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第百六四話「引っ越しって楽勝ですか? 」

《――戦争終結から二週後の事


いまだ目覚めぬ主人公の身を案じ

連日、彼の部屋へと訪れる者達がえぬ一方で

近々り行われる事が決定したメリカーノア大公国に対する“極秘監査”

そして……同日中に行われる事と成ったオウル、サラ両名の移住計画。


……この日、ラウド大統領はそれらの“人選”の為

極一部の大臣達らを招集し、極秘会議を開いていた――》


………


……



「ふむ……では、研究所跡地の監査役には

マリーナ殿、エリシア殿、ミア殿の三名を……次に

研究員を含む関係者の監査役にはアイヴィー殿と言う事で決定じゃ。


そして“移住”……つまりは引っ越しについてなのじゃが

正直、兵を手伝いに向かわせる事だけは避けたくてのぉ……」


《――様々な兼ね合いを考え

今日に至るまで、その為の対策に苦慮くりょして居たラウド大統領


……彼は、連日の疲れを感じさせる様な面持ちで

集まった大臣達に対しそう告げた。


そんな彼に対し――》


「ええ……要らぬ詮索せんさくを受ける事は避けるべきですが

余り時間を掛けるのも得策とは思えません……


……此処ここは私達魔族にお任せ頂くのが如何いかがかと」


《――冷静に対案を出したアイヴィー


だが、そんな彼女に対し――》


「その……気持ちは有り難いのじゃが

我が国とは違い、いまだ魔族に対する耐性が無い者の多いあの国で

万が一を考えれば、適切とは思えんのじゃ……そもそも

アイヴィー殿には“二号店”の仕事が有るじゃろう? 」


「ですが、私共の他に手隙の者などは……」


「……はいはいは~いっ!!


お困りの様ですし……そもそも

旅の仲間だったオウルさんのお引越しですし?

ラウドさんもアイヴィーさんもそんなに悩まなくたって

私達が“チョチョイのチョ~イ”っと手伝っちゃいますから~! 」


《――いまだ昏睡状態の主人公に代わり

大臣の一人としてこの場に居たマリア……彼女は

勢い良く立ち上がりそう宣言した。


……直後

彼女と共にこの場に居たメル・マリーン・グランガルドの三名を含めた

計四名が“担当”として承認される事と成った。


そして、数日後――》


………


……



《――メリカーノア大公国の一角に建つ邸宅にて

控えめに呼称しようとも“大豪邸”と呼ぶべきこの邸宅には

優秀な薬師としての顔を持つサラの仕事に関連する荷物が

文字通り“山の様に”積み上げられて居て――》


「いや~、相変わらず広い家ですよね~っ♪


……って言うか!

それに比例ひれいして、凄い荷物の量ですよね~っ♪


さ・て・と! ……絶対に“チョチョイのチョイ”は無理っぽいので

二〇〇人程増援をお願いしましょう!! ……って事でマリーンさん!


魔導通信で本国に連絡を……」


《――荷造りを終え

うず高く積まれた箱の山を目の当たりにした瞬間

目を血走ちばしらせながらそう言ったマリアに対し――


“駄目に決まってるでしょ?! ”


――と、一蹴いっしゅうしたマリーン。


とは言え、彼女を含めた四名と……“仲間の為”と同行を希望し

彼女達と同じくこの場に居たライラですらも

その凄まじい荷物量に唖然あぜんとしていた頃――》


………


……



「あの……もしかしてこれ全部、お二人で荷造りされたんですか? 」


《――場の空気をなごませる為で有ったのか

そうたずねたメルに対し、サラは申し訳無さそうに――》


「いえ、その……私が身重な物ですから

この一週間程、毎日夫が荷造りを買って出てくれたのです」


《――そう答えたサラ


彼女の答えを受け、妙に納得した様子で――》


「あ~……だからオウルさん、あんなに“ヘロヘロ”なのね」


《――しかばね見紛みまがうばかりに憔悴しょうすい

椅子から一歩も動かずいたオウルに目を向けそう言ったマリーン。


一方、そんな彼女の発言に慌てたサラは――》


「……ア、アナタっ!?


