第二一〇話「“両立”すれば楽勝ですか? 」
<――過去
恐らくはこの世界に生きとし生ける者達の中で
“最も嫌悪する存在”なのだろう俺に対し――
一応、餞別として教えて置くけど
“後進復帰”は君の残り寿命的にもう使わない方が良いよ?
――そう、何故かこの世界で俺が生き抜く為に重要な情報を
驚くほど丁寧に伝えた“上級管理者”……だが。
今と成っては、この念押しが
俺に技を使わせる為の“フリ”だったのかどうかさえ分からない。
そもそも、そんな事を考え――
“上級管理者の策略になんか乗らない”
――などと意固地に成る事は勿論、悪態を吐く余裕さえ無い今
他の手立てを考える余裕など俺には微塵も無くて――>
………
……
…
「……小……賢しい……真似をっ!!!
ですが……っ! ……所詮は紛い物共の寿命を
僅かばかり延命したに……過ぎないっ!!
苦し紛れに……」
<――直後
俺の鼓膜を震わせた“聞き覚え”のある台詞。
だが……時を戻したにも関わらず、俺の視界は失われたままだった。
……この瞬間、奴の姿すら見えぬ中
少なくとも、皆が“生きて居る時間”に戻った事を理解した俺は
その反面、周囲を視認出来ない中で発動した事が原因なのか
今、空中に居るだろう皆の姿すら視認出来ない現状に焦り……
……そして、俺に残された“寿命”が原因なのか
得られたとは言え、そのあまりにも短過ぎる“時間”に焦りを感じて居た――>
………
……
…
「……私から遠ざけた者達が再びこの場に“落ちる”その時
貴方は、何を……思うのでしょうねぇ? 」
<――この発言の後
奴は“時之狭間”を掛けた。
駄目だ……これでは徒に皆の死を繰り返すだけだ。
何か一つで良い……何か方法は無いのか?
ライドウの行動を阻害するだけの力が……
……戻す前と違わず、何一つとして動いてはくれない俺の身体を
無理にでも動かすだけの力が――>
………
……
…
「主よ……“残る死者の世界”に語り掛けるのだ……」
<――瞬間
突如として脳内に響き渡った“装備”の声。
だが“残る死者の世界”とは何なのか……そもそも
何故、この逼迫した状況に於いて
こんなにも抽象的な伝え方をしたのか……俺にはそれが分からなかった。
それこそ……物理的な攻撃に憧れ、常日頃から好んで使い続けて居た
“氷刃”などの、所謂“物理っぽい見た目の魔導技”に始まり
“魔導之大剣”やガンダルフからの“小刀”に
子供の様にはしゃいで居た俺に対する不満が為にそうしたのかとすら思えるほどに。
だが、そんな失礼な考えの後――
“後少しでも装備との信頼を築けて居たら
装備はもう少し分かり易く話してくれたのだろうか? ”
――と考えた瞬間
“装備”は、これらの考えを全て“真っ向から否定”し――>
………
……
…
「無礼な……吾の事を其処まで狭量に見て居たとは。
そうでは無いのだ主よ……
……吾と主が再び引き剥がされぬ為には
吾は主の暮らすこの世界の“法度”を護らねば成らぬ。
主よ……御主自身が理解せねば成らんのだ。
御主の力を……“死者から言い寄る”程の圧倒的な光の力を
“残る死者の世界”へと見せつけるのだ……」
<――最低限の苦言に留め、そう必死に伝えようとしてくれた。
だが……まるで余裕の無い今の俺に導き出せたのは
残る死者=“地縛霊”や“怨霊”と言う短絡的な物でしか無かった。
それこそ……“ネイト君”や、彼の“両親”の様に
自らの人生に不満や後悔のあった人達の事しか
今の俺には思い浮かばなかった。
もし仮に、彼らの様な存在が一時的にでも集まる場所があったとして
それが装備の言う“残る死者の世界”だと言うのなら
“光”とは程遠い鬱屈とした感情の渦巻く者達に
俺の得た力を見せて、一体何に成ると言うのだろうか――>
………
……
…
「さて……あの様な高さから落下すれば
何をしなくとも無事では済まないでしょう……が。
“万が一”と言う事も……」
<――駄目だ、答えを導き出すには余りにも時間が足りない。
奴の声と共に、刻一刻と迫る“限界時間”を考えれば
難しく考えている暇は微塵も無い。
何としても、この状況を切り抜ける力を得なければ成らない。
例え相手が悪霊の類であろうとも、その力を借り……
……いや、違う。
装備は言った――
“死者から言い寄る程の圧倒的な光の力を
残る死者の世界へと見せつけるのだ”
――と。
これまで俺は……他者の固有魔導を“どうやって”借りて居た?
