第百九八話「弱り目に祟り目は楽勝ですか? 」
<――政令国家・アラブリア王国・日之本皇国の三国から成る同盟。
“護傘同盟”
この同盟関係が締結された理由の一つでもある“蟲”と言う魔物の存在。
通常の魔物とは大きく異なるその生態と能力に対処する為
三国それぞれから選出された研究者達は、日夜
政令国家に設立された研究所で“蟲研究”に勤しんでいた。
……そんなある日の事、三国の持てる技術の粋を結集し
待望の末、漸く完成した試作第一号機――
“蟲deバックバク(仮)”
――この、エリシアさん命名の
“不謹慎さ”すら感じさせる壊滅的ネーミングセンスが光る装置は
名前のふざけっぷりとは反対に、蟲の発生位置と発生匹数を
驚く程正確に知らせる警告能力を発揮し続け、そのお陰で
少しずつではあったが、蟲対策に関する“最適解”と呼べる様な物も編み出され
蟲専用に編成された部隊以外の兵らにも対策と呼べる情報が行き渡り始めていた。
……だが、この瞬間そんな“最適解”を以てしても
その戦力に大きな亀裂を生じさせかねない程の状況を無情にも伝えた“警告”は――
“信じられない数が第二城地域に向かってる”
――と言うエリシアさんの発言と共に
最大級の危機である証をこの場に齎してしまった。
もし本当に今から数分後、装置に表示された異様な数の蟲共が
此処に現れてしまったら現状の防衛力では容易に切り崩されてしまうだろう。
何よりも……もし、エリシアさんの言った通り“奴が操っている”のならば
俺達は一体、何をどう対処すれば良いのだろうか? ――>
………
……
…
「おや? ……おやおや?
モナーク様……何故“矛をお収めに”なられたのです?
もしや……“裏切り者”と蔑む私程度の存在に対し
貴方様程の存在が“臆した”……訳ではありませんよねぇ? 」
<――俺達の置かれた状況を知っての事か、終始嫌味なニヤケ面で
モナークの事を煽り続けたライドウ、だが――>
「それとも、何らかの策を講じて……チッ。
……何です? 」
<――この瞬間
耳打ちをした一体の狂鬼に対し、舌打ちをしたかと思うと――>
「……良く報告してくれました、下がりなさい。
さて……流石はモナーク様っ!
まさか“挟み打ち”の準備をして居たとは思いも寄りませんでしたよ? 」
<――モナークの方に向き直るなり、ニヤケ顔でそう言ったライドウ。
だが、訝しむ様な表情を浮かべたモナークの様子に――>
………
……
…
「……ほう、その様子はそちらも“想定外”の状況と言う訳ですか。
ならば一体“何が迫っている”と言……おや? 」
<――そう言い掛け、何かに気付きゆっくりと振り返ったライドウは
直後――
“っ!? ……急ぎ迎撃体制を取りなさいっ!! ”
――血相を変え、狂鬼共に対しそう命じた。
だが――>
………
……
…
「おや? これは……なんとも嬉しい“誤算”でしたっ! 」
<――この瞬間
まるで“巨木や巨石を避ける”かの様に、狂鬼共には一切目もくれず
一直線に俺達を目掛け突進して来た大量の――
“蟲”
――少なくとも“奴にも襲い掛かった蟲の行動”を見れば
“奴が操っている”と言う説は消し飛んだ。
だが、その一方で――>
「とは言え、少々鬱陶しくも……あります……ねぇっ!! 」
<――直後、払い除けるかの様に次々と蟲を討伐し
それまでよりも更に分厚く、自らの周囲を狂鬼で埋め尽くした奴とは違い
遥かに大量の蟲を相手取っていた俺達には、奴程の余裕など無くて――>
………
……
…
「何っ!? ……グァァァッッ!! 」
<――直後
“防衛術師隊”の展開する分厚い魔導障壁すら容易にすり抜けた
数百を優に超える蟲共は、此方の戦力に明らかな混乱を齎した。
必死に応戦する兵達を容易く蹂躙したその異様な挙動……
……呆気無く、次々と奪い去られる兵の命
人魔入り乱れる大混戦の中――>
………
……
…
「ほう……これはまたと無い好機ですっ!