大変っ! これを飲んで少しでも元気を取り戻して下さいっ! 」


《――言うや否や、オウルに対し

みずからが作成したのであろう栄養剤らしき物を接種させたサラ。


瞬間――》


………


……



「ん? ……何だか力が湧いて来た。


よし……これを運び終えれば移住が完了する。


急ぐとしよう……フンッ!


ウオォォォォォォッ!!! ……」


《――突如として元気を取り戻し

凄まじい勢いで立ち上がったかと思うと、荷物箱を数箱まとめて持ち上げ

荷馬車へと“走って”運び込んだオウル。


だが……そんな“急変”っぷりを目の当たりにした者達は

皆――


栄養剤あれ、絶対に危ない奴だ”


――心の中でそう思って居たと言う。


そして――》


「皆様も疲れを感じられましたらぜひ栄養剤これをどうぞっ! 」


《――直後

笑顔でそう言ったサラに対し

“決して疲れを見せぬ様”必死に働いた一行。


その“お陰”か……予定していた時刻よりも遥かに早く

第一便への荷積みを終え……一行が昼食休憩を迎えて居た頃

ライラは皆に対し――》


………


……



「えっと……その……ちょっとだけ。


お手伝い……抜けても良いかな? 」


《――皆に対しそうたずねたライラ。


そんな彼女に対し、マリアはニヤリとしつつ――》


「はは~ん? ……とか何とか言って“バックレる”つもりですねぇ~? 」


「違うの! 私はただ……」


「ふっふっふ~っ♪ ……分かってますよ?

多分ですけどクロエさんの所に行きたいんですよね? 」


「う、うん……良い……かな? 」


「別に構いませんよ~? ……って言うかむし

“中々言い出さないな~”って思ってた位なので! 」


「そ、そうなの? ……有難う。


じゃあ……少ししたら帰って来る……ね。


……行くよ、凝光ッ! 」


「ギュュ~ッ! ……ギュルルゥ♪ 」


《――直後

空高くへと飛翔した凝光とライラは、クロエ邸を目指し飛び去った――》


………


……



「……見えて来た。


凝光……ビックリさせたいから、静かに……降りて……ね」


「ギュルッ! ……」


《――暫くの後

クロエ邸の庭先へと静かに舞い降りた凝光


直後……凝光は小さな姿へとみずからの身体を変化させ

ライラの肩へと座り――》


「凝光……クロエ、元気にしてるかな?


何だか緊張……する……ね……」


《――そう言いつつ凝光の頭をでたライラ。


だが、彼女がクロエ邸の正面玄関へ向かい正面玄関の扉を叩こうとした


その時――》


………


……



「……もう貴方の様な人達の肖像画なんて

どれ程の大金を積まれた所で書きたく無いの……良いから帰ってッ!!

それとも“くだんの夫婦の様に”私の事も幽閉して

無理やりにでも言う事を聞かせるつもりなのかしら? 」


「そ……そんな事は言ってないッ!

ただ、我が国でも有数の絵師である貴女がこの国を去ると言う事が

我が国に取ってどれだけの損害そんがいかを考えた結果をだね! ……」


《――扉の向こうから漏れ聞こえた男女の言い争う声

片方がクロエである事はライラにも直ぐに理解出来た……だが

その反面、もう一人の男が発する声色から


“あまり望ましくない感情”


を感じ取ってしまったライラは――》


………


……



「こんな風にビックリ……させたくないけど……仕方無い……よね。


凝光……扉を壊して」


《――少し残念そうな表情を浮かべつつ静かにそう命じたライラ


瞬間――》


「ギュルルッッッ!!! ――」


………


……



「……ひぃぃっ!?

な、何だ貴様は?! ……って、後ろに居るのは……ドラゴン?! 」


《――粉砕ふんさいされた正面玄関の扉


凄まじい轟音ごうおんに慌て玄関先へと現れた男は

凝光の姿を見るなり腰を抜かしていた。


……その一方

そんな男の事など歯牙しがにも掛けず――》


「クロエ……大丈夫? 」


《――そうたずねたライラ。


彼女に対し、クロエはとても驚いた様子で――》


「だ、大丈夫だけれど……ライラちゃん、その子ってもしかして……」


「……うん。


“ドラゴン”……だよ?

あれからその……“色々”あって、凝光って二つ名が付いて……


……沢山大きく成って、沢山……強くなったの。


怖い……かな? 」


《――そうたずねたライラに対し

クロエは――》


………


……



「えっ? ……怖いなんて有り得ないわ?

