第二四八話「見えない道を歩むのは楽勝ですか? ……後編」
<――“蟲対策に僅かでも役立てば”
そう考え、勇者一行に“聖武器を検べさせて欲しい”と告げた俺は
紆余曲折の末……何故か、彼らの特訓をする事に成って居た。
……とは言え、その結果得られる“報酬”は喉から手が出る程欲しい物だし
彼らが仲間とまでは言わずとも
知り合い程度にでも成ってくれればとも考えて居た俺は……この、直後。
“ひけらかした”知識の所為で、銃士ブラックから
あらぬ誤解を受ける事と成った――>
………
……
…
「……あ、ああ……充分だ。
そ、その……お前が何を試そうと考えてるのか
オレには全く理解らねえが……今、オレの手持ちの弾丸は
恥ずかしながら、聖銃に今入ってる弾丸で全部だ。
それを失っちまったら……オレは
本当の意味で“銃士”じゃ無くなっちまう……
……さ、猿に“バナナの食い方を教える”様なモンかも知れねえが
頼む……慎重に扱ってくれ……」
<――そう、何処か怯えた様に言うと
ぎゅっと目を瞑り、意を決した様子で俺に“聖銃”を預けたブラック。
直後……そんな彼の強い思いとは裏腹に
物理適正が低い筈の俺に取って相当に重い筈の“聖銃”は
何故か、物理的な武器を預かったとは思えない程
軽く感じて――>
「ええ、勿論です……って。
聖銃、何だか恐ろしく軽いんですが
良い意味で見た目と不釣り合いですね……」
「ああ、世界で一番の銃だからな……けど。
今のオレには、何だか遠い存在に思えて成らねえな……」
「へっ? ……そっ、それはきっとその!
き……気圧とか気候の所為でそう感じてしまってるだけですよ!
とっ……兎に角! 一度、試してみたいので……
その、本当に申し訳無いのですが……一発だけ
弾丸を使用しても宜しいでしょうか? ……」
「……本音を言えば、嫌に決まってるぜ」
「で、ですよね~ッ! ……で、ですがその……もし、これが
“増やせる類の物”でしたら、百発でも二百発でも
出来る限り増やしてお返ししますので! ……」
「そ、そうか……流石は“銃職人”顔負けの知識量だ。
手に持った程度で弾の種類まで理解しちまうとはな……分かったよ。
グダグダ言ってても始まらねえ……お前に全部任せる。
だが……一発だけだぞ?
バカスカ撃ちやがったら、流石に許さねえぜ? ……」
「も、勿論です! ……って、俺は別に
銃職人と呼べる程の知識を持ってる訳では……」
「チッ! ……何でも良いからさっさと試せ!
オレの気が変わらねえ内にさっさとやりがやれってんだッ!! 」
「ひぃッ?! ……は、はいぃッ!!
で、ではその……失礼して……」
<――この直後
この、妙な誤解を解いて置くべきだった事に気付いたのは
慌てて引金を引き、木に命中した弾丸が――>
………
……
…
「主人公……お前が銃士としては
お世辞にも褒められた腕じゃ無え事は“構えた時点”から差し引いてた。
だが……どんなに下手な腕だろうが
“弾丸の威力自体を下げる”なんざ有り得ねえ……
……クソ神父の“聖刃”を使った時
お前は誤魔化した様な態度を取ったが、オレはてっきり――
“自分の実力とを秤に掛けた時、脅威とすら思わねえ威力”
――そう、考えた位に思ってた。
だが、それはどう見てもそう言う問題じゃ無え。
……説明して貰えるか? 」
<――“木を撃ち抜く事は疎か、めり込む事さえ無く
欠片程の樹皮を砕けさせるに留まる”
……と言う、先ず有り得ない状況に狼狽えて居た俺を
そう、強く問い質したブラックの疑いの眼差しを見た瞬間だった。
そして、この直後……自分自身、結果に理解が及ばず
どう答えて良いかさえも分からずに居た俺に対し
更に――>
「……正直な話、弾丸を“作る”んじゃ無く
“増やす”って言いやがった件についても詳しく訊いときたい所だが……
……んな事よりも先ず。
“悪い意味で”狂っちまってる
そのクソみたいな威力の原因を教えて貰えるか?
