第五十五話「大国は楽しいですか? ……」
《――謎のおっとり美女サラ
彼女からこの国の様々な情報を聞き出す為、喫茶店へと足を運んだ一行。
……だが、あらぬ疑いを掛けられぬ様
出来る限り奥まった席を選び、注文した飲み物が全て運ばれて来た頃
声を落とし、様々な質問を投げ掛け始めた一行――》
………
……
…
「では一つ目の質問を……
……サーブロウ伯爵と言う方をご存知ありませんか?
この絵本を描いた作者の様なのですが
この方を見つける事が俺達の旅の目標でも有るんです。
どんな小さな情報でも構いませんから
何か知っている事があればぜひ教えて下さい」
《――そう訊ねた主人公に対し
サラは絵本を隅々まで読んだ後――》
「……不思議な内容の絵本ですね。
でも……ごめんなさい、私はその方に関して何も知りません
ですが“国立図書館”なら何か分かるかも知れません」
「えっと……其処って結構大規模だったりします? 」
「ええ、周辺国がどの程度の図書館を有しているかは分かりませんが
少なくともこの国の中では一番大きな図書館ですよ? 」
「成程、後で訪ねてみるか……良い情報です、凄く助かりました! 」
「お役に立ててよかったです! 」
《――続いて質問をしたのはギュンター
彼は――》
「……ではサラ様、私めからは物価についての質問を。
備蓄可能な物資の大凡の価格を教えて頂きたいのです」
「あっ……旅の途中って仰ってましたよね!
……量にも依るとは思いますが、大きな荷馬車一台を埋め尽くす量でも
共通金貨でおよそ一〇〇〇枚程あれば
結構質の良い備蓄食料が手に入るかと思います」
「成程……と言う事は
平均的なAランクの依頼を一つこなせば荷馬車約三台分の備蓄食料ですか。
……この国でのAランクの難易度がどの様な物なのかにも依りますが
備蓄食料の問題は早急に解決出来そうでございますね」
「……ならばギュンター、状況にも依るが
更に数件の依頼を達成し、共通金貨の
“備蓄”も増やすべきかもしれんな」
「ええ、左様でございますディーン様……ではサラ様
あと一つだけ質問を……唯、とても私的な事で恐縮なのですが……」
「はい! ……何なりとどうぞ! 」
「では失礼して……酒類の価格は如何程でしょうか?
年代物の酒類などが手に入るのであれば
私め個人と致しましては非常に有り難いのですが……」
「お酒ですか? ……それなら
“西区の酒屋”に行けばマニアックなお酒が沢山有った筈ですよ?
何だったかなぁ……えっと~マルテル何とかってお酒の年代物が
税の関係上とっても安く買えるとかって他国の商人達が……」
「まさか……“マルテルソル・ドヴォン”の事でございますか?! 」
「そう! そのドボンっていうお酒が……」
「ドボンではなくドヴォンでございます!!!
そんな事よりも……何年物で?! ……如何程の価格で?! 」
「わっ?! ……落ち着いて下さいっ!
確か安いのだと共通銀貨二〇〇枚で一本だった様な?
