第二八四話「“邂逅”は楽勝ですか? ……前編」
<――“マリアの脳内へと潜入し
彼女の目覚めを阻害している原因を突き止める”
……それが本来の目的であり
その為に俺は彼女の脳内へと潜入した……筈だ。
だが、彼女の記憶と思しきこの空間には
何一つとして連続性が無い……世界の“仕組み”も“時代”も
何もかもがバラバラで、唯一の共通点は
どの転生者も等しく“彼女を知っている”と言う事だけだ。
と言うか……それだけが唯一の救いだった。
その事実だけが……辛うじて
この意味不明な状況を“彼女の脳内だ”と認識するに足る
たった一つの、繋がりだったのだから――>
………
……
…
「野郎共っ! ……錨を下ろせぇぇぇっ!! 」
<――港に響き渡った野太い声
一方……俺と同じく後ろ手に縛られ
猿ぐつわを口に押し込まれたまま、その凄まじい戦闘能力を
何故か全く発揮せず、全くの無抵抗で居たアリス。
直後……そんな彼女への強い不信感など知る由も無い荒くれ共に依って
板の上に乗せられ、神輿の様に担がれたまま……俺達は
港町の奥深くへと運ばれる事と成り――>
………
……
…
「むぐッ! むぐぐッ!!! ……むぐぐッぐッ!!! 」
(アリスッ! お前ッ!!! ……ふざけんなッ!!! )
「……」
「むぅ……むぐッ!! 」(いや……おいッ!! )
<――最悪のタイミングで“裏返った”声のまま
それでも必死で問いかけて居た俺……にも関わらず
何故、彼女は俺に一瞥もくれず
完全な“だんまり”を決め込んで居るのだろうか?
そもそも……“やる気が出ない”と言う意味不明な理由で
この状況を受け入れた彼女の行動が全く以て理解出来ない。
どう考えても、この後の流れが“宜しく無い方向”に向かう事など
誰に言われずとも分かりそうな物なのに――>
「……良ぉ~し、女共を下ろせぇ~っ!
良いか? 慎重に下ろせよ? ……そっちの“端女”はどうでも良いが
オレの女に傷一つでもつけて見ろ……てめぇら、ただじゃ置かねえからな? 」
<――彼らの拠点なのだろうか?
到着した先でそう指示を出した船長は……相変わらず
アリスには目もくれず、俺に熱視線を向けながらそう言った。
そして、この瞬間……俺は
アリスが“やる気を失った”理由を知った――>
「ムっ。 」
<――そのたった一音で
“選ばれなかった事が腹立たしい”
……と言ったに等しい雰囲気を感じさせたアリス。
以降、そっぽを向いたまま不貞腐れた様な態度を取り続けた彼女は
この後も、俺の危機的状況を……“敢えて”かの様に
無視し続けた――>
………
……
…
「さて……待たせたな嬢ちゃん。
そのままでも充分可愛いが
オレとしちゃあ、もっと可愛い声を聞かせて貰いてえ所だ。
その為には先ず、その“猿ぐつわ”を取る必要がある訳だが……
……間違っても、暴れたり叫んだりしねえでくれよ?
