第五十六話「幸運があれば楽勝ですが“人間万事塞翁が馬”って言葉もあるのです」
《――依頼を受けた女性陣がそれぞれの依頼場所へと向かって居た頃
残った者達はメリカーノアを探索する為、作戦を立てて居た――》
………
……
…
「さて……サラさん、丁度四方向に別れて探索出来る訳だが
予めこの国の危険な地域や注意事項
その他聞いておくべき事柄があれば教えておいて欲しい」
「危険地域は……賭博場関連でしょうか。
経営に関わっている人達はその……反社会的な組織の人間なので
もし訪れる場合、悪目立ちする行動は控えた方が良いかと思います。
あっ、でも普通に賭け事をしているだけなら問題はありませんけど! 」
《――ディーンの質問にそう答えたサラ
一方のマリーンは“探索”よりも“観光”がしてみたい様で――》
「聞く限りだと割と平和な国みたいだし、探索がてら
私はさっき教えて貰った絵とかお土産を見て回りたいんだけど……」
「……それでしたら、賭博場の近くに歴史上の場所や物
その他様々な物を題材にした絵を売っているお店がありますから
そちらを訪れるのが良いかもしれませんね」
「でもそう言うのって……高いんじゃないの? 」
「値段はピンからキリまで有るので……物に依りますね
でも種類も豊富ですから、お土産になる様な物も手に入ると思います! 」
「それは楽しみね! ……ってそう言えば
主人公は何か欲しい物とか見たい物とか無いの? 」
<――とマリーンに聞かれた瞬間
ある重要イベントを思い出した俺は――>
「別に無いかなぁ……って!サラさん!
約一週間後って“二月一四日”ですよね?! 」
「は、はい……そうですけど……」
「バレンタインデーが近づいてるって事か~
……ほんのちょっとだけソワソワしてしまう時期だ」
「バレンタインデー? ……何ですかそれ? 」
「……あ、無いのか。
えっと、俺の元いた世……く、国の風習でッ!
女性から“意中の男性”に対し、チョコ……つまり甘いお菓子なんですが
それを渡す事で告白する……みたいな、そんな風習の日なんですけど
この国にはそう言う風習とかって無いですか? 」
「……ええ、そう言った風習もそう言った名前のお菓子もありませんが
要するに甘いお菓子を意中の男性にプレゼントする行事なんですね?
でも、それだと……誰かに見られた時にとっても恥ずかしくないですか? 」
「あ、いや……その為に、と言うか何と言うか。
義理チョコ、友チョコ、本命チョコ等々……
……様々な相手に渡す習慣も同時にありまして
日頃お世話になっている方々にも渡すみたいな……」
「多いですね……そうなってくると女性ばかりお金が掛かりませんか? 」
「その通り! ……なので
普通は義理チョコとか友チョコは安く済ませますし
そもそも男性版バレンタイン……通称ホワイトデーと呼ばれる日も
約一ヶ月後の“三月一四日”にあるんですよ! 」
「成程ですね! ……それは平等でいいです! 」
「アラ? ならワタシは主人公に
“本命チョコ”を渡さないとですわネ♪ 」
《――そうマグノリアが言うと
“むっ?! ……なら私も本命チョコ渡すんだから!!
絶対受け取って貰うわよ?! 主人公ッ! ”
――と、妙に張り合ったマリーン
二人の妙な雰囲気に“タジタジ”な様子の主人公だったが――》
「モテ男は……爆ぜろ……」
《――そんな中、静かにオウルはそう言った。
だがこの直後――》
「……で、でしたらっ!
