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異世界転生って楽勝だと思ってました。  作者: 藤次郎
第六章

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第二九五話「悦楽が為に生きた時代……中編」

<――モナークから預かった古代龍の(ツノ)


俺自身“御守り”のつもりで(ふところ)にしまって居た所為もあり

返すタイミングを逃し、存在さえ忘れて居たこの(ツノ)には

御守りと言うには、あまりにも重過ぎる過去が()った様で――>


………


……



「……其処(そこ)まで彼女(アイヴィー)を特別視するのであれば

(なお)の事、何故(なぜ)(かたき)()とうと()さらなかったのです? 」


戦技(せんぎ)知略(ちりゃく)……それらを支える“天賦(てんぷ)(さい)

彼奴(アイヴィー)の右に出る者などそうは居らぬ事……好敵手(ライバル)として

互いに切磋琢磨(せっさたくま)し続けた貴様なら良く知って居る筈……


……“影之者(カゲノモノ)”として、我の不足を支え不満の一つも漏らさず居たあの者は

あの日、仇敵(きゅうてき)を逃した我の(さま)を全て影から()て居た。


だが……手出しはせず、不満の一つも漏らしはしなかった。


あの日、アイヴィーが我へと見せた唯一(ゆいいつ)の抵抗は

配下への戦果報告を拒絶した事のみ……」


「そんな物……答えになっておりませんっ!!

何故、(かたき)()たなかったのです?! 」


「……彼奴(きゃつ)が古代龍として生きる事を()てたからに他ならぬ。


我は彼奴(きゃつ)()(すんで)の所に()った……だが。


彼奴(きゃつ)は……慢心(まんしん)が為に()がれ()つ事と成った(うろこ)の先

急所(しんぞう)”では無く……“(はら)”を(かば)ったのだ」


「……どう言う事です?


(いく)ら古代龍とは言え、心臓より他に致命傷と成る様な場所など……」


「“身籠(みごも)って居た”と()えば、貴様も理解出来よう……」


「なっ……」


「……攻撃の手を止めた我に対し

彼奴(きゃつ)は――


“我が身の命は差し出そう……だが、娘は助けて貰いたい”


――(こうべ)()れ、そう厚顔無恥に()かした。


何とも(はらわた)の煮えくり返る様な話よ……


……我に刃を向けし古代龍が、恥も外聞も無く

(みずか)らの死にさえ向き合わず、斯様(かよう)に腑抜けた願いを語るなど……」


「状況は理解致しました……ですが、ならば何故

古代龍までもをお逃がしに成られたのです?

腹の子を救うだけならば……」


「……子も古代龍とは()

(はら)から引き()り出し育つ程強靭では無かろう……」


「で、では“後々()たれに来い”とでも誓わせれば! ……」


「……我に命乞いをした後

彼奴(きゃつ)は古代龍の象徴を(みずか)()し折った。


……それは龍として生きる事を()てた証よ。


その上――


“それは(あかし)じゃ……(いくさ)から(のが)れる恥を(しの)

我が(いと)()の為、世を(しの)び母として生きると誓おう”


――そう()かした。


(たと)(くさ)()つとも彼奴(きゃつ)は“蜥蜴(とかげ)共”の祖先

二言など、口が裂けても()きはせぬわ……」


<――(わか)らない。


これが本当にあの“干物屋の優しいお婆さん”の話なのだろうか?


確かに辻褄(つじつま)は合うのかも知れない……だが、そうなれば

少なくとも、彼女(エダ)の子供と言われ

俺の頭に思い浮かぶ存在は、一人しか居ない――>


………


……



「……な、なぁモナーク。


念の為に聞くけど、その古代龍が折った(ツノ)って“真ん中”だったか?

それからお前が気にしてた胸部之鱗(あれ)……


……やっぱり“見覚え”が()るのか? 」


「フッ……貴様が何を恐れて居るのかは知らぬが

我が何を語らずとも貴様の(にら)む通りであろう……」


「そ、そんな……なら、もしかして

俺にこの“傷痕(きずあと)”を付けた末裔って……」


「フッ……古代龍などそう多くは居らぬ筈……」


「なッ?! ……で、でもエダさんはそんな素振(そぶ)り少しも!!

