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異世界転生って楽勝だと思ってました。  作者: 藤次郎
第二章

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第五〇話「喜怒哀楽入り乱れ……」

《――大破したオベリスク


“迷いの森”に掛けられた石橋は見るも無惨むざん崩落ほうらくしていた。


一方……彼らが崖の下へと転落してから二日の後

ヴェルツでは――》


………


……



「……やっぱりおかしい、何かあったとしか思えないんだよエリシア! 」


「確かに……此処の所毎日連絡入れてくれてたし

いくらなんでも二日も連絡来ないのは流石におかしいよね。


……よしっ!

ちょっと大変かもだけど、私から連絡入れてみるよ!


魔導通信……主人公っち! ――」


………


……



「――あれ?


ねぇ……繋がらない。


おかしいよ……まるで主人公っちが

“この世界に居ない”様な反応が帰ってくる。


ミリア、もしかして私の調子が悪いのかな?


ねぇ、変だよ……」


「何だって?! ……他の子達にも試してみておくれ! 」


「う、うん……


魔導通信……メルちゃん! ……マリアちゃん! ……マリーンちゃん!


……駄目、やっぱり繋がらない。


主人公っちと同じ……反応が“無い”の……」


「そんな……まさか……」


「で、でもほら……慌てないで!

まだ何かあったと決まった訳じゃないし……


……た、たまたま通じにくい所にいるだけかも知れないし!

そんなに距離が離れてる訳も無いから

もうちょっと時間を置いて試したらきっと! ……きっと……」


「分かった……後でまた試してみておくれ」


「うん……」


《――この後も幾度と無く一向に向け連絡をこころみたエリシア

だが、彼女の通信が彼らに通じる事はついぞ無かった――》


………


……



「……魔王様!

この度は誠におめでとうございます!

あの様な化け物を圧倒的実力差でほうむられた事

魔王様の配下でられる幸福と共に! ……」


「……めでたいだと?


一つ聞くが……我が配下の三分の一を失う大損害を受け

我が手中にありながら尚、我に傷をつけ

我と対峙しておきながら恐怖の色など微塵みじんも見せず

息絶えるその瞬間まで、斯様かようはらわたの煮えくり返る者への愛を

ついぞ語り続けた乳離ちばなれ出来ぬ小僧一人に此程これほど苦しめられた挙げ句

不愉快極まる程に呆気無あっけな終幕しゅうまくした事実を……


……貴様は何だとった? 」


《――言うや否や

賛辞さんじべた“大隊統括長”をにらえた魔王――》


「……も、申し訳ございませんっ!!

どっ……どうかお許しをッ!! 」


「いや……もう良い。


今、真に悩むべきは我が方の損耗そんもうだ……戦の後にも関わらず

満足な食事も与えられず、我の配下は皆腹を空かせている。


だが……食料がためと戦地へおもむけば

配下を更に疲弊ひへいさせ、さながら死地に送る様な物だ。


不愉快な……“人間しょくりょう”風情に

よもやあれ程の化け物が生まれようとは……」


《――そう言って現状を憂慮ゆうりょした魔王


だが……そんな中、ライドウは

“ある”解決策を提案した――》


………


……



「魔王様……“神獣を狩る”のは如何いかがでしょう? 」


「神獣だと? ……続けろ」


「では……神獣、所謂いわゆる一角獣ユニコーン等ですが

人間の様に数こそ多いものの抵抗が激しく

つ平均的な“栄養価”の低い者と違い……


……討伐には多少の手間が掛かりますが

少数精鋭で挑めば打ち倒す事も充分可能な存在であり

奴らは“魔導力の宝庫”で御座います。


配下の皆様の胃袋を満たしなお繁殖はんしょく……いえ。


繁栄はんえい”にも余りある程かと……」


「フッ……神獣とやらの居場所は? 」


「ええ、其処が少々面倒でして……


古い言い伝えではありますが――


“森に一角獣有り、森に危機有りし時現れる”


