第三十七話「楽しいゲーム大会……」
《――大会当日の朝。
ヴェルツニ階にある一行の部屋では――》
………
……
…
「……何でだろう、昨日の記憶が全く無いのと……頬が凄く痛い」
「お、おはようございますっ! 取り敢えず治しますねっ!
……治癒っ!」
「おはようメル、治癒ありがと……ってか、寝違えたのかな? 」
「たっ……多分そうだと思いますよっ!?
とっ、所で! ……今日の魔導の調子はどうですか? 」
「……うん、恐らくこの感じなら今日こそ使えると思う
けど、安全の為に例の地下を使うのは良いとしても
城まで歩きなのがめんどくさいって思ってる所かな? 」
「でっ、でも! これが終わったらまた転移だって使えますし
ギルドの依頼とかもじゃんじゃん受けに行けますからっ!
……後少しの辛抱ですっ! 」
《――面倒臭がる主人公をそう励ましたメル。
だが、その一方で――》
「……では、ディーン隊の皆さんにお声掛けしてきます」
「ああ、ありがとマリア……って。
……何だ? 今の態度」
《――マリアが妙に“余所余所しい”理由に
一切の心当たりが無い主人公は首を傾げ、その一方で
何かを“訊ねられてしまう”前にメルとマリーンは目を逸らした。
ともあれ……暫くの後
彼は、ディーン達を交えた朝食の場で――》
………
……
…
「ディーン……いよいよ今日だ」
《――少し緊張した様子でそう言った。
だが……そんな彼に対し、少しでも負担をかけまいと
ギュンターに対し、ラウド大統領への伝言を命じた
“主人公の疲労軽減の為
ヴェルツまで迎えを寄越して頂きたい”
直後……この伝言を伝える為
“超速移動”で走り去ったギュンターの姿に――
“有難う……俺も皆を助けられる様に頑張るから”
――そう言った主人公。
そんな彼に対しそれぞれの言葉で“感謝”を伝えようとした隊員達
だが、隊員らの感謝を“拒否”し――》
「あ、あのッ! ……感謝も……御礼も
俺がちゃんと成功してからでお願いします……」
《――不安げにそう言った主人公。
そんな彼に対し――》
「主人公、心配などしなくていい……私達は全てを任せて居る」
「……それが怖いんだよディーン
もし何か変な事が起きたらどう責任を取れば良いのか……」
《――そう不安を吐露した主人公に対し
タニアは――》
「主人公様……私達は元々“変”ですから
そんな心配なんてしないで下さいませ。
……そもそも、ダメで元々ですわ? 」
「タニアさん……本当なら俺が励ますべき立場なのに……
駄目ですね、俺……良しッ!!
俺、精一杯頑張ります……絶対に一人も欠けさせず
必ず成功させますッ! 」
《――直後、気合を入れ直した主人公。
一方……そんな彼を城へと転移させる為の人員として
ヴェルツへと現れたのは“ラウド大統領”で――》
………
……
…
「おや? 主人公殿……緊張して居る様じゃのぉ? 」
「ええ、正直かなり緊張しています……でも、必ず成功させます」
「ふむ……とは言え、あまり気負わずいつも通りで良いのじゃよ?
さて、準備が良ければ飛ぶぞぃ? 」
「ええ……お願いしますッ! 」
「……うむ!
では行くぞぃ! ――」
《――直後
一行を引き連れ“政令国家地下特別警戒監獄室”へと転移したラウド。
だが……その名前とは裏腹に、主人公を思う者達に依り
些か“豪華な設計”と成って居たこの空間を見たディーンは――》
「成程……此処が主人公の言っていた幽閉場所か
しかし、監獄と言うには途轍も無く絢爛豪華な造りだな」
「……皆は俺を牢に入れるのに反対していたんだけど
国民の不安を拭う為には仕方無くてさ……
……だから、皆が俺に気を使ってくれて
“少しでも過ごしやすい様に”ってこんなに豪華にしてくれたんだ。
さて……準備はいいかい? 」
「ああ、私でも同じ選択をしただろう……さて、お前達も良いな? 」
《――ディーンの問いを受け、地下牢に響き渡った
隊員達の“決意の声”……直後
その想いを受け取った主人公は――》
「皆さん……絶対に成功させます。
“限定管理者権限”ッ!! ――」
………
……
…
《《――命令を承認しました。
“対象”へ限定的に管理者権限を移譲します――》》
………
……
…
「……ディーン・ギュンター・ライラ・オウル・タニアに掛けられた
致死性、非致死性に関わらず全ての呪いを削除ッ!
