第二三九話「“再分配”は楽勝ですか? 」
<――この日、この瞬間
冥王に依り差し出された選択肢に対し
到底選ぶべきとは思えない方を選んだ大精霊女王メディニラ。
……この、余りにも自分勝手に思える彼女の選択に対し
此処まで敵対的な態度を取り続けていた筈の八重桜は
何故か、この場に居る誰よりもメディニラの行動を評価し
何故か、とても満足げな表情を浮かべていた。
だが――>
………
……
…
「……意味わかんないよ。
八重桜……そもそもアンタは約束してくれた筈
“ヴィオレッタの事を雑に扱ったりはしない”って。
それが嘘じゃないなら私にも理解出来る様に説明してよ……
……その女の選択が自分勝手な物じゃ無いって証明してよッ!!! 」
<――“人族の身では”理解出来ない発言を繰り出した八重桜に対し
エリシアさんは、そう掴み掛からん程の様子で食って掛かった。
だが、この直後……そんなエリシアさんに対し
八重桜は、大きな溜息を付き――>
「言った筈だ……おらの話さ黙って聞けと。
先ず……メディニラは、おめぇや
そっちの主人公さ考えてる様な“裏切り”など一切して無え。
……寧ろ、一切の誤魔化しが効かねえ冥王に対し
万が一にもおめぇや娘っ子の覚悟が無駄に成らねぇ様
細心の注意さ払って最大の賭けに出たんだ。
感謝こそすれども“恨み節”さ語るなど以ての外だど? 」
<――そう、窘める様に言った。
そして、この発言を受け更に何かを言い掛けたエリシアさんに対し――>
「……本来ならばメディニラ自ら説明するのが筋だが
とんでも無え奇策さ成功させた手腕に免じて
面倒だが、おめぇ達にも分かり易く説明してやる……良いか?
おらを含め、古代種と呼ばれる精霊女王は皆
この場に集まった精霊女王達とは比べ物さ成らねえ程の苦労さして来た。
……言うまでも無えが
これは断じて“年寄の苦労自慢”じゃ無えだど?
まぁ、幾ら説明した所で“何も無え所に何かを生み出す”苦労は
“ニ世代目”以降には判らねえかも知れねえだが……兎も角だ。
その大変な苦労さする事と成った代わりに、おら達“古代種”には
精霊信奉者から捧げられる“祈り”を含め
力の源と出来る手段が大量に在るんだ……言い換えれば
今の娘っ子には上手く扱えねえ“失われた力と技”が……そして
本来ならば、おら達古代種が棲む森は必ずと言って良い程
その力さ遺憾無く発揮出来るだけの“莫大な力”さ蓄えてる。
さて……此処からが何よりも重要な話だ、聞き逃すで無えど?
良いか? ……メディニラは“全て正しく再分配”と言っただ。
つまり、おらが持つ本来の力さ考えれば
冥王に奪われて居たと言う森さ力は――
“全て”
――おらの森さ飛んで来るって事だ」
<――メディニラが何処までを想定し
どうやって此処までの流れを読んで居たのかなど俺には解らない。
だが……少なくとも、この瞬間
メディニラが“裏切り”とは真逆の選択をして居た事を知ったエリシアさんは――>
「成程……“本音と建前”を上手く使った訳か。
けど……その力で何が出来るの?
