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第百八九話「“計画”は楽勝ですか? ……前編」

<――モナークの復活

そして……紆余曲折(うよきょくせつ)(すえ)、この度モナークと共に

二対(につい)魔王”を襲名(しゅうめい)する事と成ったアイヴィーさん。


……この、魔族史に(るい)を見ない決定を()

本当の意味で全てが(とどこお)り無く進む事と成った復活祭は

魔族居住区に全種族入り乱れての盛大なお祭り騒ぎをもたら

準備に奔走(ほんそう)した甲斐(かい)みたいな物を俺に感じさせてくれた。


だが……この直後、突如としてもたらされた衛兵からの報告

“メッサーレル君主国の使節団を名乗る者達の来訪(らいほう)”に()って

お祭り騒ぎは(つか)()の時間と成ってしまって――>


………


……



「……はい、ええ。


では、検査に問題がなければお通しして宜しいのですね?

……承知致しました」


《――第二城地域への出入国を管理する管理官の元へ

魔導通信越しに(もたら)されたラウド大統領からの承認(しょうにん)


直後……使節団一行に対し規定通り“所持品検査”を行った管理官。


すると――》


「ん? ……この瓶は何だ? 」


《――荷馬車に積まれていた数多くの荷物

その中にある細長い箱を開けた管理官……だが。


取り出した瓶を調べようとした管理官に対し

使節団の長と見られる女は(ひど)く慌て――》


「あぁっ!! ……お気を付け下さいっ!! 」


「何だ? ……まさか毒薬ではあるまいなッ?! 」


「ど、毒?! ……違いますっ!!

その瓶に入っているのは我が国で最も高価な葡萄(ぶどう)酒でございますっ!

ですから……強く揺すったり等、中身の痛む様な扱いは勿論の事

万が一にでも落として割ったりなどされてしまえば

此処(ここ)までの長き道程みちのりを何よりも優先し持ち運んだ私達の……


……そして、全面的な降伏(こうふく)をも()さぬ覚悟で

本日、和平(わへい)の為(おとず)れた私達の立つ()がありません。


どうか……どうかお願いです。


くれぐれも慎重にお扱い下さい……」


《――そう言うと

入国管理官に対し、(すが)り付き懇願(こんがん)して見せた使節団の女。


そんな彼女の態度に、管理官は――》


「それはすまなかったな……だが(いず)れにせよ

お前達はまだ敵国人である事を忘れては成らない。


少しでも妙な動きを見せれば、即刻(そっこく)……」


「……管理官様のお顔に泥を塗る様な事など致しません

ですからどうか、その葡萄(ぶどう)酒を箱にお戻し下さい。


この通りでございます……」


「ああ……これは済まなかった。


うむ、元通り箱に戻し……いや、待て。


これを貼り付けておけば……良し

この“封”があれば本国への入国管理時にあらためられる事は無い。


それでも文句を言われたならば

“第二城の管理官に連絡を取れ”と言えば……」


《――酒瓶の箱へ“あらため済み”の封を(ほどこ)

そう言い掛けた管理官に対し――》


「管理官様……この御恩(ごおん)

(とどこお)り無く和平交渉の進んだあかつきに……必ず。


私が“御返しに”上がりますわ……」


《――そう言った使節団の女。


彼女の(かも)し出した妖艶(ようえん)な雰囲気に思わず生唾(なまつば)を飲んだ管理官は

直後、首をブンブンと左右に振りつつ――》


「そ……()の様な事は求めて居らんぞッ?!

とっ、兎に角ッ!! ……入国を許可するッ!! 」


《――と、声を裏返らせながら使節団の入国を認めたのだった。


……この暫く後

第二城地域入国管理官である彼が(ほどこ)した“あらため済みの封”にって

本国の入国管理も(なん)無く通過した使節団一行は

政令国家の衛兵達にって大統領城の貴賓室(きひんしつ)へと案内され――》


………


……



「……皆様、お初にお目に掛かります。


私はメッサーレル君主国の新たな長……名を、ソーニャと申します。


以後お見知り置き……いえ、出来る事ならば

末永(すえなが)い両国の友好的関係性を築き上げられます様、心より願っております」


《――主人公を(のぞ)いた数多くの大臣が集まる貴賓室(きひんしつ)

