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第百七四話「何一つ、楽しい訳も無くて……」

<――おぞましい程の殺気と“決意”


そんな彼女アイヴィーの眼前では……


……総大将ガルベームを失い、統率力を失い

その上、おぞましい程にあふれ出る殺気に当てられ

抵抗する気力を完全に失った反対派魔族の姿があった。


だが……正直、反対派魔族の事などどうでも良いし

滅殺そう”されてしかるべきだけの行いをしたのだ。


むしろ、俺が此奴こいつらの事をそうしても良いと思える位

彼女の行動に反対する余地など無かった。


だが……そんな些末さまつな奴らの事などよりも

俺には我慢の出来ない事があった――>


………


……



「……何故です。


主人公様……何故、私の眼前に立ちはだかって居るのです? 」


<――血の涙を流し、見るにえない悲しみを浮かべ

突けば折れそうな不安定さを押し殺した様な彼女の姿。


……いつの間にか、自然と体が動いて居た俺に対し

静かな怒りをあらわにした彼女は、続けて――>


「……何故邪魔をするのかと聞いているッッ!

いくらモナーク様に力をたくされた者とは言え

なおも我が仇討あだうちの邪魔をすると言うのならばッ!!! ……」


<――そう言って俺に向けて拳を振り上げたアイヴィーさん。


だが……この時の俺は、不思議な程

彼女からあふれ出る殺気が恐ろしく無かった。


それどころか……俺は、今にも折れてしまいそうな彼女の事を

まもりたい”とすら思っていた。


……その気持ちがおさえられなかった結果

有ろう事か、彼女の事を“抱き締めて”しまった位には――>


………


……



「何をするッ!! ……離せッ! れ者がッ!!! 」


<――うや否や彼女は俺のほほを叩いた。


だが、それでも俺は――>


「ああ、確かに……何もわずに抱き締めたら確かに嫌だろうし

実際問題、これは完璧に“セクハラ”だよな。


けど……聞いてくれ。


彼奴あいつらを殺すのは好きにすれば良いし

俺だって彼奴あいつらの事を大切には思って無い。


大体、元を正せばモナークが“こう”成ったのも

彼奴あいつらの所為みたいな物だし、正直に言えば恨んですら居る。


……けど。


それでも……“彼奴あいつらを殺す”その前に

二つ程、聞いて欲しい事があるんだ……頼むよ」


「何だ? ……何時もの様な“戯言ざれごと”をかした瞬間

奴らごと消し去ってくれるッ!! ……」


「ああ……それで構わないよ」


<――この後

不満げに発言への許可を出してくれたアイヴィーさん。


そんな彼女に対し、俺は――>


………


……



「……アイヴィーさん。


彼奴モナークは……“望んだ”か?

彼奴モナークがあの時選んだ選択は“反対派魔族を滅する事”だったか?

それともう一つ……彼奴モナークは“望んだ”と思うか?


アンタがそんな“悲しい顔”で居る事を。


……答えてくれ、アイヴィーさん」


「!? ……貴様ッ!!!

モナーク様の名前を出せば私の怒りが収まるとでも思っているのかッ?!

一体何故、反対派魔族を救おうとするッ!? 」


「救おうとなんかして無い……それよりも、質問に答えてくれ。


アイヴィーさん……恐らくだけど

アンタが自分の命より大切に想ってたモナークが……俺が

魔族の中なら“最も信頼に値する男”だと思っていた彼奴モナークが――


元を正せば我が道を(たが)えたと()うだけの話。


“魔族種に()ける真の繁栄(はんえい)


()れを考えれば、到底看過(かんか)出来ぬ判断を下した我は

魔王としても魔族としても、()わば……


……“失敗作”であったと()えよう”


――そう、みずからを卑下ひげしてまで

何故か執拗しつようまもろうとした反対派魔族ソイツらの事を

彼奴モナークのその気持ちを完全に無視して殺したとして……


……それで本当に、彼奴アイツが喜ぶと思ってるのか?


