表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
176/301

第百七六話「虚ろな戦は楽勝ですか? ……後編」

《――主人公らが去った後の王宮では

ムスタファの命令を受けた女中メイド隊にって

“最上級の警備体制”が敷かれていた。


……彼女達は、全ての窓と扉をすみやかに完全に“封印ふういん”し

警護対象者達を取り囲む様に等間隔とうかんかくに並ぶと……その直後

一行を包み、余りある程の“高密度こうみつど魔導障壁しょうへき”を展開し

“この国で最も安全な場所”を作り出した。


……そんな“最上級の警備体制に”一行がまもられて居た頃

王宮を出た主人公は……“魔導砲撃”の発生源とおぼしき方角に対し

その、うつろなまなこを向けていた――》


………


……



「成程……あれが“魔導砲撃”って奴か。


と言うか……あの威力、どう見てもこの“極厚ごくあつ魔導障壁しょうへき”が無かったら

“耐えても数発”ってレベルの攻撃だと思うんだけど……てか

やっぱりこの国の兵士の練度は良い意味で狂ってるよ。


けど……ムスタファのう通り

兵士達に明らかな疲れが感じられるのも事実だ。


俺はもうこれ以上……だれ一人として失わない。


その為には、何をしてでもこの状況を……」


《――なおも降り注ぐ魔導砲撃


凄まじい衝撃と轟音ごうおんの中

必死に防衛魔導の展開を続けていたアラブリア王国の魔導兵達。


……そんな彼らのひど疲弊ひへいした様子に心を痛め

思い詰めた様に“解決”を誓った主人公。


だが、そんな“親友”の姿を見過ごせなかったムスタファは――》


………


……



「……余り無理な行動は控えて欲しい。


そもそもを言えば、今此処ここであの砲撃を防ぐ為

防衛魔導を数分間だけ兵達かれらの代わりに受け持ってくれるだけでも

彼らの休息には成るんだ。


私はそれで構わないと思って居るし……」


「ムスタファ、心配してくれて有難う……けど安心してくれ

俺はまだ“狂気きょうきに飲まれて”は無いからさ……兎に角

今から、俺が思う方法でこの状況に“変化”を起こすから……


……だから、少しだけ下がっててくれ」


《――そう告げた後、魔導砲撃の発生源とおぼしき方角へ向け

ゆっくりと右のてのひらを構えた主人公。


そんな彼の事を、不安な表情を浮かべつつ見守っていたムスタファ……だが。


彼の妹であるカミーラだけは妙に“興奮”していて――》


………


……



「ほぉ~っ! ……ほぉほぉ~っ!!!

やっぱりじゃ! ……やっぱり其奴そやつは凄まじい化け物じゃ~っ!!


……おい主人公とやら! 早う打て! 早う打つのじゃ!!

あたしゃ~一刻も早くその技の威力が見たいんじゃぁ~!! 」


「カ、カミーラ一体何を……って。


……そう言えば最初からだが

何故主人公の事を“化け物”と呼ぶんだい?

確かに彼はそのレベルに見合わない程の力を有しているし

私達の想像が追いつかない程の発想を次々と出してはくれる……だが

仮にも私の親友であり、我が国に取って最大の友好国の一つ

政令国家からの国賓こくひんである彼の事を……」


《――妙に“興奮”し

みずからの親友の事を“化け物”呼ばわりしていたカミーラの“無礼さ”に

わずかながらの違和感を感じていたムスタファ

(たしなめる様にそう問うた……だが、そんな彼に対し

カミーラは驚いた様な表情を浮かべつつ――》


「あ、兄様? ……まさか、兄様は見てないのかっ!?

あの異様な能力値の高さを! あの化け物のごとき能力値の――


――“ぶっ飛びっぷり”をっ!! 」


「何だって? ……そんな筈は無いよカミーラ

主人公の能力値は前に確認したが、その時は……」


「……“前”って何時じゃ兄様? 一日か二日の事か? 」


「い、いや……少なくとも数ヶ月以上前では有るけど

そもそも、無闇矢鱈むやみやたらに他人の能力値を確認するのは失礼な行動だし

それが敵じゃ無い限り、頻繁ひんぱんに確認する事自体……」


「か~ッ!! ……馬鹿じゃ!