……その他、彼らの身に害の有る物やトラップ等が有れば
例外無く全て削除だッ! 」
《《――指定された条件で全対象者を検索中
検索完了……全て削除可能です。
注意:削除を行うと全対象者の生命活動が停止します。
削除しますか? YES or NO――》》
「なっ?! 保留だ! ……急いで理由を説明しろ! 」
《《――指定項目一:致死性の呪いは
生命維持に必要な全ての臓器に編み込まれています
削除を行う場合100%の確率で死亡状態と成ります――》》
「……くそっ!
なら……五人の体から生命に関係のある全ての呪いとトラップを削除
だがその際、生命活動に問題が起きない様体組織を作り変えろ!! 」
《《――命令を承認
生命活動維持の為“迂回路”を行います――》》
………
……
…
<――そう聞こえた瞬間
ディーン達は崩れ落ちる様に倒れ
そして藻掻き苦しみ……悲鳴の様な声を上げた。
頼む……皆ッ!!
耐えてくれッ!! ――>
………
……
…
「……まだ掛かるのか!? 」
《《――“迂回路”処理を正常に完了
全ての呪具、及び生命活動を阻害する全てのトラップ
呪いを削除します……“ERROR”
固有魔導に依る妨害を確認――
――対象者ライラの固有魔導
“緋色のドラゴン”を削除しますか?
YES or NO――》》
「……ドラゴンは……消さないで……お願い……ぐぅっ!! 」
「くっ! ……間に合えっ!!!
ドラゴンは削除せず、体への負担だけを削除しろッ!!! ……急げッ!! 」
《《――命令を承認
対象“緋色のドラゴン”の“固有負荷効果”
“宿主に対する全ての吸収行為”を削除します――
――削除完了
削除に伴い“必須条件”が追加されました――
対象“緋色のドラゴン”への“定期的な食料補給”
――条件を一定期間満たさなかった場合
“緋色のドラゴン”は死亡しま……実行時間終了。
“限定管理者権限”を終了します――》》
………
……
…
「……ぐっ?!
体が重い……立って……いられ……な……い……ッ! 」
「そんな!? ……主人公さんっ!! 」
《――固有魔導終了後
急激に浅く成り始めた主人公の呼吸――
“魔導欠乏症”
――“魔導回復”の為、最低限必要な時間さえ治療の為使い果たした彼は
酷い欠乏状態に陥って居た。
直後……みるみる内に青褪めて行く彼を抱き抱え
ラウド大統領は叫んだ――》
………
……
…
「……この中で防衛術師のスキルを持つ者!
回復術師のスキルを持つ者! ……早く来るのじゃ! 」
《――彼の呼び掛けに
防衛術師の流れを組むオウルと
回復術師であるメルが名乗りを上げた。
……刻一刻と迫る限界時間
そんな中、ラウド大統領は二人に対し
“魔導力移譲”を行う様指示を出した――》
「……御主らも魔導欠乏症を起こさぬ様、気をつけるのじゃぞ?
オウル殿……魔導吸収は使えるな? 」
「はい! 可能です! 」
「……メル殿は魔導移譲を使えるか!? 」
「実践で使った事はまだ……でもっ!
念の為……覚えては居ますっ! 」
「……増援を待つ余裕など無い、メル殿に掛かっておる
無理を言う様じゃが……頑張るのじゃよ。
兎に角、時間が惜しい……この中で
魔族系の血が流れて居るのはマリーン殿だけじゃな?! 」
「え、ええッ! ……」
「よし……ではマリーン殿以外の魔導力をオウル殿が吸収し
その魔導力をメル殿が主人公殿に魔導移譲で送り届けるんじゃ!
