第二〇五話「理解不能は楽勝ですか? 」
<――それが細菌であれ、何であれ
身代わりにすると指定した対象が何らかの“命”を持っていれば
どれ程“不等価”な物であろうとも交換出来てしまう固有魔導――
“身代之術”
――発動直前
周囲の目を背けたくなる惨状に思わず諦めを口にして居たエリシアさんは
この直後――>
………
……
…
「……なっ?!
ね、ねぇ主人公っち……今、確かに“固有魔導”って……
……もしかして、新たな固有魔導を手に入れたって事?
って言うか、一体何がどうなってこんな……」
<――その眼前で、続々と蘇り始めた数多くの“大切”の姿に
喜びと困惑の入り混じった表情を浮かべつつそう言った。
反面……周囲の木々や建物の修復などは叶わず、集落の魔族達にせよ
この場所で暮らす事を選んだエデン隊の皆さんにせよ“完全復活”とは程遠く
痛々しい火傷の跡や怪我などは治療されず……
……治癒魔導展開までの僅かな時間とは言え
結果として、復活直後の彼女達に大小様々な苦痛を与えてしまった。
だが、それでも……肉体の大部分が残り、幽世へ向かう前の肉体であれば
本来なら失われて居た筈の命ですら救ってしまったこの特殊な固有魔導は
少なくとも、絶対に失いたく無い大切を救い出し
エリシアさんの心から悲しみを取り去るだけの力を発揮してくれた。
とは言え……俺自身もまだ完全には理解出来て居ない内に発動させた
星之光特有の、この“技”は……たった今“固有魔導”を発動させた
“固有魔導では無い”この技の説明は……
……その使用者である筈の俺ですら
上手く説明する事が出来ない物で――>
「えっと、その……今のは確かに固有魔導ではあるんですが
何と言うか、もう二度と使えない技で……と言うか
そもそも今の技は“俺が得た固有魔導”と言う訳では無くて……」
「でも、発動時には確かに“固有魔導”って……」
<――要領を得ない俺の説明に首を傾げつつそう言ったエリシアさん。
だがこの直後、エリシアさんは首を左右に振り――>
………
……
…
「いや~……ごめんごめんっ!
主人公っちが何時も以上の“規格外”を見せてくれたから
つい安心して気の抜けた質問しちゃったよ~っ!
……理解出来ない力。
ううん……主人公っちの“規格外”を理解するのは後にするから
だから今は……チビコーンの事を助けて。
……彼奴から守れなかった私の代わりに
今以上の“規格外”で、あの子の事を助けて。
お願い……」
<――全てを懸けるかの様な眼差しを浮かべ、そう言った。
だが、その反面
つい先程エリシアさんが口にした――
“彼奴が待ち伏せて無いとも限らない”
――と言う危惧が
“考え過ぎ”とも思えなかった俺は――>
「……お願いなんてされなくても、必ず助けますから!
でも、その為に……先ずは出来る限りの安全策を取りたいんです。
なので――」
<――そう告げた直後
俺は、永久防護を“全員に”掛けた。
文字通り、この集落に居る“全員”に――>
………
……
…
「……能力値を見なくても分かる。
これだけの事を遣って退けたにも関わらず
主人公っちに取っては“微塵も負担に成って無い”って。
けど……主人公っち。
たった今、酷い無理難題を頼んだばかりなのに
早速“正反対な事”を言うけど……それでも。
“無理だけはしないで”
お願い……」
「……大丈夫です。
もう二度と、俺の大切な存在を悲しませたりしませんし
もう二度と、俺の大切な存在を奪せはしませんから。
俺は……そう出来るに余りある程の力を授けて貰えたんです。
この幸運……決して無駄にはしませんから」
<――この後
俺の決意と覚悟を受け取ってくれたエリシアさんは
今も尚感じているだろう不安な心境を、完全に捨て去るかの様に――>
「……ごめんっ!