年代は確か、最低でも五年~八年だったと思いますけど……」
「サラ様、その情報に……間違いはありませんね? 」
「は、はい……」(怖いよぉ……この人怖いよぉ……)
「そうですか……それが事実なのであれば
全て買い占めさせて頂きたい程に安いですな」
《――と、珍しく感情を顕にしたギュンター
だが、サラの怯えっぷりを見たディーンは――》
「……ギュンター、酒はお前の唯一の趣味だ
それを否定はしないがサラさんが怖がっている……少し控える様に」
「こ、これは失礼を! 私めとした事が……」
「いや……日頃苦労を掛けているのも事実だ
満足するまで買ってくると良い……止めはしない」
「ディーン様……お気遣い感謝致します」
………
……
…
「……えっと、他に質問がある方はいらっしゃいますか? 」
<――様々な質問が飛び交った後、そう訊ねたサラさんに対し
ガルドは――>
「では吾輩から二つ程……この国が
他国の人間を不当に扱う様な国かどうかを知っておきたい。
無いとは思うが……念の為にな」
「……無いと思います。
著しく人権を無視する行為は
この国の法律で固く禁止されていますし、破った場合には
とても重い罰を受ける事になりますから」
「成程……では、もう一つ。
先程、吾輩達はハンターギルドで依頼掲示板を見ていたのだが
職業別に報酬が微妙に異なって居た……特に
“トライスター”にのみ特別報酬の名目で
報酬が三倍近く付いている依頼が数多く見受けられた。
……あれにはどう言う意図が有る? 」
「それはですね……この国ではトライスターって
要するに“魔導師が三人居るのと一緒”って言う考え方なんです。
だからそう言う風に成っているみたいです」
「成程……承知した」
<――ガルドが訊ねた二つの質問に際し
俺は“仮定として”追加である質問を投げ掛けた――>
………
……
…
「……これは例え話なんですけど
仮に他国からのハンターがトライスターだったとして
その人が何個か依頼を達成した場合……そして
暫く経ってこの国を後にする場合……引き止められたりは? 」
「……しますね。
と言うかトライスターだと判明したら物凄く厚遇されますけど
同時に出国はほぼ不可能かもしれないですね」
「やはり……強制的にですか? 」
「強制的にでは無い筈です、人権を守る法がありますから
だから、その法に抵触しない様にあらゆる手を使って引き留めるんです。
……本人の望む事を叶える為に様々な条件で厚遇したりで
“その代わりに居てくださいね? ”と言う契約を結ばせるんです。
契約を結んだら破棄は出来ませんから、生涯この国で暮らす事になります。
……ただ、その後の厚遇度合いが尋常じゃないので
殆どのトライスターさん達はそもそも去りたがらないみたいです。
良くも悪くも実力主義なのは良いのですけど……」
<――そう言うとサラさんは少し表情を曇らせた。
そして、それに気づいたマリーンは話を逸らし――>
「な、なんだか雰囲気暗くなっちゃったし
ちょっと明るい質問に変えるわね!
……この国の特産品とか
お土産になる様な物って何処で手に入るのかしら? 」
「そうですね……この国は絵が特産品になってますから
絵師がとっても多いんですよ? ……国に仕える絵師が居る位
絵師の事を凄く大切にしてますから! 」
「成程……だからさっきのお店のメニューに
写実的な挿絵が入って居たのね! 」
「はい! ……でも、最近絵の具に使う原料が高騰してて
困ってる絵師が多いって話を聞きます……何でも
絵の具の原料を採掘しに行く為の通り道が
“土砂崩れと巨石で通れなく成った”って言う話を聞きました。
確か、皆さんが受けられるって言う
Aランクの依頼でもそれに関連した依頼が有った様な……」
「……と、言う事は丁度いい依頼があるかもしれないって事ね!
ねぇ、早速受けに行かない? 主人公」
「ランク的に言えば俺は受けられないみたいだけど……そうだね
一応ハンターギルドに行ってみようか! 」
<――直後、ハンターギルドへと向かい
サラさんの言う“絵師に関する依頼”を探した俺達は
直ぐに二件の依頼を発見した。
一つ目は“依頼者を山奥の自宅へと送り届ける”……と言う物。
二つ目は“絵の具の原材料採掘場所までの通り道を通行可能にする”
……と言った物であった。
詳しく読み進めて行くと、どちらも依頼者は同一人物で……
……それもとある“絵師”からの依頼だった。
もし両方を解決出来れば、Aランクの平均的な依頼よりも高い
合わせて九〇〇〇枚の共通金貨が報酬として支払われる様だが
依頼者からの希望により“送り届ける”方は一名のみでの依頼
“通り道”の方は上限が三人迄と、何故か人数制限が掛かって居た。
正直、俺には偏屈そうな依頼主に見えたが
サラさんはこの依頼者を知って居る様で――>
………
……
…
「あっ! ……この人とっても有名な絵師さんですよ?! 」
「……どう有名なんですか? 」
「国の偉い人達の肖像画を描く事を専業にしていて
その他、たまに来る一般のお仕事も受けはするんですが
本人が気に入らなかったら幾ら積まれても書かないって言う
とっても……」
「偏屈なんですね? 」
<――とマリア。
サラさんは慌てて――>
「い、いえその……高潔!
