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第百七三話「恨むのは……楽しいですか? 」

<――血相を変え、現れるや否や急報を告げた兵士。


彼は“魔族軍の大量襲来”と言う……俺は勿論

この場に居る誰もが首をかしげる報告を口にした――>


………


……



「……兎に角、一旦落ち着いて下さい! 一体何がったんです?

そもそも、魔族達は既に仲間として暮らしている筈で……」


<――この時

俺は急報を告げた兵士に対し間違った質問をした。


だが、この“間違い”は直ぐに訂正された――>


「そうではありませんッ! ……過去、モナーク様が

みずからに反対する配下の約半分を“解放”し、彼らに

魔王城をお与えに成られた事は覚えていらっしゃるでしょう?! 」


「え、ええ……あの時は

彼奴アイツの優しさ”みたいな事だろうと思ってましたけど……って。


……まさか?! 」


「ええ……その“まさか”で御座いますッ!

兎に角、事態は急を要するのですッ! どうか一刻も早く対応をッ! 」


「は、はい!! ……」


<――直後、慌ただしくなった中庭から

大臣達と共に第二城地域へと転移した俺は――>


………


……



「な……何だよ、この状況……」


<――おぞましいまでに勢揃いした

“敵対勢力”を目の当たりにする事と成った。


俺達の眼前に居た“敵対勢力”は……あの日

俺達と暮らす事を拒絶きょぜつし“反対派魔族”と成る道を選び――


“軽々しく我の前へと現れる事など無き様、きもめいじよ”


――と言う、モナークが下した最後の命令を受け入れた筈の彼らだった。


だが、何故今に成って彼らは“一触即発”と言うべき状況を作り出したのか

其処そこにどんな考えがあったのか

一体何故、この様な状況が出来上がってしまったのか

正直、詳しい理由など俺には分からない。


だが、少なくともモナーク率いる魔族達を始めとする

政令国家の魔導大隊を含めた主要な防衛戦力に対し一切怯む事無く

この場に在り続ける事を選んだ彼ら反対派魔族達に

引く気が微塵みじんも無い事だけはハッキリと分かった。


……この場を包む重苦しい静寂せいじゃくと一触即発の空気

だが、そんな中

耐えがたいこの空気を切り裂く様に――>


………


……



「フッ……よもや、我が命令を此程これほど早く反故ほごにしようとはな。


ガルベームよ……貴様に問う

“受け継がれし力”を持たぬ貴様が我に挑むは愚の骨頂であろう。


にも関わらず、何故なにゆえ貴様は斯様かような道を突き進んだのか……


……我が問いに答えるが良い」


<――息の詰まる様な殺気を放ちながら

そうただしたモナーク。


……暫しの静寂の後

モナークが“ガルベーム”と呼んだ魔族は静かに口を開き――>


………


……



「無論……けがらわしき生まれの貴様が現在いまも有し続けている

“歴代魔王の力”に対し、我程度の力でかなうなどとは微塵みじんも考えて居らん。


……だがな。


所詮しょせんは“魔族の成り損ない”でしか無い貴様が

下等な人間族などに影響を受け、我ら“上位種”である魔族の体へ

下等な“血を混ぜる”等と言う愚を受け入れてまで

恥ずかしげも無く生きる事を選び……その所為で

一度は“落とす”と決めたこの国を“守護する”などと言う

“愚かしい決断”に付きしたがわされた者共は

貴様の交わした愚かな契約にって、人間族などと言う下等種の為

高潔こうけつなるその生命を

食料としての価値しか無い者共のまうこの地を

“守る”などと言う愚劣な道を歩み続ける事と成ったのだ。


れを愚劣ぐれつと呼ばず何と呼ぶつもりだ?


