第百七一話「危ないのに楽しいのは……何故ですか? 」
<――“国賓全員参戦”と言う
本来なら全力で拒否するべき状況に狼狽えて居た俺と
全く同じ狼狽え方をして居た“特別配備隊”所属の女性兵士。
彼女の表情から読み取れた
“差し迫った状況”が気に成っていた俺は
本来なら、全力で拒否するべき国賓達の同行を一切拒否せず
その上、完全なる“民間人”な絵師クロエさんの――
“実物を見て描きたいの……お願いッ!! ”
――と言う要望すらも受け入れると言う
完全に外交大臣失格な決断をしたのだった。
そして――>
………
……
…
「ディーン様……今回だけで構いません
私の“原隊復帰”をお許し頂きたいのですッ!! 」
<――言うや否や、勢い良く立ち上がり
背筋の伸びた敬礼をした男、それは……オウルだった。
だが……つい先程まで和やかに隊の皆と酒を飲み交わしていたオウルには
既に“護るべき人”が二人も居る。
……当然、その事を重く見ていたディーンは勿論の事
流石に俺も彼の参加は断ろうとして居たのだが――>
………
……
…
「……蟲研究者として提言致します!
夫の力ならば、長時間に渡り蟲の侵入を防ぐ事が可能なのです! 」
<――言うや否や
席を立ち、オウルの“援護射撃”をしたサラさん。
……現在、政令国家の研究機関で研究員としても活躍している
彼女が放ったこの言葉は、国賓全員の参加と言う危険な状況を
例え僅かにでも安全な物にする事が出来る力を持っていた。
と言うか……何よりも、現場の逼迫した状況を考えれば
このまま“連れて行く行かない論争”を続ける訳にも行かず――>
………
……
…
「あ゛~っ゛もうッ!! ……分かりましたからッ!!!
……兎に角ッ!
全員、俺か俺を掴んでる人を掴んでくださいッ!
掴み損ねたら知りませんからね!? ……行きますよッ!?
転移の魔導ッ――」
<――後から考えれば完全な“暴挙”だったが
ともあれ……この後、女性兵士が
“現在最も逼迫した状況”と断言した区域へと到着した俺達は――>
………
……
…
「エリシア様ッ! ……お連れして参りましたッ! 」
<――到着早々
エリシアさんの元へ走り寄りそう報告をした女性兵士。
一方、彼女の声に反応し
俺達の方へと振り向いたエリシアさんは――>
「おぉ~! 主人公っちが来てくれたならもう安心……って!?
……何で“国賓全員”連れて来ちゃってるのっ!?
クロエさんに至っては完全に“民間人”だしっ!! 」
<――と“何一つ間違っていない”ツッコミをした。
直後……此処まで案内してくれた女性兵士が
まるで“自らの不手際”かの様に
幾度と無く頭を下げる姿を間近で見ていて思った。
“ああ、すっげぇ申し訳無い”……と。
……ともあれ、女性兵士の謝罪が功を奏したのか
エリシアさんの興奮も落ち着いて来た頃――>
………
……
…
「……ま、まぁいいや。
でも……皆さんは全員、自分が国賓だって事忘れずに
出来るだけ後方に居る様にしててね?
もし仮に――
“何があろうと政令国家に責任は問わない”
――って思ってくれてたとしても
政令国家がそう言う訳には行かないのは分かるでしょ?
ま……そう言う事だからお願いしとくね~っ!
