第二四〇話「“想い”を伝えるのは楽勝ですか? 」
<――紆余曲折の末、八重桜との“同化”に依って
急激な変化を迎える事と成った“チビコーンの森”は……
……其処に棲む神獣“一角獣”にまで大きな変化を齎し
解決の難しい状況を一気に好転させるだけの力を齎してくれた。
だが、その一方で――>
………
……
…
「……主人公さん、本当にごめんなさい。
でも……私、少しでもお役に立ちたくて……」
<――止め処無く溢れ続けた涙。
……この瞬間、失う事への強い拒絶と恐怖と言う身勝手な理由で
彼女を抱き締め続けて居た俺に対し、メルは悲しげな声でそう言った。
そして、この直後――>
「童……勘違いするで無えど?
そもそも、その娘が無理に出張って来た訳じゃ無え……
……おらが彼方此方と“探した”結果
その娘っ子にしか務まらねぇ役目だったから無理やり連れて来ただけだ。
良いか? ……その娘は、おめぇの知る以上に心根の優しい良い娘だ
おめぇの事さほっといて何処か行く“タマ”じゃ無え……信じてやれ。
そもそも、まだおらの娘っ子の転生さ残ってると言うのに
何時迄もそうして“睦み合って”たら承知しねえだど? 」
<――そう、強く窘める様に言った八重桜。
直後、慌てて抱き締める事を止めた俺の所為か
見る見る内に頬を赤らめたメルの様子に
今の今まで一切の気恥ずかしさが無かった俺さえも
何だか急激に恥ずかしくなり始めてしまって――>
「い゛ッ゙!? ……いやその……と、兎に角ッ!
て、転生の儀式を進める方向で……よ、宜しくお願いしますッ!! 」
<――全くと言って良い程、誤魔化しきれていないその発言で
無理やり流れを断ち切り……そんな俺の姿が故か
ほんの一瞬、呆れた様な表情を浮かべた八重桜。
まぁ……何はともあれ。
この後、八重桜に依って執り行われる事と成った“転生の儀式”は
俺が想像して居たよりも遥かに“事務的”で――>
………
……
…
「娘っ子や……この板におめぇの名前さ書け。
……書けたら、その裏に分かる範囲で構わねえから
おめぇの生まれた月日と、親の名……それと、種族名も書け」
<――まるで、何かの申請書類かの様に木の板を差し出しながら
そう言って記名する様求めた八重桜……そして、この直後
指示通り記名の為された木の板に確りと目を通すと――>
「良し……これでおめぇはおらの娘っ子さ成る用意が出来た。
後は……っと忘れる所だった。
おめぇ、人族で言う所の“成人”はしてるだか? 」
<――そう問い掛け
“はい”と、答えたヴィオレッタさんに対し
“なら、親の同意は要らねえだな”……と言った。
勿論……
“もっと派手であれ! ”
……などと言うつもりはないが
それにしても地味過ぎる“書類仕事”に
僅かながら気が抜けてしまったこの瞬間――>
「良し……これで必要な“書類”は全て揃っただ」
<――と続けた八重桜に依って、完全に気が抜けてしまった俺。
だが、この直後――>
「さて、もう一つ転生に必要な物があるんだが……
……おめぇがまだ命ある存在としてこの世界で生きて居た時
“これだけは”と思う様な、失いたく無え物や大切な物はあったか? 」
「失いたくない物……ですか?
う~ん……何だろう?
私、物に対する執着は殆ど無くて……
大切にしてた物って言っても……あっ!! 」
<――八重桜の問いに対し、何かを思い出したかの様に
そう声を上げたヴィオレッタさんは、この
直後――>
「エリシアとの“親友の証”……あれだけは、絶対に失いたくないです」
<――そう言うと
それが“自らの墓に埋葬されて居る”事を告げ
その上で――
“花飾りと言う性質上、土に還って居るかも知れない”
――と続けた。
すると――>
「土に還って居ようが居まいが構わねえ……要するに
おめぇが失いたく無え物は墓に在るんだな? 」
「は、はい……恐らくは……」
「良し……それで充分だ。
……さて、ヴィオレッタよ。
その“失いたくない物”だが――
“諦めろ”
――それは、おらが貰う」
<――冷たく、そう言った八重桜。
この直後……言うまでも無く
全力で拒否しようとしたヴィオレッタさんに対し――>
「……生まれ変わりとは、本来“前世の記憶が無い”のが普通だ。
それを、全ての記憶を保ったままで行う事が
どれ程“理に外れた行為”だと思ってるだ?
