第二三三話「怒りを鎮めて貰うのは楽勝ですか? 」
<――天照様を始めとする
各地域の長全員が一堂に会し開かれた歓迎会の後……
……俺達は、本題である“御神札の謎解明”の為
何よりも未だ目覚めぬマリアの為、サーブロウ伯爵と共に
この国の森を一人で管理して居る精霊女王“九輪桜”の元へと向かう事と成った。
の、だが――>
………
……
…
「……あ、あの。
先程の会で、天照様が仰られて居た話についてなんですが……」
<――馬車に揺られながら
サーブロウ伯爵に対し……少なくとも
“良い方向”には変化した精霊女王達との協定の内容と
先程聞きそびれてしまった協定の細かな変更点を聞き出す為、そう訊ねた俺。
すると――>
「あ~、その……“色々”あってね。
勿論、私達が何かをしたと言う訳では無く
彼女を含めた精霊女王達の“噂話”が駆け巡った結果と言うべきか……
何と言うか、その……どうも、君の国にある薬浴が
精霊女王達の“憩いの場”にも成って居る様でね。
先程、天照様が仰られた通り
その状況を知った彼女はその事に激昂したんだ。
唯……天照様はその事を脅威とは受け取らず
寧ろ彼女の怒りを理解し、少々駆け足で作られた協定に
“良い風を吹かせた”……とでも言うのが適切だろうか?
兎も角……あの日、天照様は九輪桜に対し
私もお世話に成って居る旅館エリュシオンへの立ち入りを許可した上で
月に一度、彼女が希望する日時を完全な貸し切りにする事で話をつけた。
その上で――
“他の精霊女王達がお越しになられた場合も同様に致しましょう”
――そう、約束をしたんだ」
「そんな事があったんですね……って言うか
それって一体何時決まった事なんですか? 」
「かなり前の事だったと記憶して居るが……何時だったにせよ
天照様は君に“要らぬ気を揉ませたく無い”と仰って居たからね……
……君も驚いただろうが、君の国に協定の変更情報が伝わらなかったのは
恐らく、そう言った理由があったのかも知れないね」
「そ、そんな……じゃあ、俺の所為でこの国に迷惑を……」
「……それは違う、君は何も悪い事をしていないし
そもそも、この国の自然環境は今も尚大きく変わり続けて居る。
恐らく、彼女はその負担を訴えるのに
最も適切と思える天照様に……“彼女なりの伝え方で”伝えただけさ」
<――伯爵からこんな答えが返って来た時点で
ある程度予想して置くべきではあったのだが……
……この後
九輪桜の泉に到着した俺は――>
………
……
…
「待ってたぜ? 主人公……
……てめぇ、良くもいけしゃあしゃあと顔を出しやがったな? 」
<――馬車から降りるや否や
水柱と共に泉から現れた九輪桜から、そう凄まれ
更に――>
「先ず一つ……てめぇの口約束を信じて待ってたオレに
てめぇは一度たりとも“カレー”を寄越さなかった。
……オレが大嫌えな魔族種である、あのアイヴィーとか言う女は
半月かそこらに一度、此方が対応に疲れちまう程バカ丁寧に持って来やがるが
てめぇはあれから何の連絡も寄越さなかった。
それだけじゃ無ぇ……オレが最も許せねぇのは二つ目だ。
てめぇは、精霊女王達の事を一般市民にまで……それも
他国の“精霊信奉者”まで呼び付け、自国の“観光”なんてモンに利用しやがった。
……森を救う為に結んだ協定だ、何だと反吐が出る様な綺麗事を抜かしながら
あろう事か……てめぇは“銭金”を優先しやがったんだよ!!! 」
<――そう、一切の収まりを見せない怒りと共に
止め処無く溢れる苦情を口にした。
だが――>
「ま、待って下さい九輪桜さんッ!!
カレーの件は確かに……けどッ!!
俺は別に精霊女王達を観光資源に使ってなんか!! ……」
「……んだと? てめぇッ!!
この期に及んでまだ下らねぇ言い訳しやがるつもりか?!!
なら――
“精霊女王御用達! 聖なる者達の集う政令国家名物! 薬浴!
疲れを癒やし、内なる邪気を祓いましょう”
――って謳い文句を
てめぇの所の旅館が掲げてやがる件については
一体どう言い訳しやがるってんだおらッ!!! 」
「そ、そう言えばそんな事が書いてあった様な……って。
とっ、兎に角ッ! ……す、少なくとも!