むしろ……凄いじゃないっ!


と言うか……ドラゴンちゃんが勇ましく成ったってだけじゃ無くて

ライラちゃん自身も背が伸びてるわよね?! 」


「そう……なのかな? 」


「絶対にそうよ!! ……って事は肖像画も書き直さないと駄目ね!

もぉ~っ♪ ……腕が鳴るわ~っ♪ 」


「また……書いてくれる……の?


嬉しい……な。


そ、その……ちなみに凝光はね……凝光、小さくなって」


「……ギュルゥ♪ 」


「まぁっ!? ……可愛いぃぃぃっ♪

これは……どっちもえがかないと気が済まないわね!

絶対にえがきたいから……協力してね、二人共っ! 」


《――久々の再会


にこやかに話す二人であったが……


……そんな二人のすきうかがい、密かにこの場から立ち去ろうとしていた男。


だが――》


「ギュルッ!!! ……グルルルル」


「ひぃぃっ?! ……い、命だけは! 」


《――凝光の一睨みに怯え、再び腰を抜かした男


メリカーノア大公国にける政治家の証である

“バッジ”を胸に輝かせながら今にも気絶しかねない程に怯えていたこの男。


そんな彼に対し――》


………


……



「兎に角……これ以上貴方と話す事は無いし

まだ無理矢理にでも引き止めるつもりなら、ドラゴンちゃん……いいえ。


……凝光ちゃんのご飯になる覚悟が有るって事よね? 」


「ヒィィィッ?! ……わ、分かった!

帰る、これ以上貴女の邪魔はしないッ! だから……命だけはッ! 」


「そう? ……なら、一〇秒以内に立ち去って下さるかしら?


一〇秒を過ぎたら……そうね。


脚の一本位凝光ちゃんの餌にしても死にはしないでしょうし……


一〇、九、八……」


「ヒ、ヒィィィィッ?! ……」


《――直後


慌てて立ち上がり遥か彼方へと走り去っていった政治家の男。


……そんな彼の後ろ姿を無表情で見つめ続け

その姿が見えなくなった事を確認するや否や――》


………


……



「ふふっ♪ ……でもちょっとやり過ぎたかしら?

兎に角……再会早々、私の事を助けてくれてありがとね二人共っ♪ 」


《――そう言って微笑んだクロエ。


だが……そんな彼女に対し


ライラはただ一言――》


………


……



「帰って……こないの? 」


《――そうたずねた。


そして……そんな彼女が浮かべたとても悲しげな表情に

それまでおどけていたクロエの表情は、とても真剣な物へと変わり――》


………


……



「……ええ。


暫く……いいえ、出来れば

もう二度と……この国に帰りたくも、関わりたくも無いの」


「嫌じゃ無いなら……理由、教えて……欲しい」


「……数日前、私の家にヴィクター公爵が訪ねて来たのだけれど

そんな彼から聞かされた“真実”が原因よ。


一応、他言無用と言われた話ではあるけれど

貴女は“当事者”でも有るし、話しても問題は無い筈……兎に角。


ヴィクター公爵から私が聞かされた話だけれど……


……今この国で“悲運の人”とされている前大公の指示にって

私の家の敷地内に密造みつぞうされた研究所で

オウルさんとサラさんを幽閉し、違法な研究を進める為

彼らを脅し、傷つけて居たって事を聞かされたの。


当然、それだけでも驚きだったのだけれど

彼が私にこの話をした理由も酷いのよ? ――


“研究所を壊す際、貴女の邸宅が崩壊する可能性が高く

一度何処どこか別の家へと移住して貰う必要がある”


――勿論、引っ越しが面倒って事じゃ無いし

違法な物を壊すと言うのだから賛成もしたわ? ……でも。


貴女や、貴女の大切な人達が暮らして居る

この国最大の友好国でもある政令国家に対して……そして

メリカーノア大公国の国民に対して、到底顔向け出来ない様な残酷ざんこくな行為を

たとえ一度でもしてしまったこの国に居続ける事が嫌に成ったの。


勿論、ヴィクター公爵がそんな事に加担かたんして居ないのは分かるし

公爵ならこの国の暗部を少しずつ変えてくれるとも思うわ?


