ねたマリーン
そして、マリアはそんな彼女に同意する様に――》
「……そういえばそうですよね~?
メルちゃんだけ優遇とか露骨過ぎて引きますよ~?
やっぱり“転生時に設定した条件”に当てはまる娘以外には
全く興味がありませ~んって事ですかぁ~? 」
《――と、意地悪げに訊ねた。
だが――》
「なっ?! ……そ、そんなつもりはないっ!
メルはそもそも例の一件で装備がボロボロになっちゃったし
どう考えてもこのままだと危ないし
新調しなきゃ不味い事位分かるだろっ?!
それに、これでも俺は皆の事を
ひっ……等しく大切に思ってるつもりだっ!! 」
《――と、慌て気味に釈明した主人公に対し
マグノリアは真剣な面持ちで――》
「“転生時に設定? ”……どう言う事かしラ? 」
「あっ!! ……主人公さん、今度は私が口を滑らせちゃいました」
「いや、隠しててもいつかは話さなきゃだよ……」
《――直後
マグノリアに対し、自らが転生者である事や
ある意味、この世界の創造主で有る事を伝え
転生時に設定した“結ばれる相手”の条件を説明した主人公。
すると、マグノリアは微笑みながら――》
………
……
…
「……と、言う事はワタシも主人公の“希望条件”に
“全て”当てはまって居る訳ですわネ♪ 」
《――と、ボディーラインを強調しながら
主人公に訊ね――》
「そ、そう言う事になるの……かな? 」
《――と、照れて俯きながら静かに答えた主人公だったが
直後、メルとマリーンの“異変”に気付いた彼は直ぐに話を逸し――》
「……とっ、兎に角!
今後、ホワイトデーもある事だし!?
皆にもちゃんとプレゼントするから、この話はこれで終わりにしてくれ! 」
《――と、必死の形相で頼み込み女性陣に頭を下げた主人公
女性陣もこの申し出は満更でもない様子で……
……だが、このタイミングで何かを思い出した様に
懐に手を入れたグランガルドは
何かを取り出し、主人公に差し出しながらこう告げた――》
「主人公よ……御主の言う“友チョコ”成る物の代わりと言っては
少し烏滸がましいかもしれんが、吾輩の気持ちだ。
……受け取って貰いたい」
「えっ?! あの、ガルド……男から貰うと個人的に
何か“変な”意味に捉えてしまうんだが……」
《――そう言って戸惑う主人公に対し
グランガルドは続けて――》
「……生涯の友と認めてくれたのであれば
吾輩の気持ちを酌んで貰いたいと思っていたが……迷惑だろうか? 」
《――そう言ったグランガルドの瞳は悲しげで
そんな彼の様子に心苦しくなり始めたのか――》
「……わ、分かったからッ!
そんな悲しそうにしないでよ……でも
そうなると俺だけが貰うのも違う気がして来たな。
そう言えば今日は“休日扱い”ってディーンも言ってた事だし
良く考えたらここは別の世界だし……って事で!
男女関係なくバレンタインを楽しもうか! 」
《――この後、製菓店へと足を運んだ一行は
お互いに友チョコならぬ“友お菓子”を交換したのであった。
ともあれ……ある程度日も暮れ始めた頃
サラ邸への帰り道、メルは思い出した様に主人公に質問をした――》
………
……
…
「……そういえばですけど
主人公さんが私にプレゼントして下さる予定だった装備って
どこのお店で購入しようと思ってたんですか? 」
「えっと……丁度近いから寄ってみる? 」
《――直後
主人公に連れられ防具店へと向かった一行。
店内には相変わらず高品質な装備、そんな中
回復術師用装備が並ぶ場所へと皆を案内した主人公
すると――》
「……お客さん、申し訳ありません
あの装備はやはりすぐには入荷できませんね……」
「い、いえ……それより、あの装備と同価格帯
同程度のヒーラー用装備って他にはありませんかね? 」
《――この質問に対し
店主は申し訳無さそうな表情をして首を横に振った――》
「ですよね……何度も同じ事を訊ねてすみませんでした。
では……」
《――と、肩を落としつつ店を後にしようとした主人公。
……だが。
暫く考え込んだ後、一行を引き止めた店主は――》
「お待ちになって下さいお客さん!
