第三九話「楽な事などありゃしない」
《――主人公の選択に依り、東門前にはどよめきが起きて居た。
そんな中……ジョルジュだけが高笑いし、拍手をしながら
まるで彼を嘲笑うかの様に称賛して見せた。
……そんな中、ラウド大統領は
主人公のもとへと駆け寄り――》
………
……
…
「主人公殿……御主今何と言ったっ!? 」
「“回復術師を選びます”……と言いました」
「何故じゃ! ……何故勝負を放棄する様な選択をする?!
……御主がどう思っておるのかは知らんが
わしは主人公殿に勝って貰いたいのじゃぞ!?
何故依りにも依って回復術師なんぞを選んだのじゃ?!
今ならまだ間に合う! ……考え直すのじゃよ!! 」
「ラウドさん……俺の考えは変わりません
もう一度だけ言います……“回復術師でお願いします”」
《――頑としてそう言った主人公に対し
幾度と無く考え直す様言い続けたラウド大統領。
だが……そんなラウドに対し
主人公は――》
「ラウドさん……今は俺の選択を理解出来なくても構いません。
ですが、俺があのクソ野郎に対し――
“尋常じゃ無くキレてる”
――それだけは理解して居て下さい。
そうすれば、俺が何故この職業を選んだのか……
……後々にでも判る筈です」
「じゃが!! ……いや、御主を守れなかったわしが
今更とやかく言える立場では無いじゃろう。
……じゃが、最後に一つだけ知って置いて欲しい
わしは、何があろうとも主人公殿の味方じゃ……」
《――そう言い残し
振り返る事無く主人公の元を後にしたラウド大統領。
……そして
この直後――》
「さて……皆聞いての通り
主人公殿は“回復術師”を選んだ……依って
攻撃術師、及び防衛術師の技を使用した時点で
主人公殿の負けと成る事を此処に宣言する!
主人公殿……本当に良いのじゃな? 」
「体調は最悪なんです……これ以上聞かないで下さい」
「す、すまん……では、ユーグ殿は自身の職業の紹介を」
「これは失礼……私は攻撃術師でございます」
「ふむ……職業に偽りが有った場合は
決闘の結果に関わらず、そちらの負けと成る……
……嘘偽りは無いのぅ? 」
「ええ……装備が“これ”でございますから、まかり間違っても
私が“トライスター”などでは無いのもお判りかと」
「ふむ……では両名共
事故の起きぬ様に減衰装備を装着するのじゃ」
「ええ、既に装着しております」
「うむ間違い無く減衰装備じゃ……主人公殿は? 」
「えっと……四つ全てですよね? 」
「出来れば一つと言いたいのじゃが……」
<――ラウドがそう返すと
ジョルジュは――>
「ふざけるなッ! ……不正は許さんぞ?! 」
<――と、憤慨した
だが――>
「確認しただけだよ、お前と一緒にするなクソ野郎」
<――そう返した俺
直後、更に憤慨するジョルジュだったが――>
「静粛にっ!! ……さて
双方共に減衰装備の装着を確認した。
じゃが、もしも決闘中に故意であれ事故であれ
減衰装備の外れた状況で魔導を発動させてしまった場合
その時点でその者の失格と成る……無論
減衰装備の効力に偽りのある時も同じく失格とする。
……その他、致死性の極めて高い行為や
此方が危険と判断する行為を行った場合は
行った者を敗北扱いの上、拘束そのまま投獄する事となる。
双方……良いな? 」
《――静かに頷いた主人公
ユーグも返事を返し――》
「では……お互いに十五歩離れるのじゃ」
《――直後、お互いに十五歩
合わせて三〇歩離れた両者の姿を確認すると――》
「次に……双方、万が一に備え
伝えておきたい事があればこの場で申すのじゃ」
《――そう促したラウド大統領に対し
まず最初に名乗りを上げたのは“ユーグ”だった――》
「では私から……ジョルジュ様。
……必ず私が勝利し、父上の無念を晴らして見せますので
安心してご覧に成っていてくださいませ」
「ああ……期待しているぞユーグ! 」
「……以上じゃな?
では次に、主人公殿……申しておきたい事があれば
この場で伝える様に」
《――そうラウド大統領が促した瞬間
主人公は、大きく息を吸い――》
「では、失礼して――
――メルッ!! マリアッ!! マリーンッ!!
心の底からッ!! ……愛してるぞぉぉぉぉぉぉッッ!!! 」
《――力の限りに
そう叫んだのだった――》
「い……以上です」
(……やばい、どうせならと思って勢いで言っちゃったけど
想像以上に恥ずかしいぞ?! ……どうしよう?!