……考えてみるが良い。


モナークよ……貴様は勿論の事

貴様の配下で在り続ける事を選んだ愚か者共が

貴様の“愚かな選択”を支えるが為、ほど

其奴そやつら下等種共を守り通す腹積もりで在ろうとも

魔族種われらを原因とした戦がただの一度でも発生し

もしも其奴そやつらに被害など出よう物なら

遅かれ早かれ、必ず――


“魔族が此処ここに居るが故にみずからの生活が脅かされた”


――そう考え、貴様らを追放せんと動くだろう。


そう成った時……過去、貴様モナークがまだ“我らの王”でった時

我が弟達へと命じた“オーク追放のめい”に

奴等オークが受ける事と成った物と何ら変わらぬ

“受け入れがたき扱い”を……皮肉にも受ける事と成るのだ。


モナークよ、再び問おう――


――“れを愚劣ぐれつと呼ばず何と呼ぶのか”を」


「……不愉快な、だがようやく理解した

貴様が斯様かような愚を犯して迄、我に挑もうとするその理由と意味を。


良かろう……だが、我が身に脈々と受け継がれし魔王の力。


甘くは無いぞ――」


<――瞬間

二人は俺達の前から消え――>


………


……



「フッ……やはり“時期尚早じきしょうそう”とうべき力の差であろう。


……大人しく退くが良い、ガルベームよ」


「グッ!! ……舐めるなッ! 魔族の出来損ない風情がッ!!! 」


<――圧倒的な力の差。


モナークは……みずからに対し“軽口を叩いた”ガルベームに対し

その圧倒的な力を見せつけた。


天地がひっくり返っても埋め様の無い明らかな力の差

“勝負”と呼ぶ事すら馬鹿らしい程の一方的な状況……何よりも

モナークの右腕であるアイヴィーさんの落ち着きっぷりは

俺の心に“絶対的な安心感”をもたらし――


“直ぐに決着が付くだろう”


――そう思わせた。


だが――>


………


……



「ぐッッ!! ……配下の者共よッ!!!

我に力を寄越よこすのだッ……この“出来損ない”から

高潔こうけつなる“受け継がれし力”を取り返す為ッ!!


その生命の全てをし、真の魔族復興の為――


――我が身の“かて”と成るのだッッ!! 」


<――余りにも一方的な戦いの最中

みずからに付き従う者達に対しそう命じたガルベーム。


直後――>


………


……



「ガルベーム様の為にッ!!! ……真の魔族復興の為にッ!!! 」


<――そう叫び、謎の呪具をかかげた反対派魔族達


直後――>


………


……



「我らの生命よ……魔族復興の“かて”と成れッ!!! 」


<――そう唱えた瞬間

呪具を囲む様に立っていた数十体の魔族達は呪具へと吸い込まれ――


――直後、それまで一切届く事の無かったガルベームの攻撃は

モナークの左腕をかすめた――>


………


……



「……不愉快な。


貴様は、みずからに付き従う“配下ものども”の生命を……


……何と心得こころえて居るッ?! 」


<――明らかに空気が変わった。


つい先程まで、殺気はおろ

戦いへの負担さえ微塵みじんも感じさせなかったモナークが

明らかに“ブチギレ”たのだから。


言わなくても理解わかる……此奴モナーク

数十もの配下の生命をわずかなかすり傷の為だけに

“燃料にした事を”怒っているのだ。


そもそも、過去モナークはみずからに反対した彼らの事を――


彼奴(きゃつ)らは何一つとして間違ってなど居らぬ”