いや……違う。


きっと彼女は今も母なんだ……そうだ……俺は、何も見えてなかった……」


<――恐らくは


“娘が関わった相手”だと俺の傷痕を見て気付いては居たのだろう。


……あの日

何の義理も無い筈の俺を迎え入れてくれた彼女(エダ)

どの様な思惑が()ったのかは判らない。


だが、それでも……(ただ)

“娘の敵と成る可能性の高い相手を遠ざける為”にしては

あまりにも厚遇(こうぐう)し過ぎな様に思えてならない彼女の行動は

良くも悪くも、釈然としなくて――>


「……(ただ)、娘を(まも)りたいだけなら俺の事を厚遇(こうぐう)する必要は無い筈。


でも……もし末裔(アイツ)彼女(エダ)の娘だと言うのなら

仮にも“母親の(つの)”を持って居た俺に対し

傷痕(この)程度(ていど)”で済ませてくれた事に説明がつかない。


……もし親子である事を互いに知って居るのならば

そもそも何故末裔(アイツ)は、母の住む(ギヒー)からも

自身の()む洞窟からもかなり遠い“竜系種族の集落”なんかに()んで居た?


一体、何が()って……何が()って末裔(アイツ)

ドラガさん達から恨まれる様な行動を取った? ……何故。


何故、エダさんは会ったばかりの俺に(うろこ)(たく)した? ……」


「フッ……主人公。


エダと()うその女……何故、貴様に(うろこ)を渡した? 」


「は? ……だ、だからそれさえ判らないって今……」


「不愉快な……(ただ)無言で渡した訳ではあるまい……」


「そ、それは

ドラガさんにも言ったけど――


“見込みのあるアンタにはこれを”


“要らないと思っても一年は持っとけ”


――そう言ってた筈だ。


けど……あの日の俺は装備を失って落ち込んでたし

実際、そう言われた時は(ただ)の励ましだと思ってて……」


「……古代龍と(おぼ)しき者から“見込みが()る”と(いわ)

(ただ)の励ましとは……何とも大層な“励まし”だな? 阿呆(あほう)が」


「な゛ッ?! ……だから阿呆(あほう)って言うなぁッ!! 」


「黙れ、阿呆(あほう)が……


……その者は貴様の様な阿呆(あほう)に何かを見出し

(みずか)らの身分さえ(さら)しかねぬ(もの)(たく)した……


……それは

我と交わした誓いをも踏付(ふみつ)けるが(ごと)くの愚行よ……」


<――瞬間


モナークから放たれた静かだが強烈な殺気……直後


此奴(モナーク)は――>


阿呆(あほう)、その(もの)()まう国は……


……ギヒーと()ったな? 」


<――まるで


今から“()りに行く”とでも言わんばかりの気迫を(もっ)てそう言った――>


「い、言ったけど……でも 、ギヒーとは国交が()る訳でも無いし

仮にもお前は魔族で、しかも元々“魔王”として名を()せて居た訳だろ?!

今だって二対魔王って仰々しい肩書がある訳でッ!!

そもそもッ! ドラガさんとの約束で彼女と連絡を取るのはッ! ……」


<――だが。


そう言って(なだ)めようとした俺の腕を強く掴んだモナークは――>


「……我は問うた筈。


“真実を知る覚悟があるか”……と。


……彼奴(きゃつ)がこの数百年

どの様な(とき)を過ごしたかなど全ては些事(さじ)よ……だが

彼奴(きゃつ)が貴様に(たく)した古代龍の証と貴様の傷痕(それ)

何一切些事(さじ)では無いと知れ……」


<――俺に


(わず)かであれ邪魔立ては許さない”


そう言ったに等しい態度を見せた――>


「……確かに、彼女の狙いが何だったのかは俺も知りたい。


だけど、俺が受けた彼女の優しさは

絶対に嘘偽りの類では無かったんだ……だからッ! 」


「黙れと()った筈……貴様が何を望もうと我の道は変わらぬ。


全軍を率い攻め込む事さえやむ無し()れば、そうするまでの事よ……」


「……分かった。


けど……どうしても行くなら俺もついて行く。


今の俺には何も出来ない……だけど、それでもせめて

俺は居るべきなんだ……」


「フッ……()れば、道案内は貴様に任せて構わぬな? 」


「……ああ。


分かった……けど、ドラガさんには何て言えば……」


「捨て置け……彼奴(きゃつ)程度、些事(さじ)であろう」


「な゛ッ……お、お前に取ってはそうかも知れないけど

俺に取っては友達みたいな良好な関係であってッ! ……」


「脅し、強制する者が“友”とは……貴様の阿呆(あほう)は不治の病よ……」


「う゛ッ……お、お前なぁッ!! ……」


「騒がしい阿呆(あほう)が……ロベルタよ、蜥蜴(きゃつ)の監視は貴様に一任する」


「はッ! ……では。


魔領:音無之領(オトナシノリョウ)


(カイ)――」


………


……



「……ちょっとっ!! 何処(どこ)に行ってたのよ主人公ッ!