……さてと、もうちょ~っと楽しく話してたかったけど
状況があまり芳しくないから
取り敢えず、サクッと今の状況を説明しとくね~」
<――国賓に対し軽く釘を差した後
現在の状況を説明してくれたエリシアさん。
彼女は……俺達の居るこの場所を“二”とした時
“一”と“三”にはそれぞれ、モナーク率いる魔族軍と
カイエルさん率いる魔導大隊が対応にあたっており
何れの地域に於いても安定した状況である事を説明してくれた。
だが、その一方で……本来、エリシアさんが想定していた“予定人員”で考えれば
僅か一小隊程度の“特別配備隊”以外には
蟲対策に有効な戦力となる者が俺とエリシアさんの“二人だけ”と言う
余りにも極端に手薄なこの場所。
……しかも、現在この“二”こそが
最も危ない状況で有る事も教えてくれた。
当然、この明らかな戦力配置のバランスの悪さに疑問を感じた俺は
この件についてエリシアさんに訊ねた。
すると――>
………
……
…
「その……蟲達の事を研究してた中で
一つだけ成果が出た事があったんだけど……それを発動させる為には
あまり人が多いと効果が出づらくてね、だから
“少数精鋭”って考えた時に“強い”で思い付いたのが
主人公っちだったんだけど……結果としては
此処が一番蟲の出現率が高かったみたいでさ……
……まぁ、一応“一”と“三”の方が片付き次第
皆も援軍に来てくれる予定ではあるんだけど
それにしてもこればっかりは私の判断ミスって言うか……本当ごめん」
<――と、申し訳無さそうに理由を説明してくれたエリシアさん。
だが、その直後――>
「だけど……念の為用意してた“これ”を使う為には
この状況も悪くないのだよっ! ――」
<――そう言って
大きな木箱から自信満々にエリシアさんが取り出した物。
それは……どこからどう見ても
“蚊取り線香”だった――>
………
……
…
「えっ? いやあの……それの“煙”程度が蟲に効くんですか? 」
<――思わずそう訊ねてしまった俺に対し
エリシアさんは首を傾げつつ――>
「け、煙? ……そんな物は出ないぞ?
これは蟲達に投げつけて使うんだよ?
ただ……“絶対に全種類の蟲に効く”とも言い切れないから
主人公っちの“効くかどうか”って質問には
自信を持って答える事が出来ないのもまた事実って言うか……って?!
やばいッ! ……人が多過ぎたみたいッ!
皆下がってッ!! ……主人公っち!
防衛魔導の“透明化”の欄なら何でも良いから
それで国賓達を優先して隠してッ!!
それと……オウル! “例の奴”発動してっ!! 」
<――瞬間
それまで不思議な程に穏やかだった状況は突如として終わりを迎えた。
今の今まで俺の知らぬ間に俺達全員を包んでいた“透明化”の防衛魔導。
特別配備隊所属の隊員達が必死に発動していたその透明化は
どうやら、俺と国賓と言う“大所帯”に耐えきれなく成ったらしい。
だが……本来、透明化の魔導は
防衛術師職に取って花形的な技の一つであり
魔導消費量的にも通常の魔物相手ならば“大部隊を隠す”等では無い限り
そう簡単に効力が切れたりはしない筈だ。
……ましてや、蟲対策の為に集められた優秀な魔導師や
物理職の者達で構成される実力者揃いの隊ならば
俺達程度の人数が増えた程度では“びくともしない”筈。
言う迄も無く、蟲と通常の魔物との間には
何か根本的に大きな隔たりがあるのだろうが
今その違いについてエリシアさんに訊ねられる様な
“余裕”がある筈も無く――>
………
……
…
「固有魔導ッ!! ……一方通行ッ!! 」
<――直後
オウルの発動した固有魔導“一方通行”の範囲に合わせる様に
慌てて俺が発動させた、上位透明化魔導技――
“覆隠者”
――発動直後、今度は嘘の様に俺達を“見失った”蟲達。
だが……発動中、魔導消費量に僅かな違和感を感じた俺は
直ぐにエリシアさんへその事を告げた、すると――>
「あ~……やっぱりか~
……此奴ら、索敵中に“匂いを嗅ぐ”様な動作をするんだけど
その時に周囲の“魔導の流れ毎”吸い取ってるみたいでさ~
此方が魔導的な何かを発動してなければ何の事は無いんだけど
発動中は結構“吸われる”みたいなのよね。
ま……詳しい話はこの状況を解決してからにしようぜぃ!
先ずは皆にこの“ぐるるんポイ”の使い方を説明……」
<――直後
“いや、ネーミングセンスよ”と思いつつも
敢えて突っ込まなかった事は兎も角として。
……エリシアさん曰く
この“蚊取り線香もどき”……もとい。
“ぐるるんポイ”は、蟲の眼前に投げつけ
その誘引効果に惹かれた蟲が、これを食べる事で
内部に練り込まれている毒の成分が効果を発揮し蟲を倒すと言う
所謂……“毒餌方式”の便利な武器との事だった。
だが、ならば何故この“特徴的な形状”にしたのか。
毒餌であり、且つ投げやすい形状も考えれば
団子的な形状でも良かったのでは無いのだろうか?