わ、私もオウル様に“本命チョコ”と言う物を! ……」
《――張り合うかの様にそう言ったサラ
オウルはそれを聞いた瞬間、顔を真赤にして照れたのであった。
一方、オウルの発言を聞き逃していた……“訳では無かった”
主人公は――》
「あの~オウルさん? ……モテ男は何でしたっけ? 」
「……し、幸せだなぁ」
「あっ! ……誤魔化したッ!? 」
《――ともあれ
この後、メリカーノアの探索を開始した一行
グランガルドとギュンターは酒屋のある西区画へ
ディーンとマリーンは賭博場及び土産物屋のある北区画へ
オウルとサラは南区画へ……そして
主人公とマグノリアは国立図書館のある東区画へと向かった――》
………
……
…
「しかし……本当に広くて清潔で
何でも全て揃ってる国だな……政令国家もこんな感じに出来たら
皆がもっと幸せに暮らせるんじゃないかって思うよ」
「ええ、確かに素敵な国ですわネ♪
アラ? ……あれがサラさんの言っていた図書館じゃないかしら? 」
「おっ! ……そうみたいだ、入ってみよう! 」
《――国立図書館へとたどり着いた主人公とマグノリアの二人
入館早々、図書館を埋め尽くすかの如くに
整然と陳列された大量の書籍に圧倒されていた二人
余りの壮観さに興奮し声を上げていた二人であったが
そんな二人の元へ、眉間にシワを寄せ一直線にやって来たのは
如何にもな図書館の司書と思われる女性で――》
………
……
…
「ゴホンッ! ……図書館ではお静かにお願いしますッ! 」
「あっ……た、大変申し訳ありませんでしたッ!!
余りに膨大な数の蔵書数に興奮してしまってつい……って。
そ、その……一つお訊ねしても宜しいでしょうか? 」
「ええ、ご用件をどうぞ」
「その……俺達はとある作者の情報を探していまして
この本の作者なんですが……」
《――直後
司書の女性に絵本を手渡した主人公
……絵本を受け取った司書の女性は
表紙、裏表紙、全てのページを入念に確認し――》
………
……
…
「初めて見る絵本ですね……該当する本、及び作者の作品は
残念ながら当館には……」
《――と、申し訳無さそうに絵本を返した司書の女性。
だが、彼女は続けて――》
「……ですが、六ページ目に載っていた風景
これと似た物は“日之本皇国”に関する棚の書籍で見かけた様な……」
《――この情報に
思わず司書の女性に詰め寄り――》
「そ、その日之本皇国関連の書籍はどこにッ?! 」
《――と、再びの大声を発してしまった主人公
直後、司書の女性の表情は曇り――》
「つい先程“図書館ではお静かにお願いします”……と言った筈です。
ご案内致しますから……今後はくれぐれもお静かにお願いします」
「も、申し訳有りませんでした……以後気をつけます……」
「ええ……では、此方へ」
《――直後、司書の女性に連れられ
日之本皇国関連の書籍棚へと案内された二人――》
………
……
…
「確かこの書籍に……有りました。
このページのこの風景……似ていると思いませんか? 」
《――そう言って司書の女性が差し出した本のページには
主人公達の持つ絵本に描かれている物と酷似した風景が
より克明に描かれており――》
「これだ……絶対にこれだ!
……司書さん、この国ってどこに有りますか? 」
「確か、海を渡った先の国だったかと……ですが
海を渡る為にはそれなりの費用も掛かりますし、危険も伴うと言います。
正直、あまり現実的ではないかと……」
「そうですか……でも、有力な情報が分かっただけでも助かりました
司書さん、ありがとうございました」
「ええ、お役に立てて良かったです……あっ、少々お待ちを!
此方から一つ……お願いをしても宜しいでしょうか? 」
「えっ? ……お願いですか? 」
「その本……お譲り頂く訳には行きませんか? 」
「あっ、これは借り物なので俺の一存ではちょっと……」
「そうでしたか……では持ち主様はどちらへ? 」
「今ギルドの依頼に出てますけど……」
「成程……お名前は? 」
「えっと……もし本人に直接交渉したいなら
俺が連絡入れますけど……」
「本当ですか? ……可能であれば今すぐお願いできますか? 」
「え、ええ……良いですけど……」
(何だかこの司書さん、本の話になると雰囲気が変わるな……)
………
……
…
「魔導通信……メル? ……今話せるかい? 」
「どうしたんですか? ……ってそこは図書館ですか?
凄い……本が沢山ですねっ! 」
「ああ……それはそうなんだけど
メルに折り入って相談がある人がいてね……どうぞ、司書さん」
「ええ……ですが、魔導通信で顔が見えるとは
不思議な魔導をご使用に成られるんですね? 」
「えっ? い、いやこれはその……あっ!
