第三十八話「楽しい時間は露と消え……」
《――突如として政令国家東門前に現れた“謎の子供”
……その非常識な戦闘力に依り魔王軍は大敗を喫した。
そして……この一件から暫くの後
“魔王軍第三大隊”の約三割を一瞬にして失った“第三大隊長”は――》
………
……
…
「……も、申し訳ありません魔王様ッ!
想定外の戦力が突如として現れ……」
「黙れ……貴様の謝罪など無意味だ。
貴様の報告に在った、我ら魔族種を“喰らう”と謂う“武器”……
……それがどの様な物であれ、使用者を見つけ出し
我の前に跪かせ、己が愚かしさを悔い改めさせねば成らぬ。
第三大隊……大隊長デュラン
以降、貴様はこれの達成を以て“詫び”とせよ……良いな? 」
「ハッ……必ずやッ!!! 」
《――第三大隊・大隊長デュランに対し、そう命じた魔王。
一方、この日より遡る事暫く
戦闘終了直後の政令国家では――》
………
……
…
<――戦闘終了後、大きな怪我も無く無事に執務室へと戻った皆。
……だが、帰還後全員が口にして居た“謎の子供”と言う存在は
皆の会話を聞く限り、危険な存在の様で――>
「な、なぁ皆……その“謎の子供”って言うのは……」
<――そう訊ね掛けた俺に対し
普段の彼女からは考えられない程
怯えた様子でその存在について話してくれたマリア――>
「……魔族と戦ってた私の後ろに“子供”が現れたんです。
でも、声を掛けられるまで居る事にすら気付かなくて……それで
驚く私に対し“武器に魔族を食べさせたい”とか言い出したんです。
正直……喋り方も危ないし、持ってる武器は武器で
文字通り魔族を“食べて”ましたから……流石にちょっと怖かったです」
「な、何でそんな危険な存在が……いや、その前に
二人を含め、全員が無事で良かったよ。
それと……マリア、後で少し時間を作ってくれ」
「はい、分かりました……」
<――この後
今回の戦闘に関する話が出尽くした後、ラウドさんは
“謎の子供”に関する部分を国民に伏せておく事を決定し
緊急会議を解散とした――>
………
……
…
<――解散後、直ぐにヴェルツへと帰った俺達。
食事中、マリアに対し――
“……今回の件以外にもマリアには聞いておきたい事がある
勿論、二人にも知って欲しい事だから……構わないか? マリア”
――と、訊ねた俺。
“何だか分からないですけど……分かりました! ”
そう答えたマリアと共に……暫くの後
食事を終えた俺達は部屋に戻り――>
………
……
…
「……メル、マリーン。
俺がこれからマリアと話す内容は、俺が転生するまでの話だ
二人が聞いて楽しい話じゃないかも知れない事……先に謝らせてくれ。
それで……単刀直入に聞くけど
先ず……マリアが出会ったって言う化け物みたいに強い“子供”について
俺はその手の設定をした覚えが全く無い。
にも関わらず……何でそんな“化け物”が出てくるんだ? 」
「それは……私にも分かりません。
世界の構築を急いだのは事実ですけど
あんな存在が居る事は私にも不思議です。
マリーンさんの半魔族問題もですし
ディーン隊の副隊長ギュンターさんの固有魔導も
この世界の魔導からすると少し逸脱している気がします。
それこそ……主人公さんが設定していた時
想像したゲームに“似た様な設定”があったって事は? 」
「いや、断言して良い……そんな設定は絶対に無い
そもそも俺は設定している時“船までで良い”って言ったと思うが
普通、船ってのは“海の物”だ……けど“オベリスク”は
誰がどう見ても完全に“地上”戦艦だ。
この世界にあんな“オーパーツ”的な存在が有って良い訳無いし
ちょっと前から気には成っていたけど
設定を“拝借”した元のゲームには存在しない
変な魔物ばかりが山程出てくる現状も不可解過ぎるんだ」
「だとすれば……まさかとは思うんですけど
地球から沢山の人間の身体的特徴や性格を持ってきた際
急いでいたので何か不味い物まで持って来てしまった可能性が……
……とは言え、こっちについて来た私には
既に確認する術も無いんですけど……」
「……だとしてもオベリスクの存在はやっぱり変だし
元の世界にあんな物は無かったぞ? 」
「……いえ、無かったとは言い切れません」
「いや……無いって! 」
「……実在では無くても
“空想科学”としてあったかもしれないって言ってるんです」
「だとして……何でこの世界にそれが出てくるんだ? 」
「あくまで仮定の話ですけど……私、あの時
顔や体格以外に、良かれと思って“性格”もコピーしたので
もしかしたら構築先の脳に
誤って複製元の記憶まで書き込まれちゃった人が少なからず存在してて
それを元にした何かをこの世界が勝手に作った……とか?