“あの時”とは違い、主人公殿は触れられる距離に居る
故に魔導の流れが最も高い場所である
“心臓”に送るべきじゃ……必ず胸部に触れて移譲するんじゃ! 」
「は、はいっ!! ……」
《――直後
オウルの魔導吸収発動を皮切りに
ラウド大統領、ディーン隊一同の身体から吸収され始めた魔導力……
……この凄まじい魔導量に苦しみつつも
オウルは――》
………
……
…
「よし……正常に魔導力を……集め……られました……ッ!
メルさんッ!! ……準備は……良いですか……っ!! 」
「……はいっ!
魔導移譲! ……主人公さんへ!!!
なっ!? ……移動しない?!
魔導移譲! ……主人公さんへ!!!
……何でっ! 」
「……順番が逆じゃメル殿!!
“主人公殿へ魔導移譲”と唱えるのじゃ! 」
「は……はいっ!
“主人公さんへ魔導移譲っ! ” ――」
………
……
…
「――やったっ! ……出来ましたっ! 」
《――ゆっくり、だが確実に
五人の魔導力は主人公へと移譲され始め……その甲斐も有って
主人公の血色は少しずつ回復し始めて居た。
そして――》
………
……
…
「……ゲホッゲホッ!
うっ……た、助かったよ……有難う……皆……」
《――間一髪“魔導欠乏症”からの回復を遂げた主人公。
だが……本来“魔導欠乏症”は
その者が持つ魔導量の二パーセントに差し掛かった辺りから容態が急変し
一パーセントに差し掛かった際の死亡率は生存率を遥かに上回り……
……その状況に陥った者を救う事は困難と言われている。
今回、魔導移譲に依って奇跡的に救われた主人公
だが……それはあくまで
“奇跡の生還”でしか無かったのだ――》
………
……
…
「ううむ……年寄には堪える“魔導移譲”じゃったぞい
して主人公殿……呼吸は出来るか?
何処も苦しくは無いじゃろうな? 」
「ええ……暫くは大人しくしておかないと駄目な様ですが
これなら多分“暴走”はしないと思います。
唯……完全回復には最低でも一週間は掛かりそうです」
《――この見通しは甘く
彼の魔導量を考えれば最低でも倍の“二週間”が妥当な日数であった。
だが、そんな中……ラウド大統領は
主人公に対し、申し訳なさげに――》
………
……
…
「ふむ……とは言え、開会式には出て貰わねば成らん。
……その後は出来るだけ早く休みを取れる様取り計らう故
後少しだけ辛抱して貰いたい。
大変じゃろうが……そろそろゲーム大会の
開催予定時刻じゃ……主人公殿、歩けるかの? 」
「ええ、流石に歩く位は……ってのわっ?! 」
《――瞬間
足を滑らせ派手に転んだ主人公――》
「痛っ! くそっ……情けない」
「うわ~ダサいですね~全く!
仕方が無いので私がおんぶしてあげます! ……それっ! 」
《――そう言うと軽々と主人公を背負ったマリア
そんな彼女に対し――》
「ちょっ?! ……は、恥ずかしいよ!
俺、仮にも男なのに……女の子に背負って貰うなんて……」
「そんな事言ったって……今、体力が余ってるのは
私とマリーンさんだけですよ?
マリーンさんもハンターとしては強いですけど
腕力は普通の女の子ですし……だから、私しか背負えないんです。
それに……わ、私だって恥ずかしいんですから!
あまり気にしないで下さい! こっちまで意識しちゃいますから!! 」
「ゴ、ゴメンっ! ……」
《――直後
疲労困憊の中、足取り重く会場を目指す事と成った一行は
休む暇無く、ゲーム大会の開会式を迎える事と成った――》
………
……
…
「只今より、第一回……政令国家ゲーム大会を開催する
まずは“ゲーム”の発案者である、主人公殿に簡単な挨拶をして頂こう。
……ゆっくりで構わんからのぉ」
「ええ、大丈夫です……
……では皆様。
本日はゲーム大会にご参加頂きありがとうございます
勝っても、負けても……楽しんで頂ける事を望んでいます。
ルールを守り、楽しいゲームを! ……ではラウド大統領、開会宣言を」
「……うむ!
