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第百八一話「楽しくても悲しくても、思い出は大切です」

<――全てを思い出した。


俺は……彼奴モナークを復活させる為

後先を考えず無作為之板ランダムテーブルを使った。


……そして失敗し、この世界に関する全ての記憶を失った事で

仲間達に気を遣わせた挙げ句、多大なる迷惑と心配を掛けてしまったのだ。


俺が記憶喪失の間に話した内容と、そう成る前に得ていた記憶……


……どちらも嫌とう程に覚えているし

皆にひどい迷惑を掛けてしまった事もだが

もし逆の立場なら、俺はどれ程不安に成って居ただろうか……と

全てを思い出した瞬間からひどい自己嫌悪におちいりもした。


だが……それでも。


俺は、もう一度あの“呪具”を使わなければ成らない。


全ては彼奴モナークよみがえらせる為――>


………


……



「……アイヴィーさん、彼奴モナークの事は俺が必ず復活させる。


だから、後少しだけ待って居て欲しい――」


<――直後


再び“敵意の無い魔族達の集落”へと転移した俺。


だが――>


………


……



「はぁ~っ……やっぱり来ちゃったか主人公っち」


「……エリシアさん、其処そこをどいて下さい。


何とわれても俺は……」


「待った! ……その先は言わなくても分かるから。


……取り敢えず!


ごめんね、主人公っち――」


「“ごめん”って一体何を……ッ?! 」


<――瞬間

俺に向け、無作為之板ランダムテーブルを優しく放り投げたエリシアさん。


だが、この直後……無作為之板ランダムテーブルを掴もうした俺の

“真横”に転移して来たエリシアさんは俺の頬を思いっ切りビンタ……いや。


……これは“掌底しょうてい”と呼ぶのが適切な威力だ。


兎に角……この直後、激しく吹き飛ばされ

地面に叩きつけられた俺に対し

慌てた様子で駆け寄って来たエリシアさんは――>


「……ご、ごめんっ!!

其処そこまでしっかり“入る”とは思って無くて……けど

こうでもしないと主人公っちは止まってくれないと思って……兎に角。


……私、主人公っちが何をどう考えて再び此処ここに来たのか

どれだけ主人公っちが傷ついて居たかも充分に理解してるつもり。


でもね、主人公っちに起きた記憶喪失をこんなにも早く治せたのは

たまたまにせよ、そう作られているにせよ

無作為之板これが“此処ここに戻って居たから”ってだけなの理解してる?

そもそも……私の“時”も主人公っちの“時”も

二回とも此処ここに戻って来たからと言って“次も同じ”とは限らないんだよ?


私も含め……皆、どれだけ主人公っちの事を心配したか判ってる?

皆の心を深く傷付けた件について……どう申開きするつもりなの?


……勿論、主人公っちが仲間モナーク事を大切に考えてるのは良い事だし

私だって助けられるなら直ぐにでも助けたいって思ってる。


けど……今も動いたり話したりしてる“君の大切な人達の事”は

全員、君に取って“本当は重要じゃ無い”の?

私達の事なんて“本当は重要じゃ無い”って事なの? ……」


「そ、そんな事はッ! ……」


「……主人公っち。


今、君は……“そう思わせるだけの行動を”しちゃってるんだってば。


だって、私の顔……“ちゃんと見て無い”でしょ? 」


<――そうったエリシアさんの顔は

“悲しげ”とう表現では表しきれない程だった。


……俺は大馬鹿だ。


彼奴モナークが俺を形容けいようする時、幾度いくどと無く口にしていた

“愚か者”そのものだ……今ある“大切”すら傷付けてしまう俺に

何をどうすれば全ての“大切”をまもり切れるとうのだろうか。


いつ何時なんどき天真爛漫てんしんらんまんなエリシアさんの事を

こんなにも悲しませてしまう


俺の様な“愚か者”に――>


………


……



「……主人公っち、もう泣かないで。


良いから……帰ろ?


こんな呪いの道具じゃ大切な人達はまもれないし

その事は私も痛い程知ってるからさ……


……それに、今回の事は私にも責任があるでしょ?


主人公っちの気持ちをちゃんと考えず、安易あんい無作為之板これの事を……」


「……そんな、エリシアさんは何も悪く無いですよ!!