そう思った俺がエリシアさんに訊ねた所――
“香りを放つ力が強い方がより強く誘引するからこの形状なんだよ~”
――と明るく答えられてしまったのだが
正直、形状が余りにも“そのまま”過ぎて
投げる前にライターか何かで“炙りたい”衝動に駆られてしまう。
ともあれ……この後、幾度と無く
“妙な誘惑”に負けそうに成りながらも、必死にこれを投げ続けた俺。
“国賓達”の協力もあり、大量に投擲出来たお陰で
エリシアさんの想定していた誘引効果と
殺“蟲”効果も大いに見られ始めた。
だが――>
………
……
…
「……おかしい、最初より食いつきが悪くなった。
さっきまでとはぜんぜん違う……」
<――数分後の事
そう言ったエリシアさんの視線の先には
先程までとは違い、見向きのされなくなった“毒餌”が目立ち始めていた。
暫く後……完全に毒餌に対する興味を失った蟲達は
一斉に“索敵行動”を始め――>
………
……
…
「ぐっ?! ……エリシアさん
何だかさっきよりも“吸われる”量が多いんですが……ッ!! 」
<――毒餌の効果に依ってある程度は数が減って居た蟲。
だが……奴らの“索敵行動”に依る魔導の“流出量”は
先程までとはまるで比べ物に成らず
俺は元より、オウルも明らかに苦しそうで――>
………
……
…
「そっか……ごめん、主人公っち。
今回の“武器”……完全に失敗だったみたい。
けど、奴らを倒す為に有効な方法は判明してるから安心して。
……先ず、魔導職の人は
出来る限り“面での攻撃”が出来る火炎系の魔導で蟲を焼いて
倒せなくても、出来る限り奴らの動きを鈍らせて。
それと……安全の為、物理職の人は
魔導職が取りこぼした蟲を狙って欲しいんだけど
一撃で倒すなら頭部か胸部をブチ抜くのが確実だから、よく狙って。
後は……主人公っち、オウル……もう少しだけ耐えてて。
本当にごめん……」
<――研究の失敗。
直後……ほんの一瞬振り向いたエリシアさんの目の下に
薄っすらと隈が出来ている事をこの時初めて知った。
そして……この瞬間
彼女が寝る間も惜しみ毒餌を作ったのだろう事
この失敗は相当な痛手であっただろう事を察した。
……この後、蟲の方に向き直り
火炎系魔導技の詠唱を始めたエリシアさんの悲しげな背中。
そんな彼女に対し、気の利いた言葉の一つすら
掛ける事が出来ずに居た俺の不甲斐無いモヤモヤとした心情。
だが……この直後、そんな俺のモヤモヤを完全に吹き飛ばす様な
“圧倒的な出来事”が発生した――>
………
……
…
「……爺や、こんなに守られてばかりでは
我が国の力を疑われてしまうかも知れないと思わないかい? 」
「ええムスタファ様、それだけは避けるべきかと存じま……」
「おいじじぃ! 兄様ッ! ……あたしゃ~火炎魔導は大得意だ!
よって! あたしに全部任せれば良いのじゃ~っ!
……泥舟に乗った気持ちで居ればよいのじゃぞ~っ! 」
「カ、カミーラ様……それを言うなら“大船”で御座います。
それと、私めの事は爺やとお呼びくださいと……」
「細かい事を気にすると老け込んでしまうぞ? “じじぃ! ”」
<――ムスタファ、ハイダルさん、カミーラさんの三名。
そして――>
………
……
…
「……我が国の大恩人である主人公様と政令国家に対し
僅かにでも恩返しをする事が叶う絶好の機会です。
……皆、良いですね? 」
<――直後
四地域の長達に向け静かに掛けられた天照様の号令。
更に――>
………
……
…
「漸く我が隊と“可愛い弟子達”の力を見せる時が来た様だ。
ディーン隊ッ! 並びに、レッドスキュラ隊ッ!
現刻より、火炎攻撃を主とした掃討作戦を開始するッ!!