ほ……本の話は良いんですか?! 」
「それもそうでした……
……私はメリカーノア国立図書館の司書、ライナと申します。
メル様……とお呼びしても宜しいでしょうか? 」
「は、はい……構いませんけど……そ、それでご用件はなんですか? 」
「では……単刀直入にお願い申し上げます
此方の絵本を……お譲り頂く訳には行きませんか? 」
「へっ? ……その絵本が必要なんですか? 」
「はい……我が国が誇る国立図書館に未所蔵の本ですから
有り体に言えば……“喉から手が出る程”欲しております」
「そ、そうなんですね……そう言う事でしたら……はいっ! 」
「ほ……本当ですか!?
って……ゴホンッ!
大声、大変失礼致しました……では
如何程お支払いすれば……」
「お、お金ですか? ……別に要りませんよ? 」
「えっ?! ……本当に無料で宜しいのですか? 」
「ええ……大切に保管して頂けそうですし
私の絵本がそんなに立派な図書館に並べて頂けるなら……私も嬉しいですっ! 」
「……メル様のご期待を裏切らぬ様、責任を持って管理させて頂きます。
更に……我がメリカーノア国立図書館を代表し
最大限の感謝として、メル様のお名前を寄贈者として
確りと刻んでおきますのでご安心下さい」
「そ、そこまでしなくても……」
「いえ、せめてもの感謝の印でございますから
ご遠慮なさらないでくださいませ」
「で、でもっ……」
「良いじゃないかメル! ……俺も仲間として誇らしいよ! 」
「主人公さんがそう仰るなら……あっ!
そろそろ依頼場所に到着しそうなので……」
「ああ、また後でね! ……通信終了」
………
……
…
「――さてと、情報は手に入ったし
俺達も街の探索に戻ろうか! ……有難う御座いましたライナさん! 」
「ええ、そうですわネ♪ ……っと、ライナさん?
ワタシの大切な人に対する有益な情報、心から感謝いたしますワ♪
それと、大切な思いの詰まったその絵本……大切にしてあげてくださいネ♪ 」
「……お忙しい所、お時間を取らせてしまい申し訳ありません
勿論この書籍は私共、国立図書館が責任を持って……あっ!
メル様に“これ”をお渡しください。
お礼として適当な物かは分かりませんが……」
《――そう言ってライナが差し出した物は
“寄贈者特別入館券”と書かれた
金縁装飾の施された立派な券であった――》
「ええ、必ず渡しておきます……では! 」
「お願い致します……ではまたのお越しをお待ちしております」
《――司書のライナは
二人に対し、深々とお辞儀をして見送ったのだった。
……一方、グランガルドとギュンターの西区画組は
とある面倒事に遭遇していた――》
………
……
…
「ギュンター殿……あれは不味いのでは無いか? 」
「ええ、お助けするべきでしょうな……」
《――そう話す二人の少し先には
暴漢に襲われている一人の男性が居た。
この瞬間……詳しい事情は兎も角、このまま放置すれば
男性に命の危機が訪れるであろう事だけは理解して居た二人は
間に割って入り、事情を訊ねた。
すると――》
………
……
…
「……此奴に金を貸してんだが
返済期限なんてとうに過ぎてるんだよ!
それで……こいつは酒屋だから
“売り物の酒を少々寄越せば多少待ってやる”
と言ったらそれも出来ねえと言いやがった……
……だが、素人に舐められちゃこの業界やっていけねぇんでな
痛い目に遭わせてる理由はそれさ
分かったら……さっさと何処かへ消えな」
《――この発言を受けた瞬間、ギュンターは何故か少し微笑んだ
そして――》
「……如何程の金額で? 」
《――と訊ねた後
金貨三〇〇〇枚と答えた集金人に対し――》
「承知致しました……今は持ち合わせがありませんが
全額私めが肩代わり致しましょう。
……必ず本日の夕刻迄にお渡し致します。
それでこの方の借金は解決と言う事で如何でしょう? 」
《――突如としてギュンターの持ち掛けたこの取引に
集金人は暫く考えた後――》
「……必ず今日の夕方までに返すってんなら
三〇〇〇で許してやる……だが、遅れたら倍だ。
……それでも良いならその条件で飲んでやる」
《――そう吹っ掛けて来た集金人
……だが
彼は眉一つ動かさず、終始笑顔で――》
「ええ……承知致しました、では必ず夕刻までに此処へお越しくださいませ
もしそちらが遅れて因縁を付けられては困りますので……
……その様な事は決して無き様、お願い致します」
《――と、返した。
ギュンターのこの発言に集金人はニヤリと笑い――》
「……ああ、そんな汚え真似はしねえよ。
おめえさん、年ゃぁとってるが眼光鋭ぇからよぉ?
