第百八六話「“復活祭”の準備は楽勝ですか? ……前編」
<――色んな意味で危ない目に遭った
“モナークの復活”
だが一方で、俺がモナークから全ての力を預かっていた間の経験と
石化していたモナークが見ていた遠い昔の記憶と夢は、俺が再び結び……
……そして“一瞬で破った契約”に依って
再び、互いの脳に強く刻まれる事と成り――>
………
……
…
「た、助かったァァァァッ……ってか死ぬかと思った。
神様仏様モナーク様ッ! 本当にありがとうござい……って。
……ちょっと待ったァァッ!!
何だか前より俺の持ってる能力値が高過ぎる気がするんだけど
もしかしてお前……俺に“サービス”してたりする? 」
<――何とか九死に一生を得た俺は
復活直後、自らの能力値が妙に高い事に気がつきそう訊ねた。
すると――>
「フッ……愚か者が、貴様は馬糞と
彼奴の弟を滅したであろう……」
「あっ……そっか……で、でもさ!
……もしそれが原因で成長してるなら俺だけの力じゃ倒せてないと思うし
何ならお前が半分位持って行ってくれても俺は別に……」
「フッ……斯様な端など我には不要だ」
「は、端って……そんな言い方するなよ!
俺だって一応は気を遣って……」
<――最初の契約の時
俺の中に入ったモナークの記憶。
これまで、断片的で朧気でしか無かったその記憶は
再度結ばれた契約に依って比べ物に成らない程、鮮明な物と成った。
だが同時に……常日頃
此奴が胸の奥に秘めている過去の記憶と
いざと言う時、元魔王らしからぬ決断をしてしまう此奴の“優しさ”……
……その根底に有る物をこの日、俺は嫌と言う程理解した。
耐え難い苦しみを耐え……その末に得た
“アイヴィーさん”と言う戦友であり家族以上の存在……
……共に悲しい別れを経験し、共に不遇の立場を生き抜き
助け合う様に互いの立場を生き抜いて来た二人の絆は
何が起きようとも決して壊す事の出来ない物だろう。
たった今、馬鹿にならない大量の経験値を完全に放棄し
元々自らの中に在った力以外の全てを返してくれたモナークは
そんな“優しさ”を垣間見せた……まぁ、その代わりに
“口が悪い”なんてレベルでは無かったが。
ともあれ――>
………
……
…
「モナーク様、完全復活……いえ。
御復活、及び新たなる御力の発現……誠におめでとう御座います。
……早速ではございますが、モナーク様の魔王位復活と共に
モナーク様自身の御復活をお祝いする為
“復活祭”の様な物を執り行いたく考えているのですが……」
「ふむ……先程も其の様な事を申していたが
馬糞に付き従って居た物共は全て御主が配下と成ったのであろう? 」
「……はい、先程ご説明した通り“離反者共”は現在
全て私の配下となり、私の“完全支配”を受け入れております。
ですので、復活祭にてモナーク様が私を“完全支配”して頂ければ……」
「フッ……断る、御主程の者に対し
完全支配などと謂う下賤な扱いをする積りなど毛頭無い」
「モ、モナーク様……であれば……い、いえッ!
そ、その……」
<――瞬間
何かを言い掛け、何故か頬を赤らめ口籠ったアイヴィーさん。
そんな彼女に対し――>
………
……
…
「アイヴィーよ……半魔族である我などが魔王と成った時点で
我が種族の“伝統”など既に形骸化しているも同然であろう。
無論、御主が謀反の一つでも企てているのならば話は別だが
今迄通り、御主が我の“影”であり“右腕”であり続けると謂うのならば
我が種族の安寧を護る者として、我と共に“魔王”と成る事も……」
「……わ、私が魔王などッ!
其の様な畏れ多きご決断は断じてッ!! ……」
「フッ……早々と“謀反”か」
「なっ!? ……謀反などでは御座いませんッ!!
