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第百六九話「国賓対応と大会進行は楽勝ですか? 」

<――ゲーム大会開催予定時間より一時間程前の事。


突如として第二城地域の玄関口である“第二城東門前”へ現れたのは

俺の想像していた“凶悪な敵”……などでは無かった。


だが……日之本皇国の長、天照様を始めとする各地域の長達と

ムスタファを始めとするアラブリア王国の一行……更に

彼らを連れて来たのがディーン隊と言う“勢揃い”っぷりに驚き

全くもって状況が飲み込めず居た俺は……


……十数分後、貴賓室へ勢揃いした御一行らに対し

精一杯、外交大臣としての振る舞いを続けていた。


だが――>


………


……



「主人公よ……貴様が恩を売った者や

我と貴様が“契約を結ぶ原因を作り上げたムスタファ”が一堂いちどうかいする事も

些末さまつな会話でれ程の時を浪費しようとも構わぬ。


だが、今こうして貴様に対し

我が“寛容かんよう”であるだけの“理由”……忘れては居らぬだろうな? 」


<――そう言ってギロリと俺をにらみつけたモナーク。


この瞬間、勘のにぶい俺ですら直ぐに判った――>


「お、おう! ……心配しなくても

予定通り“ゲーム大会は開催される”から安心してくれ! 」


「フッ……ならば許そう」


<――執務室の壁に掛けられた時計の針は

大会の予定時刻まで三〇分足らずである事を伝えていた。


この……モナークがいちじるしく不機嫌に成っていた“原因”に気付き

直ぐに“対処が出来た”事に安心していた一方で――


いくらゲーム好きとは言え、国賓こくひんの前でこの態度は無い”


――と考えていた俺は

モナークに何らかの形で注意をせねばとも考えていた。


だが――>


………


……



「……主人公。


少し前、君から送られて来た手紙の内容と

この度ライラより伝えられた“あのメリカーノア”の真実……


……サラさんとオウルの置かれて居た状況にはとても驚き

次の瞬間には、君の手紙にしるされて居た言葉の全てをも疑ってしまう程

私は強い不安に駆られていた……だが。


“今の会話”でしっかりと理解し……そして感じたよ。


君が伝えてくれた魔王との“契約”――


――それが、真に安心の出来る関係性なのだとね」


<――そう言って微笑んだディーン。


……そんな彼の言葉を受け

まるで嫌味でも言われたかの様に不機嫌な表情を浮かべたモナーク


そんなモナークの態度がゆえか、天照様は何かを話し掛け――>


「その件についてですが……いえ、この話は後ほど行う事と致しましょう。


……何はともあれ“ゲーム大会”と言う物の開催時刻を

我々が送らせてしまう事は避けねばなりません。


モナーク様は勿論の事……ラウド様も主人公様もそれで構いませんね? 」



<――そう言って、此方こちら

もとい……“モナークの”我儘ワガママを優先してくれた上で――>


………


……



「……ですが“ただ観戦するだけ”と言うのも面白くありません。


もしご迷惑で無ければ

我々もゲーム大会に参加させて頂きたいのですが……可能でしょうか? 」


<――と参加を希望した天照様に驚きつつも


この後……開催時間が迫っていた事もあり

急ぎ会場へと移動した俺達は、開会式の挨拶などを済ませた後

日之本皇国、並びにアラブリア王国御一行の参加を国民達に伝えた。


……結果を言えば、国民の多くが

他国からの“挑戦者”に大いに盛り上がりを見せ――>


………


……



「……それではッ!

改めて、此処ここにゲーム大会の再開催を宣言しますッ!! 」


<――暫くの後

俺の開催宣言を合図に、再開催の運びと成った今日この瞬間。


……民達の喜ぶ姿、それを見て喜ぶラウドさんや大臣達の表情に

この所しずんでいた俺の心すらも明るくなり始めていた頃。


流石にこの所の激務を考え

俺を含めた大臣達が皆不参加を選んでいた中

ただ一人、大臣達の中で参加を選んだモナークと……


……現在“客員教師”として

鬼人オーガ族語の教師を努めている、ヴォルテとの対決が始まった。


の、だが――>


………


……



「フッ……バックギャモンでは貴様に後塵こうじんはいしたが

智力ちりょくを必要とするオセロでは我の圧倒的勝利であった――


――ゆえに、見定める力を必要とするこの積木ジェンガいて

万に一つも貴様に勝機など有りはしないとう事だ……」


<――ヴォルテに対し、見下す様にそう発したモナーク。


そんなモナークに対し――>


「何を馬鹿ナ……


……バックギャモンに智力ちりょくが不要と考えていタとは笑止ッ!