旅館の人達に悪気は無い筈で! ……」
「ほう? ……ったく、所詮はてめぇも人族か
とんでも無ぇ下衆さだぜ……
……オレに一切の報告も無く協定の内容を勝手に変えやがった事を
詫びるどころか、まさか居直るとはな……良い度胸じゃねぇか。
主人公……てめぇが先に協定を破りやがったんだぜ?
あくまでオレから破った訳じゃ無ぇ。
その事を良く理解してから、この世に“お別れ”しな――」
<――言うや否や
俺に向け大量の蔓を差し向けた九輪桜。
……直後
俺の体を空高くに“吊り上げた”彼女は――>
………
……
…
「さてと……この高さから落ちて死ぬと成りゃあ
“痛てぇ”なんて言葉じゃ毛程も足りねぇ程の衝撃が
てめぇの体を貫く事に成るだろうな? ……
……謝るなら今の内だぜ? 主人公。
今直ぐ、オレが満足する程の詫びを入れてみな……」
<――そう“最後通牒”をした。
直後――>
「し……信じて貰えないかも知れませんが
俺は断じて精霊女王達を商売の道具に使ってなど居ません。
旅館が精霊女王を謳い文句に使って居る事が駄目だと言うのなら
早急にそれをやめる様求めますし、今後我が国が二度と
精霊女王を謳い文句にした何かを発する事の無い様
政令国家全域で再発防止策を徹底します。
それから……カレーの件ですが
“忙しくて”とか“色々あって”などと言い訳をするつもりはありません
純粋に俺の至らなさが原因です、本当に申し訳ありませんでした。
それで、その……重ねて申し訳無い事に、現在
カレーを生み出す為の道具が俺の手元に無く
今直ぐにお渡しする事も出来ない状況でして……なので
アイヴィーさんから届けられて居る物と同じには成りますが
彼女に俺の分のカレーを作って貰える様……若しくは、何か他に
九輪桜さんのご満足頂ける食事をご提供出来る様
今直ぐにでも、アイヴィーさんかミリアさんにお願いして来ます。
その……酷く勝手なお願いではありますが
俺に、もう一度だけチャンスを下さい……お願いします」
<――現時点で伝えるべきと思った事を、全て余す所無く伝えた俺。
だが、彼女は一切怒りを鎮めてはくれず――>
「ほう? ……相変わらず耳触りだけは良い事を言いやがるな?
だが……残念だよ主人公。
今、お前の命を辛うじて保ってるこの蔓だけどな……もう
“キレ”ちまうぜ――」
<――瞬間
“ブチッ”……と、鈍い音を立てて千切れた蔓は
この直後、急激に落下する俺の体のバランスを
意図的に“崩した”――>
………
……
…
「ふぅ……危ない所だったわね主人公。
……何処も怪我は無い? 」
「あ、ああ……マリーンのお陰でどうにか無事だよ……有難う」
「良かった……でも、あまり私の事……見ないでね? 」
「えっ? ……な、何でだ? 」
「だって、この技って可愛く無いし……」
<――直後
既の所で“悪魔之羽撃”を発動させ
俺を救ったマリーンは……少し、頬を赤らめながらそう言った。
その、一方で――>
………
……
…
「やるじゃねえか……予想より反応が良くて驚いたぜ?
まさか、双方無傷で助けちまうとはな……」
<――そう、マリーンを嘲笑うかの様に言った九輪桜。
直後……俺は、そんな彼女の暴挙に対し
食って掛かろうとした皆の事を落ち着かせつつ――>
「……ええ、マリーンは優秀な魔導師ですから。
兎に角……何れにせよ“体勢が崩れた”程度で済んで良かったですし
蔓が切れると言う“不幸な事故”も、結果として
“ビックリ”程度で済んで良かったな~って事で。
この件は忘れて、建設的な話を……」
<――そう、敢えて
“騒ぎにしない”考えを伝えようとした俺に対し――>
「ほう? ……流石の“詭弁”だな?
だが、オレがもう一度てめぇの体を持ち上げ
もう一度……“ワザと”落としたら
てめぇのその余裕も消え去っちまうんじゃねぇのか? 」
<――遮る様に、逆撫でる様に
この瞬間……静かに、そう言った九輪桜。
そして――>
「あ~……答えなくて良いぜ?