立ち上がり、大臣達一人一人の目を見つめつつそう言ったソーニャ。


彼女の真摯(しんし)な態度に一定の評価をする者も見られた中

ラウド大統領は――》


「ふむ……本来ならばそれは此方(こちら)も願う所じゃ。


が、しかしソーニャ殿……(あらかじ)めの連絡も無く突然(とつぜん)の訪問とは

(いささ)か……“無礼”とは思わぬかね? 」


《――と、彼女達の非礼を指摘した。


だが、そんなラウド大統領に対し――》


………


……



「非礼は重々承知の上で御座います……ですが、それを承知の上で

一刻も早く貴国との国交樹立(じゅりつ)を果たすべく

崩壊の一途(いっと)辿(たど)る我が国を後にしたのです。


……同情を引く積りは毛頭(もうとう)ありませんが

この度の非礼に関しましては、その様な事情を照らし合わせ

どうか、寛大(かんだい)なご判断をお願い申し上げます……」


《――そう言って深々と頭を下げたソーニャ。


そんな彼女の発言に、ラウド大統領も“(ほこ)”を収め――》


「ううむ……その様な事情であったならば仕方無いじゃろう。


まぁ、此方(こちら)も“入国を遅らせた非礼”が無いとは言えぬし……


……此処(ここ)は“両成敗”でどうじゃろうか? 」


《――そう言ってソーニャに対し微笑(ほほえ)み掛けて見せた。


そんな彼の態度にソーニャは感謝を伝え――》


「そ、その……“両成敗”の御礼と言えば大層なのですが

我が国でも有数の醸造(じょうぞう)家より入手した葡萄(ぶどう)酒を……」


《――そう言ってラウド大統領に対し

あらため済みの封”がされた葡萄(ぶどう)酒の箱を差し出したソーニャ。


一方、そんな彼女からの“(みつ)ぎ物”を衛兵に手渡すと――》


「城の厨房へ持って行き“料理長”に渡すんじゃよ?

くれぐれも……“他の料理人”に渡してはならんぞぃ? 」


《――と、小さく耳打ちをしたラウド大統領。


だが……この直後

ソーニャの方へと向き直ったラウド大統領に対し、彼女(ソーニャ)は――》


………


……



「その……和平に関してのお話をさせて頂きたいのですが

その為には()ず初めに“我々の立場”をお伝えせねば成らぬかと存じます」


《――神妙(しんみょう)な面持ちでそう告げた。


その上で、彼女は――》


「……第二城の入国管理官様にもお伝えした通り

本日、私達はどの様に不平等(ふびょうどう)条約ものでも受け入れるつもりで

この場へ立っております……ですが。


その為には()ず……そちらの衛兵様、その葡萄(ぶどう)酒を此方(こちら)へ」


《――そう告げ

衛兵から今手渡したばかりの葡萄(ぶどう)酒の箱を受け取ると

これを開栓(かいせん)し、(ふところ)から取り出した

小さな銀製のさかずきにこれを注ぎ――》


「お集まりの皆様……前君主、アースィー様を失った後

我が国がどの様な新体制へと移行したのかをよく見知って頂きたく存じます。


(ゆえ)に“毒見”には(およ)びません。


(みずか)らがっ!! ――」


《――言うや否や

さかずきに注がれた葡萄(ぶどう)酒を一気に飲み干したソーニャ


直後……(のど)を押さえ、二度程“(せき)き込んだ”後


彼女は――》


………


……



「や、やはり……“下戸(げこ)”が無理をする物では有りませんね。


お見苦しい所をお見せしてしまい、申し……訳……ございませんでした……」


《――そう言うと

少し苦しそうに銀製のさかずきを机へと置いた。


一方、そんなソーニャの行動に――》


「ううむ……参りましたのぅ。


その様に気丈(きじょう)に振る舞われてしまっては

此方(こちら)も“本心”を伝えねばならん様じゃ……」


《――と、困った様な表情を浮かべつつそう言ったラウド大統領


そんな彼の様子に――


“ほ、本心……で御座いますか? それは一体どの様な……”


――そう(たず)ねたソーニャに対し

ラウド大統領は――》


………


……



「……国家間の交渉事に(じょう)を持ち込むのは愚策(ぐさく)じゃし

()えて包み隠さず、無礼を承知で話す事にするが……ソーニャ殿。


御主が、前君主アースィー殿の“妻”であった事への調べはついておる。


(ゆえ)に――


(かたき)()ちの為、我が国へ訪れたのでは? ”


