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第百六七話「見守るのは……楽勝ですか? 」

<――重要な情報を“古い知り合い”から受け取った俺は

スッキリとしない感情と共に皆を引き連れヴェルツへと帰還した。


……だが、そんな俺の心情を知ってか知らずか

ヴェルツで呑んでいたハンターらしき数人の男達から聞こえて来た

ある噂話に依って……俺は

“悩む暇”すら消し飛ばされる事と成るのだった――>


………


……



「おかえ……って、どうしたんだい?

皆して浮かない顔をして……何か有ったのかい? 」


「い、いえ……ひ、久しぶりに色々まわったら疲れちゃって!

そ、その……取り敢えず、ジュースか何かを頂けますか? 」


「そうだったのかい……けど、まだ病み上がりなんだし

余り無理をしたり、勿論悩んだりも控えなきゃ駄目だよ?


さて……ジュースだったね。


今用意するから待ってておくれ……」


<――俺の苦しい言い訳に対し

明らかに“気を使ってくれた”ミリアさん。


当然、申し訳無さは感じたが……その反面

これ以上、この“悩み”を大切な人達にかかえさせたくなかった俺は

心苦しさをおさえつつ、仲間達と共にいつもの席に着いた。


だが、そんな時――>


………


……



「……なぁ、お前達も聞いたか? “あの話”」


「何でぃ? ……“淫魔館ロベルタのところ”に新しいでも入ったか? 」


「……違っげぇよ!!!

俺はジェシカちゃん一筋で!! ……って。


……何言わせんだよオメェは!! 」


「はは~ん? ……語るに落ちたなぁ~このエロ男め! 」


「……だから違ぇっての!!

それ以上冷やかすってんならこの話は止めだ!

後でどれだけ頼まれてもお前達には教えてやらねぇからな?!

精々“色話”にでも欲情してやがれってんだ! ……」


「なっ!? ……わ、悪かったって!

中途半端に話を切り上げられちゃ気になって仕様が無え!

もう騒がねぇって約束するから話してくれよ! 」


「本当だな? ……ったく。


何でも良いが……少し前、没落貴族の一人でジョルジュってのが

かの有名な“元魔王様”を倒したって吹聴ふうちょうしてた事があったろ? 」


「ああ……だが“本人マオウサマ”がピンピンしてたモンで

その点をツッコんだら――


“あれはきっと、主人公が治療をほどこしたに違いない!

奴は慈悲じひ深く優秀な魔導師だからな! ”


――って、自分だけ納得してどっかに行きやがったのは覚えてるが

あれがどうしたんだよ? 」


「いや……それについてなんだがよ?

その“優秀な魔導師”さんとやらを最近見かけなかっただろ?


でよ? その事を知ったあの野郎、何を“とち狂った”のか――


国難こくなんきわめる今こそ、私の様な強者の腕をほっして居る筈だ! ”


――って、ギルド受付の姉ちゃんにのたまったかと思ったら

しまいには“ハンター試験を受けさせろ”って言い出しやがった。


まぁ……とは言え、試験自体は誰でも受けられるモンだから

あの野郎、その足で試験を受けたんだよ。


……結果はどうなったと思う? 」


「どう成ったんでぃ? ……」


<――彼らが皮肉ひにくった様に口にした“優秀な魔導師”


もとい……“俺”の存在に気付かない程“泥酔でいすい”して居た彼らに取っては

数多く有る噂話の一つに過ぎないであろうこの話。


だが、その噂話の“結末”に――>


………


……



「……野郎、剣の適性はわずかにあった様でな

あろう事か剣士の試験を突破しやがったんだよ。


まぁ、野郎程度の男が俺と同じ職業ってのはいささか気に食わねぇんだが……


……兎も角だ。


野郎“今日が初仕事だ”って浮かれてよぉ?

受付の姉ちゃんに――


“ジョルジュ様は現在Cランクで御座いますので

二つも上のランクをお受け頂く訳には……”


――って断られたにも関わらず

それでも折れずに――


“な……何を言うか!

私はあの、魔王モナークすら瀕死ひんしに追い込んだのだぞ?

心配などいらん、希望する仕事を見繕みつくろって貰おう! ”


――って、なかば無理やり依頼を引き受けやがった上に

無理やり行こうとする奴の身を案じて、受付の姉ちゃんが――


“せめて同行者を! ”


――って忠告したのすら無視して行っちまったんだよ。


其処そこで、だ……お前達、野郎が“どう成る”と思うよ? 」


「どうって……そりゃお前

二つも上の依頼と言やぁ、慣れてる俺達ですら受けねぇ位だぜ?