――そう形容し、彼らの選択を尊重した。


それは……言い換えれば

例えみずからの元を離れようとも、彼らは大切な存在であり続けると言う事だ。


だからこそ、彼らの生命をまもる為

あの日、モナークはその“繋がり”を放棄する事を選んだのだろう。


……そんなモナークからすれば

こんな残酷ざんこくな方法で得た力で攻撃をされる事は

如何いかんともしがたい程に“不愉快”だろう。


だが、そんなモナークの心情を

まるで理解しようとすらして居ない此奴ガルベームは――>


………


……



「何を馬鹿な……“真の魔族復興”と言う崇高すうこうな目的の為ならば

例え配下の殆どがついえようとも構わぬ。


……まぁ、貴様の様な“出来損ない”には

微塵みじんも理解出来ぬのだろうがなッ!! ……」


<――そう言い放つと

再び配下の生命を“燃やし”始めたガルベーム。


そして、その行動の下劣げれつさに一層怒りをあらわにしたモナークは――>


………


……



「不愉快な……止めよ見苦しい。


貴様程度の“うつわ”に対し、例えれ程の配下がその身を捧げようとも

我を打ち倒す事、決して叶わぬと知れ……」


<――さとす様にそう言った。


だが――>


「黙れッ!!! ……貴様の様な出来損ないに何が判るッ!!

貴様の様なけがらわしき存在に力が受け継がれた事すら

我ら純血種たる者には虫唾むしずが走る程のおぞましい悲劇であったのだッ!!


一体何故……何故、貴様の様な出来損ないに

歴代魔王の力が受け継がれてしまったと言うのかッ!!

我ら魔族の長きに渡る崇高すうこうな歴史の中で

唯一ゆいいつ起きてしまったその“あやまち”……


……純血種たる我が正す迄は、例えれ程の犠牲が出ようとも

退く事など……在りはしないッ!!! 」


<――聞く耳を持たないガルベームの態度に

溜息ためいきを付いたモナークは


直後――>


………


……



「フッ……“我を滅せば”全てが解決すると考えたか。


ガルベーム、貴様は何処どこまでも愚かな男よ……だが。


成ればこそ……貴様と運命を共にする事を選んだ配下ものどもの為

そして――


――貴様が“出来損ない”とさげすむ我などに付き従い

今日まで我を支え続けた配下ものどもの為にも

時期尚早じきしょうそう”とうべき貴様に

唯一ゆいいつの手立て”を与えるとしよう。


全ては、この不毛な争いを終わらせる為――


――かつて、貴様らの王で在った我の“矜持きょうじ”が故に」


<――そう言い放った。


そして――


“貴様……何を企んでいる? ”


――そう問うたガルベームに対し

モナークは“ある要求”を伝えた――>


………


……



「フッ……容易たやすき事よ。


貴様の最も得意とする“肉弾戦”のみを“死合い”の決め事とするだけの話……」


「何? ……魔導を得意とする貴様が

それを受け入れるだけの意味は何処どこに有る? 」


「……死合いの結果に関わらず、互いの配下

まもるべき者に対する一切の攻撃も……無論“生贄いけにえ”も

それが例え死合い後で有ろうとも一切行わぬと誓うが良い。


万が一にも言い訳や“逃げ”など発する事の無い様

貴様の“信念”とやらに誓うが良い。


全ては、純血種のみをとする貴様が目指す――


“真の魔族復興”


――それを成し遂げる事の出来る“唯一ゆいいつの手立て”が為と知れ」


「モナーク……貴様、我をたばかるつもりか? 」


「フッ……“純血種”たる貴様が“出来損ない”とさげすむ我に対し

一体何を怯える事があるとうのか……」


「……貴様ッ!!!


いや、まぁ良いだろう……勝負は肉弾戦に限り、勝敗の如何いかんに関わらず

互いの配下に対する一切の責めを行わぬ事を……受け入れてやろう。


だが、貴様の遥か後方で此方こちらの様子をうかがっているあの“男”