――と今も(なお)疑っておる事も伝えておこう。


言う迄も無く、今の“行動”だけで御主に対し絶対の信頼が出来ると思う程

わしは耄碌もうろくして居らんし、本来ならば

御主に取ってかたき以外の何物でも無かろう主人公殿を

この場に同席させて居らん事もそれが理由じゃ。


さて、以上の事を全て伝えた上でソーニャ殿……御主に改めて(たず)ねる。


我が国への和平交渉は……“本心”からの行動なのじゃな? 」


《――恐らくは彼女達の来訪(らいほう)以前から

(あら)ゆる事態を想定していたラウド大統領。


だが、そんな全てを見透かす様な態度に対し

彼女ソーニャは――》


………


……



「“仇討(かたきう)ち”……で、御座いますか。


その様に思われるのも仕方の無い事でしょう……ですが

断じてその様なよこしまな考えだけは持ち合わせておりません。


今この場でそれを信じて頂く為と言うのならば

私は今直ぐに“自白の魔導”を掛けられようとも構いません。


ですが……(むし)ろ私は、ラウド大統領様が

仇討(かたきう)ちの相手”と(おっしゃ)られた御方に対し……


……“感謝”をお伝えしたいのです」


「何? ……感謝じゃと?

どう言う事じゃね? ソーニャ殿、主人公殿は御主の夫を……」


「ええ……ですが、同時に“力こそ全て”との考えに支配された挙げ句

血の繋がった兄弟をも殺め続け

その果てにおぞましい暴君と成り果てたあの人を

“死”と言う形であるにせよ“解き放って”下さった御方でもあるのです。


……其の様な相手に対し

仇討(かたきう)ちなどと言う感情は一切持ち合わせておりません」


《――これまでの“しおらしい”態度とは打って変わり

ラウド大統領の眼を力強く見つめ、そう言ったソーニャ。


彼女は……この後

アースィーの“暴君っぷり”を一頻(ひとしき)り語り続けた――》


………


……



「……アースィーの力にって我が国は豊かさを知った反面

他国への武力にる干渉と、彼の血を分けた兄弟達に対する残虐非道(ざんぎゃくひどう)さは

国民の精神をも赤黒く染めました――


“自国さえ良ければ、他国の人間などどうなっても構わない”


――と言う、おぞましく禍々しい色へと。


ですが……私が長と成った今、我が国は

例えるならば……現在のメリカーノアの様な存在を目指して居るのです」


《――“現在の”と、()えて強調したソーニャ


彼女の発言は詰まる所、両国の間に有った戦争の――


“真実を知っている”


――そう言った事と同義であり、当然ながら

この場に居合わせた政令国家の大臣達は皆一様いちよう動揺(どうよう)の色を見せた……だが。


そんな大臣達の動揺(どうよう)には見向きもせず、彼女は更に続けた――》


………


……



「……今日中にとは申しません。


ですが、行く行くは両国の間に恒久的(こうきゅうてき)平和がもたらされる様

私は粉骨砕身(ふんこつさいしん)の覚悟を持って、この度の交渉に挑む……っ?! 」


《――この瞬間、突如としてその場に倒れたソーニャ。


直後、慌てて彼女の元へと駆け寄ったラウド大統領は

彼女のひたいに触れ、その異様な体温に――》


「いかん! ……詳しい話は後じゃ!

今はソーニャ殿を魔導病院へお連れせねば成らん! ……


……衛兵ッ! 念の為、その葡萄(ぶどう)酒をあらためるのじゃ!! 」


《――言うや否や、彼女を(かか)え魔導病院へと転移したラウド大統領。


だが……魔導医の診断の結果

彼女の容態(ようだい)は――》


………


……



「……うむ、間違い無く(ただ)の“酔い潰れ”ですな」


「な、何じゃと? ……本当に何処(どこ)も悪くは無いんじゃな? 」


「ええ、ですが……相当酔っておりますぞ? これは。


さては……ラウド大統領この様な美女を酔わせ、襲い……」


「なっ?! ……馬鹿な事を言うでないッ!!

本人(みずか)ら“下戸(げこ)”だと言うた者に

無理()いして呑ませる様な下衆(ゲス)では無いわい!!

そもそもソーニャ殿は他国からの賓客(ひんきゃく)じゃぞ!? 」


「ほう? ……“襲い”は否定せんのですかな? 」


《――と、タチの悪い冗談を放ちつつ

酔い()ましの薬草を差し出した魔導医。


直後……不満げに薬草受け取ったラウド大統領は

再び彼女を(かか)え、大統領城の賓客(ひんきゃく)部屋へと彼女を送り届け

彼女の眠るベッド横に薬草の使用法、そして――


“……恐らくは長旅の疲れがたたったのじゃろうが

あまり無理をしては御主が望む和平交渉も進まぬじゃろう。


酔いが覚めたならば、また改めて交渉を続ければそれで良い

一先(ひとま)ずは安静(あんせい)に過ごす事を強くお勧めしておきますぞぃ。


政令国家大統領、ラウド”