兄様は国政に関する事以外では相当な大馬鹿者じゃ!


兎に角っ!! 御託ごたくいから

“今の”能力値を一刻も早く見てみるのじゃ~っ!! 」


《――普段、ムスタファに対して口答えなど一切しないカミーラ。


だが、そんな彼女が断言を切る様に言い放ったこの状況に疑問を感じ

直ぐに能力値の確認を始めたムスタファ。


時を同じくして……主人公の右のてのひらたくわえられていた“たま”はその手を離れ

砲撃魔導の発生源とおぼしき方角へ向け……その“禍々しさ”と共に

周囲の空間を大きくゆがめつつ、ゆるやかなる速度で飛翔して行き――》


………


……



「そ、そんな馬鹿な……」


《――呆気あっけにとられ

主人公かれの後ろ姿をただ見つめる事しか出来ずに居たムスタファ。


一方、そんなムスタファに対し“ある事実”を伝えたハイダル――》


「ムスタファ様……たった今、主人公様がご使用に成られた技から

その……“魔族の物”とおぼしき力を感知致しました」


「ああ……それは私も感じたよ。


だが、それを差し引いたとしても

この能力値の“異様いようさ”には全くもって説明が……」


《――この時


敵国からの砲撃は完全に


“止まり”


カミーラの興奮も最高潮さいこうちょうに達していた。


そして……暫くの後

一切の疲労感無く、静かに右手を下げた主人公は――》


………


……



「良かった……どうやら当たったみたいだ。


なぁムスタファ……砲撃の発生源は完全に潰せたし

これで暫くは五月蝿うるさい砲撃も飛んでこない。


少なくとも“数分の肩代わり”よりは

兵士達が楽に過ごせる様には成ったと思う……ただ、その代償として

俺は今、ひどむごたらしい手段を選んだ。


見るにえないよな……本当にすまなかった」


《――そう告げ、力無く頭を下げた主人公かれに対し

ムスタファは、責めるでもなぐさめるでも無く――》


………


……



「主人公……何故、君の中に魔族の色が色濃く有るんだ?

そして何故、君の全ての能力値が……“上限を超えて”いるんだ? 」


《――恐れとも嫌悪とも違う感情のままそうたずねたムスタファ。


その問い掛けに対し、主人公かれはとても悲しげに答えた――》


「あの日……モナークは

何故か、俺に“全て”をたくして俺達の前から“去った”んだ。


アイヴィーさんや配下の魔族達は勿論の事

まるで、俺達全員を全部“投げ出した”みたいに……


……俺みたいな馬鹿の頭じゃ絶対に理解の出来ない形で。


ムスタファ……もし今、俺から“魔族の力”を感じたなら

それは間違い無く彼奴モナークの力だ。


無論、ムスタファやハイダルさんからすれば

嫌悪感を感じる力なのかも知れない……けど……だけどさ。


少なくとも……彼奴モナークのお陰で砲撃を止められたんだよ

だから、もし文句がいたいなら今だけはこらえてくれ。


そして……もし、少しでもお礼をってくれるつもりが有るのなら

それは俺じゃ無く……彼奴モナークってやって欲しい」


《――そう告げた後

力無く、項垂うなだれるかの様に頭を下げた主人公。


一方、そんな彼の様子に慌てたムスタファは――》


「ご……誤解だ主人公!

余りにも凄まじい力を目の当たりにした所為で冷静さを失って居ただけで

君や君の大切な友であるモナーク嫌悪けんおするなど断じて有りはしないよ!

