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異世界転生って楽勝だと思ってました。  作者: 藤次郎
第五章

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第二〇八話「“開放”は楽勝ですか? 」

<――眼前で起きてしまった受け入れがたい状況


直後……力無く、崩れ去る様に倒れたその体を支える事は(おろ)

治癒魔導の発動にすら失敗した俺に対し――>


………


……



「いやはや……この場所で“治癒魔導”など発動出来ませんよ?

と言うか……“周囲の状況”を見て理解出来ないのですか?

転生者と言うのはその程度の事も理解出来ぬ無能の集まりなのですか? 」


<――嘲笑(あざわら)う様に周囲の森を見渡しながらそう言ったライドウ

一方で……俺は、そんな此奴(ライドウ)嘲笑(ちょうしょう)に一切の反論をしなかった。


だが“そう出来なかった”訳では無かった。


俺が黙っていた理由(わけ)、それは――


この状況下で唯一(ゆいいつ)使用可能な“治癒”である一方

“一度しか使えない”と言う制約を持つ“固有魔導(かりもの)”を使用した後。


――そんな、圧倒的解決策の“後”を考えて居たから。


何よりも……再び仲間の誰かが“同じ状況”に(おちい)ってしまった時

此奴(ライドウ)が治癒手段を“探す暇”など与えてくれる相手では無いと

痛い程分かって居たから――>


………


……



「言い返せないのか、無視しているのか……どちらです? 」


「駄目だ、ウダウダ考えてたら取り返しがつかなくなる……」


「おや“現実逃避中”でしたか……これは失礼」


<――(ライドウ)の言葉に耳を傾ける余裕すら無く

悩みに悩んだ(すえ)、俺は――>


………


……



「……すみませんでしたエリシアさん。


何時(いつ)何時(いつ)何処(どこ)か抜けた判断ばかりする俺の所為で

嫌な思いや、したくも無い経験ばかりをさせてしまって……


……一番の“馬鹿”は俺でした。


ついさっき約束した事すら忘れる程の“単細胞”っぷりで

無理に“先を見通そう”とするから駄目なんだって(ようや)く気付きました。


悩んだり難しく考えてる暇は無い……今は(ただ)、目の前の事に全力に成ります。


“決して失いたく無い”って言う恐怖に飲まれない為にも――


――固有魔導:急速細胞分裂(ラピッド・セル・ディヴィジョン)ッッ!!! 」


………


……



<――心臓を含め、左半身の多くを“負傷”し

たとえ治癒魔導が発動して居たとしても

生存は難しいだろう程の状態に()ったエリシアさん。


だが、こんな絶望的状況に唯一(ゆいいつ)の光を(もたら)した“技”――


“固有魔導:急速細胞分裂(ラピッド・セル・ディヴィジョン)


――直後、自然や精霊の力を一切必要としないこの技に()って

エリシアさんの体は急激に修復され始めた。


だが、その一方で……この状況を目の当たりにしたライドウは

この力が俺の得た“固有魔導(もの)”では無いと気付いた様に――>


………


……



「成程……見落としていました。


一応は“伝説”と(うた)われるだけの力を有している様ですねぇ?


……ですが。


どれ程強力な技であっても“一度しか使えない”とは(ひど)く不便な話では?