では、第一回政令国家ゲーム大会……開会じゃぁぁぁぁっ!! 」
《――開会宣言に大いに湧いた会場
直後、予め開催されていた
地区予選を勝ち進んだ出場選手達の勝負が開始し……
……その様子は
各地区へ配置された魔導師の通信網で随時伝えられた。
だが、本来ならば参加の資格がある戦績だった
メル、ディーン、ギュンターの三名は魔導移譲の疲労により
ゲームへの参加が不可能と判断し当日棄権となり
不戦勝の選手が数名勝ち上がると言う後味の悪い結果と
“三名の同時棄権”を怪しむ者達も少なからず存在した。
そして……この最悪のタイミングで
最悪の報告を持ち現れた一人の憲兵は
ラウド大統領に対し――》
………
……
…
「ラウド様……緊急事態です」
「……何が有ったのじゃ? 」
「それが……遥か遠方ではありますが
魔族の大群が我が国に接近中との情報を確認。
我が軍も既に魔導隊の展開、及び各種防衛設備の展開
各種族への連絡を完了致しました。
ですが、大会中の騒ぎとなる為
国民の避難に大きな混乱が生じる恐れが……」
「……猶予は? 」
「長く見積もっても……一時間程かと」
「余り猶予が無い様じゃな……よし分かった、下がって良い」
「……ハッ! 」
………
……
…
「……主人公殿、最悪の事態じゃ」
「聞こえてました……ですが
回復に一週間欲しいと言う時に一時間後ですか……キツイな」
《――そう言った主人公の横で
申し訳無さそうに
“すまん……我が隊も出られる様な状況では無い”
……そう言ったディーン。
そして――》
「……体調は万全ですけど“斧りん”が修理から帰って来て無くて
“素手”って訳にも行きませんから……ごめんなさい。
私がもっと確りしてたら……」
《――心苦しげにそう言ったマリア
一方、ラウド大統領は――》
「……何れにせよ、大会は中止するしか有るまい。
カイエル殿……魔導拡声を頼んでも良いかな? 」
「はい……大会の中止と避難指示で宜しいでしょうか? 」
「うむ、頼んだ……」
「では……伝達の魔導。
魔導拡声――」
………
……
…
「政令国家への魔族襲来を確認……これは演習では有りません
依って、本日のゲーム大会は中止し
後日折を見ての開催と成ります。
付近の憲兵か魔導兵の指示に従い、直ちに避難場所へと……」
《――突然の避難指示に
慌てて指定の避難場所へと移動し始めた民衆……だが
大会開催に依り民の密集率は高く
思う様に避難は進まず、城下は阿鼻叫喚の騒ぎと成っていた。
暫くの後……想定よりも早く政令国家付近へと到達した魔族の大群
だが、魔導隊と各種族達に依る必死の抵抗が功を奏し
民衆の避難も幸いな事に間に合いはした。
だが……その一方で“戦闘不能状態”の主人公達は
大統領城に籠もる事しか出来ない悔しさと
為す術の無い現状への恐怖が入り混じった感情に
支配されつつあって――》
………
……
…
「主人公、ラウド殿……私達の所為で申し訳無い」
「いや、俺がもっと確りしてたら……すまない……」
「主人公殿、ディーン殿……御主らは何も悪くなど無い。
これは仕方の無い事じゃ……それに
現状、防衛戦は上手く行っておる……其処まで悲観する事も無かろうて。
確かに我々が戦えんのは少々心苦しいが……」
《――苦しい状況の中に在りつつもそう二人を励ましたラウド大統領
だが、そんな中――》
………
……
…
「……けど、さっき来た近衛兵は
“総数約五〇〇〇の大群です! ”……って言ってたわよ?
……考えたくは無いけれど
流石に前回の様には行かないかも知れないんじゃ……」
《――現状を不安視していたマリーン。
そんな彼女に対し、メルは――》
「で、でも……防衛設備も各種族の連携も取れてますし
皆さん優秀ですから……きっと勝てますっ! 」
《――そう、彼女を含め
精一杯皆を励ましたのだった。
……この後も、待つ事しか出来ぬ恐怖の中
必死に耐え続けていた一行……そんな中
遥か遠くから地響きの様な声でマリアの名を叫び
凄まじい足音を響かせながら
執務室へと滑り込む様に現れた者が居た――》
………
……
…
「……はぁっ……はぁっ!!