――と言う物が御座います」


「フッ……森に危機を起こせとうのならば

森を焼き払えば良いだけの話……」


「それはごごもっともなのですが……

“何処の森を守っているのか”まではさだかでは無く……」


「ならば、手当たり次第に焼き払うまで……」


「し、承知致しました……」


「所でライドウ……それさえ失策であったなら貴様はどう責任を取るつもりか」


「そ、それは……万が一発見出来なかった場合

私を皆様の食料として頂いても構わぬ程の覚悟でございます。


……ですが、必ず発見出来ると断言致します。


それと……その代わりと言っては烏滸おこがましいのですが

一角獣を討伐した際は、その“ツノ”を私に頂きたく……」


「……何か特殊な力でも有るとうのか? 」


「いえ“記念品”と言いますか……珍しい物で御座いますから……」


「フッ……まぁ良いだろう。


ただし、我が種族に有益であると判断した場合はその限りでは無い。


……良いな? 」


「し……承知致しました」


「……ならば許そう。


……全軍、おのが力を遺憾いかん無く発揮し

我ら魔族が永遠に繁栄する為、決死の覚悟でいどむのだ……良いな? 」


《――直後

魔王の命令に奮起ふんきした配下の魔族達


この日から数日後……魔王の軍勢は

目に付いた森々を手当り次第に襲撃し始め……その結果

罪の無い野生動物や魔物の多くが失われ

事態を重く見た各国々は個々に“魔王軍討伐隊”を編成し始めていた。


……しかし、恐るべき速度で進軍する魔王軍に対しては

そのいずれもが無力であった事など

言うまでも無いだろう――》


………


……



《――魔王軍への対処に各国が頭を悩ませて居た頃


石橋の崩落から早三日……


……崖下はあたり一帯を覆い尽くす程の濃霧のうむに包まれて居た。


いまだ黒煙の上がるオベリスクの残骸

広範囲に散乱したその残骸を見れば


“一行の生存は絶望的”


かと、思われたが――》


………


……



「グッ……こ……此処は……吾輩達は……


……ッ!?


うぐぁぁッ!!! ……」


《――意識を取り戻し周囲を確認して居た“グランガルド”

そんな彼を突如として襲った激痛……原因は直ぐに明らかと成った。


彼の左脇腹わきばらつらぬいた太枝


出血もひどく“重症”で有る事など誰の目にも明らかだった――》


「……ぐぁぁぁっっ!!


ま、まずい……吾輩で……この状況ならば……ッ!!

主人公は……主人……公……何処だ……ッ!!!


……主人公ッ! 何処だアアアアッ!!!


うぐぅっ!! ……」


《――必死にみずからの友の名を叫び続けたグランガルド


だが、周囲からの反応は無く……直後、彼は痛みの余り再び意識を失った。


一方……彼の居る場所から少し南方へとれた

その場所では――》


………


……



「……主人公さ~~~~ん!!


マリーンさ~~~~ん!!!


……グランガルドさ~ん!!


ライラさ~ん!!! ……」


《――そう必死で皆の名前を叫び、捜索を続けて居たのは

“マリア”と“メル”であった――》


「はぁ……はぁっ……マリアさん……皆さんは……主人公さんは……


……無事……ですよねっ? 」


「……ええ、安心して下さい。


きっと大丈夫です……皆さん規格外に強いんです。


私達が助かってる位なら、きっと助かってます……そう信じて

大変ですけど、引き続き探しますよ! ……ディーンさ~ん!!! 」


「そ、そうですよねっ!

ギュンターさ~んっ!! ……オウルさ~~んっ!!

タニアさ~んっ!! ……」


《――この後も必死に皆の捜索を続けた二人


だが……上での磁場の乱れなど比較に成らぬ程強く乱れたこの場所の磁場は

人の感覚すら鈍らせ、捜索をより難しくさせて居た――》


………


……



《――その一方

最も遠い場所へと落下していたギュンター……彼は

両足と利き腕を骨折して居た……そして、そのかたわらには

意識不明のディーン・ライラ・オウルの三名が横たわって居て――》


「……ディーン様!


……ライラ様!


……オウル様!


どうか……お願いでございます……どうか……どうかッ!!

