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第百九四話「偵察は楽勝ですか? 」

<――皆の心に不安を(もたら)したムスタファからの緊急連絡と

(はか)らずもそれにって急激(きゅうげき)に動いた状況は

反対多数の中に有った“メッサーレルへの偵察(ていさつ)”を後押しする結果と成った。


だが、転移直後――>


………


……



「ぬわぁッ?! ……な、何だッ!? 」


<――凄まじい衝撃(しょうげき)轟音(ごうおん)


転移直後、突如として俺達の鼓膜(こまく)と体を震わせたその原因は

魔導障壁(しょうへき)激突(げきとつ)した“異形(いぎょう)の化け物”にる物だった。


……だが、そんな化け物の見た目や尋常では無い衝撃(しょうげき)力よりも

直視しなければ成らないおぞましい状況は別にあって――>


「馬鹿な……連絡を受けたのは数十分前であった筈……」


<――消え入る様な声でそう発した直後、(ひざ)から崩れ落ちたソーニャ

彼女の瞳は、崩落したメッサーレル君主国の正門を見つめて居た。


そんな中――>


………


……



「ほう? 大した魔導障壁(しょうへき)だな……貴様、何者だ? 」


<――土埃(つちぼこり)を払い、俺を指差しながらそう言った“異形(いぎょう)の化け物”


……だが、予想外の状況に言葉を失って居た俺に対し

この化け物は此方(こちら)を小馬鹿にした様な笑みを浮かべ――>


「……まぁ良い、其処(そこ)でそうして大人しくしている分には見逃してやろう。


ああ……逃げたければ逃げても構わんぞ?

命令外の仕事など面倒なだけだ……」


<――そう言うと(きびす)を返し崩壊したメッサーレルへと向かって行った。


だが――>


「待て……待つのじゃ。


メッサーレルは……いや、民草は……まだ、生存者は居るのか? 」


<――去り行く化け物の背に向け、力無くそう問い掛けたソーニャ。


そんな彼女の声に反応し立ち止まった化け物は

振り向く事さえせず――>


「……既に大方(おおかた)の人間は片付いた、我が同胞達の働きにってな。


後は洞窟(どうくつ)の入り口で(ねば)っている者共を(めっ)せば我々の任務は終わ……いや待て。


……おい女、貴様今“民草”と言ったな? 」


<――静かにそう問うた。


だが、その声と共に発せられた(わず)かな殺気に気付いたのか

彼女(ソーニャ)はこの質問に対し無言を貫いた。


……一方、そんな彼女の態度を受け

(わず)かに笑みを浮かべた化け物は――>


「……成程、まともに会話が出来ぬ者共とはな。


まぁ良い……(いず)れにせよ貴様はこの国の関係者と見て間違い無い。


見逃すとは言ったが、そう言う訳にも行かん様だ――」


<――冷淡(れいたん)にそう言った


直後――>


………


……



「――大した物だ、二撃目を耐えるとは。


だが、どうやら“限界”の様だな? ……おい、其処(そこ)の男

その女を差し出し、今直ぐこの場から立ち去るのなら見逃してやろう。


まぁ、本来ならば手間を掛けた()びの一つも貰いたい物だが……


……それも“面倒”だ。


“口が動かん”のなら行動で(しめ)すだけで構わんぞ? 」


<――魔導障壁(しょうへき)に向け軽く差し出した様なその一撃は

この瞬間、障壁(しょうへき)に修復不可能な亀裂を発生させた。


だが、この圧倒的な力と高い言語能力を有する化け物に対し

これまで沈黙を(つらぬ)いていたアイヴィーさんは――>


………


……



「……魔物よ、貴方の力を認めましょう。


ですが“脅威(きょうい)判定を(あやま)る程度の無能に対し”下げる頭はありません。


そもそも、モナーク様より――


伏兵(ふくへい)あらば全て(めっ)し、くわだ()らば全て(ひね)り潰せ”


――とのご指示を頂戴した以上

伏兵(ふくへい)”たる貴方を捨て置く訳には行きません……悪しからず」


<――それまでの非礼を突き返すかの様にそう言い放った。


だが、この直後

彼女の発言に眉をひそめた“異形の化け物”は――>


「……何? “モナーク様”だと?


成程……これは中々に


“面倒”だッ!! ――」


<――直後

防壁(ぼうへき)を打ち破り、アイヴィーさん目掛け鋭く尖った爪を差し向けた――>


「アイヴィーさんッ! 危ないッ!!! ……」


………


……



「……主人公様、御気遣い痛み入ります。


ですが……この程度の魔物に()たれる程、私はか弱くありませんよ?