……なぁ“訓練教官”さんよ? 」
<――この瞬間
口を滑らせ、誤解に対する訂正も出来ずに居た俺に差し向けられた強い疑い。
……だが。
この直後、あらぬ疑いを掛けられてしまった俺が
“せめて誤解だけでも解かねば”……そう考え、口を開きかけた
瞬間――
“主人公君……後で話せるだろうか? ”
――齎されたヴィシュヌさんからの魔導通信。
その声色には、鈍い俺でさえ気付けてしまう程の緊張があって――
“分かりました……では後ほど”
――そう、短く返事をした直後
この通信がヴィシュヌさんからの物だと気付いた神父ジムに依って
状況は、更にややこしく変化する事と成った――>
………
……
…
「何はともあれ……本を正せば
“聖武器”は全てヴィシュヌ殿からの賜り物だが
どう見ても君は、そんな我々の大恩人たる彼と懇意にして居る様だ。
それだけでは無い……君は、我々の置かれた状況について
未だ、語って居ない“何か”を知って居る様にも見える……
……少年。
悪いが、取引の条件を少しばかり“変更”させて貰おう」
<――直後
強く、威圧的な態度で――
“聖武器をこの世界に適合した仕様へと変化させる事”
“転生について、知る限りの知識を全て語る事”
――と言う
新たな条件を追加した彼は――>
「……以上の条件を飲まぬと言うのならば
我々は、君に対する協力を一切行わない」
<――鋭く俺を見据え、そう冷酷に言い切った。
直後……この難しい要求に頭を抱える事と成った俺は
熟考の末――>
………
……
…
「ジムさん……残念ですが、今はどちらも受け入れられません。
……全ては、ヴィシュヌさんの言う
“世界の崩壊”を現実の物としない為の判断です」
<――そう、伝えた。
だが……意外にもそんな俺の返答に
一定の理解を示したジムは――>
「成程……“語らない理由”は理解した。
だが……我々に“稽古をつける”と約束した筈の君が、何故
その障害となる聖武器の“不具合”を取り去る事をも拒絶する?
……それでは筋が通らないだろう? 」
<――そう
ある種、当然とも言える疑問を以てそう問うた。
だが――>
「いえ……正確に言えば、現時点では協力の“しようが無い”んです」
「何? ……どう言う事だね? 」
「その……失礼な言い方には成るんですが
“軽く使用する事以外、検べの殆どを禁止されて居る”現状では
お二人の装備の表面上しか判らなくて……も、勿論ッ!
“聖武器”と言う名が示す様に、それぞれが神聖なる力を有し
お二人もそれに見合う矜持を以て向き合って居る事も――
“神聖なる力を暴くなど”
――そう、お考えなのだろう事も充分に理解はして居ます。
ですが……もし、研究機関での詳しい検べを拒否し
現時点で判明して居る“問題点”からも目を背けてしまったら
お二人の聖武器は“有名無実”な物へと堕ちてしまう。
……無論、お二人程の実力ならば
俺や政令国家の力なんて借りなくても、ジャックさんの様に
例え時間は掛かろうとも自分の力でこの世界に順応し
本来の実力を取り戻す事は出来る筈です。
ですが……ジムさんは良くても
ブラックさんは“勘を取り戻す”だけで無く
何らかの方法で“弾丸”を手に入れなければならない。
ジムさん……確かに俺は、皆さんの武器が持つ特殊な力を検べ
この国の防衛に活かしたいとは思っていますが、その気持ちと同じ位
皆さんに……“本来の関係性”で居て欲しいとも思って居るんです」
「何? ……どう言う意味だ? 」
「……折角、奇跡みたいな確率で再会したんです。
再び同じ道を行く事だって出来るのに、仲間の一人だけが
この世界を怯えながら過ごさなければ成らないなんて……
……余りにも残酷過ぎると思いませんか?
それは本当に……元と同じ、誇れる関係性ですか? 」
<――この瞬間
少しでも友好的で居る為、本当なら言わずに居ようと考えて居た
彼らの判断に関する問題点を突いた俺。
すると――>
「チッ……何とも失礼な話だが
ド正面からぶつかって来るお前の態度は嫌いじゃ無え。
ったく、クソ神父が……
……悪かったな、主人公。
確かに、これじゃあ……お前と戦う前から“妙”だったモンを
唯お前の所為にしただけだぜ……ったく。
相棒に顔向け出来ねえ程のクソ恥ずかしさだぜ……
……おい! クソ神父ッ!!
