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第百八三話「断じて楽勝では無い交渉……後編」

<――話し合いはおろか、自己紹介すら満足に行えず


あまつさえ、話し合いにさい

必死に練っていた策の全てを見抜かれていた俺達。


……ただの門前払いならまだ何らかの策も有っただろうが

全てを見透かされ、どうする事も出来ずに居た中

去り際、精霊女王九輪桜プリムラが漏らした情報を頼りに

“聖なる泉の水”をみ取ったアイヴィーさん。


だが……目にも留まらぬ速さで“目的を達した”彼女アイヴィーに対し

余裕の笑みを浮かべつつ嘲笑ちょうしょうを叩きつけた九輪桜プリムラ


そんな中――>


………


……



「……そうですか。


どうやら負け惜しみでは無さそうですね……答えなさい精霊女王九輪桜プリムラ


貴女は……一体何を隠しているのです? 」


「ほう? ……さっきまでの“下手したでに出る演技”は何処どこに行ったのか知らないが

オレにそんな口を聞いて、本当に大丈夫だと思ってるのかねぇ? 」


「……質問に答えなさい精霊女王九輪桜プリムラ


たとえ今この場で死んだとしても、最期までモナーク様の為と動いた事の証と

モナーク様はきっと私の事をお褒めに成って下さる筈。


……成ればこそ、この生命など微塵みじんも惜しくは有りません。


ですが……この水を持ち、喜びいさんでモナーク様の下へ帰還し

万が一にも“効果が無かった”では済まされぬのです。


……そもそも、これ以上私が貴女に対しどの様な言葉を飾ろうとも

全てを“盗み聞き、盗み見て居た”であろう貴女には一切通用しない。


ならば、今更何かを飾る意味は何処どこに? ……それとも

貴女と言う精霊女王は“嫌悪する対象を口汚くののしる事”だけが取り柄の

大精霊女王メディニラ様の“見当違い”な存在だとでもおっしゃりたいのですか? 」


<――出発前の“約束”は何処どこへやら

アイヴィーさんはこれ以上無い程に九輪桜プリムラあおりにあおった。


そして……そんなアイヴィーさんの“あおり”に対し

一度ひとたび手を叩き――>


………


……



「……ほ~っ! 気に入ったよその“居直り”っぷり!!

だが、あんたはとてもひどい“勘違い”をしてる様だ。


オレが言ったのは――


“それが汚水であれ何であれ……水であれば

等しく癒やしの力を込める事の出来るただ一人の存在に

そんな口を聞いて、本当に大丈夫だと思ってるのか? ”


――って事だったんだが。


“暫定的魔王アイヴィー”とやら

あんたが今置かれてる状況……少しは分かったい?


それと、薄々勘付いてるだろうが念の為教えてやるよ

あんたが手に持ってる“それ”は、まだ……“ただの水”だぜ? 」


<――そうって、俺達に対し

挽回ばんかい不可能な状況”である事を突きつけた九輪桜プリムラ


……盗みを働き、みずからに非礼ひれいの限りを尽くした相手に対し

一体誰がほどこしをしようと……力を貸そうと考えるだろうか?


何よりも――


水袋を持ったまま膝から崩れ落ち、みずからの失策を

今にも命をちそうなアイヴィーさんの姿を目の当たりにした後で


――どうして九輪桜プリムラへの協力を願えるとうのだろうか。


この絶望的な状況から

どうすれば、俺達の話を聞いて貰えるとうのだろうか――>


………


……



「あー……悪いが

いくら嫌いな種族とは言え、眼の前で死なれちゃ後味が悪いんだ。


もし死ぬってんなら余所よそでひっそりとやってくれるかい? 」


<――仮にも精霊女王とは思えぬ程の台詞をいた九輪桜プリムラ


そしてこの直後、俺の方を向き――>


「なぁ……そのさっさと連れ帰ってくれるかな?