騙しでもしたら酷ぇ目に遭いそうだしな。
……まぁ、待ってるぜ」
《――そう言い残すと集金人は何処かへと立ち去っていった。
そして――》
………
……
…
「……さて、そこの御仁
私めも慈善事業でお助けした訳ではございません。
私めが望むのは……あるお酒で御座います」
「あ、あぁ……助けて貰って感謝してるし
下手に裏切ったらあの集金人より怖そうだからな……一体どの酒を所望で?
数本位なら無料で……」
「……無料は頂けません。
“あるお酒”の店にある在庫を私めの財布の許す限り購入したいのです
ですが、定価では無く……お気持ちで構いません。
……“勉強”して頂けますかな? 」
「成程……その口振りだと、あの酒が欲しいんだな? 」
「“マルテルソル・ドヴォン”でしたらご明察で御座います」
「分かった……半額でいいかい? 」
「全て購入するとして……如何程の価格でお譲り頂けますか? 」
「全てか、少し痛いが……まぁあの集金人に殺されるよりはましか
若いのが六七本に五年物が二六本、十年物が一二本
それと……出したくは無かったが、幻の三〇年物が一本だったか。
全部買うってんなら本来は二万五千金貨
大負けに負けても半額で一万二五〇〇金貨って所だが……
……アンタは俺の借金まで払ってくれるってんだろ?
だから……端数の二五〇〇金貨で売るよ。
……大体、あんな価値の分からない男に渡す位なら
価値を知ってそうなアンタに売った方が
たとえこれが捨て値だとしても酒屋冥利に尽きるってもんでぃ! 」
《――酒屋の店主は
半ば“ヤケ”の様な口振りでそう言った――》
「それはそれは……お褒めに預かり光栄です
しかし十年物でも珍しいと言うのに、まさか三十年物が有るとは。
……良いでしょう。
夕刻までお待ち頂ければ必ずその金額を用意して差し上げます。
グランガルド様、私事ではありますが……」
「……良い、この物の命も掛かっておるのだろう?
この所、体も鈍っていたのだ……久しぶりに良い運動が出来る」
「心から感謝致しますグランガルド様……
……では、早速ギルドへと向かいましょう」
《――直後、ギルドへ向かった二人は
Aランクで受ける事の出来る依頼を数件受けると
その依頼全てを尋常ならざる速度で達成し……“夕刻”どころか
“昼過ぎ”には共通金貨で約九〇〇〇枚程を手に入れて居た。
……その所為もあり、ハンターランクは一段階上昇
二人の胸にはSランクのハンターバッジが輝いた。
この後……酒屋へと向かった二人は、店主との約束通り
店主の借金分の金貨を集金人宛てのメモ書きと共に彼に言付けた後
在庫分全ての“マルテルソル・ドヴォン”を購入し
オベリスク内部の金庫室へと厳重に保管したのだった。
ともあれ……早々に目的を達成してしまったギュンター
引き続きグランガルドと共に街の探索を続けていたのだが……
……ある武器屋の前を通り掛かった瞬間
妙に興奮したグランガルドは
そのまま、武器屋へと吸い込まれる様に入店してしまった。
普段冷静なグランガルドが突如として取った行動に驚きつつも
彼に同行したギュンターは……直後
その“興奮の原因”を知った――》
………
……
…
《――店内に所狭し並ぶと様々な武器。
多くの高品質な武器が立ち並ぶ中
その殆(放とん)どを素通りしたグランガルドは
ある“籠手”の前に立ち止まると、それを物欲しそうに見つめた。
ギュンターが価格に目をやると
“共通金貨九〇万枚”……と書かれており
とてもではないが手が出る代物ではなかった。
直後、意気消沈し店を後にしかけたグランガルドだったが
そんな彼の横には何とも奇妙な箱――
“挑戦一回一〇〇〇金貨!