……そう、高潔な人なんですっ!
この人に肖像画を書いて貰える人はとっても凄い人だと思いますよ?
だって……この人が描いた人は
必ず成功者に昇りつめるって噂なんですよ?? 」
<――そう必死にフォローしたサラさん。
だが、俺からすると――>
「……と言うよりは“既に偉い人達の肖像画を書いてるから”
そう言う噂が流れてるだけの様な気がするんですけど……」
「へっ?! い、いえその……そんな事は……って!
……話を依頼に戻しますねっ?!
えっとえっと! ……どっちの依頼も
“女性ハンター”が参加条件みたいですっ! 」
「偏屈な上に只の変態オヤジじゃないですか」
「だからそんな失礼な事を! ……って、彼女は女性ですよ? 」
「えっ? ……いや、まぁ女性だとしても
そこそこ重労働っぽい道のりを送り届けるのに一人だけ
しかも“女性のみ”って……達成させるつもりあるのかな?
“通り道”の方だって三人を上限で“女性のみ”とか
男でも辛いですし、正直無理ありそうな気がするんですが……」
<――と、余りにも酷い依頼内容に疑問を呈して居たら
マリアは――>
「え? ……道の舗装なら私一人でも行けると思いますけど? 」
「あ、マリアーバリアンが居たか」
「誰がマリアーバリアンですか! ……語呂が悪いっ!! 」
「……そ、そうですか。
でもそうなってくると送り届ける方が大変そうですね
彼女の自宅は山の頂上付近ですから
歩くだけでも相当な距離ですし……あれっ!?
しかも時間制限がありますよ?
この依頼……ティータイム迄の達成?!
依頼の日数制限が……今日まで?!
もしもこの依頼を受けるなら、あと一時間しかありませんよ?!
これは確かに無理かも……って。
もしかしたら本当に偏屈と言うか
ただの意地悪な人なんじゃ……」
<――と、今の今まで必死にフォローしていたサラさんですら
そう感じ始めて居たこの依頼。
だが――>
「届けられれば……ルートは何でも良いなら……私……行ける」
<――と名乗りを上げたのは
ライラさんだった――>
「あぁ! その手があったか!
えっとその……大きな声では言いませんけど
ライラさんはその……“ドラゴン使い”でして」
「そ、そうなんですか?! ……それなら行けるかもしれません!
そうと決まれば早速依頼を受けに行かれてみては? 」
「ええ……でも、女性陣だけ働かせて
俺達がその間ダラダラしてるって訳にも行かないですし
此処は俺達も何かしらの依頼を受けて、別行動で稼がないと……」
<――と気を使った俺
だがディーンは――>
「いや、私達はこの国の探索を進めるべきだと思うが」
「えっ? ……確かに大きな国ではあるけど
お金を稼いだ方が良いんじゃない?
ディーンだって“備蓄を増やそう”って……」
「確かにそうは言ったが……何処に何があり
どんな店にどんな物を売っているかなどを把握して置く事に損は無い。
……いつもならばギュンターに頼む所だが
これだけの広大な国をギュンターだけに探索させていては
流石のギュンターであってもそれなりの時間が掛かってしまうからな」
「それもそうだね……なら取り敢えず組分けしよっか!
ライラさんは送り届ける係で決定として
マリアは通り道の係だよね? 」
「はい! ……後二人連れていけるので
メルちゃんとタニアさんは私の物にします! 」
「へっ?! わ、私ですかっ!? い、いえ……が、頑張りますっ! 」
「何故私……いえ、選ばれたからには責任を持って当たりますわ」
「いやいや……二人はマリア程力持ちじゃ無いと思うし
何か任せるにしても程々にな?
