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第百八四話「“復活”と“過去の記憶”は……楽勝ですか? 」

<――紆余曲折うよきょくせつあった精霊女王九輪桜プリムラとの交渉は

これ以上無い程に望ましい形での幕引きとなった。


その上……彼女プリムラからの申し出で

“万が一の時に対する協力”まで得られる事が決定し

これ以上無い程に清々しい気分での帰還と成った俺とアイヴィーさんは

帰還後直ぐにモナークのまつられているほこらへと向かった。


だが――>


………


……



「……う~ん。


いざと成ると緊張して来た……」


<――帰還直前

九輪桜プリムラわれた――


“石像の頭から掛けてみりゃ、直ぐに効果があらわれる筈だぜ? ”


――とう言葉を信じ水袋をかかげて居た一方で

今一つ勇気が出ず二の足を踏んでいた俺。


だが、そんな俺とは対照的に――>


………


……



「……お気持ちはお察し致します。


ですが主人公様……怯えていても何も変わりはしません。


効果があらわれれば感謝と“貢物カレー”をたずさ彼女プリムラの元へ行き

効果があらわれなければ、改めて彼女の元へむねを伝えに行くだけの話。


……いずれの結果と成るにせよ、モナーク様の右腕であり

暫定的魔王でもある私が責任を負うべき行動です。


主人公様、どうか水袋を此方こちらに……」


<――そうって手を差し出して来たアイヴィーさん。


全くもって不甲斐無い限りだが……


……この直後、全てをアイヴィーさんに任せた俺は

彼女の様子を“一歩引いた所から”見ていた――>


………


……



「……では。


モナーク様、失礼を致します――」


<――直後

石像と成ったモナークの頭に向け“聖泉水せいせんすい”を流し掛けたアイヴィーさん。


すると――>


「……ア、アイヴィーさんッ!!


そ、其処そこッ!! 色が変わって……」


<――今の今まで“石像らしい色”をして居たモナークの肌は

徐々に元通りの色へと変わり始め――>


………


……



「これは……モナーク様ッ!!

私の声が聞こえているのならば、ただの一度で構いませんッ!

どうかお返事をッ!! 」


<――興奮した様子でそう叫んだアイヴィーさん。


そうこうしている間にも、モナークの身体の色は

どんどんと“元通り”に成り始めて居て――>


「モナーク! おい! 返事をしてくれッ!! ……」


《――この後も

声をらし呼び掛け続けた二人……その


一方で――》


―――


――



「モ……ちゃん……モナちゃん、朝よ~っ♪


……早く起きなさ~いっ!

早く起きないと……朝ごはん、お母さんが全部食べちゃうわよ~っ? 」


(……朝食の香り


優しき母上の声……父上の声もかすかに聞こえるが、如何いかんせん眠い。


もうひととき……もう少しだけ……我は……我は……


……眠り……たいのだ……)


………


……



「……も~っ! 本当に食べちゃうわよ~?

そんな“おネムさん”なモナちゃんには……それっ♪


……こ~ちょこちょこちょ~っ♪ 」


「ぐっ!? ……アッハッハッハッハッハッハッ!!

やめっ……やめ……アッーハッハッハッハッハッハ!! ……」


(……嗚呼

叩き起こされる方が何千倍もマシだ。


母上は、何故か何時いつもこの様な起こし方をする……我はもう

幼子おさなごでは無いとうのに……)


………


……



「はぁ……はぁっ……母上ッ!

毎日毎日ッ!! 少しは起こし方とう物をですね!! ……」


(……呼吸を整え、真剣に注意をする我の事を

母上はずっとにこやかに……見守る様に見つめている。


決して我の事を馬鹿にしている訳では無いのだろうが

何時いつまでも我の事を幼子おさなごの様に扱う母の考えが全くもって理解出来ない。


人族とはそうう物なのだろうか? ……いや。


そもそも、純粋なる人族である母が

何故なにゆえに父上と夫婦の仲と成り、我の事を産み落としたと言うのか。


何故……“捕食者ほしょくしゃ”と“捕食対象ほしょくたいしょう”が夫婦に成り得たのか。


……我は

この日、母にこの疑問をうた――)


………


……



「……母上。


父上は純血種の魔族であるにも関わらず

何故、吸血種ヴァンパイアと成った訳でも無い母を妻としたのです? 」


(……嗚呼、たずねた我がおろかであった。


我の質問に対し、母は“頬を赤らめながら”――)