……だが、誤解を招く様な態度を取ってしまったのも事実だ。


主人公……その、どうか私の事を許して欲しい」


《――謝意しゃいべ、深々と頭を下げた。


瞬間――》


………


……



「!! ……多重防衛マルチプルディフェンスッッ!!! 」


《――ひどく慌てた様子で防衛魔導を展開したハイダル。


直後……ハイダルの展開した物を除き

アラブリア王国全域を守護していた防衛魔導は

全て、完全に崩壊し――》


………


……



「……流石はハイダルだね。


いく兵士達ソイツらの魔導障壁が有ったとは言え、まさか防ぎ切られるとは

本当に流石だよ……ま、凄くムカつくけど。


あぁ……久しぶりムスタファ兄ぃ、カミーラ

それと、初めまして……僕の名前はアースィーだ。


……元アラブリア王国第四王子で

現在は“メッサーレル君主国”の君主をやってる。


それで……君は一体、何処どこだれ君かな? 」


《――何処どこからとも無く現れ

笑みを浮かべたまま主人公に対しそう問うた


“アースィー”


……一方、そんな彼に対し

軽い自己紹介を済ませた主人公かれは――》


………


……



「俺の要求は一つだけだ……今直ぐ完全に降伏こうふくしろ」


《――飾り気などまるで無く、淡々とそう告げた。


そんな彼の態度に――》


「アハハハハハッ!!! ……珍しい事も有るね?

この僕に! ……そんな無礼な口を聞く人間が居るとはっ!!!


……本当なら生かしては置かないんだよ?


でも……まぁ良いや。


見た所君はトライスターの様だけど……ってまぁ

正直、職業なんて何でも良いんだけどさ。


そもそも、僕が聞きたい事はそんな些末さまつな事じゃ無い。


まず一つ目……君、僕の砲撃隊を“全滅”させたよね?

しかも、あんなに“綺麗さっぱり”

まるで其処そこに何も居なかったみたいに――


消滅しょうめつ


――させてくれちゃったよね?


それから二つ目……あの程度の兵を失った


“程度で”


この僕が、降伏こうふくするって……本当に思ってるの? 」


「……俺が“どう思った、どう感じた”

お前がどんな疑問を“感じた”かはどうでも良い。


お前が……血の繋がった兄弟達を手に掛けてまで

その効果のほどさだかじゃ無い本一冊を手に入れようとした“お前”が

唯一ゆいいつ生き残れる方法が“降伏こうふく”以外に無いってだけの話だ。


降伏それ”を受け入れるなら俺は攻撃しないし

少なくとも……生きていれば

ムスタファとカミーラさんに許しをう事も出来るし

もし何らかの“責任を取れ”って言われたとしても

そう出来るだけの充分な時間だって得られる筈だ。


……俺は、お前の犯した罪を考えれば相当甘いこの判断を

今直ぐ受け入れた方がお前の為だとったに過ぎない。


それ以上でもそれ以下でも無いし、頼むから無駄な問答は無しにしてくれ」


《――眉一つ動かす事無く、毛程もへりくだる事さえせず

常日頃つねひごろの彼を知っている者であれば

その誰もが“異質”と感じるだろう態度で居続けた主人公。


そして……この、一切気遣いの無い主人公かれの一方的な物言いを

アースィーが素直に受け入れる事など――


“有り得ない”


――そう、この場に居る全員が考えて居た


その時――》


………


……



「成程……なら。


君の言う“降伏こうふく”を僕が受け入れた場合

君は僕を攻撃しないし、ムスタファ兄ぃもカミーラも……勿論。


ハイダルも……僕に何もせず、下手に動かず

大人しく、僕の“言い訳”を聞いてくれるって言うんだね? 」


「ああ……少なくとも、俺はそうするつもりだ」


《――主人公がそう答えた瞬間

わずかながら笑みを浮かべたアースィー


そして――》


………


……



「そっか……なら、交渉成立だ!

君の言う“降伏こうふく”を受け入れるよ!


ほら! ……装備も全部外すし、変に疑われるのも嫌だから

“お洒落”で付けてるだけで何の効果も無い

このアクセサリ達も全部外すから! ……」


《――言うや否や

次々と装備を外し、前言通り何の効力も持たないアクセサリにいたるまで

装備と言う装備を外し始めたアースィー……だが。


そんな彼の余りにも素直な様子に、ムスタファは勿論の事

カミーラやハイダル……周囲の兵達に至るまでが驚きを隠せず居た中……


……全ての装備とアクセサリを外し終えたアースィーは

改めて、主人公に対し――》


………


……



「ねぇ……念の為もう一回だけ聞かせて?