オレはこの国の広大な森の維持管理に苦労してるんだよ。


すげぇ疲れるし、すげぇ腹も減るし、すげぇ時間も掛かるし……


……正直、他の森と交換して欲しい位だが

一応はオレの力の源だしそうも言ってられ……って、話がれたな。


兎に角……これ以上、オレに無駄な時間を過ごさせんなって事だ。


じゃあな! ……」


<――そううと

面倒事を片付ける様に俺の背中を押し

アイヴィーさんの方へと向かわせようとした九輪桜プリムラ


だが……違う、俺が望んで居たのはこんな状況では断じて無い。


俺が望んで居たのは“彼奴モナークを助ける事”であって

声を掛ける事すらはばかられる程の表情を浮かべたまま

みずからの失策をいるアイヴィーさんの姿を見る事では

断じて、無い――>


………


……



「……撤回てっかいして下さい」


「ん? ……何だい?

主人公あんたも“捨て台詞”か何か吐くつもりかい? 」


「いいえ、九輪桜プリムラさん……俺が今から口にするのは

断じて“捨て台詞”なんかじゃ有りません。


俺やアイヴィーさんの必死の願いを“無駄な時間”ってった事……


……それを撤回てっかいして欲しいとうお願いです。


勿論、挨拶が遅れてしまった事や協力の御礼すら出来ていなかった事

その他にも数多くある非礼ひれいの全てに誠心誠意せいしんせいい向き合い

九輪桜プリムラさんの怒りが収まるまで謝り続けます

その怒りを考えれば殴り飛ばされても不思議は無いとすら思っています。


ですが……誰かをおもう気持ちを

“無駄な時間”と呼んだ事を俺達に謝って下さい……お願いします」


「……ほう、ただの優男かと思ってたら意外な面も有ったモンだねぇ?

だが……オレに取って“無駄な時間”で有る事に変わりは無いだろう?

それに、今此処ここでオレが――


“それは済まなかった……悪い事を言った、訂正して謝るよ……申し訳無い”


――そう言った所で、主人公あんたやそのが望む

“魔王復活”には何の関連性も有りゃしないだろ?


“最後っ屁”のつもりで気張きばったのは分かったから……」


「黙れ……良いから謝れよ。


礼儀れいぎの一つもわきまえぬ精霊女王九輪桜プリムラ

俺達の会話を盗み聞き、手玉に取った気持ちも良く分かるよ。


そりゃあ、挨拶の一つもしない上に

勝手の良い時だけ“困った時の神頼み”よろしく

面倒事だけを持ってくる様な奴に対して

願いの一つでも叶えてやろうとは“神様”でも思わないだろうし

あまつさえ、会いに来る前に自分の事を

“お山の大将”みたいにわれてたのを知ってりゃ――


“絶対に彼奴アイツらの事をいじめてやろう! ”


――位の事は俺でも考えるよ。


けどな……お前から見て、俺達が馬鹿みたいな動きを見せた事も

こんなにも泥臭く動いた事も……それら全てが

“助けたい存在の為”だとわずかにでも理解しているのなら

“無駄な時間”と呼んだ事が間違いだったと分かる筈だ。


だから……びてくれ。


俺とアイヴィーさんに対し、しっかりと……」


<――直後


俺は……九輪桜プリムラに大精霊女王メディニラが

“一目を置く理由”を知る事と成った――>


………


……



「君っ!! ……主人公君っ!! 」


<――サーブロウ伯爵の声。


直後、俺を揺り起こそうとしている伯爵の姿が見えたと同時に

みずからが横たわっている事に気付き、辺りを見回した俺。


そして、意識を失う数秒前の“出来事”を思い出した――>


………


……



「俺、大量の水に飲まれて……」


「ああ……君は彼女プリムラ逆鱗げきりんに触れたのだよ。


彼女は君を泉に“強制転移”させ

君が意識を失うまでその場に閉じ込め続けたのだ。


そして、君の丈夫さを……つまり

“君が死んでいない事を”皮肉ひにくる様に褒めた後、再び泉へと消え去った。


……悪い事は言わない。


主人公君、せめて今日の所は諦め……」


「伯爵……彼女は謝りましたか? 」


「……主人公君、諦めるんだ。


彼女に要求を飲ませる事自体が難しくなったのに

この上、彼女に謝罪までさせると言う事が

どれ程に状況をこじらせてしまうのかなど、聡明そうめいな君ならば……」


「いいえ伯爵……それでは駄目なんです。


どの道九輪桜プリムラ彼奴モナークを救わないとうのなら

せめて非礼をびさせるまでは死んでも死にきれないんです」


「気持ちは分かるが、意固地いこじに成るのは……」


「……意固地いこじに成って何が悪いんですかッ?!!

