第百八七話「“復活祭”の準備は楽勝ですか? ……後編」
<――不安や恐れや寂しさ。
全ての鬱屈とした感情を……遥かに凌駕する恥ずかしさを感じつつ
同時に皆の愛と信頼をこれでもかと言う程感じられたこの日。
二つどころでは無い魔物の核を手に入れた俺達は
続くもう一つの依頼である――
“不枯之花”
――エリシアさん以外、その名前すら聞いた事の無い
ある特殊な花の採集地へと赴く事に成っていた。
の、だが――>
………
……
…
「さてさてぇ~っ♪ ……いよいよ本日のメインイベントぉ~っ!
“不枯之花”の咲いている場所の地図を出して貰えるかな~っ? 主人公っち! 」
<――この日一番のハイテンションで
目を輝かせながらそう言ったエリシアさん……だが。
地図を手渡した瞬間、エリシアさんの表情は見る見る内に曇り始め――>
………
……
…
「……ど、どうか為さったんですか?
まさか相当危険度の高い地域とか?
もしかして……“禁止地域”とかですか?! 」
<――と、矢継ぎ早に質問を繰り出した俺に対し
半ば諦めたかの様に、ゆっくりと顔を上げたエリシアさんは――>
「安心して……どれも違うから。
けど“個人的には”最悪なんだよねぇ……」
<――そう言うと
先程とは打って変わり“瞳の輝きを失った”エリシアさん。
その余りの豹変)振りに俺は勿論
皆も心配し始めていたその時――>
………
……
…
「いやその……そんなに心配されると申し訳ないし、正直に話すよ。
私が最悪って言った理由は……今回の採集目標
“不枯之花”が咲いているって言う地域が
この“宝石”をくれた精霊女王の管轄地域って事に由来するんだけど……」
<――そう言いながらエリシアさんが懐から取り出したのは
俺の物と良く似た“精霊女王の宝石”だった。
そしてこの瞬間……俺は察した。
エリシアさんのテンションが急降下した理由を――>
………
……
…
「あー……最悪だ。
何で依りにも依って
“フリージア”の管轄地域の森に自生してるかなぁ……はぁ~っ」
<――そう。
去りし日……汎ゆる地域の精霊女王達に対し協力を申し出たあの日。
エリシアさんに対し――
“……実は私、貴方のファンなのっ!! ”
――そう言うや否や、マシンガントークを披露した挙げ句
“開花”したり“花粉をばら撒こう”とした
あの“フリージア”が管轄している地域だ。
だが、同時に……あの地域には
通称“敵意の無い魔族達の集落”があるし
其処にはエリシアさんの親友と師匠のお墓があり
その上エデン隊の皆さんも居る。
俺は、それらの事柄を軸に――>
「で……ですので!
久しぶりのお墓参りと集落の皆さん挨拶回り! あとその!
エデン隊の皆さんにディーン達の事とか
色々近況報告とかしておくべきかな~って思ってたりしますし! ……」
<――と“必死感満載”な説得を試みた。
一方、そんなバレバレの“必死感”に――>
「……うん。
何だか凄く“気を遣わせてる”っぽいし……まぁ、そもそも
フリージアの態度だって悪意では無いもんね……分かったよ。
でも……出来るだけ早く“離脱”しようね? 」
「り、離脱って……いえ、分かりました。
必要な事を済ませたら直ぐに……」
<――などと話していたその時
突如としてエリシアさんの持つ“宝石”から
“凄まじく興奮した女の声”が轟いた――>
………
……
…
「んまぁぁぁぁぁぁっ!!! ……エリシアちゃん!