ヴィオレッタの罪は? ……八重桜。
貴女の力じゃヴィオレッタの罪を消し去れないんじゃ無かったの? 」
<――その行動に理解は示しつつも、そう不安げに問うた。
すると――>
「……ああ。
さっきも言ったが、おらに罪を消し去る力は無え……だが
おらさ森に集まった力が起こした“変化”は
おめぇが望む事を叶えるだけの秘策さ生み出した。
……もし、未だおらの言ってる事が理解出来ねえなら
おめぇや其処の主人公が護り育てた“一角獣”が
一体どんな姿に“変化”してるのか、その目で見て判断しろ。
さて……“小屋”さ行くど。
付いて来い――」
<――直後
強引に俺達の手を掴んだ八重桜に依り
チビコーンの待つ“簡易住居”へと転移する事と成ったエリシアさんと俺は……
……簡易住居で、余りにも“大きく変化”した
“チビコーン”との再会を果たす事と成った――>
………
……
…
「ん? エリシアか……顔色が優れないが、何か遭ったのか? 」
「チ、チビコーン? ……君なの? 」
<――振り向き様、木漏れ日を浴び鮮やかに煌めいた純白の鬣
其処には“仔馬”と呼ぶべき大きさだった嘗ての可愛らしい姿は無く……
……それどころか、並の馬など全く比べ物に成らない程の
“神獣”と呼ぶに相応しい体躯を持った一角獣の姿が在った。
と言うか……“育ての親”と呼ぶべきエリシアさんが驚いた位だ。
……俺自身、この神獣を“チビコーン”だと判断し得た理由が
既に首には巻かれて居らず、その立派な角に“輪投げ”の様に通されて居た
“柊と青薔薇で出来た花飾り”だった程度には
面影と呼べる物は殆ど無かった。
だが……この直後、チビコーンは
何一切違和感を感じさせない程の流暢な言葉遣いで――>
「驚かせてすまない……
……私の見た目は大きく変わってしまったが
貴女から受けた愛は何一つ忘れては居ない。
桜種と呼ばれる強力な力を有する精霊女王との同化
そして、溢れんばかりに押し寄せた生命力が
私の体を急激に成長させてしまっただけだ。
エリシアよ……私は既に“可愛い”見た目では無くなったかも知れないが
貴女が嫌で無いのならば、これまで通り共に過ごす事は出来る……
……正直、口にするのはとても恥ずかしいのだが
私自身もそれを強く望んで居る。
エリシアよ……もう、貴女が愛でてくれた
“小さく可愛い”姿には成れないが……これまでの様に
私の傍に居てはくれないだろうか? ……」
<――その神々しい見た目とは裏腹に
そう、照れた様にエリシアさんへの想いを告げたのだった。
そして――>
「……馬鹿じゃないの?
どんなに成長しても、私に取ってチビコーンはチビコーンだし
大きくなったからって捨てる様な愛情なら、最初から育てて無いよ。
けど……もし“名前が嫌”とかあったら言ってね?
もっと勇ましいのとか、格好良いのとか頑張って考えるし……」
<――そう、困った様に言ったエリシアさんの様子に
ほんの一瞬“キョトン”としたチビコーンは……直後
とても嬉しそうに嘶き――>
「安心した……本当は“怖がられるのでは”と、とても不安だったんだ。
それと……名前はこのままで良い。
今、私の中に残る唯一の可愛さだ……
……今後も存分にこの名前で“可愛さ”を打ち出すさ」
<――何処か自慢げで
それで居て、何処か照れくささを感じさせる様な物言いでそう言った。
すると――>
「……さて、状況が理解出来た所で本題に戻るど?