わ、私は唯ッ! ……」
<――ともあれ。
この後、傍から見ていて面白い二人の掛け合いは暫くの間続き……そして。
アイヴィーさんが最終的に折れた事で、晴れて……と言うべきか。
何れにせよ……この日
俺は――
“魔族種に続く永き歴史の中でも例を見ない”
――新たな時代の幕開けを目の当たりにした。
とは言え、それに依る復活祭の“催し物”も
“例を見ない程の”規模と成る事が決定してしまって――>
………
……
…
「……で、俺に何を獲りに行けと? 」
「ええ、主人公様には……此方と此方をお願い致します」
<――祠での“決定”から数日後の事
“モナークの復活及び、新体制移行に関する催し物(仮)”の為
密かに忙しく成り始めていた政令国家では、各種族の持つ特殊技能と
政令国家で発展した様々な道具や仕組みをフルに発揮した
盛大な催し物の開催を目指していた。
だが……この日、普通ならギルドの依頼にすら成らない程
超絶危険度の高いある特殊な魔物の核の採取
並びに、とある地域にのみ咲いて居る特殊な花――
“不枯之花”
――この二種の品を各二つずつ入手すると言う役目を
あろう事か俺に丸投げして来たアイヴィーさんは
まるで死刑宣告かの如くに二枚の地図を差し出した。
当然、難色を示した俺……だが。
アイヴィーさんはそんな俺に対し――>
………
……
…
「……私の敬愛するモナーク様に対し
あれ程の暴言をお吐きになり、あれ程の暴挙を行う事の出来る
この世界に於ける“唯一絶対”であり
“最強の人間族”である主人公様であれば――
――この程度の任務は余裕かと存じておりますが? 」
<――と
割と“根に持っています”感満載の圧を掛けて来た。
そして――>
「う゛ッ……わ、わかりましたよ……」
「ええ……では、宜しくお願い致します。
さて、無礼な態度はこれまでと致しまして……どうかお気をつけて」
「いっ、いきなり優しくしたって……
……俺だって根に持つ事はあるんですからね!? 」
「いえ……“魔物の核に傷を付けぬ様”
そう、お伝えしたかっただけで御座いますよ? 」
「ちょ?! ……アイヴィーさんは鬼か何かですかッ?!
ま、まぁ……獲って来ますけど?! 良いですけど?! ……はぁ~っ」
「ええ……では、お気をつけて」
「……分かってますよ!! 無傷で持って帰れば良いんでしょ?!
せめて帰って来たらちゃんと感謝して下さいよ?!
全くッ! ……」
《――直後、鼻息荒くこの場を後にした主人公。
一方、彼がこの場を去った直後――》
………
……
…
「主人公様……貴方がモナーク様の身を案じ
敢えてそう為された事は重々承知を致しております。
……素直とは程遠い私をお許し下さい。
無論、貴方程の実力であれば
万が一にも一切の苦など有りはしない相手ではありますが……どうか。
掠り傷すら為さらぬ様、陰ながらお祈り申し上げております……」
《――そう言って彼の去った方角を暫くの間見つめたアイヴィー
一方、鼻息荒く一度ヴェルツへと帰還した主人公は――》
………
……
…
「俺に対する心配じゃなかったんだよ?! ……酷くない?! 」
《――と、早速仲間達に対し愚痴をこぼしていた。
だが、そんな彼に対し――》
「それは大変でしたね……で、でもっ!
それなら私達も久しぶりに御一緒出来るって事です……よねっ? 」
「へっ? ……い、いやその一応は危険な魔物って話だし
そもそもメルには此処のお仕事が……」
「……ねぇ主人公? 久しぶりの狩りだし
そもそも……私達を“置いて行ったら”承知しないわよ? 」
「い゛ッ?! いや、マリーンだって此処の……」
「なら私も行きますね~♪
暫く狩りに出て無い所為で斧りんマークⅡが涙目に成ってるんですから!
ほら! ……見て下さい此処の所っ! 」
「いやマリア、それは元々のデザインじゃ……」
「ふむ、確かに泣いている様に見えるな……ともあれ
生涯の友の危機と成れば吾輩も同行する他あるまい」
「ガ、ガルドまで何を?! ……」
《――主人公の仲間達は皆、同行を“強く”希望していた。
そして――》
「……ねぇ、主人公っち。
今、何花って言った? ……」
「へっ? “不枯之花”と言いましたが……」
「……行く。
私も絶対行く……止めても絶対行くからっ!!
ってぇ事でぇ~~~っ! ……準備してくるぅ~~♪ 」
「……ちょ?! エリシアさん?!
俺まだ何も言って……って、もう居ないし!? 」
《――半ば強制的にエリシアの参加も決定したのだった。
この後……一切の拒否権無く“例に依って”
エリシア専用の“超大型採集用荷馬車”に揺られ
仲間達と共に、第一の目標である魔物討伐へと向かう事に成った主人公は
荷馬車の中で――》
………
……
…
「……いやっほぉ~ッ! 久しぶりの採集だ~っ♪
でもその前に魔物の討伐だ~っ! ……けどどっちにしてもぉ~っ!