ついに……ついに、私の森を訪ねて来てくれるのねぇ~~っ♪
私嬉しくて……満開に咲き乱れちゃいそうよ~んっ♪ 」
………
……
…
「あ~……到着前で既にこのテンションか」
<――項垂れつつそう言ったエリシアさんの姿に
荷馬車内は如何ともし難い空気に包まれた。
ともあれ……数分後。
目的地である“敵意の無い魔族達の集落”に到着した俺達の前に現れたのは
集落の長でも、エデン隊の皆さんでも無く――>
………
……
…
「んまぁぁぁぁぁぁっ!!! ……やっぱり実物が一番可愛いわねぇぇっ♪
久し振りぃ~っ! エリシアちゃ~~~んっ♪ 」
<――そう“叫び”ながら
エリシアさんの事を凄まじい勢いで出迎えた精霊女王フリージアであった。
一方、そんな彼女の“熱烈歓迎”振りに対し
死んだ魚の様な目で、力無く――>
「うん“会うのは”久しぶりだね……」
<――そう発したエリシアさん。
“宝石通信”に余程迷惑しているのだろう事が
鈍い俺にも確りと感じられた事は兎も角として
彼女に遅れる事数分、集落の魔族達とエデン隊の皆は
現れるなり、俺達の来訪をとても歓迎してくれて――>
………
……
…
「荷馬車旅でお疲れでだろウ……先ずは集落の中心へくると良イ」
<――集落の長に案内され、歓迎の宴に参加する事と成った俺達。
だが、当然と言うべきか……此処での話題は
“俺の無作為之板使用”に関する物に始まり――>
「何と言うか、その節はご迷惑を……」
「いえ……あの時はお引き止め出来ない程の剣幕でしたし
“蟲研究の為”にしては随分とお急ぎでしたから
主人公様なりに何かお考えがあっての事だと理解しておりましたわ?
きっと私達をお救い下さった時の様な……」
「い、いえその……エデンさんが考えて下さって居る様な
崇高な感じでは無かった気がしないでも無いんですけど……」
<――そしてもう一つ。
“この集落の現在の扱い”に関して――>
………
……
…
「……とっ、兎に角!
“例の一件”で来た時には気付く余裕すらありませんでしたけど
何だか凄く集落の造りが“安全に成った”様に感じると言いますか……」
「あぁ、それは……モナーク様を始めとする
政令国家に属する魔族種達の協力があっての事ダ。
……あの日、治療の為に我が集落へとお越しに成られて暫くの後
モナーク様はその御礼とばかりニ……」
<――集落の長の話を要約するとこうだ。
配下への“治療”及び、敵対関係では無くなって暫くの事
彼奴はこの集落の存在を自らの配下としてでは無く
“同盟関係”の様に扱うと正式に宣言した上で
必要な防衛設備と住居を配下の者達に命じ建設させたらしい。
と言うか……正直、これだけでも充分驚きの情報だったのだが
集落の長は更に――>
「食事もですが……モナーク様は、自らが好みだと仰る
“カレー”と“福神漬”なる物を時折この集落へ届けて下さるのダ……」
「え゛ッ?! ……あ、彼奴が自らですか?! 」
「ええ……勿論、モナーク様のお付きの者が代わりにお越しに成る場合もあるガ。
だが大抵は御本人が“異常が無いならば良い” ……ト。
我が集落の様子を確認するついでに、自らお持ちに成る事が多イ」
<――と、普段の彼奴からは想像もつかない様な話をしてくれたのだった。
と言うか……彼奴っぽく無い行動過ぎて
正直な所、今もまだ半信半疑なのだが……兎も角。
……歓迎の宴も中盤に差し掛かった頃
俺達と共に宴に参加していた精霊女王フリージアに対し
本題である“不枯之花”に関する話を始めたエリシアさん。
すると――>
………
……
…
「……ええ、分かってるわ。
今日、エリシアちゃんが私の為に来てくれたんじゃ無いって事は。
あの“不枯之花”の為、そして“復活祭”の為……
……延いては、貴女が日夜行っている“研究”の為なのでしょう? 」
<――これまでの“騒がしい”態度とは打って変わり
冷静に、エリシアさんの全てを見ていた様な口振りでそう言ったフリージア。
直後、小さく頷いたエリシアさんに対し――>
「貴女に限らず……あの花を追い求める人間はとても多いわ?