別に俺の事なんて殴りたきゃいくらでも殴れば良いし

殺したきゃ殺してくれても良い。


けど……その前に先ず。


彼奴モナークが本当に“反対派魔族殲滅それ”と

アンタの“折れそうな悲しみ”を願ってると思ってるのか

アンタの心を……しっかりと答えてからにしてくれ」


<――何故


俺は……こんな“ぐちゃぐちゃ”の状況下で

百人居たら、百人が肯定こうていしそうな彼女の“仇討あだうち”を全力で止めて居るのか。


……正直、現在進行系でそうし続けている俺自身も謎だった。


だが……少なくとも、風呂で彼奴モナークと交わした会話の中で

無責任極まりない“言霊ことだま”を発した事に対する責任だけは

漠然ばくぜんと感じていた――


“モナークの元を離れた魔族達が

再びモナークの配下に戻って、この国で平和に暮らす様に成るッ! ”


“魔王の力を受け継がなくても、何らかの理由で強い魔王が選出されるッ! ”


――今、改めて考えてみれば

“二つ目”が曲解されて実現してしまったかの様な状況に……あの時

彼奴モナークの言った、俺の願いに

“物事を動かす力がある”とう“説”と

その言葉の重みを改めて感じていたのだ。


あの時に戻れるならば……きっとこんな軽口は叩かなかっただろう。


だが、たとえあの日に戻れたとしても

果たして、彼奴モナークはこんな最期を迎えず済んだだろうか?


……俺の所為でモナークはこんな選択をしたのだろうか?


俺の選んだ全てが……全てひとしく間違っている様に思えて仕方が無い。


彼女の心に傷が残って欲しく無いと思い動いたこの行動も

間違っているのだろうか――>


………


……



「モナーク様ならば……


……今、私の中に宿っている

“受け継がれし力”以外の、全ての力を貴方にたく

私は勿論、貴方にも理解の出来ない……いいえ。


恐らくは誰にも理解する事の出来ない

“死出の旅”をお選びに成ったモナーク様ならば。


ましてや、右腕である筈の私に

何の相談も……別れの言葉すら与えては下さらなかったモナーク様ならばッ!!


きっと……彼奴きゃつらを焼き払う事など無いのでしょう。


ですが、この者達は……いずれまた力をたくわ

再びこの場所へと訪れ……そして、再び同じ行動を取る筈。


モナーク様、貴方は……それでも良いとおっしゃるのですか?


主人公様、貴方は……唯一ゆいいつ最期の別れを直接告げられた貴方はッッ!


それでも良いと、おっしゃる御積りなのですか……っ……」


<――大粒の涙を流し

なかば“俺のエゴ”としか呼べないこの制止に最大限のを唱えた彼女。


……もうこれ以上、彼女の苦しみをえぐる様な事はしたく無い。


直視する事すら難しい程の深い悲しみをあらわにした彼女に対し

この時の俺が“返せた言葉”は、とても不甲斐無い物だった――>


………


……



「……良くは……無いよ。


でも……モナークが嫌がる気がしたんだ。


けど、この言葉自体が卑怯ひきょうな論だって分かってる。


……本当にごめん、俺はきっと全部を間違えてるんだ。


もう二度と……止めたりはしない。


本当に……ごめん」


<――そう伝え

頭を下げた俺に対し――>


………


……



「……いくらモナーク様の名前をお出しに成られた所で

私の怒りと苦しみは取り去られることはありません。


主人公様……この後の事は

“暫定的魔王”である私に全て私に御任せ下さい。


そして主人公様、この後は……みずからがおっしゃった事をお守り下さい」


「ああ、分かった……全て、任せるよ」


<――そう伝えた直後


彼女は俺の眼前から“消え”――>


………


……



「純血種共よ……モナーク様との誓いを反故ほごにし

この場に現れた貴様らの大罪……それは、決してゆるされる行いでは無い。


“本来ならば”


……だが私は。


私は……モナーク様の願いをにじる事だけは

……たとえ、れが私にれ程の苦しみを与えたとしても

出来はしないのだ。


ゆえに、お前達に問う――


――“暫定的魔王”たる私、アイヴィーの配下と成り

如何いかなる謀反むほんも二度と起こさぬ様

暫定的魔王である私の“完全支配”を受け入れると言うのならば、

この度の事は不問としよう。


だが、それすらも受け入れぬと言うのならば――


――苦痛などと言う生温なまぬるい言葉では足りぬ程の苦しみを与え

くびり殺してやる事を……石像と成りしモナーク様に誓おう」


<――“精一杯”


この言葉よりも適切な言葉が見当たらない程

反対派魔族達に対し最大限の譲歩じょうほをした彼女。


……そんな彼女の最大限の譲歩じょうほに対し、つい先程まで

敵対の構えを見せていた筈の反対派魔族達は――>


………


……



「新たなる魔王様……い、いえッ!