何と言っても……“二対(につい)魔王”で御座いますので」


<――この瞬間、余裕の笑みと共に

“ドヤ顔”を浮かべそう言ったアイヴィーさん。


彼女のかたわらには、胸部に風穴の空いた化け物の死骸(しがい)が転がって居て――>


「い、いやその……流石です」


<――心配した俺が馬鹿だったのだろうか?


汚れた指先をハンカチで拭き取りながら

冷静に“ドヤ顔”をしたアイヴィーさんを見ているとそう思わざるを得なかった。


だが、その反面……転移中に維持出来る物の中では最上級の魔導障壁(しょうへき)

(わず)か三度の攻撃で貫いたこの化け物が“警戒すべき敵”である事に変わりは無い。


……直後、砂の様に消え去った化け物の死骸(しがい)を横目に

破られた物よりも遥かに上位の魔導障壁(しょうへき)を多重展開した俺は

これまで以上に周囲への警戒を強め、探索魔導を発動させようとしていた。


だが、そんな時――>


………


……



「……化け物は確かに“洞窟(どうくつ)の入り口で(ねば)っている者共”と言った。


言い換えれば、(わず)かであれ“生存者が居る”と言う事じゃ……主人公

危険は承知の上で頼む、我が身の頼みを聞き入れては……」


<――化け物の残した情報に一縷(いちる)の望みを感じたのか

当初の“予定(ていさつ)”からは(いちじる)しく逸脱(いつだつ)した要求をしたソーニャ。


……言うまでも無く、目の前に広がるメッサーレルの惨状(さんじょう)を見れば

お世辞にも“希望がある”とは言えない状況だし、そもそも

偵察(ていさつ)”と言う名目で訪れた“敵国”でわざわざ危険を(おか)す必要も無いだろう。


だが……それでも

俺には彼女の要求を断ると言う選択肢は無かった――>


………


……



「……そんなに申し訳無さそうにしなくても最初からそのつもりです。


大体、救える可能性のある命を見殺しにするのは嫌ですし

そもそもソーニャさんは俺に――


再訪(さいほう)が叶えば、真なる和平を結ぶ為”


――確かにそう言ってくれました。


ならば俺は“一刻も早くそうしたい”と貴女に思わせる為

可能な限り、俺は貴女に“恩”を売りたい……そしてこの場所には

その為に必要な状況が全て揃って居る。


ソーニャさん、仮にも俺は政令国家の外交大臣です

この好機(チャンス)、みすみす逃したりはしませんよ? 」


<――沢山の大切な存在が住まう母国の崩壊と言う経験の有る痛み。


……憔悴しょうすいしきった彼女(ソーニャ)の姿に(みずか)らを重ねた俺は、これ以上彼女に気を遣わせぬ為

()えて“外交的にゲスな考えを持っている”と伝えた。


すると――>


「ふっ……やはり御主は良い男じゃ。


よもや我が身を此程(これほど)までに“篭絡(ろうらく)”する男が居ようとは……


……分かった、御主の要求を全て飲むと誓おう

その代わり、皆を……民草を救い出して欲しい」


<――真っ直ぐに俺の事を見つめ

ほんの少しだけ安心した様子でそう言った彼女ソーニャ


一方で――>


「では……私にはこの国の完全な土地勘はありませんので

もし心当たりが有るのでしたら“洞窟(どうくつ)”と呼ばれる場所への案内を。


……主人公様は引き続きその(ソーニャ)の護衛をお願い申し上げます

伏兵(ふくへい)くわだて”は、全て……私が対応致しますので」


<――俺の“甘さ”に気付きつつもそれを(とが)めず

そう冷静に指示を出したアイヴィーさん。


直後、彼女ソーニャに連れられ崩落(ほうらく)した正門を“乗り越えた”後

俺達はメッサーレル内部の捜索を開始した。


だが……燃え盛る家屋(かおく)瓦礫(がれき)の山、行く手を(はば)む数々の凄惨(せいさん)な状況は

必死に案内を続ける彼女ソーニャの希望を奪い続けた――>


………


……



「な、何故じゃ……何故この様な場所で御主が……」


<――瓦礫(がれき)()けながら進んだ先

彼女(ソーニャ)は、ある男性の亡骸(なきがら)に気付くや否や肩を落としそう言った。


……身分の高さをうかわせる衣服、胸元に輝く彼女ソーニャの物と同じ紋章(もんしょう)