それは、あの花が持つ力も勿論なのだろうけれど……
……それよりも、あの花にまつわる
“言い伝え”の方が大きな理由かも知れないわね……」
<――そう言うと俺達に対し
“不枯之花”にまつわる言い伝えを話してくれたフリージア。
彼女は――>
………
……
…
「……あの花が持つ力と、それにまつわる言い伝えは大きく分けて二つ。
一つは“不死”……そしてもう一つは“汎ゆる不足を補う”事。
言うまでも無く、不死なんて力をあの花から得る方法は無いし
あの花の生態系と名前……そして“不滅”と言う花言葉から
過去、人間が実しやかに始めた噂話に尾ひれが付いて
今では手がつけられない程に成ってしまっただけ。
でも、もう一つの方はと言うと……エリシアちゃん。
貴女は“それ”を頼ってこの場所に来たのでしょう? 」
<――全てを話し終えた後
エリシアさんの目を真っ直ぐに見つめそう言ったフリージア。
再び静かに頷いたエリシアさんの姿に
フリージアは困った様な表情を浮かべ、小さく溜息を付いた。
そして、エリシアさんに対し――>
………
……
…
「余り言いたくは無いのだけれど……
……あの花の力を借りるのだけは、おすすめ出来ないわ。
ねぇ、エリシアちゃん……私でも
“不枯之花の不運”から貴女を護る事は出来ないのよ? 」
<――と言った。
不枯之花に存在する負の側面……それは
“使用者に対し何らかの不運が訪れる”事。
だが……そんな“負の側面”を聞かされて尚
エリシアさんは――>
「分かってる……けど、それでも
蟲達を倒す為の決定打を早く手に入れたいの。
お願いフリージア……貴女の管轄であるこの森の何処に
不枯之花が咲いているのかを……教えて」
<――そう言って深々と頭を下げた。
だが……仮にフリージアがこの要求を受け入れた場合
間違い無くエリシアさんは蟲対策の為にこれを使用し
何らかの不運に巻き込まれる事と成る。
……そして、それがどれ程の不運かなど
この場にいる誰一人として答えられはしない。
もし……エリシアさんを取り返しのつかない不運が襲ったら?
もし……その不運に依って
二度とエリシアさんの笑顔が見られなく成ったら?
……俺は、エリシアさんに対し
今感じている思いの全てを伝えようとしていた。
だが、そんな俺よりも遥かに早く――>
………
……
…
「エリシアちゃん……分かったわ。
其処まで言うのなら……今直ぐその宝石を砕いて頂戴。
そうすれば、私の生命を生贄にして貴女を不運から護る事が出来るから」
<――そう言った直後
天を仰ぎ手を合わせ、目を閉じたフリージア。
だが、当然――>
「な……何言ってんの?! そんな事出来る訳が! ……」
<――慌ててそう言ったエリシアさん。
だが、そんな彼女に対し――>
「良いじゃない……一石二鳥でしょう?
鬱陶しく“付き纏う”精霊女王が一人
少なくとも貴女の眼の前から消えるし
貴女は苦労せず研究を完成させられるのだから……」
<――そう言い掛けたフリージアに対し
エリシアさんは――>
「……馬鹿にしないでッ!!