……今……回は……間に……合ったぞぃ……ッ! 」
《――マリアを呼び続けていた声の主は
“大きな布包み”を“二つ”背負い
肩で息をしながら現れた“ガンダルフ”であった――》
「ガ……ガンダルフさん?!
……そんなに慌ててどうしたんですか!? 」
《――と心配するマリアに対し
ガンダルフは――》
「喜ぶのじゃマリア殿……完成したんじゃよ!
まずは……新しい機能を実装した盾じゃ!!! 」
《――直後
大きな布包みからガンダルフが取り出した
“盾” ……だが、見た目には何ら変化が無く
受け取ったマリアだけが気づいた“ある”小さな変化――》
………
……
…
「あの……此処の新しい“金具”は何ですか? 」
「良くぞ気がついた! ……それは背中に装着する為の物じゃよ! 」
「せ、背中ですか? それだと盾の意味が無くなる様な……」
《――マリアがそう訊ねた瞬間
ガンダルフはニヤリと笑い、残りの包みを開封した――》
………
……
…
「……マリア殿。
わしは“元よりも良くして返す”……と言ったじゃろう? 」
「ええ、言ってましたけど……」
「……これが“それ”じゃよ。
わしが新たに鍛え直したマリア殿専用の“斧”
その名も――
――“双之斧”じゃ!!! 」
「……お、斧りんが二つ?!
でも、一つ一つが元より細く成ってますけど……
……これだと逆に強度が落ちたのでは? 」
「ふっふっふっ……マリア殿もまだまだ見る目が無いのぉ?
一本ずつならばそうかもしれん。
じゃが、これをこうして……
こうするとっ!! ――」
《――直後
“ガギンッ! ”……と鈍い音を立て
一本の“大斧”へと変形した“双之斧”――》
………
……
…
「……この状態ならば各所に遊びがある分
元よりも大幅に強度が出るのじゃよ!
……普段はこれと盾で戦うと良い。
そして、素早く大量の敵を相手にせねば成らん時は
盾を背中に装備し、これをこうして……“二斧流”で戦うのじゃよ! 」
「凄い……実際に構えてもいいですか? 」
「うむ!! ……早く構えてみるのじゃ! 」
「はい! ……どうですか? 似合ってます?? 」
《――嬉々(きき)としてニ斧流の構えを取り
その姿のまま皆に訊ねたマリア。
だが、主人公は其の姿を――
“何か……亀みたい”
――と
形容し――》
「か、亀っ?! 確かに言われてみたら……もぉ~嫌過ぎますよぉ~! 」
「何を言う! ……亀の防御力を馬鹿にして居るのか!
大自然の脅威の中で生き残る為に完成された最高の鎧じゃぞ?!
寧ろ誇るべきじゃぞ?! 」
「う~……分かりましたよ~もうっ! 」
「全く! ……今回は間に合ったと胸を撫で下ろしたと言うに! 」
《――そう言ったガンダルフに対し
主人公は――》
「あれ? ……そう言えば
さっきも“今回は”って言ってた様な……前回があるって事だよね? 」
「う、うむ……今更隠すのも変じゃろうし仕方が無い。
“昔話”を少し話そう……」
《――そう言った瞬間
ガンダルフの顔からは一切の笑みが消え……
……一行に緊張感の伝わる中
ガンダルフは重い口を開いた――》
………
……
…
「……物理職でも“最強”の呼び声高き
かの有名なバーバリアンに弟子が居ったのは知っておるじゃろう?
