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第百七八話「心を救うのは楽勝ですか? ……後編」

《――ムスタファが手を伸ばし、持ち上げた瞬間

砂の様に崩れ去った“天蝎宮スコルビウス之書”


この状況に、皆が言葉を失っていた中――》


………


……



「こんな風化した本の為に……えぇぃ! スッキリせんっ!!! 」


《――苛立いらだちをあらわにしたカミーラ。


だが……そんな彼女とは対照的に、突如として高らかに笑ったムスタファ。


無論、そんな兄の姿に――》


「兄様……何故笑っているッ!! 」


《――声をらげそう言ったカミーラ。


だが、そんな彼女カミーラいきどおる姿に――》


………


……



「……いや、すまない。


ただ……ひどく皮肉な物だと思ったんだよ。


砂につつまれた我が国も、我が兄弟達の悲運ひうん

父が“のろい”とまでに言ったこの本も……


……全て、いずれは砂へとかえさだめだったのだと。


人の身では、決してあらがえぬ力ですらも“全て”ね……


本当に、ひどく馬鹿馬鹿しい限りだと思ったんだ。


本当に……ッ……」


《――瀬無せなさを隠す様に

静かに……強く拳を握り締めながらそう言った彼の姿に

カミーラは――》


………


……



「そっか……そうじゃな。


面白くは無いが、本当に……笑えるな」


《――目に涙をめ、笑顔でそう告げた。


この後……そんな彼女の目尻めじりを優しくぬぐったムスタファは

扉に向き直り、水晶玉を取り外すと――》


………


……



「……主人公。


色々と手間を掛けた上、最後にもう一つだけ君に

“手間”を掛けてしまう様で申し訳無いのだが……」


《――そう言いつつ、水晶玉を床に置くと

これを“氷刃”で半分に切断する様頼んだムスタファ


この後……主人公かれの放った氷刃に

水晶玉は本来の姿を失い、黒き扉はこの場から消え去った。


そして、この直後……水晶玉の片割れをふところ仕舞しま

もう一方の片割れを主人公へ差し出すと――》


………


……



「この片割れは君に持って居て欲しい……迷惑だろうか? 」


《――そう言って

差し出した片割れをわずかに下げたムスタファ。


だが、そんな彼に対し――》


「……迷惑なんて事は無いよ。


分かった……この片割れは責任を持って受け取る

けど、仮にも“国王の証”みたいな物なのに……良いのか? 」


《――直後

片割れを受け取りつつ、そうたずねた主人公


そんな彼に対し――》


………


……



「……愛する者達の暮らすこの国で“国王”と成る決意をした私に取って

父から受け継ぐ事と成ったあの本の存在は

父がそう言ったのと同じく“呪いにも等しい”と思って居た。


……だが、君がそれを受け取ってくれた事

そして、呪いにも等しいとされていた筈のあの本が

“封じる必要すら無い状況”へと変わり

ある意味で存在意義の失くなったこの水晶は

“友への絶対的な信頼を伝える為の証”へと変化した。


そう考えれば“国王の証”に大した価値など有りはしない。


主人公……本来ならば、もっと君や皆様をもてな

たとわずかでも君のしずんだ気持ちを上向かせる為

時間と場所を用意する事が今回の目標だったにも関わらず

結果として我が国の問題に関わらせてしまった事は

どの様な謝罪の言葉を並べても決して許される事では無いと思っている。


だから……そのお詫びといえば無礼かもしれないが

もしもまだ時間が許すのならば、引き続きこの国でのんびりと過ごし

せめて“我が国で負った疲れ”だけでも癒やしては貰えないだろうか? 」


《――そう主人公の事を気遣ったムスタファ。


だが、主人公はそんな気遣いに感謝を伝えた後――》


………


……



「ありがとな……けど、それをうなら俺だって

大切な親友に何から何まで気を遣わせた挙げ句

見せたくも無い姿を何度も何度も見せてしまった事……