いいトコ“四肢ししのどれかを失う”程度か

悪くすりゃあ“葬儀屋そうぎやが儲かる”って事だろうさ。


けどよ? ……アイツは元々この国に混乱を引き起こした張本人だぜ?

別に居ても居なくても、大した問題には……いや。


掛けの対象位には成るってモンだな! アッハッハッ!! ……」


<――直後


これ以上無い程の強い胸騒ぎを感じた俺は、直ぐにギルドへと転移し

受付嬢さんに対し、ジョルジュが引き受けたと言う“依頼内容”と

その“場所”をたずねた。


すると――>


………


……



「それが……彼が無理やり引き受けた依頼はAランクと言うだけでは無く

この数日間に渡り、該当地域付近の依頼を引き受けていた

数多くのハンター達から――


“凶暴化した魔物の出現が多発して居る”


――との報告を受けて居た地域であった事もあり

詳しい事情を調べた上で

依頼ランクの再設定を行う予定の地域だったのです。


勿論、主人公様程の腕前であれば大した脅威には成らないとは思うのですが

少なくとも、彼の腕前では相当に危険な……って、主人公様? 」


<――この瞬間、二つの“不味マズい事態”に頭をかかえていた俺。


一つ目は俺自身が該当地域への転移をおこなった経験が無い事。


そして……一つ目の問題が可愛く見える程の大問題である二つ目。


“魔物の凶暴化”と聞いて真っ先に思い浮かんだ事が

不具合バグ”……しくは“バグ”の仕業である可能性が高い事。


いずれにせよ……このまま放置すればず間違い無く

ジョルジュは帰らぬ人となるだろう。


直後……俺は、受付嬢さんに対し

依頼外の仕事としてジョルジュの救出を買って出た。


その上で――>


………


……



「その……大丈夫だとは思いますが、ヴェルツに皆を残して来ているので

もし俺の事をたずねられたら事実を伝えて下さい。


ただし、依頼場所にはこない様に伝えて下さい」


「そ、それは構いませんが……何故です? 」


「……ジョルジュの性格を考えての事です。


兎に角、そう言う事なので……お願いしますッ! 」


<――直後

依頼場所に最も近い場所へと転移した俺は、余り得意とは言えない

“徒歩での”捜索を始める事に成ったのだが――>


………


……



「きついな……しかし、普段から運動不足では有るけど

地図で見る限りの距離と彼奴ジョルジュが引き受けた時間を考えると

無理にでも走るべきかも知れないな……


……仕方無い。


うりゃああああああああっ!!! ……」


<――俺は必死に走り続けた。


彼奴ジョルジュの命を救う為……悲鳴をあげる身体にむちを打ち


なおも必死に走り続けた――>


………


……



「はぁ……はぁッ! ……ちょっと……


一旦いったん……休憩……ゲホッゲホッ!! 」


<――“人間、慣れない事をする物では無い”


あらゆる状況で聞くセリフだが……少なくとも

俺の持つ、物理的な意味の“スタミナ”は

わずか数百メートル程度を走った程度で完全に消え去ってしまった――>


「……うん。


今更だけど、物凄く情けない」


<――ともあれ。


この後……息切いきぎれどころか“事切ことぎれ”そうに成りつつ

依頼場所の地図にしたがい、少しずつでは有るが歩を進めていた俺。


だが、そんな中――>


………


……



「えっと、地図上では大体……半分か。


キツイけど、早く彼奴ジョルジュを見つけないと……って。


……あれは!? 」


<――進行方向の少し先

道端みちばたに落ちて居る“布切れ”に気が付いた俺。


だが……直後、拾い上げたこの布には

わずかだが血が付着していて――>


「……もしこれが彼奴ジョルジュの物なら

彼奴アイツは何かしらの怪我をして居る可能性が高い。


けど、周囲には争った形跡も無いし……」


<――この後、依頼場所へ近づくにつれて

よろいの欠片や布の切れ端、壊れた武器などが目立ち始め……


……周囲に散乱するそれらの物に気付く度

不安や嫌な予感も一層強く成り始めていた頃――>


………


……



「……くそッ! 何処どこに居るんだよッ?!