当たりが出たらお好きな装備をどれでも一つプレゼント!! ”
――そう書かれた箱に気がついたグランガルドは
直ぐに店主を呼び――》
「……この箱で当たりを引いた場合
あの“籠手”であっても貰えると言うのか? 」
「ええ、勿論ですが……お一人様一回限りである事と
どうしても二回以上お引きになりたい場合、二回目以降は
一回につき一万金貨をお支払い頂く事となります。
どちらもご了承頂けるのでしたら……何度でも挑戦して頂けますよ? 」
《――と、怪しげに微笑んだ店主
一方、この説明にギュンターは――》
「では……私めが引き、グランガルド様がお引きに成る場合
計二〇〇〇金貨をお支払いすれば良いと言う事ですね? 」
「ええ、その通りですが……この抽選箱は特殊な魔導で出来ております。
当たりは一枚のみ、代わりに外れは常に一億枚。
誰が何回引いた所で外れは補給され続けますので
何回引いた所で確率は一億分の一である事をご了承下さいませ」
《――この説明にグランガルドの表情は少し曇った
だが――》
「まぁ……一度ならば試してみるのも良いだろう」
《――そう言うと店主に一〇〇〇金貨を渡し
静かに箱へと手を入れたグランガルド。
だが……暫く探っていたその時
彼の指先に妙な感覚が伝わって来た。
一枚の抽選用紙が……“引いてくれ”と言わんばかりに
何度も何度も指先に当たるのだ。
……当然この妙な抽選用紙をしっかりと掴み
箱から引き抜こうとしたグランガルド……だが
同時に抽選箱は重くなり、軋み始め
腕までもが抜き辛く成り始めた……だがその瞬間
店主の表情はほんの一瞬“曇った”――
――そして、その事を見逃さなかったギュンターは
グランガルドに近づきこう囁いた――》
「恐らく……“それ”でございます」
《――そう聞かされたグランガルド。
瞬間……冷静に息を整え
目を閉じ……大きく息を吸ったと同時に
渾身の力を振り絞り、引き千切らんばかりの勢いで
抽選箱から一枚の用紙を引っ張り出した――》
「うぬりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!! ……」
………
……
…
《――直後、フラフラとその場にへたり込んだ店主。
間違い様の無い程“デカデカと”
言い逃れは不可能な程に目立つ派手さで
“当たり”……と書かれているその紙を手に
静かに店主へと訊ねたグランガルド――》
「……あの籠手は貰って構わんのだな? 」
《――そう問われた店主は
力の抜けた声で――》
「はひ……どうぞ……おめでとうございます。
だがそんな筈は……馬鹿な……」
《――と言った。
直後、グランガルドは興奮を抑えきれず――》
………
……
…
「マグノリア殿の言った幸運とは……此の事かあぁぁっっ!!! 」
《――と、店外まで轟く程の大声をあげながら大いに喜んだのだった。
彼の察した通り……彼に授けられた“幸運”は“籠手”
ギュンターに授けられた“幸運”は言うまでも無く“酒”であった。
……ともあれ、上機嫌で店を後にしたグランガルドと
その背後で“呪いの箱”の仕組みを見抜いたギュンターは
それぞれ“別の感情を元とした”笑顔を浮かべていたのだった――》
………
……
…
《――ギュンター・グランガルドの二人が
上機嫌で街の探索を行って居た一方で……
……北区画では
ディーンとマリーンの二人が賭博場周辺を探索して居た――》
「……どうやらあれが賭博場の様だ
だが……サラさんは危険だと言って居たね」
「ええ、見るからに怪しい雰囲気がぷんぷんして……ってあれ! 」
《――突如として興奮し
マリーンが指差した先に有った物は、何と……“ジェンガ”であった。
どうやらこの国の賭博場では
店側との一騎打ちの賭けとして人気を博している様子……
……掛け金はキャリーオーバー方式の様で
掛け金の総額は現在、金貨二〇万枚にも達しており――》
「ほう……主人公発案のゲームがこの国でも見られるとはな
発案者の友として……挑戦しない訳には行かないだろう」
《――そう言うと一直線にジェンガの賭け場へと向かったディーン
一方のマリーンはあまり乗り気とは言えず
寧ろ、ある“トラウマ”が蘇るこのゲームに――》
「そ、それなら私は……お土産物屋さんを見てくるわね! 」
《――とディーンを残し
そそくさとこの場から立ち去ったのであった――》
………
……
…
「……全く!!
