第百九二話「全てを見届けるのは楽勝ですか? 」
<――自らの考えや行動
その全てが無駄とすら思える六日間を過ごした俺は
七日目の朝……どの様な結果であれ
決して目を背けず最後まで見届ける為……地下深く
鎖に繋がれたまま、唯静かにその刻を待つ彼女と同じ空間に居た――>
………
……
…
「では……これより、我が国の大臣であり唯一のトライスターである
主人公殿に対する“篭絡計画”を実行した大罪人ソーニャの極秘裁判の為
此処“政令国家地下特別警戒監獄室”での臨時法廷を開廷する……」
<――大統領城の地下深く
過去、俺が幽閉されていたこの場所で開かれた“裁判”は――
――固く、後ろ手に縛られた彼女を厳しい眼差しで見つめつつ
開廷を宣言したラウドさんの一声で幕を開けた。
この後……次々と読み上げられた彼女の罪状に
同席している大臣達が皆、嫌悪感を顕にして居たその一方で
彼女は……彼らを睨む事も、縋る事もせず
唯静かに、全てを受け入れる覚悟と堂々たる姿を貫いた。
……暫くの後、罪状の読み上げを終えたラウドさんは
静寂の中、彼女の目を真っ直ぐに見つめ――>
………
……
…
「大罪人ソーニャよ……
……御主が主人公殿に行った篭絡計画とその為に行われた行為は
我が国に於ける法を著しく逸脱した決して許されざる物じゃ。
依って、御主の身柄を――」
………
……
…
「――“国外追放”とし、以降の入国を認めぬ物とする。
但し、特例的事情に依り御主の再入国を認める場合には
主人公殿に依る、厳しい監視の目が付く事となる。
……御主へ下る事となった沙汰は以上じゃ。
さて……主人公殿、数時間後執り行われる国外追放処理までの間
御主にその者の監視任務を任せようと思うて居るのじゃが……
……構わんじゃろうか? 」
<――あっけらかんとそう言ったラウドさん。
当然の如く言葉を失っていた俺……その一方で
……そんな俺を横目に、当事者である彼女は
ラウドさんに対し――>
………
……
…
「ラウド大統領……何故じゃ」
「何じゃね? まさか、罪を軽くして貰いたいとでも言いたいのかね? 」
「……馬鹿を言うで無い!!
我が身を“極刑”に処すのが、この国の長である御主の責務であろう。
剰え、斯様に“甘き者”を監視に付けるなど……
……逃亡は疎か
この国への破壊工作すら行いかねぬ我が身を何と捉え!! ……」
<――俺以上に“理解不能”と言った様子で
ラウドさんに対し“説得”を始めた彼女……だが。
ラウドさんは、尚も“あっけらかん”とした様子で――>
………
……
…
「……“馬鹿を言っておる”のは御主じゃよ。
充分厳しい沙汰じゃろう?
御主はもう二度と……我が国に入国出来んのじゃから。
それはつまり――
我が国の“ゲーム”も、名店ヴェルツでの“食事”も
“旅館”も“薬浴”も……そして“和装”も。
――全て、二度と楽しめぬのじゃよ?
もし、わしが御主の立場なら“気が狂う”程に重い罪じゃと思うがのう? 」
<――と言った。
だが……こんな説明を聞いた程度で納得し、後悔する程
彼女がこの国の名産品や名物に“のめり込んで”居ない事など
言うまでも無くて――>
………
……
…
「……この国の汎ゆる物が高い水準に保たれておる事は認めよう。
じゃが……我が身の狙いは主人公の力であり
今も尚、其奴に流れる力を欲して居る我が身を
斯様に甘き沙汰で“放免”すれば……
……其の女子の口にしていた通り
我が身と違わぬ考えを持つ多数の者に依り、この国は食らい付くされ……」
<――此処まで来ると、逆に
“政令国家の行く末を気に掛けているレベル”
とすら思える様な発言が殆どに成って居た。
兎も角……どんな考えがあったにせよ
彼女はこの後も判決への“不服”を発し続けた。
……だが。
この後、そんな彼女に対し“一人の大臣”が発した言葉に依って
彼女は全ての不服を取り下げた。
彼女に“そうする事”を選ばせた大臣。
それは――>
………
……
…
「皆ごめん、黙っとく様には言われてたけど……ソーニャさん。
貴女が今日まで主人公と一緒に“政令国家観光”をしてた間
僕達獣人族がずっと監視してた事……知ってた? 」
<――この時“俺すら知らなかった”事実を口にしたのは
獣人族及び、諜報担当大臣の“リオス”だった。
彼は続けて――>
「ソーニャさん……僕達は、貴女が主人公に“辛く当たってた”事も
全てを諦めた様な態度で居続けた事も、全て監視し続けてたんだ。
だから、どんなに促されても決して――
“逃げなかった事も”
――僕達は皆、知ってるんだ」
<――この瞬間
俺の“裏切り行為”が全て筒抜けだった事……そして
彼女の持つ“最後の良心”をも指摘したリオス。
だが、そんな彼の指摘に対し高笑いで返したかと思うと――>
………
……
…
「……馬鹿め。
このソーニャが気付いて居らぬ訳が無かろう?