――との書き置きを()え、静かに部屋を後にした。


一方……そんな彼の優しさに()って

ベッドへと運ばれたソーニャは――》


………


……



「……やはり。


男子おのこいくつであろうとも、か弱き女子おなごへの“守護(しゅご)本能”が働く様じゃ。


このソーニャが酒などに酔う訳が無かろうて……しかし

幾重(いくえ)にも重ねた篭絡(ろうらく)計画の“策の一つ”が(こう)(そう)してくれたわ……」


《――そう発した直後


何事も無かったかの様に起き上がり

書き置きと共に置かれていた酔い覚ましの薬草を手に取ると

銀製のさかずきに仕込まれて居た特殊な薬品と共に、これを魔導で焼却(しょうきゃく)し――》


「……さて、目当ての“狂人”へは何処いずこに行けば会えるのか。


このまま無害(むがい)女子おなごを演じるのはちと骨が折れるのだが……」


《――そう言いつつ

(ふところ)から更に小瓶を取り出したソーニャは――》


「とは言え、目当ての狂人……いや

“主人公”とやらに媚薬これを盛る事叶えば

篭絡(ろうらく)は元より全ては容易(たやす)き事じゃ……さて


夕刻(ゆうこく)までに“犠牲者”を探さねば……」


《――そう言って醜悪(しゅうあく)な笑みを浮かべたソーニャ。


この暫く後……夕食会前に一人の衛兵を部屋へと呼び付けたソーニャは

彼に媚薬(びやく)を盛り、(みずか)らを襲う様仕向け――》


………


……



「……ひ、(ひど)いですわッ!!!

強き立場で私をねじ伏せ……無理矢理に……」


「ち、違う!! ……貴様が私を誘惑したのだろう!?

そもそも“受け入れた”のは貴様であって!! ……」


「ひ、(ひど)いッ!! ……私、貴方の事をラウド大統領様に言いつけますッ! 」


「なっ!? ……ま、待て!! 」


「いいえ! 正義は必ず行われるべきですッ!! ……って。


きゃぁっ?! ……何をするのです?! 腕を離して下さいっ!! 」


「……待てと言っているだろうッ!!

と、取引だッ! ……何か欲しい物は無いのか?!

例えば宝石だとか! ……」


《――強い媚薬(びやく)の効果にって(みずか)らを襲わせた衛兵に対し

“そう言う様”差し向けた彼女ソーニャ


この直後、彼女は涙を流しながら――》


「わ……私は……この国へ和平を結びに来たのです。


崩壊(ほうかい)一途(いっと)辿(たど)る我が国を、我が国の民達を……


……何としても救う為、その為には

圧倒的な力を持つ御方の協力が不可欠なのです。


ですから、貴方が私に“何が欲しい”と聞かれるのでしたら……


……ただの一度で構いません。


主人公様とお会い出来る様……何卒(なにとぞ)、お取り計らいを……」


《――と言った。


そんな彼女の要求に対し

衛兵は当然の(ごと)難色(なんしょく)を示したが――》


「……分かりました。


では――


“この姿のまま”


――ラウド大統領様にお会いし、貴方の悪逆非道(あくぎゃくひどう)の全てをお伝え致します。


尊厳(そんげん)すらも“奪われた”女の恐ろしさ、貴方に理解して貰う為に……」


《――そう言うと

はだけた衣服のまま立ち上がり、ラウド大統領の元へと向かおうとしたソーニャ


直後、衛兵は“折れた”――》


………


……



「……わ、分かったっ!!

主人公様に会わせたなら今回の事を誰にも言わぬと約束するのだな?! 」


「ええ……我が国の行く(すえ)の為、何としても……」


「ええぃ……分かった分かったっ!!

丁度夕飯時だ……恐らく彼はヴェルツ本店で食事をしているか

その二階に有る彼の部屋に居る筈だ!

勝手に会いに行くなり何なり好きにするが良い!!


だが、不在であっても私は責任を取らんからな?!