“暫定的魔王”であるアイヴィー様に……我ら絶対の忠誠をッ!!! 」


<――“死への恐怖”からか


それとも……純血種つ、凄まじい力を持つアイヴィーさんならば

新たな長として受け入れられると考えただけに過ぎないのか。


この時……反対派魔族コイツらがした決断の理由がどうであれ

いずれにせよ、アイヴィーさんはその真意を一切探る事無く

“暫定的魔王”としての初仕事と成る“完全支配”を発動させた。


そして……忠誠心を確かめる必要すら無い程

“字面通りの”力なのだろう事も

この後の“状況”でハッキリと理解出来た――>


………


……



「お前達に命じる――


――直ちに“血液混成法”を受け入れよ。


その上で……政令国家、並びに

全ての友好国に生きる者をがいする如何いかなる行動も

“絶対的禁忌きんき”で有る事をみずからの生命に誓うのだ。


万が一にも破ろう物ならば、その体は無論

魂すらも塵芥ちりあくたと成り果てる事を決して忘れるで無い。


……良いな? 」


<――この後


わずか数日の内に“元反対派魔族”達に対する

“血液混成法”の施術が執り行われる事となった政令国家。


だが、その反面で

“モナークの喪失そうしつ”と言う凄まじい出来事を忘れ

まるで彼奴モナークが初めから居なかったかの様に振る舞えてしまう人々に

俺は、如何いかんともしがたい気持ち悪さを感じていた。


……彼奴モナークは、言葉遣いこそ粗暴そぼう

見た目も怖くて、近寄り難い雰囲気をかもし出して居た。


だが、少なくとも……俺が感じる彼奴モナークう存在は

“王の器”をしっかりと持っている奴だった。


俺が無責任な願いを口にしなければ

彼奴アイツ程の男が犠牲に成る事は無かっただろう――>


………


……



「……何で、誰一人として彼奴モナークの事口にすらしないんだよ。


彼奴アイツの存在は、たった一週間程度で消え去る程

そんなに、軽いモンだったのかよ……」


<――彼奴モナークが石像と成って一週間程経ったある日の頃


俺は、如何いかんともしがた苛立いらだちを吐き出す為……そして

石像と成った彼奴モナークに会って、俺の持つ力である

“霊との会話術”が発動してくれたら……と考え

彼奴モナークまつる為、第二城地域の魔族居住区へと建てられたほこら

彼奴モナークの好きだった“物”を手土産に向かった――>


………


……



「……モナーク、久しぶりだな。


これ、お前の好きだった……って、違うな。


“好きな”……カレーだ。


そ、それと……喜べ! 福神漬ふくじんづけも持って来たからなっ! 」


<――モナークにそう伝え

目の前にカレーと福神漬ふくじんづけの入った皿とスプーンを置いた後――>


「そ、その何だ……ほら、一人で食べるのも寂しいかと思って

俺の分も用意して来たからさ……一緒に食べようぜ! 」


<――まだ一言も返事は無かったが、それでも

この時の俺は“モナークと一緒に食事をしている”様に感じていた。


とは言え、今の俺をモナークが見ていたなら

きっと――


“フッ……軟弱な男よ”


――とでも俺の事を嘲笑わらうだろう。


俺は……涙を拭い、鼻をすすりながら

一言も発してはくれなかったモナークの前で

ただひたすらにカレーをき込み続けた――>


………


……



「じゃあ……取り敢えず、今日の所は帰るけど

また明日、同じ位の時間に此処ここに来るよ。


その時は……オセロでもやろうな。


だから、その……また……な」


《――連日連夜

モナークのまつられしほこらへと足繁あししげかよった主人公。


“その者が再び息を吹き返す事は無い”


……そう告げられた記憶を思い出しては

幾度いくどと無くみずからの太腿だいたいを拳で殴り……大粒の涙を流し

その涙をぬぐっては、幾度いくどと無く――


“ごめんな……ごめんな……”