……恥ずかしくて情けなくて、申し訳無い気持ちで一杯なんだ。


だから……本来ならもう少し此処ここに居て

この所の見るにたええない俺の姿を完全に消し去る位

“楽しく過ごせたら”……とも心から思ってるんだ。


だけど……いずれにせよ俺は

一度、政令国家に帰らないと成らないんだよ。


……それは“彼奴モナークの穴を埋める”ってのも理由の一つだけど

これ以上、俺の暗くしずんだ姿を……親友に見せ続ける事が辛いんだ。


だから……もっと俺が“普通”に戻れたら

何時いつの日か、肩を組んで笑い合える様に成れたら……


……その時にまた、遊びに来させて欲しいんだ。


毎回だけど……我儘ワガママってごめんな」


《――そう言って頭を下げた。


一方

そんな彼をただ静かに見つめ――》


………


……



「……ああ、分かった。


私もその日を楽しみに国王としての職務にはげむとしよう

……さて、その為にもずは式典に戻らねばね! 」


《――そう言うと

主人公の背中を二度軽く叩き、彼を励ます為明るく振る舞ったムスタファ。


この後……とどこおり無く式典を終え

主人公の体調を気遣ったムスタファの提案に

護傘マモリガサでの帰還準備をしていた一行。


そして……同時刻


“最強のほこ”と、軍事力の多くを失った“メッサーレル君主国”では

魔導兵達に対する審問が行われていた――》


………


……



「貴様らッ!!! ……何故おめおめと逃げ帰って来たッ!?

アースィー様直属の部隊で在りながら

みずからの命をけもせず、敵に一矢たりともむくいずッ!!!

まして“無傷で帰還”とは……一体、どう言うつもりだッ!!! 」


「……それだけではありません議長殿!

この者達は、例の“ご子息”を失っておきながら

その亡骸なきがらすら持ち帰って居りませんっ!


……おいお前達っ!!


お前達の様な無能共は直ちに極刑にしょされるべきであろうっ?!

どうなんだっ! ……何か言ってみろっ! 」


《――魔導兵らに向け

罵詈雑言ばりぞうごんを投げつける様に発し続けていたメッサーレル君主国の政治家達。


この後も様々な罵声ばせいびせ続けた政治家達

一方で……そんな口汚い言葉の全てに対し、一切の反論をせず

ただひたすらに甘んじて受け入れ続けていた魔導兵達。


そして――》


………


……



「……おい貴様らッ!!!

黙り込み、頭を下げたまま何一つ言葉を発さぬその態度は何だッ?!


……弁明の一つでも無いのかッ?!! 」


《――そう怒鳴りつけられた瞬間

これまで黙り通して居た魔導兵達かれらの中で

唯一ゆいいつ、静かに顔を上げた魔導隊の隊長。


……直後、この者がかもし出した気迫に

わずかながらおののいた政治家に対し、隊長かれは――》


………


……



「……“不甲斐無き結果”に対する我が隊への

全て、私が如何様いかようにもお受け致します、ですが……


……つい先日

皆様が我が隊へ配属させよと強制した“新人隊員”を

跡形も無く一瞬にして消し去ったあの“化け物”を……そして。


我が国にける“最強の矛”で有ったアースィー様のお命を

恐らくは、我々が到着するわずか数分の間に奪い去った“張本人”でもあろう

“あの者”が見せた立ち居振る舞いの“異様いようさ”を……


……あの日、たとえわずかでもご覧に成られていたならば

決して、我が隊の帰還を責める事など有りはしなかった筈。


議長殿……我々が何故、ご指摘の“御子息”を連れ帰れず

アースィー様のご遺体いたいを“此程これほど容易たやすく”持ち帰る事が出来たと?


……我々が何故、斯様かような化け物のごとき者のかもし出す“領域りょういき”から

容易たやすく帰還する事が出来たとお思いなのです?


何故……あのアースィー様ですら比べ物に成らぬ程の能力値ちからを有する者が

涙を流し、我々にほこを収める様頼み続け

頭を下げ続けるにとどまっていたのか……


……そんな“異常事態”の中に有った我々の奇跡的な帰還を

何故その様に罵詈雑言ばりぞうごんけがすのです?