僕を攻撃しないって言う約束……守ってくれるんだよね? 」


《――そう問い掛け

その直後、それを静かに受け入れた主人公。


そして……この後もアースィーはまるで“念を押す”かの様に

ムスタファやカミーラ、ハイダルに対しても同様に――》


「僕に罰を与えたり、叱ったり……ともすれば手を出したりとか

その場から動かず、僕の話が終わるまで聞いててくれるんだよね? 」


《――そう問い掛けたアースィー


直後……全員がそれを受け入れた瞬間


アースィーは再び“笑みを浮かべ”――》


………


……



「なら……これで全てが解決だっ!!


固有魔導――“従順契約オビディエントコントラクト”――」


《――この場にいる誰一人として知り得ては居なかった

アースィーの持つ固有魔導の存在。


その効果は――


“術者の言葉を受け入れた者に対し、絶対的な契約を結ばせる事”


――すなわち、今この時をもっ

主人公はアースィーに対する一切の攻撃を行う事が出来ず

ムスタファ以下、アースィーが“念を押した”者達に至っては

アースィーの話を“全て”聞き終えぬ限り

身動きの一切が取れぬ様に封じられてしまったのだ――》


………


……



「これでよし……って、おっと。


よく考えたら兵達は動けちゃうよね? ……エイッ! 」


《――瞬間


契約の外にる兵達に向け

疲弊ひへいした彼らでは決して防ぐ事の出来ぬ速度で

物理攻撃を叩き込んだアースィー……直後

この場を守る兵達の生命を全て奪い去った彼は……ゆっくりと振り向き


再び“笑みを浮かべた”――》


………


……



「……いひひッ♪


さてと……兄ぃ、カミーラ。


僕にその欠片を……頂戴? 」


《――そう告げた後

ゆっくりとムスタファの元へと近づいたアースィーに対し

ただにらむ事しか出来ず居たムスタファ。


そんなムスタファの様子に――》


………


……



「ねぇねぇ! ……楽しい?!

僕はねぇ~ ……ひどく楽しいよっ!!! 」


《――のど鷲掴わしづかみ、強制的にムスタファを立たせると

文字通り、彼の事を“滅多めった打ち”にしたアースィー


……暫くの後、満足したのか

ムスタファの首から下げられていた“欠片”を奪い取ると

まるでボロ雑巾の様にムスタファを投げ捨てたアースィーは

その後、再び“笑みを浮かべ”――》


………


……



「はぁーっ……スッキリしたっ!!!


さて、と……カミーラ。


女らしさの“欠片も無い”お前には

そんな“欠片アクセサリ”は不釣ふつり合いだし……僕が貰ってあげるよ。


……あぁ、今見てて分かったと思うけど

僕の事をにらんだり、僕が少しでも不愉快になる様な態度を取ったら――


“あんな目に”


――っちゃうから注意した方が良いよ? 」


《――そう告げた後

再び笑みを浮かべたアースィー……だが。


それでも彼の事を“にらえた”カミーラの行動に

ほんの一瞬、ひどく顔をゆがめたアースィーは――》


………


……



「……昔からお前はそうだった。


兄ぃの言う事なら何でも聞く癖に、僕の言う事には何でも反抗してた。


知ってるかい? 僕、その度に何時もムカついてたんだよ?


“僕と兄ぃに何の差が有るのか” ……ってね。


けど、良いさ……お前がそのつもりなら

お前の大好きな兄ぃの眼の前で

お前の事、なぶごろしにしてやるからさぁッ!!! ――」


………


……



「ムスタファ……ごめん」


「……何っ!? 」


………


……



「何故……だ?