でも……少なくとも、たった今逃げ帰った様な政治家が

いまだにのさばって居る様なこの国に居る事は嫌なの。


だから、嫌な気持ちに踏ん切りを付ける為にも

一度全てを捨てて世界をまわってみたいと思っているのよ。


勿論、此処ここよりひどい所だって有るかも知れないし

もしかしたら此処ここが天国に思える程ひどい経験をするかも知れない。


だけど――


――それすらも全て、えがきたいの」


《――清々しいまでの表情を浮かべそう言い切ったクロエ。


彼女が求める旅の先に何が有るのかは分からない……だが。


一切の迷い無く真っ直ぐに言い切った彼女の決意に対し


ライラは――》


………


……



「一緒に行っても……良い? 」


「えっ? ……」


「迷惑じゃないなら……私もついて行きたい」


「……ねぇ、ライラちゃん。


私、絵が描ける以外には魔導適性も無ければ物理的に強い訳でも無いし

お金の面以外で私が出来る事なんて何も無いのよ?


……むしろ、私の方が迷惑を掛けてしまう事の方が多い筈よ? 」


「ううん……どんな迷惑より……クロエを一人にする方が……嫌」


「でも……貴女の大切なお仲間さん達とも

長い間離れる事に成るかも知れないのよ? 」


「……うん。


寂しいけど……私が居なくても皆は大丈夫。


それに……この指輪があれば、異変にも気付けるから」


「で、でもっ!! ……いえ、断る理由がもう尽きちゃったわね。


私だって、ライラちゃんと離れるのは寂しいし……ねぇ、ライラちゃん。


……本当に、お願いしてもいいの? 」


「うん、何時に出る? 」


「……さ、流石に今日中にって訳には行かないけれど

絵に必要な画材を出来るだけ厳選して、凝光ちゃんが重くない程度の

でも、全てを完璧にえがく事の出来る、最高の画材で……って。


……何だか私、凄くワクワクしちゃってるわね」


「クロエが楽しいなら……私も楽しい」


「まぁ~っ! ライラちゃんったら♪ ……」


《――この後


引っ越しの手伝いを忘れ

マリアの放った冗談を“本当”にしてしまったライラは……


……クロエと共に画材選びにいそしんだのだった。


だが、当然と言うべきか……


その一方で――》


………


……



「あの……本当にライラさんが帰ってこないんですけどぉ~っ?! 」


《――汗だくのまま

やっとの思いで第二便を送り出しながらそう叫んだマリア。


……この後、彼女達が全ての荷を運び終えても

ライラが帰って来る事は無かった――》



――


―――


「えっと……何と言うか、マジでお疲れ様。


と、取り敢えず……俺が眠ってる間に起きた出来事はそれで全部か? 」


「ええ……一応は全部ですけど、お引越し……本当にキツかったです」


<――当時の苦労を吐露とろするかの様に

信じられない程うんざりした表情で説明を終えたマリアと

同じく同行していたガルド達のしずんだ表情が

その過酷かこくさをこれでもかと言う程あらわしていた事は兎も角として……


……長い時間を掛け、全ての話を聞き終えた俺の頭には

聞く前よりも更に大きな疑問が浮かんだ。


一つ目は……俺が今も腰にげている“魔導之大剣”についてだ。


俺は……この世界に帰って来る為

転生前の世界を“した”……とされる空間で

何故かその空間に有った“魔導之大剣これ”をわらにもすがる思いで使用し

その結果、上級管理者ヤツの居る異空間へと迷い込んだ。


そして……紆余曲折うよきょくせつすえ

その扱いをどうするべきかとたずねた俺に対し、奴は――


“知らないよ……持って帰ったら? ”


――そう言って、俺に“魔導之大剣これ”の扱いを丸投げし

そして、モニターに浮かんでいたとある文字列――


Null(ヌル)


――パソコン用語で言う所の

“存在しない”って意味の言葉を眺めつつ――


“その物質は断じて……君の言う魔導之大剣なんかじゃない”


――と、不満げに発した。


あの時はこの世界に戻りたい一心で、あまり深く考えず

大して重要ともとらえていなかったこの会話が

今になって俺の頭を悩ませる大きな要因の一つに成ってしまった。


……とは言え、少なくとも皆の話を聞く限りでは

“俺の事をまもった”とも取れる状況を作った魔導之大剣これの事は

むしろ、緊急時に発動する“便利アイテム”のたぐいとらえる事も出来るだろう。


だが……もしこれが正解なのだとしたら

何時いつどう言う条件で発動し、俺がまもりたいと願う人達の事を誰一人傷つけず

つ、全員をまもってくれる様な……そんな

“安全なアイテム”で居てくれる保証が何処どこに有るのだろうか?