………


……



「あら! ……良く聞いてくれたわねモナちゃん♪

それはね~っ♪ ……お父様が私に一目惚れしたからなのっ♪ 」


(――とった。


そして……そんな母上につられる様に

父上も“惚気のろけ”話を始めた――)


「……懐かしいな。


シャーロットを初めて見た時、私は初めて“食欲”を失ったのだ……


……そして、彼女の美しさをけがす事を恐れ

また、同胞らにって彼女がけがされる事の無い様

直ぐに彼女をかくまったのだ……そしてその日

私は、シャーロットに対し……」


「駄目よアナタぁ~っ♪ モナちゃんにはまだ刺激が強いわ~♪ 」


(――もう一度。


……いや、何度でもおう。


いた我がおろかであったと……うっ、いかん。


何故か“吐き気”が――)


………


……



「と、兎に角……修練に行って参ります」


(――直後

我は逃げる様にこの場を後にした。


そして――)


………


……



「……本日の修練は人族種への“擬態ぎたい”を行う。


可能な限り人族に“擬態ぎたい”し、奴らの中にまぎれ込み……」


(――我を含め

この場に集まった魔族らは皆、指導官の指示にしたが

人族への擬態ぎたいをより完璧な形へ昇華しょうかさせる為の修練しゅうれんいそしんでいた。


だが、そんな中――)


………


……



「……指導官、モナーク君が既に人族に“擬態ぎたい”して居ます!

あ、違います! ……“半分だけ”不完全に擬態ぎたいしてま~す!! 」


(――何の事は無い、何時いつもの事だ。


半魔族に対する理解も、それを認める心も何も無い

大多数の者達から受ける心無い侮蔑ぶべつの言葉……だが。


この日は、何時いつもの様に

我が聞こえぬ振りをして居た事に腹を立てたのか――)


………


……



「おい……モナークてめぇッ!!

ただの“失敗作”が! ……調子こいてんじゃねぇぞッ?! 」


(――そううや否や我に殴り掛かって来たこの男。


だが……この者の弱々しき拳にって幾度いくどと無く殴られる事よりも

我には我慢の出来ない事があった――)


………


……



「……けっ!!


流石は“食料と寝た親父”と“保存食の母親”から生まれた失敗作だぜっ!!

俺様の攻撃を一撃も避けられ……」


「――舐めるな。


馬糞まぐそ”が――」


(――“もの”程

超えては成らぬ一線を容易よういに超えてしまうとは知りつつも

こらえ切れず放った我の拳は

馬糞まぐそ”を容易たやすく弾き飛ばし――)


………


……



「……ガハッ!! ……ゲホッ!!!

て、てめぇッ!! “魔王家”の者に手をッ!! ……」


「フッ……なにかにすがらねば虚勢きょせいも張れぬか」


(――純血種であり

“魔王家”の出とう事だけが誇りの“馬糞まぐそ”を殴り飛ばしたその直後……


……指導官は、我だけをしかりつけた挙げ句

喧嘩両成敗けんかりょうせいばい”などとかし

一方的に責めを受け続けて居た我が放った“わずか一撃”を

“問題行動”などとかした……だが。


これ以上の面倒を嫌った我は、不愉快極まりない心をおさえ――)


「おい馬糞まぐそ……済まなかったな」


(――そうびを入れた。


だが、そんな我に対し


“物言いが成っていないッ!!! ”


と、再び我だけを責めた指導官に怒りを感じた我は――)


………


……



「……指導官。


此程迄これほどまでに“馬糞まぐそ”の肩を持つ貴様は

一体……どの“家畜”の“くそ”であるとうのか。


いずれにせよ……貴様の様な者から学ぶ事など何も無い」


(――そうってこの場を去った。


背後に飛び交う罵詈雑言ばりぞうごんなど、最早もはやどうでも良かった。


……だが。


この日の夜、我は父に呼び出され――)


………


……



「……話は全て聞いた。


怒りに震え“顔を真赤にした”指導官からな……モナークよ。


……お前は一体、何を考えていた? 」


(――そう、責められた。


だが――)


「父上……あれは、指導官が依怙贔屓えこひいきをしたのです。


我は何一つ間違ってなど……」


(――そう伝え掛けたその時


父上は我の発言をさえぎり――)


………


……



「モナーク……私は、指導官ヤツから受けた苦情を全て聞いた上で

奴に決闘を申し込み……そして奴を“ほうむった”


……同胞を不当に扱う様なもの

我が魔族種にっては成らぬと考えたからだ。


だが、それならば……何故私がお前を呼び出し

今こうしてしかっているかが分かるか? 」


(――この問いに対し、我は首を横に振った。


すると、父上は――)


………


……



「モナークよ……お前は修練場から“逃げ”

みずからが正しいと考え発した言葉からも一方的に“逃亡”した。


……何故あの場に居続いつづ

なお理不尽りふじんかす指導官を殴りつけなかった?