貴様の“智力ちりょく”とやらもたかが知れていルと言う事よッ!! 」


<――そう言ってモナークの暴言を迎えつ様に口撃こうげきしたヴォルテ。


そして、この――


“そこそこ離れている距離からでもしっかりと聞こえる言い争いが”


――今日から数え数日前の事、既に

バックギャモンとオセロで“前哨ぜんしょう戦”を行なっていた事に由来するのだと

いつの間にか俺の真後ろに立って居たアイヴィーさんが

こっそりと俺にだけ教えてくれて――>


………


……



「……では、私も対戦がありますのでこの辺で失礼致します」


「は、はい! ご武運を……って、もう居ないし……」


<――ともあれ。


試合前、既にヒートアップし過ぎている二人をおさえる為か

進行役兼、審判役のエリシアさんはなかば強引に――>


………


……



「……はいはいは~いっ!

二人共ぉ~っ! ……勝負はゲームで付ける事ッ!

ってぇ~事でぇ~っ! ……試合開始っ! 」


<――そう言うと

二人に取っての“最終決戦”……その火蓋ひぶた

切って落としたのだった――>


………


……



「フッ……良かろう。


ならば積木ジェンガで我を倒してみるが良い、鬼人オーガ族の長よ……」


「……望む所ダ! 今日こそ決着を付けてやル!! 」


<――上位四人で雌雄しゆうを決する事になる

“準決勝進出”へ向けた戦いでもあるこの試合に、二人の闘志とうし

遠く離れた場所で観戦する俺ですら

息苦しさを感じる程の物と成り始めていた。


の、だが――>


………


……



「って……あれ?

二人共、何か“変な動き”してる様な……」


<――闘志とうしだけで無く

何やら、互いに“妙な動き”をし始めていたモナークとヴォルテ。


二人は――>


………


……



「フッ……腐っても貴様は鬼人オーガ族か。


よもや、我の“力”に耐えるとは……」


「……キ、貴様こそッ!!


この“念動力ねんどうりき”に耐えるとは……ッ!

流石はかつて魔王と呼ばれた者と言う事かッ!! ……」


<――明らかに“ジェンガでは無い何か”を見せつけられていた俺達。


二人は……指だけでは無く

“何らかの力”をもちい――


“相手のターン中には、タワーを倒す為に力を込め

自分のターン中には、タワーを堅牢けんろうにする為の力を込める”


――と言う“裏の戦い”を繰り広げていた。


だが……俺やラウドさんは勿論の事

魔導適性の無い一般人ですら容易よういに見抜ける程の“イカサマ”っぷりに――>


………


……



「ふぅ~っ……さぁ~てとぉ!

言う迄も無いけど~……二人共、失格ね? 」


<――と言う、エリシアさんの冷めた判定が下ったのだった。


そして、この瞬間――


“何ッ?! ”


――と言わんばかりの表情を浮かべていた二人が

ほんの少しだけ“馬鹿バカ”に見えたのは内緒だ。


ともあれ……この後

“二人の失格者が出た”準々決勝は無事に終わり

いよいよ、待ちに待った準決勝が始まった。


の、だが――>


………


……



「さぁ~っ! いよいよ準決勝だよ~ん♪


……対戦相手は公平をす為にクジを引いて

同じ色の紙を持った人同士で対戦してねぃ!


ではでは~っ! 準決勝進出者の名前を読み上げるよ~っ!