急に三人同時に消えるから慌てたじゃないッ!! 」


<――“異空間”からの帰還直後


俺の両肩をガッシリと掴みそう“半ギレ”したマリーンに狼狽(うろた)えつつ

そんな彼女を(なだ)めて居た俺の横で――>


「……乳繰(ちちく)り合いは後にせよ阿呆(あほう)が。


彼奴(きゃつ)棲家(すみか)へと案内せよ……転移でも構わぬがな」


<――不機嫌を絵に書いた様な態度を(もっ)てそう求めたモナーク。


だが、そんなモナークの要求を聞いた瞬間

装備屋の店主さんは大慌てし――>


「なっ……断じてなりません!!

現在主人公さんにお渡しして居る装備で転移など!!

主人公さんお一人での転移でさえ危険であり、ましてや二人同時など

(ただ)の自殺行為ですぞ?! ……」


<――そう強く警告した。


すると――>


「……面倒な。


()れば通信は? ……」


「ううむ、主人公さんの通信は特殊ですからなぁ……


……とは言え、短い時間ならば大きな問題は出ないかと」


「フッ……()れば、彼奴(きゃつ)へ繋ぐが良い」


<――この後


そんなやり取りに()って、(なか)ば強制的に

エダさんに連絡を取る事と成った俺は――>


「……待ちなさいよ主人公、モナーク。


何をしに何処(どこ)まで行くのかは判らないけど

それが楽しい旅じゃ無い事位、顔を見てたら嫌と言うほど分かるわ?


主人公……私の事も連れていきなさいよ。


もし断ったら……絶対に許さないんだからね? 」


<――そう

マリーンから同行を強く求められ――>


「……わ、分かったよ。


そう言う事なんだけど……モナーク、構わないか? 」


「フッ……好きにせよ」


<――直後


モナークからも許可が降りた事で

結果として三人での訪問が確定してしまったこの後――>


………


……



「……じ、じゃあ繋ぐぞ?


魔導通信……エダさんへ――」


<――二人を引き合わせたその先に何が起こるのかさえ判らぬままに

恐れや不安と言った負の感情に(さいな)まれつつも


そっと通信を繋げた


瞬間――>


………


……



「……おや、えらく再訪が早いねぇ?

どうしたんだい? ……何だか珍しいお客さんも一緒だが」


<――これまでで最も(はや)


初動さえ判らぬ程の勢いで発動したモナークに()る無詠唱転移に()って

何時(いつ)の間にか到着して居たエダさんの干物屋。


……だが、そんなあまりにも異質な形となってしまった再訪に

眉一つ動かさず応対したエダさんの姿は、鈍い俺にさえ

(ただ)の干物屋の店主とは思えない迫力を感じさせてしまって――>


「フッ……久しいな“巨龍”よ」


「……済まないねぇ、何分(なにぶん)年寄りなモンで

三年より前の話なら(ほとん)ど覚えて無いのさ……」


「龍で()る事は否定せぬか……(わら)わせる……」


「……昔の話なんざ(ほとん)ど覚えちゃいないが

そうだと(にら)んで訪ねて来た相手に隠し続けられる程

耄碌(もうろく)はして無いんでね……それで?


一体何の用だい? ……“昔の恨み”でも果たしに来たのかい? 」


<――()かずとも(わか)る。


彼女は……エダさんは間違く古代龍だ。


この瞬間……これまで彼女が隠し続けて居た特有の覇気を感じ取った俺は

まるで心的外傷(トラウマ)の様に“末裔”との時間をフラッシュバックさせてしまった。


それは……今の今まで彼女を“弱い立場”だと思い込み

“何としても(まも)らねば”と考えて居た事さえも

(ひど)く愚かに思える程、強く――>


「フッ……盗人(ぬすっと)猛々しい。


貴様は誓いを反故(ほご)にした、(ゆえ)に我は此処(ここ)に来た……


……(ただ)、それだけの話よ」


<――強烈なモナークの殺気


言葉とは裏腹に、今にも彼女を()ち取らんとする様なその殺気は


息が苦しくなる程に強烈で――>


「……そうかい。


さて……見た所、主人公(アンタ)は見込み通りの成長具合だが

少々、成長を()いた“きらい”があるねぇ?