状況開始ッ!! ――」
<――後で聞いた話だが
この時、ディーンが“可愛い弟子達”と称し
“レッドスキュラ隊”と呼んだ彼らは……現在、日之本皇国の中で
最も優れた能力を持つ者達で構成されて居る小隊らしい。
その証拠に、彼らは一糸乱れぬ高い統率力で
的確に敵の脅威判定を行いながら
優先順位通りの討伐「とうばつ)を信じられない程の正確さで熟し続けた。
……勿論、彼らの活躍だけで無く
ムスタファを始めとするアラブリア王国の“国賓達”も
天照様を始めとする、日之本皇国の“国賓達”も
皆、信じられない程の正確さと破壊力を有する火炎攻撃で
大量に出現していた蟲達をあっと言う間に焼失させ……
……つい先程までの危機的状況が嘘の様に
戦況をあっと言う間に圧倒的優位な物へと変化させたのだった。
そして……この上更に喜ばしい出来事は続いた。
先ず、俺達以外のニ箇所から立て続けに防衛完了の連絡が届いた事
次に、そのニ箇所からの増援すら必要としない程の圧倒的優位を
国賓達の“大暴れっぷり”で実現出来ている事。
だが、何よりも喜ばしい出来事だったのは
エリシアさんの顔に明るさが戻った事だ。
ただ、余りの余裕っぷりに――>
………
……
…
「えっと~……見た感じ凄まじく余裕っぽいし
正直、研究材料ももっと欲しいし……
……その、出来たらで良いんだけど
種類別に一体ずつ、生きたままか“冷凍状態”での捕獲をして貰えると
研究材料的にすっごい助かるんだよねぇ~っ!
因みに……生きたままの拘束は
窒息死させない為にも“蜘蛛之糸”以外の強力な奴でお願~いっ! 」
<――と、仮にも“国賓だらけ”なこの状況で
本来ならば絶対にするべきでは無い注文をつけたエリシアさん。
だが、このある意味“外交的欠礼”なお願いに対し
“国賓達”は気分を害するどころか
寧ろ“ノリノリ”で――>
………
……
…
「生きたままの捕縛ですか……であれば。
紅、貴女の技がこの状況に最も適して居るでしょう」
「……ええ、天照様の期待に沿える様
それと……“日之本皇国”所の凄さ見せつける為にも
“片鱗”見せつけさせて貰います――」
<――直後
天照様に対し一礼したかと思うと
俺達の眼前から消えた紅さん。
……直後、再びその姿を表した時
彼女は、防衛魔導の“外”に立っていた――>
………
……
…
「なッ!? ……“一方通行”の外に出るなんて危険ですッ! 」
<――慌ててそう叫んだ俺
だが、そんな俺の方に一瞬だけ振り返えると――>
「ふふっ♪ ……優しいお人やね主人公さんは。
……でも、ウチは大丈夫。
ま、見てて――」
<――そう言って俺に微笑み掛けてくれた紅さん。
直後……彼女は地面に手を付き
一体何時書いたのかすら気付けなかった“魔導陣”を起動した――>
………
……
…
「――“魅惑之檻”
ほら……早うおいで。
仰山……仰山……おいで……」
<――瞬間
紅さんが起動した魔導陣に吸い寄せられる様に集まり始めた蟲達は
続々と魔導陣の中に閉じ込められて行った。
そして……其処で始めて自分達が罠に掛かった事に気付いたのか
既に脱出不可能と成った“檻”の中で必死に藻掻き始めた蟲達。
“魅惑之檻”……凄まじく恐ろしい技だと思った半面
“蚊取り線香もどき”の一件も重なり、正直な事を言えば
“ゴキ○○ホイホイ”にしか見えなかったのだが……
……とは言え、本来なら最大限の警戒をするべき
未知の魔物である“蟲”討伐中に
こんなにもふざけた思考が出来る余裕があるのは
偏に同行を申し出てくれた“国賓達”のお陰だろう。
何はともあれ……この後、魅惑之檻外の蟲達を
文字通り“焼き払い”無事、この地域の安全性を確保する事に成功した俺達。
……その一方、先程までの落ち込みっぷりが嘘の様に
超絶ハイテンションな何時もの姿に戻って居たエリシアさんは
紅さんが生きたまま捕まえた大量の蟲を前に――>
………
……
…
「うひょ~っ! ……これは色々と試せるっ!
けど、流石に生きたままの状態で持って帰るのは危険過ぎるから
詳しく調べる為にも研究機関の主要メンバーを全員呼ばないとだし
出来る限り此処で完結させて、残りは冷凍保存で持って帰らないとだ~!
