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第百六六話「知るべき事を知るのは楽勝ですか? 」

<――とても長い時間を掛け

俺が眠っていた間の記憶を埋めてくれた皆。


知らなかった事や、知って置くべき事……そして

“知りたく無かった事”までも知る事と成った今日と言う日。


数多くの疑問と解明すべき事柄を生み出した皆からの情報は

結果として、俺を“古い知り合い”へとみちびいた――>


………


……



ずは皆にお礼を言わせて欲しい……皆、本当に有難う。


……それと、俺が眠ってる間に心配と苦労を掛けてごめん

少しずつ大臣としての仕事も、皆の疑問も解決していくから

俺が本調子に成るまで、もう少しだけ待ってて欲しいんだ……良いかな? 」


<――俺の身を案じこの部屋に集まってくれた皆に対し

少しでも誠意の有る対応をしたい一心でそう伝えた俺。


そんな俺の宣言に対し――


“気にするな”


“安心しろ、大丈夫だ”


――と、優しい気遣いの言葉を掛けてくれた皆。


この後……お昼時を過ぎ、忙しくなる時間帯を迎えた事もあり

皆がそれぞれの持ち場に帰って行った頃……


……真剣な話だったって事もそうだが、約三週間と言う長い昏睡こんすい状態で

当然ながら一切の食事を摂れて居なかった事も重なったのか

結構な空腹を感じていた俺は急いで一階へと降りた。


……だが、食事を摂る為に降りた一階で再会した“三人”の存在に

良い意味で俺の食欲は吹っ飛ぶ事と成った――>


………


……



「……主人公様、ご無事で何よりで御座います」


「おぉ?! ……オウルさん!!

そちらこそお元気そうで何より……って!!


そ、その……おめでとう御座いますッ!! 」


<――元気そうなオウルさんの姿を見た瞬間

舞い上がってしまった俺は

二人の間にはぐくまれた“愛の結晶”についてのお祝いを伝えた。


だが……オウルさんは俺の言葉を聞いた瞬間

何故ゆえか涙を流し、膝から崩れ落ちた。


……当然、こんな反応をされてしまえば

お腹の子に何か有ったのかと考えるのが普通だろう。


直後、慌ててオウルさんをただした俺。


だが崩れ落ちた理由は、別にあった様で――>


………


……



「何が……何が有ったんですっ?! 」


「い、いえ……母子共に健康で御座います。


私が涙し、膝をついている理由は……主人公様

貴方に対する“罪の意識”がゆえなのです……」


<――そう言うや否や土下座をしたオウルさん。


だが……猛省もうせいし、真摯しんしな態度でべた彼の謝罪の言葉は

どれ一つとして俺自身が欲して居る物では無くて――>


………


……



「……オウルさん。


一刻も早く顔を上げてくれないと、本気で怒りますよ? 」


「ええ、主人公様のお怒りは重々……」


「い、いやだからそうじゃなくてですね……


その……あの……だぁぁッーもうッ!!


……丁度良い機会だし、この際呼び捨てにするよ。


オウル……俺は一切怒ってない、だからずは椅子に座ってくれないか? 」


「よ、宜しいのでしょうか……」


「……なぁオウル、後一回でも俺の“お願い”を無視したら

お前の事……ディーンに言いつけるぞ? 」


「なっ?! ……直ちにッ! 」


<――直後

ウソみたいなスピードで椅子に座ったオウルさん……もといオウル。


ともあれ……あの時、彼が置かれて居た状況をもし自分に置き換えたなら

きっと、誰でも彼と同じ行動を取るに違いないだろう。


少なくとも、今この場で彼の事を責めたくは無かったし

そもそも、平和な暮らしを願う人の邪魔をする趣味は無くて――>


………


……



「……まぁ兎に角、本当におめでとう。


生まれてくる子供が男であれ女であれ

元気に育ってくれたら俺も嬉しいしさ……だからもう

“反省”は止めてくれるか? ……」


<――なおも反省し続けていたオウルの背中をさすりつつそう伝えた俺。


すると、この場に同席していた後の“二人”の内――>


「えっと……私も呼び捨てでいいよ。


それと、子供の性別は……女の子……だよ」


<――そう言って子供の性別を教えてくれたのは

ライラさん……もとい、ライラだった。


直後“何故分かるの? ”と質問した俺に対し――>


………


……



「えっと、凝光ドラゴンが……そうだって教えてくれたの」


「そうなのか……てかそんな事まで分かるとか

凝光ちゃん、凄いな……」


<――思わず感心し、何気無なにげなくそう言った俺の言葉に

ライラの肩に乗っていた“ミニ状態”の凝光ちゃんは嬉しそうに小さく鳴いた。


そして……


……そんな“ミニ凝光ちゃん”を優しくでつつ

俺の事を心配してくれた、残る“もう一人”の同席者は――>


「……お久しぶり主人公さん、お元気そうで何よりよ。


でも、大変な苦労をしたみたいね……凄く顔に“あらわれてる”わ? 」


<――そう言って俺の事を心配してくれた同席者は

ライラと旅立つ事を決めた絵師のクロエさんだった――>


「……い゛ッ!?