奴だけは、貴様がほど望もうも決して生かしては置かぬ。


……良いな? 」


<――モナークの要求を大筋で受け入れた一方で

俺の事を指差し“決して生かしては置かぬ”と言い切ったガルベーム。


すると――>


………


……



「フッ……死合いの前とうのに“奴程度の木偶デク”に執心しゅうしんするとは。


“真の魔族”……いや“純血種”とは

くも気の多い存在ものなのだな? ……」


<――ほんの一瞬、俺の方に目を向けたかと思うと

凄まじく……まるで

“俺の事まで馬鹿にした様な”声色でそう言い切ったモナーク。


と言うか……さっきからずっと此奴モナークの考えとか

此奴モナークなりの配慮とか

様々な事を気遣っていた俺の心情に全く気付かず

あまつさえ馬鹿にした様な態度を取ったモナークに対し

この瞬間、思わず文句を言いたく成ってしまった俺は――>


「うっせえよ! ……」


<――と、語彙力ごいりょくの欠片も無い文句を言い放った。


だが……ツッコミ程度のつもりで発した文句だったにも関わらず

何故かこの一言に異常に反応したモナークは

俺の真横へと転移してくるや否や――>


………


……



「フッ……予想通りの大馬鹿者がッ!!! 」


「へっ? ……ぐはぁッ?! 」


<――瞬間


俺の左頬に鈍痛どんつう疾走はしった……有ろう事か

モナークが俺の事を“ぶん殴った”からだ。


この、余りに突然過ぎる暴挙……いや“暴力”に

怒りや驚き、様々な感情が渦巻いた俺は

モナークに対し食って掛かろうと立ち上がり掛けた。


だが――>


………


……



「フッ……たわむれ程度のつもりで出した拳が

よもやれ程の結果を生もうとは……やはり貴様は軟弱な男の様だ。


……だが、これで少しはマシな男と成れたであろう。


ではな、主人公――」


<――と、自分だけ納得した様子でこの場を立ち去り

ガルベームの所へと歩いていったモナーク。


だが……同時に、俺の中には

何故か……説明の付かない妙な“胸騒ぎ”が起きた。


……何故かは分からないが、圧倒的優位性を持っている筈のモナークが

指で突付いただけで折れそうな程、弱い存在に感じられたのだ。


一体何故、あれ程堂々たる足取りを見せるモナークの背中から

そんな不安を感じてしまったのか。


この時の俺は


きっと、何も見えていなかったのだろう――>


………


……



「……待たせたなガルベームよ。


貴様程度の者と我が死合うには、丁度良い“かせ”とえよう」


「ぐッ!! ……貴様のその減らず口ッ!!

今この場で叩き潰してくれるわッ!!! ――」


<――漠然ばくぜんとした

例え様の無い不安をかかえた俺の視線の先で始まった二人の戦い。


だが……“一方的”と言う言葉が似合う先程までの戦いが嘘の様に

泥臭さすら感じさせる程……俺ですら簡単に目で追えてしまう程の

ひど幼稚ようちな“殴り合い”を見せたモナークとガルベーム。


……何よりも

先程まで落ち着いていた筈のアイヴィーさんが身を乗り出し

冷や汗をかきながら、凄まじい形相で勝負の行方を見守り始めたのだ。


この瞬間……当然だが

俺の感じる不安は一気に“おぞましさ”を増した。


一体何故……こんなにも状況が一変した?


そして、一体何故――>


………


……



「何だ? ……どうした? 動きが悪いなモナーク」


「フッ……貴様程では無い……がな……」


「減らず口を……まあ良い。


……是迄これまでだッ!!

固有魔導――


――石蛇之女王メデューサッッ!! 」


<――互いにきんじて居た筈の魔導技を一方的に発動させたガルベーム。


だが……そんな卑怯ひきょうな攻撃に対し

防衛魔導はおろか、転移魔導すら発動させず

何故これ程容易ほどたやすく“石化の呪い”と思しき技をまともに食らってしまったのか。


何らかの策の為、えてそうしたのかとすら思える程の状況の中

石化状態のまま一切動かなくなってしまったモナーク。


直後、その眼前に立ったガルベームは――>


………


……



「ふっ……ようやくか。


純血種たる我ならば……受け継がれし力を取り戻す事も容易たやすい。


ようやくだ……配下の者共よッ!!!