……お前達、その化け物達の“援護”をしなさいっ!
そして……増え続けるのですっ! 続々と……延々とっ!! 」
<――胸に手を当て
歓喜の雄叫びの如く、奴はそう叫んだ――>
………
……
…
「……ぐッッ!! 防衛術師全隊ッ!!
たとえ命尽きようともこの場所を護り通すのだッ!! ……」
<――戦場に響き渡った部隊長の叫ぶ様な命令。
だが……急激に増殖した狂鬼共の攻撃に耐える為
無理に無理を重ね、更に分厚く展開された魔導障壁ですら
奴らの猛攻の前には無力だった――>
………
……
…
「ぐッ……このままでは……魔導通信、カイエル大隊長殿ッ!
このままでは第二城地域に壊滅的被害が及びますッ!!
至急、本国の警護任務に当たって居る全ての兵を第二城地域に……」
<――戦況の悪化に慌てた部隊長は
国防大臣であり、魔導大隊の大隊長でもあるカイエルさんにそう要求し
状況を重く見たカイエルさんもそれを受け入れようとして居た。
だが、その時――>
………
……
…
「部隊長……増援は不要だ。
このまま障壁を崩壊させるが良い……」
<――通信中の部隊長に対し、耳を疑う様な発言を繰り出したモナーク。
そして、この“土壇場での裏切り”を思わせる様な発言の直後――>
「……謂った筈だ。
“後は我に任せるが良い”……とな。
歓喜するが良い、漸く“刻”が訪れたのだ――」
<――言うや否や、部隊長に向け“睡眠の魔導”を掛け
自らも静かに“瞼を閉じ――>
………
……
…
「――我が声に抗う事を赦さず、我が力に抗う事を赦さぬ。
此れに抗いし者は等しく腐り落つ者へ――
――此れを受け容れ従者と成りし者には、等しく安寧の生を与えよう。
我が復活の原初たる力よ……今こそ我が力と成りし証を立てる刻である。
――«<天蝎宮之猛毒>»――」
<――混乱の最中
地を這う様な声でそう唱え、赤黒く染まった目を見開いたモナーク
瞬間――>
………
……
…
「な……何をしているのですっ?! 早くその腕を噛み千切りなさいっ!! 」
<――魔導障壁に空いた僅かな亀裂
其処から潜り込み、モナークの腕に噛み付いていた一体の狂鬼に対し
目を血走らせながらそう命じたライドウ。
だが……この時、モナークに噛み付いた狂鬼は疎か
この場に居た狂鬼らは全員、何故か一斉に“止まって”居て――>
………
……
…
「な、何を遊んで居るのですっ!? ……」
<――この異質な状況に憤慨し、怒鳴り散らす様にそう言ったライドウ。
だが……奴がどれ程叫び呼び掛けようとも
狂鬼共はこの後も奴の命令に一切従わなかった。
それどころか――>
………
……
…
「阿呆が……何時まで縋り付いて居る積りか。
我が声に従い、彼奴らを喰らうが良い――」
<――この瞬間発せられたモナークからの命令。
直後……“モナークに喰らいついて居た者”を含め
急激に向きを変えた狂鬼共は……“蟲共を喰らう為”
一斉に“動き始めた”――>
………
……
…
「そ、そんな馬鹿なっ?! ……何をしているのですお前達っ!?
これがっ!! ……この“角”が見えないのですかっ!?
私がっ!! ……私こそが!!