御主らの“獣臭”があの森を囲む様に漂って居た事など百も承知よ。
万が一を考え、我が身が純粋である様“見せ掛けて居た”に過ぎぬ
そもそも……徒歩での逃亡など無謀極まるであろう? 」
<――嘲笑うかの様にそう言った彼女。
だが――>
「いや……それは嘘だね」
<――少し笑みを浮かべそう言ったリオス。
そして――>
………
……
…
「……昨日、主人公が貴女を連れて入ったあの森には
僕達ですら気付かれずに監視出来る様な隠れ場所は無かった。
まぁ、多分だけど……主人公もそれを“狙った”んだと思うし
その事はまた改めて主人公を問い質すから……
……主人公は後で覚悟しててね? 」
<――そう言うと
俺に対し、ソコソコ“ブチ切れている”様子を見せたリオス……
……この後、狼狽える俺を“放置”しつつ
彼は更に続けた――>
………
……
…
「……兎に角。
あの日、あの森の中で起きた全ての出来事は
“精霊女王デイジー”から齎された情報だけが頼りだった。
そもそも、あの日……獣人族は疎か
ハンターすらあの森には一人として立ち入って無い。
……その“事実”を伝えた上でもう一度だけ聞くよ?
ソーニャさん……何故、貴女はそんな嘘を付いてまで極刑を望むの?
何故、僕達獣人族を蔑む様な発言で僕を“乗せて”
万が一にも貴女の事を痛めつけさせようと考えたの? 」
<――この時、瞬時に
“何故そうする事を選んだのかすら分からない”彼女の嘘を見抜き
そう言った彼の問いに対し……沈黙を貫き
最後まで決して真実を語ろうとはしなかった彼女。
重苦しいまでの静寂が流れたその後――>
………
……
…
「ソーニャ殿……先程申した通り
御主は、我が国から見れば“大罪人”なのじゃよ?
それはつまり……今直ぐに御主の“真なる考え”を知る為
“自白の魔導”を掛けても構わんと言う事じゃ……」
<――真実を語らせる為か
そう脅しとも取れる様な発言をしたラウドさん。
だが、その上で――>
「……じゃが、御主がそうせねば成らん程の何かを隠しておる様には見えん
寧ろ、御主は進んで極刑を……」
<――と、何かを言い掛けた。
瞬間――>
「……もう良いッ!!
我が身はあくまで忠告をした迄じゃ、我が身に下されし沙汰を全面的に認めよう。
戯言など聞きとうは無い……早う我が身を追放するが良いッ!! 」
<――声を荒らげそう言った彼女。
そんな彼女に対しほんの一瞬、笑みを浮かべ――>
「ふむ……では二時間後
全ての準備が整い次第、御主を国外追放処理とする。
無論“お付きの者達”も同じくじゃから安心する様に……
……では、これにて閉廷じゃ」
<――そう伝えると
彼女の拘束具を全て外す様、衛兵に指示を出したラウドさん。
直後……“自由の身”と成った彼女は
ラウドさんの指示通り、追放までの二時間“俺の管轄”と成った。
の、だが――>
………
……
…
「……我が身は腹が減った、食事を用意するのじゃ」
「へっ? ……」
「……何を呆けておる? 早う食事を持て」
「い、いや……普通に自分で注文を通して貰えたら……」
「何を馬鹿な……“ヴェルツの料理はどれも最高”なのであろう?