――そう、石像と成ったモナークに対し謝罪し続けていた彼。


この後も、みずからに課された大臣としての仕事をこなしつつ

ほこらへと通い続けた彼の想いの強さは……やがて


魔族種だけで無く……彼を信頼し、その身を案じて居た者達の間で

“解決すべき最大の問題”として語られ始める事となる――》


………


……



「……主人公は毎夜、寝る間も惜しんで例の場所へと通い続けて居る。


それがただの“如何いかがわしい店”で有ったならば

ほど“健全”かと喜びもする程にな。


……マリア、メル、マリーン、ガルドよ。


主人公にちかしいお前達ならば

この所、主人公の発した言葉や願い……いや、この際何でも構わない。


何か……主人公を救う為の手がかりを持っては居ないだろうか? 」


《――大統領執務室にて四人に対しそう問うたオルガ。


……そんな彼に対し、静かに首を横に振った四人。


だがそんな四人の中で、唯一ゆいいつ声を上げた者が居た――》


………


……



「えっと、その……オルガさんも皆さんも知っての通り

主人公さんは……モナークさんの死に苦しんでいます。


それで……その“現実逃避”みたいな状態におちいってるんだと思うんです。


それで私……数日前に主人公さんの事を

だっ、抱き締めたり……大切です……って伝えてみたりもしたんです。


でも――


“ああ、俺もメルの事が大切だよ……メルは長生きしてね”


――としか答えて頂けなくて、目には生気しょうきも無くて

主人公さんは……きっとこの状況をまだ、受け入れられて無いんです。


その事は……ほこらの近い二号店で

毎日“二人前のカレー”の注文を受けて居るアイヴィーさんも知ってる筈です。


勿論、彼女も主人公さんに何度も声は掛けたそうですけど

その時だって――


彼奴モナークはカレーが大好物だから

どうしても一緒に食べたくて……何時もすみません”


――って毎回同じ言葉しか帰って来ず、取り付く島も無い程に

それで、もし引き止めて無理やり何かを言えば

より一層深く傷つけてしまうだろう事が明白めいはくな程に

うつろな目をしていた”……と、私に教えてくれました。


そもそも……アイヴィーさんは毎回

主人公さんに内緒でほこらにお皿を回収しに行ってるんです。


本当ならアイヴィーさんだって辛い筈なのに……でも

モナークさんの代わりをつとめなきゃ駄目だから

悲しみに暮れる余裕すら与えられていない事も。


今……この場ですら“名前を挙げて貰えなかった”彼女の辛さ。


そして……毎夜、うなされている主人公さんの悲痛な声。


私は……主人公さんの事も、アイヴィーさんの事だって

助けられるのなら直ぐにでも助けたいですし

変われるのなら直ぐにでも身代わりに成りたいと思っています。


でも……不甲斐無いですけど、元の日常に戻る為には

私達が何をしても無駄でしか無いんです。


今、こんな事を言えば

全てを投げ捨てた様に思われるかも知れませんけど

解決は、きっと“時間”しか無いと思います……」


《――悲しみに包まれた執務室


彼を信頼し、彼の身を案じる者達に取って

耐えがたい姿である、彼の“崩壊した姿”


……だが、そんな彼の身を案じて居たのは

政令国家に属する者達だけでは無かった。


この日から更に数日後の事――》


………


……



「……聞いたよ。


私達が帰った直後に……“それ”は起きてしまったと。


後少し……いや、後一日でも私達がこの国に居たならば

あるいは……違った結果に成っていたのかも知れない。


とても不甲斐無く感じるよ……本当に申し訳無い」


《――そう言って深々と頭を下げたのは

アラブリア王国の長、ムスタファであった。


……この日、主人公の“異常”を聞きつけ

わずかでも主人公の助けに成れる何かをもたらす為

政令国家へと訪れて居たムスタファ。


一方、そんな彼の気遣いに謝意しゃいを伝えたラウド大統領は

何かを思い付き、ムスタファに対し耳打ちをした――》


………


……



「……と、言うのはどうじゃろうか?

勿論、アラブリア王国の迷惑に成らん事が前提じゃが……」


「何を馬鹿な! 彼の為なら如何いかなる事も迷惑だとは! ……


……いえ、失礼致しました。


私の大切な親友を少しでも癒やす為です

勿論、その提案を受け入れましょう!


さて、そうと決まれば早速予定を立てなければ! ……」


《――この後、妙に上機嫌と成ったムスタファは

ラウド大統領と共に、ヴェルツ本店へと向かい――》


………


……



「……と言う訳なんです!