“斧適正”などまるで無い
武器を作る事だけに特化した不憫な弟子じゃ。
“武器製造”と言う点においてのみ
皆に重宝されておったが……相応に馬鹿にされても居たんじゃよ。
兎も角……弟子はそんな毎日を送って居ったのじゃが
現在でも“災害”と呼ばれ恐れられておる
“あの敵”が現れてしまったのじゃよ。
……奴らは普通では無かった。
どの様な攻撃も意味を成さず、挑んだ猛者達は
尽く虹の橋を渡った……そんな様を
嫌と言う程見る事と成ったバーバリアンと弟子は
見守る事しか出来ない不甲斐無さに苦しんでおった。
じゃが……そんな地獄の日々が暫く続いたある日
弟子は初代トライスターの装備の“色”に
ある“既視感”を覚えたんじゃよ。
……そして、思い出した様に素材庫の棚を漁り
見つけたのじゃ……ある特殊な魔物の素材を材料として使う事で
この“災害”とも言われた敵を打ち倒す事の出来る
物理職にのみ適正のある……とある特殊な能力を持った材料を! 」
「……成程、それが今
私の装備してる“バーバリアン装備”の素材なんですね? 」
「うむ……じゃが、当時素材庫にあった材料は
矢じりを数個作った程度で底をついてしまう程少なく
とてもではないが装備一式作るにはまるで足りんかった。
……弟子は慌てに慌て、当時弟子が持っておったなけなしの金で
腕の良い冒険者達を雇えるだけ雇い
装備に最低限必要な素材を何とか手に入れる事が出来たんじゃよ。
それからと言う物は工房に籠もり
飲まず食わずで必死になって
“バーバリアン様”の装備を作って居った事を覚えておるよ……」
「……と言う事は
この装備を譲って下さった武具店の店主さんが言ってた
“友”ってその人の事ですか? 」
「うむ……そうして何とか完成した装備を持ち
バーバリアン様の元へ走った弟子じゃったが……
一足……遅かったのじゃよ」
《――直後
俯き、拳を握り締めたガンダルフ。
そして――》
………
……
…
「……弟子はその場で泣き崩れながらも
せめて一太刀と……完成したばかりの斧を敵に目掛けて投げつけた。
じゃが……その一撃すら、敵に届く事は無かったんじゃよ。
……そんな己の不甲斐無さを責めて責めて責め抜いた挙げ句
己の斧適正の無さを悔やみ続け
血の滲む様な特訓を重ね……その弟子は
やっとの思いで斧を扱える様になったんじゃが……それでも
“まだ足らぬ”……と、その後も
毎日の様に特訓に特訓を重ね……
……今ではドワーフ族の長と成ったのじゃよ」
「も、もしかしてそのお弟子さんって?! ……」
「……何、真実なんぞこんな物じゃよマリア殿。
バーバリアン様ほど強い者が現れてくれた暁には
パーッと売ってくれれば良い!
……と店主に託した装備が
まさかマリア殿の様な華奢な女性の手に渡るとは
夢にも思っても見なかったわい! 」
「……ガンダルフさん。
斧りんの事……本当にごめんなさい。
私にこんな凄い装備を身につける資格なんて……」
「何を言うんじゃねマリア殿……
……たかがL級の魔物を相手にした程度で壊れる未熟な装備ならば
あの時、間に合って居ったとて早々に壊れておったじゃろうて。
故に……二度と壊れぬ様、完璧に作り直したのじゃ
これからは“マリアーバリアン”の手元で
その斧を存分に暴れさせて貰いたい所じゃ! 」
「はい! ……“語呂が悪いっ! ”
でも……“光栄な語呂の悪さ”と共に
新しい“斧りん達”を大切にしますっ! 」
「うむッ!! 」
《――直後
固い握手を交わしたガンダルフとマリア。
一方、主人公は――》
………
……
…
「しかし……ガンダルフ
今の今までそんな素振りを微塵も見せなかったよね?
もしかして、意外と嘘つくの得意だったりする? 」
「……何を言うか!
初めに見た時は倒れそうじゃったわい!
わしはその斧に“呪われておるのか? ”と思った程じゃ! 」
《――そう話していた二人の横で
突如として勢い良く立ち上がったマリア。
彼女は――》
………
……
…
「……あのッ!!