仮にもオレ達は“正義の味方”だろ? ……悪魔か魔族相手ならまだしも
海の物とも山の物とも知れねえこんな小さなガキ一人にビビって
勇気の一つも絞り出せねえ様じゃ……どの道、先は短えぜ。
……取り敢えず、条件は一旦戻してくれ。
そんで、此奴が言ってる事を全て試してみて駄目だったら
その時は……オレもてめぇの言い分に乗ってやるからよ」
<――直後
そう、何処か満足げな様子で俺の意見に乗った銃士ブラック。
そして――>
「ブラック、貴様の言い分は理解した……だが“クソ神父”は余計だ。
それと、少年……いや、主人公君。
仮に我々が君の言う全てを受け入れ、本来と違わぬ程の力を得たとして……
……その後、我々が君との約束を破り
君や、君の国と敵対した場合の事は考えて居るのかね? 」
<――そう
少なくとも……本当に“それ”を実行に移す人間ならば
決して行わないだろう“警告”を口にしたジムは……直後。
それでも――>
「大丈夫です……もし、俺の大切な人達を脅かそうとしたら
相手がどんなに強くても絶対に諦めたりはしませんから! 」
<――そう、言い訳が出来ない程
正直に応えた俺に対し――>
「そうか……ならば、君の提案を受け入れよう」
<――そう言って
満足気に“首飾”を俺に手渡した――>
「い゛ぃッ?! ……そんなにあっさり渡されると緊張しますし
せ、せめて……一旦、研究機関に戻ってからでお願いしますッ!! 」
<――だが、この瞬間
余りにも“あっさり”と手渡され、逆に慌ててしまった俺の様子に――>
「ふむ……ブラック」
「何だ? ……今更“やっぱり無し”は無しだぜ? 」
「……そうでは無い。
ただ――
“どうやら、貴様の意見が正しかった様だ”
――そう、言いたかっただけだ」
<――呆れたのか、幻滅したのか……何れにせよ。
この瞬間、僅かに気の抜けた様子でそう言ったジムの顔からは
俺への警戒心が完全に消え去って――>
「でッ……では、取り敢えず!
一度、研究機関に戻りますのでッ! ……」
<――何はともあれ。
この後、三人を連れ研究機関へと帰還した俺は
メアリさんに対し、話が良い方向へと進んだ事……そして。
少なくとも二人の聖武器自体が
現状“武器としての性能を発揮しきれていない”事を伝えた。
すると――>
………
……
…
「成程……“本来とは違う”と言う点に於いては
お二人の“状態表示”と似ている様ですね……では、詳しい検査を行い
検査結果を確認しながら、どうするべきかを判断しましょう。
……では、先ずブラックさんから」
<――そう声を掛けたメアリさん。
だが、この直後……緊張の面持ちで聖銃を手渡そうとしたブラックに対し
メアリさんはこれを受け取ろうとはせず――>
「いえ……主人公さんが使用し、不具合が発見されたと言うのならば
今度は持ち主本人の力が流れた状態での計測を行おうかと……」
「そ、そうか……って。
なぁ姉さん、アンタ今……“今度は”って言ったか? 」
「ええ、正確な計測の為には必要な“工程”ですが……」
<――この瞬間
誰の目にも明らかな程に“引き攣った”ブラックの顔。
直後、彼は俺の方へと振り返り――>
「な……なぁおい、主人公。
……どうせ“撃たなきゃ成らねえ”なら
最初から“研究機関で撃っときゃ良かった”んじゃねえのか? ……」
<――そう、力の抜けた声で言った。
直後……そんな彼の雰囲気に狼狽え、言葉に詰まった俺の姿に
がっくりと肩を落とすと――>
「……良いよ、分かったよ。
これで後六発だからな? ……クソッ……何だってこんな目に……」
<――半ば自暴自棄な様子で、そう独り言の様に呟き
諦めた様に拳銃嚢へと聖銃を納め――>
「チッ……何時でも良いぜ……」
<――そう、悪態をつく様に
用意された的の方へと静かに視線を移した。
直後――>
「では、お願……」
<――メアリさんの合図を通り越す様に素速く放たれた銃弾。
だが……恐ろしく正確に的の中心を射抜いたその弾丸とは裏腹に
メアリさんは、とても申し訳無さそうな表情を浮かべて居て――>
「何だ? ……余りにも正確過ぎて驚いちまったかい? 」
<――直後
“ドヤ顔”でそう問うたブラック……だが。
そんな彼に対し、メアリさんは――>
「え、ええ……ですが、余りにも想定を上回る速度の所為で
計測が正確に行えておらず……その、もう一度……
……今度は、全ての動作を
出来る限り“ゆっくり”と行って頂ければ有り難いのですが……」
<――そう、困った様に言った。
……この後、明らかに
“何か言いたげ”な表情を浮かべつつも――>
「う゛っ……ま、まぁ……仕方無えか……
……し、素人相手には速過ぎただけだ。
だが……今度は頼むぜ? 姉さん」
<――言いたかっただろう“何か”を必死に抑えつつ
再び拳銃嚢へと聖銃を納めたブラック。
直後……“念の為”か
“カウントダウン”をし始めたメアリさんの気遣いに――>
「ふむ……なんとも珍しい事がある物だ」
<――そう、皮肉る様に言ったジム。
そして……この発言に強く“反応”してしまったブラックは
カウントが終わるよりも遥かに早く、引金を引いてしまって――>
………
……
…
「クソ神父、てめぇッ……オレの貴重な弾丸をッ!! ……」
「何を言う……お前の集中力が足りなかっただけの事だろう? 」
「んだとてめぇッ?! ……」
<――“予想通り”と言うべきか
そう、大喧嘩に発展し掛けてしまった……だが、この直後。
騒ぎ出した彼らの怒声を“超える”程の大声で
叫ぶ様に声を上げたメアリさんは――>
「……二人共、お黙りなさいッ!!!