ま、まさか……“き物”でもついてるとか?! 」


「そうじゃないの……何かを悩んでいる人には

ほとんど必ずと言って良い程現れる“シワ”があるのだけれど

貴方の顔にその線がくっきりと出てるって言っただけよ。


兎に角……もし私達で協力出来る事なら話してみて? 」


<――そう言って心配してくれたクロエさん。


だが……久々に再会した喜びを

わずかでも曇らせる様な話をしたく無かった俺は――>


「い、いえその……三週間も眠ってたので

悪夢にうなされたり、お腹が減ってたりって感じなだけですので……」


<――と言い訳をした。


すると――>


「……そう。


じゃあ……久しぶりの再会を祝して豪勢な食事にしようかしら?

勿論、言い出しっぺの私が奢るからっ♪ 」


<――と直ぐに話の方向性を変えたクロエさん。


その上で、彼女は……俺が言い訳をした瞬間

“話したい内容では無い”事に気付いた皆が俺の下手な言い訳を“つつく”前に

オウルの妻である、サラさんに関する話題へと話をらしてくれた。


ともあれ、彼女の洞察力と大人な対応力にひそかに感謝していた俺に対し

彼女は続けて――>


………


……



「あぁそうそう! ……サラさんが優秀な薬師だった事と

彼女と共に運ばれた大量の薬草や薬のお陰で

この国にける薬の全体的な供給量に余裕が生まれたらしくて

この国の医療的な水準が上がって……結果として“例の件”で負傷した

民や兵達の痛みを最大限和らげる事に役立ったって話はもういたかしら? 」


「いえ、初耳ですが……と言うかそうなると

サラさんはこの国で薬師としてのお仕事をされるんですか? 」


「ええ、でも本人は――


“この国に元から居た薬師達の仕事を奪うのは嫌だから

他の薬師達が作れない物だけを担当しようと思っています”


――って言ってたし、そもそも彼女は今“身重の身体”だから

本格的に動き出すのは流石に少し後に成るでしょうけれど

少なくとも今彼女が持っているものだけでも

この国の民の病気を“二回通り”直せる位には余裕が有るみたいよ? 」


「な、何だか凄まじいですね……」


<――この後。


話が終わるのを見計らったかの様に出来上がった

ミリアさん特製の美味しそうな料理が運ばれて来た事で

吹っ飛んでいた俺の食欲は“舞い戻り”

火がついた様にむさぼり食って居た俺の姿を

にこやかに……いや、よく考えたらほんの少しだけ

“引いてた”様にも思えなくは無いが……ともあれ。


クロエさんの気遣いにって

久しぶりの食事を堪能する事が出来た俺の様子に――>


………


……



「やっぱり主人公ちゃんは美味しそうに食べてくれるねぇ~!

見てるこっちまで幸せを感じる位美味しそうに食べるモンだから

客が多い時には注文がさばききれ無くなっちゃって大変だけど

それでも、見ていて幸せな気分に成るってモンさね! ……」


<――満面の笑みを浮かべそう言ったミリアさん。


そんな彼女に対し――>


「ミリアさん……えっと、その……有難うございますッ! 」


<――照れ隠しも出来ず、顔を真っ赤にしながらそう答えた俺。


そんなの様子を見たミリアさんは勿論

この場にいる全員が笑顔に成ってくれた事に

気恥ずかしさと嬉しさが同時に押し寄せ、妙な感情に包まれた俺。


だが、どんな理由であれ人から笑われる事を

“ムカつく事”だと思っていた頃の俺が今の俺を見たら

一体、どう思うのだろうか?