目を覚まして下さいませ……ッ!!! 」


《――辛うじて動く左腕で

意識の無い仲間達を揺り起こそうとしていたギュンター


だが、無情にも一切の反応は無く――》


「……皆様……私めの不甲斐無さをお許しください……


主人公様ッ!!! ……どなたか!!

どうか……せめてディーン様だけでも……お救い下さいッ!


……ぐぅっ!!


オベリスクよ……我が元へ!!


……ッ!


やはり……故障しているか……


修復など……待てる状態では無いと言うのに……ッ!! ……」


《――悲痛な叫びもむなしく

この後も、彼の元へ救援が訪れる気配は無かった――》


………


……



(……何だ?


前が見えないし息が苦しい……体中が痛い……クソ……ッ!


俺は確かオベリスクに……それで橋が壊れて……ぐっ!!


身体が……動かない……駄目だッ!!


……このまま死んでたまるか!!


俺が……俺が皆を助けなきゃ……俺が皆を

護らなきゃ……クソガアアアアアアアッッッ!!! )


<――瞬間

うなり声を上げながら全力で力を込め

必死に身体を動かした俺――


“やったッ! 起き上がれたッ!! ”


――そう喜んだのもつか

次の瞬間――


“いやんっ♪ ”


――そう、色っぽい声が聞こえたと同時に

俺の頬に鈍い痛みが疾走はしった――>


………


……



「なっ……なっ?! ……し、主人公様っ!?

どさくさに紛れて……なななッ?!

……何をするつもりだったのですかっ?! 」


<――と、頬を真っ赤に染めながら俺を問い問いただしたのは

“タニア”さんであった。


だが……それもその筈だ。


どうやら俺は、仰向あおむけに倒れたタニアさんの

“下半身付近”に顔をうずめた状態で意識を取り戻した。


それで起き上がろうと必死で手をついた場所が

彼女の胸……しかも、あろう事か“鷲掴わしずかみ”だ。


……当然のごとく盛大な勘違いをしたタニアさんは

俺に対し“けだものを見る様な”眼を向けて居た――>


………


……



「……へっ?! す、すみませんでし……た……って

あ、足が……うぐっ!?


……ぐあああああああああああああああっ!!!!! 」


《――突如として体勢を崩し地面に倒れた主人公。


だが“倒れた衝撃”にすら気付かぬ程の激痛が彼を襲っていた……


……彼の足は“あらぬ方向”へ向き、折れた骨は皮膚を突き破って居たのだ。


激痛にり、簡単な治癒魔導すら使用する事も出来ず

痛みにのた打ち回る主人公は悲鳴とたがわぬ叫び声を上げ続けていた。


……だが、その姿を見たタニアは

冷静に、彼に対し――》


………


……



「……落ち着いてください!

今、痛みを取りますから……“麻痺毒”ッ! 」


《――タニアの放った麻痺毒に

彼の感じる痛みは嘘の様に消え去った……だが

強い麻痺の効果にり、彼の体は満足に動かなく成ってしまい――》


………


……



「あいあ……おう……らくにら……っだ……すまあ……い……」


《――麻痺毒の絶大な効果により痛みは消えた様子の主人公。


だが、呂律ろれつの回らぬ状況下で

彼は必死に何かを伝えようと努力し

彼女タニアも一定の理解をしめした――》


「ええ、大丈夫ですから……お気にさらないで下さい

先程の“行為”も、その様子では……ワザとでは無い様ですし。


……ふ、不問に致しますからっ!


と、兎に角! ……麻痺毒は一時しのぎにしかなりません


……何処かで薬草を手に入れ、真っ当な鎮痛を行い

主人公様自身が魔導を使用出来る状態を作り出さねば

この状況からの脱出は絶望的かと思われますわ……」


「ごえん……おえが……ふがいあい……ばあ……りに……」


「“不甲斐無い”事など有りません。


そもそも……そう!

麻痺毒の“副作用”でマイナス思考に陥っているだけですわ!