何……で……動け……る……っ!? ……」


《――アースィーの全身を雁字搦がんじがらめにするかの様に巻き付いた


“蜘蛛之糸”


……この凄まじい迄の締め付けに呼吸すら満足に出来ず居たアースィー


そんな彼の背後に立って居たのは……大粒の涙を流し

その場に立っている事すら難しい程の精神状態におちいって居た

“主人公”だった――》


………


……



「……俺はさ。


俺は……お前が大切な親友の兄弟だから

出来る限りならひどい事したく無くて……じっとしてたんだ。


けどアースィー……お前は……好き勝手に……俺の……


……俺の大切な人達を傷付けたッ!!


俺は……もう、俺は……これ以上ッ……


誰も何も……何一つとして……失いたく無い……


……失いたく……無いんだよッ!!!!!!


アースィー……だから俺は

れからお前にとてもひどい事をする。


本当に……本当にごめんなムスタファ。


本当にごめん――」


《――直後


暴れるアースィーからほんの少し離れた彼は……静かに


だが


“確実”に――》


………


……



「――捕縛の魔導


鋼鉄之処女アイアンメイデン”――」


《――そう


となえた――》


………


……



「や……止めろッ!!! ……分かったッ!!!

分かったから!!! 本当に抵抗しないからッ!!!


こ、この魔導を止め――


――や゛め゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ゛!!! 」


………


……



《――感情も慈悲じひも無く

アースィーの断末魔と共に、アースィーを閉じ込めた――


鋼鉄之処女アイアンメイデン


――その影で立ち尽くし、嗚咽おえつおさえきれず

感情のままに泣き崩れた主人公。


彼は――》


………


……



「ムスタファ、カミーラさん……ハイダルさん……


本当にごめん……本当に……ッ……」


《――幾度と無く謝罪を続けていた。


そして……力無く彼らの元へと歩み寄った後

彼らに治癒魔導を施し――》


………


……



「……俺の顔を見るだけでも

“思い出して”嫌な気分になるかも知れないから……だから。


俺、今直ぐに帰るからさ……皆の事


此処ここに……連れて来てくれないか……」


《――そう告げると、みずからの顔を見せない為か

彼らと距離を取り背を向けて立った主人公。


だが、その直後――》


………


……



「謝るべきは……


……謝るべきは私の方だ主人公ッ!! 」


《――主人公の元へと駆け寄るや否や

背後から彼の事を力強く抱き締めたムスタファ。


彼は――》


………


……



「後少しでも私が警戒をしていたならば、いや……


……後少しでも早く、私が

優しさと言う名の“現実逃避”を止めていたならば!!

私の大切な親友を、これ程までに追い込む事は無かったんだッ! 」


《――わずかでも主人公かれの心の負担を取り去りたい一心であったのか。


それとも……今にも消え去りそうな程に弱り切った主人公かれの事を

せめて、この場に引き止めておきたかったのだろうか。


いずれにせよ……そんな心情を思わせる表情のまま

主人公に対し静かに語り掛けたムスタファは――》


………


……



「主人公、不甲斐無い私の願いを聞き入れてはくれないだろうか……」


「ああ……俺で出来る事なら、どんな償いでもするさ」


「?! ……つ、償いなどっ!!


違うんだ主人公……先ずは私の話を聞いてくれ。


主人公……君が背負おうとするその重荷は

君が何を言おうとも、今何を感じていようとも

断じて、君が背負うべき物では無い。


それらは全て……この国の長である私こそが背負うべき重荷であり

はからずも完成してしまったその“水晶玉”と――


――そして、私が逃げ続けていた

“国王”と言う名と共に……私こそが受け継ぐべき物だ。


主人公……我がアラブリア王国と

我が国最大の憂慮ゆうりょを消し去ってくれた君に

私達から責め立てるべき事柄など一つとして有りはしない。


もしも今、私やカミーラが君に心の底から願う事が有るのならば

君には“心穏やかにって欲しい”と言う事以外に有りはしないッ! 」


《――そう告げた直後


……不安定なみずからをおさえきれずその筆舌にくしがたい苦しみに

ひどく身体を震わせて居た主人公の事を、再び力強く抱き締めたムスタファ。


だが……この瞬間


謎の“地響き”が一行を襲った――》


===第百七六話・終===

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