勿論……“船まで”みたいに
主人公さんが設定したルールはある程度守られているみたいですけど
オベリスクを見る限り、若干の曲解を含んでいる可能性も……」
「成程……その可能性がゼロとも思えないな。
……仮にそうだった場合、ルールを曲解した対応に困る存在が
これからも次々と現れて来る可能性があるって事か? 」
「その確率の方が高いと思います……あと
恐ろしい事を思い出したんですけど、設定の妙と言いますか……」
「……何だ? 隠さず言ってくれ」
「……基本設定は完全に作成したつもりですけど
カスタム仕様の項目を設定していませんから
主人公さんの作ったこの世界の文明が“進化するかどうか”とか
その他にも色々と設定出来ていない項目が多いんです。
なので、設定項目を超えてくる可能性も
充分に有り得るんじゃないかなって……」
「成程……そうなって来るとキツイな」
《――そう話す二人に対し
マリーンは――》
「結構エゲツない話だったけど……要するに
ある程度以上は“私達の知識”と何も変わりが無いって事ね? 」
「ん? ……どう言う事だ? マリーン」
「いや、主人公ったら起きる事が全部分かる位設定したのかな?
って思ってたけど……決まった未来は無くて
寧ろ貴方にも分からない事だらけって事でしょ?
なら、希望もあるじゃない! 」
「確かに……そうだよな!
分からない事が多過ぎて何をどうすれば良いのか
正直、何にも思いつかなかったけど……そっか!
人生って本来そう言う物だよな! ……難しく考えずにただ頑張るだけだ!
俺は必ず皆を護る……俺が護られている様に」
《――仲間達に対し改めてそう宣言をした主人公。
その、一方――》
………
……
…
《――政令国家から北へと離れた謎の国
其処では――》
「……ネイト、何処に行ってたの? 」
「別に何もしてないよ?? ……ママの勘違いだよ! 」
「正直に言ってみなさい? ……怒らないから」
「本当に……怒らない?? 」
「ええ……何をしてたの? 」
「えっとね……魔族をこの武器に食べさせただけだよ!
だってねだってねだってねッ!!
王国……あれ? でも“政令国家”って言ってた様な?
……まぁ良いや!
その国に攻め入ろうとしてた大量の魔族が居て!
ママが少し前、この武器の事
“沢山魔族を食べさせるととっても強くなる”って言ってたから!
それでね! ……」
「……そう、お約束破っちゃったのね?
その時、誰かに見られちゃったの? 」
「う、うん……でも! “話のわかるお姉さん”だったよ?? 」
「話の分かるお姉さん? ……どう言う人なの? 」
「凄く強そうな人だったけど……僕に攻撃してこなくて!
でねでねでねッ?! ……僕が“魔族を食べさせたい”って言ったら
“いいよ”って! ……優しい人だったよ?
……本当に邪魔してこなかったもん! 」
「……それはきっと
貴方の力がその人を上回っていたから手を出せなかっただけだと思うわ? 」
「でもでもでもッ! ……優しそうだったよ??
僕、友だちになりたいもんっ! 」
「そう……お母さんも一度会ってみたいわね。
……でも、約束を破った事もそうだけど
他国の人間に姿を晒した事は怒らないとダメかしらね? 」
「やだやだやだッ!! ……怒らないって言ったのに!!
ごめんなさいっ! ……もうしないからぁぁ! 」
「そうよね? ……でも。
嘘つきな貴方の事、ママは信用出来ないの……ゲール、反省させて」
「……かしこまりましたグロリアーナ様。
苦痛の魔導……切裂激痛ッッ!! 」
「……あ゛ぁぁぁぁぁぁぁっ!!