直ぐ目の前に彼奴モナークを助ける事の出来る力が有るのに

俺の非礼ひれいが元でアイヴィーさんにまで嫌な思いをさせて

散々コケにされて……その上、彼奴モナークの事を良く知りもしない相手に

彼奴あいつをその辺の“普通の魔王”扱いされたんです。


確かに、俺との契約が発動する前に彼奴あいつがやって来た事は最低だったし

見た目も凶悪で口も悪くて、信じられないタイミングで

信じられない位のドS発言したりする完全なる人格破綻者じんかくはたんしゃですよッ!


でもッ! ……」


「し、主人公君……その、いささか興奮し過ぎて

“発言の九割が悪口に成って居る”様に思うのだが……」


「……それでも、そんなのは彼奴あいつの表面上の事でしか無いんです。


彼奴あいつただの……大切なまもるべき配下そんざいの幸せな姿と

“カレー”と“福神漬ふくじんづけ”が大好きなだけの、心根こころねの優しい男なんですよ。


……彼奴あいつの過去とか、彼奴あいつの苦しみとか

彼奴あいつの何一つとして理解しようともしない様な奴に

彼奴あいつ彼奴あいつを想う人達の気持ちを馬鹿にされたまま

このまま帰るなんて絶対に嫌なんですよッ!!! 」


<――断じて伯爵が悪い訳でも無いし

彼に不平不満をぶつけた所で何も解決しない事は分かっていた。


だが、それでも――


“俺など比べ物に成らない程に落胆らくたん

革の水袋をうらめしく握りしめているアイヴィーさんの姿を見ていると”


――せめて、文句の一つ位は言いたくなってしまったのだ。


たとえそれが、ただの八つ当たりだとしても――>


………


……



「君の気持ちは良く分かった……だが、ずは服を着替えてはどうだろう?

そのままでは風邪を引いてしまうし、そもそもこの場所は寒いからね。


さて、ずは火起こしをしなければ……」


<――俺の発言など無かったかの様に


……いや。


えてそう振る舞う事で、俺のやるせない気持ちに

一つの踏ん切りを付けようとしてくれたのだろう。


直後……伯爵は周囲から木々を集め火起こしを始めた。


……だが、明らかにおぼつかない手つきで

見るからに初挑戦とうべき様子に――>


………


……



「あ、あの……俺が付けますから! 」


<――そうって、火の魔導で火起こしをした俺。


すると――>


「ううむ……流石は主人公君だ。


まぁ、私の経験不足が露見ろけんしたのは恥ずかしいが……兎も角

主人公君、まずは服を脱いで其処そこに掛けて置くんだ。


今着替えを用意するから……」


「き、着替え?! ……有るんですか? 」


「ああ、少し待っていてくれ」


「は、はい……」(何故伯爵は着替えを? )


<――と、わずかに疑問を感じつつも

びしょ濡れの服を火にかざし乾かそうとして居た俺の背後で

馬車の荷を開き、その中から着替えの“フルセット”を出してくれた伯爵。


……無論、このあまりの準備の良さに疑問を感じては居たが

本気で風邪を引きそうだったので、首をかしげつつもそでを通していた俺。


すると、伯爵は大きな溜息ためいきをつきながら――>


………


……



「やはり、何故着替えが有るのかが気に成って居る様子だね……」


<――と、った。


直後……俺がうなずくと、伯爵は再び大きな溜息ためいきをつき――>


「お恥ずかしい限りだが、私も“経験者”でね……」


<――と、みずからも九輪桜プリムラの“洗礼”を受けた事を白状はくじょうした伯爵。


聞けば、幾度いくど目かの呼び出しの際

九輪桜プリムラの口に果物の欠片が付いており、それを指摘した所――


“飯食ってる時にあんたが呼び出したのが理由だろうがぁぁぁっ!!! ”