お前達の“飼い主”だと……理解らないのですかっっ!? 」
<――懐から何かを取り出し、必死に振り回しながらそう叫んだライドウ。
一方、そんな奴の行動を――>
「フッ……やはり“記念品”では無かった様だな」
<――そう、嘲笑ったモナーク。
直後、酷く顔を歪め――>
「何故……いえ、まぁ良いでしょう。
元より一筋縄で行くとは考えておりませんでしたのでね……とは言え。
面倒な状況には違いありませんし、そもそも簡単に達成出来てしまっては
私としても楽しくありません……そう言う事ですので、不本意ながら
此処は一度、撤退させて頂く事に致しましょう。
あぁ……そうそう。
“途中退場”のお詫びとして……“これ”をどうぞ。
では失礼……また、近い内にお会い出来る事を祈っておりますよ? ――」
<――瞬間
禍禍しく鈍く輝く二つの球体を空中に出現させると
薄気味の悪い笑みを浮かべ、そのまま何処かへと逃げ去ったライドウ。
直後、二つの球体は静かに“着地”し――>
………
……
…
「フッ……立つ鳥跡を“濁す”か。
……まぁ良い。
アイヴィーよ、征くぞ――」
「ハッ! ――」
<――直後
球体の中から現れた正体不明の敵に一切臆する事無く
猛烈な勢いで突進したモナークとアイヴィーさん……だが
俺が辛うじて視認出来た“軌跡”は血の色をして居て――>
………
……
…
「……チッ、面妖なッ!
モナーク様……申し訳御座いません、余りお役に立てず……」
「フッ……何を謙遜する事があると謂うのか
我が右腕として申し分の無い動きで有ったと謂えよう」
「いえ、その……モナーク様と共に“二対魔王”を拝命した以上
あの程度の敵に対し斯様な傷を負う様ではなりません。
……無論、粉骨砕身の覚悟で鍛錬に勤しむ所存ではありますが
この程度の敵に対し“これ”では、これからもご迷惑をおかけしてしまうかと……」
「フッ……彼奴ら程の敵を相手取り、更に“無傷での帰還”をも謳うか。
アイヴィーよ……御主は斯くも末恐ろしく頼もしいな」
「わ、私が恐ろしい? それはその、女として少々…… い、いえッ!
と、兎に角……先ずは傷の治療をさせて頂きたく……」
「フッ……ならば帰還すべきであろう。
アイヴィーよ、我に掴まるが良い……」
「なッ?! ……で、ですがッ! 私はこの様な“状態”ですから
モナーク様のお召し物を汚して……」
「アイヴィーよ、我が命令に背くと謂うか……」
「そ、その様なつもりではッ!! ……いえ、分かりました。
では、モナーク様……そ、その……宜しくお願い……申し上げます」
「フッ……では征くぞ――」
………
……
…
<――アイヴィーさんの血で染まった“軌跡”は
それが僅か数十秒の事とは言え、大きな不安を感じさせた。
俺は……帰還した二人に対し、労いの言葉を掛けつつも
奴が置き土産として出現させた二体の“不明個体”や
モナークの発動させた異様な技、そして……
……発動後、急激に平和を取り戻した第二城地域で今も尚
“大人しく次の命令を待っている狂鬼の大群”と言う
“平常心で居る事”を、著しく難しくさせたこの状況に――>
「……な、なぁ。
帰還早々で申し訳ないんだけどさ……彼奴らは一体何だったんだ?
と言うか……お前、さっき部隊長の事を“眠らせてた”けど
今後はあの状況であんな行動しないでくれよ? ……何と言うかその
一歩間違えたら“裏切り”に見えちゃうし、そもそも
今お前が発動させた技自体が意味不明過ぎるし、この状況だって……」
<――気付いた時には
頭の中に浮かんだ全ての疑問を手当たり次第に口にして居た。
だが……そんな俺の事を鼻で笑いつつ
俺の疑問に対し――>
「フッ……相変わらず落ち着きの無い男よ。
だが……“頃合い”か。
主人公よ……今現在の我と貴様の“関係性”を含め
今、貴様が口にした全ての疑問に答えてやろう――」
<――そう言うと
この直後……俺がした手当たり次第の質問には
“含まれて居なかった”情報を口にしたモナーク。
その、内容とは――>
………
……
…
「――過去、我と貴様は“魂之割譲”を二度結んだ。
だが……貴様の“契約違反”に依って
現在、我と貴様の間には何一つとして“契約”など有りはしない」
「あぁ、そう言えば契約し直して無かった……な゛ッ!?