であれば、残る僅かな時間で食す事の出来る物を選ぶのが
“世話係”である御主の役目……」
「せ、世話係ぃ?! 俺は貴女の監視役であってッ!! ……」
<――朝食時を過ぎ
殆ど貸し切り状態のヴェルツにて交わされた俺とソーニャさんの会話。
尊大な態度で食事を所望する彼女の“急変”っぷりに
腹立たしさを感じていた俺だったのだが――>
「馬鹿者めが……“御主に選ばせる”と言うて居るのじゃ。
六日間、御主の饗しを無下にした償いと捉えるが良い……」
「つ、償いって……分かりましたよ。
……ミリアさんッ! 店で一番のスペシャルセットで!
食べ切れなかった分は全部持ち帰りに包んで貰えると助かりますッ!
よし……こ、これで取り敢えず注文は通りましたから
もう落ち込まないで下さ……」
「ふっ……単純な男よ、此れで漸く食事にありつけるわ。
……しかし手間の掛かる男じゃのう?
斯様に不甲斐無うては女子に見向きもされぬぞぇ? 」
「な゛ッ?! ……」
<――この後
完全に“手玉に取られた”苛立ちと恥ずかしさに
顔を真赤にしていた俺の様子を――>
「しかし、愉快な男よのう? ……青く成ったかと思えば赤く成り
残る姿が一体“何色と成るのか”是非とも見て見たい物じゃ。
ふふふっ……」
<――そう表現し
終始、俺の事を手玉に取り続けた彼女は
一頻りヴェルツの食事を堪能し――>
………
……
…
「さて……次はゲームとやらを持って参るが良い」
「い、嫌です!! ……もう乗せられませんからねッ?! 」
「その様に怒る顔も愉快じゃのう? ……じゃが、我が身は寂しいぞぇ?
我が身は……一時間と少し経てば、崩壊の一途を辿る母国へと帰り
凄惨な国の姿を目の当たりにする事と成るのじゃぞ?
……心の拠り所すら無い我が身は、国に帰った後
耐え難き苦痛に“身を投げる”やも知れ……」
「だぁぁぁッもうッ!! ……分かりましたからッ!!!
全部持ってきますから此処にいて下さいッ! ……」
「……何を言う、それは流石に殺生じゃ
我が身も付いて行く故、案内するが良い……」
「そ、そんな気遣いしてくれるなら最初から丁寧に……」
「……何を言うか。
“我が身に選ばせぬとは”殺生じゃと言うた迄じゃぞぇ? 」
「な゛ッ?! ……」
<――この後
再び俺の事を手玉に取った彼女は
一頻りゲームを手玉に……いや“手に取り”
全ての特級品を手に入れ、満足気にガンダルフの店を後にした。
そして――>
………
……
…
「さて……次なる我が身の所望は和装じゃ」
「もう騙されませんよ!? 何と言おうと、俺は……」
「ううむ……固く縛られて居ったが故か
我が身の手足には痺れと共にアザの様な物が見え隠れして居る訳じゃが……
……御主は“傷物にされた”我が身に
せめてもの華を持たせてはくれぬと言うのか? 」
「そ、そんなの俺の治癒魔導で治せば直ぐに良く……」
「ふむ……では、心の傷をも治せると言うのかぇ? 」
「う゛ッ……もう、分かりましたよ。
買いに行きますから、ソーニャさんは好きなのを選んで下さい
俺が奢りますから……」
「ほう? ……“騙されぬ”のでは無かったのか? 」
「な゛ッ?! ……」
<――この後
三度俺の事を手玉に取った彼女は
一頻り和装を堪能し……店でも一番高い十二単を選ぶと
支払いを俺に丸投げし、満足気に店を後にしたのだった。
そして、四度目の“我儘”――
“旅館を堪能したい”
――と言う発言を繰り出した彼女。
とは言え、これまでの“弄ばれっぷり”に半ば諦めて居た俺は
これ以上の“問答”を止め、旅館への転移魔導を発動させようとしていた。
だが――>
………
……
…
「主人公殿、ご苦労じゃった……時間じゃ」
<――和装店を出た直後
ラウドさんから齎されたこの通信に対し――>
「後一時間で構いません、彼女の追放を遅らせる訳には……」
<――気付けばそう頼んで居た。
だが、そんな俺に対し――>
「……良い、そもそも風呂になど入りとうは無かった。
我が身は唯、御主の困り果てた顔を見るのが愉快であっただけの事……
……時を遅らせた結果、万が一にも
我が身に降り注ぐ沙汰が厳しく成っては敵わん。
理解したのならば、早う我が身を追放するが良い……」
<――瞬間
それまでの物とは“違う”笑顔を浮かべそう言った彼女。
それは……鈍感な俺ですら分かる程の作り笑顔だった。
だが、その事を問い質そうとした俺の雰囲気に気づいたのか
彼女は俺に背を向けると、十二単の入った袋を抱き抱え……
……そのまま振り向く事無く
荷馬車のある東門前を目指し歩き始めた――>
………
……
…
「い、いや……此処からだと結構距離がありますし
俺が転移で送り届けますから! ……」
「……良い。
我が身の為、御主は幾度と無く転移をした……疲れておるのであろう? 」
「疲れてませんって! ……お、俺は“狂人”って言われる位強いんですよ?