――と顔を真赤にして怒鳴り散し、伯爵を泉に突き飛ばしたらしい。


そしてその際……どうやら、泉の中に

大切にしていた“羽根ペン”を落としたらしいのだが

その件が恐ろしくていまだに言い出せず居る事も話してくれた。


この話を聞くまで……いや。


正確に言えば、本人プリムラに会うまで

精霊女王とう存在は……性格や考え方に多少の差はあれど

ある程度、人との距離感をわきまえて居る物だと勝手に思っていた。


だが……恥ずかしかったにせよ、腹が立ったにせよ

魔導適正を持たず……あまつさ爵位しゃくいを持つ相手に対し

到底行うべきでは無い暴挙ぼうきょに出ておきながら

一つも悪びれる様子の無い横柄おうへいさに、再び怒りがいて居た俺。


一方、その様子に気付いたのか――>


「そ、その……主人公君!

私も淑女レディに対し、余りにも無粋ぶすいに直球に言い過ぎた所も有る!

そもそも、彼女の食事を邪魔した私にも! ……」


<――そうって

“泉に向け暴言をきかねない”俺をおさえようとした伯爵。


だが、伯爵の発言に耳をかたむける内に

妙な違和感と“共通点”を感じた俺は


“泉に向け暴言をく”事はせず――>


………


……



「……大丈夫ですから落ち着いて下さい伯爵!

もう伯爵に迷惑は掛けませんし、彼女プリムラにも暴言はきませんから!

そんな事よりも……伯爵。


一つおたずねしたい事が有るんですが……


……これまでに伯爵が彼女プリムラに対する呼び掛けを行った際

“羽根ペン”の時や“今日”の様な状態と比べれば

“平和に会話が出来た”……と、感じられた時はありましたか? 」


「平和な会話……一度だけそんな事があったが

その時の彼女は後端こうたんに葉の付いた細い木の枝を

爪楊枝つまようじ”の様に使って居た様に記憶している。


その日は此方こちらの話を……まぁ、真剣にでは無かったが

比較的すんなりと聞き入れてくれた事を覚えているよ。


……だが、何故この様な話を? 」


「やっぱりか……伯爵。


どうやら俺達は、とても単純な事に気付けて居なかった様です」


「単純な事? ……どう言う事かね? 」


「それは……いえ

お伝えするよりも先ずは“実践”ですッ! ――」


「な、何を!? ……」


<――直後

“裏技之書”を取り出した俺は――>


………


……



「――裏技之書よ!

寸胴鍋ずんどうなべのカレー”と“パックご飯”と“スプーン”を生み出せッ!! ――」


<――そう唱えた。


一方、俺達の眼前に出現した“大量のカレー”と“パックご飯”と

数本のスプーンに首をかしげつつ――>


「主人公君、その……君はお腹が空いて居たのかい? 」


<――とった伯爵。


そんな問いに対し、俺は――>


「いえ……兎に角俺にもう一度だけ時間を下さい」


<――そう伝えた。


そして、直後――>


「……おーいッ!! 精霊女王九輪桜プリムラーーッ!!!

もう一回だけ出て来てくれーーッ!!! 」


<――と、泉に向けて呼び掛けた俺。


一方の伯爵はうまでも無く慌てふためいて居たが

そんな彼の制止せいしを振り払いつつ、なおも呼び掛け続けた俺。


……暫くの後、俺からのしつこい呼び掛けに

流石にしびれを切らしたのか――>


………


……



「……だぁぁぁっ!! 五月蝿ウルセェェェェェッッッ!!!

死ななきゃ理解わからねぇのかてめぇは?!


って……うげっ?!