お淑やかで居て貰えねえと
“力加減”を間違っちまう可能性もあるからな? ……」
<――この瞬間
そう、明らかな脅しを口にした船長……きっと
コイツの毒牙に掛かった被害者は山程居るのだろう。
船員達の――
“やれやれ、また始まったぜ”
――とでも言いたげなその様子と
眼前の床に付いた“引っかき傷”がそんな俺の予想を確実な物にした。
そもそも……“オレの女”と大層に呼ぶ位ならば
その女性を世界で最も幸せにする努力をするべきだ。
間違っても、暴力や脅しを用い
何かを強いるなんて事があってはならない。
だが……船長にどれだけ腹が立とうとも
どれだけ、気分が悪かろうとも
抵抗する力を一切持たぬ今の俺には
コイツを倒せる可能性は微塵も無くて――>
「……むぐぐッ!!! 」
「ん? ……言った筈だぜ? “お淑やかで居てくれ”ってな。
こいつはちっとばかり
“罰”が必要な様だなぁッッッ?! ――」
<――瞬間
頬に疾走った凄まじい衝撃……
……船員達の嘲笑い声
俺は、腹立たしさと強い無力さを感じた。
もし此処が、本当にマリアの記憶の中だと言うのなら
一体何故こんな奴らが居るのだろうか? ――>
「……そっちの女はてめえらで好きにしろ。
オレはこの女に“淑女らしさ”を教え込まねえと成らねえ様だからな……」
<――状況に一切の整理がつかない中
“船長”はそう言って、アリスを船員達にあてがおうとした。
……不味い。
このままではアリスの身に危険が及ぶ――>
「むぐぅッッッ!!!! むぐぐぐぐッ!!!!! ……」
「ほう? ……肝の座った女だ。
こりゃあ、教育に手間が掛かりそうだ……なぁッッ!! ――」
<――この瞬間
再び殴り飛ばされた俺は……朦朧とする意識の中で
“せめてアリスだけでも逃さなければ”……そう、考えて居た。
だが……キツく縛られた腕は一切の自由が効かず
幾ら叫ぼうとも猿ぐつわの所為で殆ど届かない声は
唯でさえ入り組んだ位置にある拠点周辺の“治安の悪さ”も相まり
絶望的な状況に、悪い意味で
“賑やかさ”を持たせる役にしか、立ってはくれず――>
「騒ぐな、嬢ちゃん……幾ら何でも
そんな器具を口に突っ込まれたまま死にたくは無え筈だ。
……以降“お淑やか”にしてられるってんなら
これ以上痛い思いはしなくて良いんだぜ?
さぁ……どうするよ? 嬢ちゃん」
<――心の底から腹立たしく、そして情けない。
だが、この瞬間……せめて船長に猿ぐつわを外させ
アリスに唯の一言でも伝えねばと考えた俺は
船長の問い掛けに小さく頷いた。
直後――
“分かってくれて一安心だぜ嬢ちゃん”
――そう言って猿ぐつわを解かれた
瞬間――>
「アリスッ!!! ……逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!! 」
<――俺は
後の事など何一切考えず、そう叫んだ――>
………
……
…
「……チッ、紛らわしい顔しやがって。
てめぇ、男だったか……まぁ良い、それならそれで話は単純だ
生かしとく価値は無え……おい、てめぇら
残念ながらそっちの女もオレの物だ。
どうやら……“てめぇの命が惜しくねえ程”大切な女らしいからな
此奴の眼の前で犯ッちまう他無えって事だ……」
<――海賊と呼ばれる者達が皆こうなのかは分からない。
だが……少なくとも、この瞬間
“賊”と言う言葉が確りと当てはまる様な発言をした船長に
下げる頭など在りはしない――>
「勝手に勘違いしたのはお前の方だ……それとな、クソ野郎共。
縛って置かなきゃ女に触れる事さえ出来ない程のビビリが
自分達の長だなんて、普通なら恥ずかしくて世間様に顔向け出来ない筈だ。
それとも……常識と一緒に
恥を感じる頭さえ何処かの海に落として来たのか?
どうなんだよ? 群れる事でしか何も出来ない
最低のクズ共……が……はッッ……」
<――今考えれば
アリスの“トンデモ発言”を素直に受け入れていたら
こんな状況に陥ってなど居なかった事だろう。
……三度、船長の攻撃をまともに受けたこの瞬間
朦朧とする意識の中で
俺は、そんな事を考えて居た――>
「しかし……てめぇの男が此処までヤラれて尚だんまりとは
此方の女も中々のタマかも知れねえな……
……まぁ、見た目はそれなりだ。
いい声で鳴きゃあ、多少は楽しめる筈だろうぜ……」
<――直後
そう言って、ゆっくりとアリスに手を伸ばした船長……
……駄目だ。
何としても助けたいのに……体が言う事を聞いてくれない。
俺は……彼女の事を
救えないのか? ――>
………
……
…
「……ほ~う?
寄って集って女子二人を手籠めにするとは。
御主らは……余りにも
見苦しいのぅッ!!! ――」
<――扉の向こうから聞こえた響き渡る様なその声
直後……“枠”ごと粉々に弾け飛んだ扉の向こうから
飛び込んで来た“何か”は――>
「――どっせえぇぇぇぇぇぇぃッッッッッ!!!