だ、だから! ……」
「……良いと言うて居るであろう。
我が身と共に歩むのが嫌と言うならば別じゃが……そうで無ければ
このまま……我が身の我儘を聞き届けてはくれぬか? 」
「……分かりました。
でも……もしちょっとでも疲れたら言って下さいね? 」
「うむ、承知した……」
<――この後
右に左にと……街並みを眺めながら静かに歩く彼女の後ろ姿に
唯の一言も掛けられず居た俺は
彼女から言い様の無い儚さと寂しさを感じて居た。
そして……この後も、何が出来るでも無く
唯彼女の後ろ姿を眺める事しか出来ず居た俺は――>
………
……
…
「ん? ……妙に土産袋が多いな主人公」
「あ、ああ! ……俺が無理やり買い与えただけだから!
ってか、やっぱり甘いし馬鹿だよな~俺って! 」
<――東門到着後
首を傾げながら訊ねて来たオルガに対し、そう嘘をついた。
一方……用意された荷馬車へと
つい先程手に入れたばかりの“土産物”を乗せた彼女は――>
「良いな? ……我が身と変わらぬ扱いで持ち帰るのじゃ。
傷一つ付ければただでは置かぬ……気を引き締めよ」
<――と、同乗する自らの“お付き達”に対し
強い口調で指示を出し……直後、そんな彼女の並々ならぬ雰囲気に
お付きの者達は皆、背筋を伸ばし――
“ハッ!! ”
――と、周囲に響き渡る程の野太い声で応じた。
この後……そんな彼らの様子に満足したのか荷馬車から離れると
“追放処理”の為、形式的な発言をするラウドさんや
他の大臣達を完全に無視し、真っ直ぐに俺の元へと舞い戻った彼女は――>
………
……
…
「主人公……我が身の企みは全て
御主と御主の仲間に依って阻まれた。
じゃが……我が身は決して諦めては居らぬ。
“御主の力を得る事を”――」
<――そう言って少し強く俺の胸ぐらを掴んだ。
だが、その直後……静かにその手を解くと
シワに成った俺の服を叩きつつ――>
………
……
…
「――とは言え、この度の様に媚薬なぞには頼らぬ。
良いか? 主人公……万が一、我が身がこの国に再訪する事叶えば
その時は、真なる和平の為……御主の元を訪れると誓おう。
そして――」
<――直後
彼女は不敵な笑みを浮かべ――>
………
……
…
「――その時は、媚薬なぞ使わず
我が身の発する魅力で、御主を身悶えさせてやろう。
……主人公よ。
その日まで……精々男を磨いて居るのじゃぞ?
では……んっ。
……さらばじゃ」
<――瞬間
俺の頬にキスをしたソーニャ。
そして……顔を真赤にして慌てる俺には目もくれず
荷馬車に乗り込むと――
“御者……出して良いぞぇ”
――そう指示を出した彼女は、この後一切振り向く事無く
とても満足気に政令国家を“追放”されたのだった――>
………
……
…
「……主人公殿。
その、大変に言い辛いのじゃが……」
「へっ?! ……いやラウドさん!? 今のは俺がした訳じゃ無いでしょ?!
ってか、寧ろ言い換えれば俺は被害者って言うか! ……」
「いや、わしは気にしておらんのじゃよ? ……じゃが。
御主の後ろで“勢揃い”しておる者達には
一度確りと釈明するべきじゃと思うのじゃよ……」
「えっ? 後ろって……な゛ッ!? 」
<――瞬間
殺気を通り越し“冷気”を感じた俺は、恐る恐る振り向いた。
其処に立っていたのは――>
「主人公さん? ……何、なさってたんですか? 」
「メ、メルッ!? ……い、今のはッ!! ……」
「“キス”……よね?