何だってりにもって寸胴鍋ずんどうなべに大量の排泄はいせつ……」


<――現れるや否や


“カレーを目の前にして絶対に言ってはいけない一言”を口にし掛けた九輪桜プリムラ

だが、すんでの所で言葉を詰まらせたかと思うと――>


………


……



「……いや、違うな。


見た目は兎も角として……其奴そいつは間違い無く食いモンだ。


牛の肉に人参、玉葱と馬鈴薯じゃがいも……それに加えて

大量の香草と薬草が入ってる様だが……其奴そいつぁ一体何だ? 」


<――とった。


そして、そんな彼女に対し――>


「……お察しの通り、これはれっきとした食事です。


名称は“カレー”でありだんじて排泄はいせつ……いえ、兎も角。


……九輪桜プリムラ様はひどく空腹のご様子でしたので

先程までの無礼をびる意味で御用意させて頂きました。


ずは一皿……どうぞ」


<――そう伝えた直後

パックご飯の容器にカレーを注ぎ、スプーンと共に差し出した俺に対し――>


「ほう? ……香草やら薬草にまぎれさせ、オレの自由を奪うか

しくは言う事を聞かせる為の“何か”を仕込んでる様には見えないが。


一体……何のつもりだ? 」


<――と、警戒した様子でそう問うた九輪桜プリムラ


そんな彼女に対し――>


「分かりました、突然の事で違和感を感じるとおっしゃるのなら……


……過去、伯爵が泉に落とした“羽根ペン”をお返し下されば

その“御礼”とう事に成りませんか? 」


<――そう告げた俺に対し

彼女はほんの少し残念そうな表情を浮かべ――>


「羽根ペン? ……あぁ、あれか。


意外と気に入ってたんだけどな……ま、仮にも

精霊女王とあがめられるオレが“盗人ぬすっと扱い”はつらいしな。


ちょっと待ってな……っと、有った有った!


ほれ、返すぜ! ……悪かったなサーブロウ」


<――直後

素直に羽根ペンを返した九輪桜プリムラ


そして――>


………


……



「じゃ……食うぜ?

しかし、お世辞にも“見た目が良い”とは言えねぇなコイツは……」


<――そうって匂いをいだ後

ほんの少しだけカレーをすくい上げ、口に含んだ。


瞬間――>


………


……



「み……見た目は兎も角として此奴コイツ美味うめぇ!!!

何だよ主人公あんた! 意外と良い趣味してるじゃねぇか!


フ~ッ……フ~ッ……アチチッ!

……美味うめぇぇぇぇぇぇっ!!! 」


<――と、凄まじい勢いでカレーをき込んだ九輪桜プリムラ

そんな彼女に対し――>


九輪桜プリムラ様……食べながらで良いので聞いて下さい。


……今迄俺は数多くの精霊女王と話をして

その中の一名とは一緒に“旅”もしました。


でも……“空腹だから”と

何かを“経口摂取けいこうせっしゅ”をする精霊女王に会ったのは初めてです。


そもそも、今まで出会ったどの精霊女王も……」


<――そう言い掛けた俺の言葉をさえぎると

彼女プリムラは静かにスプーンを置き――>


「主人公……あんたは何も知らないんだろうが、あんたがこの国に来て

各地域の長達を集め、何らかの話し合いをした後から

オレはほとんど休む暇無く動いてる。


オレが“そうせざるを得ない理由”が……あんたに分かるか? 」


<――わずかに“恨み”を感じさせる様な表情を浮かべつつ

そうった九輪桜プリムラ……直後

俺が首を横に振ると――>


………


……



「やっぱりな……


……主人公あんたが連中に何を吹き込んだのかは知らないが

人間共が作物を育てる為、彼方此方あちらこちらに畑を乱立らんりつさせた挙げ句

移住までし始めた結果、其奴そいつらの家やら何やらの為に

大量の木々が伐採ばっさいされたんだよ。


……“森の健康がオレら精霊女王の健康”だって事は

“全精霊女王の救世主”たる主人公あんたなら知ってる筈だ。


この国にける作物を育てる為の土壌どじょうもオレの身体の一部だし

好き勝手に伐採ばっさいしやがった木々も、其の一本一本がオレの身体の一部だ。


オレが何故、こんなに機嫌が悪いかなんて此処ここまで聞けば分かるだろう?