す……凄い恥ずかしいッ! )
《――主人公のこの発言直後
“三名の美女”は顔を真っ赤にして俯き静かになり
民衆はざわつき……ミリアは指笛で声援を贈り
各種族達もそれに同調する様に主人公へと声援を送った。
だが……そんな中、告白を受けた三人の内
酷く慌てた様子のメルは
ラウド大統領の元へと駆け寄ると
“主人公と話をさせて欲しい”
そう、願い出た――》
「……お願いしますっ!
お時間は取らせませんっ! ……お願いしますっ! 」
「う、うむ……少しなら構わんが
何かを手渡したりしては駄目じゃからのぅ? 」
「はいっ! ありがとうございますっ! ……」
《――直後
急ぎ主人公のもとへと走り寄ったメル――》
………
……
…
「ん? ……ってメル?! ……ど、どうしたの?! 」
(や、やばい……もしかして
“公衆の面前で恥をかかされた”とかって言い出すんじゃ……)
「あっ……あのっ!!
……わ、私も主人公さんの事……大好きですし
その……あ、愛していますっ!
き、きっとお二人も同じ気持ちだと思いますっ……
……で、でもっ!!
私はそんな事を言いに来たんじゃ無いんですっ!! 」
「メ、メル? ……」
「……主人公さん
私に掛けて下さって居る“永久防護”を解いて下さいっ!
今、少しでも……主人公さんのお役に立たせて下さいっ!
……主人公さんが何で回復術師を選んじゃったのかは
私には理解出来ません……でもっ!
主人公さんを信じたいんですっ!
主人公さんを助けたいんですっ! ……だからっ!!
……お願いしますっ! 」
《――必死の形相で、そう頼み込んだメル
だが、主人公は首を横に振り――》
「メル……悪いがそれだけは出来ない」
「何でっ!? 何でなんですかっ??! 」
「……“永久防護”は俺がメルにした最初の約束だ
メル……俺だってメルの事を本当に大切に想ってる。
だから、どんな時でも護りたいし
もし護れなかったら俺の人生は価値の無い物に成るんだ。
だから……本当にごめん」
「で、でもっ!! ……」
「大丈夫……心配しないで
俺の大切な存在を悪く言ったアイツだけは絶対に許さない
必ず勝って、必ず謝らせる……だから。
メル……俺の事を信じて待って居て欲しい」
「……わ、分かりました。
でも……無茶だけはしないでくださいっ! 」
「あぁ、大丈夫だ……さぁ、二人に俺が
“いつも通り楽勝で勝つから大丈夫だ”って伝えて! 」
「はいっ! 」
《――この時
彼女の心には、上手く説明の出来ない
“強い確信”が芽生えて居たと言う――》
………
……
…
「……おい、まだか?
穢らわしいハーフと“ちちくり合う”様を見せられる為に
この場に人を集めた訳では無いぞ?! 」
「クソ野郎……黙って見てろ」
「ふんッ! ……ユーグよ!
この無礼な化け物を完膚無きまでに叩き潰せ! 」
「ええ、ジョルジュ様……お望みのままに」
………
……
…
「……では、只今より決闘を開始する!
カイエル殿……合図の為、魔導玉を打ち上げて貰いたい」
《――ラウドからの命令を受け、静かに頷いたカイエル。
直後、この場に集った者達にも緊張の走る中
ラウド大統領は民衆に向け――》
「……この後、カイエル殿が打ち上げた“魔導玉”が
地面に落ちたと同時に決闘開始となる。
打ち上がった瞬間から、決闘が終わるまでの間
見届け人と成った皆は一切声を発してはならん。
それが“声援”であれ“罵声”であれ
“妨害行為”と認定される重罪じゃ……皆、くれぐれも気をつける様に。
そして……決闘者双方
もし魔導玉が落ちるよりも早く魔導を放てば
結果はどうあれ、その時点で失格じゃから注意する様に。
では……カイエル殿、頼む」
「ハッ!
魔導玉、発射ッ! ――」
《――瞬間
カイエルの打ち上げた魔導玉は
天高く飛び上がった後、ゆっくりと落下し始めた……
……地上まで数メートル
数十センチ……直後
魔導玉が地面に付いた瞬間
逸早く魔導を放ったのは
敵方の魔導師“ユーグ”であった――》
………
……
…
「爆裂針ッ!!! 」
《――直後
ユーグの詠唱と共に勢い良く放たれた細く小さな無数の針は
満身創痍の主人公には
決して回避不可能な程の密度で襲い掛かった――》
「ぐあぁッッッ! ……痛……い……けど……ッ!!