今、その頃の俺に伝えたい……俺は今“幸せ”だと。


だからこそ……この楽しい時間をまもりたい。


だからこそ、打ち明けるべきでは無い“疑問“と“恐怖”は

出来る限り胸の奥に秘めておきたい。


……そんな事を考えつつ久しぶりの食事を終えた俺は

政令国家を見て回りたい気持ちに駆られ……この後

何時もの仲間達と共に、政令国家を見て回る事に成ったのだが――>


………


……



「……さ~てと。


クロエさんも完全に“気付いてる”様子でしたし、主人公さんも

“気づかれている事に気付いている”様子でしたけど……兎に角。


主人公さん……悩んでる“何か”の事、私達には話してくれるんですよね? 」


<――皆で街の様子を見て回っていた時

唐突に俺を問いただしたマリア。


当然、しらばっくれるつもりで居た俺だったのだが――>


「主人公? ……言わないとか無いからね? 」


<――と

マリーンに詰め寄られたのを皮切りに――>


「主人公さん、私達の事……“また”置き去りにするつもりですか? 」


「い゛っ……いや……メルまで何を……」


「“生涯の友”を軽視されては吾輩も黙っては居れぬぞ主人公……」


「いや、軽視だなんてそんな……」


<――メルやガルドからも

完全に“包囲”されてしまった俺は――>


………


……



「あ゛ーもうッ! ……言うよッ! 言えば良いんだろッ?! 」


<――耐えきれなく成り思わずそう言い放った。


だが……“やっとか”とでも言わんばかりの雰囲気をまとった皆に対し

俺の“大き過ぎる”悩みを皆に伝える為には

一度、人気ひとけの無い所への移動が必要で――>


「い、言うけど……あまり大っぴらに出来る話でも無いし

一度倉庫に移動するから……腕、掴んでくれ」


<――直後

“注射器大量生産”での記憶を頼りに大統領城の倉庫へと転移した俺は

転移後、皆に対し――>


………


……



「そ、それじゃ話すけど……嫌になったら途中で止めてくれ」


<――そう警告し

皆がそれを受け入れた事を確認した俺は……今疑問に思っている事

解決すべきと考えている事の全てを、余す所無く伝えた。


伝えた疑問は大きく分けて三つ――


“魔導之大剣の問題”


“ライドウの問題”


――そして。


大小様々な疑問の中で最も大きな“疑問”と成って居た事――>


………


……



「その……俺以外の転生者が、俺の作ったこの世界で過ごしている時間が

どう計算しても……“合わない”んだ」


<――少し前から俺が疑問に思っていた事。


それは……シゲシゲさんにしろ、今回“そう”だと判明したアルバートにしろ

俺がこの世界で過ごして来た時間よりも

二人が明らかに長い時間を過ごしていると言う事だ。


……だが、仮にもこの世界は俺が作った“俺専用の世界”の筈だし

もし二人が“他世界からの転生者”って存在なのならば

俺がこの世界で過ごして来た年数を大幅に超えるアルバートなど

絶対にありえない存在の筈だし、シゲシゲさんに至っては

サーブロウ伯爵作の“絵本”の存在と、その流通に掛かった“時間”こそが

シゲシゲさんがこの世界で長らく暮らして来たであろう

圧倒的な時間の存在を表してしまっているのだ。


一体……何が起きて、何故こんな異常現象が発生しているのか。


そして……この疑問を解決出来る知識を知る人間は

現在、この世界にマリアしか居ない。


……そう考えた俺は、マリアに対し

この件に関する出来る限りの説明を求めた。


だが――>


………


……



「その……昔

ラウドさんがアルバートに対して――


“立派に成られて”


――と、まるで昔を知っているかの様な発言をしてた事

主人公さんも覚えているとは思うんですけど……」


「勿論覚えてるけど……それがどうかしたか? 」


「その……転生者として主人公さんがこの世界に飛んで来た時も

魔導医さんと“似た様な会話をした”って話……覚えてます? 」


「似た様な? ……あっ。


この世界で――


“俺の両親とされている人達が魔物に襲われた”


――って言う“あれ”か? 」


「そう……“それ”です。


でも、主人公さんにそんな記憶は無く

その時は魔導医さんと話を合わせたんですよね?


……なら、アルバートが主人公さんと同じ様な考えで

“話を合わせた”とも考えられるんじゃないかと……」


「成程な、その線も確かに……いや。


マリア……悪いが、その理論は完全に間違ってると思う」


「何でですか? 普通に考えたらこの理論が一番……」


「違うんだよマリア……ローズマリーのした昔話を思い出せば

それが完全に間違ってるって事が分かるだろ? 」


「ローズマリーさんの話した内容? ……あっ!! 」


「……気付いただろ?

彼奴アルバートがこの世界で生きていた人の身体を“乗っ取って”転生したって

まぎれも無く、彼女ローズマリー自身がそう言ったんだ。


……なら、そんな事実を知った後

この世界で彼女が奴と共に過ごした時間は一体どうやって捻出出来る?