仰仰(ぎょうぎょう)しい伝説”の割に、その程度の能力しか得られないと言うのなら

私の選んだ“星屑(ちから)”の方が何倍も有用だと思うのですがねぇ? ……


……まぁ、とは言え。


貴方の様に“お花畑”な考えを捨てきれない人間では

私の得た星屑(ちから)など、到底扱いきれないのでしょうが……ねぇ? 」


<――と言った。


この瞬間、此奴(ライドウ)何処(どこ)まで俺の能力値を(あらた)めたのかは分からない。


だが……少なくとも、星之光(スターライト)欠点(デメリット)を言い当てた時点で

今、俺が(あらかじ)め“使用許可”を取って置いた“固有魔導(かりもの)”の特性や

その個数を正確に把握して居る可能性は捨てきれないだろう。


そもそも、俺の得た星之光(チカラ)には無い

特殊な“魔導補充方法”を持つ星屑(スターダスト)と言う職業に

まだ何らかの能力が隠されている可能性がある以上

せめて、既に経験済みな“無効化”の力だけでも封じる為の策を見つけ出し

可能な限り此奴(ライドウ)の“奥の手”を潰していかなければ成らない。


そう考え、必死に考えを巡らせ(ライドウ)の能力値を確認して居た俺は

この直後……決定打と成り()るだけの


ある“情報”を見つけ出した――>


………


……



「ああ……お前の言う通り、確かに俺は“お花畑思考”だし

自分でも其処(そこ)が大きな欠点だと思ってるよ。


けど“真似したらもっと楽に生きられるんだろう”って分かってても

それでも……俺はお前の生き方を真似したくないんだ。


ライドウ、お前が何を知って

何でこんな状況を作り出したのかは分からない……だけど。


……俺は今、間違い無く

お前の中に“親兄弟”の様な存在の記憶を感じたんだ。


考えたら当たり前だけどさ……人間誰しも

“突如として(ひと)りでに生まれる”訳は無いし、そもそも

借りにも同じ種族である筈の“人間”を、其処(そこ)まで憎悪(ぞうお)する理由なんて

“多くは無い”筈だって事に気付いたんだよ。


……なぁ、ライドウ。


本当は、失う悲しみも苦しみも人一倍分かってるんじゃ無いのか?

(ただ)、既に何をどうしても“取り返せない”から……それなら

自分の望む“絶対に(おか)される事の無い世界”を作り直して

その世界に“親兄弟”を生み出そうって……そう、思ってるんじゃ無いのか? 」



<――この瞬間


(ただ)必死に対抗策を()ようと考え“能力値確認”を続けて居た俺に芽生えた

概要(がいよう)確認”と言う新たな力……この力に()って

少なくとも、俺に取っては“最も理解し(がた)い相手”である此奴(ライドウ)が歩んで来た

人生の“断片”を見つけ出す事と成った俺は……その中に隠れて居た

此奴(ライドウ)の“目標”と(おぼ)しき物を見つけ出し、それを指摘した。


そして……この瞬間

此処(ここ)まで此方(こちら)を小馬鹿にした様な態度を取り続けていたライドウは

急激にその表情を強張(こわば)らせた。


だが――>


………


……



「……ほう、なんとも恐ろしい。


ですが……(いず)れにせよ、貴方とは“分かり合えない”のだと確信しました。


確かに、私にも“親兄弟”と呼ぶべき者は()りましたし

貴方が言う様に失いもしております……ですが。


主人公とやら……貴方は(ひど)く“勘違い”をしている様です。


私が“親兄弟を失った時”に感じた感情(もの)

端的(たんてき)に、愚かな貴方にも理解出来る様に言い換えるならば――


“便利だった道具を壊され不便に成った”


――程度の事ですし

そもそも、そんな物の為に労力を()く事自体馬鹿げて居るでしょう?


おや? ……どうしました?

何を(ほう)けて居るのですか? ……」


<――この瞬間

此奴(ライドウ)が何一つとして嘘偽りの無い感情を(もっ)て話した事に気付かされた俺は

返す言葉すら見つけられず、(ただ)愕然(がくぜん)として居た。


そして……たった今、此奴(ライドウ)自身が説明した

此奴(ライドウ)の感覚”を(しっか)りと理解した上で――>


「ライドウ、無駄な時間を取らせて……本当にすまなかった」


<――此奴(ライドウ)に対し


そう、()びた――>


………


……



「おや? ……意外な反応ですねぇ?