す・ご・く! ……楽しみだぁ~~~っ♪ 」
「た、楽しそうですねエリシアさん……はぁ~っ……」
《――酷く
辟易としていた――》
「いやいや……そりゃそーでしょ!!
この所ずーっと“研究”に明け暮れてたから遊ぶ暇なんて殆ど無かったし
チビコーンにすら会いに行けなくてうんざりしてたんだよ~?
ま、チビコーンには昨日会いに行ったけどね~っ♪ 」
「そ、そうだったんですね……」
<――荷馬車に揺られる事三〇分程
満面の笑みを浮かべ、楽しそうにしているエリシアさんの姿を眺めつつ
俺は、とても不安な気持ちを抱えていた。
今日初めて相対する事と成る強力な魔物……無論
アイヴィーさんから示された情報と
俺の現在の格を照らし合わせれば言葉で言う程の苦労は無いだろう。
だが、この所の多忙さで狩り自体が久し振りどころの騒ぎじゃないし
そもそも、皆との共闘だって何時振りか判らない程期間が開いている。
それは宛ら――
“久しぶりにオンラインゲームにログインしたら
操作の一つも思い出さない内に旧友に誘われて
まさかの最難関ミッションに行く羽目に成った”
――って感じの心境だし、何よりも
ゲームとは違い、俺が僅かにでもミスをすれば
大切な人が“本当に”傷付く事に成る。
……それだけは何としても避けなければ成らないし
“久し振りだから”と皆に任せて良い程
舐めた対応が出来る魔物では無い筈だ。
……荷馬車に揺られ、エリシアさんのハイテンションに付き合いながら
俺はずっと気を引き締め続けていた――>
………
……
…
「俺が……頑張らなきゃな」
「……ん? 何か言ったかい主人公っち~? 」
「い、いえ! その……エリシアさんが楽しそうで良かったなと……」
「おぉ~かなり楽しいぞ~ぉ? ってか主人公っちも楽しめぇ~ぃ♪ 」
「は、はい……ってぬわぁッ!? 何処触ってるんですか?! 」
「何処って……脇腹? 」
「くすぐったいし“ドキッ”とするんで止めて下さいッ! 」
「おやおや~? どう言う意味での“ドキッ”となのかな~っ? 」
「そ、それは……ってもう!!
一応はかなり危ない魔物なんですから少しは気を引き締めて下さいッ!! 」
<――まぁ、幾ら気を引き締めても
すぐにエリシアさんが“緩めまくる”所為で気が気では無いのだが。
……ともあれ、この後
第一の目標である討伐対象の生息地へと到着した俺達は――>
………
……
…
「……さてと。
地図ではこの辺りが魔物の生息地域との事ですけど
魔物は疎か、動物すら居ないですよ~? 主人公さん」
<――目的地到着後
荷馬車を降り、周囲を捜索していた俺達……だが
マリアの言う様に、周囲には何の気配も無くて――>
「おかしい、また地図と現実が“違ってる”って事じゃ……」
<――不安に陥った俺が思わずそう口にした
瞬間――>
「あっ……あれじゃない? 」
<――そう言ってエリシアさんが指差した先では
討伐対象の魔物が一体、此方の様子を伺う様に立っていた。
だが……その凶悪な見た目とは裏腹に
無鉄砲な攻めをしない冷静さを持つこの魔物の態度は
俺の不安を煽り――>
「ここは一度、能力値の確認を……なッ!? 」
<――瞬間
その図体からは想像出来ない程の凄まじい勢いで左右に移動し
能力値の確認は疎か、此方の遠距離攻撃を尽く避けた魔物。
だが――>
「爆炎の魔導――爆轟環ッ!!! 」
<――咄嗟に“火環”の上位技を発動させ
何とかこの魔物を討伐する事に成功した俺。
しかし――>
………
……
…
「あの~……主人公さん? 」
「何だマリア? ……まさか、やられたのか!? 」
「いやそうでは無くて、あの~……お仕事内容は“核の採集”ですよね?
核は疎か“完全に焼失させる”とか馬鹿なんですか?
と言うか“スライムの草原”の再現か何かのつもりですか?
それとも――
“コアのある魔物とその生息地は一回吹き飛ばさないと気が済まない”
――とかですか? 」
<――と、完全なる“説教”なツッコミをして来たマリア
“い、いや……だって危なかったし?! ”
としか言い返せなかった俺に対し、今度は――>
「えっと~主人公っち? ……確かに動きは早かったし
並のハンターだったら危ないかもだけど、動きに規則性もあったし
攻撃は“振りかぶっての一撃”ってタイプだったし~?