ですから、是非皆様にも“国賓こくひん”として我がアラブリア王国へ

その、どちらかと言えば“主人公の為”ではあるのですが……


……お越しに成っては下さいませんでしょうか? 」


《――マリア・メル・マリーン・グランガルド

そして、ヴェルツ本店の女将であるミリアをも

国賓待遇こくひんたいぐうで受け入れたい”と願い出たムスタファ。


……無論この場に居ない主人公の精神が、この“旅行”にって

“完全に回復する”とは誰一人として考えては居なかっただろう。


……だが。


何もしないよりは“遥かにマシ”だとは考えて居た様で――》


………


……



「……と、言う訳だから……その、主人公。


い、忙しい所悪いが……私の母国であるアラブリア王国へ

是非とも、その……来て貰いたいのだが……どう、だろうか? 」


《――更に数日後の事


国賓待遇こくひんたいぐう”を受け入れたマリアらと共に主人公の元をたずねていたムスタファは

細心さいしんの注意を払いつつ、そうたずねた。


そして……そんな彼の誘いを“援護えんご”するかの様に

メルやマリーン、グランガルドやミリアまでもが――》


「こ、国賓待遇こくひんたいぐう……う、受けてみたいです~っ! 」


「……そ、そうね! 私もメルちゃんと同意見よ!

ね、ねぇ! ……ガルドもそう思うでしょ?! 」


「う……うむ! マリーンの言う通りである!

そ、その何だ! ……主人公、御主が首を縦に振らぬと

吾輩達の国賓待遇こくひんたいぐうはたち消えてしまうのだぞ?


……な、なぁミリア殿! 」


「そ、そうさね! あたしもたまには……」


《――皆が気をつか

少しでも彼の苦しみをやわらげる為に尽力じんりょくしていたその時


それまで無言を貫いていた主人公かれは静かに口を開いた――》


………


……



「そう言えば……少し前、ミリアさんの事

国賓待遇こくひんたいぐうむかえたい”って言ってたもんな。


けど……どうしても俺が行かないと駄目なのか? 」


《――ムスタファに対しうつろな眼差しでそう問うた主人公。


そんな彼に対し、ほんの一瞬狼狽うろたえたムスタファであったが――》


「う、うむ!! ……ど、どうしてもだ!!

親友である主人公が居ないと、その……気持ち的にまとまりが取れない! 」


《――なかば言い訳の様な理論を立て

なおしぶる主人公の心を動かそうとしたムスタファ。


……暫くの後


彼の狙いはどうにか“こうそうし”――》


………


……



「……分かった。


じゃあ、取り敢えず先にモナークの所に行ってくるから……」


《――そう言って立ち上がるや否や

無詠唱転移でほこらへと向かった主人公。


そんな彼の異質さに――》


「あ、ああ……待っているよ」


《――彼の去った方角を見つめ

切なげな表情のまま静かにそう発したムスタファ。


……暫くの後、主人公かれを連れ

ムスタファの転移魔導にり、アラブリア王国へと転移した一行は――》


………


……



「良し! ……無事に到着したけど

護傘マモリガサ”が使えないのは少々手間だったぞ? 主人公! 」


《――そう言うと

普段よりもいささか“過剰に”れしく

主人公の横へと近づくや否や、そのままひじ

主人公かれ突付つついたムスタファ。


そんな彼に対し――》


「あ、ああ……何故かラウドさんに“止められた”んだ。


でも……何でだろうな……ハハ」


《――誰の目にも明らかな作り笑いをした主人公。


その目はやはり、何処どこうつろで――》


「い、いやその……き、きっと調整が必要だったのだろう!

兎に角……やっと約束を果たせたよ!


その何だ……主人公、私の頼みを聞き入れてくれて有難う

今日は、我が国が出来る精一杯のおもてなしさせて貰いたい。


その……楽しんで貰えると嬉しい」


「ああ、既に楽しんでるさ……有難うな」


「あ、ああ……と、此処ここで話し込んでいても仕方無い!