既に何度も説明したが……おらを含め、精霊女王には
人間を始め、何れの種族に対する罪を赦す力は無く
その力を持つのは天か地に棲まう何れかだけと相場は決まってるだ。
だが……たった一つだけ
その何れの力をも借りず“罪を赦す”方法がある。
まぁ、正しくは“罪を浄化する力”と言うべきだろうが……」
<――此処までの平和で穏やかだった空気に水を差すかの様に
そう、真剣な眼差しで語った八重桜。
そして……この直後
その力を有する者こそが“チビコーン”であると言った彼女は――>
「……だが、物事はそう“トントン拍子”に進まねぇのが世の常だ。
罪は勿論……“穢れ”をも浄化する力を持つ一角獣の力は
長らく地縛霊としてあの場に自らを縛り付けて居た
娘っ子さ魂に溜まった穢れを……ともすれば
その魂毎浄化してしまうかも知れねえ。
……余り言いたくは無えだが、隠す事も出来ねえからハッキリ言う。
良いか? この方法は……“一か八か”だ」
<――そう、困難な道であると語った。
そして……この発言の直後
チビコーンは――>
「エリシア……実を言えば、私もあの娘の事は良く知って居る。
……正直、余り褒められた行動では無いかも知れないが
貴女が“親友”と呼び大切に想って居る者が
どの様な存在であるのかを確認する為
過去に一度“様子を見に行った”事があったのだが……」
<――そう、恐らく秘密にして居たのだろう事を口走り
そんなチビコーンの発言に、今の今まで
不安に耐え続けて居たのだろうエリシアさんは――>
「チビコーン……キツい言い方に成っちゃうけど、ごめんね。
私、これ以上ヴィオレッタが苦しむ事に成るのは耐えられないんだ……だから。
“結論”を教えて……お願い」
<――苦しい胸の内を吐き出す様に、そう言って結論を急いだ。
だが……この直後、チビコーンは
そんなエリシアさんの不安な心をも浄化するか様に――>
「……勝手な行動を取った事は申し訳無いと思って居る。
だが、聞いてくれエリシア……
……“今も同じだ”と言い切る事は出来ないが
少なくとも、私が見たあの娘の純粋さは
私の得た浄化の力で消滅する様な禍々しい物では無いと感じて居る。
それに……エリシア
私は、貴女が笑顔で居られる刻を共に過ごしたいんだ。
……貴女が大切だと言う親友を救う為なら協力を惜しまないし
誰よりも大切な貴女に此処まで育てて貰った恩を忘れても居ない。
エリシア……私は
貴女の心の重荷も責任も……共に背負いたいんだ」
<――そう言った。
直後……このお世辞にも“結論”とは言い難いチビコーンの言葉と想いは
エリシアさんの事は勿論、この場に居る俺達の事さえも勇気付けてくれて――>
………
……
…
「有難う、チビコーン……でも、背負って貰うのは心の重荷だけで充分。
責任は全て私に背負わせて欲しい……
……これだけは、誰にも背負わせちゃ駄目なんだ」
<――この瞬間
恐ろしい程の不安に真っ向から立ち向かう決意をしたエリシアさんは
そう言って、チビコーンの事を優しく撫でた。
そして――>
「チビコーン……ヴィオレッタの罪と穢れを消し去って」
「……勿論さ、エリシア。
さて……精霊女王八重桜よ。
私は何時でも構わない……そちらの準備が整ったならば
重き罪と穢れを背負いし半魔族の娘、ヴィオレッタを
この場に連れて来て貰いたい……」
「ああ……そのつもりだ」
<――静かに交わされた会話
この場に再びの静寂が訪れ、そして――>
………
……
…
「なッ……メ、メル?! 」
<――現在
この世界に於いて“霊”として存在して居るヴィオレッタさん。
そんな、ある意味では“不安定な存在”に対する浄化の儀式を
少しでも安定させる為か……この瞬間
八重桜は、少なくとも“憑依”出来る事など
一言も伝えて居なかった筈のメルをこの場に連れて来た。
……恐らくは、既にヴィオレッタさんの“憑依”して居るであろう
“彼女”を――>
「お、お久し振りです主人公さん……それで、その……
……また、メルちゃんの体を
“お借りしちゃう形”に成ってしまって……」
<――直後
申し訳無さ気にそう言い掛けたメル……いや。
“ヴィオレッタさん”に対し、俺が何かを返すよりも遥かに早く――>
「ダラダラ話してる暇なんて無えだっ!!