フンぬりゃああああああッッッッッ!!!!!! ……
……せりゃあぁぁぁぁぁッッッッッッッッ!!!!!!!!! 」
<――まるで
“建物ごと解体する”かの様な勢いで
一瞬にして海賊共を一掃し――>
………
……
…
「……ふぅ~ッ!!!
何とも危ない所だったのう? ……いや、これは少々危ういか。
すまん、少々手荒には成ってしまうが
医者に見せねば不味いじゃろうからな……では。
人間の少女達よ、征くぞッ!! ――
――フンぬりゃああああああああッッッッッッッ!!! 」
<――逞しい太腕に抱き抱えられたこの瞬間
安心感からか……それとも唯限界を迎えただけか
何れにせよ、意識を失ってしまった俺は――>
………
……
…
「……そうか、大事無いのならば良かったッ!!
女の顔に傷が残るのは……ん? 何ぃッ?!
こっちの“少女”は男じゃとぉッ?! ……う~むッ。
どう見ても、女子にしか見えんのじゃがなァ? ……」
………
……
…
「ん……んんッ……何の音だ? ……此処は一体……」
<――どれ程の時が経ったのだろうか?
“キンッ! キンッ! ”と鈍く響く音に目を覚まし
薄目を開け周囲を見回した
瞬間――>
「ん? ……おぉッ! やっと目覚めたか少年ッ!!
安心すると良いッ! ……海賊共はもう居らぬからなッ! 」
<――金槌を握る逞しい太腕
金床の上に置かれた異様な大きさの斧……厳ついその見た目とは裏腹に
そう言って、子供の様な屈託の無い笑顔を見せたこの男性は……
……ああ、間違い無い。
彼は……歴史書に記された特徴を
そのまま生き写しにしたかの様なその姿は。
間違い無く……ドワーフ族族長ガンダルフの師
“バーバリアン”だ――>
「なッ……あ、貴方は……バッ……バーバリアン様ではッ!? 」
「ん~ッ? ……既にわしの名を知って居るとは。
わしの名も有名になったものじゃなァ?
……まァ、当然と言えば当然か。
何せ、御主らを救う為に建物ごと破壊したのじゃからなァ。
流石に人族の王から――
“少しは手加減をせんか!! 他国からの襲撃かと思ったであろうっ!! ”
――と、ドヤされてしまった程じゃ!
って……これは御主がわしの名を知っている理由にはならんなァッ!
ハ~ッ! ハッハッ!!! 」
<――豪快な笑い声
直後……俺の顔より大きな木の“マグカップ”を満足気に持ち
恐らくは“酒”だろう中身を一気に飲み干した彼は――>
「それはそうと……じゃ。
御主らは一体何処から連れて来られたんじゃね? 」
<――それまでの笑顔とは反対に真面目な表情でそう問うた。
だが、ほんの一瞬答えに口籠った俺の様子に――>
「答え辛い事もあるじゃろう……奴らの様な者に連れ回されれば
悪事に手を染めざるを得ない状況に陥る事も
ままあるじゃろうからなァ……ともあれ。
安心せい、少年……御主の過去がどうであれ
わしはそれを断罪したりはせんからな……」
<――そう、僅かに誤解した様子で続けた。
そして――>
「……それはそうと、少年。
アリス殿には“御使い”に行って貰っておるから
帰って来るまでに“身なりは整えて”置くんじゃぞ? 」
<――直後
そう言って俺の顔からゆっくりと下に視線を下ろしたバーバリアン。
……嗚呼、最悪だ。
何故、俺は“産まれたままの姿”なんだ? ――>
「へッ? ……うわあぁぁぁぁぁぁぁッ?!
なッ、何で俺は素っ裸なんですかッ?! 」
「当たり前じゃろう? ……御主は凄まじい怪我をしておったんじゃよ?
怪我と言う怪我は全て医者に治療させ
濡れた服はバネッサに頼んで洗濯をして貰ったのが今日の昼前の事じゃ。
……一応、御主が着て居た服は外に干してあるが
乾くまでにはもう少々掛かるじゃろうから
その間はわしの服でも着て置くと良い。
其処の引き出しに幾つか入って居るから、好きなのを……」
<――瞬間
全てを聞き終わるよりも早く引き出しを開けた俺は
その中から引っ張り出した服に慌てて袖を通した……だが。
予想通りと言うべきか
種族の違いから来る“サイズの違い”は凄まじく――>
「う~むッ……“片足側”だけで充分な程に合わぬとは。
仕方無い……わしが子供の頃に着ておった物を出してやろう」
<――直後
引き出しの奥から“半ズボン”を取り出し俺に手渡したバーバリアン。
だが、彼が半ズボンとして取り出した物でさえ
俺には“八分丈”で――>
「あ……ありがとうございます……」
「うむッ! 一先ずはこれで良いじゃろうッ!