で、では……し、失礼するッ!! 」


《――直後


逃げる様にこの場から去った衛兵の後ろ姿を弱々しく見守っていたソーニャは

彼の足音が聞こえなくなった瞬間――》


「……これは良い事をいた。


しかし、このソーニャを()いたと言う“偽りの記憶”

貴様(ごと)きの雑兵(ぞうひょう)には勿体無(もったいな)き程の幸せであろうて……」


《――そう言うと

再び醜悪(しゅうあく)な笑みを浮かべ、部屋を後にしたソーニャ。


直後……ヴェルツへと向かった彼女は、ラウド大統領の命令に()って

自室待機していた主人公の元へ向かい――》


………


……



「主人公様……突然の訪問をお許し下さい。


この度、政令国家との和平交渉の為

メッサーレル君主国より使節団と共に訪れました

メッサーレル君主国の新たな長、ソーニャと申します。


ご在宅でしたら、どうか……数分で構いません。


言葉を交わすお時間を頂けませんでしょうか? ……」


《――主人公の部屋の前に立ち扉越しにそう話し掛けたソーニャ。


一方、仮眠を取っていた主人公(かれ)は飛び起き

寝ぼけ眼を(こす)りつつ彼女を部屋に(まね)き――》


「と、取り敢えず……そちらの椅子にどうぞ。


それでその……何故俺の部屋にお越しに? 」


《――と、至極(しごく)真っ当な質問をした。


そんな彼に対し――》


「ふふっ♪ ……“夫の(かたき)”と聞いていたので

どの様な狂人かと心の奥底では恐怖していたのですが

とても愉快(ゆかい)な御方なのですね、主人公様は♪ 」


《――そう言って微笑(ほほえ)んだソーニャ。


当然、そんな彼女の発言に――


“か、(かたき)()ちに来たんですか?! ”


――と、警戒心を(あらわ)(たず)ねた主人公。


だが……そんな彼に対し

困った様な表情を浮かべたソーニャは――》


「……もし私が“はい”とお答えしたのなら、貴方は私をも殺しますか? 」


《――それまでの(おど)けた雰囲気とは打って代わり

真剣な表情でそう問うた。


だが――》


「俺は……心から、そう成らない事を祈っています」


《――そう返した主人公(かれ)の悲しげな眼差しに気付いた彼女(ソーニャ)


暫しの沈黙の後――》


………


……



「……申し訳ありませんでした主人公様。


ラウド様にもお伝えした通り、その様な感情は一切ございませんし

暴君と成り果てた夫を解き放って下さった貴方様に対しては

感謝しかございません。


……ですが、非礼であるとは知りつつも

彼の妻であった身としては、その……この様な形であれ

“チクリ”と……せめて“一矢報(いっしむく)いて置く事が”

妻としての最後の(つと)めであると考えていたのです。


主人公様……此方(こちら)の都合に付き合わせてしまい

誠に申し訳ございませんでした……」


《――そう言って深々と頭を下げ

(みずか)らの非礼な態度を()びた。


すると――》


………


……



「そ、その……今此処(ここ)でソーニャさんに対して

あの日起きた事の詳細(しょうさい)とか、あの日の俺の“精神状態”とか

様々な“言い訳”を伝える事が得策(とくさく)とはどうしても思えなくて。


何と言うか、その……上から目線だし

他人事で勝手な意見かもしれないですけど……俺は

両国の関係性が良い方向に進めば良いなって心の底から願っています。


だから、その……」


《――其処(そこ)まで言い掛け口(ごも)った主人公。


一方、そんな彼に対し――》


「……もう良いのです主人公様。


私は、貴方の判断を責める為にこの場に居るのではありません

(ただ)、崩壊の一途(いっと)辿(たど)る我が国の国政に……


……ほんの一瞬で構わぬのです。


日之本皇国へもたらしたと噂の

神通力(じんつうりき)”に(ひと)しき為政者いせいしゃとしてのお力を

混迷(こんめい)(きわ)める我が国の為……何卒(なにとぞ)、お力添え頂けないでしょうか? 」


《――そう言って再び深々と頭を下げたソーニャ。


そんな彼女の真摯(しんし)な態度に

主人公(かれ)は――》


………


……



「……その。


今直ぐに此処(ここ)安易(あんい)な答えを出す事だけは絶対に避けたいですし

何て言うかその……丁度、夕御飯時ですから!

俺の(おご)りで……ヴェルツで食事をしませんか? 」


《――彼女の要求に困り、悩んだ(すえ)に出したその申し出に対し

ソーニャは静かにうなずき――》


「分かりました……此方(こちら)も納得したご判断を頂きたいと思っていた所です。


それに……ヴェルツは名店だと聞き(およ)んでいます

私も丁度、お腹が空いていた所ですし……お言葉に甘えさせて頂きますね♪ 」


「は、はい! ……じ、じゃあ行きましょうか! 」


《――直後


ソーニャと共にヴェルツの一階へと降りた主人公は

彼女と共に少し遅めの夕食を取る事と成った。


の、だが――》


===第百八九話・終===

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