念の為、カウントダウン中も計測は行っておりました
兎に角……記録は取れています。
ブラックさん……もう、これ以上撃つ必要はありません。
ジムさん……これでも私達は大真面目なのです、少しお控えに成って下さい」
<――そう、この場を素早く収めてしまったのだった。
ともあれ……この、かなり珍しいメアリさんの怒声に
俺を含め、この場に居るほぼ全員が言葉を失って居た一方で――>
「そうか……其奴ぁ良かった。
まぁ、それはそれとして……“黒妖精”の姉さん、アンタ中々良い迫力してるぜ」
<――そう、何処かホッとした様に言ったブラック。
直後――>
「褒められた姿では無く、お恥ずかしい限りですが……人は誰しも
護りたい物の為ならばそれなりに強くなるものです」
<――そう、静かに言ったメアリさんに
ブラックは何処か困った様な表情を浮かべた。
まぁ……何はともあれ。
この後、引き続き聖武器の計測を続けたメアリさんは
得られた情報の全てに目を通した後
一つの“結論”を導き出し――>
………
……
…
「……成程。
確かに、忌避効果と思しき“何か”はある様ですが
“魔族種に対する効果”は見受けられず、何かを忌避すると言うよりも
忌避する対象物を“見失って居る”様な形と言うべきでしょうか……
……要するに、現時点では“発揮出来る対象物が無い”様ですね」
<――この瞬間
魔族種への忌避効果は疎か、蟲対策へ用いる事など
夢のまた夢かの様に、そう結論付けたメアリさん。
……恐らくは唯、俺が勝手に期待し過ぎて居ただけかも知れない。
だが……此処に来るまでの道程を考えれば
期待するなと言う方が酷だとも感じて居た――
“きっと彼らの聖武器は国防の一助に成ってくれる筈”
――そんな甘い期待を打ち砕かれたこの瞬間
俺は、酷く落胆して居た――>
「……成程、って事はつまり
聖銃含め、オレ達の“聖武器”は……こうして居る今も
それが敵か味方かに関わらず、何を防げば良いのかさえ判んねえで
“一人で勝手に熱くなってるだけ”って事かい? 」
<――そんな俺の心情を知ってか知らずか
銃士ブラックは、彼らしい解釈で状況を例えつつそう問うた。
そして……この直後
そんな彼の解釈を大筋で認めたメアリさんは――>
「ええ、とは言え……少なくとも、その力が
“暴走していない”と言う点に於いては不幸中の幸いかと思いますが。
……何れにせよ
このまま目標を見失った状態を長く維持すれば、生命の進化と同じく
この力が不要な要素として“退化”する事は充分に考えられるでしょう。
但し、現時点で“無意味な能力”として存在して居る
各聖武器の持つ忌避効果には
ある一点に於いて“頭抜けた”物がある様ですが……」
「何だ? ……無意味な能力じゃ無かったのか?
何が“頭抜け”てるってんだ?
まさか――
“無意味な事に掛けては他の追随を許さない”
――とでも言うつもりじゃねえだろうな? 黒妖精の姉さんよ? 」
「……その様な嫌味を言う程、私は無礼者では有りませんし
こう見えても、私は貴方達よりも遥かに年上です。
そんな“町娘を口説く様な”物言いはお控えに成って下さい」
「すまねぇな……オレは、顔は良いが口は悪ぃんだ。
……で、一体どんな力が有るってんだ?
その能力ってのは、オレ達に役立つ様な物なのか? 」
<――少し不満げな様子でそう問うたブラックに対し
“ええ、ある意味では……そうでしょうね”
……そう、何処か思わせ振りな前置きをしたメアリさんは
直後――>
………
……
…
「……皆様が本来、どの様な心持ちで自らの世界を護って居たのか
私に全てを理解出来るとは言いません……ですが。
もし、貴方達が“転生前”と同じく世界を……そうで無くとも
力無き人々を“護りたい”と考えて居るのなら……
……この無意味、且つ有意義な力は
きっと、その願いを叶える足掛かり位には成ってくれる事でしょう」
<――更に“思わせ振り”な口振りで
そう言い切った――>
===第二四八話・終===