恐らくこの男性もまたこの国の為政者(いせいしゃ)だったのだろう――>


「……周囲の状況を見る限り、護衛も連れず慌てて逃げた様です。


言うまでもありませんが、抵抗する(すべ)を持たぬ人間が

先程の魔物を相手に生き延びるのは不可能でしょう。


……ソーニャ、私は()えて貴女に命じます。


一人でも多くの民を救いたいと願うのなら

此処(ここ)でその者の死を(いた)んで居る暇などありません。


さあ、洞窟への案内を続けるのです」


<――彼女(ソーニャ)の肩に手を置きつつそう言ったアイヴィーさん。


直後――


“すまなかった、此方(こっち)じゃ……”


――と弱々しく案内を再開した彼女(ソーニャ)

この後も幾度(いくど)と無く目にする事と成った凄惨(せいさん)な状況に苦しみつつ

(なお)気丈(きじょう)に案内を続けた。


そんな中、遠くに見える雑木林(ぞうきばやし)の中で(かす)かに光った“何か”に

アイヴィーさんは声を(ひそ)め――>


………


……



「……先程の者と同じ“手合(てあ)い”が数体

恐らくは先程の者が口を滑らせた“洞窟(どうくつ)”を攻撃している様です。


つまり――


“生存者が居る”と言う事。


――主人公様は引き続きその(ソーニャ)の“護衛”を

私が合図を送るまで、この場所での待機をお願い申し上げます。


では――」


<――そう言い残した直後

連続転移と見紛(みまが)うばかりの速度で“走って”移動したアイヴィーさん。


彼女は、未知の化け物数体に対し一切押される事無く

圧倒的な勝利を収め――


“済みました……此方(こちら)へ”


――そう言って“ドヤ顔”と共に此方(こちら)へ合図を送って来たのだった。


ともあれ……この後

恐る恐るアイヴィーさんの居る場所へと向かい――>


「お疲れ様です……と言うか、流石(さすが)です」


<――その正確無比(せいかくむひ)な立ち回りにねぎらいの言葉を掛けた俺。


一方……先程と同じく、汚れた指先をハンカチで拭き取り

余裕の表情を浮かべて居たアイヴィーさんは

そんな俺の言葉を受けた後も冷静な態度(たいど)を崩さなかった。


だが、その反面――>


………


……



「疲れは然程(さほど)……ですが、少々皮膚が硬い敵の様です。


等級はともあれ、仮にも主人公様の発動された魔導障壁(しょうへき)

(わず)か数回の攻撃で打ち破った理由の一つなのでしょうが……


……お陰で少し指が痛くなりました。


これが何であるにせよ、少々不愉快な存在である事に違いはありません」


<――この瞬間、アイヴィーさんの口から発せられた

“珍しい”どころの騒ぎでは無い発言。


……“二対(につい)魔王”と成り

そう成る前とは比べ物に成らない程の圧倒的な強さを得た彼女が

唯一(ゆいいつ)発した“指が痛い”と言う弱気発言は

この魔物の異質さを物語ものがたって居た。


直後“指、大丈夫ですか? ”と(たず)ねた俺に対し――>


「……ご心配には及びません。


ですが、(いず)れにせよこの場所で談笑(だんしょう)している暇は無い様です」


<――そう言って洞窟の入り口に目をやったアイヴィーさん。


彼女の視線の先には……既に敵の気配が無いにも関わらず

(なお)も必死で防衛魔導の展開を続けて居る兵士達の姿があった。


……この瞬間、彼らに感じた“違和感”