ごめ゛ん゛な゛ざい゛ぃぃぃっ! ……」
「ええ、反省してね? ……少なくとも明日までは」
「い゛や゛た゛ぁ゛ぁ゛あ゛っ゛!!!
マ゛マ゛ァァァァァァ!!! ……」
………
……
…
《――翌朝のヴェルツ
魔導回復の為、自室に籠もって居た主人公――》
「……昨日よりは楽になったけど、それでも魔導量が少ないや
あ~キツイ、二日酔いみたいだ……下戸だけど」
「それにしても……主人公さんって事ある毎に
固有魔導を乱発して……挙げ句、倒れたり暴走したりしますよね。
計画性が無いって言うか何て言うか……馬鹿なんですかね? 」
「マリアお前ッ?! ……流石に怒るぞッ!? 」
「……二人共落ち着きなさいよ。
でも主人公? ……あんなに人の為に頑張れるって素敵よ?
少なくとも私達は貴方のそう言う優しさに助けられたんだから。
……って! 言ってて思い出したんだけど
“昨日の約束” ……忘れてないわよね? 」
「マリーン……こんなキツイ状況の時
そんな優しい褒め言葉を掛けられたら……って。
昨日の約束? ……ハッ?!
い、一体何の事かな~ッ?! 」
《――明らかに何か思い出したであろう事を必死に誤魔化して居た主人公
彼は絵に描いた様な大量の冷や汗をかき始めて居た。
だが、マリーンはそんな事などお構い無しな様子で――》
「まぁ、誤魔化されてあげ……る訳無いでしょ?
さぁッ! “告白タイム”よッ!! ……」
「ぐっ、分かったよ……」
「はっは~ん……漸く観念したわね!
でも、一人一人に心を込めて言わなきゃ駄目よ?
雑に終わらせたら何回でもやらせるから覚悟しなさいよねッ?! 」
「……わ、分かったからッ!
よし、先ずは……」
《――と、緊張しながらも勇気を出した主人公の元へ
酷く慌てた様子のラウド大統領から魔導通信が送られ――》
………
……
…
「……ぬわぁっ?!
って、ラウドさん?! ……何ですかいきなりッ! 」
「す、すまん……じゃが不味い事に成っておる
急いで執務室に来るのじゃ……では通信終了」
………
……
…
「――何だろう?
兎に角、一度執務室に行こうか……」
「何だか釈然としないわね……後でちゃんと言ってよね? 」
「私は……主人公さんの緊張してる顔が
もう一回見られると思うと面白いですから別にいいですけどね~」
「……そ、そこはいいだろマリアッ!
マリーンも、後でちゃんと言うから! ……早く行くぞっ! 」
《――直後
顔を真っ赤にしながら執務室を目指した一行――》
………
……
…
「疲れておるじゃろうに、本当にすまん……」
<――到着後
ラウドさんは申し訳無さげにそう言った。
そして……俺が事情を訊ねると
リオスに説明を頼んだラウドさん――>
「リオス殿……説明を」
「うん……あのね、主人公が一年程前に
その……“例の事件”があった時、貴族達を“吸収”しちゃったでしょ? 」
「ああ……気を遣わず話してくれ」
「……うん。
そ、それでね……その貴族の一人息子が主人公を恨んでるみたいで
危なそうだし、一応監視はしてたんだけど
魔族が攻めて来た日から、あっちこっちで
“ある噂”を流してたみたいなんだ……」
「……ある噂ってどんな? 」
「えっとね……主人公が国民との約束を破って
“固有魔導を使った”ってあっちこっちで吹聴してたんだ。
しかも……
“釈放後、失った名声を取り戻したくて
倒す為の魔族を呼び寄せる為に使用したら
また力が暴走して執務室に籠もる羽目になった”
……って類いの話をしてるみたいなんだ。
けど、主人公が執務室にいたのは事実だし
その所為で変に信憑性があるから信じちゃってる人も居て
結構な数の国民が扇動されちゃってるんだけど
主人公は国民との約束、破ってない……よね? 」
《――そう訊ねたと同時に
主人公に対し目で“合図”を送って居たリオス……そして
同じく、ラウド大統領も主人公を見つめたまま静かに首を横に振ったが
疲れからか、何れの行動の意味も良く理解出来ず
素直に真実を語ってしまった主人公――》
………
……
…
「ああ……国民に黙って固有魔導を使った事は間違い無いよ」
《――そう彼が答えた瞬間
同席して居たディーンは――》
「待て主人公! ……その件ならば私に全責任がある。
……我々の体には発動すれば命を失う呪いが掛けられて居たが
それを消し去る為に使用させたのは私だ。
何らかの罰が必要だと言うのなら
無理やり君に使用させた私が受けるべきだろう」
「な……何言ってるんだディーン?!