……あまり急ぎ過ぎて龍の力に飲まれちまったら

強くは成れず、(ただ)の“暴虐龍”に成り果てちまうんだよ? 」


<――(みずか)らの置かれた状況など些末(さまつ)な事かの様に

そう言って俺の事を気遣ったエダさん。


……錯覚かもしれないし、騙されているだけなのかも知れないが

この瞬間だけ、俺の知る優しいエダさんに戻った気がした。


だが……その一方で

モナークはそんな事などお構いなしな様子で――>


「貴様が何を望もうとも貴様の勝手よ……だが。


貴様は我に証を立て、それを反故(ほご)とした……


……その報いは受けねば成らぬ」


「成程? 筋は通ってるねぇ? ……なら、あたしが死ねば満足かい? 」


<――エダさんの口からそんな極論が出てしまう程

怒りを(あらわ)にして居て――>


「な、なぁ……待ってくれモナーク。


昔、どんな戦いが()ったのか正確には判らないけど

きっとエダさんは俺の傷が誰に()って付けられたのかを知り

それで、せめてもの罪滅ぼしとして

あの(うろこ)をくれたのかも知れない訳で! ……」


<――少しでも状況が穏やかな方へ向かえばと考え

俺はそう説得を始めた、だが……この直後

そんな俺の説得を邪魔する様に口を開いたのは

モナークでは無く、エダさんで――>


「おやおや……“罪滅ぼし”なんて失礼な話だねぇ?

あれを渡したのは、孫へのプレゼントみたいなモンさ……


……主人公(アンタ)は間違い無くあたしの娘に噛まれて力を得た。


“自分より強い者で無ければ我が夫には不相応”……そう言って

孫の顔を見せるつもりが無いと(かたく)なに宣言しちまった娘が

奇跡的に生み出した“孫”みたいなモンなのさ。


それに……実際、(あれ)を一年ばかり(そば)に置いとけば

主人公(アンタ)は間違い無く古代龍の力を得られる筈。


無論、何一切()く必要も無く

普通にしてりゃ“暴虐龍”には成らずに済むって訳だ。


反対に……鱗さえ(そば)に置かず

どうすれば良いのかさえ判らぬままに過ごせば

簡単に暴虐龍へと堕ちるだろうさ……にも関わらず。


アンタは祝いの一つさえ送るな……なんて言うつもりかい?


どうなんだい? ――


“半魔族の魔王、モナーク坊や”


――あの日のアンタは

其処(そこ)まで狭量(きょうりょう)じゃなかった筈だよ? 」


<――この瞬間


居直る様にそう言ったエダさんは……まるで

モナークの怒りを引き出さんとする為かの様にそう(あお)った。


だが――>


「フッ……自惚(うぬぼ)れも程々にせよ巨龍。


貴様が負うべき(むく)いは貴様の死程度で終わる些事(さじ)には(あら)ず……」


<――そう


簡単には死なせないと言ったに等しい発言をしたモナークは

これまで顔色一つ変えなかったエダさんの顔色を

これでもかと言う程に変化させる様な要求を突きつけた――>


………


……



「……巨龍よ。


貴様は“娘が為に生きる”……そう(のたま)い、それを(みずか)ら反故とした。


()れば、貴様が負うべき(むく)いは

“娘を()つ者の為”……貴様の全てを捧げる事に他成らぬ」


<――瞬間


この場の空気は一変した。


……それまで穏やかだったエダさんの表情は

あまりにも恐ろしい物へと変化し……俺に、最悪の状況を想定させた。


どう考えても受け入れ(がた)

受け入れるべきとも思えない厳し過ぎるこの要求に()って

話し合いが決裂し……“古代龍”としての彼女が目覚めてしまったなら。


今現在、戦う力など一切持ち合わせていない俺では……マリーンは(おろ)

自分自身の事さえも(まも)れる訳は無いのだから――>


………


……



「……半魔族の坊や。


アンタの言う“娘を()つ者”ってのは

ひょっとして、主人公(そのこ)の事かい? ……」


「……そうだと()えば何とする? 」


「そうさねぇ……で、()れば。


仕方が無い、ねぇ――」


………


……



「――全く。


老い先長かろうが短かろうがどうだろうが

孫の可愛いさには負けるってモンさ……良いだろう。


あたしの心臓一つで役立つってんなら……その子に食わせりゃ良いさ」


<――この瞬間


そう、あまりにも意外な答えを発したエダさんに()って

俺の常識感覚と呼ぶべき物は狂いに狂った――>


===第二九五話・終===

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