と言っておったら……丁度帰って来たか。
ご苦労じゃったな、アリス殿」
「いえ、お助け頂いたお礼に成るのであれば
この程度の事は造作もありません……それはそうと。
マスター……漸くお目覚めになったのですね」
<――俺と同じく
全身“びしょ濡れ”だった筈の彼女は、髪の毛一本さえ乱れておらず
出会った時と同じキリッとした姿でそう言った。
……唯一違う所があるとすれば、何だか
俺に対して“当たりが強い気がする”位だろうか? ――>
「……アリス、すまない。
俺に力が無いばかりに、君を危険な目に……」
「いえ、お気になさらず……マスターが無事で何よりです。
さて、バーバリアン様……御使いの品は此方でお間違いありませんか? 」
「おぉ~ッ! これじゃよ! ……これで漸く修理出来るわいッ! 」
<――直後
アリスから受け取った謎の塊を
嬉しそうに金床へと置いたバーバリアンは――>
「さて……早速、完成させるとしようかのう。
二人共、耳を塞いで置くんじゃ……行くぞぃッ?
フンぬりゃああああああああッッッッッッッ!!!!! ――」
<――斧の持ち手側
石突と呼ばれる部分にあてがい
その場所目掛け勢い良く金槌を振り下ろした直後……
……謎の塊と呼ぶべきだったそれは
大きな衝撃と共に、斧の後端へと合体し――>
「す、凄い……何だ今の一撃……」
「ん~ッ? ……御主には“一撃”に見えたか。
ハ~ッ! ハッハッ! ……未熟よのうッ、人間の少年ッ! 」
<――直後
そう言って豪快に笑ったバーバリアンは
たった今完成したばかりの大斧を
高らかに、とても満足気に掲げたのだった――>
………
……
…
「……それで、これからどうするんじゃね?
この国を出ると言うのならば、船程度なら用意してやれるが
また海賊共の様な者達が現れんとも限らん……とは言え
わしもこの国を離れる訳には行かんからな。
……行く宛が無いと言うのならば
気が済むまでわしの所で暮せば良いが……御主達はどうしたいんじゃ? 」
<――暫くの後
俺達の今後を心配し、そう言ってくれたバーバリアン……だが。
少なくとも、俺の知る“政令国家”でも
“王国時代”と思しき町並みでも無く……
……唯、ひたすらに見覚えの無いこの場所で
目的を忘れた様にのんびり暮らす選択肢は、残念ながら無くて――>
「……助けて頂いただけで無く
今後の事まで心配して下さりありがとうございます。
でも……どれだけ危険な道程に成るとしても
力不足だとしても……それでも、俺達は行かなければ成らないんです。
俺の大切な仲間を、何としても取り戻す為に……」
<――この瞬間
そう、真っ直ぐに思いを伝えた俺に対し
バーバリアンは――
“そうか……”
――と、静かに答えた。
そして――>
「……ならばせめて、これを持って行くと良い。
どうにも成らぬ時、これを使えば……御主の気にする“力”など無くとも
生き延びられる事じゃろう……」
<――そう言って俺に謎の小袋をくれた。
だが……確認の為
中を開けようとすると――>
「バカモンッ! ……どうにも成らぬ時以外、それを開けてはならんッ! 」
<――と、強く制止された。
一体、中に何が入って居るのだろう?
まぁ……ともあれ。
この後……現在地も判らぬまま旅を続ける訳にも行かず
此処がどの様な国で、周辺にどの様な国があるのかを訊ねようとした瞬間
建物の外から聞こえて来た声――>
………
……
…
「……おい! バーバリアン!! 表に“女物”が干してあるが
お前の様な荒くれに気を寄せる女が……って。
何だぁっ?! ……てめぇ、二人もつれ込んでやがったかっ?! 」
<――瞬間
何処からとも無く現れ
目を丸くして俺とアリスを凝視しながらそう言った男性。
彼は――>
「しかし……凄え美人ばかり連れ込んだモンだなぁおいっ?!
