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異世界転生って楽勝だと思ってました。  作者: 藤次郎
第六章

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第二九九話「楽園を築く事は出来なくても……」

<――この世界は


魔導力や聖なる力……(ある)いは

“闇の力”とでも呼ぶべき禍禍(まがまが)しき(もの)(あふ)れて居る。


そして……恐らくは、俺の楽観的で自分本位な“設計”の所為だろう

この世界の“見えない力達”は、物理的な(もの)と比べ遥かに優遇されて居る。


この世界をゲームとして例えたなら、間違い無く

“ゲームバランスが悪い”と断言を切られてしまうだろう程に……だが。


……見るからに“物理的な力”に()って動き

魔導由来では無い物理的な炎を吐き出す巨龍と言う存在達は

そんな“ゲームバランスの悪い”この世界に()いて

その壁を容易(たやす)く越える程の力を有して居る。


魔導でも闇でも光でも無い……“第四の力”と呼ぶべき

彼らにのみ存在する独自の力を根源(こんげん)として――>


………


……



「では、断ると? ……彼女(エダ)の案には乗らないと言うのかい? 」


「……向き合わず逃げる様な選択かも知れませんが

それでも俺には、皆さんを危険に(さら)す様な選択は出来ません」


「成程……嘘の無い目をして居る。


正直に答えてくれてありがとう主人公君……さて。


ならば一つ、そちらの装備屋に聞こう……


……白金鏡(しろがねきょう)を装備に作り変えるのに必要な時間は? 」


<――この瞬間


何故か、明確に断った筈の方法に乗るつもりかの(ごと)

そう言って条件を(たず)ねたドラガさん。


そして――>


「……その名前からして

“鏡”の形状であると言う仮定でお答えします。


順調に進めば三〇分……仮に手間取る様な事があれば五〇分。


いえ……念には念を入れ、最悪一時間は頂ければと」


「……分かった。


だが、(いず)れにせよ集落の皆に確認を取らなければ成らない。


僕一人で決められる程、集落の規律は甘くないんだ……さて。


(あお)黄昏(たそがれ)……“羽休め”は半端に終わったが、もう少し飛んでくれるかい? 」


「ギュオォン……ギュルル」


「……君からの批判は(つら)いな。


だが、正しい意見だ……飛び方は君に任せる、存分に飛ぶと良い。


さて……そう言う事だ。


僕達は一度集落に戻り、今回の話を皆に提案してくるとするよ

だが、楽観的な結果を期待するのはやめてくれ。


じゃあ、また……」


「ま……待って下さいッ!

俺は今エダさんの案を断るって言ったつもりでッ! ……」


「ああ、分かってる……君は確かに断ってくれたさ。


“向き合わず逃げる”なんて風に自分を卑下(ひげ)してまで(しっか)りとね……だが。


だからこそ、僕は賭けてみるべきだと考えたのさ……」


「何でそんな……そんな甘い選択、ドラガさんなら

集落の安全を(まも)る為に成らないと分かってる筈ですッ! 」


「おやおや……最早(もはや)どっちが“戦士長”か判らない程の言い草だね?

だが、失礼なその言い草は兎も角……断じて僕は甘さで判断をしていない。


僕は言った……“集落の安寧(あんねい)は不安定だ”と。


だからこそ僕は古代龍と言う強大な力を欲した……だが、現実として

其処(そこ)の“干物屋”だけでは足りない事を知った。


そして……少なくとも、現時点で僕より何倍も強い筈の“干物屋”が

君の事を神と同然かの様に、(みずか)らの正当な後継者かの様に(うた)ったんだ。


裏を返せばそれは、僕達の集落に訪れた一世一代の好機(チャンス)だ。


主人公君……君は、僕達集落との約束を堅く(まも)り続け

喉から手が出る程欲して居る筈の物を前に安請け合いもせず

嘘偽り無く、(みずか)らに向き合った。


そんな馬鹿正直な君ならば……いや、違うな。


君と言う男が古代龍と成らなければ……僕達は

(あが)めるに値しない邪神を(あが)める

愚か者達の集団に成り下がって居たのかも知れない。


……そう、考えただけさ」


「そ、そんな……俺の事を買い被り過ぎですッ!! 」


「そうかも知れないね……なら、言い掛けて止めた方で伝えよう。


主人公君……君と言う“純粋な馬鹿”は、決して僕達を裏切らない。


君で無ければ、僕達を(まも)り続ける様な損な道は生きないだろう」


「な゛ッ……」


<――“阿呆(あほう)”だの“馬鹿(バカ)”だの


俺と言う人間はひょっとして、物凄く軽んじられて居るのでは無いだろうか?