ようやく、出来損ないの混血種から

我ら魔族の誇りを取り戻す事が出来るのだッ! ……」


<――そう雄叫びを上げ

なおも石化したままのモナークの身体に触れたガルベーム。


だが、何故だろう。


何故――>


………


……



おのれ……おのれぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!! 」


<――何故


何時も冷静で、楽しそうに料理を作り……才色兼備さいしょくけんび

全くもって非の打ち所の無いアイヴィーさんが……


……血の涙を流し、失う悲しみに飲み込まれ

“暴走”しなければ成らないのだろう。


何故……同じ種族であり同じ起源ルーツを持つ者達が

こんなにも分かり合えず、潰し合わなければ成らないのだろう――>


………


……



「……ガルベームッ!!!

お前だけは……お前だけは!!! ……殺すッッッ!!! 」


「ふっ……鬼神のごとき形相だなアイヴィーよ。


過去の我ならば、貴様には絶対に勝てなかっただろうが……


……今の我には“受け継がれし力”が宿っている。


さあ……何処どこからでも掛かってくるが良い。


この“石像”と共に……貴様もほうむってくれるわッ!!! ――」


<――何故だろう。


何故、俺が仲良く成った存在はことごとく奪われて行くのだろう。


このままアイヴィーさんも……“奪われて”しまうのだろうか?


このまま……何もかも……全ての大切な存在が……


全て……奪われ、消え去ってしまうのだろうか?


そんなのは絶対に……嫌だ。


そんな“クソゲー”は……絶対に……嫌だ。


もう、止めてくれ……これ以上、俺の大切な存在を


頼むから


“奪わないで”


くれ――>


………


……



「……止めてくれ。


二人共、頼むから……一回落ち着いてくれよ。


なぁ……


……なぁッッ!!!


頼むから止めてくれって……“って”んだろうがぁぁぁぁっ!!! 」


<――断じて俺の願いが通じた訳では無いと思う。


だが……喉が千切れそうな程の怒鳴り声は

確かにこの不毛な戦闘を“止めた”


そして、直後――>


………


……



「……何?


何故だ……何故、貴様の様な下等種族から

石像これ”の色が見えると言うのだッ!? ……」


<――俺に対し、意味不明な発言をしたガルベーム。


一方、そんなガルベームの直ぐ近くで……なおも血の涙を流しながら

凄まじい形相を浮かべていたアイヴィーさんすらも

暴走を止め、俺の顔を……まるで

“俺では無い誰かを”見て居るかの様な表情で見つめた。


この、余りにも不可解ふかかいな状況……そして

“モナークが奪われた”とう受け入れがたい事実。


俺は……これ以上、誰一人として失いたく無いとう気持ちと

例え様の無い怒りに――>


………


……



「……意味分かんねぇ事ってんじゃねえよ。


そんな事より、モナークの事……元に戻せよ」


「……何だと? 」


「なぁガルベームとやら……お前が約束破って、それが例え卑怯ひきょうな手段でも

モナークに勝てた事が“すげぇ嬉しかったんだろうな”


……ってのは見てても理解ったよ。


けど……頼むよ。


満足したならモナークの事返してくれ……この通りだ。


頼み方が悪いって言うなら頭も下げる、だから……頼む」


<――今、俺の中にある純粋な気持ち。


その気持ちを全て此奴ガルベームに伝えた。


だが――>


………


……



「……ふっ、何を馬鹿な事を!

我の固有魔導、石蛇之女王メデューサはその術中じゅっちゅうに掛かったが最期

その者が再び息を吹き返す事は無い。


そもそも、我が弟達を殺した貴様の……ましてや

下等な種族である貴様の望みなど我が聞き入れる訳も無かろうッ!