だが、その原因は直ぐに明らかとなった――>


………


……



「頼む……ソーニャ様を開放して貰いたい……」


<――たった今、その眼前で

“大立ち回り”を披露したアイヴィーさんにでは無く、明らかに

“俺”に差し向けられた耳を疑う様な一言……だが。


この発言をした男性兵士に、俺は明らかな見覚えが有って――>


「貴方はッ?! 確か、あの時……その……」


<――そう言い掛け口籠(くちごも)った理由は単純だ。


俺に対し“ソーニャの開放を望んだ男”……それが

“アースィー護衛部隊の隊長”だったから。


この、ある意味“望ましくない再会”と成った状況の中――>


「……ウィリアム、我が身は囚われてなど居らぬ

無礼に成らぬ内に(はよ)う警戒を解くが良い」


<――そう発した彼女ソーニャの言葉に疑問を感じた様な表情を浮かべつつも

一応は警戒を解いた“隊長(ウィリアム)”は――>


「承知しました、詳しい話は後ほど……一先(ひとま)ずは此方(こちら)へ」


<――そう言うと

防衛魔導に空きを作り俺達を洞窟(どうくつ)内部へと招き入れた。


そして――>


………


……



「ウィリアム……生存者は何人じゃ? 」


<――暫く進んだ先

最奥と(おぼ)しき場所で固く閉ざされた扉の前に到着した瞬間

声を落としそう問うた彼女(ソーニャ)


“……我が隊は私を含め四人

議員が一人と護衛の軍人が二人、民が三〇人程でございます”


と言う隊長(ウィリアム)の説明を聞くなり――>


「この惨状(さんじょう)を見れば、それが現在の我が国の“全て”と言う事か……」


<――消え入る様な声でそう言うと、うつむき静かに拳を握り締めた。


直後……この場に流れた嫌な静寂(せいじゃく)


暫くの後、静かに顔を上げた彼女(ソーニャ)は――>


………


……



「ウィリアム……扉を開くが良い」


<――まるで“心に(ふた)をした”かの様に(おさ)としての表情を作り

隊長ウィリアムに対しそう命じた。


そして……直後、(おび)える民達と

警戒心をあらわに武器を構えた兵士らに対し――>


………


……



「……安心せよ、我が身は舞い戻った。


皆、良くぞ生き延びてくれたな……御主達の生存を我が身は心から喜んでおる」


<――優しき笑みを浮かべながらそう告げた彼女ソーニャ


そんな彼女の穏やかな態度にって

民達の顔にも安堵(あんど)の表情が戻り始めた一方で――>


「お、お待ち下さい!! ……ソーニャ様の背後に居る者は

何処(どこ)からどう見ても魔族ではありませんか!?

一体どの様な御積りでこの場所に魔族などを招き入れたのです?! 」


<――アイヴィーさんを指差しながらそう言うと

直ぐに護衛の兵の背後に隠れた議員らしき男。


だが、この直後――>


「黙れ、愚か者が……このアイヴィーは味方じゃ。


そもそも、この様な緊急事態に護衛の兵を“独占”する

貴様の様な愚か者などよりも、貴様のさげすむ“魔族”や

我が国に取っては怨敵おんてきであった主人公の方が余程(よほど)頼り甲斐があろう。


全く……今回の様な事が起きずとも、遅かれ早かれ

我が国は、貴様の様な愚か者に崩壊させられていたのやも知れぬな」


<――静かな怒りを(あらわ)にそう言い放った彼女ソーニャの姿に

この場に居る民達の中にもかすかに存在して居たであろう

“怒りの感情”は静かに収まりを見せた。


だが――>


「た、民など(いく)らでも変わりが効くのです!

為政者(いせいしゃ)たる者が生き残らねば国家は立ち行かず! ……」


<――端的(たんてき)に言えば“口が過ぎた”と言うべきだろう。


自身の置かれた状況が判っていなかったのか

議員らしき男は(なお)悪態(あくたい)をつき、この場に居る者達の怒りを買い続けた。


……だが。


そんな議員の男に対し、何故か彼女(ソーニャ)は――>


「ほう……(みずか)らを為政者(いせいしゃ)のたまう割には

重要な局面を見誤(みあやま)った(みずか)らの愚かしさには気付かぬか。


誠に皮肉な事よ……まぁ良い

どの道、我が国は国家としての(てい)を既に失っておる様じゃ……(ゆえ)

我が身は現時点をもって――


――メッサーレル君主国の長を()する事とする。


貴様が其処(そこ)まで“この国の為政者である”と(おご)り高ぶるのであれば

この地位……全て貴様にくれてやろう」


<――そう言うと、(みずか)らの胸章を外し議員の男へと手渡した。


この唐突(とうとつ)つ理解不能な彼女の決断に、俺は勿論の事

民達が慌てた一方で……(ただ)一人、議員の男だけは

さいわい”と言った表情を浮かべ――


“ほう……この様な緊急事態に全てを投げ捨てるとは

所詮しょせん、女には国を任せられんと言うべきですかな? ”