俺……は……負け……無いッ!!
皆を護る為……皆に恩返しをする為ッ!!!
俺は……絶対に……負けないッ!!!
当たれぇぇぇぇぇぇぇぇッッッッッ!!! ――」
《――その身体に降り注ぐ耐え難き痛みを耐え忍び
精一杯の力を振り絞り、その腕に力を込め
主人公がやっとの思いで発動した魔導は――》
………
……
…
「――睡眠の魔導ッ!!
“眠れッ! 永久にッ!!! ”――」
《――祈る様なその詠唱と共に
魔導師“ユーグ”へと到達した――》
「な……に……っ?! ……」
《――直後
“睡眠状態”に陥ったユーグはその場に倒れ
術者からの魔導供給が途絶えた“無数の針”は全て消滅
そして――》
「痛過ぎ……だろ……ッ……
……本当にこれで“減衰”されてるのか?
でも……危なかった……」
《――直後
そう言ってゆっくりと立ち上がった主人公は
“睡眠状態”のユーグへと近づき……そのまま横に座ると
懐から“万年筆”を取り出し
ユーグの腕に向け――
“貴方の負けです”
――と、書いた。
そして――》
………
……
…
「あ、あの……これで“勝ち”って訳には行きませんか?
もし万年筆が仮に“刃物”だったら……この人死んでますし」
《――そう、民衆に向け訊ねたのだった。
……この誰も予想しなかった呆気無い幕引きに
場の空気は凍りついたかの様に静まり返って居た。
だが……そんな中
一際大きく声を荒げた者が居た――》
「……き、貴様っ!!!
おい、ラウド大統領! ……幾ら万年筆とは言え
あれは立派な“致死性のある武器”だ!
狂気を隠し持って居た、奴の失格では無いのか?! 」
《――そう憤慨し
主人公の失格を訴えたのは、ジョルジュであった。
だが……この直後
ラウド大統領はニヤリと笑い――》
「ん? ……わしはまだ“決闘終了”と宣言しておらんぞ?
にも関わらず“発言した”と言う事が
一体“何を意味”するのか理解して居らん様じゃな?
……近衛兵ッ! この者を牢へ入れるのじゃ! 」
「なっ!? ラウド……貴様っ!! 謀ったな!? 」
「何を言う? ……説明した筈じゃろう?
“魔導玉が打ち上がったならば
決闘が終わるまで皆一切声を発してはならん
声援であれ、罵声であれ
妨害行為と認定される重罪じゃ”
……と。
さて……そうなれば
マリア殿に対する先程の“侮辱”も
そのまま御主に返った様な物じゃが……ともあれ。
……皆の者ッ! この度の決闘は
主人公殿の勝利と言う事で決定じゃ!!
では……続いて、カイエル殿には
主人公殿の要求を今一度読み上げて貰う事とする!
……カイエル殿! 」
「ハッ! 主人公殿が希望した要求は――
“・メル、マリア両名に対する侮辱を取り下げ正式に謝罪する事
・非致死性の魔導を一度、主人公殿から受ける事
・拒否した場合はジョルジュ、ユーグ両名に内乱罪を適用し投獄”
――との事です。
ではジョルジュ氏、まずメルさんへの謝罪を」
《――カイエルがそう促すと
ジョルジュは苦虫を噛み潰したかの様に
醜く顔を歪ませながら――》
「ぐッ! ……これでも私は貴族の端くれだ。
良いだろうッ! ……
……メル殿、貴女様への
差別的な発言をどうかお許しくださいッ!!
今後一切、この様な発言をしない事を……ち、誓いますッ!!! 」
《――言い終えた直後
苦々しくも頭を下げたジョルジュに対し、メルは――》
「はい……謝罪を受け入れます」
《――そう返事をした。
直後、続けて“マリアへの謝罪”を促されたジョルジュは
先程と同じく、醜く顔を歪ませながらも――》
「マリア殿……貴女様への無礼な発言を
どうかお許しください……今後一切
この様な発言をしない事を……誓います!!