それも、心からの愛情が込められてたし……ねぇ、主人公?
あんなに沢山のお土産まで持たせて、キスまでして貰って……
……あの女とはどう言う関係だったのかしら? 」
「い゛ッ?! ……マ、マリーン!?
違う! 誤解だッ! 俺はそんな目的でプレゼントした訳じゃ! ……」
「……主人公さんって事ある事に女性を誑かす癖がありますよね~
あぁ、そう言えば転生前にも仰ってましたもんね~――
“モテモテな感じで! ”
――って。
主人公さん、願いが叶って良かったですね~」
「マ、マリアッ!? ……ち、違う!
誤解だ! 断じてそんな“含み”は無いからッ!
……なぁガルドッ! お前なら誤解だって分かるよなッ?! 」
「友よ……“見えている物だけが真実とは限らぬ”とは言うが
御主の慌て振りを鑑みれば……吾輩には何も言えぬ」
「ちょ!? ……味方ゼロとかいじめかッ!! 」
<――この後
エリシアさん迄もが――>
「あ~……主人公っち?
“万が一媚薬を再び盛られてしまった時用に”って
サラちゃんから渡されてた“これ”……一応、全部飲んでみる? 」
「い゛ッ?! いや、その苦い奴はもう懲り懲りと言いますか……って?!
……何をするんだマリア!? 」
「は~い、暴れないで下さいね~主人公さん?
私は媚薬で苦しんでる主人公さんをお救いする為に
“羽交い締めにしてる”だけですからね~っ♪ 」
「いやいやいやッ!! ……どう考えても悪ノリのつもりだろッ?!
って……エリシアさん!?
……い、一旦落ち着いて下さい!
エリシアさんなら俺が無実だって分かる筈……」
「あ~……分かってるから大丈夫だよ~?
酔っぱらってる人程“酔ってない”って言う理論だよね~っ♪
って事で~……全部飲めぇぇぇぇぇっ!! 」
<――この後、丸々一本“苦ぁぁぁぁい解毒薬”を飲まされた俺は
苦味を越えた“えぐ味”にのたうち回る事と成ったのだった――>
………
……
…
「……うぐッ!?
あ、汎ゆる意味で報われなさ……過ぎる……ゲホッ……」
………
……
…
「ソーニャ様……本当に宜しかったのですか? 」
《――政令国家追放の後
物憂げな表情のまま荷馬車の外を眺めて居たソーニャ。
そんな彼女に恐る恐るそう訊ねた“お付き”の兵に対し
彼女は――》
「……別れ際、あの者に対し
我が身の魅力を存分に伝えて居った事はお前達も見ていたであろう?
何れあの者は我が身への恋心が故に、大臣達を説得し
自ら我が身を呼び寄せる事と成ろう。
……よもや、仕掛けが不充分であると言うのかぇ? 」
「そうは申しません……ですが、現在
我が国の置かれて居る状況を鑑みれば
その様に悠長に構えられる時間が残されて居るとは思えぬのです。
……我が国に対する“報復”の気運激しきアラブリアは勿論の事
我が国の大幅な戦力の低下を受け、我が国を“獲らん”と鼻息を荒くしている
周辺諸国の存在に気付かぬソーニャ様では……」
「お前の言わんとする事も理解はしておるぞぇ? ……じゃが。
……この“貢物”の山を見よ、どうじゃ?
我が身に魅了された者の“それ”であろう?
お前達が案ずるよりも遥かに早く、彼奴は我が身を求め……」
「ソーニャ様……その様に悠長なお考えで“間に合わぬ”事は
貴女自身が一番知っている筈ですッ!!
アースィー様ご存命時から既に
我が国で最も為政者としての能力を有していた貴女様がお下しに成る
普段の判断とは到底似つかわしくも……いや。
恐れながら……ソーニャ様。
よもや、あの男に惚れ
“意図的に”判断を誤ろうとして居られるのではありますまいな? 」
「……ほう?
“お付き”の分際で……偉くなった物だな、雑兵が。
貴様がこれ以上我が身に無礼な態度を取り続けると言うのならば
帰国を待たず、今直ぐに貴様をこの場で……いや待て。
母国より通信が入った――」
………
……
…
《――少なくとも
この後、彼女は主人公への“仕掛け”を発動させる事は無かった。
だが……彼女の元へと齎された“緊急の通信”は
その身を政令国家へ舞い戻らせるだけの絶対的な理由を伝えた――》
===第百九二話・終===