そもそも、今日の主人公っちはちょ~っと……
……“肩に力が入り過ぎてる”と思うぞ~? 」
「なッ?! ……エリシアさんまで酷いですよ!!
俺は唯、皆が危ない目に遭わない為に! ……」
「いや、その気持ちは大切だけど~……う~ん。
何て言うか……そうだ、皆にしつも~ん!!
今の魔物の動きが完全に“追えてた”って人は挙手ぅ~っ!! 」
<――直後
全員が手を挙げた――>
「……ね?
そう言う事だから、肩の力と魔導攻撃の“力加減”を抜こうぜ~ぃ? 」
<――エリシアさんにそう言われ、渋々この提案を受け入れた俺。
だが……この後、二体目の捜索は難航し
周囲一帯を練り歩く羽目に成った俺達。
当然、皆にも疲れの色が見え隠れし始めていた頃――>
………
……
…
「駄目、全く見つからないわね……って言うか
主人公が“焼き払う”から怯えて出て来なく成ったんじゃない? 」
<――額の汗を拭いながらそう言ったマリーン。
何と言うべきか……何時もの俺なら
失敗に対する“イジリツッコミ”だと直ぐに理解出来て居たのだろうが
この日の俺は、皆を護る事しか頭に無くて――>
「そんな事言ったって危ないって思ったんだから仕方無いだろッ?! 」
「そ、そんなに怒鳴(どな」る事無いじゃ無い……」
「だってマリーンが! ……い、いや……その、ごめん……」
<――不必要で意味不明な逆ギレをしてしまった。
この後……俺の所為で会話も少なくなり久し振りの狩りだと言うのに
鬱屈とした気分で挑む事と成ってしまった魔物討伐。
この瞬間、転生前の暗い過去を思い出してしまった……
……人付き合いは疎か
“会計”での受け答えすら……思い出しても嫌になる。
転生してどれだけイケメンな顔に成った所で、中身が変わらない限り
大切な人を護る事も、大切な人を笑顔にする事も出来ないのだろう。
勿論……多忙を極め
嫌な事が列挙して押し寄せたこの所の所為にするのは簡単だ。
だが、だからと言って
皆との距離感すら分からなくなって良い理由にはならない。
俺は……深い反省と共に
更に鬱屈とした気分で周囲の探索を続けていた。
だが、そんな時――>
………
……
…
「あっ! ……彼処ですっ! 」
<――そう言ってメルが指し示した場所には
先程よりも小ぶりな魔物が立っていた……だが
“先程の一件”の所為か――>
「……良いですか? 主人公さん。
私達がお願いするまでは防御に徹してて下さいね? 」
<――とマリアから“忠告”されてしまった俺は
皆に対する防衛魔導の展開を完了させた後……
……ほんの少しの疎外感と共に
一人、防衛魔導の中に佇んでいた。
その一方で、皆の連携は凄まじく――>
………
……
…
「ふぃ~っ! ……って、意外に弱くないか~? この魔物」
「……確かにそうですね~♪
斧りんマークⅡの切れ味が再確認出来る程度には弱かったです! 」
<――エリシアさんを始めとして、マリアもメルも
マリーンもガルドも……皆、楽しそうに魔物の討伐を完了し
メルから短刀を借りたエリシアさんが
魔物の核を綺麗に採集しているその姿を妙に遠くに感じていた俺――
俺は……皆の成長を阻害する存在なのかも知れない。
俺は……皆の自由を制限する存在なのかも知れない。
俺は……仲間に不必要な存在なのかも知れない。
――瞬間
涙が頬を伝った……駄目だ。
皆が楽しそうにしている時にこんな態度の人間が居たら
また場の空気を悪くしてしまう……直後、急いで涙を隠す様に拭った俺は
先程までと変わらず、何事も無かった様に防衛魔導の中に佇んでいた。
だが――>
………
……
…
「あれぇ~? ひょっとして主人公っち……出番無くて拗ねてる? 」
<――エリシアさんにそう訊ねられた事に慌て
必死に取り繕おうとした結果――>
「いえ? ……俺の攻撃が邪魔になりそうだったので控えてただけです。
現に皆さんだけで魔物の核は採集出来ましたし
そもそも俺以外に防衛魔導を使える人はこの場に居ませんから
俺が攻撃と治癒以外の事を対応すれば良いだけの話ですし……と言うか
つい先程、全員でそう決めた筈では? 」
<――自己防衛と言う名の最悪な“オタク早口”を発動させた上
取り繕う事にすら失敗したのだった。
無論、エリシアさんは俺の異質な態度に――>