貴女が“ファン”だって言ってくれる私が
そんな“クズ”じゃ無い事は貴女が一番知っている筈……なのに
そんな卑怯な論で私のお願いを断ろうとするなんて酷いよ。
第一、貴女の生命を犠牲にして得られた物が
どんなに素晴らしい結果だったとしても
他人の生命を犠牲にして良い理由になんて成らない。
ねぇ、フリージア……私認める。
貴女からの連絡を“鬱陶しい”って思った事は何回もある。
……でも、貴女の事は嫌いじゃ無いし
貴女ほど私の気持ちを理解してくれる人は少ないと思うし
そもそも、精霊女王がいち人間でしか無い私を
“崇めるレベルで”大切にしてくれてる事は
これ以上無い程の幸運だとこれでも確りと分かってるつもり。
……だから。
私の事を大切だって思ってくれてるなら
貴女がこれから先も私の“ファン”で居てくれるなら
たとえ冗談でも、そんな事を提案しないで。
お願い……」
「……エリシアちゃん。
貴女が私の事、そんな風に想ってくれてたなんて知らなかった……私
嬉しくて、咲き乱れちゃいそうよ……でも、ごめんなさい。
こんな卑怯な論を突き付けなければ駄目な位、あの花の力は危険なの。
私の方こそ……お願い。
貴女が研究で困って居る事があるのなら
精霊女王である私の力を使って幾らでも協力するから
あんな力に安易に頼らないで……お願いよ」
<――あれ程“騒がしかった”彼女の姿は何処にも無く
この場には……唯
自らが大切に感じている存在の為
必死にその存在を護ろうとしている心優しい女性の姿しか無かった。
……長い沈黙の後
エリシアさんが下した決断は――>
………
……
…
「……分かったよ。
ゴメン、私が悪かった……そうだよね。
何手言うかこの間の“失敗”が痛手でさ……つい近道を探しちゃっただけ。
もうこの話題は持ち出さないって約束するから
フリージア、もう泣かないで? ……顔を上げてくれないかな? 」
<――この時
“自らを大切と想う相手”を
“大切に想う”と言う決断をしたエリシアさん。
……そんな彼女の決断に対し
フリージアは――>
………
……
…
「ほ、本当? ……」
「……うん、本当だから」
「じ、じゃあ……泣かせたお詫びに……私の事を抱き締めて。
それから熱い口づけと、甘い……」
「……な゛っ?!
ち、調子に乗るなぁぁっ!! 」
「ひ、酷いわエリシアちゃん……やっぱり私の事なんて……」
「いや、それとこれとは!! ……って。
もう……分かったよ。
ハグ位ならしてあげるから、その代わり……泣き止んでくれる? 」
「ええ! 勿論よエリシアちゃん♪ ……でも、出来たら熱い口づけも……」
「ねぇ……ハグも無しにしようか? 」
「し、仕方無いわね!
なら……今日の所はハグだけで勘弁しておくわね♪ 」
<――直後
飛びつく様にエリシアさんに抱きついたフリージアは
どさくさに紛れエリシアさんの頬にキスをしようとした。
だが、寸前で“超反応”を見せたエリシアさんに依って
それを阻止されてしまったのだった。
……と言うか。
俺達は一体――
“何を見せられているのだろうか? ”
――と、そんな事を考えて居た一方で
俺はある重要な事を思い出していた。
それは――
“アイヴィーさんから引き受けた物に関しては別問題である”
――と言う事。
長々と続いた二人の抱擁……暫くの後、俺は
精霊女王フリージアに対し
今回この場所を訪れる原因と成った“本題”を伝えた。
すると――>
………
……
…
「そうでしたね……しかし、魔王が二人も誕生とは
本来ならば忌むべき……いえ、これは余りにも無礼な発言でしたね。
……分かりました。
どの様な理由で不枯之花が二輪必要なのかも
ある程度理解はしています……先ずは付いて来て下さい」
<――と、珍しく精霊女王らしい態度を見せたフリージアに連れられ
俺達は森の奥深くへと向かう事と成ったのだが――>
………
……
…
「あ、あの……フリージアさん……」
「何です? 主人公さん……目的の不枯之花は目の前ですよ? 」
「い、いやその……どう見ても“一輪しか咲いてない”って言うか……」
<――そう。
一時間程歩いた先で彼女が指し示した不枯之花は
たった一輪しか自生しておらず……この上
其の姿を見たエリシアさんから――>
「あ~……これは採っちゃ駄目な奴だねぇ、絶滅しちゃうし」
<――と言う、一番聞きたく無かった言葉が聞こえて来た。
と言うかそもそも、一輪しか咲いていないのなら
何故フリージアは此処まで俺達を連れて来たのだろうか?