まぁ兎に角……残ったメンバーは街の探索担当って事かな? 」
「ならば主人公……人数も丁度良い事だ
二人一組で動く事を提案する……安全の為にも良いだろう」
<――そう提案したガルドに対し
“じゃあ、俺はガルドかマリーンと……”
と言い掛けた俺を、誰かが強く引っ張った――>
………
……
…
「なら……ワタシはアナタと二人一組ですわネ♪ 」
「いっ?! 良いけど……」
<――それは
“リーア”だった――>
………
……
…
《――この決定の直後不安そうな表情を浮かべたメル。
……だが、そもそも主人公とマグノリアは
あまり離れ過ぎてしまうと互いの繋がりが途切れ
彼女の健康状態が著しく害されてしまうと言う事もあり
このままで決定と成った。
ともあれ……その後、グランガルドとギュンターが
ディーンとマリーンが……そして
“当然の様に”オウルとサラが二人一組となり
東西南北に別れメリカーノアの探索をする事で決定された。
一方……ギルドの依頼を受けた後
それぞれの依頼場所へと向かったマリア一行とライラ――》
………
……
…
「遅い……早くこないと依頼達成難しい……」
《――依頼の指定場所へと移動した後
そう、少し不満を口にしたライラ。
暫くの後……少し遅れて彼女の元へと現れたのは
少しうねりの効いた茶褐色の髪をなびかせた背の高い美女で――》
………
……
…
「あら? ……貴女が依頼を受けてくれたハンターさん?
小さくて可愛いけれど……実力はありそうな雰囲気ね。
宜しく……私が依頼者のクロエよ」
《――優しく微笑みながらライラに対し握手を求めた依頼人のクロエ。
ライラもそれに答える様に手を差し出し握手をした
だが……握手をしつつ
ライラはクロエに対しある確認をした――》
「私が……クロエさんを運ぶ方法は……ドラゴン。
高く飛ぶけど……大丈夫?
……怖かったら出来るだけゆっくり飛ぶけど
それでも駄目なら依頼の達成は……出来ない……」
《――この質問に対し
クロエは微笑み――》
「丁寧に教えてくれてありがとう! ……大丈夫よ!
寧ろドラゴンの背中に乗せて貰えるなんて中々出来ない経験ね!
依頼をキャンセルなんてとんでも無い……是非お願いするわ!
……改めて宜しく、ライラさん! 」
《――そう言うと
楽しみな様子で空に目線を上げたクロエ
……どうやら、何処かから飛んでくると思っている様子
だが、そんなクロエの期待を裏切る様にライラは一言――》
「ドラゴン……おいで」
《――と、何時もの様にドラゴンを身体から呼び出した。
一方のクロエはとても驚いた様子で
興奮気味にドラゴンを凝視し、一言――》
「……可愛いっ!! 」
《――と、言い放った。
……この発言が嬉しかったのか
僅かだがクロエに対し気を許したドラゴン……そして
その様を見たライラもクロエに対する警戒心を少し緩めた――》
「乗って良いよ……撫でてあげたら喜ぶ……」
《――そう促し
クロエもそれに答える様にドラゴンの背を優しく撫で
それが心地良かったのか、ドラゴンは甘えた様な声を挙げた。
そして、その声を聞いたライラは少し微笑むと――》
「優しい人で……良かったね……それじゃあ行くよ。
ドラゴン、飛翔――」
《――そう、静かに命じた。
瞬間……ドラゴンは何時もより優しく上昇し
クロエの邸宅が有る山頂付近を目指し優しく飛んだ。
そして数分の後……難無く山頂付近に建てられた
豪華な邸宅前へと降り立った二人と一匹――》
………
……
…
「……凄く凄~く稀有な経験が出来たわ!
ライラさん、ドラゴンちゃんも本当に有難うっ!!