いずれにせよ……散々迷った結果この疑問を後回しにした俺は

もう一つの大きな疑問である――


“アルバートが転生者だった”


――と言う問題を解決する為

この件に詳しいであろう“二人”に対し質問をした――>


………


……



「その……まだまだ疑問は尽きないけど

取り敢えず、一番解決しておきたい問題が一つあるんだ……


……死の間際、アルバートが“転生者”だと名乗った件に関して

ペニー、ローズマリー……君達が知っている事を全部話してくれないか? 」


<――そうたずねた瞬間

二人の内……特にローズマリーが露骨ろこつ嫌悪けんお感をあらわにした。


まるで――


“死人にむち打つなんて! ”


――とでも言いそうな具合に。


だが、断じてそんなつもりでは無いとしっかり理解して貰う為

二人に対し――>


「誤解されない為に言っておくよ……一応俺も、転生者なんだ」


<――そう伝えた。


直後、少なくとも誤解“は”解けた様で――>


………


……



「そうですか……分かりました。


……全てをお伝え致しましょう。


ですが……私達を含め、アルバート様が過去に犯した過ちを

今この場で断罪する事はお控え下さいます様、お願いして置きますわ」


「ああ、断じてそんな事はしないと誓うよ。


……この場に居る皆も約束してくれ」


<――この後

皆が同意した事を確認すると……過去

彼女達とアルバートに何が有ったかを静かに話し始めたローズマリー


その内容とは――>


………


……



「当時、私がまだ小間使こまづかい……いえ。


道端みちばたに落ちたゴミの様に扱われていた頃……


……彼は私に対し“乗り移ったのだよ”と言ったのです」


「の、乗り移った? それは一体どう言う……」


「……あれは、メリカーノア大公国が

まだ前国王である彼の父……今と成っては

便宜上べんぎじょう”そう呼ぶべき男が統治していた頃……


……その傲慢ごうまんさ故に

配下の信頼はおろか、その命すらも失う事と成った日よりさかのぼる事暫く――」


―――


――



「おい、の方……我が息子アルバートはどうした? 」


《――頬杖ほおずえをつき、配下の者に対し

眉間にしわを寄せつつそうたずねたメリカーノア国王。


そんな彼の態度におびえつつも、配下の兵は――》


「さ、先程まで剣術の稽古を……ですが、急に高熱を出し……」


「何?! ……またか!?

全く……ついこの間新たな治療を終えたばかりであろう?! 」


「そ、それが……薬師も魔導医も口を揃えて“体質だ”と……」


「……何だとッ?!


奴らは私に対し――


“我々ならば容易よういに治せる”


――そうのたまった筈。


ええぃ!! ……即刻、奴らの首をねよッ!! 」


「ハ……ハッ! 」


「全く……斯様かよう病弱びょうじゃくでは、私の後を継ぎ

この国を治める事など夢のまた夢では無いか……


……おいッ! 其処そこの貴様ッ!!

息子の“体質”とやらをなおす事の出来る

腕の良い医者か薬師は何処どこかに居らぬのかッ!? ……」


《――王の間に響き渡る国王の怒声どせい


当時一五歳の誕生日を迎えたばかりの国王の一人息子アルバートは

幾度いくどと無く生死のさかい彷徨さまよい続けていた……そして

アルバートが体調を崩すその度に、国王の怒声どせいが王の間に響き渡ったと言う。


……度々、国内外から優秀とされる魔導医や

薬師をかき集める様配下の者達に命じては

集まった者達に手当たり次第治療をさせ続けた国王……だが

その治療がアルバートの身体を恒久こうきゅう的な健康へとみちびく事は無く……


……どの治療も“一時しのぎ”程度の効果しか得られず居た。


そんな日々を過ごし、配下の者達は勿論の事

国王すらも辟易へきえきとしていた頃――》


===第百六四話・終===

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