そもそも、何故“伝説”と謳われる程の職業でありながら
固有魔導をたった一度しか使えないと言う制限がある?
何よりも……何故、固有魔導を発動させる度に
本来の持主と話せなくなる?
まるで、その場所から消えたかの様に――>
………
……
…
「主よ……答えは間近である……」
………
……
…
「分かった……分かったぞ!! 装備ッ!! 」
<――瞬間
頭に浮かんだ“それ”が正しいか否かなど微塵も考えず
俺は、これまでの人生の中で最も“自信過剰”で居る事を決めた。
“星之光”……伝説と謳われしこの力こそが
唯一絶対の全てを照らす圧倒的な光であると心の底から信じ
誰にも侵せない最高の力であると念じた。
そして……これまで
“貸して頂く”立場で挑んで居た人々の居る世界に向け――
貴方達の心に渦巻く憂いを吹き飛ばせるのは俺だけです。
――そう、これ以上無い程の自信過剰”な考えを伝えた。
直後――>
………
……
…
「……これは面白いッ!!
其処まで大言出来る程の力を持つと言うか!!
いや、確かに貴殿の様な者なら或いは……よしッ!!
拙者と同じく“物理的な力に憧れを持つ”青年よッ!
いいや“同士”よ! ……拙者が力、使うが良いッ!!
そして、拙者を天へと導いて貰いたいッ!! ……」
<――突如として脳内に響き渡った声。
直後、未だ視界を失ったままの俺にさえ何故か確りと見えた
“恐ろしく眼力の強い極太眉の男性”は、鼻息荒く
満面の笑みを浮かべたまま……此方に向け
“親指を立てながら”そう言った――>
………
……
…
(誰だ? ……と言うか、何だ? 此奴は)
<――この瞬間
そう……ある意味、当然な疑問を持った俺に対し
そんな考えを見抜いた様に、自らの“経験”と言う名の
記憶と知識を俺の脳内に流し込んだ男性。
彼は……俺と同じく、低過ぎる物理適性が故に物理職に憧れ
必死に鍛えたが、終ぞ“物理職としての道”は叶わなかった。
だが、それでも“一度で良いから物理的な武器を使いたい”と願った。
そして……その末に、彼は
ある意味“曲がった方法”で、ある意味“正当な方法”でそれを叶えた。
“攻撃術師”としての生涯を生き
“固有魔導”として手に入れた、その“力”に依って。
端的に表現するならば――
“無理も道理も片っ端から貫き通す”
――そう表現するべき
“何でもあり”な、その技を――>
………
……
…
「……一先ずは“対応能力”を奪っておきましょうか。
固有魔導:時之……何っ!? 」
………
……
…
<――無論
突如として脳内に現れ一方的に話し掛けて来た
彼の全てを理解した訳では無いが――
“無理も道理も片っ端から貫き通す”
――この技を託された俺は、この直後
光を失い、呼吸すらままならず……指一本さえ動かぬこの状況から抜け出し
皆とこの世界を護り抜く為
“無我之境地”と言う名の固有魔導を発動した――>
………
……
…
「何と悍ましい……その様な状態でまだ立てるとは
流石“蘇った”だけの事はありますねぇ?
しかし……それにしても悍ましいですねぇ?
……一度、鏡で“自らの姿”をご覧になっては如何です?
口から血反吐を“垂れ流しながら”立ち上がるその姿
死霊系魔物より悍ましいですよ?