依りにも依って何で“あれ”があるのよ!!
恥ずかしい記憶思い出しちゃったじゃない!
……でも。
懐かしいな、政令国家……
お母さんも水の都も民達も……早く目的達成して戻れたら良いな」
《――そう独り言を言いながら土産物を物色していたマリーン
すると……“水の都”と言う単語に引っ掛かった店主は
彼女に対し“とある絵”を猛烈に勧め始めた。
その“絵”とは――》
「……そこの美人なお客さん!!
この絵! ……水の都が湖に成る前の絵ですぜ!
何ぶん古い商品ですからこの絵で最後なんですが
お客さん何だか寂しそうだったんで……特別サービスって事で!
この絵……プレゼントしますぜ!
但し! この絵の他に……何かお買い上げ頂いたらですが! 」
《――と笑顔でそう言った店主の申し出に
マリーンは大層喜び――》
「本当?! ……ええ、何か頂くわ!
じゃあ……これ! お菓子じゃないけど、本命……何かしら? 」
「ん? ……ああ!
そいつぁ近所の芸術家が作った“鼻をほじるハニワ”ですな! 」
「鼻をほじ……もっと別のデザイン無いの? 」
「おや、お気に召しませんかい?
でしたら……こちらにされてはどうです? 」
《――と、店主の差し出した“ハニワ”は片手を差し出していた。
店主が言うには“投げキッスをするハニワ”……との事だ。
一方、この説明にマリーンは頬を赤らめつつ――》
「そっ……それなら意味は通じる筈よね!? ……それを貰うわッ!! 」
「はい毎度っ! ……じゃあこの絵と一緒に包んでおきますね! 」
「……ありがとう、大切にするわね」
「へい! またのご来店お待ちしておりますよ~! 」
《――直後
上機嫌で絵と“ハニワ”の入った袋を大切に抱え
ディーンのいる賭博場へと戻っていったマリーン。
彼女の授けられた“幸運”は
どうやら“故郷の絵”であった様だ。
だが……そんな中
ディーンの元へと戻ったマリーンは更に驚愕する事となる。
……ディーンの周り出来ていた人集り
その隙間から見えたのは……うず高く積み上げられたジェンガ
誰かが息を吹き掛けただけでも倒れそうな程の不安定さで
辛うじてその姿を保持している様な状況だった――》
………
……
…
「さて……お兄さん、アンタの番だぜ」
《――強面の屈強な男はディーンに対しそう言った。
一方、ディーンはそれに答えもせず……瞳を閉じ
ひたすらに意識を集中していた……そして。
……観衆も固唾を飲んで見守る中
ゆっくりと目を開いたディーンは――》
………
……
…
「……最早、これだけの様だ」
《――そう呟き
狙いを定めた一本に向け、人差し指を差し伸ばし
一本のジェンガを勢い良く弾き出したディーン
……直後、激しく揺れたタワー
だが……
次第に揺れは収まり――》
「やるな……だが、まだアンタの番は終わってねぇ。
其奴を上に置くまでがアンタのターンだぜ……」
「ああ……分かっている」
《――直後
ゆっくりと拾い上げたジェンガを慎重に重ねたディーン
彼は……正確な手捌きで
タワーの揺れをも計算し……バランスを崩す事無く
手を、放し――》
「次は……貴様の番だ」
《――対戦相手に対し静かにそう告げたディーン
その直後――》
………
……
…
「う……うおおおおおおおおおおおっ!!! 」
《――賭博場に響き渡る歓声。
ディーンに授けられた“幸運”は“ジェンガでの勝利”であった――》
………
……
…
《――それぞれがそれぞれの“幸運”を満喫していた頃
南区画を担当するオウルとサラは
互いに“モジモジ”としながら探索を続けていた。
そんな中――》
「その……私達は当面、この国で寝泊まりする事に成るのです
それでなのですが……安く清潔で
危険の無い宿を探さなければ成りません……しかし私には土地勘が無い。
サラさん……どこか安くて清潔で安全な
我々全員が泊まる事の出来る宿をご存知ではありませんか? 」
「そ、それならば……そのっ!