(あやま)ちを素直に認めたのは良い判断です……しかし、貴方のその目つき

何処(どこ)からどう見ても“謝って居る”様には見えませんよ? 」


「……なぁ、ライドウ。


俺は、お前がどんな人生を送って来たのか“その全て”を見た訳じゃ無い

だから、決めつけた様な事は言えない……けどさ。


お前とはきっと“目つき”一つからしても価値観が違うんだよ。


たった今お前が言った通り、俺達は


“分かり合えない”


だから――


“無駄な時間を取らせてすまなかった”


――これ以上、俺がお前に言える事は無いんだよ」


「ほう? ……それはつまり、圧倒的に有利な立場に居る私に対し

喧嘩(ケンカ)を売った”と言う事ですか? 」


「……どうせ“違う”って言っても分かってくれないんだろ?

そもそも、これ以上何を言い合った所で

俺達はきっと互いの価値観の違いを指摘し合うだけで

(ただ)無駄に時間を消費するだけだ……なら、そんな無駄は止めて

(いさぎよ)く一対一で戦わないか? 」


「おや? ……私に勝つ為の“秘策”でも思いつきましたか?

それとも、(ただ)の“苦し紛れ”ですか? ……」


「……お前が“(かん)ぐる”様な事は何も考えて無いし

そんな事を考える余裕なんて正直な所微塵(みじん)も無いよ。


(むし)ろ、俺よりも遥かに高い能力値を目の当たりにした上に

其奴(そいつ)の複製体だらけ”って状況だからな。


“一体どうやって戦ったら良いのか”……とか

“そもそも勝てるのか? ”……とか

(ひど)いマイナス思考に(おちい)ってる位で……」


「おやおや……其処(そこ)までバカ正直に(みずか)らの考えを語るとは思いませんでした。


……良いでしょう。


余りにも“バカ正直”な貴方に合わせ

此方(こちら)も少しだけ“正直に”話す事に致しましょう。


良いですか? ……貴方がどれ程“バカ正直”に(みずか)らの考えをさらけ出し

どれ程(みずか)らを“か弱い”と(のたま)った所で

何者かとの取引が(ゆえ)に手に入れたのであろうその“星之光(チカラ)”が

私が今まで対峙(たいじ)したどの転生者の持つ(もの)よりも

面倒な力である事に変わりはありません。


……あの(ヴィンセント)(かた)った“カビの生えた夢物語”に

万が一にも私の計画を邪魔されれば、この“目”に申し訳が立たない。


そう、思える程にはね? ……」


<――直後


眼帯を(めく)り、その下の“空洞(くうどう)”を見せたライドウ。


そして――>


「……あの(ヴィンセント)に封じられた後

何をどう足掻(あが)いても決して抜け出す事の出来なかった

あの“苦痛”と呼ぶ事すら生温(なまぬる)い、永遠とも思える程の時間は

私に……あの(ヴィンセント)へは勿論、世界全てへの復讐心を(やしな)わせました。


ですが……そんな日々を過ごす中、突如として私の前に現れた“存在”は

驚く私に、ある取引を持ち掛けて来たのです――


“取引を受け入れるのなら、君をこの場所から脱出させてあげよう。


勿論、タダでは無い……君には脱出後

転生者と呼ばれる者を消し去る為に動いて貰う。


もし君が全ての転生者を消し去る事が出来たなら

その時は、君が望む通りの世界を与えよう”


――とね。


当然の(ごと)くこの提案を二つ返事で受け入れた私は

その“代償”として……この“目”を失ったのです。


……苦心の(すえ)に完成し

私にトライスターと同じ力を与えたこの“装備”は勿論

どの“裏技之書(ほん)”を(もっ)てしても決して癒やす事の出来ない

なんとも大きな“代償”として……ね。


……さて。


何故、今私が此処(ここ)まで重要な情報をこれ程“バカ正直に”お話したのか……


……貴方に理解出来ますか? 」


<――突如としてそう(たず)ねて来たライドウ。


直後……俺が首を横に振ると


ライドウは悪意に満ちた笑みを浮かべ――>


………


……



「なに……簡単な事ですよ。


(ようや)く――


“この世界を崩壊させる目処(めど)が立った”


――(ただ)、それだけの事です。


おや? その様子……もしや、過去をお話した理由を

またしても“感傷的な理由”だと考えて居たのですか? 」


<――そう言って俺を嘲笑(あざわら)った。


そして――>


………


……



「……さて。


一体一であれ、多対一であれ……私はどちらでも構いませんよ?