だとすれば……ほんの少しだが傷つく気がしないでも無い。


まぁ、多分……ある程度を超えて強い人は

語気も強いってだけなのかも知れないが――>


「……どんなに言葉を飾ろうとも君と言う人間の芯の部分は隠せない。


それは、良くも悪くも光も闇も……全てを冗談の様に(つまび)らかにしてくれる。


難しく言ったが……僕を含め、竜族には

()である古代龍の眼力(もの)に似た、そんな力があるってだけさ……さて。


長話は此処(ここ)までだ……(あお)黄昏(たそがれ)


飛翔――」


<――瞬間


周りへの影響など微塵(みじん)も考えて居ないかの様な凄まじい風圧と共に

空高く飛び去った二人は……見送る暇さえも無く

地平線の彼方へと消えて行ったのだった――>


………


……



「ま、待って下さいッ! まだ話は! ……くそッ!!


……エダさん! 今からでも間に合う筈ですッ!

彼らの大切な物を奪い取る様な選択はせず! ……」


<――背負い切れる訳も無い重圧に耐えかね

この瞬間、そう言い掛けた俺の発言を(さえぎ)ったエダさんは――>


「失礼な孫だよ全く……あたしは強制なんてしてないし

ましてや“奪い取ろう”となんてしてないよ?


……アンタが眼の前の状況の移り変わりに不安を感じたとするならば

それは、アンタの人柄に()るモンさ……それこそ。


“良くも悪くも光も闇も”……ね」


「そ、そんな詭弁(きべん)で俺の事を煙に巻こうとしたってッ!! ……」


「……黙りな。


少なくともアンタは“政令国家(このくに)”を縄張りにしようと考えてた筈だ。


さっきも言ったが、三箇所までなら自分の物に出来るんだ

その内の一箇所が向こうから()って来る事に不平不満を()べるのは

いち古代龍の立場からすれば如何(いかが)な物かと思うがねぇ?


そもそも……“犠牲”の道って言うのは、そう言う不満を含め

清濁(せいだく)(あわ)()む事でも()るんだよ? 」


<――ともすれば

(ただ)、言い包めようとして居る様にも思える彼女(エダ)の発言。


だが……去り際に(ドラガ)の発した“期待するな”と言う言葉通り

古くから伝わる規律や考え方は、そう簡単に変化する物とも思えない。


きっと、集落では――


“話に成らない”


――と、ドラガさんの持ち帰った案を皆で一蹴(いっしゅう)して居る筈だ。


この瞬間、半分は現実逃避の為

そんな甘い見通しで居た俺……だが、暫くの後

そんな見通しは、想像とは別の形で


(くつがえ)される”事と成った――>


………


……



「……お疲れ様、(あお)黄昏(たそがれ)


お待たせしたね、主人公君……」


<――少しばかり疲れた表情


そんな彼の姿を見た瞬間、俺は――


“持ち帰った案の所為で集落の皆からこっぴどく(ののし)られでもしたのだろう”


――そう、考えて居た。


だが、現実は余りにも異質で――>


「さてと……装備屋、これで足りるかい? 」


<――再訪早々

(ドラガ)は、大きめの革袋に入った何かを装備屋の店主へと手渡した。


そしてこの直後、中を確認した店主(かれ)の――


“充分で御座います”


――と言う答えを受け、安堵では無く

何故か一層疲れた様な表情を浮かべた(ドラガ)の異質な様子に――>


「あ、あの……その袋の中身って……」


「ああ……白金(プラチナ)さ」


「なッ、なら……もしかしてそれが

さっき(おっしゃ)ってた“白金鏡(しろがねきょう)”と言う……」


「“残念”……と言うべきかは兎も角、違う。


僕が今、彼に手渡した白金(もの)は……“追放者”からの貰い物さ」


「なッ?! それってまさか……」


「ああ……僕が到着した時、丁度集落近くの“龍脈”から現れたのさ。


(いわ)く――


“その話は許容出来ない、くれてやるから手を引け”


――だ、そうだ」


<――(ひど)く不満げな様子でそう言った(ドラガ)の眼は

(わず)かに(おび)えて居る様に見えた。


それは、集落の被害を(たず)ねる事は(おろ)

彼女が何処(どこ)までを“許容出来ない”と言ったのかさえ()けぬ程

余りにも強く――>


「そ、その……集落に関わるなと言う意味でしょうか? 」


「ああ、恐らくはね……(いず)れにせよ奴は

革袋(それ)を渡すと直ぐに龍脈へと消えて行った。


被害は無かったが、お陰で巨龍達は大騒ぎさ……


……この件は(しばら)く尾を引く事になりそうだよ」


「そ、その……すみませんでした……」


「いや、君が謝る事じゃ無いんだけどね……」


<――謎の方法で俺達の話を()いて居た事はまだ良しとして

そもそも……“末裔(かのじょ)”は何故、集落の縄張り指定を嫌ったのか。


集落を去り“追放者”と言う立場と成った彼女が、何故

見様に()っては集落を(まも)る為かの様な行動を

取ったのだろうか? ――>


「……あの()に故郷を(たっと)ぶ気持ちが()ったとはねぇ?