早く見つけて連れ帰らないと、取り返しが……って。


あれはッ?! ……」


<――暫く歩いた道の先


木々の生い茂る森の中、微かに見えた人影に気付いた俺は

この人影がジョルジュで有るかどうかを確認する為

気付かれぬ様、視認出来る距離での連続転移を発動させ

こっそりと先回りし、物陰に隠れて様子をうかがった。


すると――>


………


……



「しかし……初仕事で興奮していたとは言え

何故なぜこの様な遠距離の依頼を受けてしまったのだ私はッ!!


……目標以外の魔物に遭遇そうぐうしない事は不幸中の幸いだが

この様に遠くては、到達前に此方こちらの体力が尽きてしまうでは無いかッ! 」


<――ハンカチで汗を拭いつつ

頻繁ひんぱんに水分補給をしながら悪態あくたいをついていた“人影”


ああ……間違い無くジョルジュだ。


ともあれ、ようやく……そして“無事に”発見出来た事への安堵あんど

相変わらずの“悪態あくたいっぷり”にほんの少しだけ“イラッ”っとしつつも

無理矢理にでも連れ帰る為、なお悪態あくたいを付き続けて居た

ジョルジュの前に出ようと考えていた、その時――>


………


……



「……とは言え、私はこれでも元貴族だ。


成ればこそ、このつらきびしい道程みちのりを乗り越え

この仕事を成しげ……主人公は元より

かつて敵であった筈の魔族達に国防のほとんどを頼り切ると言う

いびつなままの現状を、少しは“肩代わり”出来るのだと……


……私は、その為の“あかし”を得なければ成らない。


何よりも……愚かな私をゆるしただけで無く

彼に取っては“鬱陶うっとうしい存在”でしか無い筈の私に対し

治療をほどこす為、有ろう事か魔王にまで手を借り

“一芝居打つ”手間までもを掛けてくれた

主人公かれに対する恩返しとつぐないの為――


“国をうれい、まもる事をとする”


――そんな、本来有るべき貴族としての姿を彼に見せ

例えわずかで有ろうとも、彼の背負い続けている重荷を降ろさせる事。


其れこそが、この初仕事が持つ最大の“目的”なのだ。


成ればこそ、私は歩みを止めはしないッ!! ……進むのだジョルジュ!!

たとえ没落ぼつらくしようとも

“貴族の誇り”は消え去らぬ事をみずからの手で証明するのだッ!! ……」


………


……



<――“無理矢理にでも連れ帰ろう”


直前までそう思っていた俺は……気がつくと

眼の前を横切るジョルジュの姿を……その、いさましさあふれる横顔を

ただながめる事しか出来ずに居た。


だがその一方で……此処ここが彼に取って“危険な地域”である事に違いは無く

また、受付嬢さんの言う

“凶暴化した魔物”の存在が気に成って居たのも事実だ。


だが……此処ここで彼の前に現れ――


“お前じゃ危ない”


――と、彼の信念を馬鹿にした様な態度を取る事だけは避けたかったし

何よりも、これ程までに純粋な考えを持つジョルジュの事を

“応援したい”と心の底から感じてしまった俺は――>


………


……



「……ジョルジュ、お前の気持ちを絶対に無駄にはさせないよ。


俺……お前がちゃんと“カッコつけられる”様に

陰ながら協力するから――」


<――直後


彼の進む進行方向よりも少し先に転移し

周囲一帯に潜んで居た魔物に対し

片っ端から睡眠の魔導を掛けまくった俺は――>


………


……



「……よし。


この位強めに掛けておけば、踏んでも起きない筈……って!?


ジョルジュが来た……隠れないと! 」


<――再び物陰へと隠れる羽目に成っていた。


直後、俺に気付く事無く再び通り過ぎて行ったジョルジュ

そして……そんな彼に気付かれぬ様、再び先回りし

周囲の魔物を無力化しようとしていた、その時――>


………


……



可怪おかしい……そろそろ依頼場所の筈なのだが

此処ここまで一度も魔物に遭遇そうぐうしていない……まさか?! 」


<――流石に異変に気付いてしまったのか

周囲を警戒し、辺りを見回しながらそう言ったジョルジュ。


だが、一度“手を打った”かと思うと――>


………


……



「……分かったぞ!!