俺の方こそッ!! ……」


「……ありがとね主人公っち。


でも、それなら……


……本当に私に対して“申し訳無く思って”くれてるって言うのなら

もう二度と“無作為之板これ”を使わないって約束して。


私だってもう二度と……誰も失いたく無いの。


兎に角、それで今回の事は無しにするからさ……ね? 」


「エリシアさん……分かりました。


俺、もう二度と無作為之板それには頼りません……考えもしません。


それからその……有難う御座いました」


「へっ? ……何が有難うなの? 」


「暴走する俺の事……本気で止めてくれて」


「あぁ~……“ビンタ”の事?

それは単にストレス発散だから気にしないで良いよ~っ? 」


「……は? 」


「い、いや……冗談に決まってるでしょ~っ!?

私の事、どんな暴力女だと思ってるんだ主人公っちは~っ!! 」


「いえ決してそうう訳では……」


「あ~っ! その目は“思ってる人”の目だ~っ!! このこのぉ~っ! 」


「い、痛ッ?! 痛いですってエリシアさんッ! ……」


<――ともあれ。


この後、エリシアさんと共に政令国家へと帰還した俺は――>


………


……



「そうだったんですね主人公さん……ま、許しませんけどね? 」


<――帰還後、皆に対し謝罪と感謝を伝えた俺。


そんな中……俺に対し、何時もと変わらず

“ツッコミ待ち”とも思える様な態度で接してくれたマリア。


だが……記憶を失っていたあの時

俺に対し、心の底から心配した表情を浮かべていたマリアの優しさに

今甘えてしまったら……俺はあの時の感じた優しさへの御礼を

二度とマリアに伝えられないだろう。


この時、俺は……何時も一歩引いた所で

肝心な所で俺の事を支えてくれて居るマリアに対し

心からの御礼を伝える為――>


………


……



「本当にごめん……俺の所為でどれだけ傷付けたかを考えたら

こんな言葉だけじゃ許して貰えなくて当然だと思ってる。


でも、そんな俺の事を心の底から心配してくれて

そ、その……そうう意味じゃ無いのかもだけど!

その……“大好き”とまでってくれた優しさに

わずかでもむくいる為には……」


「あー! あー! 何を言っても許しませ~……って!?

……主人公さん、何処どこまで覚えてるんですか? 」


何処どこまでって……全部、かな? 」


「えっ? と言う事はもしかして……」


「……少なくとも“キャラじゃ無い”辺りは全部覚えてる。


だから、改めてその御礼とうか……」


「い、いやぁぁぁぁぁぁぁっ!! ……」


「ちょ?! マリア?! ……って、行っちゃった」


<――直後

部屋から飛び出し何処どこかへと走り去ったマリア。


そして、マリアの慌てっぷりを見たと同時に

妙に余所余所よそよそしくなったメルとマリーン。


無論、うまでも無く二人の発言も行動も

しっかりと覚えては居るのだが……


……マリアの“様子”を見るに、これは

“忘れてる”事にして置いた方が良いだろう。


そう考えた俺は――>


………


……



「……あ、あれぇ? おかしいなぁ~ッ!


マリアの話した内容は覚えてたけど

メルとマリーンが話してた内容と行動は全く思い出せないんだよな~ッ! 」


<――と、った。


だが、当然とうべきか――>


「主人公……その口振りだと私達との会話も覚えてるのね? 」


「い゛ッ!? ……マリーン、何で分かったッ!? 」


<――と、俺の嘘を瞬時に嘘を見抜いたマリーンは

続けて――>


「やっぱり……ねぇ主人公、私も顔から火が出そうだけど

二度と話題に出さないでくれるなら私も何も言わないって約束する。


貴方も約束出来るわよね? ……」


<――と、威圧いあつ満載まんさいでそうったのだった。


そして……直後、静かにうなずいた俺の様子を確認すると

安心した様子で大人しく成った二人。


……ともあれ。


二人からも許して貰えた事に安堵あんどし、ホッと胸をで下ろしていたその時……


……ひたいに汗をかき、謎の小瓶を手に持ち帰って来たマリアは

開口一番かいこういちばん――>


「主人公さん……これでその記憶を全部消しましょう。


取り敢えず、大人しく全部飲んで下さい……」


<――そう言って謎の小瓶の蓋を開けた。


直後……当然とえば当然だが

“周りの皆に羽交はがめにされた”マリアを見ていて思った。


ああ……“一番にまもるべきはこの幸せな時間だ”と。


……だが、そう思っていたのもつかの間だった。


この後、マリアの手から落ちた小瓶からこぼれた液体は

床板を猛烈もうれつな勢いで“溶かし”始め――>


「……な゛ッ!?