主人公っちの力があまりにも凄過ぎてちょっと冷静さを失ってたみたい。
兎に角……此処から先は全部主人公っちに任せるから
私に出来る事があったら、何でも言ってね! 」
<――そう言って、必死に俺の得た未知の力を信じる事を誓ってくれた。
直後、俺は……この優しさを裏切らぬ為
何よりも、僅かな不安材料すら残さぬ為――>
………
……
…
「不安は感じてて良いと思います……その、何時もダメダメな俺ですけど
それでも、エリシアさんの不安な気持ちも
皆の不安もちゃんと分かって居るつもりです……だから
皆さんのだけじゃ無く……俺自身が感じている不安も
確りと取り除ける“絶対的な情報”を手に入れます。
……もう二度と、俺の準備不足の所為で
大切な存在を失ったりはしませんから――」
<――直後
探索の魔導“活動的走査”をチビコーンの森全域に展開した俺は
眼前に映し出された森の中を隈無く捜索した。
だが……その所為で、少し不気味な状況を知る事と成った。
……理由は不明だが、あれ程大量に居た“悪鬼共”が
影も形も無い程に消え去っていたのだ。
この後、この状況に疑問を感じつつもチビコーンの捜索を続け
今にも息絶えそうな程に衰弱したチビコーンを発見した俺は……
……万が一にもこれが罠では無い事を確認すると共に
一刻を争うチビコーンの治療の為“治癒魔導”では無い方法を探しつつ
“狂華乱舞”よりも更に効率の良い力を“探し”た。
そして――>
………
……
…
「ありがとうございます……心からの感謝を。
よし、これでチビコーンを救える……」
<――直後
そう言って天に祈りを捧げた俺の態度に違和感を感じつつも
転移魔導の為、俺の手を掴んだエリシアさんらと共に
チビコーンの真横へと転移した俺は――>
………
……
…
「今助けるからなチビコーン……固有魔導:芽吹之雨」
<――転移直後
周囲一帯の森に向け、二つ目の“固有魔導”を発動させた。
だが――>
「こ、固有魔導に二つ目って……でも彼奴みたいに邪悪な物でも無ければ
そのどれもが状況に合い過ぎてるし……ねぇ、主人公っち。
さっき“理解するのは後にする”とは言ったけど……」
<――周囲に降り注いだ“雨粒”
その一粒一粒が持つ“芽吹”の力に依って
崩壊の一途を辿って居たチビコーンの森は
見る見る内に蘇り、チビコーンはなんとか一命を取り留めた。
この瞬間……その姿に安堵した一方で
俺の得た力に一種の不安を感じた様子でそう言ったエリシアさん。
とは言え、それは疑いから来る物では無く――
“無理をしているのでは無いか? ”
――と言う
優しさが故と思しき“不安”だった――>
………
……
…
「えっと、その……凄く端的に言えば
今、俺が使った二つの固有魔導は……実は、どちらも俺の物では無くて
何れも“借り物”って呼ぶべき物なんです。
唯“何時まででも何度でも使える”と言う訳では無くて
そもそも“必ず使わせて貰える”訳でも無くて……」
「か、借り物? けど……借りるって言っても、一体誰から……」
<――この瞬間
そう言って新たな疑問を口にしたエリシアさん。
だが……そんな彼女の傍らに居たチビコーンが
森の治癒に依って治療されたその姿とは裏腹に
何かを訴える様な鳴き声を上げ始めた事で――>
「チビコーン?! ……どうしたの!? 何処か痛いの!?
主人公っち! 質問は後にするから今はチビコーンの治療を!! ……」
<――そう、慌てた様子で質問を切り上げた。
だが……この直後、そんな彼女の肩を前足で擦ると
まるで“違う”……とでも言いたげな態度を取ったチビコーン。
とは言え、神獣の発する言葉を完全に理解出来る者など
俺達の中には居らず――>
「う~ん……何かを伝えようって気持ちは痛い程理解出来ますけど
私達では全く分かってあげられないのがもどかしいですね……」
<――この瞬間、困った様な表情を浮かべつつそう言ったマリア。
だが、この直後……そんな俺達の様子に“業を煮やした”のか
チビコーンは天に向け、一際大きく嘶いた。
すると――>
………
……
…
「どうした……ほう、それは難儀な事じゃな。
どれどれ……ふむ、確かに妾にも感じるぞぇ……」
<――何処からとも無く現れるなり
そう言ってチビコーンの頭を撫でながら地面に触れた“存在”
それは……“大精霊女王メディニラ”だった。
この後、驚く俺達に向け彼女は――>
「……この者が言うには
“この森の地下深くから、禍禍しい力を感じる”……との事じゃ。
妾にも……確と感じられたぞぇ? 」
<――現れるなりそう言って
チビコーンの“通訳”をしてくれた。
そして……この直後、そんな彼女の説明を聞いた瞬間
“合点が行った”かの様に――>
「そう言う事か……だから彼奴は
此処に要らなく成った悪鬼らを捨てに来てたんだ。
自分で処理するよりも何倍も楽で……ッ!!