私の発する覇気はきに恐れをなして、隠れひそんで居るのだな!! 」


<――と、信じられない自惚うぬぼれ発言を繰り出したジョルジュ。


そしてその直後、周囲の草木を掻き分け

本来通るルートでは無い方向を“あさり始めた”かと思うと――>


「……ええいっ!

手慣てならし程度の魔物で構わんっ!


何処どこかにっ! ……


……魔物はっ!


居らんのかっ! ……」


<――と、目標外の魔物を探し始めたジョルジュは

周囲の草木を、手に入れたばかりと思しき剣で切り裂き始めた。


だが……ジョルジュのこの行動は

物陰に潜んでいた“俺”に取っては、凄まじく“不味マズい”行動で――>


………


……



(や、やばいッ! ってかジョルジュの奴一直線に近づいて来てるッ?!

この状況で何処どこに転移すれば良いんだっ?!

もし遠過ぎる場所に転移してジョルジュに万が一の事があったら

それこそ何の意味も無いし……って、不味マズいッ!


取り敢えず、あの辺りに転移だッ! ……)


<――直後

ジョルジュに見つからないであろうギリギリの位置に転移した俺。


その直後……たった今まで

“俺が隠れていた場所”にたどり着いたジョルジュは――>


………


……



「ん? ……草木が踏まれている。


この形跡は人の物か? ……いや“人型の魔物”が潜んでいるのかも知れん。


いずれにせよ、警戒せねば……」


<――何と言うべきか


“ある意味”正解なのだが……暫く経ち

手慣てならし用の魔物を探す事を諦めたジョルジュは

再び依頼場所へのルートへと戻ると、引き続き“人型の魔物”に警戒しつつ

周囲を見渡し……この直後、突如として剣を抜き正眼せいがんに構えた。


だが……先程までの位置とは違い、現在俺が隠れている場所からでは

彼が“何に遭遇そうぐうしているのか”視認しにんする事は不可能で――>


………


……



「……不味マズい、もし彼奴ジョルジュバグみたいな未知の存在に立ち向かってたら

この距離からじゃ助けられない……でも彼奴の覚悟を踏みにじるのは嫌だ。


クソッ、何か方法は……って。


……これだッ! 」


<――突然の状況に慌てつつも周囲を見回し

その結果、近くに落ちていた大きな麻袋あさぶくろを発見した俺は

直ぐにこれを“身にまとい”――>


「よし……これで少なくとも俺だとはバレない筈。


……後は、最悪ジョルジュを防衛魔導で包んで

危ない敵なら遠くに引き離して

依頼の敵だったらそれなりにダメージを与えて

直ぐに転移にげればあるいは……兎に角

ずは敵の確認が出来る場所まで転移だッ! ――」


<――直後、尚も正眼に構えたまま微動びどうだにしないジョルジュの

側面に生えている茂みへと転移した俺は――>


………


……



「……くッ!


す、凄まじい闘気を感じるぞ化け物よ……」


<――正眼に構えたまま

相対する魔物に対し、冷や汗を流しながらそう発したジョルジュ。


だが、相対している“筈”の魔物は彼の眼前には居らず……


……有ろう事か、彼の“真後ろ”に立っていた。


にも関わらず、何故か構えを解かず……あまつさ

目の焦点すら安定していないジョルジュの姿に――


“まさか、この魔物……幻術げんじゅつ使いか? ”


――そう考えた俺は、魔物に対し捕縛の魔導を掛けつつ

同時にこの魔物の能力値を確認し……そして“予想通りの”情報を見た瞬間。


ジョルジュは勿論……大抵のハンターが太刀打ち出来ないであろう

ある異様なスキルの存在を発見した俺――>


………


……



「全く……ジョルジュも運が悪いな。


良く無事で居てくれたよホント……」


<――思わずそうつぶやいてしまった。


と言うのも……この魔物、どうやら

幻術げんじゅつ”は勿論の事、凶暴化した魔物が大量発生した

その“原因”と思われる様な技まで有して居た。


特殊技の説明欄には――


“植物を除く全ての生物に対し、強化効果と共に

強い催眠さいみん効果をもたらし、対象をあやつる事が出来る”