俺が望んで固有魔導を使ったんだ! お前は何も悪くないッ! 」
「いいや……発案し、主人公の優しさにつけ入り
力を利用したのは紛れもなく私だ」
《――この時
何故か執務室の扉に視線を向けつつそう言い切ったディーン。
一方、リオスは――》
「主人公……誤解しないで、僕の言い方が悪かっただけ
責めてる訳じゃ無いんだ……僕は主人公の優しさを信じてるから。
その上で……落ち着いて答えてね?
改めて聞くけど、主人公……
……誓って“悪い事には”使って無いんだよね? 」
「ああ勿論……ってか俺ってそんな悪い人に見えてたかい? 」
「ごめん、違うんだ……疑った訳じゃ無いんだ
その、ちょっと面倒な事になるかもしれなくて……」
《――瞬間
勢い良く開かれた執務室の扉
其処に立って居たのは若い“没落貴族”と
その御付きの魔導師らしき男だった――》
………
……
…
「いやいや……お初にお目に掛かるっ!
父が世話になったな主人公よッ! 」
「……貴方は? 」
「ふッ! ……私を知らんとはな!
私は……貴様が殺した貴族が一人、ボルスの息子……ジョルジュだ! 」
「なっ!? そ、その……あの一件に関しては、記憶が無いとは言え
本当に申し訳ないと思っています……」
「ふッ! ……貴様がどの様に宣おうとも
此方の要求は決まっている……即刻この国から出て行くが良い! 」
「……申し訳無く思って居ますし
出来る限りの償いもしたいと思っています。
ですが……いきなり“追放”など……それに
ラウドさん……この状況はあまりにも出来過ぎている。
一体……どう言う事です? 」
《――直後
ラウド大統領を疑いの眼差しで見つめた主人公……だが。
その視線を感じた瞬間
酷く落ち込んだ様子で釈明を始めたラウド大統領――》
「主人公殿……わしが裏切ったと疑っておるのじゃな?
残念じゃよ、本当ならば“先程”気がついて欲しかったのじゃが……」
「ん? ……ラウド、貴様まさか
主人公に都合の良い嘘をつかせようと画策して居たのか?
貴様らの作った罪状である……“偽証罪”を認めるつもりか? 」
「い、いや……話を戻すが、ジョルジュ殿は僅か一日足らずで
無視出来ん数の“嘆願書”を集めて来たのじゃ。
主人公殿の制定した法律に照らし合わせても
対応せねば事態が更に大事に成る故、前以て何も伝えず
この様な呼び出し方をするしかなかったのじゃよ。
本当に……すまなかった」
「……成程、それで“嘆願書”の内容は? 」
「うむ……内容はこの通りじゃ」
《――直後
ラウドが差し出した嘆願書にはこう記されていた。
“自ら結んだ民達との約束を反故にし
固有魔導を政令国家内で使用したのが事実であれば
即時この国からの追放を願う、拒絶した場合は釈放無しの再投獄を望む”
この嘆願書には国民の記名も数多く見られ――》
………
……
…
「これは……中々な内容の嘆願書ですね」
「……うむ。
じゃが、追放や投獄を確定する物では無いし
当然わしもそんな事は望んでおらん。
今日はあくまで嘆願書の内容に関する話し合いなのじゃが……
……ジョルジュ殿がわしらと話す際
“主人公殿が何も隠し立て出来ん様に”
と、部屋の外で聞き耳を立てておったのじゃよ。
……じゃから“首を横に振った”のじゃが
伝わらなかった事を悲しく思っておる……それと。
ジョルジュ殿……御主は少し言葉遣いを控えて貰いたい」
「ふッ! ……やはりその様な姑息な行為をしていたか!