てめぇのその恩着せがましい“詭弁”に免じて
これまでの非礼は許してやるからよ……だが。
……他の精霊女王達は兎も角、少なくとも
オレは、てめぇと結んだ協定からは抜けさせて貰うぜ? ……」
<――直後
そう言い切った――>
………
……
…
「分かりました……ですが、一つだけ確認を」
<――この瞬間
“協定からの脱退”を言い切った九輪桜本人さえ
訝しむ程の“返す刀”でそう問い掛けた俺に対し――
“何だ? 負け犬の遠吠えなら他所でやってくれよ? ”
――と、更に悪態をついて見せた彼女。
この直後――>
「……俺の所為で九輪桜さんと日之本皇国との関係性に
何らかの亀裂が入ってしまう事だけは断じて受け入れられません。
俺がお願いして結んで頂いた協定については
今直ぐに破棄して頂いても構いません、ですが……」
「成程……日之本皇国との協定は今まで通りにしとけってか。
……ま、それ位なら構わねぇぜ? 」
「有難うございます……そのお答えが頂けただけでも充分です」
<――そう会話を交わした後、俺は素直にこの場を去ろうとした。
少なくとも、現時点で俺に向けられて居る彼女の怒りは
並大抵では無い様に感じたから……そして、何よりも
あと少しでも彼女を刺激してしまったら
“仲間に被害が及ぶ可能性があるかも知れない”
そう、僅かにでも考えてしまったから――>
「……お、お待ち下さい九輪桜様ッ!! 主人公君! 君もだッ!
九輪桜様のお怒りは充分に理解しておりますが
九輪桜様が森林の管理に心血を注ぎ
文字通り、身を削る様な日々をお過ごしに成られて居る様に
望むべくも無く強大な“星之光”を得てしまった主人公にも
耐え難い程の! ……」
<――直後
そう、慌てて仲を取り持とうとしてくれたサーブロウ伯爵。
だが――>
「黙れよサーブロウ……主人公はな。
“最初”の時も……“今回”も、一切の礼儀を通さず現れ
その度に面倒な頼み事ばかりだ。
良いか? ……オレは其奴の願いを訊いてやった
だが、其奴は約束を破った……
……多忙だ責任だ何だと、どんな言い訳を抜かそうとも
物事には超えちゃ成らねえ限度ってモンがあんだよ。
主人公が色々と“忙しい御立場”だってんなら
わざわざ、オレ程度の些末な……
……“忘れちまう”程度の存在に会いに来る必要は無え筈だろ? 」
<――以降、何をどう取り繕おうとも
決して許してはくれないだろう雰囲気を醸し出しながら
静かにそう言った九輪桜、だが……この直後。
そんな彼女に対し、必死に声を上げた存在が居た――>
………
……
…
「……九輪桜様っ!!
主人公さんだけが……主人公さんだけが悪い訳では無いんですっ!
少しで構いませんから……私の話を聞いて下さいっ!! 」
<――そう、胸を抑えながら必死に叫んだ存在。
それは、メルだった――>
「何だ? ……“怒りの矛先”をボヤけさせりゃあ
主人公への怒りが減るとでも考えたか? 」
「どう思われても構いません……兎に角、私の話を聞いて下さいっ!! 」
「マジか……オレが苦手なタイプの奴だなお前。
仕方無え……話してみろよ」
「あ、有難うございますっ! 」
「いや、別に褒めてねえが……って
今のはそう言う意味の“礼”じゃ無かったか……チッ。
取り敢えず、早い所話せよ……」
<――直後
諦めた様にそう言った九輪桜に対し、メルは――>
「先程、伯爵がお話に成られた通り……主人公さんは
星之光と言う強大な力を獲得されました。
でも……その所為で、主人公さんは今までより更に“無理”をしてるんです」
<――そう、言った。
そして――>
「何が言いてえ? ……無理して疲れてたから忘れてても仕方無えってか? 」
「いいえ……主人公さんの無理に気付いて居ながら
それでも、頼ってしまう……そうしなければ成らない程
主人公さんの周りには困ってる人々が多いんです。
九輪桜様が“最初の時”と仰ったお願いの日だってそうです。
主人公さんが、森や精霊族を救う為に動いて居た事……」
「ああ……てめぇに言われなくても憶えてるよ。
……で?