仮にあの者と、皆様のおっしゃられる“無謀むぼうな戦闘”を行ったとして

れを理由に……あの日“完全消滅”した魔導砲撃隊と同じく

あの者がこの国の全てをめっさんと動いて居たならば……


……こうして我々に対する“八つ当たりの様な”審問しんもん会を

開く事すら叶わなかったとはお考えに成らないのですか? 」


《――“八つ当たり”に対する恨み節では決して無く

歴戦の中でつちかって居た彼らの動物的とも言うべき“勘”にる――


“戦略的撤退”


――だが、そんな彼らのたたえるべき正しさに気付く事すら出来ず

政治家の多くは、この後も彼らに対する罵詈雑言ばりぞうごんを並べ立てた。


だが、そんな中……一切の理解が得られない現状と魔導隊の今後をうれ

なかば諦めた様な表情を浮かべていた隊長に対し――》


………


……



「ふむ……仮にも歴戦のゆうたるお前が

其処そこまで恐れる程の相手が本当に居ると言うのか? 」


《――そうたずねた者は

妖艶ようえんな声と妖艶ようえんな見た目をしていて――》


「……はい、あの様な化け物にかなう者など

あらゆる国々を探そうとも……数える程も見られぬかと」


《――そう答えた隊長に対し

これまた妖艶ようえん微笑ほほえみ掛け――》


「ふむ……では一つ聞く。


その者の“せい”は……女子おなごか?

それとも……男子おのこか? 」


「そ、それが……化け物のごとき能力値とは裏腹に

女子おなごの様な面立ちをしておりまして……ですが

確かにあの者のせいは“男”かと……」


《――隊長がそう答えた瞬間


この女は、妖艶ようえんに……だが。


醜悪しゅうあくに”微笑ほほえみ――》


………


……



「ほう……成らば容易たやすき事。


男子おのこは皆……その“さが”にあらがえぬ悲しき者達

力で勝てぬ相手ならば“骨抜きにしてやれば”……良いだけの話であろう?


篭絡ろうらくし……此方こちらの望みをことごと

我が身の為に“叶えてやりたい”と思わせてしまえば良いだけの話よ」


「……で、ですがソーニャ様。


あれ程の“狂人”に“女人にょにんへの興味”が有るとは、とても思えず……」


「何? ……このソーニャの作り出す媚薬びやくの効果を信じぬと言うか」


「い、いえ……失礼を致しました」


「ふむ……分かれば良い。


とは言え……ただでさえ“狂人”の全貌ぜんぼうを知る者が少なき我が国で

戦力まで減らす事は避けねば成らぬとは思わぬか? ……


……そうであろう? 議長殿? 」


「た、確かに……戦力が多いに越した事はありませんが……」


《――この後

彼女ソーニャの一声にり極刑を逃れた魔導隊は

彼女直属の“護衛隊”へと、その立場を大きく変える事と成るのだった――》


………


……



「さて……主人公、準備は良いかい? 」


《――“護傘マモリガサ”の起動準備を終え、そう問い掛けたムスタファ。


そんな彼に対し、わずかながら恐縮した様な態度で――》


「ああ、とはえ“国王”に送って貰うのは流石に恐れ多いな……」


「ふっ……立場がどう変わろうとも君と私との間柄には何の変化も無いさ

っと……良し、起動準備は整った。


だが、その前に……皆から主人公に伝えたい事があるらしくてね」


《――護傘マモリガサる一行の帰還とその見送りの為

この場に集まって居たアラブリア王国の要人や

使用人達に視線を向けそう言ったムスタファ……この直後

彼らから主人公に伝えられたのは賛辞さんじと感謝の言葉だった。


だが、そんな彼らに対し深々と頭を下げた後――》


「その……正直

俺のやり方が“百正しい”とは思えなくて……


……その、色々と思う所もありますが

今は皆さんをまもれた事が何よりも幸運だと思っています。


ただ……こうしてお見送りまでして頂いているのに

笑顔の一つも上手うまく作れなくて……本当に申し訳ありません。


……もしまた、こうして遊びに来させて頂けたなら

その時は、皆さんの事まで笑顔に出来る位

明るく振る舞える様に頑張ります。


なので、その時まで……ん? 」


《――そう言い掛け何かに気付いた主人公は

違和感を感じた方向へけ――》


「はうッ?! ……痛てて……って。


……何するんですかカミーラさんッ!!! 」


《――突如としてカミーラに“体当たり”され

地面に叩きつけられた主人公は当然のごとくそう言った。


だが、そんな彼に対し――》


………


……



「……のぉ主人公。


御主は……鉄鋼金鉱(徹頭徹尾てっとうてつび)暗いんじゃぁぁぁぁっ!!

明るくせいとは言わんが、自分を追い詰めるのはもうやめいっ!

分かったならっ! ――


“また会える日を楽しみに待ってます、さようなら! ”


――って言えぇぇぇぃ!!