ラウドよ、貴様も追放されれば良いのだ!
……嘆願書など幾らでも集まるのだぞ?! 」
「……確かにわしの行動には問題があったやもしれん。
じゃが……御主こそ態度を少しも控えぬと言うならば
告発者は冷静ではないと判断し、話し合い自体
日を改めるべきじゃと思うがのう? 」
「ふッ! ……良いだろう! 」
《――直後
ふてぶてしく着席したジョルジュの姿を確認すると
ラウド大統領は主人公の体調を気遣いつつ――》
………
……
…
「……して、主人公殿。
回復もままならんじゃろうが後回しにも出来ん、辛いじゃろうが……」
「ええ、俺の理解力が足りなかったばかりに……申し訳ありませんでした」
「良いのじゃよ、主人公殿……」
「ん? ……今“回復”と言ったな!?
やはり使ったのだな貴様ッ!? 」
「……ええ、間違い無く固有魔導を発動させました。
ですが……少なくとも
貴方達が吹聴している様な
“下劣”な理由では有りませんのであしからず」
「何だと貴様……私を嘘つき呼ばわりするつもりかッ?! 」
「ええ……“その件に関しては”その通りです。
……もし仮に勘違いだったとしても悪質です
幾ら俺が憎いにしてもやり方が少々目に余ります。
法律の制定が未だに間に合っていないのは悔やまれますが
本来なら“名誉毀損”やら“侮辱罪”などが適用範囲の犯罪行為です。
……ですが、制定前の法律で貴方を責めるのは不可能な事も
当然ながら……残念でなりません」
「貴様……その様に
自らを保身する法ばかり制定するつもりだったのか? 」
「そう思うならご自由に……ですが
そこまで穿った見方をされると流石に呆れます。
因みに……制定されて居ない以上
たとえ俺が今、貴方を――
“大嘘つきのゴミクズ野郎!”
――と罵っても、用する法律が有りませんので
貴方も俺を訴える事が出来ない。
大層腹立たしいかと思われますが
これでも“俺だけに都合が良い”法だとお思いで? 」
「貴様っ!!! ……訂正して謝罪しろ! 」
「はぁ~っ……魔導量が心許ない上
疲労困憊な所為で機嫌も悪いと言うのに
その上“例え話”すら理解しない相手との話し合いは
少々骨が折れます……本当に」
「きっ……貴様ァァッッッ!!!
まぁ良い……ならばこっちにも考えがある!
私の手の者と“決闘”をしろ……当然一対一の決闘だッ!
……敗者は勝者の要求を全て飲む事
決闘を拒否するならばその時点で敗北とみなす。
日時は……今すぐだ!! 」
<――この男がそう言った瞬間
すかさず――
“ひ、卑怯者っ!
主人公さんの体調が万全じゃないのを知っててそんなっ! ……”
――と、俺を庇ってくれたメル。
だが、そんなメルに対し――
“黙れっ! 穢らわしいハーフめッ!!! ”
――などと言いやがった。
これが、俺を“乗せる為”の発言なら大した物だが
何れで有ったにせよ……この瞬間
機嫌の悪さが限界突破した俺は
直後――>
………
……
…
「おい、クソ野郎……ただでさえ体調も機嫌も最悪な俺の目の前で
依りにも依って……メルを侮辱しやがったな?
今直ぐメルに謝らないってんなら
決闘で勝利した際の俺の要求は相応に“恐ろしい”事になるが……
……本当に、それでも良いんだな? 」
「フッ……何を言うかと思えば。
見るからに座っているだけでやっとの貴様が?
口だけなら何とでも言えるだろうが……良いだろう。
……決闘は引き受けると言うのだな? 」
「ああ、引き受けてやるよ……お互いの希望を紙にでも書くか? 」
「勿論だ……後から“知らぬ存ぜぬ”と言われては困るからな!! 」
「その言葉、そのまま返してやる……それと、忘れるなよ?
お前は嘘をつくのが“得意な様に”見えるからな……」
「チッ……何処までも無礼なッ!!
……決闘は国民全員に見える場所で行う!