そんなに気にしなくとも大丈夫ですから

たまには味方を頼って下さい……私は薬草を探してきますから

此処で待っていて下さいね、では後ほど……」


《――そう主人公に言い残し

自身も負傷していた足を引きりながら

薬草を探しに濃霧の中へと消えていったタニア……


……自らの怪我など歯牙しがにも掛けぬ様子で

彼の為を思い、ただひたすらに気丈な姿を見せたタニアへの感謝と

自らに感じる不甲斐無さの入り混じった複雑な感情を押し殺せず

大粒の涙を流しながら、タニアの歩いていった方角へ

精一杯の力を振り絞り――


“ありあおう……すま……あい……”


――そう

“感謝を伝えた”主人公――》


………


……



《――その一方

マリアとメルの二人は引き続き仲間の捜索を続けて居た――》


「駄目です……霧が過ぎて方向が全く分からない

自分の足元すら見え辛いなんてどうすれば……って、メルちゃん? 」


「ごめんなさいマリアさん……回復術師ヒーラーって

ううん……私……こう言う時に、何時も何も出来なくて……


……本当に……ごめんなさいっ……」


「メルちゃん……そんな事ありません!!


……居てくれて助かってます!

だって怪我したら直して貰えるなんて助かりますよ~?


あっ! ……わざと怪我してみようかなぁ~?

とか言ってると――


“無駄な事しないでくださいっ! ”


――って怒っちゃいます? 」


「ごめんなさい、私……

マリアさんだって不安な筈なのに

気まで遣わせて……最低です私。


主人公さんや皆さんが優しいから……私みたいに

いざと言う時に何の役にも立たないお荷物を仲間に……」


「ッ!! ……メルちゃんッ!!! 」


《――直後

メルに平手打ちをしたマリア

彼女マリアは……涙ながらにメルをしかった。


……そして、自らも不安である事や

仲間達の安否を考え更に不安を感じている事……


……皆を捜索しようにも

それすら濃霧のうむはばまれ苦労している事を正直に伝えた。


そして――》


………


……



「……でも。


それでも……メルちゃんが一緒に居るから

まだ……私は“私”として頑張れているんです。


だから、自分の事をお荷物だなんて……二度と言わないで下さいッ!!! 」


《――直後


数多くの不安にさいなまれて居た二人は

互いを支えるかの様に抱き締め合い

そのまま崩れ落ちる様に大声で泣き叫び続けた。


だが――


――この行動がこうそうした。


彼女達の程近くで意識を失って居たグランガルドは

この騒ぎに意識を取り戻し、彼女達の存在に気付いたのだ。


そして……渾身こんしんの力で


大声を上げた――》


………


……



「ぐうっッ! 届かぬかッ! ……此処ここだァァァァッ!!!


……んッ?! 」


《――グランガルドの元へと駆け寄る二人の影

彼の怪我に気がついた二人は――》


ひどい怪我……メルちゃん、落ち込んでる暇なんてありません!

メルちゃん……貴女が素晴らしい回復術師ヒーラーだって!

役に立つ存在なんだって! ……今ぐに証明するんですッ!

分かったなら……早くッ!! 」


「は……はいっ!!! で、でもっ!!

怪我を治す前に、この枝を処理しないと……」


《――そう言って彼女メルが視線を落とした先には

グランガルドの血に塗れた枝葉があった。


だが――》


「覚悟なら……出来ているッ!!


……マリア殿、このままの状態では枝を抜けぬ。


斧で枝葉を処理し、慎重に抜き取った後

メル殿の……ぐっ……治癒……魔導で……」


「分かりました! ……全力で助けますからもう喋らないで下さい!


……メルちゃん、直ぐに発動出来る様に準備していて下さい。


それから……グランガルドさん。


ちょっと痛みますけど……絶対に“我慢”ですッ!!


……行きますッ!!


うおおおりゃあぁぁぁぁぁっっっ!!!!! ――」


《――瞬間


衝撃を与えぬ様、一撃で枝葉を全て処理しきる為

全力つ繊細に斧を振り切ったマリア……直後


おどろほど正確に切断された枝葉は宙を舞い

斧が切り裂いた空間の濃霧はまるで切り取ったかの様に晴れたのだった。


そして――》


………


……



「……な、何とか成功しました。


次は……身体から枝を抜きます。


痛いですけど……もう一度我慢を!