私の家を皆様の宿代わりにお使い頂けたら……」
「サ……サラさんの家を宿代わりに!?
し、しかし……私達は大所帯ですからその……ごっ、ご迷惑に……」
「お待ち下さいオウル様! ……先程から“さん付け”ばかり!!
先程もお呼び捨て下さいと言いましたのにっ! 」
「そ、それは申し訳無かったッ! ……そ、その……サラッ! 」
「は、はいっ!! ……その、ご安心くださいっ!
私の家はそこそこ立派ですし! ち、丁度この地区にありますのでっ!
で……ですから……もし宜しければ……そのっ
い、一度……たたたっ……立ち寄って!!
い……行かれ……ませんかっ? ……」
《――言うや否や
見る見る内に頬を赤らめたサラ――》
「なっ?! いや……確かに宿代を浮かせる事が出来るならば
今後の旅に役立つ……先日の私の失敗を挽回出来るかもしれない。
で、ではサラさん……いや、サラっっ!! 」
《――瞬間
オウルはサラの肩をがっしと掴み――》
「ひゃ、ひゃいっ?! ……何でしょうかっ?! 」
「私達の宿代わりとして……サ、サラの邸宅をお借りする事
お……お願いしても宜しいだろうかっ?! 」
《――直後、サラに対し凄まじい形相で頭を下げたオウル。
一方……そんなオウルの様子に少しは緊張も解れたのか
サラは優しく微笑むと――》
「はいっ! ……喜んで! 」
《――と、答えた。
だが……この直後
彼女の快い返事に大喜びしたオウルは
勢いあまり、思わずサラを抱きしめてしまったのだった。
数秒の後……お互いに頬を赤らめつつ、飛び退けるように離れ
妙に余所余所しく……引き続き
街の探索と言う名の“デート”を楽しんだ二人
そして――》
………
……
…
《――図書館を後にして居た主人公とマグノリアは
引き続き周囲の探索をしていた。
だがそんな中、主人公の視界に入った一軒の防具屋……この瞬間
彼が思い出したのは“メルの事”で――》
「あ~……そう言えばメルの装備、この間の一件でボロボロなんだよな」
《――彼が何気無く発したこの発言に
マグノリアは大層申し訳無さそうに謝り始めた。
当然、慌てて訂正しつつ――》
「い、いや! ……そう言う意味で言ったんじゃなくて!
その……折角だから
新しい装備をプレゼントしようかなって思っててさ。
……でも、今は持ち合わせが殆ど無いし
それなりに依頼を受けないととは思ってるんだけど、何れにしても
この国の装備の程度と価格を知っておかないとでしょ?
だからその、一回確認してみないとな~ってさ!
って事だからその……行ってみよう! 」
《――直後、装備屋へと入店した主人公。
メルの職業である回復術師用の装備を探していると
一際輝く、如何にもなセット装備を見つけた主人公。
言うまでも無く、価格は高額で――
“本体価格:金貨四〇万枚・別途調整費用:金貨二五〇枚”
――と言う値札が掛けられていた。
だが……諦める所か
逆にやる気に火がついた様子の主人公は――》
「よし……出来るだけこの国に長居しつつ、目立たず
且つメルにもバレない様に秘密裏に
出来るだけ早くこの装備を買えるだけの金額を稼ぐぞ~ッ!! 」
《――あまりにも無謀に思えるこの決定に
マグノリアは一瞬不安な表情を浮かべたが――》
「分かったワ♪ ……ワタシも全力で手伝うから、安心してネ♪ 」
《――と、協力を申し出たのだった。
ともあれ……この日から約一週間
寝る間も惜しみコソコソと宿を抜け出してhじゃ
様々な依頼を達成し続けた主人公とマグノリア。
だが……彼は達成し過ぎてしまった。
ハンターバッジの等級が
あっと言う間に、この国で上から三番目の等級“Lランク”と成る程に。
……これは主人公に取っての
またマグノリアに取っての幸運なのか、それとも……不運なのか。
果たして、この凄まじい“攻撃術師”を
この国は“人道的に妨害”せず出国させてくれるのだろうか――》
===第五十六話・終===