だが……我も鬼では無い。


貴様を――


此奴モナーク共々”


――仲良くほうむってくれようッ!!! 」


………


……



<――俺は頭を下げ続けていた。


だが、そんな俺に対し

うや否や突進を繰り出して来たガルベーム。


例え様が無い程に……不愉快だ。


例え様が無い程に……はらわたが煮えくり返る。


此奴コイツの起こした行動の全てが、俺の大切な存在と

その尊厳そんげんすらも容易たやすく踏みにじった。


……俺は、抑えられない怒りと共に

眼前に現れた此奴ガルベームに対し、怒りを込めた拳を突き出した――>


………


……



「何ッ!? ……グハッッッッ!? 」


<――直後

俺の拳に触れた瞬間、遥か遠くへと吹き飛んで行ったガルベーム。


不思議だが、拳は全く痛く無い。


怪我の一つもして居ないし、何よりも――>


………


……



「がはっ!! ……ゲホッゲホッッ!!!


は、配下の者共よッ!! 我にこの下等生物を滅する為の力を……」


「――らせない。


これ以上、彼奴モナークとの約束を破らせない……」


「なっ?! ……ぐあああああああっ!!! 」


<――数百メートルは吹っ飛んだであろうガルベームの元へ

転移魔導も使わず、軽く走っただけで到着した事には流石に驚いた。


……もしかしてだが、俺は今

モナークの死が苦痛過ぎて妙な夢でも見て居るのだろうか?


そもそも、この世界にいて物理適正なんて“贅沢品”は

一切持ち合わせていない筈の俺が、何故

なおも配下を“燃やそう”とする此奴ガルベームの首を握り

その巨大な図体を軽々と持ち上げられていると言うのだろうか? ――>


………


……



「なぁ……今、もし此処ここでお前を殺したら

お前がモナークから奪った“歴代の力”は何処どこかに消えるのか?

それとも、お前みたいに“奪える方法”が有ったりするのか?


なぁ……俺は今

お前に彼奴モナークの力が宿ってるって事自体が許せないんだ。


だからさ……お前から取り返す為の方法を今直ぐに教えてくれないか? 」


<――これが夢であれ、現実であれ

俺は、今この状況でするべきと思えた質問をした。


だが――>


………


……



「ぐ……ッ! ……がはッ!! ……」


<――苦しむ演技を続けるばかりで

必要な情報を何一つ明かさない此奴ガルベーム苛立いらだ

更に力を込めていた俺は――>


「ああ、悪い悪い……俺みたいな“下等生物”に対して答える訳無いよな

そんな“息が出来ないフリ”までしなくても分かってるよ。


自白の魔導……さあ、話してくれ」


<――俺の尋問に必死に抵抗する此奴ガルベームに対し

自白の魔導を掛けた。


だが、その瞬間

申し訳無さそうに俺の肩を叩き――>


「その……主人公様。


“演技”では無い様に見受けられます……」


<――と、アイヴィーさんが教えてくれた事で

ようやれが演技では無い事を知った。


大体……まさか、俺程度の非力な腕力で

こんな凶悪な見た目の魔族が呼吸困難に成るなんて思わなかった。


……ともあれ。


直後――>


………


……



「へっ? ……そうなんですか?