そもそも、現状の私に勝てる様な力など……貴方は勿論

そちらの“(まが)い物達”にさえ、微塵(みじん)も存在していないのですから」


<――この瞬間


まるで俺が発した“言霊(ことだま)”への仕返しかの(ごと)くにそう言ったライドウは

俺の提案した“一騎打ち”を受け入れ、複製体達を“停止”させた。


そして……この直後


此奴(ライドウ)は……あまりに容易(たやす)く一騎打ちを受け入れた意味を

“分からせる為”かの様な圧倒的な力を(もっ)て差し迫った――>


………


……



「……ぐッッ!! 」


「おやおや……偉そうに大見得(おおみえ)を切った割には

“複製体”相手にすら苦戦しそうな程には“か弱い”ですねぇ?


本当に無様です……(よみがえ)り、私に対し

少なからず“警戒心”を与える様な“職業”と成っておきながら

結局、その程度の力しか発揮出来ないとは。


……どうやら、その星之光(ちから)は貴方に不釣(ふつ)り合いな様です。


これ以上無駄に足掻(あが)かず、(いさぎよ)く負けを認めてはどうです?

どうでしょう? 今直ぐ私にその“力”を渡してみては?

勿論タダでとは言いません――


“死ぬのが怖い、(まが)い物達を失いたく無い”


――恐らくはそう考えて居るであろう貴方の為

特別に、私の新たな世界で私に絶対の服従を誓う事を受け入れるのならば

貴方を含め……貴方が望む者達を全て生かしてあげましょう。


私も“全てを一から作り出す”のは面倒ですし

貴方に取っても良い考えではありませんか?


どうです? ……このまま貴方に取って何の特も無い戦いで身を滅ぼし

渇望(かつぼう)すらして居る“(まが)い物達との生活”を失わずとも

今直ぐ私に(こうべ)()れ、服従(ふくじゅう)する事を選べば

貴方も……貴方の大切な(まが)い物達も死ぬ事は無いでしょう。


どうです? ……受け入れますか?