……他の人にお話に成らない事をお約束頂けますか? 」
《――唐突にそう訊ねた店主
主人公にその真意は解らなかったが――》
「ええ、ご迷惑をおかけするつもりはありません」
《――と、返事を返した。
店主は暫く悩んだ末、主人公に対し“ある条件”を持ち掛けて来た――》
………
……
…
「特別に、あの装備よりも上等な物をあの装備と同じ価格でお譲り致します。
……ですが、その為に二つ程契約をして頂きたいのです」
「……どう言う条件の契約ですか? 」
「一つは、先程も言いましたが……他所でお話に成られない事。
もう一つは……私の“個人的な依頼”を受けて頂きたいのです。
ギルドを通さない形で……」
《――そう言った店主は少し緊張していた。
ともあれ……この後、詳しい依頼内容を聞く事にした主人公に対し
店主が話した依頼内容とは――
“店主の想い人に対し、店主自ら制作した指輪を
手紙や花束と共に店主の代わりに渡して欲しい”
――と言う物であった。
この、余りにも簡単な依頼に当然の如くこれを引き受けた主人公。
すると、店主は笑顔になり――》
「……ほ、本当ですか?!
で、あれば! ……この装備を同じ金額でお譲り致しましょう!
きっとお嬢さんを力強くサポートする装備となるでしょうとも! 」
《――そう言って店主が差し出した装備は
見た目こそ派手さは無いが、使用されている素材一つ一つが高品質で
その全てが卓越した職人技で仕上げられており
当初予定していたプレゼントの何倍も価値の有りそうな装備であった。
早速この装備に着替えたメル……だが
やはり相当に高品質な装備であったのか
装備した瞬間、彼女には尋常成らざる魔導力が付与され
持ち主となったメルの体に合わせ、装備は自動的に形を整えた。
だが、その一方で――》
………
……
…
「とっても嬉しいですっ! ……でも。
私、二回も主人公さんから高級な装備を頂いてしまって……
……ここまでして頂ける程、私は
主人公さんのお役に立てているんでしょうか? 」
《――そう言って少し申し訳無さげに訊ねたメル。
この直後、主人公はこの質問に大きくため息をつき――》
「メル……皆もだけどさ。
俺は……俺を信じて付いて来てくれた皆の事が何より大切だし
皆の為なら何でも出来るって思ってる。
それはメルも知ってくれてると思ってたんだけど……
……俺の勘違いだったのかな」
「い、いえ……そう言う訳では!
でも、私だけ他の皆さんより明らかに弱いですし
回復術師なら主人公さんの方が何千倍も優秀ですし……」
「ねぇメル、一つ良いかな?
その考え方……そもそもの“前提条件”が間違ってるんだ。
メルが俺に勝手に“ついて来る”と言い出した訳じゃない
俺がメルに対してパーティに“参加して欲しい”って頼んだんだ。
それに……例の一件にしても
メルが居てくれなかったら俺だけじゃなく皆が危険だった筈だろ?
皆の事も……そしてメルの事も、何者にも代えがたい程大切なんだ。
何をどう伝えたらメルにも……皆にも
この気持ちがちゃんと伝わるかは俺にも分かんないけど
皆の為……そして、皆と仲良く一緒に過ごせるなら
俺はこの先ず~っと“金欠”でも良いと思ってる。
……この気持ちを聞いてもまだ何かモヤモヤするって言うなら
今後メルにはその装備が霞む程の
凄まじい回復術師になるって約束して欲しい。
それが俺に対してメルが出来る一番のお礼だと思って欲しい」
《――そう告げた主人公。
この言葉に対し……満面の笑みで
一筋の涙を流した後、ただ一言――
“はいっ!! ”
――と、力強く返事をしたメル。
そして――》
………
……
…
「さてと……“これ”を渡す相手の
ご自宅か職場を教えて貰っても良いですか? 」
「……え、ええ。
それを渡して欲しい相手の職場は……“飲み屋ベルクト”
そこで女将をやっている“ドーラさん”へお渡しください」
「……分かりました。
丁度この国の飲み屋にも行ってみたかった事ですし、今日渡しておきますね。
……あっ!