行きますよ……せーのッ!!!


ぐっっ! ……


メル……ちゃんッ! 」


「――はいっ!


治癒の魔導、三重治癒トリプルヒール!! ――」


《――メルの治癒魔導に

グランガルドの怪我は少しずつ治癒し始めていた……しかし


治療中の痛みは尋常では無く……のたうち回る程の激痛に耐えきれず

グランガルドは再び意識を失った――》


………


……



「くっ! ……もっと早く……痛み無く治せる魔導を!

四重治癒クアッドヒールッ!


……駄目、これでも足りない!!

情けないですっ! ……私にもっと力があったらっ! ……」


「大丈夫ですメルちゃん……あせらないで。


……グランガルドさんは気絶しただけ、確実に治癒は進んでますし

グランガルドさんは絶対に助かります。


だから……諦めないで。


ゆっくりで良いんです……確実に治癒をしましょう」


「はい、ゆっくり治……あっ!


……この技ならっ!!


精霊之歌スピリットオブミュージック”ッ! ――」


………


……



《――直後


周囲に響き渡った“精霊の歌声”


……それまでとは比べ物に成らない程速く

痛み無く治癒されて行く傷口……そして

状態異常までもを和らげる効果のあるこの治癒魔導は

意識を失ったグランガルドを優しく揺り起こした……だが。


この瞬間、何処からとも無く――


“頑張って……君なら出来る……”


――そう

彼女メルにのみ聞こえた謎の声――》


………


……



「出来ましたっ! 傷口がちゃんと……って、誰っ?! 」


「なっ?! ……どうしたんですか?! メルちゃん!! 」


「い、いえその……今誰かが私に話し掛けてきませんでしたか?! 」


「いえ……治癒魔導の効果なのか

精霊の歌声なら聞こえてますけど……


……グランガルドさんは何か聞こえました? 」


「いや、吾輩に聞こえているのも……同じく精霊の歌声だけだ」


「で、でもっ……今、確かに……」


《――メルにのみ聞こえた


“謎の声”


ともあれ……暫くの後、完全治癒とはいたらなかった物の

どうにか歩ける程度にまで回復する事が出来たグランガルド――》


………


……



「ど、どうですかっ? ……」


「うむ……まだ少し痛むな……だが、先程とは比べ物にならない

これならば何とかなるだろう……感謝するぞメル殿」


「良かったですっ! ……でも、ちゃんと治せなくてごめんなさい

今の私にはこれが精一杯で……本当にごめんなさいっ……」


「何を言う……御主が治癒せねば

吾輩はもうこの世には居なかっただろう……だが

吾輩の事などよりも気になるのは主人公の事だ。


無事で居てくれれば良いが……」


「ええ……私達も探し回ってたんですけど、でも正直

この濃霧の中では捜索もままならなくて……」


《――と、少し弱気に成っていたマリア。


だが、そんな彼女を励ますかの様にメルは――》


「で、でもっ……三人で探せば見つかる確率も上がる筈ですっ! 」


《――この日少しだけ強くなったメル。


そして……そんなメルに励まされ再び気力を取り戻したマリア。


だが……そんな中、二人を静かに見つめて居たグランガルドは

何かを思いついたのか、ある“妙案”を口にした――》


………


……



「マリア殿……一つ案がある。


手間を掛けるが……一度で構わない、斧を

“地面を割る程の気概きがい”で叩きつけては貰えないだろうか?


一度試してみたい事があるのだ……」


「ええ、構いませんけど……行きますよ? 」


《――直後


濃霧の森の中、うなり声を上げながら

渾身こんしんの力で斧を振り下ろしたマリア。


すると、叩きつけた方角の霧が

ある一定の距離まで一直線に晴れた……だが、当然

理由わけが分からずキョトンとするマリアとメルに対し――》


「やはりな……」


「……いやいやいや!


“やはりな……”


……じゃ無いですよ! 何でこんな現象が?