言わんかったらもう一発じゃぞっ!? 」


《――拳を振り回しながらそう言ったカミーラ。


だが、そんな“彼女なりの”気遣いに気付いた主人公かれは――》


「はい……俺、ムスタファやカミーラさんは勿論

ハイダルさんや、女中メイド隊の皆さん……だけじゃ無く。


この国の皆さん全員に会いに……必ず帰って来ます。


だから、その日を楽しみに

俺もムスタファを見習って政令国家で頑張ります。


本当に皆さん……有難う御座いましたっ! 」


《――そうこたえた主人公かれの様子に

カミーラは、彼の肩をポンポンと叩き――》


「うむ! ……良く出来たぞ! 」


《――と、満足気にそう言った。


そして――》


………


……



「さて、そろそろ護傘マモリガサが開く……主人公

ミリアさん、マリアさん、メルさん、マリーンさん、グランガルドさん。


……また会える日まで、どうか健康無事で。


それでは……また!


護傘マモリガサ起動ッ!! ――」


《――直後


ムスタファの別れの言葉を背に受けつつ

開かれた門へと吸い込まれる様に消えていった一行。


そして……一行が無事に到着した事を確認し

静かに護傘マモリガサを閉じたムスタファは――》


「主人公……どんな形でも良い。


君の心に救いが有る事を、私は心から願っている……」


《――そう

静かに言った――》


………


……



「ん~っ……おぉ!?

主人公さん! ……私達もう政令国家に着いてますよ?!

この装置、やばいですね?!

何がやばいって、もう……やばいって感じですね! 」


《――到着直後、目を丸くしてそう言ったマリア。


だが、そんな彼女に対し――》


「ああ本当にそうだね……さてと、ごめん。


俺は一度モナークに報告して来ないと駄目だから……皆、先に戻ってて良いから

ヴェルツでのんびりしててくれ。


じゃ、行ってくる――」


《――し目がちにそう言った直後

無詠唱で転移した主人公。


そんな彼の様子に――》


「主人公さん……」


《――マリアを含め、この場に場に居る者達が

たまれない心持ちに成っていたその一方で……


……彼女達を残し、一人何処どこかへと転移した主人公は

モナークの石像がまつられている“ほこら


では無く――》


………


……



「アイヴィーさん……只今ただいま戻りました」


「お帰りなさいませ……それで、皆様はどちらに? 」


「皆は……多分、ヴェルツ本店でのんびりしてると思います。


それでその……早速なのですが

カレーと福神漬ふくじんづけを二つずつお願いします……」


《――ヴェルツ二号店へと転移していた主人公。


その一方で……し目がちに覇気はきの無い声でそう注文をした彼の姿に

これまでの間、この件に関する一切の沈黙をつらぬいていたアイヴィーは

彼に怒るでも無く、注意するでも無く――》


「……かしこまりました。


ですが……今日は私も同行させて頂きます」


《――“確認”では無く

“強制的”な側面を持たせつつそう言った。


主人公も、これを拒絶せず――》


「分かりました……では、今日は三人分で。


いずれにせよ支払いは全部、いつも通り俺に……」


「いえ……今日の分は全て私の“おごり”で構いません。


……さて、準備も出来ました。


行きましょうか……」


《――直後

連れ立ちほこらへと向かった二人……そして


……石像と成ったモナークに対し

何時もの様にカレーと福神漬ふくじんづけそなえた主人公は

静かに――》


………


……



「モナーク……久し振りになってごめんな

お前は怒るかもだけど、数日間ムスタファの所にお邪魔してたんだ……


……そ、それでさ

今日はアイヴィーさんも来てくれたから……その、三人で食べような……」


《――そう言って手を合わせた後

アイヴィーと共にカレーを食べ始めた主人公……そして


半分程を食べ進めた頃――》


………


……



「……俺、今日アラブリアから帰って来たんだけど

何て言うかその、色々あって……ムスタファの弟を殺したんだ。


それで……王国の皆さんからは感謝されたけど

俺自身は“もっと方法があったんじゃ”とか……悩む所は多くてさ。


……けど。


本当は余りいたく無いんだけどさ……


俺、お前から貰った力のお陰で……


お前のお陰で……お前と同じ位大切な人達を……まもれ……たんだ……


……ッ!