私……そんな話を聞いた後に大人しくなんてして居られません。
……その戦いがどんなに凄惨な物だったのか
私には想像出来ません……だけど。
“マリアーバリアン”の名に掛けて
私はこの国を護りたいんです!! 」
<――この時のマリアは
俺が今まで見た事の無い雰囲気を醸し出していた。
……こんな時
僅かでも補佐出来ていたらどれだけ安心なのだろうか。
不甲斐無い自分に嫌気が差しながらも……この瞬間、俺は
マリーンに対し、とても無責任なお願いをした――>
………
……
…
「マリーン……頼んでもいいか? 」
「……分かってる、マリアさんの補佐でしょ? 」
「ああ、すまない……俺がもっと確り……」
「駄目……暗い顔しないで。
“愛してる”って言ってくれるなら今直ぐにでも補佐役してあげるから」
「ああ、愛し……え゛っ?!
い、いやっその……たっ、戦いの前にそう言う事言うと
“死亡フラグ”になるから言わない!
け、けど……無事に帰って来たら幾らでも言ってやる!
マリアもマリーンも“二人共”だぞッ!?
……絶対だからなッ?! 」
《――この時の彼は
“顔で卵が焼けるのでは無いか”と言う程に照れて居た。
だが――》
………
……
…
「……良いわ。
“愛してる”って言われるより愛を感じちゃったし
引き受けてあげる……でも。
帰って来てからは嫌と言う程言わせるから……覚悟しなさいよ? 」
「あ、あぁ……分かった! 」
「面白そうなので……マリーンさんだけじゃなくて
私にもメルちゃんにも言って下さいね?
と言う事で……行ってきます!
それから……魔族を蹂躙する様と
この装備がどんなに素晴らしい物かを、嫌と言う程
天国にいるバーバリアンさんに見せつけて
弟子の優秀さをも認めさせまくりますから……
……ガンダルフさんも期待して待ってて下さいね! 」
「うむッ!! ……」
《――直後
ラウド大統領の指示に依り
二人を連れ、東門前へと転移したカイエル。
だが、その一方で――》
………
……
…
「マリア……マリーン……絶対無事に生還してくれッ……! 」
《――二人の身を案じ、不安に襲われ……そして
自身への不甲斐無さに苦しんで居た主人公。
だが、そんな主人公に対し
ラウド大統領は――》
「主人公殿、気持ちは痛い程分かる……じゃが
たまには味方を信頼してやるべきじゃろうて。
存外、あの二人は“強い”んじゃぞぃ? ……」
………
……
…
《――直後
カイエルの転移魔導に依って東門前へと転移して居た二人は――》
「やはり敵が多い……お二人共、私も援護致しますので……」
「いえ……結構です!
寧ろ、カイエルさんは間違っても
“主人公さんが私達の所に来ない様” ……此処で見張ってて下さい!
あの人に来られると、凄ぉ~~く! ……
……“気が散ります”からッ! 」
「ええ、マリアさんの言う通りよ。
確かに主人公なら来ちゃいそうだもの……私からもお願いするわ」
「は……はぁ、承知致しました……」
「助かります! ……さてと。
早速この“装備”の強さを……試してみますか! 」
「私も……補佐だけじゃ無く本気で戦うわよ?
行くわよマリアさん! せーーのっ!!! ――」
「おりゃあああああああ!!! ――」
《――瞬間
息を合わせ、敵の密集場所目掛け一直線に走った二人
直後……初の“二斧流”にも関わらず
多数の魔族達を容易く蹂躙し始めたマリアと――
――その後方から強力な魔導を連発し
“援護射撃”と言うには余りにも桁違いな火力支援を行い
主人公の心配など“どこ吹く風”と言わんばかりの
絶大な戦果を上げ始めたマリーンの二人は――》
………
……
…
「……おっりゃああああああああ!!! 」
「グガッ!? ……ば、化け……も……の女……め……グッ……」
「……マリアさん! 行くわよッ!
漆黒之眼ッ!! ――」
《――直後
敵の視界を奪い
多数の魔族を行動不能に陥らせたマリーン――》
「……ナイスアシストですマリーンさん!!
おっりゃああああぁぁぁぁっ!!! 」
《――すかさず魔族の大群を蹂躙し始めたマリア
だが、そんな時――》
………
……
…
「うわぁ~っ♪ ……お姉ちゃん達強いね?