結果がどうあれ――
“装備をやっぱり返してくれ”
――って言うのだけは無しでお願いしますよ? 」
「そ、それは勿論です……では、どうかよろしくお願い致します」
「はい、では行ってきます! 」
《――直後
店を後にした一行は表通りを暫く歩き、道行く人に訊ねながら
飲み屋ベルクトを探した――》
………
……
…
《――暫くの後
やっとの事で到着した飲み屋ベルクトの店内は相当に広く
とんでも無い人数の客で埋め尽くされていた。
……どうやら満席の様だ。
だが、飲みに来た訳では無い一行は
“女将を呼んで欲しい”……と店員に頼み、暫く待っていた。
……少し後、店の奥から
“忙しい! ……ああ忙しい! ……忙しい時に限って何だろうねぇ! ”
と“忙しい”を連呼しつつ現れた女将ドーラ……だが。
主人公の想定していたタイプとは違い、恰幅の良い体型で
俗に言う“肝っ玉母ちゃん”の様な姿のドーラに
主人公は若干腰が引けつつも、店主から託された花束や指輪
そして手紙を恐る恐ると手渡した……だが。
困った事に女将ドーラは盛大な勘違いをした
“主人公が”ドーラに求婚したと思ってしまったのだ。
当然の如く慌てて否定した主人公だったが
この“中々の状況”に、周囲で飲んでいた客達は彼を冷やかし続け……
……これに大層気を悪くした主人公は
ドーラにとって失礼と思われる発言を繰り出してしまった――》
「幾ら何でも……俺にも選ぶ権利位ありますから!!! 」
《――別の意味で阿鼻叫喚である。
ともあれ……暫くの後、ドーラからの誤解と“怒り”も解け
静かな場所へと移動した一行は……改めて
防具店店主の言付けで有る事を説明した。
一方、漸く状況を理解したドーラは
何故か再び憤慨し始め――》
………
……
…
「あの男……何処まで意気地無しなんだいっ!
直接言い寄ってくるならアタイも素直に受けるだろうさ!
それを……依りにも依ってこんな子供に言付けて寄越すなんざ!!
……アンタッ! 主人公って言ったかい!? 」
「は、はいっっっ! 」(……こ、怖ぇぇぇぇっ!! )
「……まだあの男は防具店に居るかい?! 」
「は、はいっ! ……恐らくは! 」
「なら今からアタイが話をつけてやるッ!!
アンタ達も付いて来なッ!! 」
《――尋常成らざる迫力に押し負け
渋々防具店へと同行した一行……そして、ある意味恐ろしく
ある意味純粋な光景を目撃する事と成った――》
………
……
…
《――閉店準備をしていた防具点店主。
……だが、そんな中
扉を叩く大きな音と共にドーラの怒り声が店の外から響き渡り――》
「……この意気地無しッ!!!
居るのは分かってるんだ! 早く出てきなッ!!
出てこないなら扉毎ぶち破って……」
《――この声に慌てて扉を開けた店主
と、同時に店内へ押し入ったドーラ……そして
近くにあった椅子に座ると店主に説教を始めた。
一体……どれだけの時間が立ったのだろうか?
説教はとても長く……
……一行はとんでもない居心地の悪さを経験する事と成った。
ともあれ――》
………
……
…
「……アンタに魅力を感じないとは言わない。
だが、アタイの事が気になってるってんなら
人生で一回位……正面切って向かって来なッ!! 」
《――女将のこの発言に対し
これまで沈黙を守って来た店主は……意を決したのか
必死に声を張り上げ――》
………
……
…
「そ、そりゃあ……私だってドーラの事を魅力的に感じているし
何故今までずっと気持ちを伝えられなかったのか
ずっとずっと……後悔し続けていたんだっ!!
だけど、私は弱い……これでも必死で考え
自分なりに君に気持ちを届けたつもりだ!
精一杯愛していると……伝えたつもりだっ!!!
私は君の事をずっとずっと……愛していたんだッ!! 」
《――普段は物静かであろう店主
そんな彼が必死に張り上げ精一杯の気持ちを叫んだ為か
彼の喉はあっと言う間に枯れ、言い終わる頃には咳き込む程であった。
だが――》
………
……
…
「……やっと自分の口から愛してるって言ってくれたね」
「なっ?! そ、それは……」
「分かってたんだ……ずーっと分かってんだよ。
アタイだってアンタの事ずっと好きだったんだよ……
……指輪、はめてくれるかい? 」
「あ、ああ!! 遅くなってすまなかった……結婚しよう! 」
《――直後
人目も憚らず熱い抱擁と口づけを交わし続けた二人……
……“一行が居るにも関わらず”である。
そして、居心地の悪さがいよいよ限界突破した一行は
この状況に耐えきれず……こっそりと防具店を立ち去ったのであった。
……この後、サラ邸へと帰宅した一行が
“別の意味で疲れていた”のは言うまでも無いだろう――》
===第五十七話・終===