唯……まだ依頼達成とは言えないのよね……」
「……どう言う……事? 」
「実は……この依頼なんだけど、ある人との賭けなの
その人物があと三〇分後に絵を受け取りに此処に来るのよ。
その人はこの国の“偉い人”……なんだけれどね」
「女性だけしか……依頼を受けられない理由? 」
《――そう言うとライラは少し警戒を強めた。
しかし――》
「……勘が鋭いのね。
この国全体の風潮と言うか……影に隠れた問題なんだけれど
“女のくせに”だとかってつまらない性差別が
表立ってこそ居ないけれど……まかり通ってるフシが有るの。
……男性と同等の実力がある女性は沢山居るのに
男性よりも認めて貰い辛い状況が私には許せない。
勿論、男性が嫌いな訳でも尊敬していない訳でもないし
男性にしか出来ない事があるのは理解してるし尊敬もしているわ。
だけど……男性にしか出来ない事がある様に
女性にしか出来ない事だって有る筈でしょ?
なのに、どちらが行っても大差無い事柄にまで
性差別がまかり通っている現状が許せないの。
……今回の依頼は
そんな現状を打破する為の協力をさせる賭けなの。
この後此処に来る人物に私が勝ったら、絵の代金はタダでも良いから
確りと女性を平等に扱い、良くも悪くも特別視せず
一人の人間として認めさせる法律を新たに定めさせる事が出来る。
今日……もし私が負けていたら
寧ろそれを大きく後退させる原因に
私自身が成っていたかもしれなかったのだけれどね……兎に角
そんな理由の為にこう言う依頼方式になったの。
少なくとも……ライラさんみたいな実力のある女性を
真っ当に評価する国であって欲しいと願っての事よ。
……騙す様な依頼でごめんなさいね」
「……良い……あなたが優しい人なのはドラゴンも知ってるから。
でも……もう一つだけ質問……崩落現場の方も……賭けの為? 」
「……と言うよりも“一挙両得”って言う方が正しいかしら?
幾ら国が法律で禁じた所で、直ぐに風向きが変わるとは思えない。
なら、実際に実力のある女性が居る事を見せつけておきかったの。
だって……男性絵師の中にも“私が身体で仕事を取った”だとか
失礼な事を言う心無い人も居るのよ?
……だから、そんな酷い考え方をする人にも
少し考えを改めて貰いたくて、今回の依頼の方式にしたの」
「そう……なんだ……でも安心して。
あの依頼を受けたマリアさんは……バーバリアン並み。
“マリアーバリアン”……だから」
「そうなの? ……バーバリアンを題材にした絵なら私も描いた事が有るけど
女性なのに伝説のバーバリアン並みに強いって言うの?
それが事実なら相当凄い事だけれど……
……それにしても“マリアーバリアン”って
酷く語呂の悪い呼び名ね? 」
「うん……本人も……何時も……そう言ってる……」
………
……
…
《――同時刻
依頼場所周辺へ到着して居たマリア率いる“通り道組”
だが……依頼場所には既に数十名の人集りが出来ていた。
その多くは絵師や野次馬の様だったが……
……これをあまり気にせず
一行は土砂と巨大な岩石が塞ぐ現場へと向かった。
暫くの後……現場へ到着し状況を確認すると
巨大な岩石と大量の土砂が
洞窟の入り口を塞ぐ様に鎮座している事が分かった。
そして……その様を確認すると
マリアはメルとタニアに対し“少し後方に下がる様”頼んだ。
……彼女曰く
メルは念の為の“治療要員として”
タニアは万が一の“魔物対策として”呼んで居たのだと言う。
だが、二人に対しそう話す姿を
遠目から見て居た野次馬達の発した言葉は
彼女達に取ってあまり“気分の良い物”では無くて――》
………
……
…
「……あんな華奢な女が、あんなデカくて派手な斧をねぇ?
まぁ……持ってるってだけでも凄いが
振り上げる事すら無理じゃないのか? 」
「まっ……Aランクの依頼にしちゃ金額が高いからな。
けどそもそもあの岩石、力自慢の男共が
二〇人で掛かっても全くびくともしなかったんだぜ?