アンタ達、こんな“むさい”奴の何処が……」
<――と、大きな誤解をしたままにそう問うた。
すると――>
「……酷い言われ様じゃな全く。
安心せぃ、シド……そっちの“美人”は男じゃからのう」
「何ぃッ?! バーバリアン、お前にそんな趣味があったとは……」
「違うわぃッ!!! ……二人共
海賊共の元から救い出しただけじゃバカモンッ!! 」
<――“シド”
バーバリアンからそう呼ばれた男性は――
“成程、そう言う事だったか”
――と言う表情を浮かべ納得したかと思うと
直後、真剣な表情に変わり――>
「……それは悪かったな。
ま、そんな事は兎も角として……バーバリアン、アンタに奴から伝言だ。
“栗の木に実りあり、収穫を待て”
……との事だ」
<――そう、何かの暗号と思しき言葉を伝えると
アリスを真っ直ぐに見つめ――>
「って事で……美人のお嬢さん。
もし暇があったら、そんな“むさい”のとじゃ無く俺とデートしてくれ。
……損はさせないからさ。
じゃあ、またなっ! ……」
<――そう口説く様な発言を残し
何処かへと去って行ったのだった――>
「な、何だったんだ今の人は……」
<――マリアの記憶の中にこれ程の世界が存在している事。
その事実に対し、加速度的に増え続ける疑問と
本来なら関わるべきでは無い状況の中
思わず口を突いて出た俺の疑問などつゆ知らずと言った様子で
僅かに自慢げな態度を見せたアリスは――>
「マスター……今の男性、感じの良い方でしたね」
<――これまでの不貞腐れた様な態度は何処へやら。
そう言って、彼の去った方角を少しの間見つめたのだった――>
「う~む……騒がしくてすまんのう。
っと、話を戻すが……少年
御主は“誰を取り戻したい”と言っておったのじゃったかな? 」
<――俺に対しそう問うたバーバリアン
直後、そんな彼に対しマリアの事を伝えると――>
「……ふ~むッ。
マリアのう……何処かで訊いた事のある名じゃが、思い出せん。
……特徴は? 」
「え、ええ……髪は黒、ポニーテールにしている事が殆どで
性格は明るくて、優しくて……
……俺みたいなのを信じて付いて来てくれた、聖人みたいな人です。
まぁ……良くない冗談で人をドキッとさせたり
何故そんなタイミングで?! って言う様な時に限って
黙っとけば良い話をしちゃう様な所もあったりして
そのお陰で結構大変な目にも遭ったりはしてるんですけど……」
「ふ~むッ……やはり、わしの知り合いでは無いのかも知れんな。
じゃが……少年、御主が“命に代えても”と言わんばかりに
懸命になっておる理由は嫌と言う程に理解した。
よし……では、役に立つかは分からんが
一度“賢者”の元を訪ねてみると良い……
……“バーバリアンの紹介”と言えば
色好い返事をしてくれる事じゃろうて……」
「け、賢者? ……その方は何処に? 」
「……港の直ぐ近くに薄緑色の屋根の家がある。
其処に居る筈じゃから、行ってみると良い……」
「あ、ありがとうございますッ! ……行こう、アリス! 」
「今からですか? ……マスター」
「だ、駄目かな? ……」
「いえ……承知しました、マスター」
<――この瞬間
僅かに拒絶の色を見せたアリス。
特に理由を訊ねる気にも成れず
直後、然程気にせず港へと向かい
薄緑色の屋根の建物の扉の前に立った俺は――>
………
……
…
「……遅かったな、待って居たぞ。
入りたまえ……客人」
「ぬわぁッ?! ……あ、あの……」
「“バーバリアンの紹介”……だろう?
奴め、面倒事ばかり押し付け……私は便利屋では無いと言って……
……ゴホンッ!
失礼……兎に角、入りたまえ」
<――ノックをする直前
とても不思議な雰囲気を纏った女性の手に依って開かれた扉。
……直後
彼女の案内に従い建物の内部へと入った俺は――>
===第二八四話・終===