この世界に僅かでも“迷惑を掛けられる”からッ!! ……」
<――悔しさを滲ませ、拳を握り締めながらそう言ったエリシアさん。
だが……転移魔導で向かおうにも
“禍禍しい力の発生源”は地中深くに存在して居る上
そもそも“転移した事の無い場所への転移”は、それが
“目にしている場所”で無い限り不可能と言う制約がある。
この後……メディニラさんには勿論の事
“幽世から奴の行動を監視していた”と言う
ヴィンセントさんにも奴の居場所を訊ねたが
何れも、正確な居場所を把握出来ている訳では無くて――>
………
……
…
「なら……メディニラさん。
チビコーンに訊ねて下さい――
“君が感じる禍禍しさは、奴の物か若しくは狂鬼共の物と似ているかい? ”
――と」
<――直後
彼女が通訳するよりも早く“頷いた”チビコーンの様子に
“確証”を得た俺達は、その場所に向かう為の手段を考え始めた。
だが……そう簡単に手が届く程、奴は迂闊では無くて――>
………
……
…
「……ねぇ、何れにしても一度政令国家に連絡を入れてみない?
出発前の状況と“態度”を考えれば彼が簡単に負けるとは思えないけど
それでも向こうの状況確認位はして置きたいし……そもそも
彼奴を探すのに役立つ案を出してくれるかも知れないじゃない? 」
<――解決策の無い状況の中、そう提案してくれたマリーン。
直後、念の為……そして知恵を借りる為
政令国家へと連絡を取った俺を“待って居た”のは――>
………
……
…
「し、主人公殿っ?! 一体どうやって生き返って……い、いや!
勿論、喜ぶべき状況なのは分かっておるんじゃが……んっ?!
し、主人公殿……御主の後ろに居るのは……
……もしや、ヴィンセント殿かっ?! 」
<――状況を理解出来ず
狼狽えに狼狽えたラウドさんの姿だった。
直後……そんなラウドさんを落ち着かせつつ現状の説明を済ませた俺は
まだ僅かに興奮気味なラウドさんから
ある“嬉しい報告”を受ける事と成った。
その、報告とは――>
………
……
…
「……主人公殿が確認の為、一角獣の森へと発って暫くの後
モナーク殿はアイヴィー殿に対し――
“政令国家は御主に任せよう……万が一在らば我を呼ぶが良い”
――そう命じた直後、傀儡と成った狂鬼共を引き連れ
連絡の取れなかった友好国……つまりは“メリカーノア”に転移した様でな。
転移して暫くの事じゃ、此方に向け――
“この国に裏切りや謀略の類は見受けられぬ。
寧ろ……我が出向かねば、この国は潰えて居たであろう”
――そう連絡を寄越したかと思うと、自らの通信に
それまで最前線で戦って居た二人を参加させたんじゃよ」
「最前線で戦って居た“二人”って……ま、まさかッ!? 」
「うむ! ……その“まさか”じゃよ!
……何を隠そう、ローズマリー殿もペニー殿も生きておったんじゃよ! 」
「ほ、本当ですか?! でも一体どうやって……ハッ?!
まさか……モナークはその為にメリカーノアに行ったんじゃ!? 」
<――ラウドさんから伝えられた情報を元に
“彼奴の優しさが故の行動”と言う考えを口にした俺。
だが……この直後
酷く不機嫌な様子で通信へと割り込んで来た“本人”は――>
「愚かな……彼奴ら程度を助くが為だと?