馴れ合いは後にしろバカモン!! ……
……一角獣、さっさと儀式さ始めろっ! 」
<――そう言って強引に話を切った八重桜
直後、そんな八重桜に対し――>
「ああ、分かっている……
……エリシア、結末がどう成るにせよ
私は貴女に“彼女を救う為に動く”と誓う。
だから、どうか私の事を信じて欲しい――」
<――そう、短く言葉を返し静かに瞳を閉じた。
直後――>
………
……
…
「――“半魔族の娘、ヴィオレッタ”よ。
我が一角獣の力を以て、汝の罪穢れ
その全てを余す所無く詳らかにせん――」
<――成長したその体躯に見合う程、立派に成長した角。
詠唱と共にその角より発せられた稲光は……
……天に向かい一直線に“打ち上がった”直後
ヴィオレッタさんへと差し迫り……彼女の体に触れる寸前、数十に枝分かれし
まるで“鳥籠”の様に彼女の体を包みこんだ。
ともすれば“牢屋”の様にも見える異様な姿で――>
「――半魔族の娘、ヴィオレッタよ。
嘘偽りは一切通じない……私の問いには、全て正直に答えよ」
<――バチバチと激しい音を立て彼女の体を包む稲光。
そんな中、一角獣は冷酷さを感じる程の物言いでそう問うた。
そして……この直後
静かに頷いた彼女に対し――>
「……良かろう。
では、汝に問う――
“汝が心の中に……例え僅かで在ろうとも
汝が滅ぼす事と成った村への復讐心や悪意は存在したか? ”
――さぁ、答えよ」
<――そう、余りにも酷い問いを投げ掛けた。
直後、そんな一角獣の問いに何かを発し掛け……
……拳を握り、それを必死に堪えたエリシアさんの眼前で
静かにこの問いに答えたヴィオレッタさん。
彼女は――>
………
……
…
「……恨む気持ちや、悪感情が無いとは言えません。
私は唯、皆と同じ様に……普通に扱って貰いたかった。
……仲良く出来るならそれが何よりだって思って居ました。
だけど……最後まで分かっては貰えませんでした。
それどころか、エリシアまで傷つけて
親友に悲しい思いをさせたんです……その事は、今も許せません。
でも……私は、それとは比べ物に成らない程の行いをしてしまったんです。
確かにあの日、私は可怪しくなりました
未だにあの日の記憶も定かではありません……でも
きっと、私の心がもっと正常だったら……もっと優しかったら
あの村を襲う事は……村の人達が被害に遭う事は無かった筈です」
<――隠すでも無く、偽るでも無く
この瞬間、そう思いの全てを打ち明けた。
まるで、自らが原因であるかの様に……
……“赦されたい”と言う気持ちなど
微塵も感じさせない程の態度を以て――>
「何? ……“全ての罪は自らに在る”と言うか」
「はい……どれ程、自分に甘く答えようとしても
自分自身の心の闇が原因だと思えて仕方が無いんです。
私は、赦されるべきでは無い……と思います」
<――改めて問われ
そう、曇りの無い眼で言い切ったヴィオレッタさん。
そんな彼女に対し――>
「成程、自らさえ赦せぬ行いと言うか……嘘偽りも感じぬ。
流石はエリシアが認めし曇り無き娘よ……とは言え、罪は罪
相応の罰を与えねば、汝が罪を拭えぬのもまた事実。
汝が罪、唯赦す事は出来ぬ……
……依って、私は汝ヴィオレッタに罰を与える事とする」
<――まるで
つい先程エリシアさんとした約束が偽りだったかの様に
そう言い渡した一角獣。
……だが、この直後
エリシアさんが動くよりも早く――>
「はい……罪は全て受け入れます。
エリシア、ごめんね……でも、逃げ続けたままの卑怯な私じゃ
大切な大親友の横には居られなくて……」
<――静かに……だが
力強く言ったヴィオレッタさんの揺るぎない態度に
エリシアさんは、力無く膝から崩れ落ちた。
直後……“どうして” と訊ねる事さえ出来ない程
酷く憔悴したエリシアさんの眼前で――>
「……汝が心と言葉に一切の偽りが無い事を認めよう。