良いか? ……おらは別におめぇに嫌がらせをしてる訳じゃ無え。
……おらを含め、精霊女王の権限に依り
精霊族に転生させられた者に関する責任は、全て
おら達、精霊女王自身が負わねば成らねえ。
つまり……その生殺与奪さえも、おら達が握らねば成らねえんだ。
今、おめぇが“失いたく無え”と言った物は
その為の“楔”とも“鍵”とも成る、おら達精霊女王が持つべき物だ。
良いか? ……おめぇの中に見える最も大切な“物”は
幸運にも、おらが奪える類の“者”じゃ無え。
……良いな?
理解したなら、良く考えて答えさ出せ……」
<――そう、告げた。
……この場に長い静寂が訪れ
そして――>
………
……
…
「親友の証……エリシアとの誓いの証。
精霊女王八重桜様……もし、貴女に“親友の証”をお渡ししたら
それは……一体、どの様に“扱われる”のですか? 」
「安心しろ……少なくとも“土に還したり”はしねえ。
悪く言えば、おめぇを精霊族として縛り付ける為の“呪具”として
おらの手元で厳重に保管されるだけだ……」
「……良かった。
でしたら……お任せします。
エリシアと私の大切な証ですから、どうか……大切にして下さい」
<――そう言って、深々と頭を下げたヴィオレッタさん。
直後――>
「……良い返事だ。
良し! なら“善は急げ”だ! ……おめぇの墓さ暴きに行くど!! 」
<――そう“ギョッとする”様な発言をしたかと思うと
八重桜は“敵意の無い魔族達の集落”へと俺達を転移させ――>
………
……
…
「……もうこの墓に“中身”は居ねえ、こんな物は不必要だ。
そもそも、時間さ掛けてる暇も無え……そらッッッ!! 」
<――言うや否や
ヴィオレッタさんのお墓を“粉砕”し……その中から
“花飾りだったのだろう何か”を取り出すと――>
「……間違い無え。
“残留思念”さ腐る程感じる……さて、目当ての物さ手に入った
“騒ぎ”の後処理は……フリージア、おめぇに任せる。
……ほら! おめぇ達っ!!
ぼーっとしてねえで、早くおらの腕さ掴め!! 」
<――この瞬間
何一切褒められない行動と発言を山程披露した八重桜は
そう言って、大慌てする魔族達には目もくれず
半ば強引に俺達をチビコーンの森へと再転移させ――>
………
……
…
「……これで必要な物は全て揃った。
ヴィオレッタ、準備は良いな? ……行くど? 」
<――息つく暇も無くそう言った。
そして――>
「そ、その……私は本当に精霊族に転生しても良いのでしょうか? 」
「全く、何を言うかと思えば……
……そもそも、おめぇは罪さ償わねば成らねえ。
“其の為の肉体が必要だから”と一角獣は一時的に罪を“棚上げ”にしたんだ。
大体……良いも悪いも、もう既におめぇは“精霊族”だど? 」
<――まさに
“息つく暇も無く”……直後、精霊族成った本人は勿論の事
周りで見て居た俺達さえ心の準備が整わない程の勢いで
瞬時に精霊族としての肉体を手に入れる事と成ったヴィオレッタさん。
……直後
なんとも“精霊族らしい”体へと変化した彼女の姿に――>
「う、嘘……ヴィオレッタが“小さく”成っちゃった……
……ね、ねぇ八重桜。
これで本当にヴィオレッタは精霊族に成ったんだよね?
もう、苦しい思いをしたりとか……しないで済むんだよねっ?! 」
<――その姿を確認するや否や
そう問い質す様に言ったエリシアさんに対し――>
「うむ……少なくとも
“地縛霊”として魂を濁らせちまう事は無くなった。
とは言え……おめぇやこの娘っ子が望んで居た
“一緒に過ごす”件については、まだ少し先の事さ成るだろうがな……」
<――そう答えた八重桜。
直後、その発言の意味を問うたエリシアさんに対し――>
「……大前提として、この娘っ子の転生は
“罪を償う為の一時的な措置”として行われたに過ぎねえ。
幾らおらの娘っ子さ成ったとは言え、それだけは曲げられねえだ……
……少なくとも、村人達の“碑”さ建てるまでは
おらの森さ居る事さえも出来ず、フリージアの管理する森の
村さ在った場所で……この小さな体で
一人で“碑”さ建てねば成らねえ。
無論、おめぇの性格さ考えれば“手伝いてえ”だろう事も分かってるが……
……”材料”を用立てる位ならばまだ構わねえが
建てる為の手伝いは決してしちゃあ成んねえ。
その行動は結果として、この娘っ子さ苦しめる事さ成る……
……罪さ償うとはそう言う事だ、分かったか? 」
<――そう、告げた。
だが、この直後……そんな八重桜の答えを聞いたエリシアさんは
とても安心した様子で――>
「良かった……“材料”だけでも手伝えるんなら最高だよ。
そう言う事なら材料は全て私が用意するよ
本を正せば私にも原因があるんだ。
……お願い、ヴィオレッタ。
私にも償いをさせて……全部は手伝えないみたいだけど
せめて、手伝える所は全力で手伝わせて欲しいんだ」
<――そう言って、ヴィオレッタさんに対し頭を下げた。
だが――>
「駄ぁ~目っ! ……エリシアは何も悪くないし
そんな手伝い方されたら私、エリシアに合わせる顔が無くなっちゃうから。
それに……エリシアにはエリシアのお仕事があるでしょ?