けど……万が一にも逃げられたらムカつくし

そんな事に成ったらモナークに顔向け出来ないし

いずれにしても下手な事させない様にしないとですよね。


捕縛の魔導――


鋼鉄之処女アイアンメイデン


――れで良し。


さぁ、早く話してくれよ“卑怯者ひきょうもの”……」


<――ガルベームに対し

捕縛の魔導“蜘蛛之糸”……その“上位技”を発動させた俺。


直後、激しい叫び声を上げたガルベーム……だが

俺が聞きたかったのは断じてこんな声では無い。


そう考え、直ぐに自白の魔導の上位技である

白日之下あらいざらい”を重ね掛けした瞬間――>


………


……



「そのアイヴィーなら……力を……奪える。


その為の技も……純血種ならば……持っている……筈だッ……


そ……れより……はや……く……この技を……解除してく……れッ!! 」


<――ようやく素直に答えてくれたガルベーム。


直後、此奴ガルベームから歴代魔王の“受け継がれし力”を

全て“取り返した”アイヴィーさん。


だが彼女は――>


………


……



「……感謝致します主人公様。


ですが……私が今、この様な形で“受け継がれし力”を取り返した所で

モナーク様はもう……決して……


お戻りには……成られないのですッッ!! 」


<――そう言って泣き崩れた。


そして……その直後“鋼鉄之処女アイアンメイデン”の効果に

その生命の全てを吸い取られ、絶命したガルベーム。


……無論、此奴ガルベームの生き死になどどうでも良い。


そんな些末さまつな事などよりも……何時もりんとして居るアイヴィーさんが

か弱い少女の様に泣き崩れてしまった事が

どうにもいたれなかったのだ――>


………


……



「……アイヴィーさん、きっと大丈夫です。


モナークは石像に成っただけです……そもそも

此奴モナークが何時も他人に対して“ドS”な態度を取る性分しょうぶんだって知ってる筈です。


だから……俺やアイヴィーさんの悲しむ姿を見て

“しめしめ”って成ってるだけですから……だからその……


きっと……生きてます。


多分、絶対その筈……です……から……」


<――アイヴィーさんをなぐさめたい一心で

何の保証も裏付けも無い、ぐちゃぐちゃの励ましを投げ掛けた俺。


きっとこれは……俺自身をも励ます為の言葉だったのかも知れない。


精一杯のやせ我慢みたいな物だったのかも知れない。


……何よりも、一切まとまらない思考の中で必死にひねり出しただけの

ただの現実逃避なのかも知れない。


だが……アイヴィーさんは

そんな俺の発した何の役にも立たない励ましに一言、お礼を言うと――>


………


……



「……只今ただいまを以て、私は“暫定的魔王”アイヴィーと成ります。


主人公様……貴方もお辛いでしょうが

モナーク様が貴方に“たくした”力……


……魔王としては全くもって不完全な私と共に

モナーク様の配下であり続ける道を選んだ者達を守る為

その絶大ぜつだいなお力を、お貸し頂けませんでしょうか? 」


<――そう言うと俺に対し深々と頭を下げたアイヴィーさん。


そして……この時

ようやく俺の事を“ぶん殴った”モナークの“真意”に気がついた。


……何故かは全くもって分からないが

モナークはあの一撃で、俺との“契約”を破ったのだ。


みずからの生命を掛けた“死合い”の前だとうのに

“受け継がれし力”以外の全ての力を、俺に“たくした”のだ。


それなら説明がつく……この異常な腕力は

全て彼奴アイツの力“もの”だ。


だが……余りにも理解の出来ない彼奴の決断に狼狽うろた

返事をする事すら忘れていた俺に対し

なおも頭を下げ続けていたアイヴィーさん。


直後、少し慌てて彼女の要求を全て“了承”した俺に対し

アイヴィーさんは――>


………


……



「……心より感謝申し上げます。


では……只今ただいまより

私は“暫定的魔王”としての最初の仕事を行いますので

主人公様は此方こちらでお休みに成っていて下さい――」


<――言うや否や

反対派魔族の方へと向き直ったアイヴィーさん。


そして――>


………


……



「――愚かな“純血種”共よ。


事もあろうに、お前達はモナーク様との約束を反故ほごにしたのです。


……それが一体、どう言う結果を生み出すかなど

愚かなその頭でも解らない訳では無かったでしょう。


斯様かように愚かなお前達に、私が下すこの裁きは


最愛さいあいの御方に対する、最大の手向たむけと成るのですッッ!!! ――」


<――直後


おぞましい程の殺気を発したアイヴィーさんは

眼前に立つ反対派の魔族達をめっさんと、その腕に力を込め始めた――>


===第百七三話・終===

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