だが、不幸中の幸いはあの()主人公(アンタ)が力を得た事を問題視して無い事さ。


じゃ無きゃあ“敵に塩を送る”様な真似

あの()は絶対にしない筈だからねぇ? ……」


<――この瞬間

何処(どこ)か皮肉った様にそう言ったエダさんは――>


「……ともあれ、だ。


“理由”はどうあれ材料は揃ったんだ……装備屋さん

早速ウチの孫にチョチョイと作って()ってくれるかい? 」


<――状況の異質さなど気にも留めない様子でそう注文をつけ

その上、更に――>


「……それと、もし材料が余る様な事があれば

(あれ)”で胸当ても作ってくれると助かるんだがねぇ?


とは言え……(あれ)に穴を開けるのは恐らく不可能だ。


釈迦(しゃか)説法(せっぽう)かも知れないが、もし作ってくれるのなら

“ビーズ”の様に穴を開けるんじゃ無く“宝石”みたいに()めるべきだよ」


<――そう、更に注文をつけたのだった。


一方、そんな注文に対し“善処(ぜんしょ)(いた)します”と返した店主さんは

白金(プラチナ)の入った革袋を(わず)かに上下させ

大まかな重さを(はか)ったかと思うと――>


「……“胸当て”も可能な様です。


とは言え、いち装備屋としては(いささ)か残念ではありますが

我が国の国防に深く関わる事が出来たと考え

“神話級装備”に関しては、元より無かった物と諦める事と致します。


さて……主人公様、装備の“新調”と成ります上

当然、専用設計で御座いますので

“前回”と同じく、ご協力を頂く形となります」


<――そう言って


前回と同じく、俺に使用する材料の量を決めさせ

溶鉱(ようこう)(なべ)に投入する様求めた……だが、何だろう。


“前回と同じ”……そう言われ(うなが)されたこの瞬間

俺の中に生まれた“拒絶感”は――>


「……前回がこの位だった筈なので、全く同じか

少し多い位にして置いた方が良いんですかね? 」


「恐れ入りますが、それもご自分でお決め下さい……」


「……で、ですよね。


なら……()えて同じ個数にして置きます。


馬鹿みたいって思われそうですけど……装備(アイツ)の事、忘れない為にも」


<――“未練がましい”と言われればそれまでだし

“新しい装備に対して失礼だ”と言われればそれも正しいとは思う。


けど……余りにも簡単に進み過ぎた旧装備との別れと新装備の制作に

俺は其処まで簡単に踏ん切りをつける事は出来なくて――>


………


……



「……では、前回と同じく


鍋の上に手をかざし――


“我に合う、形と成りて……我の為と成れ”


――そう、唱えてください」


<――暫くの後


店主さんにそう(うなが)された瞬間

あの日の“激痛”を思い出し、思わずゾッとした。


あの日、(てのひら)から“入り込んだ”材料が(もたら)した痛みは

意識が軽く吹っ飛ぶ程の物だった……なら、今回も同じく


“のた打ち回る”事になるのだろうか? ――>


「……で、では。


“我に合う、形と成りて……我の為と成れ”――」


………


……



「……ふむ、完成ですな」


「へッ? ……う、嘘ですよね? 」


「いいえ? ……見事に装備らしい形をしておりますよ? 」


「い、いや……それは見れば分かりますけど……」


<――痛みは(おろ)か、(てのひら)から入り込んで来る様な事も無く。


体の周りを数周回った後、店主さんの言う通り

装備らしい形へと……“両刃剣”の様な形状へと変化した材料は

その形状とは裏腹に一切、刃は付いておらず……物理職の持つ物とは違い

物理的性が終わっている筈の俺でも簡単に持ち上げられて――>


「こ、これって……魔導杖みたいに構えて使う物なんですかね? 」


「いえ、恐らくは“所持して居る事で効果のある”(たぐい)の物かと」


<――“念願叶って”と言うべきなのだろうか?