……悪い事は言いません。
無理をせず、そのまま……っ!? 」
<――奴に限らず
誰に言われなくても、明らかに“無理に動かしている”自覚は在った。
だが、そんな“道理”を考えている暇なんて今の俺には微塵も無い。
発動したその瞬間……視界も、呼吸も
動かなかった筈の四肢さえも……
……その全てが嘘の様に確りと活動を始めた事。
傷の痛みも“物理適性の皆無さ”すらも感じない程
思い通りに動き始めたこの身体を……この力を
無駄にする暇なんて、無い――>
………
……
…
「チッ……一体何処にそんな力を隠して居たのです? 」
<――この瞬間、見るからに不満げな表情を浮かべそう言ったライドウ。
だが――>
………
……
…
「あの……良かったら、私の固有魔導も使って下さい……
その……“反復詠唱”って言うんですが……」
<――“自信過剰”で居る事を決めた後
“様子見”をして居た多くの死者達の中から現れた二人目の協力者。
……そんな彼女から託されたこの“反復詠唱”は
発動後に詠唱した初級の魔導技を
“百回連続で切れ目無く発動させる”と言う能力を有して居た――>
………
……
…
「火の魔導、火環――」
「そんな子供騙しで……ッ?! ……」
<――恐らくは
“回避するまでも無い”と高を括って居たのだろう。
この瞬間、その殆どをまともに食らったライドウは
魔導衣に付いた炎を叩き消すと、周囲に漂う“妖気”を用い
負傷した部位の治癒を試みつつ、僅かな焦りを見せた。
だが――>
「良いでしょう……この程度の負傷も無ければ張り合いもありません」
<――直ぐに呼吸を整え
此方の出方を伺う様に防御を固めたかと思うと
明らかな“待ちの姿勢”を取ったライドウ。
それはまるで、此方の攻撃を“跳ね返す”事を狙っているかの様な
余りにも“有り有り”とした堂々たる態度だった。
それに依って、此方の動きを封じる為かの様な――>
………
……
…
「ほう……敢えて受けの姿勢を取る事で
敵に混乱を仕掛けると言う、兵法の一種と睨んだか。
御主のその読みは正しい……だが、同時に間違っても居る。
正しき答えを知りたくは無いか? ……儂の術を使えば
それが虚であるか実であるかさえも詳らかと成る。
……御主が儂の術の凄まじさを
“後世に語り継ぐ”と言うのならば
御主に力を貸す事も吝かでは……」
<――その出方を読めず、膠着状況に陥って居たその時
脳内に直接語り掛けて来た“三人目”の声……だが。
この直後、この“老師っぽい男性”の声を掻き消す様に
入れ代わり立ち代わり、数多くの声が
まるで“押し売り”の様に脳内に響き渡り始めた。
思わず“煩いッ!!! ”……そう叫びそうな程に。
この後、ある者は――
“君の様な素晴らしい能力を持つ者に使って貰えたら光栄だ”
――と、俺を持ち上げる様な誘い文句を謳い
またある者は――
“この状況でこの力を使わないなんて……ありえなくなぁ~い? ”
――と、敢えて煽ったりし始め
収拾がつかなくなり始めて居たその時……それらを“押し退ける”様に
一際大きな声で――
“ええぃッ!! ……仕方無いッ!!
儂の術ッ! 御主に使わせてやろうッ!! ”
――と、半ば強制的に俺の脳に直接“固有魔導”を植え付けた
“老師”……そして、この暴挙を皮切りに
“我も我も”と、同様の行動を取った数多くの者達に依って
この直後、俺の頭は吐き気を催す程の固有魔導で埋め尽くされた。
それは、一刻も早く“片っ端から消費しなければ成らない”程に――>
………
……
…
「き、気持ち悪い……吐きそうだ……」
「何です? ……“仮病”で私を欺けるとでも? 」
<――この瞬間
“トライスター専用技”などよりも余程多く脳内に存在していた
“固有魔導”に苦しんで居た俺は……
……“老師”に植え付けられた固有魔導であり
此方の状況など知る由も無く、尚も“待ちの姿勢”を崩さず居た
奴の策略を崩す一手として、固有魔導“観之目”を発動させ……そして。
奴の構えが“虚構”である事を知った――>
………
……
…
「ライドウ……お前の所為で酷い目に遭ったよ」
「……はい? いきなり何の言い掛かりです?