って事は……お前は今、俺達の事を“裏切り放題”って事か!? 」
<――直後
モナークに睨みつけられた挙げ句“不愉快な”と“腸の煮えくり返る”を
立て続けに聞く羽目に成った事は兎も角として……
……この後、とんでも無く不機嫌なモナークの話を
質問以外では“出来る限り黙って”聞く事を選んだ俺は――>
………
……
…
「と、取り敢えず……今戦ってた“二体の化け物”について教えてくれないか? 」
<――そう訊ねた。
だがこの瞬間、少し眉間にシワを寄せたモナーク。
“マズい質問だったのだろうか? ”
……と、そんな事を考えて居た俺に対し
返事を返してくれたのは、モナークでは無く――>
「……奴らがどの様な生態を持ち、どの様な種族で有るかなどは判りかねますが
少なくとも、狂鬼共を数百……いえ、数千束にした所で
敵う相手では無い様に思います。
恐らく……モナーク様も同意見かと」
<――この瞬間
怪我の治癒を受けつつそう言ったアイヴィーさん。
……この直後
謎の二体の“不明個体”に辛うじて見えて居た以上の危険を感じた俺は
同じ危険を感じ、不安に陥る人が少しでも出ない様
この話題を敢えて早く終わらせ、その次に大きな疑問だった
モナークの発動させた“謎の力”について訊ねた。
すると――>
「……彼奴は勿論の事、貴様さえも狼狽えさせた我が力
“天蝎宮之猛毒”は、我に芽生えし新たな“魔王”の力よ。
契約の有無にすら気付けていなかった貴様は兎も角……
……アイヴィーは既に我が能力に気付いて居た筈だ」
<――そう言ってアイヴィーさんに目をやったモナーク。
一方……そんなモナークに対し、軽く微笑み会釈をして
“ええ、当然で御座います”……とでも言わんばかりの態度を取ったアイヴィーさん。
直後、そんな状況に少しだけ恥ずかしくなった俺が
“子供の様な言い訳”を口にし掛けた、瞬間――>
………
……
…
「ねぇ……アンタがどんな力で狂鬼共を率いたのかなんてどうでも良いの
確かなのは“アンタだけが対抗手段を持ってる”って事だけ。
……そもそも、最初から発動させなかった理由も気になるし
アンタが後少しでも早く発動させてたら
百人近くの兵士が死ぬ事は無かったかも知れないんだよ? 」
「エ、エリシアさん!? そんな酷い言い方……」
「……黙って主人公っち、私達が今“一刻を争う状況にある”事を忘れないで。
今、彼奴が素直に引いた本当の理由は
もしかしたら“不利だったから”では無いかも知れないし
そもそも彼奴はまだ隠し玉を幾つか持ってる様な口振りだった。
……良い? 一刻も早く彼奴を倒さなきゃこのまま堂々巡りが続くだけなの。
モナークがどれだけ強いか、どれだけスゴイ技を手に入れたかなんて
彼奴を倒してからでも出来る様な話は後にして」
<――エリシアさんの冷静な言葉に内包された
怒りと悲しみ、そして……焦り。
彼女の言う様に、束の間の平和に胡座をかいて居る暇は無い。
だが……一体どこに逃げたかすら理解らない奴の事を
探し当てる手段など、残念ながら持ち合わせていない。
そもそも……仮に奴の隠れ場所が判明して居たとしても
奴を倒す為、この国を出る事自体が怖かった。
……エリシアさんの言う様に
“隠し玉を幾つも持っている”可能性の高い彼奴が
戦力の減ったこの国を狙わない理由が無いと思えたから。
だが――>
………
……
…
「兎に角……先ずは手当たり次第に探す事が先決だと思う。
そもそも主人公っちには精霊女王達との契約がある筈でしょ?
連絡を取って、何処かの森に異変が無いかを訊ねたり
護傘同盟は勿論、その他の同盟国にも連絡を取ってみるとか
やり方は幾らでもある筈でしょ?