そ、それ……もし飲んでたら

記憶じゃ無くて、俺の“存在自体が”消えるだろ?! 」


「そんな筈無いですよ! 薬屋の棚にはちゃんと“記憶消去薬”って!


……あっ。


これ……“消滅薬”って書いてますね。


多分、隣にあったので間違って買っちゃったみたいですね~……てへっ♪ 」


本気マジかお前……」


<――ともあれ。


この後……俺の為集まっていた皆も

殺人未遂犯マリア”も、俺の馬鹿な行動の全てを許してくれて――>


………


……



「兎に角じゃ……主人公殿。


わしも皆も、モナーク殿の件には心を痛めておるが

いては事を仕損しそんじる”と言う言葉もあるじゃろう?


……無論、主人公殿だけでは無くアイヴィー殿も歯痒はがゆいじゃろうが

いくら石化の呪いとは言え、生きておる以上は助ける為の手段も必ず有る筈じゃ。


主人公殿……余り頼りには成らぬかも知れぬが

御主が何かを悩む時は、わしらも共に悩ませては貰えぬじゃろうか? 」


<――ラウドさんにそうわれ、思わず涙を流してしまった俺。


その直後……そんな俺をなぐさめる為か

俺の背中をさすったり、肩をポンポンと叩いたりハグしてくれたりと

更に号泣してしまう程の優しさをくれた皆に対し

涙と鼻水でぐちゃぐちゃに成った顔で

何度なんど何度なんども御礼をった“今とう時間”は

マリアに取っての“キャラじゃ無いセリフ”と同じ位

思い出す度に恥ずかしく成る記憶の一つに成るのだろうか?

それとも、酒の席や何かで蒸し返され

その度に恥ずかしい思いをする事に成るのだろうか?


きっと……恐らくはそう成るのだろう。


だが……何故だか嫌な気持ちなど微塵も無く

むしろ、そう成るのが楽しみにすら思えるこの感情は何だろう?


上手うまく説明の出来ない“この感情”は――>


………


……



「あ、あの……主人公さんっ!

私っ! ……弱音を吐いたり号泣したりする主人公さんの事も大好きです。


だ……だからっ!


もっと沢山、私……だけじゃ無くて

私達に……主人公さんの弱さを見せて下さいっ!


絶対に、主人公さんの事……嫌いになったりしないですからっ! 」


「メル……」


<――今日、俺は


俺の中に増えた恥ずかしい記憶も

今まで苦痛でしか無かった悲しい記憶も

思い出す度、はらわたが煮えくり返る様な記憶ですらも……


……何もかもが、この世界で生きて居る“俺”とう存在を形成する

消し去るべきでは無い“大切”だと皆に教えられた。


必ず彼奴モナークよみがえらせる

“何をしてでも”……今までの俺ならばそう考えただろう。


だが、今日からは違う――


“誰も傷付けず、俺自身も傷付かず”


――必ず彼奴モナークを救い出す。


それは全ての“大切”をまもる為に――>


………


……



「ふむ……主人公。


ようやく吾輩の認めるおとこの目に戻った様だ……」


「ああ……皆のお陰で目が覚めたよガルド。


この所ずっと、嫌な姿ばかり見せ続けて悪かった

今後は気をつけ……いや、今後は無いと誓うよ」


「構わぬ……これから先も御主の弱さを吾輩達に見せ続けよ。


そもそも吾輩と御主は“生涯の友”であるのだからな。


……それはそうと主人公

御主を寝床ベッドへ運ぶ際、御主のふところから

この“宝石”が転げ落ちたのだが、渡すタイミングを逃していてな……」


<――そうってガルドがふところから取り出した宝石は

間違い無く、精霊女王デイジーが去り際に残したあの宝石だった。


だが――>


「あぁ、ありが……」


<――そうって受け取ろうとした瞬間

エリシアさんは妙に興奮し――>


「えっ?! そ、それ……主人公っちも持ってるの?!

私もこの間、私の“ファン”って言うかなんて言うか……兎に角!

“精霊女王フリージア”から貰ったばかりなんだよ?

まぁ、とは言え正直“定期的な連絡”には困ってるんだけどね……」


<――と急激にテンションを下げながらそうった。


まぁ、エリシアさんの“苦労”は兎も角として

彼女の口振りを聞くに、この石は通信装置か何かなのだろうか?