この瞬間、新装備を手に入れる事と成った俺は

同時に……大きな喪失感を感じて居た。


……両刃剣(これ)が完成した今この瞬間


本当の意味で


装備(アイツ)との繋がりが無く成ってしまった”


そう、考えてしまったから――>


「そう……ですか、無事完成して良かったです」


<――場の空気を悪くしない為

この瞬間、そう当たり障りの無い言葉を返した俺。


一方、新装備のテストの為

研究所内の“模擬戦闘部屋”へ向かう様(うなが)した店主さんに()って

別れを惜しむ暇さえも無く、状況は進み始める事と成った。


だが――>


………


……



「……では、主人公様。


あちらの“模擬敵(ターゲット)”に向け、出来るだけ低級の技を」


<――到着後


店主さんからそう(うなが)され、言われるがままに“的あて”の要領で

土系魔導の初歩“飛礫(つぶて)”を発動させた俺。


……直後、発射された小石は“模擬敵(ターゲット)”の中心に命中し

小気味良い音と共に、この場に皆が喜ぶ結果を(もたら)した。


だが……本来、一番喜んで居るべき俺は

そんな眼前の結果とは違う、ある“違和感”を感じて居て――>


「……まだ慣れて無いだけかも知れませんけど、発動後

(わず)かではありますが“立ち(くら)み”に似た感じがあります。


まるで魔導がはね返って来てる様な感覚と言うか……」


「ふむ……素材が本来の純金(もの)とは違いますので

その点で多少、違和感が()るのかとは存じますが……とは言え

魔導に反発があると言うのはあまり穏やかでは無いですな。


……その他に違和感と呼ぶべき物は御座いますか? 」


「ええ、でもどう説明すれば良いのか……金属の様な

硬い感じがあると言うか、魔導の通りが悪い感じが少し……」


「魔導の通りが悪い? 妙ですな、そんな筈は……


……恐れ入りますが、一度装備をお貸し頂いても? 」


<――直後


新装備を受け取った店主さんは、眼鏡を掛け

隅々まで装備を確認し、俺と見比べる様にしつつ――>


「……主人公様の体質は現在進行系で変化中ですので

恐らくではありますが、此方の装備が

主人公様の体質の初歩を覚える段階で(つまず)いているのかと。


その為でしょう……まるで“借り物装備”で魔導を放って居るかの様な

“反発力”をお感じになられたのは」


<――そう、結論付けた。


だが……それはつまり、現時点では“新装備(これ)”が

俺の体に合っていないと言う事でもあって――>


「しかし……転移魔導を使用しなくて良かったですな。


あまり大きな技を使用していては

反発も凄まじい物になって居た事でしょう。


ともあれ、ご無事で何よりです……ですが、少なくとも

順応するまでは激しい技の使用は控えるべきでしょうな」


<――店主さんから

そう心配と注意を受けたこの瞬間……俺は

そもそも感じて居た“最大の違和感”を()えて口にして居なかった。


装備(アイツ)との様に“会話”が出来ない事、勘違いかも知れないが

この新装備が俺と“一体に成る”つもりさえ無さそうに感じる事も。


……所有者の力を感じ取って居るにも関わらず

それを受け入れようとさえして居ない様に感じる程の

強い(かたく)なさの様な違和感(もの)

俺は、()えて口にしなかった……いや。


出来なかったのだ――>


「そう、ですか……けど、あまり時間……掛かって欲しくないな……」


<――“(さみ)しい”


そう、断言を切れるだけの強い感情が(ゆえ)……この瞬間

(わず)かに発したそんな愚痴から何かを感じた様に――>


「……ねぇ主人公、それってもしかして

貴方自身が今も“彼”の事を求めてるからなんじゃないの? 」


<――真っ直ぐに俺の眼を見つめ、そう問うたマリーン。


そして――>


「そ……そりゃあ、直ぐに忘れられる訳無いよ。


装備(アイツ)は、俺の下手な魔導にも耐えて

俺の為に命を……ッ……


……ごめん。


何か馬鹿みたいだよな、俺……でもさ。


装備(アイツ)だって俺の大切な仲間だったんだ。


どんなに馬鹿みたいだとしても

(つら)くない”なんて……口が裂けても言えないんだ」


「……装備が馴染まない理由、分かったじゃない。


って言うか、自分でも分かってる筈よ? ……そう言う事だから。


モナークさん……一旦、さっきの装備

主人公に返してあげてくれないかしら? 」


「フッ……我は彼奴(きゃつ)を我が物にすると()った筈」


「ちょっと!! 冗談言ってる暇は無い筈よ!?