……反省の色を見せぬものに対し

何故、みずからの非を認めさせる事をしなかった?


……分かるか? モナーク。


私は……その事を“しかって”いるのだ」


(――この後


素直にを認めた我に対し、父上は笑顔で我の背中を叩きながら――)


………


……



「……なぁに、お前のやった事は正しい。


これからも理不尽りふじんな状況におちいった時は

真っ先にみずからの思う正しい道をつらぬく事だ……良いな? 」


(――そうって優しきまなこで我の目を見つめた。


だが、この日から数日後……


……父上のう“理不尽りふじんな状況”は

逃れられぬ程の圧倒的な力で我を“おそった”――)


………


……



「……っらぁぁっっ!! ……もういっぺん言ってみろや!!!

誰が……誰が“馬糞まぐそ”だこの失敗作がッ!! 」


(――修練場しゅうれんじょうからの帰り道

馬糞まぐそとその“取り巻き”数十人に囲まれた我は


すべも無く……尊厳そんげんと共に

みずからの身体を“踏みにじられて”居た。


嗚呼……父上のう“みずからの思う正しい道”とは

何故此程迄これほどまでに、如何いかんともしがた理不尽りふじんもたらすのだろうか――)


………


……



「何か言ってみろやこの失敗……がはッ?!


……畜生ッ! 誰だッ?!


何処どこだッ!? ……出て来やがれッ!!


ウぐッ?! ……う、腕が……俺様の腕がァァァッッ!!! ……」


(――耐えられぬ苦痛に意識を失い掛けていたそのとき


突如として響き渡った馬糞まぐその悲鳴……直後

取り巻き共が続々と倒れて行く様子だけがかすかに見えた。


だが……一体何が起きている?


一体、何者が此程これほどの大人数を相手に

“大立ち回り”をしているとうのか――)


………


……



「……もう、諦めなさい。


貴方達に勝ち目は無い……理解したのなら

仲間を連れて何処どこへでも消え去りなさい……」


(――低く

だがとても優雅ゆうがなその声の主は

馬糞まぐそとその取り巻きに対しそうった。


だが――)


………


……



「く……糞がッ!!

“失敗作”と“半端者”同士が傷のなめ合いかよ!! 」


(――虚勢きょせいのつもりでったのか

そう息巻いきまいた馬糞まぐその言葉に

小さく舌打ちをした声の主は――)


「……このおよんでまだそんな口を聞くとはね。


くち……二度と開かぬ様に

“焼き溶かして”も構わないけれど……どうしようかしら? 」


(――そううや否や

てのひらに火炎の魔導を発動させた声の主


だが、この直後――)


………


……



「チッ……か、勝手にしろっ!!

おい、お前達っ! ……か、帰るぞっ!! 」


(――馬糞まぐそとその取り巻き共は尻尾しっぽを巻いて逃げ去った。


そして……奴らのみにくい足音が

遠のいた事を確認すると――)


………


……



「やっと行ったわね……って大変ッ!!

モナーク君! 直ぐに治療するから待っててね! ……」


(――直後


“高度治癒魔導”の詠唱を始めた彼女……


……攻撃魔導との両立は無論、習得自体が難しいとされているこの魔導を

何ともたくみにあやつる彼女に感心し

の姿を羨望せんぼうの眼差しで眺めていた我。


だが――)


………


……



「その……助けるのが遅れてごめんなさい。


私、まだ未熟で……貴方に当たらない様に狙いをさだめてたら

凄く時間が掛かっちゃって……」


(――彼女は

そうって申し訳無さげに頭を下げた、だが――)


「フッ……助けが無ければ我はこのまま息えていただろう。


改めて感謝を……しかし、何故我の名を知って居た?