“何時も人の為に動いてる”って事は確りと理解したが。
てめぇは一体……オレに何を伝えてえんだ? 」
「九輪桜様……貴女が“今回も”と仰ったのは
恐らく、既に此方のお願いを知って居るからです。
知って居て……其処まで拒絶してしまう程
何をそんなに怒って居るのですか? ……“食事”だけが理由では無い筈です。
答えて下さい……もし、このまま“喧嘩別れ”に成ってしまうとしても
本当の理由さえ判らないままで帰る事は出来ません……
……そんなに簡単に諦められる程、私達のお願いは軽い物じゃ無いんですっ!! 」
<――この瞬間
どう聞いても怒りを買いそうな物言いで、そう強く問うたメル。
直後……そんな“恐れ”が現実に成ったかの様に
慌てて間に入った俺を、軽々と“弾き飛ばした”九輪桜は――>
………
……
…
「……妹達は極楽気分で“仲良し小好し”
オレは独りで貸し切り風呂……えらく舐められたモンだとは思わねえか? 」
<――この瞬間
メルの身体を持ち上げ、静かにそう問うた九輪桜。
この直後――>
「良かった……やっと話してくれましたね、本当の理由……っ……」
<――再び、誰が聞いても無礼な物言いで返したメル。
そして――>
「……舐めた口を利きがやる。
おい女……てめぇの事
このまま“絞め殺して”やっても構わねぇんだぜ? ……」
<――言うや否や
メルの身体を強く締め上げ始めた九輪桜。
だが……それでも尚、メルは一歩も引かず――>
………
……
…
「……どんな立派な箱に入れようとも、何をどう飾ろうとも
生ゴミは所詮“生ゴミ”でしか無いんです……っ……
……九輪桜様の悲しみに蓋をし続ける事は無理ですし
私達が心から願って居る事に九輪桜程の存在が蓋をする様な行動を取れば
恐らくもう二度と、私達の大切が返って来る事は無い……
……どちらの事実にも“蓋”は出来ないんです。
九輪桜様……もし、この真実を“詭弁”で隠し
どうにかして私達が貴女のご機嫌を伺って居たとしたら……
……貴女は私達に、心から微笑んで下さいましたか? 」
<――この瞬間
真っ直ぐに九輪桜の目を見つめ、そう問うたメル。
そんなメルの命懸けの発言に――>
………
……
…
「……少々発言は“臭え”が
少なくとも……嘘は言って無ぇみてぇだな」
<――僅かに態度を軟化させた九輪桜。
そして――>
「……九輪桜様にそんな“嘘”が通用するとは思ってませんし
仮に嘘を言うつもりで此処に立って居たとしても
恐らく……さっきの“事故”で全部忘れちゃってたと思います」
「何だと? ……嫌味のつもりか? 」
「そ、そんなつもりでは……私は唯、主人公さんが心配だっただけで……」
「成程、唯の“天然”か……やっぱり“苦手なタイプ”だよ、おめぇは。
分かった……今回はてめぇの顔を立ててやる。
だが、話を進める前にそっちの“馬鹿”に一つだけ警告だ――」
<――そう言って、メルの身体を地上へと降ろし
俺の方へと向き直った九輪桜は――>
………
……
…
「――おい、主人公。
てめぇが度々やってくれたオレへの無礼な対応についてだが……
……先ず、今までの“分”に利子つけて寄越しな。
最低でも倍……いや、三倍だ。
だが……一億倍寄越そうが、三度目は絶対に許さねぇ。
分かったな? ……次は無えって事と
今てめぇが無事に生きられてるのは“其奴等のお陰”って事を
確りと理解しとけよ? ……」
<――“次は殺す”と言ったに等しい殺気を放ちながら
そう“警告”をしたのだった――>
「……い、今直ぐには用意出来ませんが!