「ごめんよ、そんなに邪険にしたつもりは無かったんだけど……」
<――と、俺の事を過剰に気遣い場の空気は再び重苦しく成った。
正直、逃げ出したい位には最悪な空気の中――>
………
……
…
「ちょ~っと流石に“あれ”はやばい様な気がするんだけど……」
<――静かにそう言ったエリシアさん。
マリア達も声を落としある場所に視線を集中させて居た中――>
「ふむ……あれは恐らく
この魔物の中でも“ヌシ”と呼ばれる者だろう……」
<――そう言ったガルド。
彼の視線の先では、これまでとは比べ物に成らない程の巨体を有し
二〇体を優に超える大量の魔物の先頭に立ち
凄まじい咆哮を挙げた“ヌシ”の姿があった――>
「……何れにせよ並の相手では無い。
主人公、防衛魔導を……ん? 」
<――この瞬間
鬱屈とした感情……いや。
全ての感情が消え去り、唯一
“恐怖”と言う感情だけが俺の身体を包み込んでいた。
そして――>
………
……
…
「……ガルド、防衛魔導は展開済みだ。
それと皆……楽しんでる時にごめん、けど俺は
たとえ皆に嫌われたとしても皆の事を護りたいんだ。
だから、全てを焼き払ってでも俺は……」
<――全力を以て挑むべき敵の存在に
俺は……決意の全てを皆に伝えようとしていた。
だが、皆はそんな俺の言葉を遮るかの様に――>
………
……
…
「あ~……何と無く言いたい事も理解しましたし
そもそも長いんで……取り敢えず。
私はいつも通り、斧りんマークⅡの力を発揮しますね~っ!!
って事で! ……うぉぉぉぉぉぉぉっ!!! 」
「ちょ、マリア?! ……」
「……なら、私も本気で行くわね!
“悪魔之羽撃”――」
「ちょ!? マリーンまで?! ……」
「そ、その……“太っちゃう”のは嫌ですけど……私もっ! 」
「またメルの剛毅な姿が見られようとはな……吾輩も負けては居られぬか。
……征くぞッ!! 」
「メ、メル?! ってかガルドまで?! ……」
「あ~……主人公っち?
取り敢えずは私も頑張るから~……適当に援護よろしく~っ♪ 」
「な゛ッ?! ……」
<――俺の“決意”は疎か
何一つとして見ていなかったかの様に……
……まるで、これまで受けて来た簡単な依頼の様に
凄まじい殺気を放つ敵の集団に対し何の躊躇いも無く突撃した皆。
いや……駄目だ。
このままじゃ皆あの魔物達に――>
………
……
…
「くッ!! 皆一体何を考えて!! ……いや、説教してる暇なんて無い。
でも、あれだけ敵と近いってなると範囲攻撃じゃ皆の事まで……
……だぁぁぁッ!! もう!!
ふざけんなッ!!! ――」
<――有無を言わさず眼前で繰り広げられて居た乱戦。
作戦の“さ”の字も無いこの状況に
恐怖と言う感情が上限突破していた俺は――>
………
……
…
「――氷刃ッ!
石柱ッ! ……火環ッッ!! 」
<――考える事を“放棄”した。
“何処此処に攻撃を放つぞ! ”……とか
“何処其処に避けろ! ”……だとか
そんな言葉の一切すら伝える事無く
唯敵だけを狙い必死に攻撃を続けた。
結果――>
………
……
…
「ふぃ~っ! ……残りは“ヌシ”だけみたいだね~♪
ってかその“ヌシ”も虫の息だけどね~っ♪
……てか流石は主人公っちだ~♪
援護が巧み過ぎてカッコよかったぞぉ~っ♪ 」
「き、奇跡だ……皆に当たらなくて良かった……」
<――唯の一撃たりとも掠りすらせず
大切な仲間に一切当てる事無く、嘘の様に敵の殆どを殲滅する事が出来た。
エリシアさんが俺の事を少々“過剰に”褒めてくれた事よりも
俺にはその事の方が余程嬉しかった。
だが、そんな俺に対し――>
………
……
…
「え~……引きます。
“今日の主人公さん何時にも増して暗いな~”……とは思ってましたけど
其処まで“お馬鹿さん”に成っちゃう程、何を思い詰めてたんですか? 」
<――呆れ顔でそう言ったマリア。
そんな彼女の発言に同意する様に皆も口を揃え――>
「お、お馬鹿さんは流石にですけど……
……でも、ちょっとだけ失礼ですっ! 」
「メ、メル……? 」
「そうね……何を悩んでたのかは知らないけど、さっきの口振りを考えるに
またお得意の“マイナス思考”って考え方に支配されてたんじゃない?