無礼だが、我は御主の事を知らぬとうのに……」


(――疑問を感じそうい掛けた我の言葉をさえぎると

彼女は――)


………


……



「……ず初めに言わせてモナーク君。


貴方は失敗作なんかじゃ無い……少なくとも

貴方のご両親は勿論、私にもそうは見えて無い。


……それと、私が貴方の名前を知って居たのは

この間の“一件”で噂を聞いただけだから安心してね? 」


「そうであったか……それは済まなかった。


しかし……面倒事に巻き込んでしまった事をびねば成らないだろう」


「巻き込んだ? ……どう言う事? 」


馬糞まぐそは……いや“彼奴きゃつ”は

げん魔王家”とう家柄を持つ者。


我だけならばまだしも……」


(――そうい掛けた我の発言を再びさえぎると

彼女は、一度手を叩き――)


「……あぁ、そう言う事ね!

けど、家柄の話をするなら私は大した家の出じゃ無いし

そもそもさっき彼奴あいつらが言ってた

私の“仇名あだな”で分かると思うけど、私も似た様な境遇きょうぐうだから安心して?


……って、これじゃモナーク君に対して失礼かな?


兎に角……き、気にしないで大丈夫だから! 」


「重ね重ね済まない……だが、我は貴女の名前を知らぬのだ……」


「へっ? あぁそうだったね!

……えっと、私の名前は“アイヴィー”


その……彼奴あいつらが捨て台詞で言ってた“半端者”って言うのは

純血種つ、人型魔族である私に

“一切の擬態能力ぎたいのうりょくが無い”って事を言ってるの。


……貴方も聞いた事位有るでしょ?

“半端者アイヴィー”って呼び名の事……」


「いや、そんな呼び名は一切聞いた事が無いが……」


「……そうなの? じゃあ、是非覚えて帰ってね! 」


「いや……貴女は断じて“半端者”では無い。


ゆえに……覚えて帰るべき名は“アイヴィー”とう名だけで良い」


「……有難う。


優しいんだね、モナーク君は……」


(――この日、彼女と話した時間はとても幸せだった。


それまで、純血種とう存在に対し

鬱屈うっくつとした感情しか持ち合わせて居なかった我の心に

唯一ゆいいつ光をもたらした彼女との時間が。


そして……この日をさかい

我と彼女は互いに切磋琢磨せっさたくまし合う仲と成った――)


………


……



「決勝戦、勝者は……アイヴィーッ!! 」


(――約半年に一度

修練者のみを集め開かれる“模擬もぎ戦闘”


……その決勝戦で目覚めざましい程の戦績をほこった彼女と

その彼女にすんでの所でやぶれた我は

敗北とう“悔しさ”を、遥かに上回る“清々しさ”を感じていた――)


………


……



「流石だ……あれを避けるとは」


「……それを言うなら

モナーク君だって私の“会心の一撃”を避けたじゃない。


私、あれを避けられたのは初めてなんだよ? ……」


(――共にたたえ合い

互いの実力を認め合える仲と成って居た我らは

幾度いくどと無く開かれる“模擬もぎ戦闘大会”にいて常に上位入賞を続けていた。


そして……そんな我らの姿を目の当たりにし続けたがゆえ

馬糞まぐそ共は次第に鳴りを潜め

我らもようやく魔族の一員として認められ始めていた


その、一方で――)


………


……



「……只今ただいま戻りました母上。


ですが……今回は彼女にやぶれ、準優勝と成りました」


「あら、お帰りなさいモナちゃん……よっこらしょっ……」


「ん? ……どうしたのです母上、腰など叩いて」


「へっ? ……ああ、気にしないで良いのよモナちゃん。


ちょっと腰が痛いだけだから……」


「腰が痛い? ……何処どこかへ打ち付けでもしたのですか?

いや……まさかとは思いますが“何者かに襲われた”のでは?

もしもそうであるのならば、ものほうむり……」


「違うのモナちゃん……大丈夫だから落ち着いて。


兎に角……お腹が空いてるでしょ?

今ご飯を用意するからちょっと待っててね……」


「お待ちを……我も手伝います」


流石さすがっ♪ モナちゃんは優しくて男前ね~……」


(――この時


母上は既に知って居たのだろう。


人族である母上の脆弱ぜいじゃくな身体では


我と同じ“とき”を過ごせぬ事を――)


………


……



「……母上、お願いですッ!!

先程、吸血種ヴァンパイアの知り合いに協力を取り付けました。


ですからッ!! ……」


「モナちゃん……ごめんね。


私、それだけはどうしても出来ないわ?