貴様はトライスターだったな……故に使用スキルは一職に限定だ」
<――此奴がそう言った瞬間
マリアは――
“貴方にそんな事を決める権限なんて無い筈です! ……卑怯者! ”
――と言った。
だが、そんなマリアを嘲笑う様に――>
「ほぅ? ……“バーバリアンの再来”と担ぎ上げられておきながら
決闘のルールも知らんとはな……脳みそまで筋肉で出来ているのか? 」
「……良いでしょう
私の“斧りんマークⅡ”の威力を知りたいならそこに座りなさいッ! 」
「ちょっ?! ……マリア抑えて!
そもそもネーミングセンスが無さ過ぎて威圧感が皆無……ゴホンッ!!
おいジョルジュとやら……職業はこっちで選んで良いんだな? 」
「ああ、勿論だ……だが、その満身創痍っぷりならば
精々、回復術師程度がお似合いだとは思うがなっ!!! 」
「はぁ~っ……貴族ってのは魔導の流れも知らないのか?
……俺に嫌味を言ったつもりだろうが、お前の頭の悪さは
どんな腕の良い回復術師でも治せないだろうな」
「き、貴様アァァァァッ!!! ……」
《――瞬間
主人公に対し殴りかからんとしたジョルジュであったが
御付きの魔導師がそれを制止し――》
「ジョルジュ様! ……今はどうか堪えて下さいませ!
此方が加害者に成るべきではありません! 」
「わ、分かっているッ! ……ふんッ!
兎に角……先ずは私から要求を伝えよう。
貴様に対する要求は――
“今後一切、政令国家への入国を禁止し
どの様な理由であれ、入国した場合は即時投獄”
それと、貴様が敗北した暁には裸でこの国を歩いて貰おう。
――その間常に私に対する謝罪を発しながらだッ!!! 」
<――このクソ野郎がそう宣った瞬間
マリーンは俺の横で――
“……は、裸っ!?
ちょっとだけ見たい……って、何でも無いからッ!! ”
――と言った。
ともあれ――>
………
……
…
「ちょ?! ……冗談きついよマリーン。
……分かった、次は俺が要求する番だな?
俺の要求は――
“メルとマリアに対する侮辱の言葉を正式に謝罪する事
致死性の無い全力の魔導を一度だけ、俺から受ける事
拒否した場合は、お前とお前の仲間の魔導師は内乱罪で投獄”
――と、言う事でどうだ? 」
「ふッ! ……良いだろうッ!
だが決闘で“ユーグ”に勝てると思っているなら甘い!
決闘を受けた事……精々後悔するが良い!!! 」
<――この瞬間、この男は
“キマった! ”と言わんばかりの表情をして俺を指差した。
だが――>
………
……
…
「……“受けなきゃ負け”と言った癖に
“受けた事を後悔するが良い”……とかどんな理論だよ。
クソ野郎な上に……アホなのか? 」
「き、貴様アァァァァァァァァァッ!!!!! 」
「……静粛にッ!!!
決闘は国民の安全の為、東門の外で行う事とする!
カイエル殿……」
「……ハッ!
伝達の魔導、魔導拡声 ――」
………
……
…
「……只今より
主人公対ジョルジュ代理人の魔導師ユーグによる正式な決闘を行う。
見届人希望者は東門前に集まる様に」
………
……
…
「――これで宜しいでしょうか? ラウド大統領」
「本心ならば“良くは無い”が……こうなってしまっては仕方があるまい。
カイエル殿、気乗りせんじゃろうが
皆を転移魔導で東門前に連れて行くのじゃ……」
「ハッ! ……では。
転移の魔導、東門前へ――」
《――直後
東門前には大勢の民衆が集まり
主人公の一大事に慌てた各種族達も続々と集まり始めて居た――》
………
……
…
「……誠に不本意じゃが、これより
主人公殿対ジョルジュ殿の代理人魔導師ユーグ殿による決闘を執り行う。
双方の取り決めはこの紙に書いてある通りの内容じゃ。
尚、主人公殿はトライスターである為
使用する職業を一つ選び、その職業の技のみを使用する事となる!
……主人公殿。
選ぶ職業を決め、皆に向けて発表するのじゃ」
「ええ分かりました……では
政令国家に属する全ての皆様にお伝えします。
俺は――」
………
……
…
「――“回復術師”を、選びます」
===第三十八話・終===