――と言う説明で始まるスキルが有った。


その名も……“操人形パペット


説明欄には更に――


この技に掛かった者には、術者の命令のみが届き

これにあらがった者には更なる強化効果が掛かると同時に

一層の強い催眠さいみん状態の付与と精神の錯乱さくらんを引き起こす。


――と言う無限ループ的な側面を持った記述きじゅつが為されていた。


だが……いずれにせよ、モナークによる“地獄の特訓”のお陰か

十倍以上のレベル差のお陰で、俺にこの特殊技が掛かる事は無く

むしろ、念の為強めに掛けて置いた捕縛の魔導

“蜘蛛之糸”の持つ効果にって、魔物は次第にその力を失い……


……そして、魔物が弱るにつれ

強い催眠さいみん状態におちいっていたジョルジュが

徐々に正気を取り戻し始めて居た頃――>


………


……



「な、何だ?! ……魔物め! 一体何処に消えたッ?! 」


<――背後で藻掻もがき苦しむ魔物に気付かず

辺りを見回していたジョルジュ……だが。


直後、ようやく背後の魔物に気付いたジョルジュは魔物目掛け

どう見ても買ったばかりで……


……先程、草木を切り裂いた事以外には一切使用された事が無いであろう

鏡面きょうめん仕上げと宝飾ほうしょくの美しい

明らかに“儀礼用ぎれいようおぼしき剣”を振り上げ――>


………


……



「ん? ……其処そこに居たか邪悪な魔物よッ!!!


今、この私が成敗してくれるッ!! ……エェェェィィッ!! 」


<――と、なおも隠れて見守っていた俺を

まるで――


“演劇の舞台を見に来ているかの様な気分におちいらせつつ”


――魔物に対して一撃を繰り出したジョルジュ。


直後……捕縛の魔導で弱り切って居た事も重なり

彼の一撃の下に斬りせられ、いとも簡単に絶命した魔物の姿に

ホッと胸をで下ろして居た俺の眼前では――>


………


……



「ふぅ……しかし、私も中々やるものだな!

まさか、これ程の魔物を一撃で倒してしまうとは! 」


<――と、相変わらず自惚うぬぼれ発言を連発していたジョルジュ。


正直、ほんの少しだけイラッとして居た俺だったのだが

この直後――>


………


……



「いや、それとも――


――先程からずっと私をつけて居た

“君が”手助けをしてくれたお陰と言うべきなのだろうッ! 」


<――そう言うや否や

俺の潜んでいる場所を勢い良く指したジョルジュ。


この予想外の行動に慌てつつも

俺だとバレぬ様、咄嗟とっさに“裏声”でえた俺に対し――>


「……全く。


今に至るまで、一切魔物が現れぬと思っていたら……ん?

“布袋の君”……君が何者かは判らぬが

先程よりもいささか“背丈が縮んでは”居ないかね? 」


「何の事やら~俺……い、いや。


私は森の妖精、モ……“モニョゴニョペ”と申す者ぉ~っ! 」


<――無理のある誤魔化し方をした俺の“アホっぽさ”はともあれ。


どう言う事だろう? ……慌てて落ちていた布袋を被りはしたが

“身長が縮んだ”と言われる意味は全く分からなかった。


だが、疑問を感じて居た俺に近づくと

ジョルジュは布袋を勢い良く剥ぎ取り――>


「……なっ!?

お前は……主人公、何故この様な所にっ!? 」


「何の事やらぁ~♪ 私は森のぉ~……って、流石にだませないよな」


<――直後

“喉が痛くなる様な裏声”を止め、観念した俺に対し

ジョルジュはとても残念そうに――>


………


……



「成程……私などでは

貴様や魔族らの代わりには成れないと言う事か……」


<――そう言って肩を落としこの場を立ち去ろうとした。


だが――>


「待ってくれ! ……断じてそんな事は言って無い!!

むしろ、お前が政令国家や俺達の事を

必死で考えてくれてる姿を目の当たりにして、それで! ……」


「それで――


“万が一にも私が危ない目にわぬ様”


――見守っていたと? 」


「ああ! だから代わりになれないとか! ……」


「……そうか。


やはり何処どこまで行っても貴様から見れば私は――


“世間知らずで面倒を起こす、無能な貴族崩れ”


――なのだろうな。


主人公……手間を掛けて、済まなかった」


「なっ?! ……違うって言ってるだろ!?

何でそんなひどい受け取り方するんだよ?!


……そんな事言わずにちゃんと話を聞いてくれッ!


そもそも、二個も上のランクの依頼を受けるなんて自殺行為だし

本当に俺達や国の事を考えて、強くなろうとしてくれてたんなら

何でそんな危ない橋を渡ろうなんて考えたんだよ!?