我が国が誇る宮殿にご案内しよう! ……」


《――正気の感じられない主人公の受け答え


その度に困惑しつつも……彼の苦しみをやわらげる為

必死に平静をよそおい、明るく振る舞い続けたムスタファ。


……この後、ムスタファの案内にって

一行はアラブリア王国の誇る巨大な宮殿へと招かれ

ぜいの限りを尽くした内外装に興奮し

それぞれが国賓待遇こくひんたいぐうもてなしに笑顔を浮かべ始めていた頃――》


………


……



「ん? ……何の音だ? 」


《――突如として宮殿の外より聞こえた轟音ごうおんに反応した主人公。


直後、慌ただしく動き始めた衛兵達……だが

その一方で、ムスタファは軽い溜息ためいきをつき――》


「……安心してくれ、何時いつもの事なんだ。


何と言うか、長らく続く――


“兄弟喧嘩”


――程度に思ってくれて構わない。


さぁ、気にせず引き続き食事を楽しんでくれ……」


《――そう言って笑顔を浮かべたムスタファ。


だが、そんな彼の発言後

ゆらりと立ち上がった主人公は――》


………


……



「なぁ……ムスタファ。


……少し前、俺とモナークがまだ敵対関係だった時

お前が彼奴モナークに対して――


“戦いに明け暮れた結果、育ってしまったに過ぎない”


――そうった事、俺は覚えてる。


あの時は何も聞けなかったし、そもそも

聞くべき話じゃ無い様に思えたからえて何も聞かなかった。


けど……俺に対しても、誰に対しても優しいムスタファの事を

私利私欲で戦う人間にはどうしても思えないんだよ。


一体……何がって“育った”んだ?

どんな嫌な事がったら

あの時見せた様な“悲しい表情”を浮かべる羽目に成るんだ?


もしかして、長らく続く“兄弟喧嘩”って奴の所為なのか? 」


《――うつろな眼差しのままそう問うた主人公。


そんな彼の質問に対し、口ごもってしまったムスタファ。


一方、この状況を見かねたハイダルは――》


………


……



「ムスタファ様……代わりに私めがお話させて頂きます」


《――静かにそう言うと


主人公の目を見据みすえ――》


「主人公様……ムスタファ様が口をお閉ざしに成られた理由

それは、ご想像の通り……現在も続く“兄弟喧嘩”がゆえで御座います。


ですが……これが長らく続く“家族の問題”である以前に

この件に関し、半端な御覚悟で踏み入られる事は勿論の事

常日頃、ムスタファ様が目標とすらお話に成られる

“普段の貴方様”では決して無い“現状の貴方様”が下した決断には

ムスタファ様では無く……ムスタファ様の“爺や”である

私めが許せぬと言っているのです。


……無礼な物言いである事は百も承知で御座います。


ですが……どうかこのまま引き続き“国賓待遇こくひんたいぐう”をお楽しみに成り

羽を御休めに成られる事だけに集中して頂ければと

私めは、切に願っております……」


《――“釘を刺す”かの様にそう告げると

主人公に対し深々と頭を下げたハイダル。


一方、そんな彼に対し――》


………


……



「……分かりました。


なら……力一杯……“全力で”首を突っ込みます。


……命懸いのちがけでも構わない。


俺の大切な存在を、これ以上“奪われる”位なら

この世の全てをめっしてでも……例え

貴方やムスタファに嫌われてしまったとしても、俺は――


――大切な存在を傷つける全てを消し去るつもりです」


《――この場にいる誰一人として

彼の“暴走”を止められはしないだろう。


殺気さっき闘気とうき怨念おんねん……そのいずれにも当てはまらない

冷たく、息苦しさを感じさせる様な雰囲気。


そんな彼の様子に……ハイダルは勿論

この場に居るほとんどの者が諦めとも似た様な表情を浮かべていた。


だが……そんな中、彼の肩を二度程叩き

破綻はたんした言葉遣いで”主人公かれを褒め称えた者が居た。


その者とは――》


………


……



「ほぉ~~っ! ……じじぃ! ばばぁ! 兄様っ!

コイツ、凄まじい化け物だぞ?!

もしかしたら、余裕で解決するかも知れないぞ?!

コレは……“添加ビフテキ”(天下無敵)の男かも知れないぞ!?


ってぇ事で! ……お前のチカラ

“アースィーの国を潰す為に”貸してくれるのだっ!! 」


《――“暴走状態”にった主人公。


だが……この場にいる者達のほとんどが彼の折れそうな精神状況に気を配り

まるで“れ物を触るかの様に”扱っていた中で

この少女だけが、彼の事を褒め称えた。


彼女の名は“カミーラ”

アラブリア王国に属する数多くのトライスター達の中に在り――


“規格外な天才の一人”


――そうしょうされ、その圧倒的な能力の高さに

他のトライスターから憧れすらいだかれている彼女は

この場にいる者達の中で唯一ゆいいつ


彼の“現在の”能力値に注目していた――》


===第百七四話・終===

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