僕も僕も僕も!! ……“この子”に魔族を食べさせたいんだけど!?
ねぇねぇねぇッ! ……良いかなぁ??? 」
《――突如として現れた“謎の子供”は
彼女の背後を取りつつ、そう訊ねた――》
………
……
…
「ッ?! あ、あなたは? ……」
「……僕が誰かとか別に良いじゃ~ん!
それよりも!! さっきの質問に~
答えて……欲しいな! 欲しいな! 欲しいなッ! 」
「ま……魔族だけを食べさせるなら、良いですよ? 」
(……鈍い私でも判る、この子は
絶対に敵に回したら駄目なタイプだ……)
「本当?! ……やった~! やった~! やった~ッ!
僕、魔族にしか興味ないけど……でもでもでも!!
邪魔したら……お姉さん達も喰らっちゃうかもね??? 」
「ええ……あなたの邪魔はしませんし
魔族なら好きにして良いですから……でも。
私の隣にいる人と
政令国家の中にいる女性はその枠に入って無いですよね? 」
《――咄嗟に二人の事を思い出し
そう訊ねたマリアに対し――》
「ん~っ? ……本当だ! 確かに魔族の匂いだね~!
でも、大した食事に成らないと思うし
あっちに居る魔族の方が楽しそうだから……
……良いよ! 良いよ! 良いよッ?!
さ~てとっ! ……そうと決まればこの子に食べさせてくるね~!
バイバ~イっ! 話の分かるお姉さんっ! ――」
《――瞬間
目視不可能な速度で移動し
魔族の大群を“消滅”させ始めた“謎の子供”……一方
マリアは――》
………
……
…
「……カイエルさん、この件を至急戦闘エリアの皆さんへ
もし間違ってあの子を攻撃しちゃったら
恐らく魔族より対処に困ると思います……」
「ええ……では。
魔導通信――」
《――直後
防衛戦に参加する全ての者にこの情報を伝えたカイエル。
そして――》
………
……
…
「それにしても“あれ”……本当に大丈夫なの? 」
《――そう言いつつマリーンが指差した先では
“謎の子供”の使用する武器が……文字通り
魔族を“喰って”居て――》
………
……
…
「……あはっ! やばっ!
すっごぃ楽しいっ♪ ……えいっ! 」
………
……
…
「なっ、何だあれは!! ……全員あれを狙え! 」
「ふふっ! ……僕に僕に僕にッ!!
注目してくれたんだね魔族さん達ぃ???
すっごく丁度……良いね良いね良いねッ!!
……えいっ♪ 」
《――彼が一振りする度
武器は魔族を“捕食”し――》
………
……
…
「ひ、退けッ!! ……撤退だ!
何をしているッ!! 退けぇぇぇっ!!! ……」
「……あっ!
やばやばやばッ!! ……殺り過ぎちゃったかな??
これはママにバレちゃうかな???
僕……怒られない内に帰ろうかなぁ~??
ね~っ! ……話の分かるお姉さ~んッ!
……後は任せる~っ!
じゃ~ねぇ~っ!
バイバイバイッ!!! ――」
《――直後
魔族軍の撤退と同時に何処かへと消え去った謎の子供
彼の立ち去った後……周囲には魔族の“欠片”が散乱して居た――》
………
……
…
「し、正直……生きた心地がしなかったです」
《――二斧を構えたままそう言ったマリア。
そんな彼女に同意しつつ、カイエルは各地の防衛部隊に連絡を取った――》
………
……
…
「……うん! こっちの魔族も撤退した~っ!
それにしても“あの子”やばいね~っ……」
《――そう答えたエリシア
直後、それに同意する様に――》
「……此方南門クレイン、此方でも一瞬だが子供が見えた
一瞬とは言え目があってしまったが……アレは正気では無いぞ」
《――そう答えたクレイン。
この日、突如として現れた……“謎の子供”
魔族軍は甚大な被害を被り撤退し……幸か不幸か
魔王の怒りの矛先は、暫くの間この“子供”へと向けられる事となった――》
===第三十七話・終===