兎に角……“二皿目”を寄越しな」


「え、ええ……」


<――彼女プリムラの言い分はもっともだ。


木々全体の量もだが……草木が生育する為の場所や

その均衡バランスが大きく変わった事で……さなが

いきなり“闘病とうびょう生活”とたがわぬ状況をいられたのだから

機嫌も悪く成るだろうし、腹も減るだろう。


そして、俺の質問した“経口摂取けいこうせっしゅ”に関しても

恐らくは――


“休む暇が微塵みじんも無いからせめて食事で接種せっしゅするしか無い”


――とう、いびつな状況なのだろう。


あの時、良かれと思ってこの国で取り決めた様々な事柄の全てが

彼女プリムラにとっては嫌がらせ以外の何者でも無かったのだ。


この後、俺は彼女プリムラに対し心からの謝罪を伝えた。


すると――>


………


……



「いや……まぁいちじるしく健康をがいする程じゃ無ぇし、別に構わねぇさ。


ただな? ……忙しくて休む暇もねぇ中

唯一ゆいいつのんびりと出来る時間である“食事”を邪魔されりゃあ

誰だって機嫌位悪くなるってもんさ。


それと……そっちの魔族女、あんたはさっき

“盗み聞き”って言いやがったが……あれは間違いだぜ?


オレの特殊技能であり、あのメディニラですらうらやむ能力――


樹木達之囁キギノササヤキ


――って力にって、聞きたく無くても聞こえちまうんだよ。


特に……オレの名前を呼んだ奴の声は全てな。


元々は祈りを聞き届ける為の力だったが、疲れが溜まり始めてからは

徐々に切り替えが“馬鹿”に成っちまったみたいでな……ま、そう言う事さ。


後、その……何だ。


さっき主人公あんたにやった事と

“無駄な時間”って言ったのは……正直、悪かった。


聞いてたよ……モナークって奴もカレーが好きなんだろ?


其奴そいつがこれの事好きな理由は良く分かったし

白米との比率ひりつ絶妙ぜつみょう美味うまいのも認めるよ。


……てか、こんな美味うまいメシを一緒に食った仲ってんなら

主人公あんたに取って“捨て置けない存在”に成るわな! アッハッハ!!!


さてと……三皿目、貰っても良いか? 」


<――食べ進めるにつれて加速度的に温和おんわに成り始めた九輪桜プリムラ

先程までの姿が嘘の様に、此方こちらが要求せずとも

次々と要求を叶えてくれるその姿に半分は恐怖を覚えて居た俺。


……ともあれ、彼女プリムラの要求通り三皿目を用意し

彼女プリムラに差し出した瞬間――>


………


……



「なぁ主人公あんた……さっきからオレが

ワザと一皿づつ要求してるにも関わらず

“カレーの交換条件”とばかりに何も要求して来ねぇのは……


……オレが気を良くして、素直に“聖泉水せいせんすい”を作るのを待ってるのか? 」


「いえ、そのつもりは全く無いです。


うか、い切ってしまうとアイヴィーさんに怒られそうですが

兎に角……俺の所為で多大ただいなるご迷惑をお掛けし、協力の御礼も挨拶もせず

“変なたくらみをした”事を本心から申し訳無く思って居る事。


ずはそれを知って欲しかったのが一番大きな理由です。


その上で、改めて俺達のお願いに耳を傾けて頂けたら――


“今より少しはアイヴィーさんが元気に成って

今より少しは胸を張って彼奴モナークの所に帰れるかも知れない”