……どうやら貴様はその身に余りある程の力を得た様だが
微温い考えは微塵も治って居らぬ様だな……不愉快な」
<――そう、吐いて捨てる様に言った。
そして、俺の反論さえ待たず――>
「……仮にあの国の“新たな長”がどれ程の聖人であろうとも
あの国が“二度目”を行わぬ保証など何処にも在りはしない。
……斯様な状況を作り出した彼奴の力に怯え
“自国だけでも”……と、彼奴を匿わぬ道理が一体何処にある?
過去“我が身可愛さ”に我が魔族種の軍門に下った者共が
どれ程存在したかを考えれば、自ずと答えは出るであろう――
腐臭は、その出処を潰えさせねば
生涯に渡り腐臭を放ち続けるのが世の常よ。
――とは言え。
フッ……出処と睨んだ何れの国も
裏切りなどと謂う“高尚な行動”が取れる程の余力は無く
不愉快にも、我が傀儡を消耗したに過ぎなかったのだがな……」
「い、何れの国もって……メリカーノアの他に何処を疑ってたんだ? 」
「……あの国に程近く
過去、この政令国家に唾を吐いた国は一つ……」
「な……成程。
“チナル共和国”か……」
「フッ……“察しの良い”事だ。
だが……あの国を襲う狂鬼共を滅した直後
アイヴィー依り齎された“貴様の死”と謂う報せに依り
“無駄足を踏まされた”我の怒りなど……
……貴様は何一つとして理解してなど居ない」
<――この瞬間
モナークは言葉で語る以上の怒りを顕にそう言った。
そして……この直後
チビコーンの森を占拠していた筈の悪鬼が
一匹たりとも存在していない理由を知る事と成った俺は……この後
モナークに対し、自らの失態を詫びた。
すると――>
………
……
…
「言葉での詫びなど不要……貴様が果たすべき真なる詫びは
何処までも腸の煮えくり返る彼奴の行動を阻害し
彼奴を滅する事でのみ果たされるのだと知れ。
彼奴の生み出した狂鬼共を手駒の一つとし
直前まで喰らわんとして居た国々を守護させると謂う
至高な我の“皮肉”を……
……貴様が果たす“真なる詫び”に依って
肚を抱え嘲笑う事の出来る“余興”と成すのだ……」
「わ、分かったよ……けど、それってつまり
今現在、メリカーノアとチナルは“狂鬼共”に護られてるって事だよな? 」
「フッ……不服か? 」
「い、いや……襲われてるよりは何倍も良いと思うけどさ……」
<――この時、にわかには信じがたい状況を口にしたモナーク。
この“通信越し”ですら感じられる凄まじい威圧感に
何故か“安心感”を感じつつ通信を終えた俺は……この直後
先ず、チナルへ……続いてメリカーノアへと通信を繋げ、現状の確認をした。
そして……何れの国に於いても
狂鬼共が“護衛”に就いている事を確認した俺は――>
………
……
…
「わ、分かりましたッ! 分かりましたからッ!!
ですがその……まだ“その場所”への侵入方法すら判明していない状況ですし
そもそも、奴が何らかの罠を張っている可能性も充分にありますから
安全、且つ有利な状況を作り出す為にも! ……」
<――“メリカーノアの二人”から
ライドウ討伐作戦への参加を懇願される事と成った。
この後……渋々二人の同行を受け入れつつも
一切判明していない内部の状況に些か腰が引けて居た俺に対し
少し自信無さげに、ある重要な情報を口にした“ローズマリー”
彼女は――>
………
……
…
「……過去、アルバート様とあの男が交わした契約。
“互いの書物を交換し、互いに有効活用する”と言うあの契約に於いては
万が一にも狡猾なあの男に謀られぬ様
アルバート様は幾重にも重ねた安全策をお取りに成られて居ました。
その一環として……アルバート様は、自らの書物をお渡しになる際
無論、あの男から借りた書物にもですが……ある“仕掛け”を施されておりました。
その仕掛けとは……“栞”と言う名の呪具に依る
“現在地の正確な把握”……ですが。
この仕掛けを使うには、ある問題があるのです……」
「えっと……“栞”って言う位ですし
“抜き取られたら分からなくなる”……とかですか? 」
「いえ、そうでは無く……残念な事に、この呪具は
使用者であるアルバート様しか“効果を発せられない”のです。