もし仮に彼女が記憶の改竄かいざんを受けていたとしても

あの国に関わる全ての人間にそれを行うのは無理だ。


彼奴アルバートは……実年齢がどうかは兎も角

“この世界での”俺の年齢よりは明らかに年上だったし

シゲシゲさんの様に“転移”させられた様な人達は別としても

この世界の人間を乗っ取って転生した彼奴アルバートがこの世界で過ごした時間は

どれだけ少なく見積もっても、俺が過ごした五年にも満たない時間を

遥かに超えていると見て間違い無い。


なら……俺が作った“筈”のこの世界は

そもそも一体“何時から存在していた”事に成るのか……マリア。


何か知っていて“答えられない”なら……一度で良いんだ。


俺の目を見て“うなずいて”くれないか? ……」


<――この日

疑問と恐怖に感じていた事の全てを一切隠さずに話した俺。


だが……数年前までは“管理側”だったマリアにも

この件に関する真相は知り得ない物だった様で――>


………


……



「信じて下さいとは言いません……でも本当に。


私にも……分からないんです」


「そっか……ありがとうマリア。


その……取り敢えず、俺が感じてる疑問と恐怖はこれで全てだ

これで皆に対する隠し事は一切無くなったと思う。


けど、皆を嫌な気持ちにさせちゃった事は……本当にごめん」


<――余りにも不安そうな皆の表情に思わずそう謝った俺。


管理側だった彼女マリアすら知り得ない何かが

今、この世界で起きていると言うのだろうか?


一体、この世界はどう成って……どう変化して行く?


何よりも……皆と共にかかえる事と成ったこの“大き過ぎる”恐怖を

一体どうすれば解決出来るのだろうか? ――>


………


……



「ま、まぁその……一先ずは、ヴェルツにでも戻ろうか。


それか久しぶりに狩りにでも行ってさ!

パーッとストレス発散でも! ……」


<――空気を変える為にそう言った俺の“空元気”では

この場の空気を変える事は出来ず……


……ただでさえ鬱屈うっくつとした気分の中

日の当たらないこの場所にとどまり続けて居ては

余計にがいがありそうだと考えた俺は、なかば強引にヴェルツへの帰還を宣言し

皆に対し、何時いつももの様に転移前の“指示出し”をしていた。


だがそんな中……転移の為、マリーンが俺の手を掴んだ瞬間

突如として俺の頭に浮かんだ一人の“男”の存在――>


………


……



「あッ!! ……そうだッ!

“彼”ならこの疑問に答えられる筈だ!!


……いや、むし上級管理者アイツに見放されている現状では

“彼”だけが疑問を消し去ってくれる唯一の存在かもしれないッ! ……」


<――興奮し

そう言った俺の様子に皆が動揺していた中

俺は“古い知り合い”に対し、魔導通信を繋げた――>


「……魔導通信

“ヴィシュヌ”さんへ!! ――」


………


……



「ん? ……なっ!? 主人公君じゃないか!?

久しぶりだね……しかし“若返って居る”様で安心したよ」


「う゛ッ……そ、その“件”に関する話は別の機会にするとして

えっと、その……」


「……ん?


何か思い詰めた様子だが……何が有ったのかね?

いや……そもそも私に連絡をしてくる位だ

あまり“良い知らせ”では無さそうに思うのだが

一体何があったんだね? ……」


「いえその……質問が有りまして。


マリアにも分からない、この世界に関する話なのですが……」


「成程……主人公君。


私は既に“管理者”では無いし

私が答えられる事にも限界が有ると知った上で質問をして貰いたい。


もし、後一度でも“上級管理者ヤツ”の逆鱗げきりんに触れれば

妻と共に消去されかねない立場なのだと……理解はしているのだろう? 」


「え、ええ……それは勿論です。


けど……その……」


「……いや、安心してくれ。


答えないとは言っていないし、そもそも君には妻の事を助けて貰った恩もある。


取り敢えず……話してみると良い」


「……有難う御座います。


では――」


<――直後

俺達では解決する事の出来ない疑問の多くを投げ掛けた俺。


すると、ヴィシュヌさんは少し困った様な表情を浮かべつつ――>


………


……



「……まず、君に伝えておくべき事を簡潔に話そう。


一つ目は……“この世界が君の創造物であるか否か”についてだ。


この疑問に関して、今の私が答えられる“最大限”を君に伝えるとするならば

ある方面では正しく、ある方面では“間違っている”と言う事。


……そしてそもそも

この世界の半分は“既に有った世界”だと言う事だ」


「そ……そんなバカな?!