――そう思ったのが二つ目の理由です」


<――嘘偽り無く

俺は初めから真っ当な話し合いをしたいと思って居た。


だが、その為には……アイヴィーさんの焦りにる無礼と

俺の冷静さをいた無礼な発言と態度を謝る必要があると思ったのだ。


だからこそ、全てを包み隠さず伝えた俺に対し――>


………


……



「……確かに、嘘は一つも言って無ぇ様だし

最初の出会いから考えたら

あんた達に対するオレの感情も明らかに上向いたのは事実だ。


まぁ正直、まだ言いたい事やらムカついてる事は沢山有るんだが……


……仕方無ぇ。


無礼者とは言え、精霊女王達オレたちに取っては恩人である

主人公あんたの“可愛らしい顔”にめんじて――


――おい、そっちの魔族オン……いや。


“暫定的魔王アイヴィー”


オレの気が変わらねぇ内に……その水袋を天高くかかげな」


<――直後

われるがままに水袋をかかげたアイヴィーさん。


一方の九輪桜プリムラはその水袋を見つめつつ――>


「……あんた達が石化の呪いがどうとか言ってたのは覚えてるし

この力なら恐らくは助けられるだろうが……


……間違ってもオレの歌声を嘲笑わらうんじゃねぇぞ?


良いな? ……分かったな? 」


<――と“妙に念を押して来た”九輪桜プリムラ


そして、俺達全員がうなずくと――>


………


……



「よし……じゃあ行くぜっ!!!


生と死の間ぁ~っ!


生まれ死にくぅ~!


全てのぉ~生命いのぃ~っ!! ……はぁ~っとこりゃッ!


聖なる泉の水よ、石と成る呪いを受けし者への癒やしを授けよ――


――“輪廻転生サンサーラ”」


<――精霊族の女王にのみ使う事の出来る彼女達の“固有魔導”


旅の途中、幾度いくどと無くリーアが俺達に授けてくれたあの“力”……


……とは比べ物に成らない程

聞くにえない崩壊した音階おんかい

“精霊女王之歌声”とおぼしき――


“何か”


――だが、その力は確かにリーアの物と同じ

“高次元の力”を持って居て――>


………


……



「さて……聖泉水それで治らなかったら連絡しな。


少々しゃくだがオレが直接なおしに行ってやるからさ……」


<――清々しい表情を浮かべそうった九輪桜プリムラ

そんな彼女に対し、えて何も語らず深々と頭を下げたアイヴィーさん。


そして御礼を伝えようとした俺に対し、九輪桜プリムラは――>


………


……



「おっと、待った……


……礼なんて良いから暫くは定期的にカレーとやらを持って来な。


そうすりゃ、主人公あんた達に対するオレの不満も

徐々に消え去って行くだろうからさ。


だがまぁ、もしそれすら忘れやがったら

今度は直接溺れさせに行くから……覚悟しろよ? 」


<――そうって微笑ほほえんだ。


一方、そんな彼女に対し

“はい”と返事をしようとして居た俺の事をさえぎり――>


「ええ……モナーク様が復活されたあかつきには

私が責任を持って、生涯しょうがいに渡りお届けに上がる事をお約束致します」


<――アイヴィーさんはそうった。


そして、そんな彼女に対し――>


「“コレ”が食えるなら何でも良いが……ま、楽しみに待ってるさ」


<――そうって再び微笑ほほえんだ九輪桜プリムラ

後端こうたんに葉の付いた細い枝”を取り出し

満足気にそれをくわえたのだった――>


===第百八三話・第四章・終===

精霊女王九輪桜プリムラ


“固有魔導:輪廻転生サンサーラ”についての機密情報


効果:使用者九輪桜プリムラの持つ絶対的な癒やしの力を

その媒介ばいかい先となるあらゆる水分に付与ふよ

毒液であろうとも、それを“聖泉水せいせんすい”と呼ばれる物へと変える効果を持ち

あらゆる物を癒やす効果を九輪桜プリムラの“望む時間のみ”発揮はっきする。


だが、その時を過ぎて使用した場合

“毒にも薬にも成らない”ので注意が必要である。


備考:精霊女王之歌声と混同こんどうされるが

あらゆる意味にいて“なる歌声”であり

本人もこれを混同される事はこのまない。


情報源:秘密裏に彼らをのぞく者

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