無論、私もペニーさんも幾度と無く試みては見ましたが……
……この口振りで“結果”はお察し頂けるかと」
<――悔しさを感じさせる様な口振りでそう言ったローズマリー
だが、この瞬間……この情報に活路を見出した存在が居た。
それは“ヴィンセントさん”だった――>
………
……
…
「主人公君……君の様に汎ゆる面で素晴らしい素質を持つ者であっても
自分の持っている能力を忘れてしまう事がある様だね……
……君は“特異な生まれを持つ者”であり
今もこうして僕との会話を……そして、その姿までをも
意図的では無いにせよ現世に繋いでくれて居る。
と言う事は、かつて君と敵対関係にあったアルバート大公とも
君の力を以てすれば話せるかも知れないと言う事だ。
もしもそれが叶えば……万が一、其処が
“チビコーンの森の地下深く”では無かったとしても
“ライドウの居場所”は判明するだろうと言う事。
正直、君に取っては恐ろしい方法かも知れないが
それでも僕は、この方法を試す価値がある様に思うんだ」
<――この瞬間
真っ直ぐに俺の目を見つめそう言ったヴィンセントさんの願いを受け入れ
アルバートへの連絡を試みた俺。
だが――>
………
……
…
「駄目だ……繋がらない。
そもそも、アルバートの魂を見つける事さえ出来なかった……くそッ!! 」
<――結果は最悪だった。
一縷の望みすら潰えたに等しいこの状況に
俺を含め、皆が肩を落として居たその時
更に“問題”が起きた――>
………
……
…
「し、師匠っ!? ……あ……足が消え掛けて……」
<――突如としてそう声を上げたエリシアさん。
彼女の目線は、ヴィンセントさんの足元に向いて居た――>
………
……
…
「ああ……恐らくは“時間切れ”なのだろうね。
だが……エリシア、悲しまないでくれ。
僕は、君とこうして話せただけで嬉しいし……何よりも
君の成長を認め、褒められただけでとても満足している。
……“呪いにも等しい”と思って居たトライスターと言う力が
今こうして君の大切な仲間である主人公君を助ける力と成ってくれた事にもね。
どうやらこれでさよならの様だが……これから僕がどうなるのか
それこそ――
“幽世では無い別の所に飛ばされでもする”
――のかは分からないが。
だとしても、僕は必ず……エリシア、君を見守って居るから。
そして、最後に成ってしまったが……主人公君。
こうして大切な弟子と話せる時間をくれた事……そして
僕の無責任な願いを聞き届け“大切を護る”と誓ってくれた事。
本当に、心から感謝している。
ありがとう、主人公君……」
<――直後
そう言い残し、俺達の前から消え去ったヴィンセントさん。
この後……号泣するエリシアさんの背中を擦り
そして、託された力の強大さとその責任を感じて居た俺は……
……ローズマリーの齎した呪具の情報を諦めず
何とか、役立てる為の手段を“探し”始めて居た。
そして――>
………
……
…
「使う為には……その要求を飲めと仰るのですか? 」
<――必死に策を練り
“探し”続け……そう出来る
唯一の固有魔導を持つ“相手”に辿り着いた俺は
使用を許す代わりとして提案された、技の持ち主である男性の“願い”を聞いた。
その、内容とは――
“君が望む力を貸す代わりに……一日で構わない
君の体を貸してくれ……そして、妻との約束を果たさせて欲しい”
――と言う比較的簡単そうに思える物だった。
だが……死者との会話術を“そうとは知らず”習得してしまった日から
俺には微かに見えていた物があった。
それは……その霊の大まかな“経歴”だ。
まるで“雑に書いた履歴書”の様に大まかに記された経歴は
良し悪しに関わらず……その霊が、生前歩んで来た人生の凡そを
言葉通り“大まかに教えてくれる指数”として、今日まで機能し続けていた。
だが同時に……この男性から見えた“経歴”には
この取引を断固として拒絶すべき一文があった。
それは――>
………
……
…
<――彼が“妻”と呼んだ女性との間に生まれた
我が子への“殺人未遂”だった――>
===第二〇五話・終===