だって、噛みつかれるの怖いし……痛い……じゃない? 」


「……何を悠長ゆうちょうな事を!!

早く決断せねば“手遅れ”に! ……」


(――日を追うごと

悪化の一途いっと辿たどり続ける母上の容態ようだい

あせりを感じていた我の心を知ってか知らずか

母上は一向に首を縦には振らなかった。


その上、この事を父上に掛け合っても――


“彼女の意志を尊重そんちょうするのだモナーク、無理強むりじいなど決してするな”


――そううにとどまり、何時いつも一方的に話を終えた。


そして……不安の日々を過ごしていた我の元へ


“悲劇”は突如としておとずれた――)


………


……



「全魔族に告ぐ……魔王様が崩御ほうぎょされた。


至急、王の間へと集まる様に……」


(――我の元へ突如として訪れた悲劇


それは“魔王の崩御ほうぎょ”などでは決して無く――)


………


……



「……人族の“勇者”と名乗る者の手にり、魔王様が崩御ほうぎょされた。


だが……我々には悲しみに暮れる暇など有りはしない。


魔王様崩御ほうぎょの後、我々魔王配下の者達には

“新たな魔王”と成る者を探す“選別せんべつ式”が行われる。


の者には、歴代魔王にり代々受け継がれし“絶大な力”が宿やどり……」


(――魔王家の代表者にり我らに伝えられた受け継ぎの儀式

通称“選別せんべつ式”に関する話……だが。


元より“半魔族”の我に取って一切関わり合いの無い話である上

何よりも、純血種と呼ばれる者達のほとんどに

何の思い入れも有りはしなかった我に取って

たとえ“受け継がれし力”が消え去ろうとも……ともすれば

魔族種が“滅びようとも”構わなかった――


斯様かよう些末さまつな話にかかわる気など無い”


――そう考え、きびすを返しこの場を去ろうとして居た


そのとき――)


「……おぉ!! 受け継がれし力がちゅうを待っておるぞッ!!


偉大なる歴代魔王様……我らの中

新たな魔王と成る者を選別せんべつされよッ!! ――」


(――年老いた純血種の“祈祷師きとうし”がそうったこの瞬間


“悲劇は我へと降り注いだ”――)


………


……



「おぉ……何と言う事じゃ……」


(――直後

我を包み込んだ“強大な力” ……祈祷師きとうしう“歴代魔王共”は

何を血迷ったのか、半魔族である我を――


“選び”


――我と、祈祷師きとうしの“気を悪く”させた。


そして――)


………


……



「……おい、此奴こいつは一体何の冗談だッ!?


亡くなった父から受け継ぐべきは魔族家の長兄である俺様の筈ッ!!

それを、けがらわしい半魔族などに……おい、祈祷師きとうしッ!!

貴様、一体何をしたッ!! ……」


(――祈祷師きとうしに掴み掛かりそうった“馬糞まぐそ


……だが

彼奴きゃつは直ぐに取り押さえられ……その直後

我を“馬糞まぐそ以下”に扱って居た“権威けんい主義者達”は

てのひらを返す様に我を玉座へとみちびくと――)


………


……



「……新たなる魔王様。


さぁ、配下の者共に対し手を差し伸べ

みずからの配下と成る様、ご命令をッ! ……」


(――とった。


だが、毛程けほども興味の無い力に不愉快にも魅入みいられ

挙げ句“不愉快な者共の長と成れ”とわれ

素直に受け入れる事など出来る筈も無く

一人残した母上の容態ようだいが気に掛かり始めて居たその時――)


………


……



「……モナーク君っ!

私……嫌なら断ってもいいと思うよっ! 」


(――静寂せいじゃくの中、脇目わきめも振らずそうい放った者


それは……“アイヴィー”だった。


だが……この直後

警備兵達は――)


「……何を不敬ふけいなッ!!! この半端者がッ!!! 」


(――そうって彼女を侮蔑ぶべつ

彼女のその細腕をつかみ無理矢理に彼女を退城たいじょうさせようとした。


そして……この瞬間


我は“悲劇を受け入れた”――)


………


……



「……めよッ!!!