くッ……!!! 」
《――そう言って頭を下げた。
だが、この直後……素直に受け入れたメルとは反対に
直ぐには受け入れようとしなかったマリアは
これ以上無い程に彼を“不愉快”にさせる
“舞い踊り”を披露した――》
「……ど~しよっかなぁ~っ♪
あ、そぉれ! ……ど~しよっかなぁ~っ♪
あ、そぉれ! ……ど~しよっかなぁ~っ♪ 」
《――マリアは
頭を下げ続けて居たジョルジュの周りを
馬鹿にした様な態度でぐるぐると回りながら
そう“舞い踊り歌った”――》
「ぐっ! ……ど、どうかお許しをマリア殿……」
《――眉間に“荒波の如き”シワを寄せつつそう願ったジョルジュ
一方、尚も悪ふざけを続けるマリアに対し――》
「マリア、流石に趣味が悪いぞ? ……
……気持ちは分かるけど、許してやれって」
《――と、至極真っ当な注意をした主人公
直後、漸くジョルジュの謝罪を受け入れたマリアを確認すると
僅かに動揺した様子のカイエルは続けた――》
「……で、では次です。
主人公殿が致死性の無い魔導をジョルジュ氏へ一度放ち
ジョルジュ氏は、これを避ける事無く受ける事。
では、互いに準備を」
《――彼がそう促した瞬間
“減衰装備”を一つずつ……妙にゆっくりと外しながら
ジョルジュを威圧するかの様に確りと見据えた主人公。
一方……その“圧”に思わず後ずさりし
焦り始め主人公に対し精一杯の体裁を保ちつつ
“交渉”を願い出たジョルジュ。
彼は――》
「お、おい主人公君? ……“致死性の無い”だぞ?
そ、そうだ! ……貴様がたった今ユーグに掛けた
“睡眠の魔導”とやらで勘弁してやろう!
か、寛大だろう?! ……どうだろうか!? 」
《――冷や汗を拭いつつ
尚も後ずさりしながらそう訊ねたジョルジュ。
だが、そんな彼から片時も目を外さず
静かに近付いた彼は――》
「……動くな、俺の魔導は威力が狂ってる上に
疲労に依って狙いが“外れる”可能性さえある。
大体、こんな特異体質の俺だから民達も怖がって
お前みたいなクソ野郎に扇動されたんだ。
……と言うかそもそも、幾ら致死性の無い技とは言え
変に“後遺症”が残っても面白くないだろ?
取り敢えず……
……動くなって言ったら動くなクソ野郎がッ!! 」
《――言うや否や
ジョルジュを睨みつけ少々過剰に煽ってみせた。
……だが、その様子を見た国民の中には
主人公の事を
“やはり危険な存在なのではないか”
と疑い始める者まで出始めて居た。
そして……この直後
これを“好機”と考えたジョルジュは
先程までよりも過剰に怯えてみせ
国民の同情を買う作戦に打って出た――》
「ひぃっ!? ……こ、殺されるぅぅぅぅぅ!!
皆様のお力でどうかお助けをぉぉぉっ!! 」
「黙れよクソ野郎……“非致死性”だと言っただろ?
そもそも、拒否した場合は“投獄”って言ったよな?
……良いのか? 」
「ど……どの道!“決闘妨害罪”で投獄される予定なのです!
勿論、拒否しますともッ!! 」
「マジかお前……う~ん、あの……ラウドさん」
「何じゃね? 」
「この場合“取り決めの実行”が出来ませんし
“妨害罪”……無しに出来ませんか? 」
「ふむ……良かろう
勝者が望んで軽くする分には何の制約も無いからのぅ?
しかし、主人公殿……何か“考え”があっての事じゃろうが
少々“煽り過ぎ”て、国民が驚いておるぞい? 」
「あッ……“考え”があるのバレちゃいました?
まぁ、見ててください……きっと“懐かしい”ですから! 」
「な、懐かしいじゃと? ……ううむ」
《――主人公が
ラウド大統領との会話に花を咲かせて居た一方で
“当ての外れた”ジョルジュは――》
「そ、そんな馬鹿な?!
貴様ら……やはり私が不利になる様に仕向けたな?!
国民の皆様ッ! この者達は私を貶める為に!! ……」
《――と、再び国民を扇動しようと画策し
そう声を上げ掛けて居た、だがこれに対し――》
「ったく……何言ってんだか。
こっちがボロボロの時に――
“決闘だ! 日時は今すぐだ! ”
――なんてえげつない要求飲ませておいて
自分がヤバい立場になったらすぐヘタれて演技までしてさ?
ルール無視も大概にしろよ“クソ野郎”が」
「なっ?! ……先程から私の事をクソ野郎クソ野郎と!
いいかげんにしろッ! ……私は“クソ野郎”じゃ無いっ!!
私には“ジョルジュ”と言う由緒正しき立派な名前が!! ……」
「……何でも良いけど取り敢えず約束は守れ。
動くなって言ったら“動くな”
立派な名前があるってんなら、それに恥じない行動を取れよ。
……それとも、ついさっき自分で言ってた
“貴族の端くれ発言”も忘れたのか? 」
「き、貴様ッ!!! ……良いだろう!!