ッ!! ……」


《――涙を流し


幾度いくどと無く


振り上げたこぶし大腿だいたいに叩きつけながら

“報告”を続けた主人公の姿に、えて何も語らず

声も掛けず……ただ静かにこの場に居続けたアイヴィー


だが、そんな彼女の気遣いとは裏腹に

主人公かれの悲しみは“激しさ”を増し――》


………


……



「……だけど。


だけどお前は……お前はッ!!!

何でお前は“お前の事を”まもらせてくれなかったんだよ?!!

何であんなに簡単に……命を投げ出したんだよッ?!!


何……で……ッッッ!!


何で……俺やアイヴィーさんに何の相談も無く

勝手に消え去る決断をしたんだよッ!!! ……」


《――これまでの間

ひたすらに沈黙をつらぬいていたアイヴィー


だが、彼女は突如として立ち上がり――》


………


……



「良い加減にッ!! ……しなさいッ!! 」


《――言うや否や


主人公かれほほを叩き――》


………


……



「……元を正せば敵対していた筈の我々が、政令国家と言うこの国で

共に手を取り合い暮らせている事は勿論。


親愛なるモナーク様の死を……我々以上に悲しみ、いた

毎日の様にこのほこらへと訪れて下さる事には確かに感謝しています。


ですが……誰よりも貴方が悲しみ続ける所為で

悲しみに暮れたくとも、暮れられぬ者が“此処ここに居る”事を……


……忘れたくとも忘れられず苦しんでいる者が“此処ここに居る”事をッ!!!


貴方は……何も分かって居ないのです……ッ!!


もう、二度と……モナーク様の事を――


“耐えられぬ心の支えするのは”


――お止め下さい。


そして、モナーク様の事を口に出す事も……金輪際こんりんざい、お止め下さい」


《――直後

流れ落ちる涙を隠す様に深々と頭を下げたアイヴィー


そんな彼女の求めに対し――》


………


……



「お、俺は別に……“心の支え”にしてた訳じゃ!!


……いや。


此奴こいつが死んだ事を信じたく無くて……受け入れたく無くて……


……ずっと我儘ワガママってただけかも知れない。


そう、ですよね……その……アイヴィーさん。


今日まで毎日の様に辛い思いをさせ続けてた事にすら全く気付かず

俺、ひどい事を……本当に……本当に、申し訳ありませんでした。


アイヴィーさんの希望通り……今日を最後にします。


だから……今日だけ。


……もう少しだけ、此奴こいつに話し掛けさせて下さい。


最後に――


――“最期の”お別れを……させて下さい」


《――そう告げ、力無く頭を下げた主人公。


暫しの沈黙が流れ……静かに彼の願いを受け入れたアイヴィー


そして……石像姿のモナークに向け


主人公かれが“最期の言葉”を掛けようとした


瞬間――》


………


……



「ま……待ってッ!!!


その人、死んでないから!!! ……」


《――突如として主人公にのみ聞こえた子供の声


当然この声に慌て、辺りを見回した主人公であったが……この直後


主人公かれは……この声に


確かな聞き覚えがあると


“気付いた”――》


………


……



「……ネ、ネイト君か?

いや、そもそも……どうう事だ?

もしタチの悪い冗談ってだけなら……頼む。


お願いだから……今直ぐに止めてくれ」


《――そう言った。


だが――》


「ちょっと!? ……僕の事、そんなひどい子だと思ってたの!?

そんなひどい冗談をわざわざ言いに来る訳無いでしょ!?


……断じて冗談じゃ無いし、その人の事は大嫌いだから

本当なら教えるつもりだって無かったのに……ひどいや! ひどいや! ひどいや!


って……こんなお話してる暇は無いんだった!


兎に角っ! ……“手続き”が終わって、真っ先にお兄ちゃんの所に来てみたら

お兄ちゃんもその人も“凄い事”に成ってたから、僕……」


《――なおも主人公にのみ語りかけ続けたネイト


だが、そんな彼に対し――》


………


……



「何だか分からないけど……分かったよ。


……頼む。


それがもし本当だと言うのなら……何だって叶えるって約束する。


だから、モナークの事を……どうか、助けてやってくれ」


《――そう告げ、深々と頭を下げた主人公


だが、そんな彼の横では

アイヴィーが怒りの表情を浮かべていて――》


===第百七八話・終===

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