――と、勝ち誇った様な態度を取った。


そんな中、彼女(ソーニャ)は――>


「何とでも(のたま)うが良い……(いず)れにせよ国は貴様に任せよう。


じゃが、我が身は貴様の様な者の治める国になど居りとうは無い

我が身はこの主人公もの軍門(ぐんもん)(くだ)るが、よもや邪魔立てはせまいな? ……」


<――この瞬間


“国の惨状(さんじょう)に嫌気が差し

これまで彼女の(がわ)に立ち動いていた俺の甘さを利用する為

(みずか)らの地位を身軽にした上で、政令国家へと移り住む計画だったのか? ”


……とすら思ってしまう程の発言をした彼女ソーニャ


当然、議員の男もそう“考えた”様で――>


「……散々綺麗事を並べた挙げ句

その様に下劣(げれつ)な手段を取るとは……まぁ良いでしょう。


貴女が何処(どこ)へ向かおうと私の知った事ではありません

引き止めは致しませんので何処(どこ)へでもどうぞ? 」


<――そう言って笑みを浮かべた議員の男。


だが、この直後

この男以上に笑みを浮かべた彼女(ソーニャ)は――>


………


……



「ほう……これは良い返事を聞けた。


では次に、この場に居る全ての者に問う――


我が身の選択を(さげす)み、その者の国に残るか

それとも……我が身と同じく、この国とこの国での地位を全て投げ捨て

我が身と共に“政令国家”の軍門(ぐんもん)(くだ)るか。


――(みずか)らの思う方を選ぶが良い。


と……許可を得ず、勝手な発言をしたが……構わぬか? 主人公よ」


<――この瞬間

突如として“本性”をあらわしたソーニャ。


……そんな彼女の発言に驚きつつも

うなずいて見せた俺の様子を確認すると――>


「……政令国家“外交大臣”である主人公の許可も得た事じゃ。


我が身に賛同(さんどう)する者は、我が身と共に来るが良いッ! 」


<――そう言って民は勿論、軍人達をも力強く見据(みす)えた。


だが、そんな彼女の言葉を“議員の男”

もとい、メッサーレルの“新たな長”は鼻で笑い――>


「馬鹿な事を……仮にも敵国の民を“無償(タダ)”で受け入れるなど有り得ぬ話。


……女はなぐさみ者にされ、男は奴隷(どれい)として売り払われるのが関の山だ!!

差し詰め、(みずか)らの地位が為に貴様ら民草を犠牲にする腹積もりなのでしょう?


民よ……それでも良いと言うのなら、何処(どこ)へでも行けば良いのですよ? 」


<――そう言い放った。


この場に暫しの静寂(せいじゃく)が流れ――>


………


……



「そ、そんな馬鹿な……おい!!

お前達は騙されているんだ! 馬鹿な愚民共が!!!


待て……待てと言っているだろうっ!!! 」


<――何一つとして驚きは無かった。


全ての民が彼女(ソーニャ)に付き(したが)い、隊長ウィリアムを始めとする“護衛部隊”の者達も

“新たな長”の近衛(このえ)兵すらも職務(しょくむ)放棄(ほうき)し……この場に居る全員が

“政令国家の民と成る決断をした”と言うこの状況に。


……ともあれ、この直後

顔を(ゆが)め、口汚く民草をののしり続けて居たメッサーレル君主国の“新たな長”は

(みずか)らが劣勢(れっせい)であると気付いた途端(とたん)(おどろ)く程に意見を変え――>


「わ、分かったっ!! ……わ、私も政令国家の軍門(ぐんもん)(くだ)る事としよう!

だ、だが……仮にもメッサーレル君主国の長と成った身だからな?

(いく)軍門(ぐんもん)に下るとは言え、それなりの役職を用意して……」


<――そう言いつつ此方(こちら)に近付いて来た“新たな長”

だが、アイヴィーさんはこの男を強く制止(せいし)し――>


………


……



「止まりなさい……我が政令国家は

“敵国の長”を受け入れる程愚かではありません。


それ以上近づけば……容赦(ようしゃ)はしませんよ? 」


<――そう告げると“二対(につい)魔王”らしい(すご)みを()かせた。


この後……まるで魂が抜けたかの様にその場にへたり込んだ“新たな長”を横目に

政令国家の“新たな民達”と共に帰還する事と成った俺は、念の為

政令国家で待つラウドさんへと連絡を入れた……だが。


通信の先で聞こえたラウドさんの声は、明らかに事態(じたい)急変(きゅうへん)()げて居て――>


===第百九四話・終===

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