無論、俺にだって誰にも話さず

“秘密で動く”気持ちが分からないとは言わない……だけどッ!


物事には! ……」


「“順序が有り、ゆっくりと着実に”……と言うのか?

ではたずねるが……主人公。


貴様が今まで、政令国家を始めとする大切な者達をまもる為

一切の無理をしてこなかったとでも言うのか?


どうだ? ……答えろ主人公ッッ!!! 」


「そ、それは……して来たよ。


ああ! ……して来たよッ!!!


けど……だから何だよ!? 俺には出来るからやっただけだ!!

でも、お前には俺と同じ事は出来ないって言ってるんだよ!!! 」


「ふっ……やっと“本心を語った”か

やはり、私は貴様に取ってお荷物でしか……」


「……黙れよッ!

俺の話を最後まで聞けッ!! ……お前は確かに俺と同じ事は出来ない。


……けどな。


お前にしか頼めない、お前にしか出来ない……そんな事だって有る筈だろ?


それを、どんな理由であれ“慣れない事”をやって助けられて……


……挙げ句それで不貞腐ふてくされてッ!!


頼むよジョルジュ……俺はもう

お前との間に起きた事なんて何一切気にしてない……むし

お前と仲良くして……友達に成りたいとすら思ってるんだよ!!


そんな大切な男が、俺の知らない所で……こんな……


……こんな危険な地域の何処どこかで、もしも人知れず死んでたら

俺は一体、どうやってそのつらさを解決すれば良いんだよッ!? 」


<――大切さを伝える為

そして……友達になりたいって事を伝える為

大声を出し、涙を流し……言わないと決めていた筈の

“失礼極まりない発言”をしてまで……


……かつて“天敵”の様な振る舞いを続けていた相手に対し

精一杯の想いを伝えた俺。


思えば、ヴェルツに居た酔っ払いのハンター達が言い放った――


“居ても居なくても”


――そうジョルジュを形容した悪口を聞いた瞬間から

俺はずっと、怒りに震えて居たのかも知れない。


“あの時”……俺をまもる為

モナークの前に立ち塞がったジョルジュは……誰が何と言おうと

そんな“軽い”存在などでは無かった。


俺は……あの“酔っ払い達”を始めとする

“上辺だけを見る連中”におさえ様の無い怒りを感じていたのだ。


……とは言え、そんな俺の心が

ジョルジュに伝わったかどうかは分からない。


だが、少なくとも――>


………


……



「……主人公。


本当に私などで良いのなら……貴様の友の一人として

私を受け入れて貰えるのだろうか? 」


「ああ、むしろ俺の方から頼みたい位だよ。


ジョルジュ……色々有ったけど、これからは仲良くしようなッ! 」


「ああ……だが、その前に一つ言わせて貰おう主人公」


「ん? 何だ? ……」


「森の妖精“モニョゴニョペ”は二度とるべきでは無い。


あれはあまりにも……貴様の“汚点”に成りかねん」


「な゛ッ!? ……普通、其処そこまで言うかお前ッ!? 」


<――想いは伝わった。


……と、思うけど


やっぱり少しだけ、イラッとした――>


………


……



《――この日、彼らの間に芽生えた友情は

変わる事無くながく続いた。


この後……彼らの友情が後の政令国家を

より良い姿へとみちびかてと成るかは……今は分からない。


だが……いがう事を止め

互いに手を取り合う事を選んだ彼らの顔は清々しさにあふれていた。


一方……照れた様に握手を交わす

彼らの足元に投げ捨てられて居た麻袋には

ヴェルツ二号店へとおろされる食材用袋に必ず記載されている“通し番号”と

魔族種特有の、とても“強大な”魔導力が残留ざんりゅうしていた――》


………


……



「……お帰りなさいませモナーク様。


本日はどちら……って!? 衣服に土汚れが?!


……い、一体何処どこの不届き者ですッ!? 」


「フッ……土など払えばしまいであろうアイヴィー

その様に些末さまつな事など気にせず、我にカレーを差し出すが良い」


「モ、モナーク様がそうおっしゃっしゃられるのでしたら……カレーですね。


直ぐにお持ち致しますので、暫くお待ちを……」


「いや、待てアイヴィー……今日は疲れた。


福神漬ふくじんづけ”とやらもえよ……」


「ハッ! ……」


===第百六七話・終===

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