どの様な魔導を放ってくるつもりかは知らんが
これでも私は貴族の端くれ……
……私にこの様な恥をかかせたのだ
もし仮に貴様が私を殺める様な技を放てば
貴様は直ぐにでも牢獄行きだ!
さ、さあっ!! その勇気があるのならば
はっ……放ってみるがよ、よいっ!!! 」
《――とは言え
そう宣言した彼の腰は退けており
足を震わせながら辛うじて立って居る様な状態で――》
「頼むから……本当に、動くなよ? 」
「う、煩いっ!!! ……は、早くやれっ!!! 」
「じゃあ……行くぞっっっ!!! 」
「ヒぃッ?!! 」
《――直後
“フェイント”を掛けた主人公の動きに過剰反応し
全力で飛び退けたジョルジュ……そんな彼に対し
大きな溜息を吐いた主人公は――》
「はぁ~ッ……だから“動くな”って言ったろ?
頼むからじっとしててくれ……マジで危ないから」
「わ、分かった……分かったから大声を出さないでくれ!
頼む……どうか、穏便に済ませて欲しい……」
「全く……やっと素直になってくれたか
ああ、分かった……出来るだけ静かに穏便にやるよ。
……でもさ、怪我の一つでもされたら後味が悪いから
今度はマジで動くな……頼むぞ? 」
《――そう言うと静かに距離を取った主人公は
深呼吸し……確りと狙いを定め
全ての減衰装備を外した、純粋なる魔導力を
“ふんだん”に使用し――》
………
……
…
「土の魔導――
――花よ咲けッッ!!! 」
《――そう唱えた次の瞬間
ジョルジュを“大量の花で埋め尽くした”のだった。
……当の本人は大量の花びらに依って溺れ
軽いパニック状態に陥っていたが
そんな本人の慌てっぷりとは対照的に
その絵面の“華やかさ”と“馬鹿馬鹿しさ”に
見物者達は皆大笑いし、拍手喝采すると同時に――
“主人公は度量が広い”
――と、彼を称賛する者まで現れ始めて居た。
そして――》
………
……
…
「カイエルさん……これで
“勝者の要求”は全て完了しましたよね? 」
「え、ええ……しかし何と言う……」
「良かった、これでやっと終わりですね……っと。
……流石に“アレ”を救出する程の魔導力は残って無いので
後処理……お任せしても良いですか? 」
「ああ、勿論構わないが……大丈夫かね? 主人公君」
「ええ、何とか……っと、それはそれとして。
ラウドさん……こいつが俺を貶める為にやった悪事と
その罪について……全て
“無し”にして貰う訳には行きませんか? 」
「ん? 主人公殿が良いならそれで構わんが……」
「ええ、その方が俺は嬉しいです
それと……」
<――など話して居たら
パニック状態のジョルジュは花びらの山から救出された。
の、だが――>
「ピッ、ピンクの化け物が山の様に襲い掛かって来て……
……あぁぁぁぁぁぁぁっ!!! 」
「げぇッ!? ……ト、トラウマ植え付けちゃったかな?
さ、流石にちょっとやり過ぎたか……」
「ぬはぁぁぁっ!? ……た、助かった……のか? 」
「って、元に戻ったか……おいジョルジュ
話があるんだけど……良いか? 」
「何だ? ……もう“クソ野郎”呼ばわりは止めたのか? 」
「ああ、真剣な話だからな
正直、俺もかなり疲れてるから素直に聞いてくれ。
先ず……お前の親父さんの件、本当にすまなかった
謝って許して貰おうとは思って居ない
兎に角、唯……本当にすまなかった。
……正直、俺も後から聞いてゾッとした位だ
そりゃ国民も怖がるだろうし
良く追放されなかったとすら思ってる。
何を言った所でお前の怒りが収まるとは思って無いけど
それでも……本当にすまなかった。
それから、さ……もし今後
俺が助けられる事があるなら何でも相談して欲しい
元貴族が“苦しい状況”なのも
完全とは言わないけど理解してるんだ……だから
こんなのは勝手かも知れないけど
これから先、俺に……お前の親父さんの件について
ちゃんと罪滅ぼしをさせてくれないか?