それとも……まだ無駄に足掻(あが)きますか? 」


<――圧倒的に不利な状況の中


俺や俺の大切な仲間達は勿論、この世界すらも

容易(たやす)く崩壊させてしまうだろう程の圧倒的な力を持ちながら

突如として“取引”を持ち掛けて来たライドウ。


だが……この瞬間、思わずこの取引を飲み

(こうべ)()れて”しまいかねない程の危機感を感じて居た俺とは反対に

そんな此奴(ライドウ)の事を“ムスタファ”や“ハイダルさん”が口にしたのと同じく

(イビツ)”と表現した存在が居た。


それは――>


………


……



「成程……斯様(かよう)(ゆが)められ、無理強(むりじ)いされ

(なお)も服従させられ続けて居たと()うか。


()(あるじ)の様な“(きずな)”も無く、(ただ)の道具として扱われ

(あらが)(すべ)すら奪われるとは……不憫(ふびん)な事よ」


<――そう、突如として声を発した


“存在”……それは、俺の“装備”だった。


この直後“装備(かれ)”は俺に対し――>


………


……



「……(あるじ)よ。


(ライドウ)の様な愚者に尊厳(そんげん)を奪われ

(ただ)飼い殺されるだけの道など選んではくれるな。


……奴を打ち倒し、そして奴と奴の複製体に()って飼い殺される運命にある

装備(あのモノ)達の“介錯(かいしゃく)”をも成す為には

()の力を信じ、星之光(スターライト)の力をも信じ……そして、頼るのだ。


奴は勿論の事……(あるじ)すらもまだ理解していない

星之光(スターライト)の真の力を……


……(あるじ)よ。


(あるじ)が絶望的と考えたこの状況に

(あるじ)(みずか)らが“一筋の光”を(もたら)すのだ――」


<――直後


装備(かれ)”は、俺の身体を(あやつ)り俺の顔を真上に向けた。


この行動を普通に受け取るならば“天に祈れ”と言う意味だろう……だが

何故かこの瞬間……俺には“装備(かれ)”のこの行動が


“天井に穴を開けろ”とでも言わんばかりに思えて――>


………


……



「……ありがとな“装備”


さてと……なぁ、ライドウ。


何処(どこ)ぞの“超有名な魔王様の発言”よろしく――


“貴様に世界の半分をくれてやろう”


――って考え方に“一切の裏が無い”と仮定した上で、()

現状の力関係を考えれば、俺はその取引を受け入れるべきなのかも知れない。


だけど……お前の言う“俺が望む者達を生かす”って話に嘘が無いとしても

お前では俺の“本当の願い”を叶える事は出来ないんだよ」


「“本当の願い? ”……何です? それは」


「ライドウ……お前だけじゃ無く、(ほとん)ど全ての人に

“馬鹿みたい”って思われるかも知れないけど……それでも。


それでも、俺は……俺自身が大切に思ってたり

俺を大切に思ってくれる人達だけじゃ無くて

俺自身が嫌ってたり、俺の事を嫌ってる人達すらも……


……この世界に生きとし生ける全ての存在に

(ひと)しく、残らず全員生きて居て欲しいんだよ。


たとえ完璧じゃなくても、必死に生きてる人々が……その生活を

突如として()(すべ)も無く奪われて良い理由なんて何処(どこ)にも無いんだよ。


なぁライドウ……お前は馬鹿にするかも知れないけど

本来なら……お前だって“その中”に入ってたんだよ。


お前が……お前の事を大切に(おも)い、お前の幸せを願って

必死に動いたヴィンセントさんを……いいや、彼だけじゃ無い。


今までお前が出会った、お前の為を(おも)って動いたであろう全ての存在を

ほんの(わず)かにでも大切にして居たのなら……


……たとえ(わず)かにでも反省し、(みずか)らの行いを(かえり)みて居たのなら

俺は、これだけの状況を作り出したお前の事すらも

失わず済む様にしたかったんだよ。


でも、お前はそんな俺の気持ちは勿論……他人の全てを無下(むげ)にして

(ただ)自分が頂点に立つ事だけを考えた。


……ライドウ、本当に時間を掛けてすまなかった。


俺はもう……お前に対する判断を何一つとして迷わない。


もう……何一つとして

(さず)けられたこの星之光(ちから)を迷わないッ!!! ――」


………


……



<――無論

“装備”が俺に言った事や取った行動の全てを理解した訳では無かった。


(ただ)……“()み嫌われる力”として

これまで幾度(いくど)と無くこの世界に現れては消えたと言う

星屑(スターダスト)と言う名の呪われた職業と成った此奴(ライドウ)