兎に角……説明は後でするから、今は返してあげて」


「……良かろう。


では――」


<――直後


再び異空間への亀裂を開いたモナークは……其処(そこ)から

装備の入った器を取り出し、少しばかり面倒臭げに俺へと手渡した。


そして――>


「……な、なぁマリーン。


俺に装備(コイツ)を渡して一体何の意味が……」


「意味? ……意味なら(おお)いにあるわよ?


ねぇ、主人公……貴方が仲間を大切にする人なのは分かってるし

その“装備(ひと)”が貴方にとって掛け替えの無い仲間だった事も良く知ってる。


だけど……貴方の中でずっとその装備(ひと)が消えなくて

新しい装備さんを信じる事さえ出来ないのなら

せめて、形だけでもお別れをしておくべきなの。


だから私は……貴方に渡す様、お願いしたの」


<――俺の我儘(わがまま)を拒絶するのでは無く

最大限俺の我儘(わがまま)に寄り添う様に動いてくれたマリーン。


だが……そんな優しい彼女の要求を

俺は、()だ受け入れられず居て――>


「……新しい装備に慣れたくないなんて我儘(わがまま)を言うつもりは無い。


だけど、装備(コイツ)にどれだけ別れを告げても

俺の心にはしこりが残る……何の意味も無い塊でも良いから

装備(コイツ)を俺の何処(どこ)かに“装備”しておきたいんだ。


……俺には、その位しか装備(コイツ)に義理を返せないから。


エゴだとは分かってる……だけど……」


<――器の中


溶けたまま……俺が動く度、(かす)かに揺らぐ装備の肉体は

喜怒哀楽のどれをも感じさせる事無く……


……(ただ)、友の亡骸(なきがら)から離れられない俺の

残酷な(ひと)()がりに()って小刻みに揺らいで居た。


せめて……感情の欠片さえ見せない新装備に

装備(コイツ)の意識が移せたなら、肉体を新たに与える様に

装備(コイツ)をどうにかして、(よみがえ)らせる事が出来たなら……そんな

新装備に対する敬意の欠片も無い激しい現実逃避の中

直後、耐えきれず……(なお)も揺らぐ器の中の装備に向け


“帰って来てくれ”……そう伝えた俺は


言うまでも無く、返って来る筈の無い“(こた)え”に

(わず)かな期待をしてしまって居た――>


………


……



「……別れさえ満足に出来ぬか愚か者。


やはり……貴様の様な阿呆(あほう)装備(そやつ)は釣り合わぬ――」


<――瞬間


荒々しく(たぎ)る様な殺気と共に

俺から器を取り上げたモナークは……直後。


器毎、装備を握り潰した――>


「な゛ッ?! ……やめろぉぉぉッ!!! 」


<――モナークの手から滴り落ちる装備


直後……皮肉にも新装備の力を借り“短距離転移”を発動させた俺は

モナークの手の下へと潜り込み、装備(かれ)の肉体を受け止めようとした……だが。


後先を考えず潜り込んだ俺へと降り注いだのは

装備の肉体だけでは無く……


……砕けた器の鋭く尖った先端に危機を感じた俺は

咄嗟(とっさ)にその破片を新装備で防いだ――>


………


……



「……何すんだよ。


モナーク……お前、何考えてんだよッ!!! 」


<――装備の肉体を受け止める事さえ出来ず


その肉体の(ほとん)どを

冷たい研究所の床へと無惨に散らしてしまった不甲斐なさが(ゆえ)……


……新装備へと()れた装備(かれ)の肉体

溶けた溶岩の様にドロドロとした姿のまま

新装備へと固着させてしまった事への申し訳無さが(ゆえ)


俺は……モナークに対し、そう強く八つ当たった。


そして――>


「な……なんと言う事をっ!!


主人公様、つい今しがた申し上げた筈でしょう?!

“激しい魔導の使用はお控えを”……と!!


兎に角! 白金装備に関しましては私の方で磨いておきますので

貴方は今一度、ご自分のお立場と言う物を! ……」


<――そんな子供じみた俺の事を

そう強く叱った店主さんは鼻息荒く手を差し出し

俺に“新装備を渡す様”強く求めた。


だが――>


………


……



「……全く。


満身創痍(まんしんそうい)()を……(なお)も働かせようとは……


……何とも


“装備使い”の荒い……(あるじ)の下へと生まれたものよ……


()で無ければ、耐えられぬ……(ほど)よ」


<――この瞬間


確かに聞こえたその声に()って


状況は再び、変化した――>


===第二九九話・終===

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