にも関わらずこの依頼は“女三人まで”って決まってるって話だ。
もしかしねぇでも、簡単な依頼と勘違いして受けちまったんじゃねえの? 」
「そんな所だろうな……それが証拠に
“ボロボロ装備の女魔導師”に……もう一人の女も
顔こそ美人だが靴はボロボロでただ突っ立ってるだけ。
唯一それっぽい装備してるあの“斧女”も
華奢な体でバカでかい斧だけ持ってよぉ?
察するに、彼氏の装備でも借りて来たんだろうが……
……あれ、絶対ムリだろ?
アッハッハハ!!! ……」
《――この後も聞くに堪えない程の罵声雑言を背中に受け続けて居た三人
怒りに震えるマリアとタニアだったが
そんな二人を宥めて居たメル……そんな中
突如としてマリアはくしゃみをした。
かと思うと――》
………
……
…
「……何処かで誰かが“私の噂をしてる”みたいですけど
絶対に……後ろの人達じゃない事は確かです。
だって……事実に反してますし」
《――その発言を聞いたタニアは
マリアに対し微笑みながら――》
「ええ……差し詰め、仲間の誰かがまた
“マリアーバリアン”の話題をしたのですわ? 」
《――と、返した。
この言葉にマリアは――》
「語呂が悪いっ! ……分かりました。
丁度ムカムカしてた所ですし……
……“マリアーバリアン”の本気の力
有無を言わせない程に見せつけてあげますッッ!!! ――」
《――言うや否や、勢い良く斧を振り上げたマリア
瞬間――》
………
……
…
「お、おい……嘘だろ……」
《――騒がしい野次馬の声をかき消すかの様に振り下ろされた斧は
周囲に轟音を轟かせ、巨大な岩石を一振りで真っ二つに叩き切った。
……その凄まじい衝撃に依り、左右に大きくずれ動いた岩石は
宛ら巨大な門の様に鎮座し――》
………
……
…
「ゆ、夢じゃねえよな……今……確かにあの女が……」
《――土砂に至ってはまるで衝撃波に依り
その殆どが吹き飛ばされて居た。
この……“解決困難”と思われていた状況は
彼女の僅か一撃の元に解決された。
一方で……この信じられない出来事に
今の今まで悪態をついていた野次馬達は水を打った様に静まり返った。
そして……長らく沈黙が続いたこの場所で
声をあげた野次馬達から発せられた言葉は……三人の内、一人だけを
とても“不愉快”にする物であった――》
………
……
…
「クロエって女絵師の描いた絵本で……ほら
何て言ったか……そ、そうだ!
伝説のバーバリアンだ! ……いや、それ以上だ! 」
「バーバリアン……いや、何かマリアーバリアンとか言ってなかったか? 」
「マリアーバリアンか! ……あの姉ちゃんがそうなんだな?! 」
「マリアーバリアンすげぇぇ!!! 」
「マリアーバリアン! 」
「マリアーバリアン!! 」
「マリアーバリアン!!! 」
《――不愉快に成って居た“一人”
それは、言うまでも無く“マリア”であった。
だが彼女が不愉快に成って居たのは
野次馬達に“マリアーバリアン”と呼ばれた事でもなければ
急激に手の裏を返したその“態度”に対してでも無かった。
彼女は……ガンダルフから伝え聞いた伝説のバーバリアンを下げ
彼女を褒め称える様なその発言に不愉快になって居たのだ――》
………
……
…
「……さてと。
依頼も終わりましたし……とっても不愉快ですし
早くギルドに依頼達成を報告して、主人公さん達と合流しましょうか」
《――直後
静かにギルドへと向かった彼女達の背後では
興奮気味の野次馬達が終始――
“マリアーバリアン!”