“アイヴィー”“ロベルタ”“グランガルド”“天照様”


以上、四名のぉ~っ!! ……って。


……え゛っ?! 」


<――この瞬間

エリシアさんが見せた驚きの表情を

是非とも“写真に残したい”と強く思ったのは兎も角として……


……この世界にいて写真にじゅんずる物が絵しか無い事を悔やみつつ

恐らくは、俺と同じく――


“天照様の名前を確認して驚いた”


――のであろうエリシアさんを横目に

凄まじい盛り上がりを見せた準決勝――>


………


……



「流石はモナーク様の右腕……いえ

“モナーク様の懐刀ふところがたな”と言われるだけの事はあるわねアイヴィー


完敗よ……参ったわ」


<――アイヴィーさんVSロベルタさんの勝負は

アイヴィーさんの勝利で幕を閉じ――>


………


……



「強い……恐れ入った」


<――ガルドVS天照様の勝負は天照様の勝利で幕を閉じ

エリシアさんの表情がまたしても

“写真に残したい”物と成った事は兎も角として……クジの結果

決勝戦で使用されるゲームの種類が“オセロ”に決定した

この瞬間――>


………


……



「……手前勝手なお願いを申し上げます。


ですが……私の“力”を考えれば

オセロやバックギャモンではいささか公平さにいてしまう様に思えるのです。


ゆえに、出来る事ならば……ジェンガでの勝負に変えては頂けないでしょうか? 」


<――突如としてそう申し出たのは天照様だった。


と言うか確かに、天照様の“る”力を考えれば

読み合いの必要な多くの勝負は話にならないだろう。


……協議の結果、天照様の要求を受け入れ

急遽きゅうきょジェンガでの勝負と成った決勝戦。


互いに一歩も譲らぬ戦いが繰り広げられ――>


………


……



「アイヴィー様……楽しい勝負でした、心よりお礼を申し上げます」


此方こちらこそ、正々堂々たる勝負に感謝を……


……モナーク様に良い報告が出来ます」


<――互いに礼を尽くした後

雌雄しゆうは決し――>


………


……



「第一回、政令国家ゲーム大会のぉ~っ……優勝者はッ!


……アイヴィーさんに決定だ~っ!

さてさて! 三位決定戦は五分後に開催だ~っ!

引き続き、刮目かつもくするのだ~っ! ……」


<――この後、三位を勝ち取ったガルドは

まるで優勝かと見紛う程に自慢げな表情を浮かべ

高らかにトロフィーをかかげたのだった。


ともあれ……皆が心から楽しんだゲーム大会は大成功で幕を閉じ

興奮冷めやらぬ中、それぞれが家路いえじについた夕暮れ時。


……俺達は大統領城での夕食会を終え、執務室へと集まり

改めて“本題”についての話し合いをする事と成ったのだが――>


………


……



「……あれ? 全大臣に招集が掛かってる筈なのに

モナークの奴、何で来てないんだろ? ……」


「モ……モナーク様は“体調が優れない”ご様子でしたので

大事を取り、私がモナーク様の代理を務めさせて頂こうかと……」


<――明らかに挙動不審きょどうふしんな様子でそう言うと

困った様に会釈えしゃくをしたアイヴィーさん。


そんな彼女の姿に――>


「そ、それは大変だ……ま、まぁその!

アイヴィーさんなら代理としても安心ですからお気になさらず! ……」


<――と、精一杯気遣って見せた俺。


反面、本心では――


“あ~っ! 絶対嘘だ~!

モナークの奴、失格に成った事気にしてやんの~”


――と、精一杯モナークの事をイジってやりたかったのだが

モナークに関する事柄に“地雷”をかかえており

“キレれたら手が付けられない”アイヴィーさんを刺激しない為

グッとこらえて居た俺は正直偉いと思う。


ともあれ……この後、話は“本題”であり

三国の長が集結し開かれる事と成った“極秘会談”の理由である

“特区と約束”に移行し――>


………


……



「……ではず、一つ目“特区”に関するお話をさせて頂く前に

政令国家……特に、主人公様への御説明をさせて頂きたいお話が御座います」


<――真剣な表情でそう言った天照様

彼女は続けて――>


「……主人公様を含め、一部の方は既にご存知の通り

我が国の中心部には“護傘マモリガサ”と呼ばれる建造物が御座います。


ですが、あの建造物がただの“記念建造物”では無いと知る者は

我が国でも私を含めた一部の者に限られて居るのです」


「……へっ?