……仮にそうだとするならば、何の説明も無く

宝石これを残して去ったデイジーさんの真意が判らない。


そんな事を考えつつ、エリシアさんの話す内容に

首をかしげ考え込んでいた俺の姿に――>


「ん? ……その様子だと少なくとも

主人公っちには“鬼連絡”……来てないみたいだね。


はぁ~っ、羨ましいなぁ~っ……」


<――そうって大きな溜息ためいきをついたエリシアさん。


この後、そんなエリシアさんに対し――>


「……何だか良くは分かりませんが、心中しんちゅうお察しします。


兎に角……確かに俺の宝石これは、政令国家周辺の森を治療した際に

デイジーさんが俺の部屋に残していった物なんですが

“あげる”とわれて手渡された訳では無くてですね……」


<――そう当時の事を説明した俺に対し

エリシアさんは不思議そうに――>


「そっか~……まぁ、置いて行った位だし

デイジーなりの“いきな渡し方”のつもりだったんじゃない?


……けど、政令国家周辺の森を管理してる政令女王が

何でこんなに近くに住んでる人間に通信用の宝石を渡したんだろうね~?

別に主人公っちと話したいだけなら今直ぐにでも飛んでくれば……


って……あっ!!! 」


<――直後

そうい掛け口元をおさえたエリシアさんは

悪巧わるだくみ感”バリバリの表情を浮かべつつ――>


「……命と美貌びぼうの恩人である主人公っちの事を好きに成っちゃって

“愛の証”みたいな感じで渡したとかじゃな~い? 」


<――意地悪げにニヤニヤとしながらそうった。


そして――>


「……ねぇねぇ~!

主人公っちから連絡してみたら凄く喜ぶんじゃな~ぃ?

てか……今直ぐ連絡しろ~ぃ! 」


<――と“ウザ絡み”を発動させたエリシアさんの

なかば強制的な指示にって、渋々宝石へと語り掛けた俺。


だが、返事が帰って来る事は無く――>


「……あるぇ~?


おかしいなぁ……もしかして

魔導力を込めてみたら何かが起きる……とかかな? 」


<――そうわれ、宝石に魔導力を込めた俺。


だが、やはり何も起きず――>


「う~ん……まぁ少なくとも、主人公っちへのプレゼントだとは思うし

大切にしてて良いんじゃ無いかな? 」


「そうですね……取り敢えずは今度会った時

デイジーさんにこれの使い道を聞いてみます! 」


「い、いや……その質問って

それが“ただのプレゼント”だった時に

デイジーの事相当傷つけると思うし……止めておいた方が良くない? 」


「そ、そうわれれば確かに……」


<――ともあれ。


この後、お昼時をむかえた俺達は――


“久しぶりに皆で食事を”


――とうオルガの発案を受け、久々に食事会を開く事と成った。


う迄も無く……この日、皆と一緒に食べた食事は

何時にも増してとても美味おいしく感じた。


だが、同時に


“早く彼奴モナークをこの輪に加えてやりたい”


そう、心の底から思った瞬間でも有った――>


………


……



「……やっぱり、皆と食べると美味うまさの次元が違ったな。


しかし、彼奴モナークとも早く……カレーでも食べたいな」


<――暫くの後

自室に戻った俺はベッドに横たわりながら

デイジーさんからの“宝石おくりもの”を眺めながらそんな事をって居た。


だが、そんな時――>


ひさ……振りに……楽し……かい? 」


「ぬわぁぁッ!? 宝石から声がッ!? ……」


<――突如として宝石から発せられた声に驚き

思わず宝石から手を離した俺。


その直後、俺の胸に落ちた宝石は激しく輝き始め――>


………


……



「フウ~ッ♪ ……良し! ひさし振りだがしっかりと使える様だね♪


さてと……好青年、エリシアの嬢ちゃんは“からかって”いたが

フリージアがあの娘に渡した宝石もの

アタシが渡したアンタの持つ宝石それ

ただの通信に使う為の物じゃ無いんだよ? 本来は……って。


アンタ……中々に“大胆な所”も有るんだねぇ? 」


<――突如として激しく輝いた宝石


直後、光の中から意気揚々と出現したデイジーさんは

俺の胸の上にまたがりながらそう言った。


繰り返しには成るが……


……若返り、絶世の美女と成ったデイジーさんが

その姿のまま、俺の胸部にまたがって居るのだ――>


「……い、いやいやいやいやッ!!

そっちがいきなり現れてまたがったんじゃないですか!!


ってうか……早く降りて下さいよ!! 」


「あら……素直じゃないねぇ?