だって、転生前マリアは俺に“この世界を一から作れ”って言って! ……」


「落ち着くんだ主人公君……今から君に一つだけたずねるが

君が全てを作った“筈”のこの世界で

作った覚えの無い物や現象に遭遇そうぐうした事は? 」


「そ、それは……沢山有りますけど!


でもそれは、この世界を作る時に俺が――


“転生前に過ごしていた世界と俺の好きなゲームを

足して二で割った世界として作ってくれ”


――ってマリアに頼んだから

その過程で覚えの無い物とか現象が生まれただけで! ……」


「いや……君が話した疑問は、その程度では起き得ない。


良いかね? ……この世界の仕組みを全て君に説明する事は

既に管理者としての権限を失った私では自殺行為に等しく

私自身もその事を恐ろしく感じているんだ。


……だが、そんな中でも何とか君に伝えられるヒントの様な事で良いならば

私はそれを君に伝えたいと思っている。


余り役に立てず済まないが、今の私にはこれが精一杯だ。


理解して欲しい……」


<――直後

ヴィシュヌさんが話してくれた


“ヒント”


それは――>


………


……



「……君が旅の中で出会ったと言う

“シゲシゲさん”達を私が転移させた事は

君も上級管理者ヤツから聞いている事だし話しても問題は無いだろう。


だが……そんな君が知らない事がまだ幾つか有る。


一つ目は……彼らもまた、君が考えた通り

君が過ごした時間より遥かに長い時間をこの世界で過ごしている事。


そして――


容量超過世界オーバーキャパシティワールド


――そう呼ばれる状態におちいった世界を“統合とうごう”する様

私に指示を出した者の事は私も……そして君も“良く知っている”が

兎も角……奴は“おちいる前の世界”すらそうする様、私に命じて居たのだよ。


……無論、それが本来の規則きそくから外れた行為である事は私も知っていたし

私自身もそれを行う事に嫌悪感も有ったのだが……兎も角。


もし仮に君がこの世界で過ごしている中で、一度でも

“地図が現状といちじるしく違う”等と言った異常に遭遇そうぐうしたのなら

それが、君が過ごして居る時間と“容量超過世界オーバーキャパシティワールド”からの住人との時間に

大きなズレが生じている理由であり証拠しょうこだ。


……とは言え、大抵の場合はこの世界が自動的にそのズレを直すから

大した問題には成らない……だが、そのズレを直す過程で

世界に何らかの修復が難しい“不具合バグ”が発生する事が有る。


そしてそれらは大抵の場合……対処が困難こんなんな場合が多い。


……本来ならばもっと伝えておきたい事は多いのだが

これ以上は私の身が危ういんだ……すまないが、後は君の方で解決してくれ」


………


……



<――通信を終えた直後

俺達の中にあった疑問は大幅に解決した。


だが、同時に……疑問に関する恐怖は倍増ばいぞうしていた。


……知れば知る程、危ない道を進んでいる様で

内心、全くもって穏やかじゃなかったし

こんな事なら知らない方がマシだとすら思えた。


だが……少なくとも、この世界が俺だけの物じゃ無く

幾つかの世界から成る場所である事を知った事。


そして……少なくとも

俺がこの世界の時間を大幅に巻き戻した

“あの時”上級管理者ヤツが俺に言った――


“君の世界は君自身が鍵の役割を持っているから

君ごと再起動を行えば再起動は必ず失敗し世界の崩壊を招いてしまう”


――と言う話を考えた上で

この世界にいての“先輩”だったアルバートの死をこの世界が迎えた後

世界に何らかの異常が発生して居ない事をかんがみれば

この世界にける、ある種の“生殺与奪せいさつよだつ”みたいな物は

俺の命が引き金に成る事だけは確定事項なのだろう。


まぁ……全くもって嬉しい情報じゃ無い事に変わりは無いのだが

何れにせよ、現状得る事の出来たわずかな情報を元に

俺は、大切な人達の住むこの世界をまもる為

考えうる限りの“最善さいぜんの行動”を取り続けなければ成らない。


そして……ヴィシュヌさんが発生すると言った“不具合バグ”が

万が一にも“バグ”の事である可能性を考えつつ

対処と解決が困難と言った彼の“危惧きぐ”を

杞憂きゆうに終わらせる為の算段を取り続けなければ成らない。


いずれにせよ……一度ヴェルツに戻り

この鬱屈うっくつとした気持ちに区切りをつけ

俺自身も含め、皆が少しでも穏やかな日常を過ごせる様

どうにかして困難に打ち勝たなければ成らない。


そんな強い決意を胸に皆を連れヴェルツへと帰還した。


の、だが――>


===第百六六話・終===

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