お願いだから……“ちょっと安全に成った”程度で彼奴の危険性を忘れないで」
<――そう冷静に俺を諭した一方
“焦り”の部分に火が付き始めて居たエリシアさん。
今にも無計画に飛び出して行きかねない彼女の様子に不安を覚えつつも
その気持ちを痛い程理解している自分と
そうなれば全力で止めなければとも思う自分……そして
政令国家を守護しなければと言う何十にも重なった板挟みに
どうする事も出来ず、ただ苛立ちと不甲斐無さを隠せず居た俺。
だが……この直後
そんな俺に対し――>
………
……
…
「フッ……“目は口程に物を謂う”
貴様の目は、この国とエリシアを“重荷”と考えて居る様に見える……」
「なッ?! ……ど、どっちの事も重荷だなんて思って無いッ!!
俺は唯ッ!! その……」
「“自分が居なければ、この国もその女子も容易に崩壊する”
……そう考えたのであろう? 」
「そ、それはッ! ……」
「フッ……自惚れも甚だしい。
主人公よ……我が力を前にして尚、斯様な考えを捨てられぬとは
何処までも救い様の無い愚か者めが。
良いか? ――
“我が力に際限など無い”
――我のこの“宣言”が唯の自惚れでは無い事など
我が力の“根源”と成った“天蝎宮之猛毒”の“原初の姿”を
既に見知った貴様には充分理解出来る筈であろう……」
「お、お前の力の元の姿? ……そ、そんな物見た事が……」
<――そう言い掛け、気がついた。
“天蝎宮之猛毒”
この技に冠されて居る“天蝎宮”と言う名が
アラブリアの地下金庫で失われた“裏技之書”の名前と同じである事に――>
===第百九八話……«ERROR»
―――
――
―
《《――強制介入を開始します――》》
―――
――
―
「貴様、何者だ……」
「モナーク君……申し訳無いが名乗る気は無いんだ。
私は今、ある事を伝え……そしてある力を受け取って貰う為
君の身体を襲う“石化の死”を停止させて居る――」
「何だと? 貴様……」
「――静かに、時間は限られている。
先ず……君はまだ“生きるべき”存在だ。
……君自身は忌み嫌っている様だが
君は、魔王と言う職務に於ける“最大の適任者”だ。
君は、自らが忌み嫌って居た筈の魔族種の為を考え
自らの全てを捨て去り……同時に
“主人公”に対しても最期まで道筋の通った行動を示し続けた。
……君の様な者こそ、君が“甘い”と蔑み続ける“主人公”が望む
“印度式紅茶”の様に甘い世界の獲得に最適なのだと私は思っている。
だが……これ以上この世界に私の力を発動させる事は避けたい。
勝手かも知れないが……私は、出来る限り“見守る存在”で在りたいのだ。
君達の事は勿論、息子の成長を願っているが故にね……」
「何だと? ……分かる様に語るが良い」
「あ~……その、すまない。
“知られたい”訳では無いんだ……兎に角、君を生存させ
息子の一手に依り捻じ曲げられてしまった“間違った道筋”を
元の姿へと正す為に必要な“君”と言う存在と力を――
“長と成る者は自己犠牲を厭わぬ覚悟と
己が全てを託す覚悟を有するべきである”
――と言う考えに至った今の君ならば正しく扱う事が出来ると信じ
過去に私が生み出した“ある力”を、君に“流用付与”しようと思って居る。
全ては君を生き延びさせる為、そして……君の死と言う深い苦しみに嘆き
崩壊の一途を辿る“主人公”を救い出す為だ。
兎に角、今は君に此の力を受け取って貰いたい――
――“対象へ悪戯卵:天蝎宮之書を流用付与”」
「何を意味の解らぬ……ッ!? 」
《《――流用付与を承認。
対象への強制書換を完了しました――》》
―
――
―――
「モナーク君……君が眠りから覚められる様、主人公が正しく動ける事
そして……少年の優しき願いが主人公に届き
主人公の願う優しき世界が“成る”事を……何よりも
君達を包む全ての事象が幸せへの道筋と成る事を……私は心から祈っている。
さて……そろそろ時間の様だ。
私は戻らねば成らない……そして
溜まりに溜まった“願い人”達の願いを聞き届けなければ成らないのだ……」
《《――強制介入を終了します――》》
―
――
―――
===第百九八話・終===