新たなる魔王と成りし我の名にいて、その者を退城たいじょうさせる事は許さぬ。


……斯様かよう些末さまつな命令すらまもれぬとうのならば

貴様らのの命……我が魔王の力をもっ

全てめっする事と成るであろう……」


(――直後


拘束を解かれたアイヴィー……だが、その代償として

全ての魔族を“配下”とする為、魔族共に向け

“不平等な契約”を結ぶ成った我は……この日をさかい

長きに渡り魔王城へ“縛りつけられる”事と成った。


……参謀さんぼうう名の

権威けんい主義者達”にって――)


………


……



「……魔王様。


お次は“変化ヘンゲ隊”の策定さくていをお願い申し上げたいのですが……」


策定さくていだと? ……最も“擬態ぎたい技術”に優れた者を選ぶのが筋であろう」


「い、いえその……危険などわずかな“名誉職めいよしょく”で御座いますので

此処ここは“旧魔王家”のご出身である“ガル家”の方々が適切かと……」


「フッ……我に因縁のある“馬糞まぐそ”の家系を口にするとはな」


「……ま、馬糞まぐそッ?!

い、いえその……一切の他意は御座いません!

む、むしろ! 魔王様の過去の因縁いんねん払拭ふっしょくする良い機会かと……」


(――魔王と成った日より数日後の事

魔王城に“縛り付けられて居た”我は

“再編成”とは名ばかりの“談合だんごう”に付き合わされて居た。


……魔王である筈の我には一切の決定権など無く

わずかにでも異をとなえれば――


“……成りませぬ! 成りませぬ!

それでは配下の者共にしめしが付きませぬ!! ”


――とう“一点張り”を繰り返し

権威けんい主義者達”の望む形へと強制的にみちび

れを受け入れれば――


流石さすがは魔王様! 名采配めいさいはいで御座います! ”


――そうのたまい次の“談合だんごう”へとみちび

“参謀共”と、そうしたときを過ごす内

全くもって意味を成さぬ“再編成”に、心底嫌気しんそこいやけが差した我は――)


………


……



「もう良い……全て貴様らが望む様に“再編成”するが良い。


元より貴様らは“半魔族”である我の意見など

毛程けほども聞き入れぬ腹積はらずもりであろう? 」


「い、いえ……其の様な思惑おもわくは決して……」


「黙れ……貴様らの詭弁きべんなど聞き飽きた。


我に無駄なときを過ごさせたむくい……全てを終えた後

貴様らの命であがなわせるとしよう……」


(――はらわたの煮えくり返る様な無意味なときの経過に

思わず発してしまった愚痴めいたこの言葉は、彼女アイヴィーが聞けば――


流石さすがはモナーク君、早速魔王らしい一言が飛び出したわね”


――とでもうのだろう。


だが“参謀共”はくも愚かしく慌て始め――)


………


……



「ま、魔王様っ! ……無論、魔王様がお決めに成る事が大前提で御座いますが

私共は只、魔王様のご負担を最小限に減らしておる次第でして! ……」


「……そ、そうで御座いますぞ?!

ですが! 魔王様がみずからお決めに成りたいとおっしゃるのでしたら! ……」


(――そうって

冷や汗をぬぐいながら一人の参謀がくるまぎれに提案した――


影之者カゲノモノ


――とう役職。


つまりは……このおよなお

“魔王の護衛兼密偵”とう、聞こえだけの良い

“権威”の関わりなど一切無い“お飾り”の策定さくていをちらつかせ

此方こちらの機嫌をうかがったのだ。


本来ならば……いや、前魔王ですら

斯様かよう不敬者ふけいもの即刻そっこくめっして居た事だろう。


だが――)


………


……



「フッ……良かろう。


影之者カゲノモノ”……その策定に関し

貴様らが“一切の異を唱えぬ”とうのなら

貴様らの不敬ふけいを全て“不問”としてやろう……」


(――そうった我の様子に胸をで下ろした参謀共は

二つ返事でこの要求を飲んだ。


そして――)


………


……



「し、して魔王様……人選はどの様に……」


ずは……アイヴィーを“影之者カゲノモノ”の長とする。


そして、あの者が必要とう全ての者を“影之者カゲノモノ”に引き入れよ」


「なっ!? あの半……」


「ほう、異を唱えるとうか……」


「い、いえッ!!! ……承知致しましたッ!! 」


(――このときより暫くの後


“再編成”を終え、ようやく開放された我は

急ぎ、母上の待つ自宅へと転移した。


だが――)


………


……



「どうだい? ……寒くは無いか? シャーロット」


「……ええ……っ……


あら……お帰りなさ……い……モナ……ちゃん……

お父さんから……いたわよ“魔王様に成った”……って。


おめで……とう……」


(――帰宅直後

息もえにそううと、母上は弱々しく微笑ほほえんだ――)


………


……



「……は、母上ッ?!