そ、その……もう“無くなっちゃった”けど
何時も私のお墓に報告してくれてた、沢山のお仕事が……
……ねぇエリシア、貴女は貴女が思ってる以上に凄い人なんだよ?
貴女の力が無いと困っちゃう人が沢山居るんだから。
だから……私の事は心配しないで?
私もエリシアに負けない様に精一杯頑張るからさ! ……ねっ? 」
<――そう、満面の笑みを浮かべ
エリシアさんの願いを全力で拒否したヴィオレッタさん。
直後、そんな彼女の凛とした意志の強さに――>
「……よぉ~しっ! じゃあ私もヴィオレッタに負けない様に
頼まれ事を“超絶爆速”で片付けるぞ~っ!! 」
<――今後、どれ程の苦難があるのかさえ解らない中
そう言って凄まじい“痩せ我慢”を誓ったエリシアさん。
この瞬間、二人の間に交わされた“痩せ我慢同盟”は
どんな苦難をも跳ね飛ばす様な強い絆で結ばれたのだった――>
………
……
…
「ほう……上手く運んだ様で何よりじゃ。
主人公……いや、この場に集いし皆の力と言うべきか
何れにせよ……皆、良くぞ難局を乗り越えたものよ」
<――暫くの後
俺達の元へと現れたメディニラは、そう言って満足気に俺達を褒めた。
だが――>
「……ええ、此処までの状況は全て皆のお陰です。
でも……まだ、何も解決していません。
少なくとも……俺が心の底から願って居る
“マリアの復活”は、何一つとして進んでいません。
メディニラさん……貴女は一体、何を目的に動いて居るんです?
先程、八重桜さんは貴女に対し――
“おめぇが何故、其処の主人公さ使っておらの眠りさ邪魔したかなど
既に、その目的さ達成した事も含め良く分かってる”
――そう、言いました。
もう一度聞きます……メディニラさん。
貴女は……“一体、何を目的にして動いて居る”んですか? 」
<――最初から気に成って居た。
彼女は俺の願いを“鼻先の人参”の様に使って居るのでは無いか? ……と。
……確かに、エリシアさんは親友との再会を果たし
メルはその様子をとても嬉しそうに見つめ、八重桜は森との同化を果たし
そのお陰で森へと流れ込んだ絶大な生命力に依り
一角獣も何一つ不安の無い状況へと成長した。
だが……それら全ての喜ばしい出来事とは裏腹に
俺が心から願って居る“マリアの復活”は、何一つとして進んでいない。
……正直、メディニラが何を目的として俺をこの状況へと導いたのかは解らない。
だが……何をどう言い換えようとも
マリアを目覚めさせる事が出来て居ない以上
俺には、今が最高の状況とは思えなくて――>
「無礼な……急いた所で結果は変わらぬ。
妾は何一つ主に偽りなど告げては居らぬ……唯。
主が望む願いが、相応の刻を要する性質を持って居るだけの事……」
<――直後
そう、勿体振った様に言った彼女に
“相応の”苛立ちを感じた俺は――>
「……そうやって先延ばしにして
俺が寿命を迎えるまで有耶無耶にし続けるつもりじゃ無いですよね? 」
<――そう、誰が聞いても無礼に感じるだろう物言いで問い掛けた。
だが――>
「……妾に対し斯様な無礼を働くとは
何とも不愉快極まり無い話では在るが……まぁ良い、見逃そう。
主よ……古代種たる八重桜に取って
女子一人目覚めさせるに必要な力を蓄えるなど容易き事じゃ。
では在るが……事を急き、その為に力を使えば
主が国を喰らわんとする“異形の化け物共”への対処に
無視出来ぬ“遅れ”を生じさせる事と成るであろう……」
「そんな……試しもせずに決めつけて! ……」
「“試せ”ば……最早後戻りは出来ぬ」
「メディニラさん……貴女は俺に
“マリアか政令国家か選べ”って言うんですか? 」
「……物事には全て順序が在り、それを違えれば全ては崩れ去る。
妾や九輪桜でさえ対処に難儀する蟲共を
一刻も早くこの世界から消し去る事こそが
今、何よりも優先すべき事であると知れ……」
<――大切な存在や大切な場所。
何れにしても手放したく無いそれらの“大切”に
この瞬間、メディニラは“順序を付けろ”と言った……
……マリアを“後回しにしろ”と。
だが……“受け入れられない”と我儘を言える程
彼女の口にした“存在”は軽く無くて――>
………
……
…
「……今直ぐマリアを目覚めさせられたとしても
その所為で政令国家を失ったら元も子も無い事位、鈍い俺にでも分かります。