では、汝の罰を言い渡す――」
<――無情にも、そう発した一角獣。
そして、この直後――>
………
……
…
「――半魔族の娘、ヴィオレッタよ。
汝の罪に対し下される罰は……
……自らの意志の如何に関わらず、汝の手に依り行われた
“虐殺”……その罪を償う意志を持つ汝の心に従い
失われし村人達の魂を鎮める為の“鎮魂碑”を建て
その碑へと、汝が魂の赦されるその日まで祈りを捧げる事とする。
……とは言え、その者の肉体を借り“碑”を建てれば
要らぬ巻き添えを作り、新たな罪を負う事と成るだろう。
依って……ヴィオレッタよ。
我が一角獣の力を以て、汝が罪を――
――“保留”とする」
<――そう、言い渡した。
直後――>
「エリシア……良く抑えてくれた。
私を信じてくれて、有り難う――」
<――そう、優しく言った一角獣
そして……この瞬間
これまで彼女を包んで居た“籠”は
再び、一本の稲光と成り天へと消えて行き――>
………
……
…
「い、一体どう言う事だ? ……」
<――この瞬間
そう、思わず口をついて出てしまった俺の発言を“鼻で笑った”八重桜。
そして――>
「ほう……つまり、おらにこの娘っ子さ“転生させろ”って事だな? 」
<――一角獣に対しそう問い
“罪を償う為に必要不可欠な措置だ“
そう応えた一角獣に対し
強く、笑みを浮かべると――>
「成程……それなら“仕方が無え”だな。
ほれ、娘っ子……状況さ悪く成らねえ内に早う此方さ来るだ!! 」
<――言うや否や、ヴィオレッタさんの腕を掴み
その魂を、メルの体から“抜き取る様に”引っ張った八重桜は――>
「主人公……その娘は良く頑張ったが
長く憑依させて居た所為で魂の調子さ悪くなってる……だが
おらは娘っ子さ転生させねば成らねえ。
……この儀式におめぇの力は不要だ
おめぇは、その娘の冷えた体さ温めてやれ。
だが、間違っても火の魔導なんぞで“炙る”で無えだど?
良いか? ……鈍いおめぇにも分かる様にハッキリ言ってやる。
おめぇの“腕の中で”温めろ……良いな? 任せただど? 」
<――そう言うと、意識を失ったメルの事を俺に任せ
ヴィオレッタさんの魂を転生させる為と思しき準備を始めた。
“そ、そんな恥ずかしい事出来ませんッ! ”
……そう返す隙さえ与えない程の厳かな雰囲気を醸し出しながら。
ともあれ……この直後
“顔から火が出そう”な程の要求に疑問を感じつつも
言われた通り、彼女の体を抱き締めた
瞬間――>
「主人公……さん…… ヴィオレッタさんは……無事ですか? ……」
<――意識を取り戻すや否や、そう弱々しく声を発したメル。
そんな彼女の優しさに――>
「……ああ、全部メルのお陰だ。
でも……お願いだから、もう少し自分の事も大切にしてくれ。
お願いだから……俺の傍から居なくならないでくれ……」
<――急激に感じた“喪失”と言う、恐ろしい結末への拒絶と恐怖。
そんな耐え難い不安を吐き出すかの様に
そう、メルを責めた俺は……直後
そんな不安を掻き消す為かの様に、メルを強く抱き締めた――>
………
……
…
「その……不安にさせてごめんなさい。
これからも主人公さんのお傍に居ますから
だから……もう、泣かないで下さい。
……私、主人公さんに嫌だと言われてもお傍に居続けますからっ! 」
<――どれ程止めようとしても勝手に溢れ続けた涙
……そんな俺を落ち着かせる為か、決して本調子では無い筈の彼女は
そう言って、俺に微笑み掛け
俺の感じて居た不安と恐怖を少しずつ取り去ろうとしてくれた。
だが――
“無事で良かった”
“一刻も早く回復させたい”
“八重桜はどうやってメルの存在を知った? ”
“メルを失いたくない”
――そんな、頭の中を巡る数多くの考えの所為か
再び強い不安を感じてしまった俺は……この直後
再び、身勝手な感情で彼女を抱き締めた――>
===第二三九話・終===