だが……何らかの嫌がらせかとすら思えた彼女の行動には
別の“含み”が有った様で――>
………
……
…
「……何を言わなくても皆さんのお気持ちは確りと理解しています。
ですが……この花は私の身体の一部とも言える花。
特に……私の“心”に等しい花なのです。
とは言え、これを採っていく事を責めている訳ではありません
私は唯……」
<――そう言い掛けた直後
口籠り……何故かエリシアさんの方を見たフリージア。
当然、その視線に気付いたエリシアさんは――>
「えっと……私が何か関係してるの? 」
<――そう問うた。
一方、この質問に少しばかり頬を赤らめたフリージアは……直後
思い切った様に――>
………
……
…
「そ、その……私の“心”に等しい花と言った通り
私が心の底から喜んだり、楽しい気分に包まれて居なければ
この花は成長も、増えも出来なくて……だから……その……やっぱり……」
<――と、耳まで赤くしつつモジモジとし始めたフリージア
……その一方で
更に“何か”に気がついた様子のエリシアさんは――>
「よし、主人公っち……帰ろうか! 」
<――と言った。
だがこの時……フリージアの横では
ただでさえ一輪しか咲いていなかった不枯之花が
見る見る内に萎み始めて居て――>
「なっ?! ……一輪しか無い不枯之花が“絶滅し掛けてる”んですけど?! 」
<――直後
興奮気味に指を差しながらそう言ったマリア。
同時に、エリシアさんの足は止まり――>
………
……
…
「はぁ~っやっぱりか……フリージア。
さっきの抱擁だけじゃ“足りない”って言いたいんでしょ? 」
<――うんざりとした表情で振り返りながらそう言ったエリシアさん。
一方のフリージアは静かに頷きつつ――>
「その……別に、この花が絶滅したからと言って
私の力や森の力が失われる訳では無いし……
……寧ろ、多くの人間達を惑わせてしまったこの花の力が
この世から消えて無くなるのは良い事だとは思うの。
でも、その代わり……」
「……フリージアは悲しみに暮れる事になるんだよね? 」
「ええ……でも、今此処で無理矢理
エリシアちゃんに“あんな事やこんな事を”お願いしたら
エリシアちゃん……私の事、嫌いになっちゃうでしょ?
私……そっちの方が辛いもの」
「いや……“何をお願い”するつもりだったのかは知らないし
知りたくもないけどさ……兎に角。
……この世から絶滅しちゃいそうな花を助ける為には
私が一肌脱がないと駄目って事で良いんだよね? 」
「そ、それは……」
「ねぇフリージア……ハッキリと言えないなら私は帰るよ?
私の気が変わらない内に、どうしたら助けられるのか……ちゃんと言って」
………
……
…
「その……私は……っ!!!
エリシアちゃんにキスして貰いたいのっ!!! 」
………
……
…
「……そっか。
主人公っち……皆も、ちょっとの間だけ後ろ向いてて。
それと……“良い”って言うまでは絶対に此方に向かないでね?
……皆、分かった? 」
<――直後
俺達はその“圧倒的な威圧感”に耐えきれず
静かに頷き、エリシアさんに背を向けた。
そして――>
………
……
…
「んっ……んまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!
頬で充分だったのに……熱い口づけを貰っちゃったわぁぁぁっっ♪
私……私っ!!
嬉しくて……芽吹いちゃうぅぅぅぅぅぅっ♪ 」
<――広大な森に響き渡った精霊女王フリージアの“嬌声”
直後……俺達を包み込んで尚、余りある程にこの場へ咲き乱れた
“超大量の”不枯之花の中から二輪だけを摘み取り
政令国家へ持ち帰る事に成った一方で――>
………
……
…
「……ねぇフリージア?
深刻そうに言った割には妙に簡単に“増殖”したけど……騙した? 」
「い、いえっ!? ……わ、私がそんな酷い女に見えるの?! 」
「“見える”かどうかは置いとくとして……
……何でそんなに冷や汗をかいてるのかな? 」
「こっ、これは……そ、そう! 夜露よ♪ 」
「今はまだ夕方に“成り掛け”位の時間だけど?
って……ま、良いや。
ねぇフリージア……」
「な、何かしらエリシアちゃん? ……って。
……ふんぎゃあっ! 」
………
……
…
<――この日
俺達が背中越しに聞いたフリージアの“濁った悲鳴”は
後の世に“森の七不思議”として語り継がれる……
……事に成るかどうかは判らないが
俺達がこの日、一つだけ得た知識は今後役に立つかも知れない。
“エリシアさんは……怒ると超怖い” ――>
===第百八七話・終===