さて! 取り敢えず今試せる事は予め試しておきたいし……
……ってぇ事で~主人公っちッ!
先ずは睡眠の魔導が効くかどうか試してみてくれぃ~」
「は、はい! では、睡眠の魔導――」
<――この後、睡眠の魔導に依る効果が
僅かだが見られた事に喜んだエリシアさんは、次に
絵師クロエさんの目的でもあった“正確な絵”実現の為
尚も魔導陣の中で藻掻き続けていた蟲達を描く様
彼女に指示を出した。
……直後、クロエさんは藻掻く蟲達を真剣に見つめ
驚くべき速度で、数種類居る蟲達の特徴を全て掴み
ラフ画と呼ぶ事が不適当と思える程に完成度の高い
“ラフ画”を書き上げ――
“ふぅ……後は帰ってからの仕事ね”
――そう、清々しさを感じさせる様な表情を浮かべて言うと
エリシアさんと俺に対し――>
「ありがとう……お陰で、絵師として完璧な仕事が出来たわ」
<――そう言って満足気に微笑んだのだった。
何はともあれ……この後
今出来る事の全てをやり切ったと判断したエリシアさんが
研究機関の面々を魔導通信で呼び出していた頃――>
「……予め政令国家から頂いて居た情報通り
ステータスの欄は全て解読不可能ですが……ムスタファ様。
貴方程の格でも、私達と同じ様な状態に見えているのですか? 」
<――そう天照様に訊ねられ
“ええ、全て見た事も無い文字の羅列ですが……”
と、返事を返したムスタファ。
だが、その直後……何かを思いついた様な表情を浮かべたかと思うと
天照様に対し――>
………
……
…
「……ステータスとしての確認が出来ずとも
天照様の透視能力ならば、何かが見えるかも知れません。
どうでしょう? 一度お試し頂くと言うのは」
<――そう問うたムスタファ。
直後、この案を受け入れた天照様は蟲に意識を集中し始めた。
だが――>
………
……
…
「申し訳ありません……有用な情報は得られませんでした。
唯一分かった事は“食欲に異常な執着を持っている”と言う事です」
<――そう話してくれた天照様はとても残念そうにしていた。
一方、研究機関メンバーへの招集を終えたエリシアさんは
そんな天照様に対し――>
「え~っと……“それ”が分かっただけでも戦い方に幅は出るし
そもそも、今回大量のサンプルが取れたお陰で
今後の研究は随分と楽に成ると思うし……」
<――と、気遣いを見せた。
すると、天照様は――>
「微力ながらお役に立てた様で何よりです……しかし
始めて実物を拝見致しましたが
この様な魔物が我が国やアラブリア王国に現れたならば
今回の様に必ず危なげ無く解決出来るとも限りません。
其処で……エリシアさん。
……もしも可能であるのならば
今後、私達にも政令国家に於ける
“蟲研究”への協力をさせては頂けないでしょうか? 」
<――と、蟲に関する“共同研究”を持ち掛けた。
そして、そんな天照様に同意する様に
ムスタファもまた、蟲研究への参加を希望し――>
「へっ? ……い、いや私は別に構わないけど
ラウドさんとか他の大臣達に聞いてからじゃないと、私だけの一存じゃ……」
<――当然だが
いきなりの申し出に狼狽えていたエリシアさん。
だが、更に――>
「エリシアさん、今“首を縦に降って”くれはったら
ウチの“技”も役立つと思うんやけど……どやろか? 」
<――と、今度は
紅さんの“売り込み”も始まり――>
「い、いや……それは勿論有り難いんだけど……」
「せやろ? ……それやったら、やっぱり
ウチらの協力を受け入れた方が良いと思うんよ~♪ 」
「う、うん……ラウドさんには強く勧めておくよ……」
<――この瞬間
完全に“折れた”エリシアさんの姿を目撃する事に成った俺。
まぁ……何はともあれ。
この後、研究機関所属の面々と増援の特別配備隊員達が到着し
彼らに蟲の件を引き継いだ俺達は
今回の協力に関するお礼は勿論、蟲研究への協力に関する話も含め
一度、執務室へと戻る事と成った。
の、だが――>
===第百七一話・終===