あれって確か――


“日之本皇国地域交流正常化記念”


――って意味合いで作られた筈では? 」


<――そうたずねた俺に対し

天照様は申し訳無さげに――>


「主人公様……私はあの建造物を

ただの記念建造物として用意させた訳では無いのです

勿論、そうした理由もお話致します……


……主人公様のお力添えにって

我が国のかかえる問題はいとも簡単に解決致しました。


ですがその反面、大恩ある御方が暮らす遠き友好国に対し

気軽に出向き……また、気軽にお越し頂ける様な仕組みが

何一つとして無い事に私は“危うさ”を感じて居たのです。


……全くもって嬉しい話ではありませんが、力の有る場所や物には

必ずと言って良い程“苦難くなんが訪れる”のは世の常……為ればこそ

真の友好国として互いに手を取り合い、一層の強固きょうこな関係性をと考えた上で

それが実現出来るだけの何かをと考えた時、私は

“超長距離転移補助施設”を我が国の中心部へと建てる決断をしたのです」


<――そう言って護傘マモリガサの事を

“超長距離転移補助施設”と言い直した天照様。


と言うか……この名称からして、この施設が持つ能力は

これ以上、何かを説明されるまでも無くて――>


………


……



「えっと……対になる“護傘マモリガサ”を建てた場所にのみ

簡単に移動出来る施設って事で合ってます……よね? 」


<――直後

俺の問い掛けを肯定した天照様。


すると――>


ちなみに……私の所にも“護傘マモリガサ”が有るのだが、とても便利が良いのだよ?

完成直後から日之本皇国へは幾度いくどと無く観光をしたし

逆に日之本皇国から……」


<――そう言って笑顔で話し始めたムスタファ。


だが……彼の思い出話に楽しく耳を傾ける事よりも前に

解決すべき大きな疑問が俺には有った。


その“疑問”とは――>


………


……



「それは楽しそうで何よりだけど……その前に。


天照様……“護傘あれ”が

“そう言う機能”を持った施設って事は分かりましたし

その施設を政令国家こっちにも建造して

往来を容易よういにするのはとても良い事だとは思うのですが……」


<――俺が此処ここまでを口にした瞬間

天照様は直ぐにその“真意”に気が付き――>


「ええ……“ご憂慮されている様な事”が決して起きぬ様

安全面には最大限の配慮が為されています。


我が国の護傘マモリガサ起動には私が

アラブリアの護傘マモリガサ起動にはムスタファさんが

そして、政令国家に建設予定の護傘マモリガサには――


――主人公様、貴方に“鍵”と成って頂く予定なのです」


「何故、俺なんです? ……と聞きたいのは山々なのですが

それよりも聞いて置くべき事が山の様にあるんです。


そもそも“脅されて無理やり”とかって危険性もありますし

天照様を含め、今日お越しになった皆様が――


“我が国とメリカーノアの間に起きた戦争しんじつを知っている”


――と仮定した上で、とても失礼な質問をさせて頂きますけど

ムスタファや天照様が長である間は兎も角として

それ以外の“代”に変わった時、俺達の国同士が

“永続的に友好国である保証”は……何処どこに有るんでしょうか? 」


<――正直

死ぬ程失礼な質問だとは分かっていた……だが。


いくら俺に見る目が無かったとは言え

あれ程信頼し、憧れてすら居たメリカーノアの長に裏切られ

多数の国民と兵士を失った後に

“はい、そうですか”と無条件で信じる事は出来なかった。


そして……本来ならばそんな心の内は

みずからが外交大臣と言う役職である事も考えれば

隠し通す位じゃ無ければ駄目なのだろうが

天照様の様に“全てを見通す目”が有る訳でも無ければ

アルバートの一件に代表する様に、そもそも

“人を見る目”を養うべきな俺ではそんなに器用な事は出来なかった。


だが、そんな時――>


………


……



「フッ……見る目の無い男よ。


よもや、真なる味方をも疑うとは……」


<――突如として

この場に居ない筈の“モナーク”の物らしき“気”が充満したかと思うと

背後から、俺を嘲笑あざわらう様な彼奴モナークの声が聞こえた……気がした。


当然、直ぐに振り向いたが……やはり居ない。


と言うか、少し前――


“俺の影から出て来た”


――と彼奴モナークは言ったが

もしかして、この会談を盗み見て居たとでも言うのだろうか?