……頼むよ」
《――直後
ジョルジュに対し深々と頭を下げそう頼んだ主人公。
だが……そんな主人公に対し
ジョルジュは――》
「い、今更……そんな都合の良い言葉だけで
貴様を許せると思っているのかぁぁぁっ!!! 」
《――言うや否や
拳を握り締め主人公に殴り掛かったジョルジュ
だが、主人公はこれを避けようともせず
寧ろ“当たりに行く”つもりすら有る様子であった。
だが、この直後――》
「ええぃッ!!! ……止めよ見苦しいっ!!! 」
《――両者の間に割って入り
ジョルジュの拳を受け止めそう言ったのは
オーク族族長“グランガルド”であった――》
「……何をするッ?!
部外者の出る幕では無いっ! ……離せっ!! 」
「うむ……確かに吾輩は部外者である
だが……貴様は大きな考え違いをして居る様だ。
これ以上の大恥をかく前に止めて置け……」
「……何だとッ!?
“考え違い”とはどう言う事だッ?! 」
「では、語るが……
……貴様の親は私利私欲に溺れ
ラウド殿、主人公の両名に有りもしない汚名を着せ
その罪で二人の殺害を企て
それを実行に移したのは揺るがぬ事実だ。
この時点で、貴様だけが主人公を責めるなど
物事の道理に合わぬと分かる筈……にも関わらず
貴様までもが事実とは異なる噂を流し
主人公を貶め、この国から追放させようと画策した。
……貴様ら親子は我欲の為だけに動き
それを悪びれもしない厚顔無恥な行いを続けた。
だが、それでも……主人公は貴様の拳を受ける気で居た様だ。
貴様も男だと言うならば……少しは理解すべきであろう」
《――そう言い終えると
ジョルジュの拳を静かに離したグランガルド――》
「くそっ……くそっ!! ……クソがぁぁっっ!!!
何もかも全て私達貴族が悪いと言うかッ!?
……貴様らから見れば、私達貴族は大多数を無視し
富を独占し、苦しめるだけの存在にしか見えておらんのだろうよ!
だがな……戦争になった時
一番に金を出すのは……兵を出すのは一体誰だと思っている?
兵士が潤沢な装備で戦に出られるのは一体誰のお陰だと思っているッ?!
平民は誰も理解せず、金を出すでも無い……案を出すでもない。
……日銭を稼ぎ、日々の暮らしを
只、惰性で送る事しか考えていない!
努力をしない平民共が――
“貴族の食い物に成った!! ”
――そう、訴え出る事を百歩譲って良しとしよう。
では……貴族の苦労は誰が認めるのだ?!
無論、潔白だとは言わん……それなりに誇れぬ事もして来た……だが!
そのお陰で国が栄えた時代を全て無かったかの様に
お前達平民は平気な顔をして宣う!!
……何故そんな酷い事が出来る?!
何故、一度でも我ら貴族に対し
僅かにでも尊敬の念を抱こうと……
……理解しようとはしなかった!?
何故全ての悪逆非道を我ら貴族に全て擦り付けるのだっ?! 」
《――グランガルドに掴み掛かりながらそう言い放ったジョルジュ
しかし……そんな彼に対し、グランガルドは
更に諭す様に続けた――》
「そうして幾ら耳障りの良い言葉で自身を正当化しようとも
御主自身が平民を“尊敬せず理解して居らぬ”その態度と……
……本質は何も変わらんのだ」
「ふ、ふざけるなっ!! ……貴様ら“優遇された種族”に何が判る?!
没落した貴族の……
……我ら没落貴族の苦しみがお前達に判ると言うのか?! 」
「その“痛み”こそ、吾輩達には痛い程理解出来ると言う事も
貴様には判らんのだろう……
……吾輩達の真実の歴史を少しでも理解して居たならば
その様な軽々しい発言は出来無かった筈。
やはり貴様は甘過ぎる……」
「くっ! ……父の仇も取れず
蔑まれ、投獄すら慈悲を掛けられ……私はどうすれば良い?!
この、果たせぬ恨みを一体どうやって消化すれば良い?!
私は父上にどうやって……
……どうやって顔向け出来ると言うのだッ?! 」
《――悔し涙を流しつつそう言い放ったジョルジュ
直後……そんな彼に対し
主人公は静かに近付き――》
「なぁジョルジュ……お前は俺が
この国から出て行ったらそれで満足なのか?
それが唯一俺に出来る“罪滅ぼし”だって言うのか? 」
「何? ……当然だろう!!
この先、貴様の様な不安定な存在がこの国に暮らして行くのならば
遅かれ早かれこの国は貴様の力の暴走によって滅亡するだろう! 」
「“一度起きたら二度目もあり得る”って理論は分かる
じゃあ……一つ質問だジョルジュ。
……俺は暫く旅に出ようと思う
それで俺が旅に出て居る間
俺が居ない事でこの国が安全に成るって言うんなら
お前の言う事を聞いてやるよ……どうする? 」
「当然だ! ……貴様など居ない期間が長ければ長い程
この国は安全であり続ける筈だ!