アタシにまたがられるなんざ、並の男なら手を叩いて喜ぶ程の幸運だよ? 」


「……そっ、それはそうかも知れないですけどッ!!

と、兎に角ッ!!! 早く降りて下さいってば!! ……」


「嫌だよ? ……一度でもアタシの今の美貌びぼうを褒めなきゃ

絶対に降りてやら……」


「だぁーもうッ!! ……デイジーさんは絶世の美女ですから!!

お願いですから降りて下さいってば!! 」


「……そんな投げやりな言い方じゃオンナは喜ばないよ?

ちゃんと褒められる様に成るまで、アタシが手取り足取り……」


「教えなくて良いから早く降りろぉぉぉッ!! ……」


<――ともあれ。


“大騒ぎ”に一段落がついた頃……俺は

精霊女王デイジーに対し、宝石これの本来の用途をたずねた。


すると――>


………


……



「ん? ……宝石それの使い方かい?

そういえばその話についてだったねぇ……まぁ、勿論覚えて居たが。


……アンタは優しい子だから、その宝石の能力を聞けば

きっと受け取らないと思って何も言わずに渡したんだが……仕方無い。


伝えるべき時が来たって事かも知れないねぇ……」


<――そううや、神妙しんみょうな面持ちと成った精霊女王デイジー


直後、彼女は続けた――>


………


……



「……それの能力は大きく分けて“三つ”ある。


一つは、エリシア嬢ちゃんが困り果ててる“通信手段”として。


それから……今こうしてアタシが現れたみたいに

アンタが何処どこに居ても、それがたとえアンタの様な

“選ばれし者”との契約が無くとも

周囲に草木一つすら生えぬ場所であろうとも……


……こうして飛んで来られるってのが二つ目だ。


そして最後……これが

“受け取らないかも知れない”とアタシが言った能力さ。


それは――


ただ一度に限り、アタシの力を

その生命に至るまでの全てをアンタの自由に出来る権利”


――つまり。


アンタがアタシに“男の欲望”をぶつけたいって考えた時

しくは……誰かや何かを助ける為、アタシの生命と森を

アンタを強化する為の“道具”として使える権利って事さ。


……アンタは命懸けでアタシの事を助けてくれた。


アタシはそのお返しのつもりで渡したんだ……


……頭の良いアンタならもう分かるだろう?

あの魔族モナークを助けたいと心の底から願うのなら

今すぐその宝石を強く握り締めて……」


「駄目だッ!!! そんな事をする位なら俺はッ!! ……」


<――当然だ。


“そんな犠牲を払って救う事には何の意味も無い

それは……これしか彼奴を助ける方法が無いとしてもです”


俺は、到底受け入れ難い事を口にしたデイジーさんに対し必死でそう伝えた。


だが、そんな俺の事を黙ったまま見つめた後

デイジーは、勢い良く口元をおさえ……笑った。


そして――>


………


……



「ハッハッハッ!! ……アンタはやっぱり優しい男だ。


アンタは純粋じゅんすいあつく、不格好ぶかっこうで……


……それで居て、誰もが惚れる様な度量どりょうを持ち合わせた最高の男さ。


アタシの目は何一つ間違っちゃ居なかったって事さ……安心したよ」


<――ひとしきり俺の事を笑ったかと思うと

嬉しそうにそうった精霊女王デイジーは

本心から発した発言をからかわれた様な気がして

少しばかり不機嫌に成った俺に対し


更に続けた――>


「もう少しだけ……怒らないで聞いて居ておくれ。


アタシが今、アンタをからかう様な態度を取ったのには理由があるんだよ。


それは……“宝石それ”に

“アンタからは使えない”もう一つの力があるからさ。


その力は――


“渡したアタシが宝石の持ち主であるアンタの話す内容を盗み聞く事が出来る”


――って力でね。


それで……アンタの話す内容を全て聞いた上で

アンタの苦痛も全て、アタシの心まで痛くなる程聞いた上で

アタシは、アンタが“冷静な判断”が出来る様に成るまでずっと待って居たのさ」


<――そうった。


だが、当然――>


「“ずっと待っていた”って……一体何を待っていたってうんです? 」


<――そう問うた俺に対し


デイジーは――>


………


……



「あの“大精霊女王メディニラ”ですら一目いちもくく精霊女王――


九輪桜プリムラ


――彼女の協力を取り付ける為、他者だけにじゃ無く

アンタが、アンタ自身にも優しく成るまで

アタシはずっと待って居たのさ……」


<――そうって


再び“笑った”――>


===第百八一話・終===

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