けど……それでも、約束して下さい。
“マリアは必ず助かる”と……言い切って下さい。
余りにも優柔不断で、余りにも弱過ぎる俺が
今、辛うじて頑張れるだけの理由を下さい……」
<――苦渋の決断だった。
だが……今、これを受け入れる他に
俺が出来る選択は無くて――>
………
……
…
「……妾は言った筈。
“古代種たる八重桜に取っては容易き事である”……と」
「有難うございます……その答えで充分です。
……大丈夫だ。
今は、マリアが帰る場所を護る……
……今は唯、それだけに集中すれば良いんだ
きっと……違う、絶対に大丈夫だ……絶対に……ッ……」
<――傍から見れば
俺の姿は唯の酷い痩せ我慢をしている様にしか見えなかっただろう。
……強く言い切ろうとした発言とは裏腹に
今にも倒れそうな程に震え、自らを必死に鼓舞しようと……
……決断に依る苦しみを“誤魔化そう”として居た
今の俺の姿は――>
………
……
…
「……大丈夫です、主人公さん。
私も協力しますから……ずっと傍に居ますから。
だから、主人公さんは政令国家に住む全ての人が
主人公さんと同じ方向を向いて居るって信じて下さい。
……一人で運べない荷物なら
皆で運べば、きっと簡単に運べる筈ですっ!
だから……絶対に大丈夫ですっ! 」
<――直後
そんな俺を支える様にそう言い切ったメル。
この瞬間……まだ病み上がりさえしていない筈の彼女から発せられた
精一杯の気遣いは、今にも壊れそうだった俺の事を
ギリギリの所で保ってくれて――>
「……ごめんな、メル。
俺、何時も一人で背負おうとして
その所為で毎回皆に迷惑ばかり掛けて……分かった。
“物理適正低い”俺が一人で背負おうとしてるのが悪いんだよな!
有難うメル……もう、一人では背負わないよ。
何時も気付くのが遅くてゴメンな……それと、何時も本当に有難う」
「い、いえっ! 主人公さんが笑顔で居てくださったら私はそれで! ……」
「メル……俺も、メルが何時も笑顔で居られる様に頑張るよ。
もっと強くなって……メルが何時でも頼れる位に……」
「へっ?! はわわわっ?! ……って、そ……その……
……わ、私っ! 今もちゃんと頼りにしていますからっ!
そ、その……さ、先程も……その……私の事……“支えて”下さいましたし……」
「い゛ッ?! ……いや、あれは八重桜さんに言われてやった事って言うか!
で、でも……その……正直、メルの事を抱き締めるのは嫌じゃなくて
寧ろ凄く“役得”だったって言うか何と言うか……
……って、何いってんだ俺は?! 」
<――また、こうして何時もの様に
平和な日常をメル……だけで無く、皆と一緒に過ごせたなら。
そんな、原点の想いに気付かせてくれた彼女の温かな気遣い。
だが……この直後
そんな和やかなムードに、少しばかり釘を刺す様に――>
「……全く。
おめぇ達の“睦み合う姿”を、おらは後何度見ねば成らねえんだ?
兎も角、童よ……少しは気分さ落ち着いただか? 」
<――半分は迷惑そうに
もう半分は何処か安心した様に言った八重桜。
直後、それが彼女なりの気遣いであると気付いた俺は
深く呼吸を整え――>
………
……
…
「ええ……どう見ても弱ってる暇は無いですし
そもそも俺は約束を破る事が大嫌いですから!
……俺は唯、マリアが帰る場所を護るだけです。
メルと約束した通り……皆の助けを山程借りながら
絶対にそれを成し遂げるだけです、だから……
……八重桜さん、貴女も其の為の協力を」
<――そう言った。
そして――>
「……言われずとも最初からそのつもりだ。
だが、その為にも先ずは敵を知らねば成らねえ……童
おらを敵の居る場所さ連れて行け」
<――そんな俺の覚悟を汲んだかの様にそう言った八重桜。
直後、彼女から放たれた独特の強い覇気……そして、この瞬間
並の相手ならば裸足で逃げ出す程のその強い覇気に
強い笑みを浮かべ――>
………
……
…
「……“敵を知りたい”んなら、私達の研究機関に来て戦ってみてよ。
蟲達がどうこうとかそんな事よりも……これから先
私の大切な親友が一緒に暮らす事に成る、貴女の実力も見てみたいからさ」
<――そう
非礼以外の何物でも無い強い発言を以て提案した“エリシアさん”の目には
何一切の飾り気が無くて――>
===第二四〇話・終===