貴方が“ボロボロ”なのは、貴方の弱さが原因でしょう? ……」
「いや、そうじゃ無くて……って、もう良いや。
正直“恨み節”みたいで健全じゃない使い方には成るけど……
……取り敢えず、出来る限り使い切らせて貰うよ。
少なくとも“吐き気が収まる”までは――」
「ほう……何をするつもりかは知りませんが
その様に悍ましい姿で私に敵……っ?! 」
<――直後
俺は……“攻撃”に分類される固有魔導を、手当たり次第に発動させた。
それぞれ、通常の魔導では決して得られない
馬鹿げた威力を持つ固有魔導“達”を……
……“スライムの草原”での出来事が可愛く思える程
周囲の地形を大きく歪めながら、休む間も無く発動させ続けた。
それは“奴を倒す為”と言う理由では無く
襲い来る吐き気を少しでも消し去る為、何よりも
自らの大切な固有魔導を託してくれた……と言うか
殆ど“押し付けた”と言うべき、数えきれない程の魔導師達の為。
続々と――
“我が力が伝説の一端と成れたぞ! ”
“流石は伝説の力だ、私の固有魔導をこれほどまでに昇華させるとは! ”
――危機的状況と呼ぶべき戦いの最中に在った筈の俺を
むず痒くも誇らしい気分にさせては
満足気に俺の頭から消えて行った者達の為――>
………
……
…
「ぐっ……貴様っ!! ……」
<――絶え間無く発動させた数多くの固有魔導を耐え抜き
此方を睨みつけながら、息も絶え絶えにそう言ったライドウ。
だが……そんな奴に対し
俺は、気の利いた“嫌味”の一つすら言える余裕が無かった。
……余りにも連続で発動させてしまった固有魔導が故か
それとも“無我之境地”が限界時間を迎えたのか……何れにせよ
俺の身体は鉛の様に重く、鈍重になり始めて居たのだ。
そして……この直後
持ち主である“極太眉の男性”は――>
「残念だが……“限界”の様だ同士よ。
急ぎ、貴殿の中に在る固有魔導の中から
代替と成る物を探すのだ……そうしなければ、貴殿は死ぬ」
<――この瞬間
残酷な程の冷静さでそう言い残し、俺の頭から消えた。
直後、測った様に俺の体を襲った耐え難い痛みは――>
………
……
…
「おや……漸く“見た目通り”になりましたか。
では、反撃と行きましょう――」
<――朦朧とする意識の中
奴の放った単純な攻撃すら避ける事の出来ない状態に陥らせた。
だが――>
………
……
…
「させませんわッ!!! ……」
<――瞬間
俺の前に立ち、そう言ったローズマリーさん……だが。
この時、既にメリカーノア防衛戦で満身創痍だった彼女が展開した魔導障壁は
ライドウに依って齎された攻撃を“完全に防げる物”では無くて――>
………
……
…
「ロ、ローズマリーさん? ……何でッ!! ……」
「……別に……敵の敵は……味方と言うだけの話です……わ……
さぁ、落ち込む暇なんて……有りません……わよ……
この状況を打破する為の……力……を……っ……」
<――直後
彼女は崩れ落ちる様に倒れた――>
………
……
…
「ほう……運の良い女です、まだ息があるとは。
しかし、苦痛に歪む主人公の顔が見えたのです
まぁ……良しとしておきましょうかねぇ? 」
<――身を挺し俺を護った彼女を嘲笑うかの様にそう言ったライドウ。
奴は……この場に立ち込める妖気を味方に付け
尽く此方の手立てを潰し、常に優位に立ち続けた。
そうして……辛うじてその生命を繋いで居るに過ぎない彼女は疎か
妖気に当てられ、立つ事すらままならない仲間さえも嘲笑った。
確かに“今”を見れば、奴が感じる圧倒的有利な状況だろう……だが。
彼女が繋いでくれたその僅かな時間は
俺に“立て直す”だけの時間を与えてくれた――>
………
……
…
===第二一〇話・終===