か、必ず用意致しますので!! ……」
「煩え、てめぇの都合は聞きたく無ぇ……一時間以内に用意しろ」
「なっ……わ、分かりました……」
「おう、良い返事だ……じゃあ“次”だ」
「も、もう一つあるんですか?! 」
「何だ? ……オレは別に今直ぐ帰っても良いんだぜ? 」
「な゛ッ?! ……だ、黙って聞きますッ!! 」
「……ったく、なら最初から素直にしてろよ。
兎に角だ……もし、てめぇがオレとの間の“協定”を
“再度結んで欲しい”……と頭を下げて懇願するってんなら
オレを最上級の扱いで、てめぇの国の“薬浴”とかって所に連れて行く事で
一応、不問にしてやるよ……但し。
そん時が来たら“精霊女王”達には
お前が無理やり連れて来たって言えよ? ……わ、分かったんだろうな? 」
<――この瞬間
何故か頬を赤らめながらそう言った九輪桜に、思わず――
“か、可愛い……”
――そう発しかけ、どうにかそれを抑えた俺は
この直後、必死に冷静を装い――>
「はい……それで俺の非礼が少しでも許されると言うのなら」
<――と、返したのだった。
なにはともあれ、この後――>
………
……
…
「で? ……“今日の分”はどうするつもりだ? 」
「そ、それはその……あッ!!
その……もしもご迷惑でなければ、本日
九輪桜さんのご希望された“最上級の扱い”として
我が国が誇る旅館の最上級客室にお泊り頂き、薬浴で疲れを癒やした後
最高級の酒や食事をご堪能頂くと言うのは如何かと……
……も、勿論ッ! 九輪桜さんのご予定もありますし
そもそもカレーをご所望でしたら、それはそれで
別に用意させて頂きますので!! ……」
「ほう……見るからに“急拵えの案”みてぇだが
オレは優しいからな……その申し出、受けてやるよ。
まぁそれはそれとして……だ。
……今回、てめぇが欲してるのが一体何だったか
当然、何と無く分かっちゃあ居るが……念の為だ。
改めて……見せてみな」
<――そう言って手を差し出して来た九輪桜。
そんな彼女に対し、恐る恐る御神札を手渡した
瞬間――>
………
……
…
「……メディニラの野郎、面倒臭え事を押し付けやがって。
なぁ、主人公……此奴ぁ割と面倒な代物だぜ? 」
<――手に取るや否や
そう言って御神札を突き返して来た九輪桜。
……この直後
見るからに不機嫌な態度を見せた彼女に
“俺は一体何をすれば? ”
そう、恐る恐る訊ねた俺に対し――>
「恐らくだが……お前、此処に来る前メディニラから
“古の精霊女王”って存在について説明されただろ? 」
「え、ええ……確かにそんな話はされましたが……」
「チッ、やっぱりか……
……その古の精霊女王様ってのが
オレの知ってる“伝説通り”なら、中々の曲者だぜ?
……何でも、其奴はメディニラよりも“婆様”で
メディニラとオレを足しても勝てねぇ位の桁違いな術を使うとかって話だ。
まぁ、そもそも“本当に存在するなら”って話ではあるんだが……兎に角だ。
……間違い無く言える事は
御神札が持ってる妙な力は、オレ達“精霊女王”の力だって事だ。
だが当然、オレが御神札を作った訳でも無ければ
オレが嗅いだ事の無ぇ香りなのは間違い無ぇ……つまり。
御神札がその“古の精霊女王様の何か”だと仮定して
更に、その婆様が今も生きてて
この世界の何処かに隠れてやがるってんなら
そもそも、見つけ出す事自体……“人間の寿命程度”じゃ
全く足りねぇ位の大仕事に成るだろうって事さ……ま、一体何の為に
そんなやべぇ婆様を引っ張り出す必要があるのかは兎も角だが……」
<――“不可能である”
そう言ったに等しい言葉を発した。
そして――>
………
……
…
「あー……因みに、今のお前の表情で察したけどさ
そんなオレ達精霊女王ですら関わり合いに成りたく無ぇ
やべぇ婆様の力さえ借りたく成る程“切羽詰まって”んだろ?
って事は……まぁその、何だ。
……力は貸してやるからさ、そんな湿っぽい顔しないでくれるか? 」
<――恐らくは
現時点で明確な解決手段を持っては居ないのだろう彼女から発せられた
哀れみとも言うべき優しさに依って……俺は
抑えていた気持ちを爆発させる事と成った――>
………
……
…
「……重ね重ね申し訳有りません。
でも……俺に残された時間では足りないとしても
それでも……僅かでもマリアを助けられる可能性があると言うのなら
俺は……残りの人生全てを懸けても惜しくは有りません」
===第二三三話・終===