地下深く、息苦しさと共に“禍禍(まがまが)しさ”を感じさせるこの場所に居る理由が

狂鬼(きょうき)共を増やす為では無く……どうにも

(みずか)らが得た禍禍(まがまが)しい力を

増幅(ぞうふく)させる為”の様に思えて仕方が無かった。


それは(さなが)ら……人生の全てに嫌気が差し、塞ぎ込み

毎日の様に世界の破滅を願って居た

転生前の“俺自身”を見ているかの様だった。


……考え方こそ圧倒的に違うが、それでも

この環境が……転生前、俺の居た環境と

(なん)ら変わり無い様に思えて成らなかったのだ。


陽の光を浴びただけで嫌な気分に成って居た

“人間らしい生活”では無かったあの頃の俺の様に――>


………


……



「何です? ……一体何処(どこ)を狙って居るのですか? 」


<――直後


装備の言った“一筋の光”の為、天高く放った一撃は

“チビコーンの森”へと繋がり……チビコーンの森の中で

(もっと)も星が綺麗に見える場所”の光をこの場に取り込んだ。


だが――>


………


……



「ん? ……ああ、理解致しました。


万策尽(ばんさくつ)きた貴方は、せめてこの場所に増援(ぞうえん)を送り込める様

バカでも分かる様なこの“大穴”を開けたのですね?

それにしても……全く(もっ)短絡(たんらく)的と言わざるを得ない行動です。


この“大穴”に()って、私が持つ“兵隊”を

地上に送り込み(やす)くしてしまった事にさえ気付いていないとは……」


<――この瞬間

この場に差し込んだ“一筋の光”に何一つとして苦しむ様な事も無く

そう言って俺の行動を嘲笑(あざわら)ったライドウ。


……確かに、何一つ此奴(ライドウ)の力を削る事も封じる事も無く

世界中を危機に(さら)した様なこの行動だけを見れば

奴の嘲笑(ちょうしょう)が正しい物に見えるし

俺の行動が完全に“イカれてる”と思われても仕方が無い。


だが……少なくとも、俺の取ったこの行動は

“考え無し”では無かった――>


………


……



「そう言われてみると確かにそうかもな……でも、違うんだ。


俺は別に、苦し(まぎ)れに世界を危険に(さら)した訳じゃ無いし

お前が言うみたいに“増援を期待した”訳でも無い。


俺は(ただ)、色んな意味で腐ってた昔の俺を

更にどうにも成らない位に“濃縮(のうしゅく)”した様なお前の

壊れた人生とその姿に“同族嫌悪(どうぞくけんお)”してるだけなんだよ。


それから……多分、今の俺は“彼”の様に優しくは無い

俺に力を授けてくれた……(たく)してくれたヴィンセントさんの様には。


けど、それでも……手遅れかも知れないけど()えて最後に聞かせてくれ。


ライドウ……“彼”は最後までお前を導けなかった事を後悔して居た

“彼”はどうにかして、お前を幸せな人生を送らせたいと願ってた。


なぁライドウ……今ならまだ罪を(つぐな)えるかも知れない。


無理な相談かも知れないけど、頼む……


……今直ぐに“降参”してくれないか? 」


「はい? ……気でも狂ったのですか?

圧倒的有利な状況の中……ましてや

この世界を崩壊させるだけの目処(めど)が立ったと言うのに

何故、貴方の様な些末(さまつ)な存在に降参する必要があると言うのです?


もしや……“ハッタリ”が通用する相手だとでも思ったのですか? 」


「……今の俺の要求が“そう”だったとしても

凶行を(つぐな)う為の“言い訳”に使えば良かったんだよ。


でも、もう無理なんだよな……ごめん」


「はい? 何故いきなり謝罪を? ……それで私が貴方を許すとでも? 」


「違う……俺は今、お前に謝った訳じゃない。


俺は今、お前の“装備達”に謝ったんだよ――


――固有魔導:過剰負荷(オーバーロード)ッッ!!! 」


………


……



<――心の底からそう感じ発した俺の言葉を一切理解せず

本当に“(ただ)のハッタリ”だと信じて疑わなかったライドウ。


奴に無理強(むりじ)いされた“装備達(ものたち)”の悲鳴は(おろ)

その命を失うと知って(なお)持主(ライドウ)の動きを(にぶ)らせた

装備達の“最期(さいご)の抵抗”にも気付かない程に――>


===第二〇八話・終===

親愛なる読者の皆様へ

今年も本作にお付き合い頂き有難うございました。


……大晦日の掲載だと言うのに、重い内容で申し訳ありません

来年もこれに懲りずお付き合い頂ければ幸いです。

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