――と彼女の事を讃えていたが
愛想は勿論、一切振り返る事無くこの場を去った三人。
だが、この後……そう遠くない未来
この場に偶然居合わせた著名な絵本作家の手に依って――
“伝説のマリアーバリアン”
――と言う絵本がこの国で出版される事になるのはまた別のお話。
そして……この絵本が世界を駆け巡る事が
マリアに付与された“幸運”で有った事もまた別のお話である――》
………
……
…
《――彼女達が依頼を完了した頃と時を同じくして
“約束の時間”丁度
豪華な馬車に乗った一人の男性がクロエの邸宅を訪ね現れた。
そして、出迎えたクロエの満足そうな顔を見るなり――》
「……ふむ、私の負けか。
約束通り法整備は任せて貰おう……しかし
同日中に困難な依頼を解決する女性が四人も現れるなど……
……君は幸運だね、クロエ」
《――そう彼女の“運を褒めた”男性。
だが、クロエは――》
「いいえ……私が“幸運”なのでは無く
女性にも男性にも実力を持つ者は等しく存在すると言うだけの話です。
それを周知させる事の出来る法律の制定を是非……お願い致します」
《――この男性に対し深く頭を下げながらそう願い出た。
対する男性は――》
「ハッハッハ……これは一本取られてしまった。
勿論さ……約束を違える様な恥ずかしい行いはしない
それと、そちらのお嬢さんが依頼を達成したハンターさんだね? 」
「……はい」
「そ、そんなに警戒されると傷つくが……兎に角
……君のハンターランクは恐らく二階級程上がる事を伝えておこう。
依頼達成……本当におめでとう、素晴らしいハンターさん
では、そろそろ私は戻るとしよう……っと、忘れる所だったッ!
……絵は出来ているかね? 」
「ええ、今お渡ししますか? 」
「ああ……本来それを受け取りに来たと言う体なのでね。
っとこれは……毎回の事だが最高の絵だ、気分が良いので無料と言わず
報酬もきちんと支払わせてくれるかい? 」
「ええ……ではライラさんにも半分お渡し下さい
彼女が居なければ達成は不可能な依頼でしたから」
《――クロエのこの発言に
ライラは驚き――》
「貰って……良いの? ……」
《――と訊ねた
するとタニアは――》
「ええ、そのお金で……貴女がもし仲間内で不当に扱われているのなら
その場所から抜け出せるだけの金額では有るし
そうでなくても、私の感謝が少しは伝わっているなら嬉しいのだけれど……
……受け取って貰えるかしら? 」
「皆から不当に扱われた事なんて……一回も無いよ?
でも、心配してくれてありがとう……ドラゴンのご飯代に……使うね」
「ふふっ♪ ……そうね、沢山食べさせてあげてね♪
あっ……これから先、また会える事があったら
私の依頼……また受けてね?
……それと、もしもこの国を去る事になったら
旅立つ前に一度、私の所へ立ち寄って欲しいのだけれど……良いかしら? 」
「うん……約束する……」
「ええ、約束よ! ……では小切手の半分はライラさんにお願いします」
「ああ、ではライラさん……これが君の小切手だ
ギルドで換金出来るから、達成報告のついでに交換して貰うと良い」
「あ……ありがとう……ございます……
ディーン様に報告したいから……そろそろ帰ります。
クロエさん……またね……」
「ええ、気をつけて! ……」
《――直後
ドラゴンの背に乗り空高く飛び上がると、クロエの邸宅上空を一回りし
上機嫌でギルド方面へと帰っていったライラ。
この後……ギルドでの達成報告と小切手の換金を済ませると
ギルド職員から二階級ハンターランクが上昇した事を説明され
この時点で彼女はハンターバッジを交換する事となった。
ハンターバッジには大きく“SS”……と彫られており
派手な装飾が付き、受けられる依頼も難易度の高い物が選べる様に成ったが……
……これがライラに授けられた“幸運”と言う訳では無かった様で
同じく、ハンターランクの二階級上がったマリア達も
これが授けられた“幸運”と言う訳では無い様だった。
……彼女達へ授けられたマグノリアからの
“幸運”
実は、マリア以外にはまだ訪れては居らず――》
===第五十五話・終===