私、今……地面に斧を叩き付けただけですよ? 」


「確かにな……だが、マリア殿よ

この様な濃霧、湿度が度を越していない限り発生し得ぬと思わぬか? 」


「ええ、確かに……でも

湿度が高いのと霧が晴れたこの現象に何の関係が? 」


「うむ……気圧と温度だ」


「もぉ~分かる様に説明してくださいよ~! 」


「ああ、済まない……一種の衝撃波とも言えるだろうが

御主の尋常ならざる斧さばきにより、この場所だけ

温度と気圧がいちじるしく変化したのだ。


ゆえにこの様に霧が晴れ……」


「……待って下さい! そんなの変ですよ!

その“とんでも”な理論を現実に引き起こす威力なんて

人間が出せる威力をはるかに超えていませんか? 」


「その通り……そう言う事だ」


《――と言う二人の会話を聞いていたメルは

何かに気がついた様子で――》


「あっ! “マリアーバリアン”の腕前を信じたって事ですねっ! 」


「うむ……察しが良いなメル殿」


「ちょっとぉ! ……二人して失礼過ぎません?!

私はか弱い乙女ですよ?! ……それに語呂が悪いっ! 」


「か弱いか……我が種族の女子おなごよりも余程強いと思うが? 」


「うっそぉ!? それは素直に喜べない……」


「……ってそんな事より早く皆さんを探しに行きましょ!

早くしないと霧が元に戻っちゃいますっ! 」


「ああ済まなかったメル殿、急ぎ捜索を……ん?! 」


《――突如として何かを警戒したグランガルド

彼は――


“人影の様な物が見えた”


――と言った。


そして、再びマリアに“霧を晴らす”様頼み

マリアが振りかぶったその瞬間――》


………


……



「ガガガンギー!!! ギギー! ……ギギーッ!! 」


《――子供の様な体格、額からは小さな角が生え

赤い皮膚をした“子鬼”とでも呼ぶのが適当と思われる謎の種族は


現れるなりマリアに対しそう言って

威嚇いかくらしき”行動をした――》


………


……



「敵対するつもりは有りません、お願いです……此処を通して下さい」


《――マリアの問い掛けに首をかしげた謎の種族。


そして、マリアとグランガルドを交互に見た後

マリアの持つ斧を凝視ぎょうしし始め――》


「ガンガンギン! ……ガンギンガン! ……ガー! 」


《――再び謎の言語を発した。


無論、誰一人としてその言葉の意味を理解こそ出来なかったが

謎の武器で一行を威嚇している事

そして……怯えている様子だけは理解出来た一行。


謎の言語が何を意味し発せられた物かは不明だが

唯一ゆいいつ確実なのは“子鬼”が興奮しており

とても危険である事で――》


………


……



「……お願いっ!

私達は貴方と戦いたい訳じゃ無いの……仲間に会いたいだけなのっ!

通して……お願いっ……」


《――通じる筈も無い共通言語にほんごでの訴え。


だが……それでもメルは涙ながらに懸命けんめいに訴え続けた。


すると――》


………


……



「グ……グリグリ……グリ……ゴゴガ? 」


《――直後

メルに近づき指で彼女の涙をぬぐうと

メルの願いを理解したかの様に……わずかな警戒心と共に

大人しく何処かへと走り去って行った“子鬼”――》


………


……



「……何? 通じた……のか?


いや……メル殿、御主の度胸に敬服けいふくする」


「い、いえ……早く皆さんを探しに……」


《――と、言い掛けた矢先

再び――


“凄い! よく頑張ったね……偉いっ! ”


と、再び謎の声が聞こえたメル――》


「きゃっ!? ……誰っ?! 」


「ぬわぁっ?! ……どっ、どうしましたメルちゃん?! 」


「何だッ!? ……ん?

何も気配はしないが……どうした? メル殿」


「ご、ごめんなさいっ! でも、さっきと同じ声がまた……」


《――再びメルにのみ聞こえた謎の声


そして……同時刻


主人公の為、薬草を探していたタニア――》


………


……



「……ぐぅっ!!


これはっ……私の足も……折れてましたの……ね……ッ!


だとし……てもっ!


早く薬草を見つけ……主人公様を……ッ! 助けないと……って。


……きゃああああっ?!! 」


===第五十話・終===

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