……ま、それにしても失礼だけどね」
「マリーンまで……」
「うむ……差し詰め吾輩達の腕を“過小評価”していたのだろう? 主人公よ」
「ち、違う! 俺は! ……」
<――皆の発言と視線に慌て
狼狽えて居た俺に対し――>
………
……
…
「ん~……取り敢えず、主人公っちが暗かった理由分かっちゃった。
ま“定期的に暗く成る”から然程は気にしてなかったんだけどさ……
……でも、これは一度私を含めて
恐らく皆が感じていたであろう苛立ちを伝えるべきかもね。
良い? 主人公っち……胸に手を当てて確りと聞いて」
<――直後
恐ろしい程真剣な眼差しになったエリシアさんの気迫に押された俺は
静かに頷き、言われた通り胸に手を当てた。
すると――>
………
……
…
「……まぁ正直
面と向かってこう言う事を伝えるのは恥ずかしいんだけど……兎に角。
私を含め……この場に居る皆も、政令国家で私達の帰りを待ってる皆も
ずっと主人公っちの傍に居る事を忘れないで。
主人公っちの癖も、欠点も何もかも……全てを知った上で
それでも主人公っちの傍に居るんだって事を二度と忘れないで。
何かある度に――
“自分が一人で抱えれば”
“一人で苦しめば”
――って考えちゃうのが癖なのかも知れないけど
その苦しみを……私達の全員じゃ無くても
私達の誰かが気付いて“どうにかしたい”と思ってるって事も忘れないで。
勿論、主人公っち程強い人からすれば殆どの人間が
“自分より弱い”力しか持ってないって思うのかも知れないけど
幸か不幸か……政令国家には主人公っちより“繊細な人”は少ないんだよ?
だから、自分の繊細さをちゃんと認めて……私達の事も信頼して
そして……仲間の姿をちゃんと見て。
何よりも……極限の中で、他の誰よりも皆の癖を知ってたからこそ
“何も考えなくても勝手に動けた”今を絶対に忘れないで。
……良い?
政令国家一の美人攻撃術師であるエリシアさんとの
“おふざけ一切無しの”……約束だよ? 」
<――そう言って小指を差し出して来たエリシアさん。
瞬間、俺の頬を再び涙が伝った……だが
これは“悲しさ”でも“寂しさ”でも無くて――>
………
……
…
「……え~っ? 何か号泣しちゃってますけど
ひょっとして、エリシアさんが怖かったとかですか~? 」
「ち、ちっげぇし!! ……タイミング悪く目に砂埃が入っただけだし!
ってか、真剣に話してたエリシアさんの事をそんな風に見てたのか!?
マ、マリアこそ! エリシアさんの事をそんな風に言って……
……お、怒られても知らないからな!? 」
「いや、私の事は兎も角として……此処は森の中ですし
砂地じゃなくて草地ですし“砂埃が~”とか……完全に嘘ですよね~? 」
「う゛ッ、今日に限って何時にも無く冷静なツッコミを……
……じ、じゃあッ! そのあれだッ!!
な……何かのゴミが入ったのッ!!! 」
「ぶっ!! ……何ですかそのお粗末な言い訳~っ! 」
「お、お前ッ!! ……」
「あ~……二人共、戯れるのは良いんだけど
特に主人公っち? この小指……どうしたら良いかな? 」
「へっ? ……ハッ!?
す、すみませんエリシアさんッ!! ……兎に角これで約束って事でッ!! 」
「……ふむ! なら宜しいっ♪
引き続き、言い訳してて良いよ~っ♪ ……見てて面白いし! 」
「な゛ッ!? これは言い訳じゃ無くてッ!! ……」
<――この後
“恐らく”
……傍から見ていたならば
とても面白いであろう“掛け合い”を続ける事と成った俺達。
何れにせよ……この日、この場所で得られた
俺に取って最大の“収穫”は“二つ”どころでは無い
“魔物の核”では無かったと思う――>
===第百八六話・終===