……間違い様など無い程になッ! 」
「分かった、なら俺は旅に出てやるよ……但し
体の回復に一週間は待って貰うが……
……それは構わないだろ? 」
《――主人公のこの発言に
この場に居た者達は皆ざわつき始め
仲裁に入ったグランガルドも――》
「何を言い出す主人公よ……
……この者に訊ね齎される応えなど考えるべくも無い筈。
戦いに興奮し、冷静では無い頭で考えず
一度落ち着くのだ、主人公よ……」
「……心配ありがとうなガルド
だけど、俺は至って冷静に話してる。
正直、本当なら言いたくは無かったんだけど……俺はさ
昔負った“心の傷”の所為で
どれだけ疲れて居ても、どれだけ楽しんで居ても……何をしてても。
他人からの“悪意と拒絶”だけは確りと判るんだ
俺と、俺の大切な人達に向けられる物には特にね……それと。
……釈放されて未だ日は浅いけど
街を歩いて居て感じたんだ……国民の半数は
俺の事を信じてくれたり、心配してくれたり
色んな理由で“賛成”に投票してくれたんだって。
勿論、その事には感謝してる……だけどな、ガルド
例え半数がそうでも……半数が俺を怖がり
そんな状況に俺自身も一種の恐怖を覚えたとは言え
正直に打ち明けもせず、国民に隠す形で
“固有魔導”を使ったのは紛れも無い事実だ。
……幾ら人助けの為だとしても
この国の大臣をして居る人間としては失格だと思う。
それに――
“俺みたいなのが居なければ”
――そう、内心思って居る人達が無視出来ない数居たからこそ
今回の様な騒ぎになったんだと、俺は思ってるんだ。
あくまでこれは俺の邪推かも知れない
だけど――
“俺が居なくなるなら、ジョルジュの説明が嘘でも構わない”
――そう思い、嘆願書に名前を書いた人達が
無視出来ない数居る可能性だって、充分にあるんだよ」
《――主人公がそう言った瞬間
“無視出来ない数の国民”が彼から目を背けた。
……そして
直後、その様に気付いたグランガルドは――》
「何があろうと、あくまで吾輩は御主の味方だ
だが……御主の言う事に反論が出来ぬのもまた事実。
……だが、それならば
御主に“居て欲しい”と願う者達はどうなる?
御主が地獄の様な状況から救い上げた者達は
これから先、何を信じこの国で生きていけると言うのだ? 」
「……だから“旅に出る”って言ったんだ
“二度と帰らない”訳じゃ無い……だけど。
俺を怖がってる人達が山程居るこの国で
このまま俺がずっと居座り続ければ
絶対に遺恨が残る。
……もし、俺が原因で
国民同士が対立する可能性が少しでもあるなら
平和で安定した国を作ろうとした俺の願いからは
とんでも無く乖離する……だから敢えて
俺の事を大切に思ってくれて居る人達の為
俺を怖がってるって事以外は
この国を愛してくれて居る、俺を嫌いな人達の為。
俺は……暫くこの国を出ようと思って居るんだよ」
「成程、理解した……ならば、吾輩もその旅に同行しよう」
「……は?
い、いや……ガルドはオーク族の長で! 」
「その心配は不要だ……“後継者”ならば
いざと言う時の為、既に選定済みだ……と、言う事だ。
……良いな? “ゴードン”よ。
引き継ぎを済ませた後……貴様は“グランゴードン”と名乗るが良い」
《――この瞬間
グランガルドに促されこの場に現れたのは
彼に負けず劣らず体躯の立派な
若く聡明な顔立ちをしたオークであった――》
「……グランガルド族長。
族長の“生涯の友”の為の英断……我が心に刻み込み
必ずや立派な種族の長と成り、我が種族を繁栄させ
族長の地位に泥を塗る事の無い様……
……力の限り勤め上げさせて頂きます」
「うむ……任せたぞ」
「い、いや……ちょっと待てってッ!!
俺はまだ何も返事すら……」
「主人公よ……生涯の友の為、吾輩は常に味方であるつもりだ。
だが同時に……過去、御主が受けたと言う“古傷”を
吾輩がどうこう出来るとも思ってはおらぬ……だが
それでも……“共に闘う事は出来る”と言って居るのだ。
主人公……どうか、吾輩の同行を許して貰いたい」
《――直後
主人公に対し深々と頭を下げたグランガルド
そんな彼の余りにも真剣な様子に――》
「こ、断れない状況を作っておきながら
そんな頼み方……ひ、卑怯だぞ? ガルド」
「すまん……だが……」
「もう……分かったよ
てか正直、ガルドが付いて来てくれるなら
こんなに安心な事は無いか……ともあれ、宜しくなガルド! 」
《――直後
固い握手を交わした二人……だが
その一方、二人の決定に大慌てして居たマリーンは――》
「……ちょっと?!