まぁ……いずれにせよ

突如として“勢い良く背後の壁を見た”俺の所為で

執務室に何とも言えない妙な間が訪れた事は兎も角として――>


………


……



「その……と、兎に角。


護傘マモリガサの安全性とか、仕組みとか……正直、建てる建てないに関わらず

色々と聞きたい事が多いと言いますか……」


「……ええ、勿論です。


では、ず――」


<――この後

天照様が話してくれた“護傘マモリガサ”の設計と仕組み。


ず、起動に必要な“コア”の持つ特性的に

決められた鍵と成る者のみ“一代限り”の運用しか出来ず

更に、鍵となる者が“トライスター”である必要や

使用時の精神的安定……つまり、悪意やおびえ。


例えば……“脅されて無理やり”等の外的要因が見られた場合

護傘マモリガサは完全に“崩壊”するらしい。


暫くの後、これらの説明をし終えた上で――>


………


……



「ですが……本日訪れた本当の理由は護傘マモリガサ建設の為などではありません。


……本日、私やムスタファさんが政令国家へと訪れ

この様な会談の場を開いて頂いた一番の理由は……主人公様。


貴方との“約束”が為なのですよ? 」


「俺との約束? それは一体どう言う……」


<――そうたずねた瞬間

天照様は、政令国家の危機を伝えられ

“時間を戻す”事に成った“あの日”から数えて数日程前の事……


……舞踏会ぶとうかいの為、天照様から直々に“ダンスレッスン”を受けていた日

俺の頼んだ“約束”を口にした。


それは――>


………


……



「……あの日、主人公さんとの間に交わした

ディーン隊の皆様に関する約束です。


主人公様、貴方は私に対し――


“彼らが無理をしていないかだけを確認して下さい

そう出来る眼をお持ちの天照様にしか頼めない事です”


――そう、願われましたね? 」


「ええ、確かにそうお願いはしましたけど……」


「主人公様……私の力は、良し悪しに関わらず

ほとんど常時発動している様な物なのですが

去る二ヶ月程前の事……ディーン隊の皆様から

明らかな“無理”を感じた事が有ったのです。


初めに感じた違和感は“オウルさん”の事……ですが

おりしもその当時は周辺海域で海賊達の動きが活発化していた事もあり

ディーン隊の皆様はおろ

私達自身も下手に動けない状況が続いていたのです。


……そんな中“例の一件”で動いて頂いた

ムスタファ様の存在を思い出した私は……直ぐに連絡を取り

周辺海域と我が国の状況をお伝えしたのですが

ムスタファ様からのお返事に依って

我が国は海賊問題に関する真犯人を知る事と成ったのです」


「……真犯人?

それは、一体……」


<――そうたずねた俺の質問に答えてくれたのは

天照様では無く、ムスタファで――>


………


……



「……日之本皇国の周辺海域を彷徨うろついていた海賊達だが

いくら海賊共が強力な武器や多くの人員を持っていても

彼らのほとんどが魔導師も戦士も居ない“烏合うごうしゅう”と呼ぶべき程度で

一人一人を見れば、大抵は何処どこかからさらわれて来た

不遇ふぐうの過去を持つ者達でしか無かった。


嫌な話ではあるのだが……そんな彼らをつな唯一ゆいいつ絶対の存在と言えば

贅沢に暮らせるだけの潤沢じゅんたくな“カネ”だけだ。


……主人公、それだけのカネを用意出来る国が

この世界に一体いくつ有ると思う? 」


「彼らが満足出来る程の大金を用意出来る国……まさか!?

ムスタファ、お前ッ! ……」


「なっ?! ……ち、違うよ!!


全く……ひどいよ。


爺や、主人公がひどい事を言うんだ……泣いても良いよね? 」


「いえ、ムスタファ様……主人公様は恐らく御冗談をおっしゃられたのです。


主人公様……そうで御座いますな? 」


<――この瞬間

ハイダルさんの“地雷”を踏んだ俺は

彼から発せられる威圧感におびえ――>


「えっ? あっ、その……はい」


<――と答えたのだった。


ほんの一瞬だけムスタファを疑ってしまった事もそうだが


“ああ……色んな意味で情けない”


と、軽い自己嫌悪じこけんおおちいって居た俺に対し――>


………


……



「何だ冗談だったのか……でも、冗談キツいよ。


さてと……話を戻すが、我が国と日之本皇国

そして、あのメリカーノアを除いた上で……


……圧倒的な資金力を持ち、悪意に満ち溢れた手法を取る国となると

思い浮かんだ国は一国だけだったんだ。


その国とは――


――現在、私の弟が長を努めている“メッサーレル君主国”だ」


<――この瞬間

そう言い放ったムスタファからは

簡単には言い表せない大きな悲しみを感じた――>


===第百六九話・終===

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