……父上よ、我は既に魔王と成った。


ゆえに……我は貴方に命じるッ!!

母上を救う為である、我が配下の中で最も力の有る吸血種ものにッ!! ……」


(――ときを待てぬ状況に冷静さをいた我は

今まで、ただの一度もそうした事の無い父への“反抗”をした。


だが――)


………


……



「モナ……ちゃん……貴方の怒りも悲しみも……良く……分かる……わ。


……私が……弱い人間……族だったから……

貴方に悲しい思いをさせてしまったの……ごめん……ね……」


「……違うのです母上よ。


どうか……どうか我の願いを聞き入れて下さい。


我は……我は母上の生まれなど我は気にしませんッ!!


ただ、我は……魔王と成った我と共に

魔族と成り……共に、ながときを過ごして頂きたいだけなのですッ!!! 」


(――ただ懸命けんめい


……必死にそう願い、頭を下げた我に対し


母上は……力無くも

必死に振り上げたその手で、我の頭をでながら――)


………


……



「ごめんね……モナちゃん……私は……

貴方が嫌っている……魔族さん達に成りたくは……無いの。


もしも魔族に成り……貴方が知る今の私では無くなってしまったら

私は貴方を……更に悲しませてしまう。


そんな事は……したく……無いの……よ……


……モナちゃん。


私には……もう……時間が無い……の……だから

この世界で一番、貴方の事が……大好きな……お母さんの

最期のお願い……聞いて……頂戴……っ……」


(――息もえにそうった母上


この瞬間、我はさっした――


今直ぐに、どれ程優秀な吸血種ものを呼び寄せた所で

変化へんかの力に耐えきれず……ただ深い苦しみの中で

死にく母上の姿を目の当たりにしてしまうであろう事を”


――そして


母上と過ごしたときを……あまりにも短きときとして


受け入れなければ成らない事を――)


………


……



「……母上よ。


我は……我はッ!!! ――」


………


……



「――我は魔王ッ!!


我が権限にり、母上の“最期の願い”を……


受け……入れようッ……」


………


……



「……ありがとう。


ねぇ……モナちゃん……貴方がこの先

嫌いと言った魔族ものたちの事……を“どうしよう”とも

それが貴方の選択なら、私は……母として……その全てを許します。


けれど……貴方の心が信じられる相手の事だけは

貴方の心が大切だと感じた相手の事だけは――


“たとえ、それが敵でったとしても”


――その人を信頼し

心から愛し……大切にしなさい。


貴方の事が世界で一番大切で……大好きな……


お母さんの……最期の……お願……い……」


「……分かりました、もう分かりました母上ッ!


ですからもうッ!! ……母上?


……母上ッ?!


母上ェェェェェェッ!!!! ……」


………


……



(――今際いまわきわ

母上は……当時の我には受け入れがたき約束をさせた。


我の生まれはおろか、我の肉親にくしんすら否定する大多数の者共は勿論

我にやいばを向けた者ですら愛せとったに等しい理不尽りふじんな約束を。


……だが、この日の約束の“意味”を

我はようやく知る事と成った――)



――


―――


「……ナーク……ク!! ……モナーク!!!


おい!! ……聞こえるか!?


俺が分かるか?! ……アイヴィーさんの事が分かるか?! 」


「モナーク様……モナーク様ッ!!

ただ一度ひとたびで構わぬのですッ!


私の名を御呼および下さい……モナーク様ッ!! ……」


………


……



“嗚呼……母上は正しかったか”


《――直後

静かに目を開き、一筋の涙を流したモナーク……そして

そんな彼以上に彼の復活を喜び、彼のため涙を流していた主人公は


彼の涙に気付き――》


………


……



「モナークッ!! ……って。


お前……今“泣いた”……のか?


もしかして……腹が減ってるのか?! それとも……何処どこか痛いとかか!?


もし何処どこか痛いなら直ぐになおすし

カレーならいくらでも!! ……」


《――そう慌てふためく主人公に対し


モナークは――》


………


……



「フッ……愚か者めが。


よもや“しずく”を涙と見紛みまがうとはな……」


《――そう言って

みずからの衣服を濡らした“聖泉水せいせんすい”を払い退けたのだった――》


===第百八四話・終===

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