何いきなりサラッと凄い事決めちゃってるのよ?!
それに猶予が一週間って……短すぎよ?!
で、でも……私もついて行くからッ!
分かってる?! 主人公には拒否権なんて無いんだからッ!! 」
「マリーン……ありがとう、嬉しいよ」
「と、当然でしょ?! わ、私程の美女が傍に居るんだからッ!! 」
《――そう言った直後
顔を真赤にしたマリーン、そして――》
「当然ながら私も付いて行きますけど
それにしても……主人公さんって何で、毎回毎回
重要な事を私達に全く相談せず決めちゃうんですかね? 」
「マリア……いつも苦労掛けてすまん」
「ま、別に良いですけどね?
私はあくまで主人公さんの“道具”ですから! 」
「い、いや……このタイミングでその“言い方”は
かなり語弊があると思うんだが……」
《――直後、主人公の危惧した通り
彼らの“関係性”を疑う様な声が軽く聞こえ始めた頃――》
「わ……私だって付いて行きますっ!
主人公さんは直ぐに落ち込んじゃうからっ……だからっ!!
……わ、私がいっぱい笑顔にさせちゃいますっ! 」
「メル……有難う
俺はメルが笑顔で居てくれるだけで元気になれるよ! 」
「へっ?! ……はぅぅ……」
《――結果として
グランガルドと“いつもの面々”が同行を希望し
総勢五人での旅路に成る“予定”と成った
その時――》
「ならば……我が隊も同行しよう」
「は? ……いや、ディーン達は今やこの国の兵士だろ?
防衛力が下がるのは流石に不味いよ
と言うか、変に責任を感じての事ならそれはお門違いだぞ? 」
「何を言う? ……前に言った筈だ
我々は“どの様な立場であれ君と同じ道を歩む”と……」
「いや、確かにそうは言ってたけどッ! ……って
もう、分かったよ! ……有難う!
……もう俺に付いて来てくれるって言う
“向こう見ず”な方は居ませんね?
居るなら今すぐ名乗りを上げてくださいね!?
あ、後から付いて来るって言っても
とッ“当日券”はありませんからねッ?! 」
《――仲間達からの愛に涙を堪えきれなくなり
照れ隠しの為か精一杯“上手い事”を言ったつもりで居た主人公。
だが、そもそもこの世界に“当日券”と言う概念は無く
唯唯、皆が静まり返る結果と成ったのだった――》
………
……
…
「主人公殿……本当に旅に出てしまうのかね? 」
「はい……でも、そんな寂しい顔しないで下さいラウドさん。
諄い様ですけど、帰って来ない訳じゃないですし
実際の所は旅がしてみたかったってだけですから!
今は……俺とこの国の民達との間に少しだけ
“冷却期間”を置くべき時が来ちゃっただけです。
また落ち着いた頃にちゃんと戻ってきますから! 」
<――そう
精一杯の笑顔を作りラウドさんと話して居たこの瞬間
服の裾を引っ張られる感覚を覚え
振り返った俺に対し――>
「ねぇ主人公っち……本当に行っちゃうの? 」
<――悲しげにそう言ったのは
エリシアさんだった――>
「ええ……って言うか“薬草採集”
付き合えなく成っちゃいますけど
秘書官さんの事、困らせない様にしてあげてくださいね? 」
「う……煩いよ! 余計なお世話だぃ!
兎に角……一週間後、旅立つ前に必ずギルドに来て。
私……待ってるから」
<――そう言い残し
振り返る事無くギルドの方へと帰って行ったエリシアさん。
この瞬間、何だか彼女の背中は悲しげに見えた――>
「エリシアさん……必ず行きます。
っと……ちょっと流石に疲れが限界かも
ラウドさん、お別れは旅立ちの日に改めてするとして
今日は宿に戻りたいんですが……」
「ふむ、では……」
《――主人公の申し出を受け
国民に対し解散を促したラウド大統領。
……主人公のこの決定に安堵する者
落胆する者……様々な様相を見せつつ
それぞれの日常生活へと戻って行った国民達。
そんな中、特に主人公を心配して居た筈の各種族達は
皆一様に、何故か一言も発さず足早に帰って行き――》
===第三九話・終===




